49: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:01:09.71 ID:zJUkddjZ0
海千山千の店員と、ガラの悪い男たちが一階にたむろっていたが、修羅場を経験しているだけあって今は息を押し殺している。本当は駆け出して逃げたいのだろうが、それができない事情もあるのだろう。そいつらを意も介さず、重量のある物体が宿に入り、そして階段へと向かう。
腰かけていたベッドから立ち上がりながらため息をつく。正直、もう少し思索にふけっていたかった。彼女について考えていたかった。
革鎧を身に着けながら耳を澄ませていると、階段を上がる音が奇妙なことに気づく。ズルリベチャリと、湿ったような音。粘度が高いものを階段から下に零した時の音を、階段を上がりながら立てているかのようだった。
階段の軋む音から相当な重量があると察せられるソレは、階段を上がり終わるとゆっくりとこの部屋へと近づく。そしてとうとうドアの前に立ち止まったソレは、ドアを叩いて鈍い音を響かせた。
「今手がふさがっていてな。鍵はかかってないから勝手に入ってくれ」
外套を身にまといながらそう声をかけたのに、ドアの前のソレはまたノックする。腰に剣を着けて、壁に立てかけておいた予備のもう一本を手に持ちながら仕方なくドアへと向かう。
そして――剣を抜き放ち、ドア越しにソレを貫いた。
もろい木を貫いた先から伝わる、柔らかな感触。その手応えは人の肉のモノではなかった。一度斬ったことがあるワニが連想されたが、構わず剣を捻り傷口を広げる。
ドアに穴を空けたことで、ドアと剣の間に暗闇が生まれていた。衝撃で軋むドアの隅にも真っ暗な影がある。そこから黒と見間違う濃い緑があふれ出た。
蛇だ。
ある蛇は剣をつたいながら、ある蛇はドアの下をくぐり抜け、ある蛇はドアの上から零れるように降り注ぎ、牙を剥いて俺に襲いかかる。その数は十を超えていた。
「フッ!」
蛇たちに噛みつかれる直前。刺突を終えたままの姿勢から右足で床を蹴り、剣をさらに相手にねじ込むように体を捻りながら前に飛ぶ。蛇たちは振り払われ、穴の開いていたドアは体当たりで砕け、そして剣で貫かれていたソレは廊下の壁にまで吹き飛び、木製の壁を軋ませながら張り付けとなる。
木屑がパラパラと舞い落ちる中で、この街に入り込んでからすぐに感じていた気配の正体を、目の当たりにすることとなった。
ソレは異様な風体を過剰に覆い隠そうとし、それなのにまるで隠せていなかった。
背丈は一八〇半ばほどか。だが相対して感じられるのは、縦の大きさではなく横の大きさであった。茶色のローブで全身を覆い、さらに目元以外をシュマグで隠していたが、それでも首の無い体であることを察せられる体形だ。
だが体形のことなどどうでもよくなる特徴が他にある。それは胸元に剣を突き刺されたまま平然とした様子であることと、流れ出る紫色の血、そして眼だ。
その眼は白目の部分が無く、黄色の眼の中で縦長の瞳孔が不気味に黒光りしている。蛇のような、蛇ではない眼。コイツだけの瞳。
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