353:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2012/02/13(月) 22:07:30.49 ID:qlktQpFDO
そろそろ一番の見せ場、鬱ポイントですね…
354:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 19:56:32.85 ID:EmuY6hvN0
こんばんは。
お付き合いいただき、ありがとうございます。
まだまだ続いていきますので、これからもお願いいたします。
355:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 19:59:38.22 ID:EmuY6hvN0
11 龍対龍
程なくして、サバルカンダドームの第一区画にその人間が降り立ったのは、それから三日も経たないでのことだった。
この世界の人間達は、氷という凶器のオブラートに覆われた世界から身を守るためにドームという建造物に身を寄せていた。それは魔法使いも同じことだった。生命体である限り、常温が零下三十度を下回る極寒の世界にそのまま身をおくことは出来ない。
ドームは、それ単体で生命維持機関を有する。つまり空調、浄水設備がある一つの巨大な核シェルターのようなものだ。
356:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:00:05.00 ID:EmuY6hvN0
サバルカンダのようなイレギュラーはともかくとして、普通は――いわば世界中には国が何百個もそのような機関が点在していることになる。しかしそれらが全て繋がっているかというとそうではない。金属片を孕んだ雪と雹の粒は、得てしてあらゆる電波を阻害する。ケーブルも、氷の地層に阻まれて何百キロも先へと延ばすことは出来ない。
つまりこの時代において人々は、各ドームごとにそれぞれ隔離されている状況に当たる。
それでも相互の間に接続があるドームにかんしては、二パターンがあった。一つは比較的近距離でケーブルや電波によりネットが繋がっているか。もう一つは、キャラバンと呼ばれる、極寒の世界をトレーラーで往復する役割を持つ人間達の存在があった。
彼らはそれぞれの市民権……つまりドームにおける国籍を持たない。その代わりに、ネットで繋がってドーム間を旅し、品物や手紙等を届けたりする。
まさに命がけの、放浪の民族だ。
357:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:00:40.69 ID:EmuY6hvN0
氷の世界と一口に言っても、そんな単純なものではない。厚さ数百メートルにわたるクレバスが走っていたり、時には零下三十などをはるかに越える、もはや極寒と言うレベルを通り越した場所さえも存在している。
キャラバンがそこを横断することが出来るのは、詰まるところそれだけの装備に守られているからに他ならない。通常のトレーラータンクの四倍以上もの大きさを持つ、重機といっても差し支えない巨大機械の群……それが小さいキャラバンでも、最低で五台は群集し、二十人以上の人間が協力して進む。
その、キャラバンの一つだった。
それは。
ドームの第一階層。つまり関所に当たる、各所からたどり着いたトレーラーを収容する場所が、ドームには存在している。旅人はそこで休息し、荷の積み下ろしや逆に積み込みなどを行う。
358:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:01:17.40 ID:EmuY6hvN0
そこに、深夜三時を越える頃。
ダイナマイトでも数十本束にして炸裂させたかのような轟音が響き渡った。雪と寒さから内部を守る外壁が、外側から砲撃でも受けたかのようにひしゃげ、そして合成金属の破片と黒煙、液体燃料が引火し、赤黒い爆炎を吹き上げた中、外側からの肌を突き刺す冷気がトレーラー格納倉庫に吹き込んだ。
益々、内部に転がり込んできた燃え盛るそれは炎の勢いを増していた。ゴロン、ゴロン、と数十トンもある鉄の塊……大型トレーラーだと思われる、圧搾されたようにぺしゃんこになった鉄の塊が、燃え盛りながら手近な、停車されていたトレーラーにぶつかり……押しつぶし、そして連鎖的に爆発を起こした。
それで近くで検問をしていた関所管轄者や、キャラバンの人間達は吹き飛ばされた。
まるでゴミのように、綿帽子のように圧倒的な熱量に薙ぎ飛ばされ、壁に叩きつけられ。
359:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:01:47.93 ID:EmuY6hvN0
トレーラーの爆発は、連鎖的に広がっていった。横転すると起き上がらせることは不可能だといわれるほど、巨大な乗り物だ。それが薙ぎ倒され、押しつぶされるほどの強力な……考えられない力で、外部からの侵入者は投げつけてきたのだ。
数十トンもある、鉄の塊を。
とっさに物陰に隠れた職員の目に映ったのは、戦車でもカタパルトでも何でもなく。ただ、悠々とポケットに手を突っ込んで自分があけた壁の穴から足を踏み入れる……小さな子供の姿だった。
炎と悲鳴、そしてまるでウェハースのように倒壊する外壁の踏み閉め、少年はニヤニヤと生理的嫌悪を催す笑顔で笑いながら、近くの瓦礫に押しつぶされた人間……だと思しき残骸を冷めた目で見下ろした。そしてそれをぐりぐりと爪先で踏みにじり、赤い発色と共にけたたましい警鐘を鳴らし始めた非常ベルに目をやる。
360:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:02:13.85 ID:EmuY6hvN0
ドームの外壁や天井には、予期せぬ災害に備えて内部シェルターを展開する機能が備わっている。火災などが起こってしまっては、閉鎖空間のために燃え広がって取り返しのつかないことになるからだ。
未だにトレーラーの横転は、ドミノのように続いていた。この季節は横断者の群れが多くなることに加え、サバルカンダの格納施設はそんなに大規模なものではなかった。それゆえに密集している地帯に、投げ込まれた燃え盛る鉄の塊がぶつかってしまったのだ。
火花と、合成コンクリートが砕けて巻き上げられる高音。そして鉄がひしゃげて飛び散る音。
地面から厚さ一メートルほどの断熱シェルターが競りあがってきて、円形に格納庫をシャットアウトしはじめる。次いで天井のスプリンクラーが動作し、身を切るような冷たい、白濁した水が降り注ぎ始めた。
少年はそれを頭の上から浴びながら、詰まらなそうに顔を拭った。そして背後のシェルターに閉じられた穴を一瞥する。
361:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:02:53.07 ID:EmuY6hvN0
列車が突っ込んできたように、一部が凄まじい惨状になっている。スプリンクラーの水だけでは沈火が出来ない。また爆音を立てて一つのトレーラーが爆散した。その破片がゴヅ、ゴヅ、と音を立てながら、瓦礫の上に仁王立ちになっている少年の脇まで飛んでくる。
燃料タンクの一つ……と思われるものがまた爆発し、非常口に向かって逃げようとしていた男が数人、宙を舞った。
人間がこんなに簡単に飛ぶものか……と思うほど、あっさりとした飛翔だった。歪に手足を歪めながら、そのうちの一人が少年の方に隕石のように。高所五、六メートルの地点から放物線を描いて落下する。
少年は面白そうに笑うと、ゆっくりと足を踏み出し、濁った雨の中その男の落下地点まで移動した。そして彼の体が自分に激突する寸前で。
固めていた拳を、それに向かって突き出した。
362:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:03:25.58 ID:EmuY6hvN0
モズの早贄を連想とさせる惨状の中、犠牲になった男性が一度だけ激しく痙攣して白目をむき、動かなくなる。
即死だった。
少年は着ていた白い、タキシードのような服がその返り血でベトベトに汚れているのを見て嬉しそうに破顔した。そして子供のように甲高い声で笑いながら、男の体をもう一本の手で引き抜き、脇に放り投げる。
同じ人間の胸を貫いた手の先には、肋骨の断片と共に、水鉄砲のように血管の断面から血液を噴出している心臓……生き物の中枢が握られていた。
それをしばらく眺め回し、大きく口を開けて一部をむしゃりと噛み千切る。意外と弾力が強いらしく、ゴムのように伸びたそれを頭を振って租借してから、ベッ、と少年は吐き出した。
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