1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)
2012/04/24(火) 16:51:44.58 ID:D+xZ8dty0
1. Intro
それはようやっと寒い季節を越え、いよいよ過ごしやすい、とても暖かな時期に入ろうという頃の事だった。
窓際に席があるせいで巴マミの机には、さんさんと午前のぬるやかな陽光が降り注いでくる。言うなれば強制的にひなたぼっこを受けさせられている状況だった。そのせいで同列の児童たちが軒並み突っ伏してしまている現状にも関わらず、しかし彼女はそれを精神力で以て抑えつけ、目下学校で惰眠を貪る羽目には陥らずにいる。だがその凶悪な陽光、まるで全身を優しく包み込んで来るかのような母なる光源の影響力というものはどこまでも強大で、少しでも油断をすればそのまま夢の世界へとご案内、といった顛末と相成るだろう。だから彼女は、度重なる戦闘で大いに鍛えられた精神力を総動員してこのホームルームに臨まなければならなかった。まだ一時限が始まってすらいないというのにこの体たらく、マミは本日の授業の先行きがとても心配になる。勝負はきっと、昼食を摂り終えた午後一の授業となるだろう。
ホームルームの内容は大体において同じだった。中学3年生へと進級してあなたたちは受験生になりました。これからは部活も引退し、勉強に精を入れていかねばなりません。みなさん、望みの学校に合格できるよう頑張りましょう。用いられる言葉は多少なりとも変わっていくが、そこに込められた意味合いには微塵の変化も存在しなかった。同一の内容をしゃべり続けなければならない教師にも、その実同情せねばならない所かもしれない。飽きっぽい子供の意識を繋ぎ留めるのは、ことのほか難しい。
だが今日に限っては、教師も他に話すべき内容ができて少しばかり楽が出来たことだろう。
「今日は皆さんに、転入生のお知らせがあります!」
途端に教室がざわめく。先までの眠そうな顔はどこへやら、その場の生と一同は、男か女か、美人かイケメンか、どんな人物が来るのだろうかと、各々勝手な意見を戦わし始める。
「ね、巴さんはどんな人が来ると思う?」
「さぁ、実際に来るまでは、なんとも……」
後ろの娘が話しかけてくる。確かに、気にはなる所だが、なにぶんマミ自身が抱え込んでいる問題の方がはるかに巨大なものであるせいで、あまりそれに関しては好奇心がはたらかない。まさか転入生が都合よく"魔法少女"であるわけでもなし、常日頃から他人との隔絶に思い悩む彼女からしてみれば、他人Aがもう一人増えたところで、取り巻く環境に然程の違いが生じる事はない。それがために、マミは曖昧な返事を返すしかなかったのだ。
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2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)
2012/04/24(火) 16:52:16.33 ID:D+xZ8dty0
「はいはい、おしゃべりはそこまで!……さ、入ってらっしゃい」
教師の呼びかけに応じ、教室のドアがスライドする。強化された視覚が、白く細い指を見て取った。ああ、女の人か。巴マミは思った。
入ってきたのは、当に麗人としか形容の出来ない人物だった。
若草色の瞳、長い睫、眉、鼻の形、薄桜色の唇、若干紅の差した頬、顎のライン、細い首筋。ウェーブがかったシルバーブロンドの髪をサイドテール。全てが調和し、また全てのパーツの一つ一つがあまりにもパーフェクトだった。身体にしても、全体のラインは無駄な贅肉が無いのかとても細いにも関わらず、二次性徴を迎えた彼女の身体は女性らしさの権化とも言える豊満さを持っていた。
3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)
2012/04/24(火) 16:53:43.76 ID:D+xZ8dty0
「静かになさい!」
教師の一喝で、水が挿したように教室内が静まり返る。
ごほん、と咳払いして教師は続けた。
4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)
2012/04/24(火) 16:55:28.63 ID:D+xZ8dty0
「先生、私の席はどこでしょうか……?」
場の空気にすっかり中てられ何も言えずにいる教師に、織莉子は問う。慈母のように柔らかな笑みを湛えて。
「え、ええ。えっと、最後列の左端ね。黒板から遠くて不便があるかもしれないけれど……」
5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)
2012/04/24(火) 16:56:24.29 ID:D+xZ8dty0
巴マミは、魔法少女だ。
人に害を為す「魔女」と呼ばれる怪物を倒し、人々に希望を振り撒く夢のような存在、それが魔法少女だった。
だが現実の魔法少女と言うものは、そんな夢に満ちたものでもなければ言葉の響きのように甘美な存在でもなかった。
魔法少女は魔翌力を行使すると、魔翌力の源たる「ソウルジェム」を曇らせる。そしてそれが曇り切った時、彼女らは魔法が使えなくなってしまう。そんなジェムの魔翌力を補充するのが「グリーフ・シード<絶望の種>」だ。グリーフ・シードは魔女が倒れた際に時折いくつか落とす事がある「魔女の卵」で、本来ならば即刻廃棄するべき危険物と言うべき代物だが、それはソウルジェムに蓄積された曇り――穢れを吸い取って、再び魔翌力の行使を可能とする「回復アイテム」としての側面もあった。
だがこのグリーフ・シードこそが、マミの頭を悩ませる「種」だった。
6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)
2012/04/24(火) 16:57:42.71 ID:D+xZ8dty0
廊下の、ちょうど人通りのない場所で、美国織莉子は言った。
「屋上まで連れて行って欲しいの」
「何か用事が?」
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