過去ログ - ゆき「亜人?」
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467: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/08/10(水) 22:38:15.33 ID:xQt0KHc3O

『訓練火災でーす』

『くるみちゃん、みーくん、聞こえる?』

以下略



468: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/08/10(水) 22:39:55.42 ID:xQt0KHc3O

美紀「……え?」


胡桃と美紀は突然の出来事に反応できずにいた。永井の首に星形に裂けた傷口ができ、そこからポンプで汲み上げているかのようにして血が噴き出している。永井は首の左側を押さえながら、飛来物が襲ってきた方向を見た。自分を襲ったものの正体を知った永井は、膝を地面につけた状態のまま身体を捻じ曲げ、胡桃と美紀のほうに顔をむけた。
以下略



469: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/08/10(水) 22:41:31.83 ID:xQt0KHc3O

永井との距離を縮めていく胡桃は、地面の弾着の集まりが二箇所に分散していることに気がついた。それは身体を晒しながら近づきつつある隊員のほかに、もう一人、銃撃者が存在することを示していた。自動小銃で永井を殺し続けている隊員は、胡桃から見て右横の位置から銃撃しており、その弾着は永井の頭部の左側の地面に多く残されていた。それとは別に仰向けに倒れている永井の頭部の左斜め下の位置にも、銃弾によってアスファルトが削れた跡があり、その弾着数は自動小銃が残したそれと比べると、三分の一程度だった。

胡桃が前輪タイヤまで到達した。二方向からの銃撃が間断なく続けられ、永井を死に押しとどめている。胡桃は逸る心と恐怖心を抑えつけながら、銃弾が飛来するタイミングを計った。無思慮に飛び出せば、銃弾に身体を引き裂かれ、胡桃は死を迎えることになるだろう。胡桃は永井とちがって、たった一発の銃弾で永遠に死に続ける。

以下略



470: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/08/10(水) 22:43:16.31 ID:xQt0KHc3O

だが亜人の生命と違い、銃弾の数には上限がある。永井を殺し続けるための銃弾も、“かれら”との戦闘でかなりの数を消費していた。麻酔銃の有効射程までまだ距離があり、隊員は前進を続けなければならなかった。彼は万全を期すため、自動小銃のリロードを行うことにした。片膝を落とすと同時に左手で予備の弾倉を掴み、装着してあった弾倉を外し、弾倉交換を完了させる。ふたたび照準を永井の頭部に合わせて引き金を引く。一連の動作の合計時間は三秒といったところだった。そのあいだ、身を潜めている狙撃者が連続的に永井を殺害していた。射線が一方向に集中したせいで、永井の頭の位置が左斜め下に傾いた。胡桃は覚悟を決めた。

クラウチングスタートの体勢でいた胡桃が、猫のように跳び上がった。車の陰から跳び出て、永井の右足首を握力の限り掴み、思いっきり引きずる。アスファルトに赤い一筆線が引かれ、血のなかに砕けた頭蓋骨の破片が残される。直後、永井の頭があった地点の地面が割れた。

以下略



471: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/08/10(水) 22:44:37.28 ID:xQt0KHc3O

胡桃は、永井のシャツの胸元を力任せに掴むと、背筋の利用してめいいっぱい仰け反り、永井の体を持ち上げ射線から逃そうとした。伸び切った背筋が胡桃の感じる恐怖のせいでこれ以上ない程強張っていた。胡桃の腕と背中にさらに力が入る。永井の頭部が曲線上の頂点を越えたとき、頭に空いた穴からこぼれ落ちた血が胡桃の顔や胸にかかった。胡桃は、のしかかってくる永井の身体にまかせるようにして、地面に倒れた。減音された銃声が三度響いたあと、二人を隠している車のフロントライトが割れた。


胡桃「あっ……!」
以下略



472: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/08/10(水) 22:46:49.25 ID:xQt0KHc3O

次の瞬間、耳障りな轟音が雪崩のように襲ってきた。ボディの鈑金が引き裂かれることで生じるの自動車の悲鳴。自動小銃のフルオート射撃が自動車を穴だらけにしていく凶暴な音。


永井『“止まれ!!”』
以下略



473: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/08/10(水) 22:47:42.68 ID:xQt0KHc3O

永井 (数が少ないが、これでやるしかない)


永井は防犯ブザーのピンを引き抜いた。わめきだした小さな機械を水切りの要領で投げる。ブザーは、墜落したヘリの真向かいにある廃車の集合地へ向かって、斜めの射線をなぞるように滑っていった。
以下略



474: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/08/10(水) 22:48:39.89 ID:xQt0KHc3O

防毒マスクの内側を焦燥に歪めながら、隊員はふたたび引き金を引いた。がきんがきん、と銃弾がひしゃげる音が駐車場に響く。黒い幽霊はもの凄いスピードで隊員に接近し、容赦無く襲いかかった。振りかぶった幽霊の手が自動小銃にぶつかり、銃身を破壊する。とっさに身を引いたおかげで、隊員は幽霊の攻撃をぎりぎりで躱すことができた。

地面に倒れた隊員が拳銃を引き抜いた。そのまま銃口を幽霊の飼い主である永井に向けようとするが、自走する幽霊に拳銃を握る左手を踏みつけられ指ひとつ動かすことすらできない。幽霊が拳を振り上げる。

以下略



475: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/08/10(水) 22:50:03.45 ID:xQt0KHc3O

永井「おい、待て……」


黒い幽霊が男に向かって走り出した。男は銃撃をやめ、テリー・レノックス的な態度を見せる左足をなんとか車内に収め、後部座席のドアを閉めた。幽霊の右腕がドアを貫通し、そのままドアを引きちぎる。発砲音のあとに、ふたたび銃弾が潰れる音。防犯ブザーは走り来る幽霊に踏み潰されていて、ブザーの誘導音を失った“かれら”が幽霊のいる自動車のまわりをウロウロしている。
以下略



476: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/08/10(水) 22:51:19.14 ID:xQt0KHc3O

永井にとってほんとうに不幸だったのは、これほどの傷を負ってもなお、すぐには死ねなかったことである。自動車に背中を預けながら、永井は地面にずり落ちていった。自動車のドアには血がべっとり付いており、ドアに空いた穴の周りの塗料が剥がれ露出していた鈑金の地色を、永井の血が艶かしく光る赤色に染め上げている。ドアには血で赤く染まった大部分と銃弾が開けた黒い虚のような部分があり、その穴は色が付いているというより、光や血を吸い込むことで完璧な黒色を獲得しているように見えた。

永井は死を感じていたが、それがやって来るのはあまりにも遅い。死を早めるための左手の動きが緩慢なことも、永井を焦燥させた。意志だけが先走り、身体の運動がそれに追いついていない。永井は、いますぐにしなければならない作業の行程を頭のなかで何度もくりかえし、左手を意識に従わせようとした。

以下略



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