1: ◆C2VTzcV58A[saga]
2016/04/06(水) 00:09:52.04 ID:euOV6e0mO
ある日の昼下がり。
事務所の一室で、俺は近々アイドルたちに受けさせる予定のオーディションの資料をチェックしていた。
「……ふう」
部屋にいるのはもうひとり。少し離れたところにあるソファに座って、大石泉が愛用のノートパソコンとにらめっこをしていた。
カタカタと小気味よく鳴るキーボードの音と、書類がぺらぺらとめくれる音。あとは時々お互いの息遣いが聞こえるくらいで、とても静かな時間だった。
この時間はいつも、誰かしら元気な子がいることが多いので、こういう状況はなかなかに珍しい。
「………うーん」
そして、静かな空間だからこそ、泉が時折悩ましげにうめいていることや、いつもよりキーを叩く速度がゆっくりなことがよくわかった。
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2: ◆C2VTzcV58A[saga]
2016/04/06(水) 00:11:11.30 ID:euOV6e0mO
「なにか考え事か?」
資料を机に置いて、彼女に声をかける。
そうすると、向こうもパソコンの画面から視線を外して、こちらに顔を向けた。
3: ◆C2VTzcV58A[saga]
2016/04/06(水) 00:12:25.46 ID:euOV6e0mO
「質問、なんだけど」
ちらちらと窓の外へ視線をやりながら、ためらいがちな調子の声でぽつぽつと言葉をしぼり出す泉。
彼女にしてはめずらしい態度だと思っていると。
4:名無しNIPPER[sage]
2016/04/06(水) 00:13:32.57 ID:ZCNYJIOfO
アイドルとして自分を見つめ直してるのかな
5: ◆C2VTzcV58A[saga]
2016/04/06(水) 00:13:36.62 ID:euOV6e0mO
「こほんっ」
狂った調子を戻すべく、せきばらいを挟む泉。続いて深呼吸をひとつ行い、ようやく平静を取り戻したようだった。
「さくらと亜子に、笑顔がキュートになったと言われたの」
6: ◆C2VTzcV58A[saga]
2016/04/06(水) 00:15:30.69 ID:euOV6e0mO
「研究の結果、私はどちらかと言えばキュートというよりクールなイメージを抱かれやすいとわかった……はずなんだけど」
なのに笑顔がキュートになったと言われたものだから、自らの見解との違いに戸惑っているようだ。
艶やかな長髪を指に巻きつけながら、彼女はソファーから降りて俺の近くまでやってくる。
7: ◆C2VTzcV58A[saga]
2016/04/06(水) 00:17:45.04 ID:euOV6e0mO
「泉の顔は、美人と美少女のちょうど中間くらいなんだよ」
「……中間?」
「年齢的にも、子供から大人に成長していく境目だからな。クールな美しさの中に、幼さとかあどけなさが残っている。だから、笑顔がかわいらしく見えるんだよ」
8: ◆C2VTzcV58A[saga]
2016/04/06(水) 00:19:05.04 ID:euOV6e0mO
「要は、泉がそういう笑顔の作り方を身につけたってことだ」
「えっと……ごめん。よくわからない」
「たとえば、さくらの笑顔はかわいいと思うだろう?」
9: ◆C2VTzcV58A[saga]
2016/04/06(水) 00:20:24.29 ID:euOV6e0mO
「泉も、感情の表現をぐっと押し出すことができるようになったってことだよ。いろんな仕事を通して、自分を出すことが前より上手になった」
「………」
黙って目を閉じる泉。
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