31: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/15(土) 22:17:01.65 ID:MBAzp3vzo
『――返せ、それを、俺に返すんだ、茄子さん』
至極穏やかに言ったつもりだった。ただ、それは俺だけの話だったらしい。茄子さんの顔が、少し恐怖で強張っている。少し頭を振って、もう一度穏やかに言う。
『拾ってくれたんだろう? いろんな人の名刺も入っているから、他の人に見られるわけにはいかなかったんだ。本当、茄子さんはいつも、よく気が付いてくれる。助かった』
32: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/15(土) 22:17:34.31 ID:MBAzp3vzo
カードホルダーを受け取ると、それを無造作にスーツの内ポケットへ放り込んだ。そして、彼女の頭に手を置く。一瞬彼女の体がびくり、となった。
『済まなかった。驚かせたな』
「あ……」
33: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/15(土) 22:18:07.80 ID:MBAzp3vzo
全然長くならなかったのでせめてこれだけ投下です……。
次はきっと長くなります、たぶん。
34:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/06/16(日) 02:30:31.80 ID:/SV04BwIo
乙
続きが気になるな
35: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/18(火) 17:51:34.54 ID:gq9TOo4jo
一週間後のことだった。
『……よし』
俺は小さく呟き、そして手に持っていた携帯端末をデスクに置く。この一週間、ひたすら奔走し続けた甲斐があった。ようやくそれが成果を結んだのだ。
36: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/18(火) 17:52:02.89 ID:gq9TOo4jo
『あー、実は重大なお知らせがあってな』
「お知らせ、ですかー? 楽しみです♪」
ふふ、と笑う彼女の表情は、本当に楽しそうで、嬉しそうだった。傍にいるだけで幸せになれる様な、そんな表情。可能なら、ずっとその顔を見て居たかった。
37: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/18(火) 17:52:30.11 ID:gq9TOo4jo
『先方にはすでに話が伝わってる。移籍予定は来週の頭になりそうだ』
「……本当、なんですね、Pさん」
『……ああ』
38: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/18(火) 17:52:57.18 ID:gq9TOo4jo
扉を閉める。ばたん、と錆びた鉄扉が閉じる寸前、微かにすすり泣きが聞こえた気がした。
俺はそれを聞かなかったことにして――シンデレラガールズ・プロダクションへと向かう。最後の契約を、書面でまとめるためだ。俺は大通りへと出ると、適当なタクシーを捕まえる。
『シンデレラガールズ・プロダクションへ。ええと、この大通りをずっと行って、中央環状の交差点を曲がって……、ああ、はい、それです』
39: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/18(火) 17:53:53.88 ID:gq9TOo4jo
『……うわっ』
手鏡で確認すると、まるで亡者みたいな顔がそこにあった。これではいけない。今から契約をまとめるのに、こんな顔で行くわけにはいかない。
少し気を引き締め、そして手鏡をカバンに仕舞うと、俺は社屋の中へと入っていく。
40: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/18(火) 17:54:22.85 ID:gq9TOo4jo
俺は、安心しきっていた。だから社長の放った、唐突な言葉の矢を、避ける事も、防ぐこともできなかった。
「やはり君は、いいプロデューサーなのだね」
頭を横合いに殴りつけられたような気分だった。一瞬言葉に詰まる。ただの社交辞令に、ここまでの反応を示すことは訝しまれる。
41: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/18(火) 17:54:49.96 ID:gq9TOo4jo
「――手塩にかけたアイドルを売り払う、というのは、どういう気分だね」
一瞬、絶句した。何も言葉が出てこない。本日二度目の、頭を横合いに殴りつけられたような衝撃が、体中を駆け巡る。
『え、と。それは、どういう意味ですか』
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