83:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/20(土) 07:45:09.81 ID:DL0z8tZuo
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春休み期間のレッスンはトレーナーさんと、私とプロデューサーさんの三人で行われた。
初めの二、三日はプロデューサーさんのことを意識して集中できずにいたけれど、
今はそれよりも、傍に居てくれることがこの上なく嬉しかった。
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2014/12/20(土) 07:45:41.11 ID:DL0z8tZuo
「佐久間さんにぴったりだと思って」
「そうですか……?」
「ぴったりですよねぇ」
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2014/12/20(土) 07:46:27.33 ID:DL0z8tZuo
レッスンが終わるとプロデューサーさんは私の家まで送ってくれる。
車内には彼の好きだという音楽がいつもかかっていた。
疲れに半分まぶたを落として、名前も知らないでいたロックミュージックに耳を澄ませた。
帰りの車内でプロデューサーさんが私に話しかけることは少なかった。
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2014/12/20(土) 07:47:49.85 ID:DL0z8tZuo
運命というものが在ったとして、よくできていると思う。
あの歌を歌うたび、一本の糸のような巡り合わせにぞっとした。
もしも、あの日の喫茶店で相席にならなかったら?
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2014/12/20(土) 07:48:28.56 ID:DL0z8tZuo
――――
白く晴れた午前、私はレッスンスタジオに一人で居た。
プロデューサーさんは打ち合わせがあるからと、私に待っているように指示をした。
スタジオの床には冬の面影を残した空気が漂っている。
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2014/12/20(土) 07:48:56.70 ID:DL0z8tZuo
ゆっくり、ゆっくり、記憶をたどるように鍵盤を叩く。
なんで辞めたんだっけ。そうそう、この曲の他にはなにも弾きたくなかったからだ。
スペイン舞曲集第二番、オリエンタル。
この物哀しいメロディを、私は宝物のように大切にしていた。
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2014/12/20(土) 07:49:24.15 ID:DL0z8tZuo
「あの、勝手にピアノ弾いたこと、トレーナーさんには内緒に……」
「あははっ。彼女、怒ったりするタイプじゃないと思うけど、そう言うなら内緒にしておく」
トレーナーさんがスタジオへ着くのは、もう少しかかるようだった。
90:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/20(土) 07:49:59.60 ID:DL0z8tZuo
「迷ってはいたけど、確かに、今くらいの時期に辞めるつもりだった」
「……私が無理を言ったから、残ったんですか」
そう言うと、彼は予想に反してからからと笑った。
91:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2014/12/20(土) 07:50:31.69 ID:DL0z8tZuo
「同僚とも多少揉めたけど今も仲良くしてくれるし」
「揉めたんですか」
「まあ、便利な役割だったからね」
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2014/12/20(土) 07:50:58.83 ID:DL0z8tZuo
「……私、プロデューサーさんの期待に応えられてますか?」
「さっきも言ったように、スカウトしてよかったと思ってる」
君は、と彼は続けた。
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