過去ログ - 双葉杏「特別だけど、特別じゃない日」
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1: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/03/02(木) 23:53:14.22 ID:T0exAEec0
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 台風が来た。とてもでっかい奴らしい。
 テレビのレポーターが波止場でレインコートを翻しながら、深刻な顔で言っていたのだからそうなのだろう。

 それにしてもどうして中継先が波止場なのか。街中じゃダメか? ダメなのか。
 高波に襲われたりでもしたら、労災なんかは下りるのかな……。

 現在時刻は朝でもなく昼でもない中途半端な時間帯。
 要するに十時、十時半。お腹はまだちょっとしか空いてない。

 部屋の姿見には小奇麗にお洒落をした自分の姿が映ってた。
 ……でもどうだ、全ては無駄になってしまったぞ。

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2: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/03/02(木) 23:57:18.99 ID:T0exAEec0

 前日の夜更かしだって程々に、今朝も早めに起きたってのに。

 僅かな期待を心に浮かべ、一応は身支度を済ませた自分の姿が滑稽だった。
 なので、私は抵抗する。この日の為におろした真新しい髪留めを解き、腰まである長い髪をぼさぼさと乱暴に広げてやった。
以下略



3: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/03/02(木) 23:58:19.20 ID:T0exAEec0

「人に迷惑をかけた記憶なら、持ちきれない程あるのになぁ」

 ぼやけども、聞かせるような相手はいない。私だって、聞かせるためにぼやいたんじゃない。
 ただなんとなく、今の気持ちを確認してみたかったというだけなのだ。
以下略



4: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/03/03(金) 00:00:25.94 ID:ca4PDaJt0
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 大体、初めから乗り気しない話だったんだ。
 普段の自分のキャラから見ても、受けたのが不思議なほどの柄にない話なのである。

以下略



5: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/03/03(金) 00:02:51.60 ID:ca4PDaJt0

「とにかく今度のオフ、決定な!」

 一分にも満たない話し合いの末、押し付けるように渡されるチケット。
 ちょっと待て、まだ私は了解したとも言ってない! 
以下略



6: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/03/03(金) 00:04:11.54 ID:ca4PDaJt0
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 そして今、テレビの前でぼんやりと過ごす私も同じぐらいに怒ってる。
 原因はもちろん台風だけど、未だ連絡を返してこないあの馬鹿野郎にも私は腹を立てていた。

以下略



7: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/03/03(金) 00:05:06.72 ID:ca4PDaJt0

 窓を叩く雨の勢いが、私の感情に合わせるみたいにその激しさを増していた。
 窓を閉め切っていても分かるぐらいなんだから、きっと外は大変な風と雨なんだろう。

 私は無言でテレビの前から立ち上がると、ベランダに続く扉の前へ移動する。
以下略



8: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/03/03(金) 00:07:02.94 ID:ca4PDaJt0

 大きさはハトより小さく、スズメより大きく。

 全体的な色はそう、灰か、黒か、茶色みたいで、
 ガラの悪そうな鋭い目つきだってのに、丸みのある可愛らしいくちばしは随分とミスマッチ。
以下略



9: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/03/03(金) 00:10:20.53 ID:ca4PDaJt0
===

 朝食はパン、昼食はカップ麺、そして夕食はスーパーで買ったお惣菜。
 それが基本のローテーション……だった、ほんの数ヶ月前までは。

以下略



10: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/03/03(金) 00:11:59.60 ID:ca4PDaJt0

 とはいえ台風のせいで観に行けないなら、幻想的な世界への招待状もただの紙切れ。
 テレビはどこも台風中継しかしてないし、予定の潰れた私には、差し当たってやらなきゃならないことも無い。

 私はテレビの前に置いてある、古いゲーム機の電源を入れて慣れ親しんだコントローラーを手に取った。
以下略



11: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/03/03(金) 00:13:39.77 ID:ca4PDaJt0
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 ゾンビの闊歩する洋館の探索は順調で、気づけば二時間近くが経過していた。現在時刻は、午後三時。
 依然としてあの阿呆からの連絡は無く、私はこのままゾンビと戯れて今日が終わることを想像して身震いする。

以下略



12: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/03/03(金) 00:15:04.62 ID:ca4PDaJt0

「わかっちゃいるけどやめられない〜♪」

 鼻歌を歌いながらソフトを探すこと数分。私は途方に暮れていた。
 理由は簡単、必死に捜索したにも関わらず、ゲームソフトが見つからない。
以下略



13: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/03/03(金) 00:16:11.40 ID:ca4PDaJt0

『おっ、懐かしいゲームやってんな』

『なに、興味あるの?』

以下略



14: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/03/03(金) 00:18:27.47 ID:ca4PDaJt0
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 夢を見ている時に「あっ、これ夢だ」と気がつくきっかけ。今回のソレは、自分が空を飛んでいると分かった瞬間だった。

 灰色の曇り空の下、強い風に弄ばれるようにしてなんとか飛んでいた私は、
以下略



15: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/03/03(金) 00:21:50.08 ID:ca4PDaJt0

 そうしてそのまま体を起こすと、あの鳥の奴の様子を確かめるためにベランダの扉の前まで移動する。

 チラリと覗くと、奴はまだ室外機の影に居た。
 最初に気づいたのがお昼だったから、かれこれ三時間以上は雨風に晒されていたことになる。
以下略



16: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/03/03(金) 00:22:50.28 ID:ca4PDaJt0

 バサバサと、羽ばたく音が聞こえたのは一瞬だった。

 次にはあの丸っこいくちばしが目の前にあり、私は反射的に両腕で顔を守った。
 腕に何かが勢いよくぶつかり、私はベランダに尻もちをつく。お陰でシャツだけじゃなく下着までぐっしょり。
以下略



17: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/03/03(金) 00:24:11.69 ID:ca4PDaJt0
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 恩を貸している相手と言えば、アイツからの連絡は未だ無い。ついでに私は運も無い。水も滴るいい女、違うな。
 見事なまでの濡れネズミになった私は、床に真新しい染みを作りながら脱衣所へと一直線。

以下略



18: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/03/03(金) 00:29:42.40 ID:ca4PDaJt0
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 お風呂から出た私はサッパリしていた。

 苛立っていた気分の方も、幾分か晴れやかになった気がしないでもない。流石はお風呂、命の洗濯。
以下略



19: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/03/03(金) 00:33:08.16 ID:ca4PDaJt0
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 夜、外は相変わらず雨が降ってたが、風の勢いは少し弱くなったらしい。
 お天気お姉さんが言ってたんだから、多分間違いはないんだろう。

以下略



20: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/03/03(金) 00:35:19.46 ID:ca4PDaJt0

「さて、と」

 私は着ていたシャツを脱ぐと、朝から放置されていたお洒落なチュニックを手に取った。

以下略



21: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/03/03(金) 00:36:50.55 ID:ca4PDaJt0

「……なんてね」

 誰に聞かせるでもない呟きだ。私は小さくかぶりを振ると玄関へ。
 靴を履き、カッパを着込み、マンションの扉に手を掛けた。……しかし、ドアノブがなぜか回らない。
以下略



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