341:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:45:36.95 ID:3SORN3Q00
――額を押さえ、マスクの上から感覚がない顔の皮膚を触る。
人間なんて、脆いものだ。
こんなにも簡単に壊れる。
こんなにも簡単に、崩壊していく。
342:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:47:11.12 ID:3SORN3Q00
どれだけの間座り込んでいただろうか。
ぼんやりと床を見つめているゼマルディの後ろで、不意にカランがもぞもぞと体を動かした。その羽がリンリンと澄んだ音を発し、彼女は小さく欠伸をして目を開いた。
弾かれたように顔を挙げ、ゼマルディは彼女の脇に屈み込んだ。
「大丈夫か?」
343:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:47:40.31 ID:3SORN3Q00
「いや……俺がいない間にドクが色々したみたいだから……」
「ドクさん? 来てないよ」
どうやら今の彼女は、記憶が安定しているらしい。ゼマルディのことも夫だと認識できているようだ。
344:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:48:16.66 ID:3SORN3Q00
「私は元気だよ……」
「ああ、元気だな」
上の空、と言う感じでゼマルディが答える。彼は床に目を落としたまま、知らずの間に握り締めたカランの手に、潰さんばかりに力を込めていた。
345:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:48:45.69 ID:3SORN3Q00
少女の手を握っていた大きな手……そこから力が抜けていき、毛布から抜き取られると力なく床に落ちた。
大分長いこと、彼は沈黙していた。
カランはぼんやりとした目で俯いているゼマルディを見ていた。
また少しして、彼女は羽根を鳴らしながら言った。
346:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:49:19.51 ID:3SORN3Q00
「どこにもいかないんだよ……」
「……」
「ゼマルディ?」
347:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:49:54.60 ID:3SORN3Q00
カランは何かを言おうとしたが、それを寸でのところで押し留めた。しばらく間の悪い沈黙が続く。
やがてカランは、彼からそっと視線を外して天井を向いた。
「俺が悪ィ」
348:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:50:24.26 ID:3SORN3Q00
「死なないよ」
「……死なない?」
「私は、死なないよ」
349:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:50:58.16 ID:3SORN3Q00
「ああ……」
「……」
「嬉しいなぁ……」
350:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:51:29.74 ID:3SORN3Q00
その翼からは、リンリンと乾いた……しかしすんだ水のような音が鳴っていた。
「こんなに嬉しいのに……」
「……」
351:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/13(月) 20:51:58.90 ID:3SORN3Q00
「…………」
「どうして嬉しいんだろうね……」
ゼマルディはしばらくの間、妻の顔を見ていた。だがやがて手を伸ばし、彼女の指に自分の指を絡めて毛布に押し込む。
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