43: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/08/31(土) 21:49:54.23 ID:5XV/thQ7o
  
 「こんな話をするために呼んだんじゃなかったんだよ。えーと、確かこの辺りに――。」 
  
 ふぅと息を吐いた彼女は、がさがさと何やらカウンターの下を漁り始めました。 
 どこにそんなスペースがあったのか、石膏像やら木彫の熊やらが引っ張り出されては水晶球の隣に並び始めます。 
44: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/08/31(土) 22:00:20.19 ID:5XV/thQ7o
  
  そんな有難いお話を聞いた私は、何だかこのヘアピンが愛おしいものに見えてきたのですから現金なものです。 
 代金を支払おうと鞄から財布を取り出すのですが、老婆はお金を受け取ろうとしませんでした。 
  
 「若い子と話す機会なんて、この歳になるとそうそうないのさ。」とは彼女の言葉であります。 
45: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/08/31(土) 22:03:33.09 ID:5XV/thQ7o
  
 ここまでです 
 また溜まったら投下します 
46:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/09/01(日) 12:05:12.66 ID:QUee8xDlo
 この空気好き 
 茄子さんぺろぺろ 
47:以下、新鯖からお送りいたします[sage saga]
2013/09/02(月) 12:52:55.73 ID:Le1cFD8Ho
 なんかこう……いいな。乙 
48:以下、新鯖からお送りいたします[sage]
2013/09/05(木) 14:45:00.20 ID:VcPN2SDGo
 せめて読点のあと一行開ければ読みやすいのにと思いました まる 
49: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/09/16(月) 20:27:11.47 ID:jugo19V7o
  
  埃っぽい店内から出ますと、初夏の日差しが降り注ぐものですから、その眩さに私の目は少しちかちかとしてしまいます。 
 知らず汗をかいていたようで、緑薫る風が大変に心地良く感じられました。 
 うきうき気分で先ほど物々交換で手に入れましたヘアピンをさし、「さぁ、姿を見せて黒猫さん。」と意気込んでみたはいいものの、そう上手く事が運ぶ訳ではないようです。 
 しかし私は気を落としたりはしないのです。世の中というものは何事も巡り合わせでありますから、きっとご縁がありましたらそのうちに良い運びとなりましょう。 
50: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/09/16(月) 20:28:18.11 ID:jugo19V7o
  
  バスルームから出ると濡れた髪もそのままに私はベッドへと腰掛けます。 
 我ながら少しお行儀が悪いかも知れません。こんな姿を母に見られでもすれば、たちまちに有難いお小言を頂くに違いないでしょう。 
 肩に掛けたタオルで髪の湿り気を取りながら、リモコンの電源ボタンを押します。 
 もはや普及しきった液晶テレビが音もなく画面を映しだしました。ぶおん、と鈍い音を発するブラウン管も今では目にする機会は殆どありません。 
51: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/09/16(月) 20:29:55.70 ID:jugo19V7o
  
  順繰りにチャンネルを送って見つけた地方局に合わせ、私は白いタオルをアルミ製のラックへとかけました。 
 髪先はまだ僅かに湿ってはいますが、この陽気ですから直ぐに乾くことでしょう。 
 モニターからは若い女性の声が聞こえてまいります。 
 そちらへと目を向ければ、マイクを持ったレポーターらしき女性と画面中央に立つ年老いた男性が一人。 
52: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/09/16(月) 20:32:05.51 ID:jugo19V7o
  
  代々陶芸を営んできたという男性は、取材陣を蔵の中へと案内しました。 
 そこには急須や湯飲み、花瓶や茶碗などが数えきれない程に収められております。 
 「最近はこういったものもつくっている。」そうお爺さんが持ちだしたのは取手とソーサーのついたコーヒーカップでした。 
 備前焼で作られたそれは、白い洋食器と比べて暖かな印象を受けます。土の色合いや質感がそう感じさせているようでした。 
53: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/09/16(月) 20:34:14.27 ID:jugo19V7o
   
  少し、しんみりとした様子のお爺さん。心なしか、一回りほど小さくなったように思えます。 
 十六といいますともう高校生でしょうから、焼き物よりも服やアクセサリーといったものに心惹かれる年頃なのかも知れません。 
 自分の焼き物が喜ばれなくなったお爺さんの心中は察するに余りあることでしょう。 
 寂しそうに伏せた目が、一層と哀愁を誘います。 
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