1:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage]
2014/01/20(月) 23:21:48.93 ID:uoPFj+HD0
それは、町も寝静まった、月が高く上った深夜だった。
月を眺めながら、何をするわけでもなく、月光浴をしていた私に、娘が声を掛けてきた。
「私は、もっと高みを目指し、見てみたいのです、その先にある景色を。このように、囲まれた場所からではなく、何もさえぎるものの無い、高みから……」
突然の娘の言葉に、私は、しばし外の景色を眺めながら考えた。
山の中腹にあるこの家からは、市中が一望できる。月明かりに照らされた街並みを見ながら、娘の言う事を反芻する。
そう、娘の言う「囲まれた場所」というのは、私が当主を勤めるこの一族のことを言っているのだろう。
私は、その娘の言葉に、頷いた。
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2014/01/20(月) 23:22:34.46 ID:uoPFj+HD0
「では、父上。私は……いえ、やめておきましょう」
そう言うと、気付けば娘の気配は消えていた。
高みを目指す手段は人それぞれ
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2014/01/20(月) 23:23:39.47 ID:uoPFj+HD0
「旦那様、旦那様はどちらに?」
それから、一年近くたったある日の事だった。
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2014/01/20(月) 23:25:21.07 ID:uoPFj+HD0
世間の流行や情報とは、殆ど隔絶されたこの家だけに、その名を聞いても分からなかった。
その小さな広告の中の娘の姿に、私は引き込まれていた。
何が、娘を変化させたのか……
私は、少し考えると、執事の原を呼び出した。
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2014/01/20(月) 23:25:49.76 ID:uoPFj+HD0
「まさか、旦那様がテレビをお買い上げになるとは思いませんでした」
驚いた様子で、運び込まれてくる液晶テレビを見ている老執事が、目を白黒させている。
まるで、私がテレビを知らないかのような驚き方でもあったので、そのことも軽くたしなめておいた。
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2014/01/20(月) 23:26:26.36 ID:uoPFj+HD0
女中が不思議そうな顔でこちらを見ている。
余程、怪訝な顔をしていたのだろう。
何でもないという風を装うと、私はそのまま自分の書斎へ戻る。
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2014/01/20(月) 23:27:11.84 ID:uoPFj+HD0
しかし、それは、貴音の好きにさせるという私の意に反することだった。
四条たる者、自らの力で事を成し遂げる事が出来なければどうするか。
「……私は、あなたの思うとおりにすればいいんじゃないかと思っているのですが」
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2014/01/20(月) 23:27:42.66 ID:uoPFj+HD0
付き人もつけずに出かけたのも久々だが、東京まで出たのも久々だろう。
あふれんばかりの人の波を進みながら、調べさせておいた、765プロダクションへと向かってみる。
鉄道の乗り継ぎを何か生かした後、ようやく、そこへたどり着いた。
小さな雑居ビルの中に入っている事務所の窓には、「765」と書かれていた。
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2014/01/20(月) 23:28:08.56 ID:uoPFj+HD0
家の者に調べてもらった雑誌に載っていた娘達と同じ、と言う事は、彼女達が、あの765プロのアイドルと言う事か。
「あのぉ……どうか、されましたか?」
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2014/01/20(月) 23:28:46.30 ID:uoPFj+HD0
招き入れられた事務所の中は、こじんまりとしていた。
ある意味では、生活観の滲み出ている空間である。
音無と名乗った女性の入れてくれたお茶の味は、何だか落ち着くものだった。
彼女だけに名乗らせても不公平だ、私も名乗ることにした。
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2014/01/20(月) 23:29:14.93 ID:uoPFj+HD0
「でも、びっくりしました、雰囲気といい、やっぱり貴音ちゃんのお父様ですね」
そんなに似ているのだろうか?
「申し訳ありません、本来なら担当のプロデューサーとお話していただくのが良いんですが、生憎、まさに今、貴音ちゃんのロケに付き合っていまして……あっ!そうだ、確かお昼の番組だから、今やっているかもしれません!」
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2014/01/20(月) 23:29:42.03 ID:uoPFj+HD0
『懸想文、抱え待つ身に、積もる雪。出張版、四条貴音のらぁめん探訪。皆様、いかがお過ごしでしょうか。暦の上では大寒と言う事で、皆様、寒さに体調を崩されたりはしていないでしょうか』
娘の、アイドルとしての仕事ぶりを見て、私は安堵した。
本当のところ、何をしているのか分かって居なかった。
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2014/01/20(月) 23:30:47.22 ID:uoPFj+HD0
765プロを後にした私は、東京の旧知の友人の家に立ち寄った。
「君が私のところに来るのは、もう10年ぶりではないかな」
14:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage]
2014/01/20(月) 23:31:26.59 ID:uoPFj+HD0
「貴音嬢がああいう子になるとは、私も想像できなかったね。良い子に育った。君に似なかったのだろうな」
大きなお世話だと言い返そうとしたが、それもそうだと合点が言って、結局何も言わずに、彼の妻が入れてくれたコーヒーを啜る。
「ところで、今日はどうするんだ?」
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2014/01/20(月) 23:31:59.60 ID:uoPFj+HD0
「君がそういうのなら、まあ……駅まで送ろう」
しかし、久方ぶりの東京だ。
自分で行く、というと、彼もまた、その方が良いだろう、と頷いた。
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2014/01/20(月) 23:32:30.16 ID:uoPFj+HD0
「父上……」
貴音。そう、娘が、目の前に立っていた。
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2014/01/20(月) 23:33:03.01 ID:uoPFj+HD0
「来て、いただけたのですね」
娘の声に、私は頷いた。
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2014/01/20(月) 23:33:56.48 ID:uoPFj+HD0
娘は、私のことを、抱きしめた。
暖かな感触に思わず、小さな頃の貴音を思い出し、大きくなったものだと感じた。
その後、貴音はどこへと行くでもなく、不意に姿を消した。
我が娘ながら、不思議なものだ。
19:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage]
2014/01/20(月) 23:36:59.66 ID:uoPFj+HD0
「お帰りなさいませ。どうでしたか?」
どう答えたものかと、思案に暮れていると、妻はにこりと微笑んで、私の手を引いた。
20:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage]
2014/01/20(月) 23:37:31.63 ID:uoPFj+HD0
翌朝、朝食をとっていると、テレビの向こうから765プロのアイドルの声が聞こえてきた。
「おお、今日も貴音様はお美しいですなぁ、旦那様」
21:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage]
2014/01/20(月) 23:45:47.85 ID:7+XB3BcLo
おつたか
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