109:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/20(土) 08:00:42.16 ID:DL0z8tZuo
――――
目を開けたとき、部屋は暗かった。
雨が降っているのか、微かにヒスノイズのような音が聞こえる。
カーテンを開ける気にもなれず、私は布団にくるまって、浅い眠りの残り香を吸い込んだ。
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2014/12/20(土) 08:01:08.09 ID:DL0z8tZuo
微睡んでは覚めてを幾度も繰り返すうち、私は時間を忘れた。
そっと顔を出して見ると、カーテンの隙間から鳥の鳴く声が届いた。
雨は止んだのかしら。
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2014/12/20(土) 08:01:34.15 ID:DL0z8tZuo
薄暗い部屋へ入ると、忍ちゃんは私のすぐ隣へ腰を下ろした。
制服と寝間着が隣り合うのはなぜだか、不思議だと私は思った。
忍ちゃんは口を開かなかった。ためらいがちに同じ空気を呼吸して、私は夢うつつに呟いた。
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2014/12/20(土) 08:02:16.31 ID:DL0z8tZuo
「……マドギワさんがかわいそうだよ」
皮膚の下で黒く冷たい後悔に血管が萎縮した。
どうして。私は彼に焦がれていたけれど、彼は私のことなど考えてくれなかった。
そうでなかったら、どうして私に黙って他の誰かと――。
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2014/12/20(土) 08:02:49.10 ID:DL0z8tZuo
私はもう、いい。現実は私自身の嘘で、もう形を保てなかった。
それなら、いっそ壊れることのない夢を見ていたい。
「マドギワさんが結婚したから? 一時の感情で投げやりにならないで」
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2014/12/20(土) 08:03:28.50 ID:DL0z8tZuo
「マドギワさんのことが好きだっていうのも?」
答えられなかった。ああ、それは嘘じゃなかったけれど――。
「……まゆはアイドルになるべきじゃなかった」
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2014/12/20(土) 08:04:07.87 ID:DL0z8tZuo
「アタシは、まゆちゃんが歌うべきだと思うし、前もそう納得した」
「どうして?」
「あれはまゆちゃんのための曲で、アタシじゃ代われないから」
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2014/12/20(土) 08:04:34.38 ID:DL0z8tZuo
「甘ったれないで」
忍ちゃんは強い口調で言った。
「歌わなかったら……まゆちゃんが逃げたら、アタシ、嫌だよ」
117:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/20(土) 08:05:00.89 ID:DL0z8tZuo
空には鮮やかな青に蜜柑色が夢のように塗られていた。
風は涼しく、道端に花が咲い、私は五月を思い切り呼吸した。
「忍ちゃん!」
少し行った歩道へ、忍ちゃんは立ち止まっていた。
118:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/20(土) 08:05:26.96 ID:DL0z8tZuo
嘘でもいいじゃない。忍ちゃんは嗚咽混じりにそう言った。
「アタシ、まゆちゃんに辞めてほしくない」
「どうして……私……」
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