過去ログ - 海未「夜の果てへと旅立ったあなたへ」
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1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/01(月) 14:14:26.20 ID:2hBFblv8o

 私の名を呼ぶ声が聞こえて我に返ったのですが、
 顔色は隠しきれず、
 心配をかけてしまいました。
 声の主は、来月籍を入れる相手の男性です。

 海未、大丈夫か。
 こわばった表情で私を見つめるその人の、私の肩に置かれた手の暖かみに、
 いつかの父の姿などを重ねてしまって、なんだか私の方がほころんでしまいました。

 二十四になった春先、
 母の勧めでしぶしぶ引き受けたお見合いでしたが、
 私にはもったいないほどの方と巡り会えたものだと、こうした折にふと思い返すのです。

 顔色を隠すのは相変わらず不得手ですが、
 手の中の、宛先不明で返ってきた手紙については、彼に悟られずに済んだようでした。


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2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/01(月) 14:16:05.60 ID:2hBFblv8o

 また、届かないだろうな、と諦めは心の内にありました。

 それでも、
 私の人生の晴れ舞台には顔を見せてほしかったのですが、それも難しいのでしょう。
以下略



3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/01(月) 14:16:41.94 ID:2hBFblv8o

『海未ちゃんが一番なんて、ちょっと意外だったかな』

 おとついの夜、彼女は酒に顔を赤らめてそんなことを言いました。

以下略



4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/01(月) 14:17:18.28 ID:2hBFblv8o

 唇を刺すほどの熱もゆるみ、薫り高い苦みが喉を潤していきます。
 湯気の立ち上る天井は、
 外が薄曇りで陰っているせいでしょうか、切れかけた照明の光もやけに低く感じられます。

以下略



5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/01(月) 14:17:54.68 ID:2hBFblv8o

 あの夜、あの子が見ていた景色はどうだっただろうか。

 ……こうして畳に寝転がるたび、同じ格好をしていたいつかのあの子を思い出します。

以下略



6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/01(月) 14:18:31.01 ID:2hBFblv8o

『赤の他人のくせに、よけいなこと言わないでよ』

 あの子は母にそんなことを言ったそうです。
 あの夜、それを聞いた時、
以下略



7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/01(月) 14:19:07.36 ID:2hBFblv8o

 高校三年の夏ごろ、雪穂に高坂家の秘密を打ち明けられました。

 あの子が夏風邪をこじらせて授業後に倒れた日の夜、
 二人でおかゆと氷枕を支度する合間のことでした。
以下略



8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/01(月) 14:19:43.68 ID:2hBFblv8o

 畳の上でぽっかり空いた場所を眺めていると、最後の日の声が聞えてくるようです。

 海未ちゃん、叱ってよ。
 私のこと、愛する娘を奪って逃げてこうとか考えちゃう、最低な私のこと。
以下略



9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/01(月) 14:20:19.99 ID:2hBFblv8o

『海未ちゃん、ありがと。 ……ごめんね』

 妹の雪穂と共に蒸発する前夜、穂乃果はそう言い残してこの部屋を出ました。

以下略



10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/01(月) 14:20:56.30 ID:2hBFblv8o

 また明日、お話しましょうね。
 絶対ですよ、と玄関先で掴んだ手はとうに冷え切っていて、
 穂乃果は、あははと笑って、返事を避けました。

以下略



11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/01(月) 14:21:32.63 ID:2hBFblv8o

 時はめまぐるしく過ぎていきます。

 気づけば凛たちも大学を卒業する頃で、
 ことりは表参道とフィレンツェのオフィスを往復する日々、
以下略



12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/01(月) 14:22:08.94 ID:2hBFblv8o

「――みちゃん、海未ちゃんっ!」

 懐かしい声が聞こえて、目をさましました。
 ぼやけた焦点が少しずつ合わさると、
以下略



13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/01(月) 14:22:45.31 ID:2hBFblv8o

「海未ちゃん、大丈夫?」
「今日でその言葉、二回目ですね」

 こんな風に冗談で返すのも、あれから少しして身につけたことです。
以下略



14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/01(月) 14:23:21.63 ID:2hBFblv8o

「海未ちゃん。ちょっと、眠ってた方がいいよ」

 子供じゃないんですから、
 とごまかしそうな私の手をことりが掴んで、じっと見つめます。
以下略



15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/01(月) 14:23:57.95 ID:2hBFblv8o

 ほのか、ほのか、ほのかぁ……

 私は、
 あの子の名前を何度も呼びながら、
以下略



16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/01(月) 14:24:34.29 ID:2hBFblv8o

 あの夜よりも少し前、たしか二人のことを知った辺りの頃です。

 音を立て、舌をからめあい、
 指と指を重ねて一心不乱に求め合う様に、
以下略



17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/01(月) 14:25:10.66 ID:2hBFblv8o

 私は、……あんな風に、幸せに満たされた顔をしたことがあったでしょうか。

 ことり、私はいま、幸せなのでしょうか?

以下略



18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/01(月) 14:25:46.98 ID:2hBFblv8o

 泣き疲れて落ち着いた私のうわごとに、ことりが相づちを打ってくれます。

 私は、
 ……穂乃果と雪穂を、見捨ててしまった、
以下略



19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/01(月) 14:26:23.30 ID:2hBFblv8o

 しばらくの間、夢をみていました。

 穂乃果とことりと手をつないで、どこかへ遊びに行く夢。

以下略



20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/01(月) 14:26:59.61 ID:2hBFblv8o

 また来るからお話ししようね、
 絶対だよ、
 と指切りを交わしてことりはオフィスへと戻りました。

以下略



21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2014/12/01(月) 14:33:20.03 ID:5qkky3LMO
んー
及第点といったところか


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