過去ログ - 少女「ずっと、愛してる」
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261:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:01:25.27 ID:z5UY+Nzb0
ゼマルディの隣で彼の血の臭いを嗅いでいただけで、カランには彼がどのような目に遭ってきたのか……それをはっきりと。まるで映画の中のワンシーンのように記憶として把握することが出来た。
絶句。言葉もない。
しばらく、ゼマルディに体を寄せ合いながら小さく震えていた。痛みも、苦しみも。
自分なんかには推し量ることが出来ない領域だった。
どうしてそんなことをするの?
以下略



262:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:02:00.65 ID:z5UY+Nzb0
だが一つだけ分かったことは。
カランは、その時産まれて始めて。
怒りを感じたということだった。
無意識のうちに彼女は、猛獣の母親が子供を守る時のように、やけに細く伸びた犬歯を剥いて歯軋りをしていた。それは、いついかなる時にも動じることなく、鈍く生きてきたカランの顔からは想像も出来ないほどの確かな怒りの顔だった。
もう、ゼマルディの腕はない。
以下略



263:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:02:29.03 ID:z5UY+Nzb0
ゼマルディは。
この、男の人は。
死ぬかもしれなかったのに。
それでも尚、笑ってみせてくれた。
好きになってくれるか?
以下略



264:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:03:25.69 ID:z5UY+Nzb0
痛かったでしょう。苦しかったでしょう。

――どうして逃げなかったの。
――どうして逃げてくれなかったの。

以下略



265:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:03:51.85 ID:z5UY+Nzb0
酷すぎる。
これは人間のやることじゃない。
やっていいことじゃない。
ゼマルディの薬の作用なのかカサブタが張っているが、所々グジュグジュに膿んでいる。白い一族の女は、ある程度の医療知識を小さい頃から叩き込まれて育つ。それだけではなく、家内のことなら全て一人で出来るように躾けられる。
カランは出来の悪い娘だった。
以下略



266:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:04:46.25 ID:z5UY+Nzb0
そのまま水泡の中に溜まって腐り始めていた体液の混合物を吸い取り、小さく咳き込みながら脇のもう一つのバケツに吐き出す。口を拭いてから息をつき、それを何度も何度も繰り返す。あまり強くやったらゼマルディが起きてしまうかもしれない。あくまで静かに、なるべく刺激を与えないように。
綺麗に崩れた皮も舐めとり、ある程度見れるようになった部分から、自分の一着しかない一張羅……小さい頃部屋の中で育てていた地下蚕の繭から作った糸で織った白いケープを手に取り、手で引いて小さな切れ目に分ける。
確かこの蚕の糸には強力な殺菌効果があったはずだ。ゼマルディは傷口に薬を塗っていたが、どうも痛みで当てが外れていたらしく、その殆どが火傷の外に向かって流れてしまっていた。これではあまり効果がない。かといってカランにはそんな薬を作る知識も、その技能もなかった。
とりあえず精一杯、布を水につけて手で挟み、息を吹きかけて温めてからゼマルディの顔の傷口に貼り付けていく。膿を吸い取ってから布を貼るのを何度も繰り返す。


267:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:05:21.25 ID:z5UY+Nzb0
途中で彼が起きてしまうのではないかと何度もひやひやしたが、そもそも顔面の感覚がないらしい。あらかた顔の傷に布を貼ってから疲れきって肩で息をし、霧吹きを取ってまた彼の顔に少し水を吹きかける。そしてカランは、おぼつかない手つきでぐるぐると包帯を捲きなおした。
ここに至るまでで既に三時間以上の時間が経過していた。ゼマルディは、死んだように背中を丸めて座ったまま寝息を立てている。
体が冷え切っているのを感じて、カランは肩を抱いて小さく震えた。
そういえば自分も、もう動けないほど疲弊していた。そこで思い出し……しかしゼマルディの腕にも布を貼らなきゃ……と思って腰を浮かせかけるが自分の足に突っかかって転がってしまう。
盛大に頭を床にぶつけかけ……しかしそこで、隣のゼマルディがサッと左手を伸ばして彼女の体を自分の方に引き寄せた。
以下略



268:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:06:00.47 ID:z5UY+Nzb0
――起きていた。

全く気がつかなかった。
耳まで赤くなり、慌てて口を拭おうとしたカランに。
しかしゼマルディはぐちゃぐちゃに潰れた自分の唇をいきなり重ねた。そのまま彼女の口の中の全てを強く吸い上げ、それでも足りずに肺の中の空気までもを自分の中に取り込まんばかりの勢いで何度も口を重ねる。
以下略



269:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:06:30.92 ID:z5UY+Nzb0


 朝になり、目が覚める。
カランは自分がゼマルディの残った一本の手を強く握ったまま、床に座り込んで眠っていた事に気づいて軽く頭を振った。
脳天がガンガンと傷む。
以下略



270:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:07:01.16 ID:z5UY+Nzb0
動こうとして、しかし体が強張ったようになってしまったのを感じ、カランは背中の骨羽を心細そうに何度か鳴らした。その音を聞いて、ゼマルディが隣の小さな女性を見下ろす。

「よお、昨日は悪かったな。おかげで大分元気になった」

右唇が溶けて下のものと癒着してしまっているために、声がくぐもっている。どこかのどの一部が破れているのか、やけにガラガラ声だ。
以下略



271:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/12(日) 20:07:28.30 ID:z5UY+Nzb0
最後まで上手くいえなかった。震えてしまって、言えなかった。
ゼマルディは少しの間きょとんとして、しかし軽く肩をすくめると腕のカランを引き離した。そして左手を伸ばして、ベッドの上にあった彼女の服を掴んで膝の上に落とす。

「なーにいってんだお前。男と男の勝負に女が口ィ出すなよな。それに俺ァ負けたんだ。逃げてきたの。馬鹿にされることはあれど、謝られるいわれなんてさっぱりねーや」

以下略



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