932:名無しNIPPER[saga]
2018/01/10(水) 14:06:52.60 ID:LnmL9/o10
【救/堕/明け方の虹】
雨足は僅かながらも弱まる様子を見せ、雲の切れ間から明るみが顔を出し始めた。
私が口を開くに至るまでの間、彼女は急かすわけでもなく、ただ黙って待ってくれていた。
933:名無しNIPPER[saga]
2018/01/10(水) 14:08:01.22 ID:LnmL9/o10
好き、という気持ちは曲がりなりにもあったはず。
……けれど、絵を描くことをおそらく本気で好いている部長さんにとっては、私の好きは好きとは呼べないのではないかと思ってしまう。
だから、彼女が頷いてくれたことは救いだった。
934:名無しNIPPER[saga]
2018/01/10(水) 14:08:46.29 ID:LnmL9/o10
「中学校はそこそこ美術活動が盛んなところで、公募とか市の展に作品を出すようにしていて、一応自由ではありましたけど、みんなはそれを目標に頑張ってました」
「シノちゃんも?」
935:名無しNIPPER[saga]
2018/01/10(水) 14:09:15.63 ID:LnmL9/o10
私が最後にちゃんと描いた絵。
私が好きなはずの私が描いた絵。
見てほしい誰かに向けて描いた絵。
936:名無しNIPPER[saga]
2018/01/10(水) 14:09:51.03 ID:LnmL9/o10
直接言葉にして告げることなんて、私には到底できそうになかった。
だって、困らせるだけだと思ったから。
そんなことをしたって、何も変わらないことくらいわかっていたから。
937:名無しNIPPER[saga]
2018/01/10(水) 14:11:09.46 ID:LnmL9/o10
「それで、描くことが嫌になっちゃったの?」
「……いえ、宝くじみたいなものですし、変わらないって半ば諦めてたので、そのこと自体についてはどうにか納得することにしました」
938:名無しNIPPER[saga]
2018/01/10(水) 14:12:10.49 ID:LnmL9/o10
「小手先の技術を身につけて、自分の感覚を疎かにして……そういうことを続けてふと気付いたら、私は私のための絵なんて描けなくなっていました」
違う。こうじゃない。こうじゃない。私はそんなものを得てまで描きたくはない。
評価されたいわけじゃない。でも、評価されなければ、私の想いは形にはならない。意味を持たぬまま消えていく。
939:名無しNIPPER[saga]
2018/01/10(水) 14:13:02.08 ID:LnmL9/o10
「でも、それは、きっと嫉妬とかも」
彼女の包み込むように柔らかな声音は、纏う雰囲気は、私の心を落ち着かせる。
他の人だったら、とっくに泣き出してしまっていた。彼女は何も言わないけれど、私の声はすでに震えていた。
940:名無しNIPPER[saga]
2018/01/10(水) 14:13:48.83 ID:LnmL9/o10
言い終えて部長さんを見ると、彼女は私の触れていない方の拳をきゅっと胸元で握りしめて、何かを言いたげに瞑目していた。
「……たいしたこと、ないですよね」
941:名無しNIPPER[saga]
2018/01/10(水) 14:15:16.32 ID:LnmL9/o10
「私さ、シノちゃんのこと好きだよ」
「……」
942:名無しNIPPER[saga]
2018/01/10(水) 14:16:11.94 ID:LnmL9/o10
「きっとさ、シノちゃんが絵を描き続けてきたことだけは、仕方のないことじゃないと思う」
それは、初めに私が言った言葉。
退屈を紛らわすための代替可能なものだと嘯いてしまった。
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