902:名無しNIPPER[saga]
2017/12/28(木) 15:39:46.13 ID:xOgRNUoX0
そこで、先輩は言葉を区切った。
数秒に渡って沈黙が流れる。俺が何かを言うべきだという気がした。
「……萩花先輩が、胡依先輩のことを知ろうとしたんですか?」
903:名無しNIPPER[saga]
2017/12/28(木) 15:40:35.78 ID:xOgRNUoX0
「だから私は、あの子のことを一方的に避けたの。
あとで深く傷付くなら……早いうちに、浅いうちに切ってしまいたかったから。
私のせいで傷付かせるようなことがあったら、きっと耐えきれなくなるから」
904:名無しNIPPER[saga]
2017/12/28(木) 15:41:50.58 ID:xOgRNUoX0
俺が彼女に無くしてほしくなかったのは、何の混じり気のない純粋な部分だった。
うまく先回りして、道に転がっているものはどんなに小さな小石だったとしても取り除いて、
それでも残ってしまった障害物でできた傷については、後からどうにかして修復するようにして。
905:名無しNIPPER[saga]
2017/12/28(木) 15:42:58.38 ID:xOgRNUoX0
──ならば、と考える。
もしかすると、周りの友人や大人からの「すごいね」「がんばってるね」などという言葉は、彼女には何か別の意味を孕んだものとして耳に入ってしまっていたのではないか。
906:名無しNIPPER[saga]
2017/12/28(木) 15:43:45.52 ID:xOgRNUoX0
「あの、白石くん」
不意に耳元で名前を呟かれて、はっと我に帰る。数秒経ってその近さに驚いて、慌てて片手を手すりから離して距離を取ると、胡依先輩は心配そうにこちらを見つめていた。
907:名無しNIPPER[saga]
2017/12/28(木) 15:44:42.42 ID:xOgRNUoX0
違っていたら、とは思わなかった。
彼女が、俺の言葉を聞き終わらないうちに、口をぽかんと開けて、それから忌々しげに微笑んだから。
「白石くんは、超能力者か魔法使いなの?」
908:名無しNIPPER[saga]
2017/12/28(木) 15:47:14.59 ID:xOgRNUoX0
「どう言い繕っても、結局は私自身のためなんだと思う。
あの子が悲しそうにしている姿を見たくないから。描きたいのに描けない気持ちは、痛いほどわかるから」
「……じゃあ、先輩も」
909:名無しNIPPER[saga]
2017/12/28(木) 15:48:36.41 ID:xOgRNUoX0
「たとえば、勉強したり、歌をうたったり、ギターを弄ったり、どこかに出かけたり、
そういうことは、容易くできてしまうの。描けなくなったところで、私の生活は、何ひとつとして変わらないの」
誰にも強制なんてされてない。
910:名無しNIPPER[saga]
2017/12/28(木) 15:49:20.81 ID:xOgRNUoX0
ぽつりぽつりと紡がれる言葉を、俺は黙って聞く。
声が止まってからも続きを待っていると、一分程過ぎた後に、先輩はこくりと喉を鳴らした。
「だから、あの子を助けたいって、そう思っちゃうのは、駄目なことなのかな?」
911:名無しNIPPER[saga]
2017/12/28(木) 15:50:51.24 ID:xOgRNUoX0
「胡依先輩がそう思ってるなら、それでいいんじゃないですか?」
「……本当に?」
912:名無しNIPPER[saga]
2017/12/28(木) 15:51:27.41 ID:xOgRNUoX0
「ありがとう」と胡依先輩は言った。
「私が間違ってると思ったらすぐに教えてほしい」とも言った。
俺の目が曇ってる可能性は、と言いかけて、押しとどめた。
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