過去ログ - 安斎都「ドレスが似合う女」
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13:名無しNIPPER[saga]
2017/04/17(月) 12:34:32.63 ID:5I2Isvu00
 あの部屋にはミシンがなかった。衣装を自作するつもりなら、なにかしらの道具が部屋にあってもよいはずだ。寮は完全防音だから、騒音を気にする必要もない。楽器を持ち込むアイドルだって少なくないくらいだ。もしかすると、裁縫セットが引き出しにあったかもしれないが、1つの衣装を作るには役不足だ。高垣さんが本気でドレスを自作するつもりだったら、ミシンを購入していたと考える方が自然だろう。
 そして、なぜあのボタンが部屋にあったのだろう?
 縫い物をしているなら、ボタンをつけることもある。しかし、糸の切れ方は縫い物の途中で出来るものではなさそうだった。思いっきり引きちぎったように、糸が固まって乱れていた。仮に縫い物の最中に高垣さんが、ボタンを誤ってちぎったとして、それをベッドの下に放っておくだろうか。床をこまめに掃除していたならば、ベッドの下のボタンに気がつく。
 縫い物でなければ、どこかに引っかけて自分の服から落とした可能性がある。だけどその場合も、掃除熱心な高垣さんはボタンを発見するだろう。
 ひょっとすると、あのボタンは高垣さんが亡くなった夜に落ちたのではないだろうか。私の探偵魂は、私の心に雄弁に語りかけた。それは、私の良心を蝕みつつあった。
以下略



14:名無しNIPPER[saga]
2017/04/17(月) 13:51:36.55 ID:5I2Isvu00

 事務所を裏口からそっと出ると、外に人だかりができていた。記者の人たちだろう。
 私は顔を伏せながら横を通りすぎたが、誰にも声をかけられなかった。喜ぶべきか、かなしむべきか…。
 足早に去ろうとすると、人だかりを遠目に眺めているおじさんがいた。なぜか小脇に日本酒の瓶を抱えている。そっと近くに行くと、少し腰が曲がっていることに気づいた。そして、日本酒を抱えている手にたこができいた。
「あの!」
以下略



15:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 13:56:07.02 ID:MEjdUG/c0
 瓶には『くどき上手』、というラベルが貼られていた。調べて見ると、その名前には「すべての人の心を、溶かすように魅了する」、という意味が込められているそうだ。
 ほんとうに、高垣さんらしいお酒だと思った。



16:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 14:02:16.50 ID:MEjdUG/c0
 瓶には『くどき上手』、というラベルが貼られていた。調べて見ると、その名前には「すべての人の心を、溶かすように魅了する」、という意味が込められているそうだ。
 ほんとうに、高垣さんらしいお酒だと思った。



17:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 14:05:58.33 ID:MEjdUG/c0
 翌日、私はある人を探していた。受け取ったお酒は事務所のスタッフではなく、高垣さんと交友のあるアイドルに託す必要がある。なにせ、私は高垣さんの仏前がどこにあるのか全く知らない。高垣さんと交友があり、なおかつ私が会える人間は、あいさん1人だった。
 私があいさんに出会ったのは、事務所に初めて入ったときのことだ。右も左もわからず、建物の中で迷っていた私を、あいさんが助けてくれた。
「どうしたんだい? 小さなホームズくん」
 以前からあいさんの評判を聞いていたけれど、直接会って実感した。私の手を引いてくれたあいさんは、日本中の女性が夢中になるのもしょうがないくらい、かっこよくて、温かかった。
 それから何度かレッスンで会ったり、一緒に昼食をとることもあった。探偵ドラマや推理小説について話すこともあった。私が一方的に話して、あいさんが優しく頷いてくれるだけだったけど、私は嬉しかった。
以下略



18:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 14:52:16.48 ID:MEjdUG/c0
 私はそっと姿を消そうとしたが、その前にあいさんに気づかれてしまった。
「おや、都くんじゃないか…ひょっとして見ていたのかい?」
「いいえ、私はあいさん以外なにも見えません」
 あいさんも、みんなと同じ笑い方をしているのが悲しくて、私は咄嗟にそんなことを言った。自分らしくない、キザなセリフだ。
「都くんは……いや、私になにか用かい?」
以下略



19:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 20:40:32.73 ID:MEjdUG/c0
川島さんが川端さんになっているじゃないか・・・・


20:名無しNIPPER[sage]
2017/04/18(火) 20:52:48.96 ID:MSVtGwQxo
お、康成ィ!


21:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 20:59:56.73 ID:MEjdUG/c0
 川島さんは郊外に邸宅を構えていた。ご立派ですね、と言うと、
「売れ続けないと維持できないわ」
 と笑った。私にとって久しぶりの、ただの笑顔だった。
 リビングに入ると、部屋は様々な酒瓶で埋め尽くされており、足の踏み場もないほどだった。
「大変なことになっているね…」
以下略



22:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 21:48:01.83 ID:MEjdUG/c0

 あいさんと別れたあと、私はすぐさま都内の香水専門店に向かった。私の推理思考、いや、推理嗜好はもう止まれなかった。冒涜的でもいい、最低だっていい。真実が知りたい!
 あのシーツに残された香りは、たしかにシトラスの香りだった。そして、高垣さんのプロデューサーはシトラスの香水を使っていたという。 
 シーツに香りが残る。その意味を想像すると、顔が熱くなった。
 しかしシトラスの香水は、お店にあるだけでも何百種類もあり、あの香りが高垣さんのプロデューサーのものだとは断定できない。私の嗅覚も、真実を探り当てられるほど正確ではない。現に、香りの嗅ぎすぎで、テスターの前で頭痛を覚えているくらいだ。
以下略



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