17: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:09:36.32 ID:wxXgwuIMo
私が穂乃果の家に寝泊りするようになって三日が経った。
特別、変わったことはない。朝起きて、バイトへ向かう穂乃果を見送って、何をするでもなく過ごす。
だらけた生活。家主たる穂乃果は家事を手伝えとも言わず、ただただ私は世話になっている。
18: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:10:07.31 ID:wxXgwuIMo
「久しぶりだな、真姫」
いきなりのラスボスである。こんなの聞いてない。
「……ええ、久しぶりね、パパ。元気だった?」
19: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:10:38.84 ID:wxXgwuIMo
「では、何が不満だったんだ? 家を飛び出すほどだ。何かあるんだろう」
「それは」
不満を持たれているのはわかっている。が、その不満が何から来ているものかわかっていない。
この人にとって、私が飛び出したのは癇癪以外のなにものでもないわけだ。いやそれはそれで正しいのだけれど。
思えば、私はこの人のことをよく知らない。小さい頃から家を空けていることが多かったから。同時に、この人も私のことをよく知らないのだろう。
20: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:11:04.33 ID:wxXgwuIMo
ああ、そうだ。私は結局、穂乃果に劣等感を抱いているのだ。
それは同時に憧れでもある。
穂乃果はいつも私よりも前にいて、一緒に行こうと手を差し伸べてくれる。
21: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:11:44.55 ID:wxXgwuIMo
考えるのを止めよう。
自分が何のために生きているのかを真剣に考察し始めて、いよいよ迷走している。
思考停止するわけでも放棄するわけでもないが、少し休むべきだ。
22: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:14:12.87 ID:wxXgwuIMo
「穂むらを継ぐのも、考えなかったわけじゃないよ。長女だし、継ぎたくないわけじゃなかったしね」
「じゃあ、どうして?」
「私は何をしたいんだろうって考えたときに、一番に思い浮かばなかったんだよね。穂むらを継ぐのもありだなぁとは思ったけどね」
23: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:14:51.09 ID:wxXgwuIMo
トマトの赤い実をフォークで刺しながら、トマト農家になるのもありかもしれない、なんて考える。
なれるかどうかはともかく、なろうと思えるものを見つける必要がある、例えそれが、幼い子供のように単純なものであっても。
つまり、夢だ。人生を捧げる夢が必要なのだ。
24: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:15:27.37 ID:wxXgwuIMo
「真姫ちゃんは、目の前にショートケーキとチョコケーキがあったらどっちを取る?」
「……いきなりなによ」
「いいからいいから」
25: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:17:10.86 ID:wxXgwuIMo
進む道を選ぶ。選択する。
選ばなかったことは、諦める? それはなにか違う。すっぱりと諦めるほど、興味がないわけじゃない。
選びたくなかった、のだろう。私は、諦めたくなかったのだ。
26: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 02:19:06.80 ID:wxXgwuIMo
「……もう一度言ってくれるかい?」
「何度でも言うわ。私は、医者になるけど音楽も続けるの」
私がまた穂乃果に助けられて数日が過ぎた今日。私は自身の家に戻ってきていた。
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