何も無いロレンシア
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31: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 02:48:36.40 ID:zJUkddjZ0
※ ※ ※



 林の中に入ると、肌を突き刺すような冷たい感覚が起きた。それはイヴにも生じたのだろう。俺たちは無言で視線を合わせる。

 とはいえこの程度で止まるわけもなく、無言のまま進んでいくと徐々に肌を突き刺す感覚が強くなっていく。まるでこの林そのものが敵で、間近から殺意を浴びせられているかのようだ。そしてこの現象に心当たりがあった。

「おい……ここは異界になりかけているかもしれん」

「異界?」

 これにはさすがに驚いたのか、イヴの声が跳ね上がる。

 異界侵食。

 それは魔に心を呑まれたモノたちの中でも、より深みにいる者が引き起こす超常現象のことだ。自分がいる周囲を己の住みやすい環境へと浸食汚染し、創り変える。ただでさえ厄介な魔に心を呑まれたモノが、有利な状況で待ち構えるのだ。

 聞くところによるとシャルケに討伐された銀目の大鹿は、森全体を住まいと定めたらしい。森の木々は水晶と化し、砕けた破片が空中を漂い自分以外の生物の存在を許さなかった。討伐に向かった者たちは草の水晶に足をやられ、あるいは水晶の破片に目や喉を次々とやられ、銀目の大鹿にまみえることすらできなかったと。鋼の筋肉で隙間無く身を覆い、熱気で破片を寄せつけない“沸血”を除いての事であるが。

「……確かにこれが異界だとすれば、異界の主である彼女の動向をつかみにくいのも納得できる。けど――これが異界?」

 イヴはその白魚のような指でそばにある木を撫でながら、疑問をていした。

「こんな現象を引き起こせるのは異界侵食ぐらいしか思い浮かばんが」

「よく考えなさい。確かにここは居心地が悪く、本来のパフォーマンスを発揮できそうにない。しかし、ロレンシア」

 イヴは辺りを見回しながら、両手を広げてみせる。

「貴方はこの奇妙な空間から、吐き気をもよおすような邪悪さを少しでも感じたか?」

「ああ……確かに」

 異界侵食は魔に心を呑まれたモノの中でも、より深みにある一部だけが引き起こせる超常現象。そんな奴らが浸食汚染した空間は、ただの人間なら踏み入っただけで吐き気と目まい、さらには幻覚に苛まされ、心臓が止まることすらあり得る。

 “何も無い”俺はともかく、いかに強靭な精神をもつイヴとはいえ、異界に踏み入ったのなら代償は軽いものではないはず。様子を見るに確かに本来のパフォーマンスを発揮できそうにないが、それは調子が悪いと言うレベル。

「しかしこれが異界じゃないとすれば、いったいなんだ」

「私が知るか」

「ごもっとも」

「ただ――」

「ん?」


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