過去ログ - カカシ「春野サクラ……!」
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1: ◆aTPuZgTcsQ
2013/10/14(月) 15:03:34.44 ID:BLnFpW2L0
毎日、外の音に怯えていた。例えまともな来客があろうと、俺はドアを開けなかっただろう。扉の向こう側の話し声が怖くて、カーテンを締め切った薄暗い部屋で、一人布団を被っていた。
耳を塞いでいても、甲高い子供の声だけは鮮明に聞こえた。それが家に向けられたものであろうが無かろうが、俺には関係無かった。すべての音が俺を蝕んでいく。
所詮、俺にできることは指を耳に突っ込むぐらいだった。その程度ではほとんど変わるはずもなく、少し音量を絞っただけの騒音が、今日も響き渡る。
扉を壊さんばかりのノックの音、何かのスプレーを噴射する音、窓に固いものがぶつかる音、ガラスが割れる音、そして極めつけはドアを蹴飛ばし大人が怒鳴る声、防ぎきれない多様な音に俺はもう耐えられなかった。
次第に俺は俺自身の音さえも必死に押さえ込むようになり、居留守を使うようになった。どんなに小さな音でも心臓が止まるほど緊張し、家の中いるのがバレてしまうのではないかと恐怖に囚われた。実際は、そんなことをしようとしなかろうと、俺が中にいるのはバレバレだった。
まだアカデミーにも通っていない俺に、家以外の居場所などなかったからだ。明らかに俺に向けた罵詈雑言か、扉の向こうから聞こえてくることもあった。
あの薄い扉一枚だけが自分を守る砦だと思うと、俺は抱えきれないほどの不安に苛まれた。それでも俺には逃げる場所すらない。
無駄だと頭では分かっていても、とにかくここにはいないと思わせたくて、音の出ることを徹底的に避け始めた。
水を流す音が怖くて、トイレに行くこともできなくなった。冷蔵庫のドアを開ける音さえ、聞き耳をたてられているような気がした。
中でもビニール袋のカサカサいう音が苦手だった。恐らく外に響くことはないが、妙に大きな音に感じてしまう。うっかり触れてはその度に冷や汗をかいた。未だにビニールの音は、俺にとって恐怖の象徴であり続けている。
その結果、俺は本当に一日中、布団の中で過ごしていた。
遂には、自分の呼吸さえ鬱陶しく思うほど、俺は追い詰められていた。耳を塞いだまま分厚い布団の裏側を見上げ、気まぐれに呼吸を止めては、また息を吸ってしまう自分に嫌気が差す。もう、いっそ死んでしまいたかった。
そんな俺でも、鍵が開く音だけは楽しみにしていた。父さんが任務から帰ってきたという合図だからだ。その音が聞こえたらやっと一日が始まる。俺は嫌でも夜型になるしかなかった。

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2: ◆aTPuZgTcsQ
2013/10/14(月) 15:05:20.53 ID:BLnFpW2L0
とある日、いつもよりかなり早く、家のドアはあの待ち望んだ音をたてた。父さんと話している間だけは、やむことのない騒音を忘れることができる。任務明けにいつも待ち構えている俺は、父さんからしたら迷惑だったかもしれない。
それでも、父さんは嫌な顔一つせず俺の相手をしてくれた。世間がなんと言おうと、俺にとってはただ一人の味方であり最高の父親だった。
そして今日もまた、いつもと同じ笑った父さんの顔を見ることができるはずだった。
その日も俺は日中に活動することはなく、鍵が開く音がするまで眠っていた。まだ重く垂れ下がる瞼をこすり、ゆっくり布団から這い出たとき、俺の耳は異常事態を敏感に察知しとっさに屋根裏へと隠れた。
狭く埃っぽい屋根裏で音をたてないよう慎重に体をよじり、わざと開けられた板の隙間から自室を見下ろす。月明かりに照らされた見覚えの無い男が二人、金属製の棍棒を担いで中へと入ってくるのが見えた。
以下略



3: ◆aTPuZgTcsQ[saga]
2013/10/14(月) 15:06:45.41 ID:BLnFpW2L0
しばらくして正気づくと、男達はすでに引き上げていたようだった。気配を入念に探り慎重に天井から降り立つと、執拗に荒らされた部屋は、上から見ていた様子よりずっと酷い有り様に思えた。
蛍光灯とカバーは見るも無惨に散らばり、他の残骸と共に床を埋め尽くしている。これでは電気をつけることすら出来ない。
それでも月の弱い光を受けて浮かび上がる部屋でさえ、俺にとっては愕然とするものだった。所々塗装が抉られ歪んだ家具に、穴の空いた窓や壁、廊下まで吹き飛んだ扉やヒビの入った姿見を見て、俺は意識が遠くなる気がした。
だが、現実は再び気絶することさえ許してはくれなかった。ただ呆然と立ち尽くしている訳にもいかず、俺の足は箒が置いてある台所へと向かった。
二人組による被害は家全体に及んでいた。当然、台所だけが免れているはずもなく、食器類や棚のガラスはやはり粉々に打ち砕かれていた。
以下略



4: ◆aTPuZgTcsQ[saga]
2013/10/14(月) 15:08:05.04 ID:BLnFpW2L0
暗がりの中をモソモソと動き、鋭利な凶器と化した床を箒を左右に滑らせながら歩く。そのときには、すでに俺の両足は血まみれになっていた。真っ先に靴を玄関に取りに行けば、もっと楽だっただろう。
それを選ばなかったのは、単純に怖かったからだ。まだ扉の外にアイツらがいるかもしれない。そう思うと玄関に近寄ることなど出来なかった。
仕方なく台所にあった大嫌いなビニール袋を足に履いて、明かりが灯らない廊下を進んだ。立っているだけで激痛が走ったが、なにかやっていないと、どうかしてしまいそうだったのだ。
破片がぶつかり合う高い音と箒が床を擦るザッザッという音、それにビニールの不愉快な音が重なり、いつしか足の痛みも忘れ単調な騒音だけが頭を支配する。きっと、俺なりの自衛であり現実逃避だったのだろう。だから、誰かがドアを開けた音さえ、俺は気がつかなかった。

以下略



5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage ]
2013/10/14(月) 15:26:04.33 ID:SU2e4YLp0
!?
とりあえず期待


6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/10/14(月) 15:33:51.54 ID:xVrIvOblO
読みにくいってレベルじゃない
とりあえず改行して


7: ◆aTPuZgTcsQ[saga]
2013/10/14(月) 15:36:15.84 ID:BLnFpW2L0
あれだけの扱いをしておきながら、葬式だけはしっかり行う木の葉を、この時ほど恨んだことはない。

見たくもない顔が形だけの喪服を纏い、死者を悼む表情を作り込んでいる。どの面下げて参列しているんだと、怒鳴り付けられるほど俺は成長していなかった。

その気味の悪い集団に、俺はあの二人を見つけてしまった。明るいところで見ると、男というより少年と言った方が正しいように思える。あろうことか、二人揃って涙を流していた。俺の涙は枯れてしまったかのように、一滴も出てこなかった。なのになぜあんな奴等の方が堂々と泣けるのだろう。
以下略



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