203:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:23:55.70 ID:oNd+Ad/T0
手を胸の前で開き、唖然とした後……その指先が震え出すのが分かった。恐怖でも、動揺でもなかった。
何だかもっと良く分からない……。
もっと、青い感情だった。
ゼマルディからもらったサクサンテの花が、まるで小型の爆薬で炸裂させられたかのように粉々に飛び散っていたのだ。
204:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:26:42.97 ID:oNd+Ad/T0
お疲れ様です。第7話に続かせていただきます。
詳しいご案内は>>173でさせていただいています。
ご一読いただければ嬉しいです。
205:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 18:59:01.08 ID:87ru5DuQ0
こんばんは。第7話、第8話を投稿させていただきますー。
206:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:01:18.54 ID:87ru5DuQ0
7 願い
妹は、許してはくれなかった。
元々数十年も喧嘩をしたことがなかった仲の良い姉妹だったからこそ、その反動は大きかった。
ヤナンの方も時間が経てば当然怒りも薄れ、火照っていた頭も冷静さを取り戻していく。しかし彼女は彼女で、姉という不必要な枷を突き放すという最後の砦を侵してしまった分、やはり自分の方から声をかけるのははばかられるようだった。
207:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:01:47.14 ID:87ru5DuQ0
カランに回されるシーツやカーペットは一様に使い古されたものばかりだ。本来十七歳という年齢に達すると、年長……及び婚期が近いとして身の回りが新調されるはずなのだが、言い出せずにずるずるとここまで来ている。使っているものは殆ど幼児の頃からのもので、本以外はボロボロだ。
繕い跡で一杯のシーツに倒れこんで、うつ伏せになりカランは息をついた。
食堂。
その自分と対極側で友達の女の子達十数人と一緒に楽しく食事を取っている妹の光景が頭にちらついていた。
それに引き換え、自分はどうだろう。
208:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:02:26.75 ID:87ru5DuQ0
でも、ここ数日でその世界がガラリと一変した。
――そう、思っていた。
そう……思いたかった。
209:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:03:12.65 ID:87ru5DuQ0
ゼマルディの花は、芯に当たる部分が砂のように砕けてしまっていた。どんなに握ってもびくともしなかったのに、何故壊れてしまったのか分からない。先ほどまでは分からなかったが、衝撃を受けた彼女の右手。その親指から中指までが青黒くなり、内出血を起こしていた。何か打撃を加えられた痕のようだった。
むくりと起き上がり、ベッド脇の棚から裁縫道具を取り出す。彼女が唯一周りに誇れるのは、これ……裁縫の腕前だった。刺繍などは得意だが、注目されるのが怖いので、人前で行ったりしたことは殆どない。
「直るかな……」
210:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:03:46.30 ID:87ru5DuQ0
ため息をついて花を置こうとすると、かろうじて繋がっていた根元部分がポキリと折れて、白い花びらがベッドにぶちまけられてしまった。
唖然とそれを目で追い……そして肩を落とす。
どうしてこんなことをルケンはしたんだろう。
よく、分からなかった。
211:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:04:15.46 ID:87ru5DuQ0
今も、泣きそうな顔をしているのをルケンは想像して笑っているのだろうか。
こんな無様な私のことを、彼は楽しんでいるのだろうか。
入り口近くの戸棚に目を向ける。そこには、一輪のバラのように茎も花びらも真っ赤なサクサンテの花が、コップに入れられて立っていた。ルケンの花だ。ゼマルディのものよりも数段大きく、また、彼のように繊細な造形ではない。花びらの枚数もとても少ない。大雑把な……造花ともいえないような代物だ。
そこに手を伸ばしかけて、しかし思いとどまってやめておく。
そしてカランは、唇を噛んで一つ一つゼマルディの花びらを拾い集め始めた。なくならないように、小さい頃から大事にしている道具箱に入れていく。
212:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:04:51.10 ID:87ru5DuQ0
三回目なので驚きはしなかった。
疲れなのか、ストレスからなのか。端正な顔……その目元にくまを浮かべているカランを壁に寄りかかるようにして見ていたゼマルディは、少し視線を宙に泳がせ……そしてポリポリと頬を指先で掻いた。
彼は横目で、戸棚にあるルケンの赤い花と……バラバラにされた自分の花を見て、また言葉を捜すように宙に視線を彷徨わせた。
そして、うなだれてまた花びらを拾い始めたカランに、素っ頓狂な声で笑いかける。
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