1: ◆8dLnQgHb2qlg[sage saga]
2016/04/05(火) 13:17:32.21 ID:lqZk7NNG0
三月半ば。
都内のある会議室は、いつもよりたくさんの人で埋まっていた。
「本日はお集まりいただきありがとうございます」
私が話し始めると、一斉にフラッシュが焚かれた。
今まで経験したことがないくらいの量で、かなり眩しい。
隣にいるプロデューサーさんと社長は目を開けているのも少し辛いようだ。
「重要な発表があるとお話していましたが……」
知っているのは、プロダクションの上層部と、凛ちゃんと未央ちゃんくらい。
たぶん、すっごく驚かれるんじゃないかな。
だってその内容は――
「私、島村卯月は半年後に行われるドームライブで、結婚を期に引退します」
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2: ◆8dLnQgHb2qlg[sage saga]
2016/04/05(火) 13:18:24.03 ID:lqZk7NNG0
『アイドル、島村卯月。』
3: ◆8dLnQgHb2qlg[sage saga]
2016/04/05(火) 13:19:23.44 ID:lqZk7NNG0
「もう十年の付き合いになるか……」
並べられた料理を前に、黒井社長が呟く。
ここにいるのはCGプロから俺と社長と部長、そして黒井社長。
4: ◆8dLnQgHb2qlg[sage saga]
2016/04/05(火) 13:20:16.14 ID:lqZk7NNG0
「アイドルは孤高であっても孤独であってはならない。最強であっても無敵であってはならない」
お猪口を眺めながら、黒井社長がポツリと呟いた。
5: ◆8dLnQgHb2qlg[sage saga]
2016/04/05(火) 13:20:59.75 ID:lqZk7NNG0
「最後に彼女が遺した物がある。タイトル無し、名義不明で出されたミニアルバムだ。通称『四部作』と呼ばれている」
「まさか……」
6: ◆8dLnQgHb2qlg[sage saga]
2016/04/05(火) 13:21:49.90 ID:lqZk7NNG0
黒井社長が次を注ごうとしたが、もう残っていなかったようだ。
「おい、そっちのを寄越せ」
7: ◆8dLnQgHb2qlg[sage saga]
2016/04/05(火) 13:22:15.68 ID:lqZk7NNG0
しばらくの間、無言で料理をつつく時間が続いた。
視線すら合わせなかったが、不思議と居心地は悪くなかった。
「成功は約束されている。あとは、どこまで成果を上げられるかだ」
8: ◆8dLnQgHb2qlg[sage saga]
2016/04/05(火) 13:22:49.61 ID:lqZk7NNG0
右手人差し指を立てて上に。
間奏分ステップを踏んだ後、左手を腰に、右手人差し指を頬に。
「ふぅ……」
9: ◆8dLnQgHb2qlg[sage saga]
2016/04/05(火) 13:23:39.37 ID:lqZk7NNG0
「やっぱりここだったか、島村」
「部長さん?」
10: ◆8dLnQgHb2qlg[sage saga]
2016/04/05(火) 13:24:14.81 ID:lqZk7NNG0
「それでも、Sランクはひとつのゴールです。私の夢、トップアイドルになる夢を叶えてくれてありがとうございました!」
立ち上がって、部長さんに頭を下げる。
11: ◆8dLnQgHb2qlg[sage saga]
2016/04/05(火) 13:25:00.15 ID:lqZk7NNG0
「『本当に楽しそうに、幸せそうに笑う子だ』……そう言っていたよ。それで決めた」
この話を聞くのは初めてだ。
部長さんもプロデューサーさんも、一言も言わなかった。
12: ◆8dLnQgHb2qlg[sage saga]
2016/04/05(火) 13:25:29.48 ID:lqZk7NNG0
「ああ、それから」
私に背中を向けたまま、立ち止まった。
13: ◆8dLnQgHb2qlg[sage saga]
2016/04/05(火) 13:26:59.11 ID:lqZk7NNG0
ドームライブ二日目、本番の日だ。
一日目は現役アイドルのライブだった。
そして二日目は、引退組も含めた全アイドルによるライブ。
色々な事情で全員の曲はできないけれど、必ず一度はステージに立つ。
14: ◆8dLnQgHb2qlg[sage saga]
2016/04/05(火) 13:27:30.97 ID:lqZk7NNG0
二曲目、『ENERGY☆SMILE』を歌い終えて舞台裏に戻ってきた。
今はニューウェーブが歌っている。
これで当分私の出番はない。
少しはゆっくりできるのだけど、こうも大きいライブになるとみんなバラバラになりがちだ。
15: ◆8dLnQgHb2qlg[sage saga]
2016/04/05(火) 13:28:21.58 ID:lqZk7NNG0
第二ブロックは引退組を中心に現役組と一緒に。
ここのブロックでは過去に人気だったユニットも多く出てくる。
最初は……
16: ◆8dLnQgHb2qlg[sage saga]
2016/04/05(火) 13:28:49.00 ID:lqZk7NNG0
「卯月さん、よろしくおねがいしまぁす!」
「うん、頑張ろうね!」
17: ◆8dLnQgHb2qlg[sage saga]
2016/04/05(火) 13:29:21.83 ID:lqZk7NNG0
ポジティブパッションやトライアドプリムスも再結成した第二部も無事に終わって、今からは第三部に入る。
ここは他のブロックと比べたら格段に短いけれど、決して見劣りはしない。
蓮実ちゃん、美嘉ちゃん、聖ちゃん、アーニャちゃん、楓さん……
みんな、ここで歌っても文句のない実力を持った人ばかりだ。
18: ◆8dLnQgHb2qlg[sage saga]
2016/04/05(火) 13:29:55.46 ID:lqZk7NNG0
「ニュージェネレーションもこれで最後か……」
「あと一曲だけって短すぎるけど、ここまでが長かったよねぇ……」
19: ◆8dLnQgHb2qlg[sage saga]
2016/04/05(火) 13:30:24.73 ID:lqZk7NNG0
『TRICHROMAGIC』、そして第三部最後の曲『ススメ☆オトメ』を歌い終わり、照明の消えた会場にアンコールの声が響く。
六時間のライブをした後だと思えないくらいに大きく。
アンコールの最初は、私のソロだ。
私が一曲貰ったアンコールに、このブロックに『S(mile)ING!』を残したのは……
20: ◆8dLnQgHb2qlg[sage saga]
2016/04/05(火) 13:30:52.80 ID:lqZk7NNG0
『憧れてた場所を、ただ遠くから見ていた』
小さい頃から、ただアイドルに憧れる普通の女の子だった私。
21: ◆8dLnQgHb2qlg[sage saga]
2016/04/05(火) 13:31:19.81 ID:lqZk7NNG0
『ゆっくりでもいいよ でも歩き続けるんだ』
ここまでアイドルに拘って来たけど、
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