800:名無しNIPPER[saga]
2017/12/05(火) 00:16:59.13 ID:HHfyV3AE0
彼女は他者から認められないことにひどく怯えていた。
いつも誰かに褒められていないと、自分の存在意義を疑うような言動を取ることも少なくはなかった。
だから、彼女は自分の弱い内面を鎧を纏うために、すべてのことに全力で取り組むようになっていった。
801:名無しNIPPER[saga]
2017/12/05(火) 00:18:26.43 ID:HHfyV3AE0
母さんは仕事が好きな人だ。職場に復帰してからは昔よりも楽しそうにしている姿を見ることが多い。
だからあの頃に関しては、家事育児によって仕事ができないストレスを抱えていたのかもしれない。
父さんはいい顔をして働いていて、俺と佑希は学校で外に出ていくのに、家に一人で残されていたことがつらかったのかもしれない。
802:名無しNIPPER[saga]
2017/12/05(火) 00:20:08.85 ID:HHfyV3AE0
佑希が泣き散らかして自室に戻った後、母さんは額を手で押さえながらうんざりした顔で俺の名前を呼んだ。
疲れ切った顔だった。話は三十分以上続けられていた。俺は聞いていない振りをしていた。
娘は母親に一番影響を受け、一番似てしまうものだ、とそこかしこで聞いたことがある。
803:名無しNIPPER[saga]
2017/12/05(火) 00:21:31.11 ID:HHfyV3AE0
【2/4】
──あなたはお兄ちゃんなんだから。
──お兄ちゃんなんだから、わざとでも負けてあげなさい。
804:名無しNIPPER[saga]
2017/12/05(火) 00:23:21.79 ID:HHfyV3AE0
【3/4】
その言葉の数々は、俺の行動に影響を及ぼした……かもしれない。よく覚えていない。
よく覚えていないくせに、言われた言葉だけが耳から離れない。
805:名無しNIPPER[saga]
2017/12/05(火) 00:24:07.23 ID:HHfyV3AE0
俺と彼女の何が違うんだ? できているのは俺の方なのに、どうして俺が責められている感覚にならなきゃないんだ?
きっと、俺はそう考えた。
だから、俺と彼女を天秤にかけた。
806:名無しNIPPER[saga]
2017/12/05(火) 00:24:53.73 ID:HHfyV3AE0
がんばれない俺と直向きにがんばれる佑希だったら、先が見えてるのはどちらかなんて言わずともわかることだった。
仮に俺が弟で、佑希が姉だったとしても、母さんは同じことを言っただろう。「男なんだから」とか、「ちょっとは考えてあげなさい」だとか理由をつけて。
807:名無しNIPPER[saga]
2017/12/05(火) 00:25:33.14 ID:HHfyV3AE0
けれど、問題が起きるのは早かった。
あまりに佑希が自分の手に入れた力を誇示するようになって、両親は今度は俺に気を使いだして、佑希を褒めなくなった。
一番褒めてほしいと思っていた人に褒められなくなってしまった。
808:名無しNIPPER[saga]
2017/12/05(火) 00:26:22.96 ID:HHfyV3AE0
けれど、俺の役割はそれを我慢して褒めてあげることなのだろうと考えた。
俺が"お兄ちゃん"をしていれば、彼女は"妹"として俺に甘えることができる。
彼女が壊れなくて済む。俺は彼女に必要とされている。
809:名無しNIPPER[saga]
2017/12/05(火) 00:28:48.70 ID:HHfyV3AE0
【4/4】
そういった状況からの転機は、中学二年生にあがる頃だったと思う。
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