10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/20(土) 06:47:29.87 ID:DL0z8tZuo
  正直、意外だ。彼は芸能界のような華やかさと無縁に見えたから。 
  どちらかと言えば、保健室の養護教諭に似ていた。 
  
  私はその人混みを追った。 
  私に気付いてくれないかと期待したけれど、彼は仕事に夢中らしかった。 
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2014/12/20(土) 06:48:03.77 ID:DL0z8tZuo
  自動販売機で買った缶のココアにかじかむ手を温めていると、笑いがこみ上げてきた。 
  ただ、傘を返そうというだけで、私はなにをしているんだろう。 
  
  ようやく少女と彼がラジオ局から姿を現したとき、空は藍と紫の絵の具を混ぜ合う水のようだった。 
  私は空き缶をゴミ箱に放ると彼の元へ走り寄った。 
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2014/12/20(土) 06:48:51.93 ID:DL0z8tZuo
 「傘、ありがとうございました」 
  
  鞄から折り畳み傘を出して彼に手渡す。彼の横で少女がキョロキョロと私を見ていた。 
  それから、彼女は彼の方を見上げて、訊いた。 
  
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2014/12/20(土) 06:50:03.92 ID:DL0z8tZuo
 「工藤忍をどうぞよろしく」 
  
 「ねぇ、アタシにも心の準備というものが……」 
  
 「いいかげん慣れてもらわないと、ロクに紹介もできないや」 
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2014/12/20(土) 06:51:13.13 ID:DL0z8tZuo
  ―――― 
  
  夕食の席で母に、土曜日に東京へ行くことを伝えた。 
  
 「お仕事?」 
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2014/12/20(土) 06:52:08.34 ID:DL0z8tZuo
  土曜日の朝、起きると私はさっさと着替えて、家を出た。 
  この息苦しさとも今日限り別れられるかもしれない。 
  
  新幹線での二時間は退屈だった。 
  母からミュージックプレイヤーを借りてきてよかった。 
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2014/12/20(土) 06:53:07.51 ID:DL0z8tZuo
  名刺に印刷されていたプロダクションは、雑居ビルの一室に事務所を構えていた。 
  様々な広告看板に紛れるそれは、一見するとサラ金か英会話教室に思える。 
  
  一つ深呼吸をしてビルの階段に足をかけた。 
  事務所のある三階まで上っただけなのに、息が切れる。 
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2014/12/20(土) 06:54:23.03 ID:DL0z8tZuo
  控えめに、ドアを三回叩いた。 
  待てど暮らせど――と言うほど時間が経ったわけではないけれど、 
  内からドアが開く気配はなかった。もう一度ノックをする。 
  
  静かなドアの前、深い溜息が反響した。 
18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/20(土) 06:55:12.36 ID:DL0z8tZuo
 「新人の子かな」 
  
 「いや、俺ぁ知りません」 
  
  顔を見合わせる二人へ礼をして、私はポケットから名刺を取り出した。 
19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/20(土) 06:55:40.17 ID:DL0z8tZuo
 「でも、私が会った人と……」 
  
 「その会ったって人の名前は知ってる?」 
  
  もちろんと言いかけて、彼の名前を知らないことに初めて気が付いた。 
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2014/12/20(土) 06:56:13.13 ID:DL0z8tZuo
  マドギワと呼ばれた彼は二人へ私を簡単に紹介したあと、向き直って尋ねた。 
  
 「どうしたの、佐久間さん」 
  
 「私、アイドルになりたいんです」 
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