2:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:40:00.94 ID:aK0UkAGEo
「たくさん星を数えた方が勝ちです」
ガラス張りの天井の遥か向こうに広がった作り物の星空を指差してあなたは言った。
今日は年に一度の宇宙展覧会で、私たちの住む街では大勢の人がこの日を楽しみに暮らし、
3:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:40:35.68 ID:aK0UkAGEo
この年に一度のイベントは、大半の人にとっては祈りを捧げたり家族で過ごしたりするための大切な日でもある。
とはいえ、私と一緒にこの日を祝うためだけにあなたが無理矢理スケジュールを調整したと聞いた時は、
なんだか悪いことをしてしまったみたいで素直には喜べなかった。
あなたはこの街で一番の有名人で、望めば私なんかよりもっと素敵な人たちと楽しい人生を過ごせるはずなのに、
4:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:41:18.09 ID:aK0UkAGEo
◇◆◇◆
街は相変わらず夜の静けさに満ちていた。
私は人工星から降り注ぐ僅かな光を頼りにして、暗闇の先へ進んでいくあなたの後ろに付いて歩いていた。
5:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:41:53.44 ID:aK0UkAGEo
「遠くまでよく見えますね。こんな場所があったなんて知らなかった」
「私は子供の頃、よくここで天然の星を見ていました。今はもう人工星しかないけれど、昔はもっとたくさんの天然星たちがこの夜空を覆っていたんですよ。例えばあの地平線にだって無数の星が輝いていたんですから」
展覧会のために打ち上げられるロケットは普通、空の限られた部分にしか星を作らない。
6:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:42:29.18 ID:aK0UkAGEo
小さな火の玉が地平線の彼方へ落ちていった。
宇宙の暗闇に飲み込まれるように、それは次第に光を失って消えていった。
「本物の流れ星ですよ」
7:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:44:54.58 ID:aK0UkAGEo
◇◆◇◆
テレビを見ていた。
『――本日のゲストはこの方、高垣楓さんにお越しいただきました!』
8:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:45:36.01 ID:aK0UkAGEo
仕事から帰り、アパートの自室で夕飯の支度をしていると、玄関のベルが鳴った。
あなただとすぐに分かった。
「どうしたんですか?」
9:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:46:24.23 ID:aK0UkAGEo
◇◆◇◆
季節の巨大なうねりが街を支配するようになってどれくらい経っただろう。
一昨日は秋の終わりだった。
10:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:48:10.01 ID:aK0UkAGEo
夕闇に静まり返った大通りの靴屋は閉店時間ギリギリだった。
店員さんがカーテンを閉めている最中で、私たちは遠慮がちに中へ入って行った。
二人でブーツを選んでいると店内の照明がパチ、パチと消えて、私たちのいるレディースコーナーだけが煌々と照らされた。
11:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:49:14.81 ID:aK0UkAGEo
◇◆◇◆
バスに乗って隣の第三地区へ向かった。
雪がみるみるうちに積もって夜の景色を白と影の平坦な模様に変えていた。
12:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:50:22.22 ID:aK0UkAGEo
しばらく歩くと、人気のない自然公園に出た。
大きな池があり、そのほとりには短い秋季のために枯れ切らなかった広葉樹が雪を被ってうなだれていた。
遊歩道の景観照明にライトアップされた白い雪の花は満開の桜並木のようだった。
私たちは思わず息を潜めてそこを歩き過ぎた。
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