1: ◆VslBbv84R2[saga]
2014/05/01(木) 00:46:19.06 ID:r7ry1KnL0
八月ももう終わろうとしているというのに、強い日差しがじりじりと髪を焼くかのようだった。
右手から提げる、大好物のプリンが入ったビニール袋を、太陽からかばうため身体の陰に隠す。
帽子くらい被ってくるべきだった。
後悔しながら、宮永照はとぼとぼと歩を進める。
とぼとぼ、というのは心情が反映されたオノマトペでは決してない、と思う。
今歩いているこの場所の、物哀しい雰囲気がそうさせるのだ、とそう思う。
照自身の主観からするとそういうことになるのだが、第三者から見た場合にどう映るのかはわからなかった。
「……おねえちゃん?」
「……なに?」
「あ、ううん……なんでも、ないの」
「そう」
「第三者」が自分の歩調になにを感じたのか、短い会話からだけでは計り知れなかった。
ましてや彼女は照の隣ではなく、少し遅れて斜め後ろをついてきているのだ。
表情など窺い知れるはずもなかった。
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2: ◆VslBbv84R2[saga]
2014/05/01(木) 00:48:08.90 ID:r7ry1KnL0
『こんにちは、咲』
宮永照が彼女――宮永咲に会ったのは、まさに「この場所」の入り口だった。
3: ◆VslBbv84R2[saga]
2014/05/01(木) 00:49:14.80 ID:r7ry1KnL0
ついていっていいのか。
一緒に行ってもいいのか。
彼女のそんな、期待と不安とが綯い交ぜになった表情に一つ頷いて、照は「この場所」に足を踏み入れた。
慌てたように咲が後ろをついてくる。
4: ◆VslBbv84R2[saga]
2014/05/01(木) 00:50:42.94 ID:r7ry1KnL0
こうして連れ立って歩くことさえ何年ぶりだというのか。
思い出そうとして天を仰ぐと太陽が瞳を刺した。
反射的に視線を下げると、ちかちかする視界の向こう側に、寂れた風景が広がっていた。
5: ◆VslBbv84R2[saga]
2014/05/01(木) 00:52:37.77 ID:r7ry1KnL0
まともな会話が成立したことが嬉しかったのか、咲は頬を膨らませて軽くおどけてみせた。
しかし照は、表情一つ変えずに質問を変えた。
6: ◆VslBbv84R2[saga]
2014/05/01(木) 00:54:02.25 ID:r7ry1KnL0
麻雀は国民的な人気競技である。
高校生大会とはいえ、全国大会の様子はかなり細に入った中継放送がなされていた。
おそらく父は、咲の様子をテレビ越しに見て決断を下したのだろう、と照は推測した。
7: ◆VslBbv84R2[saga]
2014/05/01(木) 00:55:23.22 ID:r7ry1KnL0
そうこうするうちに二人は、最初の目的地に辿りついた。
「――」
8: ◆VslBbv84R2[saga]
2014/05/01(木) 00:57:34.66 ID:r7ry1KnL0
大会の日程がどうの、エースとしての立場がどうのと理屈をつけて、この場所を忌避し続けていた。
逃避以外のなにものでもない行為だった。
その気になれば今日のように、多少時期を外してでも訪れることは、いくらでも可能だったはずだ。
9: ◆VslBbv84R2[saga]
2014/05/01(木) 00:59:22.46 ID:r7ry1KnL0
目的地に対して当然なされるべき「作業」をこなす間、今度は咲がじっと立ち尽くして、照の背中を見つめてきた。
気にしないふりをしながら、照は作業を黙々とこなしていく。
一段落ついたところで、パンと手を鳴らして目を瞑った。
10: ◆VslBbv84R2[saga]
2014/05/01(木) 01:00:26.72 ID:r7ry1KnL0
「行こう、って」
「咲の方の、目的地に」
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