823: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 23:23:36.46 ID:3+pD+bLQo
 「渋谷、P殿からそれらしい話は耳に入れられているし、君のその心意気は認めるが…… 
  身体への負担を考えるとあまり賛成はできないな」 
  
 「覚悟の上です。リスクのない成長なんて、ないと思っています」 
  
824: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 23:24:04.59 ID:3+pD+bLQo
 暗闇坂も大黒坂も、麻布で有名な坂道。 
  
 大黒坂はほどよい勾配で道幅も狭すぎず広すぎず、地元の人のランニングコースになっている。 
  
 対して暗闇坂はかなり急な心臓破りの坂で、道幅もだいぶ狭い。 
825: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 23:24:34.34 ID:3+pD+bLQo
 「わかりました」 
  
 そう云って凛はレッスンウェア姿で出てゆき、きっかり四十分後、 
 ボロ雑巾のように髪を乱し汗だくの状態で帰ってきた。 
  
826: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 23:25:02.04 ID:3+pD+bLQo
 「私は、誰にも負けたくない。勿論、麗さんにだって負けたくない。だからこそ、麗さんの指導が必要なんです」 
  
 荒い息に喉を鳴らしながら、「お願いします」と食らいつく。 
  
 麗は、大きく息を吐いた。 
827: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 23:25:28.31 ID:3+pD+bLQo
  
 翌日から、仕事、学業、通常のレッスンの合間に麗の特訓が挿入された。 
  
 トップアイドルの世界を知る人間ゆえか、麗は意外と精神論や根性論が嫌いではないらしい。 
  
828: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 23:25:56.24 ID:3+pD+bLQo
 カフェテラスで数人のアイドルと一緒になったとき、第二課の気の小さめな子が、 
 凛に「もしかして、いじめられてるの……?」と心配そうに訊いてきたこともあった。 
  
 「あの人は私をいじめるためにしごいてるんじゃないよ。そもそも私がお願いしたことだしね」 
  
829: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 23:26:27.35 ID:3+pD+bLQo
 日高舞と云う、とても巨大な存在と比較され続けた麗。 
  
 舞の強大な背中を常に意識させられる中で走り抜けてきた彼女の“遺伝子”を、凛は受け継がむとしていた。 
  
 「あの人が孤独で引っ張ってきた世界に比べれば、私はまだまだぬるま湯の中。もっともっと吸収しなきゃ」 
830: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 23:26:54.99 ID:3+pD+bLQo
  
 麗の特訓は、体力ばかりの話ではない。 
  
 むしろ体力作りは基本中の基本だから、それは毎日やっておけと云うのが麗のスタンスだった。 
  
831: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 23:27:23.25 ID:3+pD+bLQo
 しかし、厳しい麗をして一目置くことがあった。 
  
 振付けを動かす上での重要なポイントを教わる際、麗の云うことを理解するために高度な専門知識を要求される。 
  
 彼女の特訓は、身体を動かすばかりではなく、座学も重要なのだ。 
832: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 23:27:52.00 ID:3+pD+bLQo
 凛は、以前Pから云われたことを麗に伝えた。 
  
 『構造を理解することが第一歩』である、と。 
  
 凛はあれ以来、暇を見つけては音楽理論や音響工学、人体解剖学など幅広い知識を頭に入れるよう心掛けていた。 
833: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 23:28:25.33 ID:3+pD+bLQo
 「……しかし、P殿もおよそ十年越しに、憧れのアイドルだった人間と食事に行くとは、 
  当時の彼には予想もつかないことだろうな」 
  
 麗の中で、Pを食事に誘うことはほぼ固まっているらしい。 
  
879Res/463.15 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 
板[3] 1-[1] l20 
	このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
	もう書き込みできません。