過去ログ - 【モバマス】「橘ありすの十四日間戦争」【橘ありす×市原仁奈】
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1:名無しNIPPER[saga]
2014/12/24(水) 22:43:05.56 ID:YqYwLBdl0
 モバマス、橘ありすのSSです
 少しのあいだ、お付き合いいただければ幸いです

【モバマス】「幸子、俺はお前のプロデューサーじゃなくなる」
【モバマス】「まゆ、お前は夢を見せる装置であればいい」
【モバマス】「橘ありすの電脳世界大戦」
【モバマス】「こんなにも幸せな傷あと」
【モバマス】「きみがいたから」
 と、同じ世界観の話です

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2:名無しNIPPER[saga]
2014/12/24(水) 22:44:06.60 ID:YqYwLBdl0
 アイドルになって初めて迎える冬にも、去年と変わらずに雪が降りました。

 マフラーと手袋をしていたって寒さが辛い、冷たい風が吹きすさぶある日の夕方です。

 バスを降りると、夕闇にそびえる巨大な病院が、私を待ち受けていました。
以下略



3:名無しNIPPER[saga]
2014/12/24(水) 22:44:53.11 ID:YqYwLBdl0
「少し、痩せましたか。桃華」

「ご冗談を。今日、入院したばかりですわよ」

 私を見返す桃華が、穏やかに微笑みます。
以下略



4:名無しNIPPER[saga]
2014/12/24(水) 22:45:39.99 ID:YqYwLBdl0
「その先は俺から話そう」

 桃華の視線が、震える私の足へと向く前に、プロデューサーが割り込んできました。

「ありすが来る前に、担当医師を交えて桃華と話した。残念だが、クリスマスイベントに桃華は不参加だ」
以下略



5:名無しNIPPER[saga]
2014/12/24(水) 22:46:56.08 ID:YqYwLBdl0
 今朝、ニュースキャスターの女性が、例年にない大寒波の到来を告げていました。

「……だれですか。今年が暖冬だなんて言ったのは……へくちっ!」

 横殴りで降る雪が、斜めに傘を構えた私を嘲笑うみたいに、冷たく頬を叩きます。
以下略



6:名無しNIPPER[saga]
2014/12/24(水) 22:47:45.79 ID:YqYwLBdl0
「……『ドラえもん』ですか」

 私が仁奈さんと同じ年の頃は、枕元にドラえもんの単行本を積み上げて、ベッドで順番に読みふけったものです。

 今でもアニメを見ているのですが、子どもっぽいと言われてしまうのが嫌で、クラスの人たちが話をしていても、知らんぷりをしてきました。
以下略



7:名無しNIPPER[saga]
2014/12/24(水) 22:48:44.39 ID:YqYwLBdl0
 レッスン場に入った私と仁奈さんは、まず、今後の予定について伝えられました。

 学校がまだ冬休み前だということを考えれば、かなり過密なスケジュールです。

 にも関わらず、その話を、どこか他人事のように受け止めている自分がいました。
以下略



8:名無しNIPPER[saga]
2014/12/24(水) 22:49:44.77 ID:YqYwLBdl0
 音楽が止まった瞬間、足がもつれて、転倒しました。

「橘さん!」

 トレーナーさんが慌てて駆け寄ってきて、私を助け起こします。
以下略



9:名無しNIPPER[saga]
2014/12/24(水) 22:51:00.12 ID:YqYwLBdl0
 レッスン場を出ると、ロビーにいたプロデューサーが、私たちに手を挙げました。

「迎えに来てくれやがりましたか!」

 仁奈さんが嬉しそうに駆け出し、彼の腰に抱きつきます。
以下略



10:名無しNIPPER[saga]
2014/12/24(水) 22:51:56.30 ID:YqYwLBdl0
 手の平の線が、一つ目の『正』の字を描いた日の翌日でした。

 きっかけは、いくつかあったと思います。

 本番の日から逆算して組まれたスケジュールですが、進捗は思わしくありませんでした。
以下略



11:名無しNIPPER[saga]
2014/12/24(水) 22:52:57.61 ID:YqYwLBdl0
 今度は、比喩でなく本当に、寒空の下に放り出されてしまいました。

 小粒の雪が降り続くなか、駅への道を歩く私は、途方に暮れていました。

 左の手の平の血管が、そこに書いた正の字ごとうずくみたいに、脈打ちます。
以下略



12:名無しNIPPER[saga]
2014/12/24(水) 22:54:06.76 ID:YqYwLBdl0
 マイクもなしに歌う私の前を、数えきれないほどの人が通り過ぎていきました。

 今だから分かります。

 自宅、職場、恋人の家、レストラン……確かな行き先を持つ人々の足を、歌声ひとつで止めるのは、容易なことではありません。
以下略



13:名無しNIPPER[saga]
2014/12/24(水) 22:54:36.80 ID:YqYwLBdl0
 ……ですけど、そんな都合の良いことがあるわけないです。

 巨大な人の流れを前に、私の存在なんてちっぽけな砂粒みたいなもので。

 今の私にできることなんて、たかが知れているんです。
以下略



14:名無しNIPPER[saga]
2014/12/24(水) 22:55:48.24 ID:YqYwLBdl0
「……立派だったよ。桃華のこと、思い出した」

 プロデューサーの車の助手席で、私はあたたかなココアを飲んでいます。

 サイドミラーにぼんやりとうつる私の目は赤く、鼻をこすると、ぐしゅっと音がしました。
以下略



15:名無しNIPPER[saga]
2014/12/24(水) 22:56:50.79 ID:YqYwLBdl0
「先日は、本当にすみませんでした」

 事務所のロビーで、私は深々と頭を下げました。

「……仁奈はもう気にしてねーですよ。頭を上げやがります」
以下略



16:名無しNIPPER[saga]
2014/12/24(水) 22:58:55.78 ID:YqYwLBdl0
 天気予報は毎日、厳冬だと騒ぎ立て、気温の欄には冗談みたいな数字が並んでいました。

 手の平に描かれた正の字は、いよいよ今日で二つ目が完成してしまいます。

 この日、レッスンで汗を流し終えた私たちの前に、プロデューサーが現れました。
以下略



17:名無しNIPPER[saga]
2014/12/24(水) 23:00:44.71 ID:YqYwLBdl0
 リビングに通された私は、ソファーに座るよう、促されました。

 仁奈さんは自室に引っ込んでしまったみたいで、ここにはいません。

 私は背筋をぴんと立て、落ち着きなく部屋を見渡してしまいます。
以下略



18:名無しNIPPER[saga]
2014/12/24(水) 23:01:43.71 ID:YqYwLBdl0
 あれから、レッスンの合間を縫って、片親の元で暮らす子どもについての本を、図書館で少しずつ読むようになりました。

 義務感でなく、仁奈さんことを、もっと理解したいと思えたんです。

「今日の着ぐるみ、素敵ですね」
以下略



19:名無しNIPPER[saga]
2014/12/24(水) 23:03:23.81 ID:YqYwLBdl0
「桃華、お久しぶりです。体の調子はどうですか」

 病室の桃華は、以前見た時より少し痩せて、ですが、儚げな美しさだけはむしろ冴え渡るようです。

「お陰さまですこぶる良いですわ。来週にも退院できますの。クリスマスイベントも行きますわよ。舞台の上でなくて、客席の側ですけどね」
以下略



20:名無しNIPPER[saga]
2014/12/24(水) 23:03:56.94 ID:YqYwLBdl0
 力の入れ方を考えろ、とトレーナーさんに叱責されたことを思い出します。

 その言葉の意味を、ようやく、理屈でなく、感覚として、理解できたと思います。

 今、私の頭の中には、責任感であったり、緊張感であったり、桃華や仁奈さん、プロデューサーさんへの思いだったりが、煮えたぎったシチューみたいにどろどろになって溶け合っています。
以下略



21:名無しNIPPER[saga]
2014/12/24(水) 23:05:29.82 ID:YqYwLBdl0
 ライブイベント当日、私たちは、駅に程近いライブハウスの控え室にいました。

 化粧をしてもらい、お揃いの衣装を着て、順番を待っています。

 左手に描いた、二つの正の字と、四本の線を、私はじっと見つめています。
以下略



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