477: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/08/10(水) 22:53:09.35 ID:xQt0KHc3O
永井の手があがっていく。隊員は慌てることなく自動拳銃の弾倉を交換したあと、スライドを引き、狙いを定め引き鉄をひいた。銃弾はナイフとともに永井の指を吹き飛ばした。永井の左手がおちる。痛苦を感じる余裕もなく、永井は弱々しい呼吸を続けながら黙って銃口を睨んでいる。
隊員が拳銃を腰の後ろの長方形のポーチにしまい、麻酔銃をホルスターから抜いたとき、永井の身体に空いた穴から血と別の物質が流出し始めた。その物質は透過率百パーセントの完全に不可視の物質で、洪水のような勢いで永井の身体から放出された黒い粒子が、すでに駐車場全体を覆い尽くしていることに麻酔銃を構える隊員は気づいていなかった。
478: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/08/10(水) 22:54:23.05 ID:xQt0KHc3O
頭部を駆け巡る疼痛を堪えながら、隊員はふたたび拳銃を取り出し、背面をさらす胡桃に向かって拳銃を向ける。胡桃は地面に落ちた麻酔銃を手に取ると、右手を左脇から通して背後に向けて突き出し、その勢いを利用して身体を反転させながら麻酔銃を撃った。
隊員が拳銃を撃ったのもほぼ同じタイミングだった。麻酔ダートは運良くボディアーマーの隙間に命中し、またたく間に麻酔薬が隊員の全身に広がった。隊員の身体が地面に沈むのを見て、胡桃はむくりと起き上がり、息を吐いた。安心したところで右の上腕の違和感に気づき、右腕を顔の前に持ってくると、包帯が巻かれた箇所の皮膚が裂け血が滲んでいた。
479: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/08/10(水) 22:55:22.58 ID:xQt0KHc3O
駐車場の向こうでは黒い幽霊が、シャチが捕らえた獲物に対してそうするように、“かれら”を宙に放り投げてもて遊んでいる。
胡桃「見つかるとヤバいよな」
480: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/08/10(水) 22:56:32.72 ID:xQt0KHc3O
ぶすっ、という音がして、地面に伏せられていた隊員のこめかみが膨れあがる。一瞬、時間が間延びして、そのあいだに隊員のこめかみを見た永井は、幼い頃、父親に連れられたキャンプで焚き火を囲い、いっしょにマシュマロを熱していたときの光景を思い出していた。その刹那が過ぎると、膨らんだマシュマロのような隊員のこめかみが、今度は熟し過ぎたトマトのように破裂し、あたりに中身をぶちまけた。隊員の頭部のすぐ側にあった永井のスニーカーに、こぼれた血と脳漿がかかる。
美紀「先輩! はやくこっちに!」
481: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/08/10(水) 22:57:47.34 ID:xQt0KHc3O
永井「はやく出せ!」
美紀「どうやって運転するんですか!?」
482: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/08/10(水) 23:03:23.29 ID:xQt0KHc3O
>>481 訂正
永井「はやく出せ!」
美紀「どうやって運転するんですか!?」
483: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/08/10(水) 23:04:11.91 ID:xQt0KHc3O
左足を怪我した男が、急発進するミニクーパーにふたたび銃弾を浴びせかける。タイヤを狙った狙撃は、逸れてアスファルトを削るか、タイヤ周りのボディ部分にあたるかで、ミニクーパーの走行を止めるには至らなかった。
ミニクーパーが、切開部分のように開いたフェンスの切れ目を通過する。その際、右側のフロントバンパーがフェンスにぶつかり、コンクリートに打ち込まれたフェンスの基礎を破壊していった。その衝撃で美紀はふたたびアクセルから足を離したが、慣性で進む自動車は校舎に向かって直進を続けた。永井は、ミニクーパーが校舎に激突する寸前にハンドルを右に切った。フロントバンパーが擦れ、窓下に植えられた緑化樹木を巻き込みながら、自動車の運動はつづく。
484: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/08/10(水) 23:05:05.56 ID:xQt0KHc3O
ーー地下一階
由紀は、校舎の一階部分と緊急避難区域を分断するシャッター前に一人で立っていた。悠里とともに地下に避難した由紀は、しばらくのあいだ就寝していたらしく、気づいたときには物資保管庫のあいだに横たわっていた。
485: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/08/10(水) 23:05:55.53 ID:xQt0KHc3O
由紀「なに?」
悠里「ごめんなさい……さっきの」
486: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/08/10(水) 23:06:45.16 ID:xQt0KHc3O
二回目の沈黙を破ったのは、今度は由紀だった。
由紀「そろそろ、いこっか?」
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