1: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/01(水) 21:23:27.64 ID:a9ZPEh6eo
01月01日
少し前の話だ。
悪いね、と提督はわたしの解体を告げた。
お前は砲雷撃戦の技術もあるし夜戦での動き方も光るものがあるが、戦争には向いてない。
だからお前は、普通の女の子に戻った方がいい。
彼はわたしにそう説明した。
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2: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/01(水) 21:32:21.18 ID:a9ZPEh6eo
突然の話だったから、なかなかに驚いた。
その話をされた日の午前はまだ、次の出撃に備えた訓練をおこなっていたし、その次の出撃にも、次の次の出撃にも、出るつもりでいた。
出ない、という選択は思いつきもしなかった。
わたしは修理のコストの低い艦だったから、かなりの出撃率の高さを維持していたのだ。
3: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/01(水) 21:45:08.77 ID:a9ZPEh6eo
だというのに、昼にその話を聞いて、夕方には正式に解体が決定していた。
寂しくてその日の夜、わたしは、既にすっかり馴染んでしまっていた自分の艦娘としての身体を、ひとり、鏡の前で確認していた。
4: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/01(水) 21:52:01.90 ID:a9ZPEh6eo
解体の提案を拒まなかったのは、わたしの身分のせいではなかった。
昔から身分や立場を気にするのが苦手だったから、それはない。
ではなにか、と言うとそれは……
それはなんだろう。
5: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/01(水) 22:08:51.82 ID:a9ZPEh6eo
解体されたわたしは、かつて住んでいたところとは違うところに移り住んだ。
その時点で季節はもう冬になっており、今日、ついに年が明けた。
幼い頃は年明けの雰囲気が好きだったな、なんて考えながら家の周りを少し散策した。
6: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/01(水) 22:15:55.68 ID:a9ZPEh6eo
近くに神社でもあるのか、たくさんの人出があった。
誰もがなんとなく、縁起の良さそうな表情をしている。
これから先の未来になにか良いことがあるだろう、という表情だ。
わたしはどんな表情をしているだろう。
7: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/01(水) 22:29:00.63 ID:a9ZPEh6eo
どこかの子どもがわたしを指さしてなにか言う。
やめなさい、とその父親が叱りつける。
そんな光景がなぜかわたしにある種の虚脱感を与えて、少し歩いたところでわたしは座り込んでしまった。
8: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/01(水) 22:49:12.38 ID:a9ZPEh6eo
両膝を抱えて、その間に顔を埋める。
もうどうにでもなれ、という気持ちだった。
ここで男に襲われようが、凍死しようが、もはやわたしには興味がなかった。
なにかを考えたり、なにかを想ったりする気力が、いつの間にか失われていた。
9: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/01(水) 23:09:30.00 ID:a9ZPEh6eo
あの、と案の定男に声をかけられた。
「大丈夫ですか」
「…………」
「どうかされましたか」
「…………」
10: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/01(水) 23:31:03.67 ID:a9ZPEh6eo
はじめは、彼はただ座っていた。
わたしはときどき彼のことを眺めたり、また膝に顔をうずめたりしていた。
けれどやがて彼は、これは僕のひとり語りだから聞かなくてもいいけれど、と前置きをして語り始めた。
「昔さ、仲の良い女の子がいたんだ。
彼女は僕の家のすぐ向かいにある家の子で、幼いときからよく一緒に遊んでいたんだけど、ある日その子は越してしまうことになったんだ。
11: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/01(水) 23:41:51.97 ID:a9ZPEh6eo
そこまで語って、彼は話をやめた。
ただわたしのことを見ている。
彼の無関係な話がなにか良い方向に働いたのか、わたしの虚脱感はいつの間にか、薄れていた。
十数回の呼吸をしてから明確な発音で、
12: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/01(水) 23:45:58.73 ID:a9ZPEh6eo
それからわたしは、困惑する男に一方的に別れを告げてアパートに戻った。
解体の提案を拒まなかった理由は、まだ思い付きそうにない。
13:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage]
2014/01/02(木) 00:46:52.51 ID:n+rzJNGF0
面白そう
14:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage]
2014/01/02(木) 03:39:36.70 ID:juh5aKBK0
期待
15: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/02(木) 22:56:57.44 ID:h+WQEfwyo
01月02日
「新しく越してこられたの?」
今日の朝、アパートを出たところで声をかけられた。
ええ、と頷くと彼女は「やっぱり」とはにかんだ。
16: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/02(木) 23:54:11.06 ID:h+WQEfwyo
わたしたちは、彼女の部屋で話をした。
部屋の感じを見る限り、結婚しているわけではないように見えた。
「セメント工場で働いてるの」
「工場は近くですか?」
まだこの辺りの地理には疎くて、見た覚えがなかった。
17: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/03(金) 00:14:40.52 ID:agT1hS0To
「燃料と弾薬?」
言葉をおうむ返しにして、彼女は首を傾げた。
「じゃあもしかして……」
「ええ」
きっと想像通りだ。
18: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/03(金) 00:23:35.58 ID:agT1hS0To
「この街の居心地はどう?」なんてことも尋ねられた。
まだ分からない、と答えるつもりだった。
実際は、分からないどころか、居心地の良し悪しを考えたこと自体がなかった。
なのに口は「良いですね」と唱えていた。
バランスが取れていない。
19: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/03(金) 00:36:14.39 ID:agT1hS0To
仕方なしに、部屋に戻る。
部屋は閑散としていて、少し寂しい。
なにかが足りない、という間隔がわたしの身体につきまとっている。
缶も魚雷も連装砲もないが、足りないのはそれだけではない
20: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/03(金) 01:24:51.09 ID:agT1hS0To
床が冷たくて気持ち良い。
その気持ちよさに惹かれて寝そべると、気持ち良いのを通りすぎて、少し寒い。
なにをする気にもなれなくて、わたしはそのあとの今日一日を、寝て過ごした。
21: ◆o1H7m0ryfo[saga]
2014/01/03(金) 01:25:42.99 ID:agT1hS0To
夜戦の夢を見た、気がした。
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