何も無いロレンシア
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52: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:03:15.88 ID:zJUkddjZ0
 既にこの周辺は俺とア―ソンの殺気と狂気で充満し、はじける寸前の状態だった。そこに新たに、針で刺すような鋭い殺意が突如現れた。

 それと同時に、下の階から逃げ出そうとしていた三人があっけなく命を散らしたことがわかる。

 辺りが静まり返る中で、階段をゆっくりと上がる音が近づいてくる。

 ア―ソンの魔に心を呑まれたモノ特有の、肌の下を虫が這いずり回る感触とは違う、肌の毛穴全てを刺し貫くような凍てつく気配。自然と心当たりが思い浮かぶ。依頼を受けた五人の一人にして、“深緑”のア―ソンに勝るとも劣らぬ悪名を轟かせる者――

 “血まみれの暴虐”フィアンマが、板張りの廊下の上にその姿を現した。

 一九〇を超す背丈に燃えるような紅いプレートメイルを身にまとい、悪鬼が笑っているかのような兜をかぶるその姿は、闘神にも邪神にも見える。その手に持つこれまた紅い槍は、音に聞く皆殺朱(かいさつしゅ)か。

「穢らわしい」

 フィアンマは俺とア―ソンを見るや否や、吐き捨てる。

「貴様らのような汚物がのうのうと存在するなど、大融落(グレイブフォール)以外では許されんというのに、何故自害することなく俺の前に立つのか」

 その糾弾に、ついア―ソンと目を見合わせる。いったい、どの口が言うのだろう。下の階の連中を殺した理由は、ただ“うるさかった、目障りだった”だけだろうに。

「しかしそんな貴様ら愚物にも、珍しく価値ある瞬間もある。今がそうだ。俺の役に立てることを喜びに身を震わせながら、膝を着いて女の情報を出せ。さすれば、命だけは恵んでやろう」

 傲慢で神経質、さらに声変わり直前の少年と初潮を迎えたばかりの少女を好むという悪癖を持つ男の、自分のことを棚に上げた数々の発言に俺たちは――

「ケツヲ出シテ、四ツン這イ二ナレ」

「そうすれば、貞操だけは恵んでやってもいいぞ」

 刹那。殺意が紅い二筋の閃光となって奔る。

 それが何であったのかは、かろうじて喉に襲って来たソレを、身をひねりつつ剣で弾いて一拍置いた後にわかった。 

 皆殺朱だ。しかし俺とフィアンマとの距離は十メートル近くある。決して槍の射程距離ではない。弾いた反動で手が痺れるのを感じつつ横を見れば、かすっただけだろうに顔の四分の一をもっていかれたア―ソンが、感嘆の吐息を傷口から漏らしている。

「フィアンマの槍の間合いは槍で非ず。弓と思え、か」

 耳にした時は尾ひれがついていると思ったフィアンマの武名を、思い出しながら口ずさむ。

「“瞬刺殺”。速サモ威力モ脅威ナウエ、連射デキルトハ」

 糸のように小さな蛇を傷口のいたるところから生やし、蛇同士が溶け合い、傷口を塞ぎながらア―ソンは戦慄と興奮を混ぜ合わせた声音を紡ぐ。


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