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ダンテ「学園都市か」【MISSION 07】 -
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1 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/21(金) 23:00:10.46 ID:h6UtbVFpo
「デビルメイクライ(+ベヨネッタ)」シリーズと「とある魔術の禁書目録」のクロスです。
○大まかな流れ
本編 対魔帝編
↓
外伝 対アリウス&ロリルシア編
↓
上条覚醒編
↓
上条修業編
↓
勃発・瓦解編
↓
準備と休息編
↓
デュマーリ島編←今ここの後半(スレ建て時)
↓
(ここより予定。変更する場合も有り)
↓
学園都市編(デュマーリ島編の裏パート)
↓
創世と終焉編(三章構成)
↓
ラストエピローグ
○ダンテ「学園都市か」で検索すればまとめて下さったサイトが出てきます。
編名も一緒に検索すると尚良しです。
○過去スレ
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1267269712/
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1267368924/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1267417603/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1269069020/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1271690981/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1276448902/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1281455278/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1294936389/
○有志の方がうpして下さった過去ログ(dat)
ttp://www1.axfc.net/uploader/Sc/so/88288.zip
pass:dmc
1.5 :
荒巻@管理人★
(お知らせ)
[
Twitter
]: ID:???
【 このスレッドはHTML化(過去ログ化)されています 】
ごめんなさい、このSS速報VIP板のスレッドは1000に到達したか、若しくは著しい過疎のため、お役を果たし過去ログ倉庫へご隠居されました。
このスレッドを閲覧することはできますが書き込むことはできませんです。
もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。
■ 萌竜会 ■ @ 2025/07/15(火) 00:40:24.35 ID:LBAUOkqwo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1752507623/
■ 萌竜会 ■ @ 2025/07/15(火) 00:39:16.20 ID:qbAcbrETo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1752507555/
猫饅頭 @ 2025/07/14(月) 19:14:21.34 ID:1knELuPaO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1752488061/
(安価&コンマ)コードギアス・・・ @ 2025/07/13(日) 22:27:49.60 ID:9f2ER2kw0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1752413269/
KU-RU-KU-RU Cruller!Neo @ 2025/07/13(日) 21:55:45.76 ID:YIcI6tEGo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1752411332/
ひたむきに! @ 2025/07/13(日) 20:04:58.82 ID:YMv4024Yo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1752404698/
今日の疑問手 @ 2025/07/13(日) 19:07:12.02 ID:ZqmtXqZ3o
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1752401231/
旅にでんちう @ 2025/07/13(日) 13:03:56.58 ID:cdEpW45FO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1752379436/
2 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/21(金) 23:00:47.96 ID:h6UtbVFpo
―――注意事項及び補足―――
※当SSはかなりかなり長いです。
※基本シリアスです。
※本編後のおまけシリーズはパラレルとなっており、外伝以降の本筋ストーリーとは全く関係ありません。
※DMC(ベヨネッタ)勢は、ゲーム内の強さよりも設定上の強さを参考にしたため絶賛パワーインフレ中。
それに伴い禁書キャラの一部もハイパー状態です。
(上条は右手以外ほぼ悪魔化、一方通行は半神化、麦野は悪魔と同化、ステイルと神裂は悪魔化、シェリーは悪魔使役などなど)
※妄想オリ設定がかなり入ります。
ダンテ・バージル・ネロを始めとする各キャラ達の生い立ちや力関係、
幻想殺し等『能力』や『魔術』等の仕組み・正体などは、多分にオリジナル設定が含まれます。
また、世界観はほぼ別物となっております。
※禁書側の時間軸でイギリスクーデター直後(原作18巻)、DMC側の時間軸は4の数年後から始まっています。
ネロは20代前半、ダンテとバージルは40代目前、ルシアの身体成長度は10歳前後となっております。
※また、クロス以降の展開は双方の原作に沿わないものとなります。
その関係上、禁書原作21巻以降に明かされた諸設定は基本的に適用されてません。
ただ例外として、天使の姿・攻撃技等は反映させて頂く場合があります。
(ベヨネッタと禁書の天使の、配色・デザインの系統がそれなりに似ている感じなので)
※投下速度は大体週二回〜三回、週50レス以上を目標としています。
※主なカップリングは上条×禁書、ネロ×キリエ(これ当然)となっております。
――――――――――――――
3 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/21(金) 23:13:28.38 ID:h6UtbVFpo
__ィ':::-、
//: : :彡ヽ
r`/: :彡: : ノ
///@@@\
// / : : : : : : : : :ヾ_
// /: : : : ; ζ: : : : : \
/ ' /: : : : : : :∧: : : : : : :ヽ
/ i: : : : : : : / ヽ: : : : : : i
i: : : : : :/__, \__:_:_:フ
.i: : :_:/-[rr=-]-[r=;ァ]:i _/\/\/\/|_
ノ//,ノ//, !  ̄ ,|:i,ミミヽ \ /
/ く く|ヽヽ_ 'ー=- /:iゝゝ\ < バッボーイ! >
/ /⌒ |: : : :>,、_____,・イ :i ⌒\ \ / \
(  ̄ ̄⌒ ⌒ ̄ _)  ̄|/\/\/\/ ̄
` ̄ ̄`ヽ /´ ̄
| |
.ノ |
/ ノ
/ ∠_
| f\ ノ  ̄`丶.
| | ヽ__ノー─-- 、_ )
. | | / /
| | ,' /
/ ノ | ,'
/ / | /
_ノ / ,ノ 〈
>>1000
( 〈 ヽ.__ \
ヽ._> \__)
4 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/21(金) 23:17:40.45 ID:h6UtbVFpo
―――
とあるビルの一階。
正面の出入り口に繋がる、大きなフロア。
その中央に、上半身裸の土御門が静かに立っていた。
背中、胸、腹、肩、腕。
肌の全面に記された陰陽術式を露にし。
土御門「昨日な、二時間かけて書いたんだぜよ。背中とかほんっと大変だったにゃー」
シルビア「無駄口叩くんじゃないよ。本当に腹立つガキだねあんたは」
そんな土御門の相変わらずの軽口に、シルビアの鋭い声がぶつけ返された。
彼女は神妙な面持ちでフロアの端、
キリエらがいるレストランの入り口にて立ち、土御門を見守っていた。
シルビア「自分が何の術式を使おうとしてるのか、本当にわかってるんだろうね?」
土御門「はは、そうイライラするなって。せっかくの美人が台無しだぜぃ」
シルビア「……チッ」
そんな会話を少しかわした後、
さて、と土御門は小さく呟き。
サングラスを外しては、指で弾くように横に放り投げ。
土御門「―――滝壺。準備は?」
滝壺『……いいよ。』
5 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/21(金) 23:18:57.52 ID:h6UtbVFpo
『―――滝壺が対象のAIMを完全掌握する』。
彼女が多重能力者として対象の能力を使うも、
今土御門に対してやるように能力を完全消失させるも、
必ずこの過程を経なければならない。
そしてこの点に関して、とある弊害がある。
滝壺に関するデータに明記されていたし、アレイスターも以前軽く触れた事だ。
それは、
滝壺が対象の能力を『完全掌握』した段階で、対象が負荷によって昏倒してしまう可能性が高い、ということ。
つまり土御門は、AIM剥奪より前の時点で、
この莫大な負荷に襲われることになるわけだ。
そこで土御門が考えたのは、
その負荷に耐えるために、魔術による精神補強を行う、という策。
だがここで、もう一つ考慮せねばならない事がある。
その段階では、『土御門はまだ能力者である』、という事。
今度は、能力魔術併用の過負荷が彼を襲うわけだ。
6 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/21(金) 23:20:07.27 ID:h6UtbVFpo
そしてこの点は、土御門は滝壺の手腕に任せるしかなかった。
彼女がどれだけ素早く、
土御門のAIMを掌握して剥奪という作業を出来るかにかかっているのだ。
ほぼ一瞬で彼女が作業を終わらせたら、能
力魔術併用の過負荷は極僅かに収まり、
起動した土御門の力で即座に修復可能となる。
逆に彼女が手こずってしまった場合の結果は、説明する必要は無いだろう。
土御門「最後に一度確認する。」
土御門「俺が何と口にした段階で、お前は作業開始する手筈だ?」
滝壺『「全は央に」』
土御門「よし。良いな。何が起こっても作業を続けろ」
滝壺『うん』
土御門「OK。始める―――」
7 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/21(金) 23:21:05.55 ID:h6UtbVFpo
天を我が父と為し、地を我が母と為す。
六合中に南斗 北斗 三台 玉女在り。
左には青龍、右には白虎、前には朱雀、後には玄武。
天乙貴人を真中にして、後に六、前に五。十二天将にあり、我求めんとす。
騰蛇を戌に。入塚。
朱雀を巳に。画翔。
六合を未に。納采。
玄武を丑に。升堂。
白虎を申に。御牒。
龍戦九醜、天は全、『全は央』に―――。
―――『天照大御神』 あり。
8 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/21(金) 23:22:20.43 ID:h6UtbVFpo
この詠唱中、土御門はある人物の事だけを思い浮かべていた。
それは、地球の裏側にて彼の帰りを待っている、とある一人の『少女』。
かつて名誉もキャリアも捨て、学園都市に来て。
その忌まわしい街で力を失い。
今ここで、一度捨てたはずのその力を取り戻す。
そんな、人生の『核』となったとある『少女』。
全てを突き詰めれば、
彼女が土御門の人生を動かした『原因』であり。
そして『彼女の為』に、
土御門が今ここに立っているのだ。
つまり、その少女は土御門の『全て』だ。
彼の魂であり、彼の人生であり。
唯一の―――。
9 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/21(金) 23:23:33.82 ID:h6UtbVFpo
滝壺『―――えっ…………何これ―――』
土御門の詠唱が終わったその瞬間。
何かに驚いた滝壺の声が彼の耳に聞こえたが、
滝壺『―――行っちゃだm―――!!!!!』
すぐにぷっつりと途絶え。
土御門「―――」
全てが制止したような感覚。
空気の流れ。
自身の鼓動。
そして時間まで―――。
永遠に感じてしまいそうな、そんな一瞬の静寂。
10 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/21(金) 23:24:53.56 ID:h6UtbVFpo
土御門「―――」
直後、土御門の瞳には奇妙な光景が写った。
それは夢か現実か。
いつのまにか。
『白い狼』がすぐ目の前にいた。
僅か1m先。
フロアの床に座り、少し小首をかしげ。
透き通るような、妙な親和間のある瞳で、土御門を真っ直ぐと見上げていた。
汚れ一つ無い美しい白亜の毛並みが、薄闇のせいでより際立つ。
まるで、それ自体が白く輝いているような―――。
土御門「―――」
だがこの時、土御門は目の前の『白狼』に何かを思うことは無かった。
そんな暇など無かったのだ。
直後に、彼の意識が消失したのだから。
―――
11 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/21(金) 23:25:49.91 ID:h6UtbVFpo
―――
文化も成熟し概念も移り変わった今日では、
年端の行かない少年少女が殺し合いの場に出る、もしくはその為の訓練を受ける、
などということは社会的タブー・禁忌とされている。
しかし。
生きるか死ぬか。
殺らなければ殺られる。
といった抜け穴の無い極限の状況に陥った場合、
そのような倫理観は時として容易に崩壊する。
そのような状況は、表の先進社会からすれば非常に特殊・非日常的であり、
嫌悪されるものだろう。
だが実際はありふれている。
人間の情と慈悲と愛が導き出した『答え』であり『善』である倫理観。
この種族の『美徳』であり、かけがえのない面の一つ。
その倫理観が知られている領域は、実は極僅かしかない。
もしくは知られ好ましく思われていても、適応されていない。
むしろ、同じ人間世界の中でも、
『表』の面のみにしか適用されないマイナールールだ。
『裏』の面には適用されていない。
同じ人間の世界なのになぜか?
その答えは単純。
倫理観を守っていたら、『何も出来ない』のだから。
12 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/21(金) 23:27:32.38 ID:h6UtbVFpo
その裏世界の一つ、『魔術』。
魔術師達の育成は、幼少期から始まるのが一般的である。
天界系・魔界系問わず『魔術』という技能は、
基本的に幼少の頃から学ばないと開花しないからだ。
いや、成人後に魔術の才を開花する者も稀にいる為、こう言うべきだろう。
幼少期から学んでいないと、魔術業界内では『使い物にならない』、と。
人は大人になるにつれ概念、認識、それが限定的な物理世界に縛られてしまう。
一般社会ではごく正常な成長であるその点が、逆に魔術界では『退化』であるわけだ。
(ちなみに、学園都市における超能力開発も同じ理由で子供が必要とされる)
つまり、魔術は子供を捧げないと成り立たないのである。
当然、『こんな行いは間違っている』、と忌み嫌う者もいた。
だがそんな事を叫んでもどうしようもない。
人間には、『魔術を捨てる』という選択肢など存在しないのだ。
13 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/21(金) 23:29:05.88 ID:h6UtbVFpo
魔界魔術は対魔に必要不可欠。
天界魔術は、いわば『天界による人間界管理』の引き換え条件。
これらの現実の前に、皆は静かに口を閉ざさるを得なかった。
そして黙々と、血の連鎖が繰り返される事となる。
子供達が魔術師となり、壮絶な闘争に身を捧げ。
大半が死に、生き延びた者は次代の子らを教育し。
その子らも魔術師となり同じく―――。
竜王滅亡後からのこの数万年間、この循環が幾多も。
何度も。
何度も―――絶え間なく。
つまり魔術史とは、『人の子』の闘争史。
述べ億を有に超える、夥しい数の少年少女達による終わりの見えない戦い。
子供達の骨で築かれ、子供達の犠牲によって成立した、禍々しい血路である。
14 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/21(金) 23:30:12.24 ID:h6UtbVFpo
そして日本のとある道家に生まれた一人の男子。
後に『土御門 元春』と名乗るようになるその子もまた、血塗られた道を歩む運命にあった。
ここから暫し綴られるのは、この人間が産声を上げ。
生きる世界の違うとある娘に恋をし。
圧倒的な力と名誉を得て称えられては、妬まれ恐れられ、遂には『裏切られ』。
彼自身もまた、愛する娘を『裏切り』。
そんな彼女を護る為に力を捨て。
そして16歳のある日。
もう二度と彼女を裏切らないと誓ったのに、もう一度裏切ってまで。
とある孤島の地獄の果てにて。
『太陽』の加護を受け、その力を取り戻すまでの話だ。
15 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/21(金) 23:30:39.36 ID:h6UtbVFpo
今日はここまでです。
次は早ければ日曜の夜に。
16 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/21(金) 23:34:44.80 ID:MQN+o5HTo
おつ
もう7スレ目か…次の投下も楽しみにしてるよ
17 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/21(金) 23:36:48.60 ID:teoZbCv90
乙!
18 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/22(土) 01:21:35.12 ID:zcaB8vCf0
乙
次も楽しみなんだからな!
19 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/22(土) 01:52:55.75 ID:/srS289I0
乙。
もしかして来るのか!?あのわんわんお!さんが!?
20 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/01/22(土) 03:44:27.84 ID:uaEGbjEH0
大神そう来たか!もうつっちーさんの好感度が上がりすぎてやべぇwwwwwwwwwwwwww
かっこよすぎるwwwwwwwwwwww
21 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/22(土) 08:42:40.98 ID:XK0SL6pP0
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22 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/22(土) 13:23:27.97 ID:KJifCF5AO
土御門、お前格好良すぎるだろ
23 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/22(土) 20:28:32.54 ID:SyRmvruDO
今週の禁書かなりワクワクしたけど、そのあとの血だまりスケッチに全部もっていかれたわ……
あの画風で首食いちぎり→身体ミンチはきついわ……
24 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/23(日) 02:01:55.84 ID:wEdUPvM8o
>>3
くそわろた
25 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/01/23(日) 02:41:52.18 ID:0rm9CjhC0
つっちーかっけーナ
26 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/23(日) 06:58:27.08 ID:RJaOwSCDO
損得抜きで人間の味方するアマテラスさんいらっしゃったか、日本の神族は何気に初登場かね?
27 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/23(日) 11:04:33.30 ID:0tIhmKwg0
ここまで禁書+カプコンクロスオーバーになってきたら
白い胴着に赤ハチマキの格闘家が上位悪魔に昇竜拳をかましてももう驚かない
28 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/23(日) 13:59:09.87 ID:K4rOZyWDO
>>27
カプコンキャラというより神谷キャラだけどな
29 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/23(日) 23:36:55.90 ID:ztiI9XMr0
鬼武者さんは過去から飛ばされてこないの?
30 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/24(月) 00:38:12.90 ID:vmSJQAQDO
イーノック「一番良い出番を頼む」
そういえば今ダンテとネロは何処に居るんだろう、それぞれデュマーリ島に向かってるのかな。
31 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/24(月) 11:28:31.77 ID:SksU7FAM0
>>29
棒読みで悪魔に啖呵をきるのか、胸が熱くなるな。
32 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/24(月) 16:05:49.10 ID:BSHLCdWao
ネロ→アリウスぶっちKill為にフォルトゥナ?からデュマーリ島に移動中?
ダンテ→ハッハーと風来坊。もう何処に来ても驚かない。学園都市でインデックスを保護する予定?
ついでにバージル→インデックス確保を二人に任せ・・・任せ・・・ぶった切る準備中?
結局は
>>1
のみぞ知るってことよ。
33 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/27(木) 00:44:00.29 ID:T9AuerMAo
まだかなー
34 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/01/27(木) 20:12:40.34 ID:zpDumOhm0
いやっほーい!まだかなー。でも無理せずがんばれー!
35 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/27(木) 23:13:29.02 ID:0GW6xyzT0
>>34
おい
36 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:04:39.73 ID:1vkt1fk9o
―――
「夢が広がるってこういう事を言うんだなー」
『―――』
「えっと、兄貴が理事会とかの超セレブになって、じいちゃんの屋敷みたいなでっかい豪邸に住んで、」
「そしてそこでメイドとして働く私。これで完璧」
『―――』
「ん?そこはメイド妻ってことでいいだろー」
『―――』
「……はっきり言うなアホ。このバカ兄貴……」
「ところでさ、兄貴、友達できた?」
『―――』
「へー。お隣さんかー。どういう人?」
『―――』
「へー?…………いや、バカっぽいけど、それ良い友達じゃん」
『―――』
「だって今の兄貴、かなり楽しそうに話してたよー」
「兄貴がそういう風に笑ったの、すごく久しぶりな気がする」
『―――』
「ここ最近、私以外の人の事では、そういう顔しなかったよなーって」
『……』
37 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:05:39.71 ID:1vkt1fk9o
「…………ねえ。兄貴」
『……―――』
「兄貴さ、ある日、急にいなくなったりとかしないよな?」
『―――』
「……なんとなく」
『―――』
「そっか。なら約束」
『―――』
「いいからいいから。ほら約束」
―――
38 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:06:33.45 ID:1vkt1fk9o
―――
「半年経ったか。この街に慣れたかな?」
『―――』
「そんな事は無い。君をこの街の監査官に指名したのは私だ」
『―――』
「さすがに飲み込みが早いな。助かるよ。その通り、私は個人的に君を雇いたい」
「陰陽寮と必要悪の教会の事は気にしなくて良い。向こうも了承済みだ」
「給与は、君が今現在両機関から貰っている額の20倍。もちろん任務ごとに相応の手当ても付く」
「任務の危険度も、君が今まで陰陽寮でこなしてきたモノに比べれば易い」
「それにこの街は私が『法』だ。ここには陰陽寮の手は一切及ばん」
「君が私に尽くしてくれるのなら―――」
「―――『彼女』の平穏な生活は保障しよう。悪くは無い契約だと思うが」
『……』
「どうだ?私の右腕とならないか?」
39 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:09:26.22 ID:1vkt1fk9o
『―――』
「彼女が平穏に暮らしていける地は、今やこの街のみ」
「魔術に一切触れずにとなると尚更だ」
「養子の君とは違い、彼女は『土御門本家』の血脈追跡からは逃れられん」
『―――』
「そうだ。実質、君には選択の余地など無い」
「この際だ。はっきり言っておこう」
「君と彼女は私の『所有物』だ」
「君が私の意思に背く行動をとった場合、即刻彼女を処分する」
「反逆はもちろん、罪の意識を覚え自ら命を絶ってもだ。その場合、すぐに後を追わせてあげよう」
『―――』
「悪く思わないでくれ。元々、彼女をこの街に誘導したのは陰陽寮だ。私が手引きしたわけではない」
「それにだ。彼女がここに来てしまったのも、そもそもは君が原因だろう?」
「『視野の狭さ』と『思慮の浅さ』、そして『無自覚の驕り』がその『失敗』を招いたのは、君も自覚しているはずだ」
『……』
40 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:09:57.29 ID:1vkt1fk9o
「己の事を、『限界を恐れぬ者』と?」
「違う。君は似て非なる『限界を知らぬ者』だ」
『……』
「前者は『英雄』となり、『完全なる勝利』を手にする資格がある」
「しかし後者は。確かに『勇者』であるが、同時に『愚者』でもある」
「その大半の者が道を誤る事となる」
「己の力量の限界を知らず。気付こうともせず」
「根拠の無い『過信』を『自信』と履き違えた、『無自覚の驕り』によってな」
『……』
「君のやり方は、一歩視点を引き大局を見。そして、状況を掌握して手のひらの上で転がす、というものだな」
「これで己の能力を最大限活用し、様々な問題を解決してきたらしいが」
「何を相手にしても通じると思ったか?君程度の卑小な器で」
「私やイギリスのあの女狐、1300年の大柱である陰陽寮を相手に?」
「笑わせるな。身の程をわきまえるが良い」
「君など、私にとっては埃の粒程度にしか過ぎんのだよ」
41 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:11:23.90 ID:1vkt1fk9o
『……』
「私が憎いか?そうだろうな。その怒りを抱ける余裕があるだけ幸運だと思え」
「『本物の敗北』はそんなに生温くは無い」
「一切を失い、一切が見えなくなり、一切に関心をもてない―――」
「―――『怒りどころか絶望すら感じることの無い虚無』に堕ちた事があるか?」
『……』
「その境地を見ずして、その境地に勝てずして、世界を知った風に思うな」
「世界が何たるかは、己が何たるかを理解してこそ視えてくる」
「まずは己を知れ」
『―――』
「君は己の事を、彼女の『守護者』だと思ってきただろうが、実際は違う」
「彼女の事を想うのなら、己が彼女に出会ってしまった事を呪うが良い」
「君の本性は、彼女の―――」
「―――土御門 舞夏の『死神』だ」
―――
42 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:14:05.45 ID:1vkt1fk9o
―――
土御門「―――」
瞼越しに瞳に差し込む柔らかい光が、
記憶の淀みを漂っていた土御門に覚醒の時を告げる。
徐々に回転数を上げていく思考。
少しずつ、夢から現実へと浮き上がっていく意識。
妙に心地の良い光に包まれながら、緩やかに目覚めへと向かう―――
―――事はなかった。
正常に稼動し始めた感覚が、とてつもない異常を土御門の意識へと叩きこむ。
それは首、手首、足首の『冷たく重い感触』。
土御門「―――ッ!!」
その勢い良く見開いた瞳に映った物。
冷たく重い感触の正体。
それは『荘厳な枷』であった。
金色の手枷。
金色の足枷。
金色の首輪。
彼は、なんとも豪奢な金属製の枷に縛され、
一枚岩の大きな白い台座の上に跪いていたのだ。
43 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:14:50.47 ID:1vkt1fk9o
彼が跪いていた場所は、直径40m程の石畳の広場、
その中央にある、高さ1m四方5m程の石台の上であった。
広場の縁には柱が等間隔で並び、その向こうには花が満開の原。
チョウの鱗粉のような、光の粒があたりはふわふわと宙を漂っており。
空は青空が広がり、心地のよい光が満たしている。
土御門「…………」
鼻腔を満たす大気も清らか。
そして原因が良く分からない、圧倒的な安心感と居心地の良さ。
だが当然。
土御門「(―――何なんだ『コレ』は―――)」
そんな心地よさに浸る場合などではない。
土御門「(いや―――落ち着け。落ち着くんだ)」
己に言い聞かせて混乱しかけた思考を何とか保ち。
新しい記憶を呼び起こしては、この状況の分析をし始めた。
44 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:15:51.25 ID:1vkt1fk9o
『おかしくなる前』の最後の記憶は、
薄暗いフロアにて、十二天将の力を使った目の顕現術式を起動した事。
その後何が起こり、そしてどう今に繋がっているのか。
この時点では、土御門は接点が全く見出せないでいた。
まず、これが術式の正しい効果だとは考えられない。
確かに、土御門がこの術式を完全起動させたのは初めてだ。
だがかなりの高難度の禁術とはいえ、実際に起動した際の記録が残っており、
そこには、このような現象の記述など一切無かった。
土御門「(……術式構成を間違ったか……?)」
全く別の、未知の術式でも起動してしまったのか。
そんな事にも思考を巡らせつつ、土御門は改めて周囲に視線を走らせた
土御門「…………」
明るい。
清潔。
美しい。
すぐに出てくる感想は、そのようなものばかり。
先ほどまで己が身を置いていた場所とは『何から何まで』決定的に違う。
あそこを『地獄』と称すならば。
ここはまさしく『天国』と言えるだろうか。
45 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:16:51.15 ID:1vkt1fk9o
と、その一方で。
どことなく感じられる、『得体の知れない気味悪さ』。
土御門は敏感に、その悪寒を嗅ぎ取っていた。
あまりにも『完成しすぎている』。
あまりにも『理想的すぎる』。
人工的すぎて『生』が一切感じられない。
非の打ち所が無い清廉な美しさなのに、なぜか―――。
―――『狂気の匂い』がする、と。
46 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:17:34.66 ID:1vkt1fk9o
そう、不信感を徐々に募らせてつつ視線を巡らせ、
ふと跪いている己の膝元、台の表面に目を落とした時。
土御門は『それ』に気付いた。
この悪寒の正体、証拠ともいえるモノに。
それはうっすらとある、『こげ茶色の染み』。
土御門の位置を中心にして『何か』が噴出し、
周囲に飛び散ったような広がり方。
土御門「―――」
この瞬間、彼の頭の中で様々な情報のピースが一気に組み上がり。
なぜここに己がいるのかは以前不明ながらも。
ここが一体どのような場所なのかを、土御門は把握することになる。
47 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:18:44.13 ID:1vkt1fk9o
表面の美しさに惑わされ、
気付くのが遅れてしまったが。
このような配置、このような作り。
それらは、とある施設の建築様式に酷似していた。
それは。
―――『処刑場』である。
土御門 元春は今。
不気味なほど『美しい処刑場』の台上にて。
王の装束と見まがうほどに『荘厳な枷』に縛されていたのだ。
そして土御門がそのように思い至った直後、
この場に欠如していた『役者』がちょうど現れる。
『処刑人』が。
正面約15m程。
石畳上の空間に浮かび上がる、
直径6mもの大きな金色の魔法陣の中から。
48 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:21:06.84 ID:1vkt1fk9o
土御門「―――」
その『処刑人』の姿。
小さな頭部には、キューピッドのような幼い彫刻風の顔。
だが体は巨大。
頭の高さは5m以上、短い足と太く巨大な腕をもつその体つきは、
シェリーのゴーレムに似ているか。
肌は白銀、頭の上には、今まで土御門が目にした事が無い紋の、光り輝く天使の輪。
その体を覆うのは、金を基調とした鮮やかな・荘厳な装具。
そして右手には身の丈と同じ程に巨大な、これまた煌びやかな『斧』。
この異様な存在感。
畏敬の念を否応無く抱かせる強烈な威圧感。
『人の器に堕ちてきた天使』ならば、土御門はそれなりに覚えがあるも。
『本物の体を有した天使』には会ったことなんか無い。
しかしこの瞬間、土御門は確信した。
確信せざるを得ない。
曲がりなりにも魔術に心血を捧げた者の性か。
胸の奥底からこみ上げてくる、
歓喜感動とも恐れとも言えるような、どうにも形容しがたい衝動。
その本能が告げており、最早否定しようが無かった。
今眼前に現れたのは、『本物の天使』だ、と。
49 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:21:40.68 ID:1vkt1fk9o
更に、処刑人が現れた数秒後。
同じような肌に同じような意向の装飾を纏った、身長2m程の天使が10数体。
土御門が跪いている台座を囲むように姿を現した。
手には金色の杖、背中からは一対の翼。
頭部には奇妙な仮面。
それらの一団が出現し、綺麗に土御門ど円形に囲んだ後。
最初に現れた巨大な天使が、
ノイズの混じった低い声を漏らしつつ動き始め、土御門の方に近付いてゆく。
一歩、また一歩と。
土御門「―――」
これから起こる事は、今やこの目に映る現実が物語っていた。
天使による裁きである―――と。
50 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:22:34.45 ID:1vkt1fk9o
では、なぜこんな事になったのか。
その疑問が晴れるのも、そう遅くはなかっった。
生の天使を見たショックか、
ある意味吹っ切れた土御門の思考は、すぐのその答えを導き出してしまった。
つっかえが取れ、すっぽりと抜け落ちていくようにあっさりと。
一歩引き、大局を見渡してみれば、
何ら難しくない理に適っている事だ。
土御門「…………」
答えはまさに単純。
土御門は能力者。
そして能力者は天界の敵、ということだ。
更に土御門は、天界魔術師でもある。
つまり、個人の思惑がどうであろうと、天界側からすれば敵である以前に。
―――『反逆者』だ。
51 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:29:18.92 ID:1vkt1fk9o
土御門は、能力併用による負荷という『防護システム』を潜り抜けてきたネズミ。
そしてそんな立場でありながら、『力を貸してくれ』と特に隠れもせずノコノコ向かう。
敵の基地に浸入して、武器を分けてくれと声高に叫ぶようなものだ。
これ以上馬鹿な事があるか?
思い出される、あのアレイスターの言葉。
―――『視野の狭さ』と『思慮の浅さ』が『失敗』を招いた―――。
―――身の程をわきまえない、『無自覚の驕り』。
天界の内側を良く知らなかった、という点を責めることは難しいだろう。
所詮人間、その認識には限界があって当然。
しかし、だからといってコレがチャラになるわけが無い。
失敗は失敗だ。
土御門「…………」
そう、『また』だ。
『また』土御門は失敗したのだ。
ここぞという時に『再び』。
土御門「……」
金の枷は固く、どんなに力を篭めても動かない。
いや、体自体が動かなくなっていた。
天使達が現れた瞬間、その力なのか、体が石のように硬直しており。
52 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:30:16.02 ID:1vkt1fk9o
土御門「……」
気付くと、あの巨大な天使が土御門のすぐ前に立っていた。
土御門の上半身ごと握りつぶせそうな手で、大きな斧を頭上に掲げ。
今にも、この罪人に振り下ろそうかと。
「一切を失い、一切が見えなくなり、一切に関心をもてない―――」
「―――『怒りどころか絶望すら感じることの無い虚無』に堕ちた事があるか?」
かつてアレイスターがそう表現した『完全な敗北』が今。
己の身に―――。
―――とその時。
土御門「―――はは、はッ」
53 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:32:21.22 ID:1vkt1fk9o
どう足掻いても死、ただただ処刑の時を待つ罪人。
そんな者の口から漏れた軽い笑いは、処刑人である天使らをも困惑させた。
斧を掲げていた天使は、小首をかしげ。
周囲の天使達は、お互いに顔を見合わせては『ノイズまみれ』の言葉を交わす。
土御門「ははは、畜生が。どいつもこいつもうるせえな―――」
そんなギャラリーの様子などお構い無しに、
土御門はそう吐き捨てては、天を仰ぎ。
土御門「―――アレイスター!!!これがお前の言った『完全なる敗北』か?!」
声を張り上げた。
土御門「―――大したことねえなッッ!!!!!!!」
土御門「確かに俺は、またくっだらねえ失敗したが!!!!」
土御門「今の俺はな!!!!あん時の俺とは違う!!!!」
土御門「今の俺は知っている!!!隣で見てきた!!!この目で直にな!!!」
土御門「何回失敗しようが―――何度現実に叩きのめされようがこりもしねえで―――!!!!」
土御門「てめぇの女を守る為に!!!てめぇが死んでまで!!!そして悪魔に魂を売ってまでして地獄から舞い戻って―――!!!!」
土御門「―――勝てるわけねえ『最強』に正面から突撃するような『大馬鹿野郎』をッッッ!!!!!!」
54 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:33:54.12 ID:1vkt1fk9o
それはやけくそでも、最期の独白でもない。
土御門はただ、『諦めなかっただけ』だ。
それだけの事―――。
天に向けて激昂した後、ふっと己の縛されている両手に目を落としては、
土御門「わかってるぜぃ。今のこの状況が、どうしようもねえ死地だってのは」
いつもの舐めきったような笑みを浮かべつつ、手枷に縛された両手を地面に付け。
土御門「でもな、往生際悪くしねえとよ、俺は堂々と名乗れねえだろ―――」
その手に飛び乗るように、勢い良く体重をかけた。
土御門「―――あの『大馬鹿野郎』のダチってよぉぉぉぉお゛お゛お゛お゛お゛お゛ッッッ!!!!!!!!!」
その次の瞬間、鈍く湿った摩擦音と響かせながら。
支えられない方向から、強引に圧が加えられたその手の骨が外れた。
軟体動物の体の如く、手首から先が手枷をするりと抜け、
縛から解放される。
55 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:35:42.20 ID:1vkt1fk9o
更に予想外だったのか、小さな人間の行動が理解しかねるのか。
天使達の仕草に見える、より一層困惑した色。
そんな異形の様子など相変わらず無視しながら。
土御門はすかさず、まずは解き放たれた右手首を咥え、
口で起用に今度は骨を元に戻す。
土御門「んぐッ―――がッ」
精度よりも速度を優先したため、力加減ができずに歯がめり込み、
更なる激痛と共に血が滲むも、骨は見事に組みあがりまずは右手が使える状態に。
そしてその右手で、左手の骨を治す。
こうして土御門は両手は、瞬く間に自由を取り戻した。
続けて土御門は、
右手から滴る血をインクにし、即座に地面に術式を描く。
土御門「―――」
しかし魔術は起動せず。
上半身の墨で描かれた陰陽術式もまるで反応無し。
56 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:36:34.98 ID:1vkt1fk9o
ただ、これは薄々予想していた事である。
本物の天使がいるような場所だ。
天の力を借りる魔術が、人知を超えた何らかの理由で使えなくてもおかしくはない。
しかし。
土御門「(クソッタレ―――)」
魔術が使えないとなると、非常に厳しい。厳しすぎるか。
(天使相手に展開魔術、という時点で既に苦し紛れとも言えるが)
問題は足枷よりも首枷であった。
手のように骨を外すわけにもいかない。
枷とこの台座を繋ぐ鎖を断ち切るしかない。
そして更なる問題は、その切断方法。
手榴弾も拳銃も、全てあのフロアに置いて来たし、
そもそもそれらがあったとしても、枷や鎖はその程度で切断できるとは思えない程の厚み。
ましてや、生身の素手でどうにかできるとは。
だが、この場に一つだけ。
たった一つだけ、この鎖を容易に断ち切れると思えるものがあった。
それは『処刑人』の斧だ。
57 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:37:18.90 ID:1vkt1fk9o
目の前の天使の手にある、長さ5m以上の肉厚な斧。
あれならば、鎖など容易に切断できるだろう。
土御門「……」
天使が斧を振り下ろされた瞬間、両手を使って体をずらし、鎖を断ち切らせる。
失敗すれば、体がぶつ切りにされてしまうが、
この縛から完全に逃れるには恐らくこの方法しかない。
土御門は一度両手を軽く叩くと、吐き捨てるように口を開き始めた。
土御門「さて、ノコノコ敵地に突っ込んだ俺もそうだが、お前ら、俺以上に頭悪そうだな」
彼を見下ろして、小首を傾げている巨漢の天使へ向けて。
土御門「あー、人語わかるか?」
土御門「脳ミソ無いくせに、えらそうに人間様の上に立ってるんじゃねえよ―――」
締めくくりはニヤつきつつ中指を立て。
土御門「―――くたばれクソ天使」
この言葉。
天使が人の言葉を解したのかどうかは、土御門は知る術はなかったが。
土御門の挑発的態度の意味は伝わったようであった。
天使の口から漏れる、
怒りの色が滲んでいる地響きのような低い声―――。
58 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:38:35.26 ID:1vkt1fk9o
土御門「(さあ、来い―――)」
その五臓六腑に響く天使の咆哮の中。
斧のタイミングを読むべく、
土御門は天使の腕の動きに全てを集中―――。
土御門「(ああ、クソ―――)」
―――していたが、即座にそんな事など無駄、というのがわかってしまった。
『また』読みが浅かったとしか言いようが無い。
天使は斧を右手で振り上げてはいたが。
左手が土御門へ向かって、伸びてきたのだ。
手の平を大きく広げ。
土御門「(―――なんだよ、一応脳ミソあるんだな)」
手枷が外れた土御門の体を抑え込むべく。
―――と、その瞬間であった。
天使の大きなその手が、土御門の体に触れるかというその時。
一瞬、『黒い筋』のようなものが視界に映り。
直後、鋭い金属音と共に天使の指が『飛ぶ』。
土御門の首ほどの太さがある指が四本、
真紅の飛沫を撒き散らしながら、彼の頭上の前を舞い飛んだ。
59 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:40:06.73 ID:1vkt1fk9o
そして不思議な事に。
この瞬間、土御門の頭の中にはあの『白い狼』の姿が唐突に浮かんだ。
ここに来る前、薄暗いフロアにて最後に見た、あの『白狼』。
こっちの顔を真っ直ぐに見つめる、柔らかい温かみのある目。
この『楽園』の『不気味な美しさ』とは違う、生が感じられる親和感のある瞳―――。
土御門「―――」
そんな風に、頭の中の白狼に目を奪われていたところ。
土御門「なっ―――」
一体何が起こったのか、それを考える猶予など与えられることもなく、
舞っていた指の一本が、土御門の胸元へと落ちて来る。
後ろへと倒れこみながら、反射的に指を抱き抱えるように受け止めた。
そのうようにして視線が己の胸元へと向いた時、土御門は気付く。
己の上半身に描かれていた陰陽術式の、何もかもが『変わっていた』。
色は黒から『紅』へと―――。
―――形は文字列ではなく『隅取』状の模様に。
『紅い隅取』。
土御門がそう、己の上半身に目を奪われていた時。
指に続けて、更に落ちて来る物体があった。
それは、『処刑人の上半身』。
あの巨漢の天使の上半分であった。
60 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:41:04.99 ID:1vkt1fk9o
土御門「―――な…………ど……ッ!!!!」
驚愕。
まさにその一言に尽きる事態に、
土御門は跳ねるように『立ち上がった』。
そう、立ち上がることができたのだ。
体を縛していた首枷・足枷も、
いつの間にかぱっくりと割れ転がっていた。
土御門「……………………一体…………これ……は……!」
周囲を見渡すと、他の天使達も全部が上半身と下半身に分離し、
地面に転がっていた。
ピクリともせず、まるで置物のように。
ただ、ここにいる生者は彼一人だけではなかった。
土御門「―――」
広場の端から歩いてくる、一人の黒人の大男。
タトゥーが掘り込まれているスキンヘッドにサングラス。
ワニ皮の分厚く重厚なコート、という出で立ちの―――。
61 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:45:14.78 ID:1vkt1fk9o
土御門も人の事は言えないが、
それ以上にこの楽園に似使わない容姿であった。
どちらかというと、いや、まさしく悪魔的な雰囲気。
そんな格好の男はゆっくりと歩き、
地面に転がっている天使の亡骸へ目を落としつつ。
「―――この『一筆』。全く腕が鈍っちゃいねえ」
そう英語で口にした。
それはそれは地の底から響いてくるような、低い声で。
土御門「―――…………」
「何重も界を隔てていながら、それも片手間なんだろう?」
「『お前さん』も大した奴だな。つくづく思うぜ。よくもまあ、これだけの力を持ちながら一派閥の頭に甘んじてたなってよ」
その口調は、どう聞いても誰かに向かって話しかけているものであった。
だが他には生きている(ように見える)者の姿は無い。
ここには土御門とこの大男しかいないはずであった。
少なくとも、土御門が認識できる範囲では。
62 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:47:38.34 ID:1vkt1fk9o
「……ほう……よう、『この手』の仕事は俺の記憶が正しけりゃ、『カマエル』の軍団が担っているはずなんだが」
怪訝な視線を向ける土御門などお構い無しに、男は天使の死体を眺めながら、
「こいつらは四元徳直下の連中じゃねえか」
「開戦間近な時期に、わざわざこんな雑務に『能天使』まで送り込むったあ、よぉ」
まるで誰かに話しかけているように言葉を続けていく。
「注意しな。『お前さん達の蜂起』、連中は薄々嗅ぎ取ってるかもしれねえ」
そう男が一人話していたところ、
天使の死体が、突如沸騰しかかのように跳ね。
そしう泡を立てながら蒸発していき、そして跡形も無くなった。
「バカ正直な阿呆共だが、勘だけはいっぱしに鋭い連中だからな」
そんな天使の死体蒸発を眺め、そしてふッと小さく笑った後。
「さて…………坊主、『器』は問題ないな。『あいつ』の力もある程度受け取れそうだ。OKOK」
ようやく男は土御門の方へと向き、
今度こそ彼へと話しかけてきた。
土御門「………………コレをやったのはお前か?」
足元に転がっている、
切断された首枷を軽くつま先で小突きながら、そう問う土御門。
それが、男へ向けての彼の第一声であった。
「違うぜ。俺じゃあねえ」
土御門「……………………お前は?」
「俺か?『バーのマスター』だ」
63 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:49:34.52 ID:1vkt1fk9o
土御門「…………」
バーのマスター。
それが本当だとしても、明らかにそれだけではない。
この状況下では人間であるかどうかすら怪しい。
それに『器』という単語も引っかかる。
もしかすると、この上半身の術式の変化にも何か関係しているのかもしれない。
土御門「……ここはどこだ?」
「プルガトリオ。界と界の影が重なる狭間の世界だ」
「ああ、先に言っておくぜ。ここは、人間界とは時間の流れが違ってな。のんびりしてても大丈夫だ」
土御門「…………」
説明されたが、それが嘘なのか本当なのかも、今の土御門には判別できない。
情報が少なすぎる。
と、その時。
「ところでな、坊主、お前さんに頼みがある」
男がそう、藪から棒に話題を切り替え。
土御門「―――頼み?」
「天の門の解放、妨害しないでくんねえか?」
聞き捨てならぬ事を口にした。
土御門「―――」
64 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:50:55.84 ID:1vkt1fk9o
その突然の言葉に、土御門の思考が一気に活性化する。
この男は敵か―――?
―――天界側か?
では、周りの天使の死は?
そもそも、己を殺せば簡単ではないのか?
男の物言いから、己が学園都市の者であるということも把握しているか?
そして今、デュマーリ島にて勃発している戦いも把握している?
そう様々な分析と推測が彼の脳内巡るも、明瞭な答えは弾き出せず。
いや、一つだけ確かな事が固まりつつあった。
この発言で、男が人外である可能性がより濃厚になったのだ。
生身・無武装・魔術が使えない土御門に、優位性は皆無。
今の彼に出来ることは、おとなしく話を聞くしかなかった。
そうとなれば、
無駄な動揺も緊張もするべきではない。
土御門は腹から息を吐きながら、その場にあぐらで座り込み。
土御門「……頷くと思うか?」
65 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:52:21.73 ID:1vkt1fk9o
「……坊主。天界は嫌いか?」
男は土御門が立っている台座の端に寄りかかり、
再びぶっきらぼうに口を開いた。
土御門「………………わかるだろう?」
「ああ、そうだな。坊主の事は『全部知ってる』ぜ」
土御門「…………………………………………(全部知ってる……?)」
「そりゃあ嫌いだろうな。今の坊主の立場で、天界が好きって言える野郎は、タダの自殺志願者だろう」
土御門「…………」
「だがよ、その天界にも『イロイロ』あるんだぜ?」
土御門「何がだ?」
「魔界と同じだ」
「まあ、魔界ほど個性豊かではねえが、天界の連中にだってそれぞれ思うところがある」
「天界はアリの群れなんかじゃねえんだ」
「中には、お前さん達が好きで好きでたまらねえ連中もいるんだぜ?」
66 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:53:44.52 ID:1vkt1fk9o
土御門「……」
「大昔にもな、人間を救う為にその身を引き換えにした奴もいた」
『竜』に食われちまったのさ、と、
男は『右手』で左拳を覆うように掴む仕草をとった。
「馬鹿だが憎めねえ奴でな。それにとにかく強かった。それこそ一派の旗を背負えるぐれえな」
「人間界にも名が知れ渡ってる天使だ」
「まあ、『あの野郎』の本当の姿とその生き様を知ってる人間は、多くても片手で数える程度しかいねえだろうが」
土御門「……」
「それにお前さんをたった今救った奴も、そんな大馬鹿野郎の一人さ」
土御門「……その言葉、信じられると思うか?天界の連中が、本当に人間の為に何かした話は聞いた事が無いが」
「いいぜ。少し話してやる」
「坊主、ジュベレウスって知ってるか?」
「俺の……まあそこは良い。天界の大ボスだ。主神ジュベレウス」
土御門「…………聞いたことはある」
以前、アレイスターの口から出てきた名だ。
「じゃあ、今の天界はこいつの部下が牛耳ってるのも知ってるか?」
土御門「…………確か……四元徳、と言ったか?」
「そうだ。その連中が率いるジュベレウス派」
「セフィロトの樹の主導権はこのジュベレウス派が握っててな、」
「まあ、細かい話を無しにすれば、ジュベレウス派は全人類の命を常に握ってるってこった」
67 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:54:59.39 ID:1vkt1fk9o
「そして戦力もジュベレウス派が圧倒的」
「例えジュベレウス派以外の全ての派閥が反乱起こしたとしても、ジュベレウス派は容易に鎮圧できる規模だ」
「それにな、ジュベレウス派以外の連中が皆人間の味方とは言えねえ」
「実質は天界内じゃあ極々少数派、全体の1割にも満たねえんだ」
「人間に情が映っちまった阿呆共なんざ、ほんの一部にしか過ぎねえ」
土御門「…………」
「で、この状況でどうしろってんだ」
「ジュベレウス派の活動は、スパーダすら黙認してたんだぜ?」
土御門「…………」
「勝てないのをわかってて、それでも立ち向かうってのは確かに胸を打つ美談だがな―――」
土御門「…………」
「―――それも状況によるだろう?」
68 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:57:23.91 ID:1vkt1fk9o
「『もし負けたら』じゃねえ。『負ける可能性が高い』、でもねえ。『確実に負ける』んだ」
「自分達の命を代償にする『くらい』で勝利できる可能性があったら、連中は躊躇わずに反乱を起こしたろう」
「だがな、実際は絶対に勝てなかったんだよ。何をやってもな」
「どう転んでも、結果は『今よりも悪化』ってやつだ」
「んな風にな、確実に敗北することがわかってても人間の為に立ち上がれだと?」
「確実に負けて、その後どうなると思ってんだ?」
「『人間の為』に反乱が起きたんだぜ?じゃあその戦の後、『人間がそのまま無事』だと思うか?」
「いいや、そう甘くはねえのはわかるだろう?」
土御門「…………」
「連中が立ち上がらなかったその真の理由は、敗北する事自体を恐れてたからじゃねえ。ましてや、己の保身でもねえ」
「人間を守る為に立ち上がらなかった、それだけだ」
土御門「…………」
69 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 15:58:51.24 ID:1vkt1fk9o
土御門「……100歩譲ってお前の言葉が正しいとしよう。それで今、天の門を開く理由にどう繋がる?」
「最近な、俺の『知り合い』がかなり暴れてな。それで二つの好ましい結果が生じた」
「まず一つ目。ジュベレウスがおっ死んだ」
「これで、ジュベレウス派の支配体制の基盤がオシャカだ」
「二つ目。四元徳の内二人が潰れ、上級三隊に属する上位天使も大量にくたばった」
「これで派閥としての力の中核がかなり削がれた」
「こういうわけで、今こそ『その時』ってこった」
土御門「…………その時とは……具体的に何だ?」
「そこは言えねえ、というか『知らねえ』」
土御門「は?ふざけてるのか?」
「俺はな、頼まれて動いてるだけだ」
「大体、この事態の全容を把握してるのは多分『あの野郎』しかいねえ」
土御門「……」
70 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 16:00:06.03 ID:1vkt1fk9o
「蜂起しようって天界の連中も、ジュベレウス派も、魔界の列強共も俺もお前さん側も」
「『あの野郎』曰く、『中心』にいるんじゃなく『ピースの一部』に過ぎねえらしい」
土御門「その『あの野郎』というのは誰だ?」
「そりゃあ―――」
とその時。
『―――ダンテだ』
土御門の後方から、新たな第三者の声が飛んできた。
それは聞き覚えのある声であった。
実際は数回しか話したことがないが、決して忘れるわけがない相手のもの。
土御門「―――!!」
跳ねるように立ち上がりながら、後方の声が放たれてきた方へ振り向く土御門。
その瞳に映ったのは、銀髪に紺色のコートと。
身の丈もある大剣と異形の右手を有する男―――。
―――スパーダの孫、ネロ。
71 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 16:00:43.23 ID:1vkt1fk9o
突如現れたスパーダの孫は、左手にあるレッドクイーンを肩に掲げながら、
悠然と土御門の方へと向かってきた。
「おお、どのくれえ『片付けた』?」
と、そのネロへ向けて、大男はそう声を飛ばした。
ネロ『―――8割。「全滅」にはもう少しかかる』
土御門「……!」
ネロは、特に傷を負っているわけでも汚れているわけでもない。
だが熱気のような、目に見えない『戦闘の香り』をその身に纏っており。
瞳も赤みを帯びており、エコーのかかった声色も、
その力を解き放った戦闘状態であるということを物語っていた。
土御門「……」
明らかに、ついさっきまで激闘を繰り広げていたのは確実、と。
と、そんなネロの凄まじい威圧感を目の当たりにしていたところ。
土御門「………………………………………………」
土御門は脳が引き締まるが如く、
血の気が引くのを更にもう一段階上にしたような感覚に襲われた。
なぜかというと、キリエの件を思い出したのだ。
ネロは、キリエがデュマーリ島にいるということを知っているのか?。
彼女が今どんな状況なのか、土御門とどう関わっているのか、それをネロに知られると―――。
キリエは大丈夫と言ってはいたが、土御門はやはり不安を拭えないでいた。
いざこうして、戦気を纏った猛々しいネロを目の前にしていると。
72 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 16:05:37.64 ID:1vkt1fk9o
男にそっけなく言葉を返したネロは、視線を土御門の方へ向け。
ネロ『土御門。天の門は、今こそ開かれなくちゃならねえ「らしい」』
今度は彼へ、そう言葉を飛ばした。
土御門「……ダンテがそう言ったのか?」
土御門は低めの声色で、確かめるように言葉を返した。
キリエの事で一瞬ブレてしまった思考を何とか取り繕い、
決して表に出さないよう、冷静を心がけるよう内面では堪えながら。
ネロ『そうだ。天の門を開かなきゃ、「問題を先送りするだけだ」ってな』
土御門「具体的にどうなるんだ?」
ネロ『俺も詳しいことは知らない。そっち側は全部ダンテに任せてる』
土御門「ッ―――!知らないだと!?」
遂に、そこで土御門は声を荒げてしまった。
冷静を保つことはできず、堪えきれずに弾け出る内面の言葉。
この男も、このネロも。
その天の門開放に関する話が、
あまりにも投げやりに聞こえてしまったのだ。
土御門「―――ふざけるな!!!!舐めてんのかッッ!!!ああ゛ッ?!!!」
天の門開放は、すなわち学園都市の危機。
その街が滅ぶということは、土御門にとって人類滅亡と同義―――。
73 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 16:07:09.65 ID:1vkt1fk9o
ネロ『―――実は言っちまうとな、ダンテですら全ては理解してねえ』
激昂した土御門に驚く風なことも無く、
ネロは平然とそう続けた。
ネロ『むしろ行き当たりばったりだ』
土御門「ッ―――!!!!」
その言葉で、土御門が再び何かを言いかけた瞬間。
ネロ『―――いいか土御門、俺達が今対面してるのは、とんでも無くでけえ「魔窟」のほんの入り口だ』
ネロは台座に身を寄せ、土御門の方へと上半身を乗り上げて。
ネロ『中はどんな風になってるのかは知らねえが、バカでけえ爆弾があるってことだけはわかってる』
彼の瞳をジッと見据えながら、
揺るぎの無い言葉を連ねた。
ネロ『その中を見ずして扉を閉めてどうする?後でもろともぶっ飛ぶぜ?』
土御門「…………ッ!」
74 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 16:09:09.72 ID:1vkt1fk9o
そのネロの圧に、土御門は完全に飲まれていた。
ネロの赤みを帯びた瞳から、視線を逸らす事ができない。
沸騰したかという脳漿から、一気に熱が引いていく感覚。
ネロ『まあ、俺が言いたいのは「理解する前」に信じろ。理解なんざあとからついて来るってことさ』
この時、土御門はようやく気付いた。
ネロ『まずは信じろってんだよ』
今のこのネロが。
ネロ『「こっち」に来い。楽だぜ?気分がノッてくる』
己が『知っているネロ』とは、明らかに違っていたことに。
土御門「……………………お前は、理解していないのになぜそこまで信じれる?」
土御門はその感覚を胸に、ネロにそう問うた。
そして返ってきた答えは。
ネロ『ん?…………どうだろうな…………「何となく」だな』
土御門「―――」
75 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 16:10:25.56 ID:1vkt1fk9o
この『大きさ』、『安定感』―――。
一見すると適当なようでありながら、
実は揺るぎの無い、確たる芯が通っているその物言い、佇まい、表情、雰囲気。
理なんかどうでも良くなり、
全てを委ねたくなってしまうようなこの圧倒的な包容感。
初めてでは無い。
以前にも、とある人物から感じたことがある。
それは―――。
ネロ『―――まあ、そういう気分なんだ。「気まぐれ」さ』
―――ダンテだ。
今のネロは、ダンテと『同じ』であった。
76 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 16:12:13.42 ID:1vkt1fk9o
ネロ『そうだ。そういえば。悪ぃな』
と、その時。
ネロは乗り出していた身を起こしながら、思い出したようにそう口にした。
土御門「な、何がだ?」
ネロの変貌に心奪われていた土御門にとっては、正に意表を突く言葉。
だが、その後に続いた言葉は、彼を更に驚かせた。
ネロ『―――キリエ、ああなるとてこでも動かねえんだ』
土御門「…………な……………………し、知ってるのか?」
ネロ『「全部知ってるよ」』
ごくあっさりと。
ネロはそう、当たり前のように返答した。
先ほど、スキンヘッドの男が発したのと同じ言葉で。
土御門「―――!!!」
そして。
ネロ『―――ありがとな。土御門がキリエに会っていなきゃ、俺もウダツが上がらなかったろうぜ」
礼を口にした。
77 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 16:15:23.13 ID:1vkt1fk9o
土御門「―――」
礼の後に続いた言葉。
それでこの瞬間、土御門はある事を悟った。
この短期間、いや、ここに来るまでネロが一体何をしていたのかはわからない。
ネロが、どのようにして土御門やキリエの一挙一動を知ったのかもわからない。
だが彼が、土御門と同じように苦難や困難に喘ぎに喘いで苦悩して、
そこに『何らかの要因』があって、その果てで今の境地に越えたのは確かだ。
そしてその要因こそ。
全てを占めると確実には言えないものの、その大部分こそ。
ネロが、境地に踏み入れるその一歩を押し出した力こそ。
土御門「(キリエ嬢。やはり破格の人だったか)」
破格の器を有した女史、キリエなのだろう。
事実、彼女の言葉は正しかった。
今のネロは、まさに彼女が知っていると称したネロそのものであった。
78 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 16:16:12.59 ID:1vkt1fk9o
ここまで見せられてしまっては。
ここまで、大器共を見せ付けられてしまっては。
土御門「―――ははは、参ったにゃー」
返す言無し。
なす術無し。
理はひとまず置いてその大船、乗るしかない。
そう認めた瞬間、体から緊張が抜け頭の中が澄み渡っていく感覚。
そして、腹の底から湧き上がってくる心地の良い高揚感。
さっきネロが言ったとおり、正に『気分がノッてくる』、というところか。
土御門は右手で頭を掻き、いつもの軽い調子で笑い声を挙げ。
土御門「―――わかったぜよ。信じてみようか」
そう、特になんでもないように返答した。
79 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 16:17:50.91 ID:1vkt1fk9o
ネロ『はは、よし、簡単に話すぜ』
小さく笑いながら再びネロは身を乗り出し、
右手人差し指で土御門を招く仕草をとり。
ネロ『あんた達に任せたいのは、人造悪魔の件だ。現在進行形で一番ヤバイのはあれだ』
土御門「…………」
それは土御門も感じていた。
土御門の出撃時で既に、日本本土が戦場となるのも時間の問題であった状況。
あれでは、天の門とその軍勢の話が無くても、学園都市そのものはどのみち壊滅してしまうだろう。
一方通行や上条などの一部の強者は生き残れても、だ。
ネロ『そこであんた達には、制御核に侵入して全ての人造悪魔兵器を止めてほしい』
ネロ『帰ったら今まで通り作業を続けてくれ。アレは、あんた達しか手を出せねえだろう』
だからこそ、これ以上戦火を広げない為には、制御核から停止命令を放つしかない。
ただ制御核を破壊するだけでは、世界各地の人造悪魔は停止しないのだ。
土御門「OK」
ネロ『それでアリウスと覇王、そして「スパーダの片割れ」は俺がケリをつける』
土御門「……スパーダの片割れ?」
80 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 16:19:32.12 ID:1vkt1fk9o
ネロ『ああ、言ってなかったな。魔界の門も成り行きで開くんだ』
ネロ『気にしないでくれ。こっちの門も開かれなきゃなんねえらしい』
ネロそう、あっさりとまたすごい事を告げた。
土御門「は、はは、な、なるほど……つまり、門関係は手を出すなって事だな?」
ネロ『そうだ。放っておけ』
土御門「……天の軍勢……とかも何とかなるんだな?本当に良いんだな?」
ネロ『ああ。そっちはダンテの仕事の領分だ』
ネロ『いいか?俺達は俺達の仕事を的確にこなす』
ネロ『俺達がミスったら、ダンテも失敗する。そういう事だ』
土御門「……OK。把握したぜい」
81 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 16:20:50.21 ID:1vkt1fk9o
そこで打ち合わせは終了。
ネロ『あー、実はな、俺はもうちょっと仕事が残っててな』
ネロは即座に身を起こし、レッドクイーンのアクセルを吹かしつつ踵を返し。
ネロ『もうしばらくしたらそっちに行くぜ』
そして現れた方向の広場の端へ足早に向かっていき。
ネロ『そういう事だ。死ぬなよ?』
立ち止まって半身だけ振り返り、
横顔を土御門に向け。
土御門「ああ」
ネロ『―――任せた。土御門』
そう、小さく笑いながら言葉を飛ばした。
軽い調子でありながら、良く響く芯の通った声色で。
その直後、彼の周囲に赤い魔方陣が浮かび上がり。
そして彼の姿が掻き消えていった。
82 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 16:21:41.13 ID:1vkt1fk9o
そんな風にしてネロの姿が消えた後。
「さてとだ、お前さんも向こうに戻してやる」
台座に寄りかかっていた、あのスキンヘッドの大男が口を開いた。
土御門「……今更だが、お前は何者なんだ?」
「なあに、さっき言っただろう?バーのマスターだ」
土御門「………………」
どうやら、
この男は意地でもそう通す気らしかった。
そこで土御門は話題を切り替えたが。
土御門「……他にも聞きたいことがあるんだが、俺は―――」
「ああ、大丈夫だ。戻ったら魔術使えるぜ」
男はそう、土御門の言葉を先回りして答えた。
土御門「本当か?」
「ああ。お前さんが『要求してた力』じゃねえが、まあそれの『最上位互換の特上級』だ。問題はねえ」
土御門「最上位互換……?」
83 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 16:22:23.31 ID:1vkt1fk9o
「そうだ。お前さんは『超大物』に気に入られたんだ。その『紅い隅取』が証だぜ」
土御門「……大物?一体―――」
「そいつは、今回の天界内における蜂起のリーダーだ。俺の知る限り、天界一人間を愛してる大馬鹿野郎だぜ」
「お前さんはもう会ってるはずだがな?ここに来る前、そしてさっき天使がぶった切られた時、何かを見なかったか?」
土御門「何かを……」
ここに来る直前、最後に目にしたのは―――。
―――あの『白い狼』
そして天使たちが寸断される瞬間、その白狼の姿が頭の中にも―――。
「―――そいつはな、『太陽』さ」
最上位互換の特上級。
太陽。
そして『白い狼』―――『白野威』―――。
土御門「―――」
そこまで来て、土御門は遂に思い至った。
これらの情報が示す存在は?
それは即ち―――。
84 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 16:22:57.90 ID:1vkt1fk9o
土御門「―――ま、まさか――――――!!!!」
その名を、男に問いただそうとした瞬間。
突如、意識が乱れ始めてくる。
強烈な酔いが回ったような、周囲の認識が薄れていく。
上も下もわからなくなり、己が今立っているのか座っているのかさえも。
「―――おっと、言葉に出すなよ。そいつの『真名』は、ここぞと言う時まで胸に閉まっておけ」
響いてくる男の声も。
「―――ということでそろそろ時間だ。戻りな」
徐々に認識できなくなり。
土御門「―――待て!おい!どうッッ―――!」
「あばよ。坊主―――」
そして、意識が完全に途切れた。
―――
85 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 16:24:49.37 ID:1vkt1fk9o
―――
溢れていた光がぷっつりと途絶え、
急に暗くなる視界。
おぼろげな、空間と時間の認識。
そんな淀んだ思考も、すぐに一気に覚醒する。
滝壺『―――めッッ!!!!!!』
耳の通信機から響く、滝壺の声によって。
土御門「―――ッ!!!」
気付くと。
そこはあのフロアの中央であった。
そう、AIMを剥ぎ取り、術式を起動した薄暗いフロア。
土御門「………………………戻ったのか」
86 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 16:26:15.39 ID:1vkt1fk9o
いや『戻った』というが、果たして本当に『行っていたのか』、
確たる実感が無かった。
周囲の状況を見る限り、
時間も『行って帰ってくる』まで一秒も経っていないようだ。
ここまで現実感が無いと、
あれは幻覚・夢のようなものでは?と、ふと思ってしまう。
だがその可能性は、フロアの端に立っていたシルビアの言葉が否定した。
シルビア「あ、あんた……その体…………」
滝壺『…………ん……あ、あれ????』
土御門「…………」
あれは夢ではなかったようだ。
己の上半身にはあの『紅い隅取』。
手首を見ると、骨を外した名残の腫れ―――。
そして。
『白く美しい毛』が数本、1m程前の床に落ちていた。
87 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 16:27:00.65 ID:1vkt1fk9o
―――全てが現実。
土御門は勢い良く面を上げ、
その『目』で、驚きで呆けているシルビアの顔を視た。
土御門「―――は、はは」
その瞬間。
瞳に入って来る、シルビアが纏っている術式の情報。
―――『目』は完全に起動していた。
土御門「―――ははははは!!!!!滝壺!!!俺の信号は問題ないな!!!?」
そう弾けた様に声を挙げながら、土御門はシルビア、
そして彼女の後方のレストランへと足早に向かい始めた。
滝壺『えッ……あ、うん、だいじょうぶだよ』
土御門「そうか!OK!シルビア!!!!はじめるぜぃ!!!!」
88 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/01/29(土) 16:27:39.13 ID:1vkt1fk9o
そう、ずかずかと歩み寄ってくる土御門に圧倒されるように、
シルビアは後ずさり。
シルビア「―――本当に大丈夫なのか!?何がどうなった!?」
シルビア「土御門、何か変だぞ!急に……その術式だって……!それになんか雰囲気が……!」
土御門は、そんなシルビアの横を過ぎるところでふと足を止め、顔を向けぬまま。
土御門「説明すると長くなるんで端折らせてもらうが、」
土御門「『処刑未遂』と『出会い』、そして色々あって、俺もその心持を改めたってわけでな」
シルビア「処刑未遂??出会い?……出会いって、だ、誰に?」
土御門「スパーダの孫と、スキンヘッドのごついバーマスターと、最高神の一柱だ」
シルビア「―――………………………………はあああ?」
土御門「まあ、そんなこんなで、俺はわかったんだ」
シルビア「…………何がだよ?」
土御門「俺たちは孤軍なんかじゃねえ―――」
土御門「―――この戦、勝てるぜよ」
―――
89 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/29(土) 16:28:21.04 ID:1vkt1fk9o
今日はここまでです。
次は早ければ、来週の火曜日の夜に。
90 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/29(土) 16:29:45.59 ID:8XKPSK6Ao
まさかこんな時間に投下とはな…
おつです
91 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/01/29(土) 16:30:09.41 ID:SsLOga9C0
アマ公ー!!俺だー!!大好きだー!!
乙かれさまでした!
92 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/29(土) 16:33:11.82 ID:s8rrjpK1o
大神ktkr!!
そして土御門覚醒でワクワクが半端ない・・・!!
93 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/01/29(土) 16:33:51.31 ID:sjpuhM16o
先が楽しみです。
更新おつかれさまでした。
94 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/29(土) 16:42:15.20 ID:ecu1R4fDO
つっちーさん大覚醒でやばい。かっこ良すぎる
あとアマ公モフモフさせてくれ
95 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/29(土) 16:58:11.04 ID:RDPDnfgAO
土御門が格好良すぎて(俺が)死にそう
誰か助けて!
96 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/29(土) 18:06:15.55 ID:BmVH1TLAO
今回も面白かったわー
でも天の門が開くってことは最低でもあと一回は禁書が拉致られちゃうってことだよぬ
カミやんも大変だにゃー
97 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/29(土) 19:04:21.57 ID:zIG63gtDo
乙乙
98 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/01/29(土) 19:11:07.79 ID:hPE41vzR0
今のつっちーだったらアリウスに勝てんじゃね?
99 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/29(土) 21:32:21.52 ID:M2qdb21R0
一週間待ったモヤモヤが一発で吹っ飛んだ。
つっちーヤバカッコヨス乙
100 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/30(日) 00:19:01.44 ID:QcShjRL4o
うおおお!すっげぇ!!
乙した!!
101 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/30(日) 04:13:02.07 ID:L4jG3oC+0
やべぇかっけえ
乙です
102 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/30(日) 21:06:52.54 ID:vhBw1O++0
うおおおなつい!!
大神さまくるぅーーー
103 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/30(日) 23:10:50.21 ID:Y8Hwv2uCo
この1、出来るな
ここまで自然にアマ公を絡ませてくるとはww
104 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/30(日) 23:16:26.96 ID:5wxCQGhR0
我等が慈母は蜂起側のリーダーだったのか!
つっちーの隈取は筆神…というかベヨのルカってことでいいのか?
105 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/31(月) 02:19:00.87 ID:YZhPOGY2o
ようやく追いついた。アツすぎる展開だああ
106 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/31(月) 07:44:20.97 ID:jYD7Ex1DO
>>104
ねーよwwwwww
107 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/01(火) 20:28:58.01 ID:7vIRWaTAo
夜だー!楽しみだー!
108 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/01(火) 21:42:26.94 ID:r5Yr2MhAO
アマ公て何?
109 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/01(火) 22:00:36.70 ID:NCfsTJDdo
>>108
早く大神でググッて密林でポチるかパッケージ覚えてゲーム屋梯子する作業に入るんだ
110 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/01(火) 22:39:59.52 ID:br3af6Yc0
>>108
つ
>>21
111 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/03(木) 00:17:10.80 ID:JMDUFqYLo
ちょっと読み返すか一番最初のスレから
112 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/03(木) 15:52:35.38 ID:5yDc497AO
>>109
>>110
あぁあの狼かサンクス
てっきりボルヴェルグの手下かと
113 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/03(木) 17:41:42.22 ID:dfK4r7CDO
>>112
ボルヴェルグさんは暴走したハイパー神裂にぼこされたからなぁ
114 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/04(金) 12:14:56.98 ID:ApVVX23AO
フレキとゲリか
素早かったけど難敵ではないな、銃撃ってりゃコロせる
115 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/04(金) 15:16:19.22 ID:Fuk3a0u60
っていうか2の敵は大体そんなんじゃないか……
苦労したのは3つ首くらいや
116 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/05(土) 16:24:08.09 ID:2q+Fx0rDO
ふと思ったが、禁書の二次創作で、何回も上条さんが死にかけたり死亡したりする作品ってあるかね?
117 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 22:59:23.75 ID:3MdOcqjzo
―――
キリエの行動から始まった、この『状況の崩壊』。
積みあがっていた事案を悉く叩き壊し、
大前提を全て白紙に戻してしまうリセット。
ルシア、佐天、ネロ、土御門を始めとして、
それは瞬く間に周囲に伝播していき。
誰しもにとって『良くも悪くも』、それぞれの新たな物語の始まり、
もしくは折り返し点の『きっかけ』となる。
もちろん。
アリウス『……』
この男にとっても。
アリウスも当然『それ』を感じていた。
いや、『この島全体を覆っていた力から報告を受け取った』、と表現した方がいいか。
とにかく彼は知った。
ガブリエルの化身となったアックア、アラストルと同化状態にある麦野、
そしてアリウス最高傑作であり『できそこない』でもある人造悪魔ルシア、
この三者の猛烈な攻撃の中で。
突如莫大な天の力を帯び始めた、とある少年の存在を。
アリウス『……』
振るわれる刃や放たれる光の矢。
それらをすり抜かしては魔道兵器の触手や魔術で退けつつ、
アリウス本人はその場を一歩も動かずにその少年を分析し始めた。
118 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:03:32.99 ID:3MdOcqjzo
少年は、学園都市からやってきた部隊の一員だ。
その行動からみて、幹部もしくは指揮官の一人であろうか。
いや、そのような身分はさして問題ではない。
重要なのは、非常に優れた魔術師である、ということだ。
まさか能力者部隊に魔術師が混ざっていたとは。
アリウス『…………』
しかもその少年。
非常に優れた魔術師なのは間違いないのだが、
力の性質が今のアックアとも、
遠方のビルの上からこちらを『見ている』オッレルスとも違っていた。
天界から供給されている力、という点は同じであるが、その供給プロセスが全く違うのだ。
アックアとオッレルスの使用している魔術も、実は一般的な天界魔術とは大きく異なる。
その仕組みは、天界との独自のパイプを形成し、セフィロトの樹を介さずに直接引き出す、というものだ。
ただその仕組みが違えど、供給元は一般的な天界魔術と同じ。
天界側は、要求されたからその分を与えているだけ。
そこに確たる『意志』は無く、示すのはプログラム的な反応であり、
人間が何にその力を使うかまではいちいち意識を向けていない。
だが、この少年の場合は供給元から明らかに違う。
どちらかというと、魔女の『魔獣契約』のそれに似ているか。
明らかにその供給元の意志が絡んでいるのだ。
天界側のその存在が、自ら少年に力を分け与えている。
アリウス『……』
そして、それはつまり。
天界の存在の意志に、直接アリウスの今の行いが見えてしまう、ということ。
119 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:05:00.12 ID:3MdOcqjzo
アリウスは身分を偽って天界の門を開けようとしている。
それが『見られている』という事になるのだ。
いや、既にその供給元の存在は、状況をある程度把握しているだろう。
何も知らずに少年に力を分け与えるはずが無い。
そして状況を把握している、ということは、
アリウスが天を脅かす、完璧な魔界サイド側であることぐらい当然わかるはずだ。
では、天の門開放の作業が、今も滞りなく進んでいるのはどういうことなのか。
ジュベレウス派も全て容認済みで、アリウスだけを潰そうとしているのか。
それとも供給元が、ジュベレウス派とは関係なく独断で力を与えているのか。
前者の場合は考えにくい。
アリウスの周辺を洗えば、必ずフィアンマの存在にも触れるはず。
そしてその目的は、天界側からすると決して許すことのできない『災い』。
ジュベレウス派がそんな事を黙認するはずもないし、
彼らの性分を考えても、全貌が把握できぬまま前に進むことは考えられない。
ならば後者だ。
天界内では今、その意志が統一されていない、という事だ。
120 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/05(土) 23:06:33.83 ID:XLzZnsgG0
キター
121 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:08:11.50 ID:3MdOcqjzo
ガブリエルの力を見る限り、
人間界管理の最大勢力、十字教の派閥に関しては特に変わりは無いようだ。
依然、ジュベレウス派の意志の下にある。
アリウス『……』
だが、この小さな『不穏』は非常に重要な事案となるだろう。
四元徳を頂点に置く支配体制の揺らぎは、
ジュベレウスが滅びてから常々囁かれてきた事。
しかし、こうして実際にその片鱗が見え出したのは、これが初めてとなる。
天界内の不穏な動きそのものが、
人間界時間に換算すると実に数千万年ぶりだ。
『ファーザー』と呼ばれていた存在と、
それに続いて、かのオーディーンを筆頭とする武闘派の神々・天使達が、
こぞって魔界に堕天した騒ぎ以来である。
と、少年のその力の質一つとってみても、ここまでの情報が分析できるが。
アリウス『……』
今現在、アリウスにとって天界内の事情は特に重要なことではない。
重要なのは、そんな力を受けている少年とキリエの関係だ。
『その少年にキリエが利用される』、という事だ。
しかも彼女自身が進んでその役を。
呪縛を解くのではなく、制御核侵入のための鍵へと。
122 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:11:28.04 ID:3MdOcqjzo
そしてそれがネロの承諾の上だとすれば、この状況は大きく覆るだろう。
いや、『だとすれば』でも『だろう』でもない。
ネロは確実に知っているはずだ。
あの少年と接触したはずなのだ。
微かにだが、スパーダの孫の力の残り香が少年に付いて回っている。
その上で少年はぬくぬくと作業を続けようとしている、ということが正に物語っているではないか。
アリウス『……』
今、アリウスの周囲の『大前提』が音を立てて崩壊していく。
積み重なってきた様々な事柄が崩壊し、状況が白紙に戻る。
ネロがこの瞬間、ここに現れるかもしれない。
制約を蹴り飛ばしたあのスパーダの孫は、今この一瞬でアリウスを寸断しかねない。
ここにきて、あのスパーダの孫は全て『一飲み』にしたのだ。
アリウスが用意した『舞台装置』の事如くを。
苦悩も制約も笑い飛ばして―――。
123 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:13:29.95 ID:3MdOcqjzo
―――いや。
いいや。
違う。
今の表現には、一つだけ間違いがある。
実は、『舞台装置』の『全て』が飲み込まれたわけではない。
ネロが飲み込んだのは、実はどうでも良い小物ばかり。
ただのアクセサリーだ。
そしてネロは『逆』に飲み込まれたのだ。
アリウスが用意した、唯一最大の『舞台装置』に。
それはキリエ。
キリエこそが、アリウスの『舞台装置』。
スパーダの孫の最愛の人がこのデュマーリ島に存在し。
状況の核の一つとなることこそ、アリウスの本命である―――。
124 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:17:40.37 ID:3MdOcqjzo
とはいえ、アリウスのその『筋書き』は続きがない。
最後の文は、彼女がこの状況の核へと触れるところまでである。
今の状況は想定内なのか・予想していたかどうかと問われれば、
アリウスは首を横に振らざるを得ない。
しかし、『どうなるか』は想定していなくとも、『そうなること』は想定済み。
むしろ、その先の『未知の領域』こそが、アリウスの求めた『最期の舞台』。
これぞ最大の敵と定めた『ネロの為』、そしてその存在に挑む『己が為』の『舞台』なのだ。
全てを『チャラ』にし仕切りなおしたキリエの行動により、
全ての者が解き放たれる。
ネロも。
そしてアリウスをも。
全ての者の立ち居地が平等に0。
誰でも手を伸ばせば、そこには望むことを成し遂げられる光がある。
そんな何もかもが剥げ落ち、全てが平等になった今こそ―――。
―――本当の『強』が露になるのではないのか?
心も。
力も。
体も。
技も。
器も。
運も。
それらが本当に試されるのだ。
この状況こそ、アリウスが進むべき境地への入り口。
先は極限の域。
見えるは究極の高み。
彼が全てを懸けて求めし『証明』が―――。
―――ここからの『勝利』の先にある。
125 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:19:14.60 ID:3MdOcqjzo
アリウスは。
アリウス『ッ―――』
戸惑うのでもなく焦るのでもなく。
恐れるのでもなく。
アリウス『―――ははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!』
歓喜した。
この時を待ち望んでいたのだから。
『証明』はここから始まる。
確率論など最早無意味。
合理的・論理的な分析など、今やさして重要なことではない。
筋書きも先読みもほどほどにし、基本的に思うがままに進むのが一番良い。
己が真理に従うのみ。
己が魂の声に従うのみ。
ここから先はカオスであり無。
あえて確率で示すならば、結果は100か0の二通りのみ。
『勝つなら勝つ』。
『負けるなら負ける』。
それだけだ。
126 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:21:00.58 ID:3MdOcqjzo
何かを見落とし、何かを見誤っているのか?
誰の意志が絡み、己は誰かの策の上にあるのか。
誰かに良いように誘導されているのか、嵌められているのか。
その首謀者は誰か?
ダンテか?バージルか?アンブラの魔女共か―――?。
―――それともフィアンマか?
アレイスターならばここで一度立ち止まり、状況を分析し整理するだろう。
そして筋書きを細かく修正するはずだ。
そもそも彼ならば、こんな状況など絶対に作り出そうともせず、
何が何でも避けようとするはず。
確かにアレイスターはギャンブル性が強いが、それは『計算した上』でのこと。
彼の中では、賭けに興じる前に既に確率と結果が導き出されている状態であり、
彼が最も嫌うのが『未知』なのだ。
だがアリウスは違う。
とことん大胆にかつ『計画的』に未知を『求め』、そして飛び込んでゆく―――。
127 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:23:31.43 ID:3MdOcqjzo
アレイスターが唯一己に匹敵し、そして超えうると認めた魔術師であるアリウス。
そんな彼は、アレイスターが『限界を知らぬ者』と称した『偽りの成功者』に区分されるだろう。
身の程をわきまえない、過信に満ち溢れた愚か者、と。
しかし、アリウスはそんなアレイスターの論理など真っ向から否定する。
限界など知ってしまったら、それは己の中で認めてしまうことになる、と。
自身の力が及ばぬ領域の存在を。
アリウスからしてみれば、それではダメなのだ。
『挑戦者』は、限界を知ってはいけない。
『挑戦者』は、決して身の程をわきまえてはいけない。
とことん非礼であり無謀であり愚かであり冒涜的であるべき。
それが弱者よりの下克上、『抗う』ということ。
それが、『高み』に昇るということ。
『最強の証明者』は、限界などあってはならない―――。
『全能を求めし者』が、限界など見てはならない―――。
アレイスターの物言いは、所詮『敗者の席』から。
だがアリウスは違う。
彼は自負している。
己は敗者ではない、と。
今までも勝者であり続けてきた。
そしてここからも勝ち続ける―――。
―――『人間』として、と。
128 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:25:35.78 ID:3MdOcqjzo
突如弾けたように笑い声を挙げたアリウスを見、
麦野、アックア、そしてルシアは警戒の色を見せて即座に後方に跳ね、彼から距離を置いた。
そんな彼らを、遠くを見るような目で見ていくアリウス。
そしてルシアの姿を瞳に捉えた所でふと、彼は思った。
ルシア。
あの失敗作と断じたχの存在も。
そしてこの舞台には到底相応しく思えなかった、あの『道化まがいな少女』も。
因果は固く結び合わさっていたようだ。
全てが重要な要素。
どれかが欠けていたら、今の状況には成りえなかったのだ。
アリウス『面白い―――』
アリウスは葉巻を燻らせながら、
心底楽しそうに笑った。
アリウス『まさに意外性と驚愕と発見の連続、か―――』
純粋に。
アリウス『―――「人の生」はどこまでも俺を楽しませてくれるな』
己の、人としての情欲にただただ素直に。
アリウス『―――これだから「人」は辞められん』
129 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:27:44.60 ID:3MdOcqjzo
アリウスの笑いとその言葉の意図がわからず、
三者はそれぞれ怪訝な表情を浮かべ、更に警戒の色を濃くした。
そんな彼らの様子など全く気にも留めず、
アリウスは即座に作業に移る。
覇王の封印が解けるまであと3分としているが、実は封印はもういつでも解ける段階だ。
この3分とは、アリウスと同化するための下準備のものだ。
術式を確認し、安定を確保し、滞りなく馴染む為の。
当然ここをすっ飛ばせば、様々な危険が及ぶ。
取り込みが不完全で負荷によってその命を落としたり、いや。
確実に凄まじい過負荷に襲われ、精神汚染に苛まれるだろう。
だが、そんな事など今やどうでもよい。
失敗する可能性があるから何だ?
勝ち続ければ良いではないか。
何を迷う道理がある?
今この瞬間にもネロが現れうる事を考えれば、これは至極当然の判断だ。
そしてアリウスは迷い無く決断した。
今から封印を解き、同化を開始すると。
130 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:28:32.41 ID:3MdOcqjzo
アリウスは周囲の三者などまるで気にも留めず、
トレードマークであった葉巻を吐き捨て。
その場で静かに、無言のまま両手を広げた。
次の瞬間。
彼を中心として半径500m程の地面、
瓦礫散らばるその表面が、一瞬で黒く平らなものに変わった。
まるで黒曜石の一枚岩が敷かれているかのように。
そして、赤い光で形成された文字列がびっしりと浮かび上がっていく。
アリウス『……』
ムンドゥス、スパーダに続く、かの魔界頂点の三神が一柱であり、
その中で唯一完全なまま生き残っている存在。
夢幻と現実、精神と体の境を越える特異能力を有する、『絶望の具現者』。
あの魔界をたった数ヶ月で3分の2も掌握してしまう、そんな絶大な力を誇る『覇者』。
覇王アルゴサクス。
その完全復活が、ここに始まった。
―――
131 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:30:34.91 ID:3MdOcqjzo
―――
アラストル『―――終わりだ。退こう』
揚場のない声で淡々とそう告げる、魔剣の声の中。
アックア『…………』
その直後、アックアは黙したまま地面を蹴って跳ね、
どこかへと姿を消し。
麦野『…………まさか……もう……なのか?』
麦野は呆然としながらも、右手にあるアラストルへ今一度問いただした。
アラストル『そうだ。覇王の復活が始まった』
そして再び叩きつけられる、どうしようもないほどに非情な現実。
アリウスの見た目の変化と言えば、
地面ぐらいであり、両手を広げているアリウスには何ら変わりはない。
むしろあの光のうねりなどが消えた為、先ほどまでよりも無害に思えてしまう。
だがそれは見た目だけであった。
皆は、その見た目の裏にあるものの片鱗を確かに感じ取っていた。
132 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:33:08.23 ID:3MdOcqjzo
それは言い知れぬ悪寒。
強大な、計り知れないほど大きな何かに触れる、
その浮遊感と抑圧感が入り混じった形容し難い感覚。
アリウスへ向けて空間が沈んでいくような錯覚。
いや、本当に界が歪んでいるのかもしれない。
人間界の理から外れ、
分離してしまったとも言える魔境と化したこの島世界でさえ、大きく軋むほどのこの『何かの変動』。
三者とも、はっきりとその身で感じていた。
理屈はわからずとも、本能が告げている。
今のこの段階ですら、アリウスは既に手が出せる領域ではなくなっている、と。
麦野『いや……まだ…………』
麦野にとってはまさに認めたくない現実。
諦めきれない心が、未だ幻想にしがみつこつとうするも。
アラストル『退いてくれ』
しかし現実は現実。
麦野『………………ぐッ……』
アラストル『―――退け!!!!!!』
麦野『―――ッぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛クソッッッ!!!!!』
133 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:35:19.51 ID:3MdOcqjzo
麦野は己に向け、その迷いを払うかのごとく吼えた後。
麦野『―――おいガキィ!!!!!!!退く―――』
声を張り上げながら、その言葉の対象の人物の方へと向けたが、
口が途中で止まってしまった。
麦野『(―――)』
ルシアのその姿を見てしまったからだ。
彼女は微動だにせず。
目を見開き、真っ直ぐにアリウスを見据えていた。
いや、凄まじい憤怒を漲らせながら睨んでいた。
曲刀の柄を握る小さな手、その指の間から軋む音と共に血が滲み。
魔人化状態の、鳥人のようなその体。
逆立つ表面の羽の一枚一枚が、彼女の中に湧き上がっている滾りの証。
噛み締めたその口は、歯が砕けそうなほどに固く、
そして小刻みに震えていた。
134 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:37:34.58 ID:3MdOcqjzo
麦野にとって、アリウスは敵意の象徴である。
しかし、アリウスという人物自体に対しては実は何も思っていない。
立場上の敵であるだけなのだ。
だが。
ルシアは違っていた。
アリウスに抱くのは、『敵意』を超えた絶大な『怒り』。
あの男がどういう人物かとことん知っているからこその、その身を滅ぼしかねない凄まじい怒り。
彼女の中では今、そんな憎悪が今にも爆発しそうになっていた。
このまま無策で突っ込めば確実に死ぬ。
そしてそれは、状況的には犬死である、というのはわかっている。
しかしその一方で。
『殺意』という怪物が、今にも彼女を内側から食い破ろうとしていた。
激情による衝動と、理性による抑制。
ルシアの精神状態は今、まさにギリギリの状態であったのだ。
135 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:39:17.20 ID:3MdOcqjzo
麦野は、ルシアという少女のことなどほぼ全く知らない。
その生い立ちがアリウスと関係している事すら把握していない。
ルシアに対しては、
トリッシュ達のような悪魔でありながら人のために戦う者、というぐらいの認識しかなかった。
麦野『(―――あのガキ―――)』
しかし。
これだけは知っている。
いや、たった今のルシアの姿を見てわかってしまった。
その『激情』―――このままでは、確実にこの少女はアリウスへと突っ込む、と。
麦野『(―――よせ―――ダメだ―――)』
度を越えた怒りは全てを破壊する。
己ばかりではなく、周囲にまで伝播しそのこと如くを。
この種の激情の危うさは、麦野は『良く知っている』。
非常に良く。
『その身』をもって。
136 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:40:31.76 ID:3MdOcqjzo
麦野『―――チッ!!!!』
もう言葉が届く状態ではないとすぐに悟った麦野。
腰にアラストルを差し込みながら地面を蹴り、
一瞬でルシアの後ろへと着地し。
そして空いた右手で彼女を抱き寄せ後方へと、
アリウスから遠ざかるように思いっきり飛び上がった。
その間もルシアはまるで人形のように表情を変えず、
首だけを動かしてずっとアリウスへと視線を向けていた。
ただただずっと。
一方でアリウスの方も。
無表情のまま、そのルシアの瞳をずっと見ていた。
真っ直ぐに。
―――
137 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:42:05.55 ID:3MdOcqjzo
―――
オッレルス『―――』
シルビアからの通信を聞き、己の耳を疑い。
押し付けられるように脳内に送られてきた情報を認識し、続けて『頭』を疑っていたところに、
この覇王の復活であった。
唐突すぎる、そして大幅すぎる計画の変更。
天の門、ネロの恋人、学園都市から来た土御門という魔術師などに纏わる諸々の事案。
そして早すぎる復活。
オッレルス『(シルビア!一体どうなってる―――!!!?)』
回転の速い彼の頭脳でさえ、この一瞬で全てを理解することは出来なかった。
それ以前に、意識をアリウスの方へと集中していたのだから余計、不意打ちの図式が濃くなったのだ。
シルビア『(私に聞くな!!!!!)』
シルビア『とにかく今までの解析結果を私に流せ!!!今から土御門とのリンクを作る!!!!』
そして脳内に返って来たパートナーからの答えからも、
向こうの彼女ですら、未だ理解の作業が途上であることが伺えた。
138 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:43:20.42 ID:3MdOcqjzo
オッレルス『(くそっ!どうすれば―――)』
己は今、どう決断しどう行動すればいいのか。
そのルートが導き出されない。
頭の中は整理が付かず、思考が大きく乱れる。
だが。
そしてアリウスを今一度見た瞬間、彼の頭の中が一気に澄み渡った。
オッレルス『―――』
オッレルスは気付いたのだ。
アリウスは全てを覇王の件に集中しているのだろう、
今のアリウスは魔術的に丸裸であった。
視覚的防護が一切ない。
記述・構文の暗号化すらしていない。
オッレルス『―――これは―――』
そう、退くべきではない。
どう考えてもこのまま見ているべき―――。
オッレルス『――――――!!』
139 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:44:39.08 ID:3MdOcqjzo
シルビア『ああッ……!と、とりあえずあんたも―――』
オッレルス『シルビア―――』
シルビアの声とは対照的な、穏やかな声でオッレルスは口を開き。
オッレルス『―――俺はここに残ろうと思う。このままアリウスを見届ける』
そう告げた。
シルビア『……はぁ?な、何を……』
オッレルス『全て流すから、しっかりと受け取っていてくれ。最期まで「生中継」だ』
シルビア『オッレルス!!!!!何を言ってんだ!!!!!??』
オッレルス『…………』
シルビア『おい!!!!聞いてんのッ??!!!』
オッレルス『…………』
シルビア『オッレルス―――!!!!』
シルビア『―――このまま見てると死ぬぞ!!!!!!』
オッレルス『……』
140 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:45:58.74 ID:3MdOcqjzo
そのシルビアの言葉は正しい。
あのアリウスからは、今までよりも更に濃い情報が一気に押し寄せ。
こめかみに浮かび上がっている血管がより一層強く張り、
ひと際強くなってきた頭の中の痛み。
頭が割れそう、というのは正にこういう痛みのこと。
少しでも気を緩めてしまったら意識が一瞬で消失してしまいそうだ。
そして恐らく、ここで意識を失ってしまったらもう『元には戻らない』。
堤防が決壊したかの如く、精神は悉く破壊されそのまま絶命、
運が良ければ脳死の植物状態といったところか。
更に、この負荷は徐々に強くなってきている。
無策のままこう同じく見続けていては、
5秒先か5分先かはわからずとも、
必ず押し負けて意識が消失するのは明白であった。
つまり、確かに一度退くかして相応に術式を組み直し、出直すべきなのだろう。
シルビアが促すとおりにだ。
オッレルス『……』
141 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:47:45.96 ID:3MdOcqjzo
しかし。
そんな状況でも、オッレルスの心はこれでもかというほどに熱に溢れていた。
今のアリウスからは、
今までの分など全く比べ物にならない有益な情報が得られる、ということだけではない。
この心の滾りの源は、魔術師としての好奇心からくる知識・技術欲か。
世界中に災いを蒔き、既に100万以上の命を奪ってもまだ尚飽き足らず、
更なる犠牲を積み上げんとするアリウスへの底無しの憤りか。
それとも己の限界を試してみたいという、
魔神の一歩手前まで這い上がった者としての単純な挑戦欲か。
そのどれかか、いや。
全てが入り混じった炎である。
精力が萎んだ魔神もどきのなりそこない。
失敗者、転落者、負け犬の根性無し。
傷を負ったのら犬の為に魔神としての成功を失ってしまった、そんな甘すぎる善人。
救いようの無いほどにオメデタイ理想主義の甘い男。
シルビア『オッレルス!!!!!』
そんな男の心に、再び炎が宿ったのだ。
オッレルス『シルビア。お願いだ、俺は―――』
アリウスという、良くも悪くも究極の魔術師、その露になった力を目にして。
オッレルス『―――俺はもう一度、俺を「試したい」』
シルビア『―――………………』
142 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:55:29.05 ID:3MdOcqjzo
俺を試したい。
シルビア『………………』
その言葉で、シルビアは完全に沈黙した。
実際には数秒間なのだが、この二人にとっては非常に長く、長く。
そして沈黙を越えて、再び開かれた彼女の口からの声は。
シルビア『……バカだろ。こういう時にカッコつけるとか』
今までの鋭い声色とは大きく変わった、
穏やかなものであった。
オッレルス『俺だって勝負のときはキメたいさ』
シルビア『ボケ。まあ、案外悪くはなかったけど』
オッレルス『はは、だろ?』
さっぱりとした口調で、さわやかにオッレルスは笑い飛ばし。
オッレルス『―――じゃあ、シルビア。帰ったら結婚しようか』
何が『じゃあ』なのか、
会話がまるっきり繋がっていない言葉を藪から棒に口にした。
シルビア『……調子に乗るなアホ。そういうのは、こういう時に言うと縁起が悪い』
オッレルス『ははは、確かに。良くある話だ』
143 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:56:49.14 ID:3MdOcqjzo
と、そうしていたところ。
オッレルスの後方にアックアが降り立った。
青みを帯びた巨大な翼を揺らがせ、金色に輝くアスカロンを右手に。
その体には大小さまざまな傷が至るところに刻まれており。
そして魔道兵器の触手の一本にでも貫かれたのか、左目が完全に潰れ。
そこから流れ出た血液で、顔の左側が真っ赤に染まっていた。
オッレルス『ウィリアム。君は退いてくれ。手当てした方が良い』
オッレルスはそんな彼へ向けて、振り替えぬままそう言葉を飛ばしたが。
アックア『断る』
この『天使』はそう即答し、痛みなど全く感じていないかの如く平然と、
真っ直ぐにオッレルスの方へと歩いて行き。
オッレルス『……ここにいると覇王が復活した暁には、真っ先にその餌食になる可能性が高いが』
アックア『承知済みである』
再び即答し、アスカロンを床に突き立てオッレルスの隣に悠然と仁王立ち。
その立ち居地や佇まいはまるでオッレルスの護衛の如く。
144 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/05(土) 23:58:17.32 ID:3MdOcqjzo
そして、彼はおもむろに己の左目の手当てを始めた。
ガブリエルの力があるのだから、失われた目を完全復元とはいかないまでも何とかなるのは確かのだが、
元傭兵が故の泥臭さか、アックアが行った手当ては非常に原始的かつ簡単なものでしかなかった。
己のゴルフシャツの袖を引きちぎり、生地を伸ばしては頭に巻き、
即席の眼帯としただけであったのだ。
オッレルス『そうか』
そんなアックアの様子を、
オッレルスは視野の端で確認しながら小さく笑った。
オッレルス『それじゃあ、ショーを楽しもうか』
アリウスの周辺ではちょうど、
二人の少女が重なり合うようにして飛び上がり、彼方へと離れていくところであった。
オッレルス『スパーダの孫が来るか、俺達が覇王に殺されるまで』
アックア『うむ』
アックアはそう頷きを返しつつ、アスカロンの柄を再び握り。
視線をアリウスからその上空へと向けた。
その視線の先、高さ2000m程の大空には。
体長600m以上もあろうかという、『魚』のような巨大な悪魔がいつのまにか出現していた。
そしてその悪魔は空を泳いでいるかのように雄大に浮遊しながら。
大口を空けてその腹の底のから声を放った。
大気そのものが根こそぎ剥ぎ取られていくような、とてつもなく巨大な咆哮。
『声』というよりももはや『衝撃波』と表現した方がしっくりくる程の。
アックア『盛大な宴になりそうであるな』
―――
145 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/06(日) 00:01:12.15 ID:IvdS310so
―――
とあるビルの屋上にて。
御坂「―――ちょ、ちょっと……もしかしてこれヤバイってこと!!?」
砲撃を一時中断していた御坂は、
廃墟の向こうにいるアリウスとその周辺の変化を目の当たりにして、
顔を引きつらせていた。
と、ちょうどその時。
御坂の真横に、紫の翼を羽ばたかせながら麦野が舞い降りた。
右脇にはルシアを抱えて。
御坂「―――ねえ!!あれどう―――??!!」
麦野『「始まった」んだよ!!!!』
そして御坂の言葉を最後まで聞かずにそう即答し。
麦野はルシアの足が地面に付いた感触を受けて、
彼女の体から右手を離した。
が。
ルシアはそのまま重力に従い、前に倒れこんでしまった。
ゆらりと、糸が切れた人形のように。
魔人化が解けながら。
146 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/06(日) 00:03:10.36 ID:IvdS310so
御坂「―――あ!!!!!」
麦野『チッ―――』
麦野はすぐに彼女の傍に屈み、
その人間の姿に戻った小さな体を仰向けに転がした。
麦野『(……ッ……このガキ、傷負ってたのか?)』
そして露になる胸の傷。
魔人化状態では光や形状でよくわからなかったが、
こうして見るとかなりの深手のようであった。
アラストル『……普通の傷じゃないな。いや、この娘が昏倒しているのは、その傷のせいではないようだ』
と、その麦野の考えを指摘するように、アラストルが声を飛ばした。
麦野『はぁ?』
アラストル『この娘の魂自体が壊れ始めてるのさ。理由はわからんが、自己崩壊を起こしてる』
アラストル『随分と無理をしていたようだな』
麦野『…………要するに、放っておくと死ぬって事?』
アラストル『厳密には、今この瞬間に「死んでいっている」状態だ』
麦野『何とかできないのアラストル?「神様」の格なんだろ?』
アラストル『無茶言わないでくれ』
麦野『ホンッッット、ここぞという時に使えねえガラクタだなてめぇはこの野郎が』
アラストル『……………………………………』
147 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/06(日) 00:06:00.04 ID:IvdS310so
御坂「だ、大丈夫なの?どうなの……??」
麦野『いいから黙って周囲を警戒してろ』
ルシア「すみ……ません…………私は置いて……」
麦野『うるせえ。結標ェ!!!!!』
そんなルシアの途切れそうな声など聞く耳ももたず、
麦野波万能の運び屋の名を叫んだ。
麦野『このガキを土御門のところに飛ばせるか!!!!??』
こういう、込み入った専門的なものは麦野も御坂もお手上げだ。
とりあえず土御門の元に飛ばすしかない。
結標『ちょっと待って…………だいぶ弱まってるのが逆にありがたいわね。OK、いける。飛ばすわよ』
そして、そう返ってきた通信の後。
再び何かを言いかけようとしたルシアの姿が、一瞬で消失した。
結標『完了したわ』
148 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/06(日) 00:07:01.90 ID:IvdS310so
麦野『―――土御門。細かい話は無しだ。そのガキを頼んだぞ』
そしてすかさず、土御門へ通信を入れる麦野。
土御門『ああ、そういえばアリウスは残念だったな。まあ気を改めろ。仕事は山積みだ』
返って来たのは、痛いと所にそ知らぬ顔で突っ込んでくる、
相変わらずのイラつかせる口調であった。
この状況でも相変わらずで、一切変わりない事が頼もしく感じるが。
麦野『―――うるせぇ!!!!!んなこたぁわかってる!!!!!!!』
それでもイラつくものはイラつくものだ。
とその時。
御坂『なによ……あれ……』
麦野の隣で、御坂がそうたどたどしく声を漏らした。
その言葉に促され、麦野も彼女の視線の跡を辿り。
麦野『―――ッ』
そして声を詰まらせた。
巨大な魚型の悪魔―――
―――『リヴァイアサン』が、アリウスの真上の空に出現していたのだ。
しかもそのサイズは、事前に参照したデータの実に二倍以上―――。
149 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/06(日) 00:09:19.57 ID:IvdS310so
確かに悪魔は、その体が大きければ大きいほど強いとは限らない。
そんなのは物質的面に縛られた人間界のみの法則だ。
しかし、悪魔の姿形は人間のように生まれ持った容姿の制限など無く、
そのものの力や性質に大きく影響されていくもの。
つまり、『体が大きいから強い』という理屈は間違っているが、
『力が強大だから体が大きい』という理屈は当たっているのだ。
アラストル『おお、凄いな。「向こう」でもそうそうお目にかかれない大物だ』
麦野『ッ―――』
御坂『―――ッァ!』
大きく開かれたその口からは、
耳元で雷が轟いているかの如く凄まじい咆哮―――。
麦野『…………土御門。デカイのが現れた』
土御門『その化物に見つかる前に、早くそこから退却しろ』
麦野『……』
アラストル『それは無理だな―――』
そのアラストルの言葉を裏付けるかのように、巨大なリヴァイアサンはその身を大きくしならせ。
アラストル『―――奴は「こちら」を見ている』
頭部を麦野達の方へと向け、今一度咆哮を挙げた。
その大口の中から、まるで嘔吐したかのように大量の悪魔を噴出させながら―――。
150 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/06(日) 00:11:01.98 ID:IvdS310so
麦野『……土御門。見つからないように、ってのはもう無理だ』
土御門『それは厳しいな。そこは、どちらかが一人で対応できないか?』
土御門『この状況では、結標一人じゃ全チームの保全に手が回りそうも無い』
土御門のその言葉に、麦野は考えるそぶりも無く。
麦野『私が残る』
そう即答し、御坂へと目配せ。
御坂「…………」
そんな彼女のに御坂は一度小さく頷いた後。
素早く踵を返すと、大砲を抱えながら屋上の端へと駆け出し、
電撃を迸らせながら跳ね降りていった。
151 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/06(日) 00:11:50.11 ID:IvdS310so
土御門『―――OK、幸運を祈る』
麦野『そっちもな』
そして麦野は土御門との通信を追えた後、
腰に下げていたアラストルの柄を握りつつ屋上の縁に向かい。
その魔剣を一度、
軽く振った後に切っ先を床に当てて、屋上の縁に立った。
視線の先は、アリウスの真上にいるリヴァイアサン。
その巨大な口からは、
大量の悪魔が塊となって街に降り注いでいる。
アラストル『マスター代理よ、そういえば魚類の系が好きなんだろう?そんなお前にいい事を教えてやろう』
そんな中、右手のアラストルが思い出したように口を開いた。
麦野『魚類というか、シャケ弁だけど』
アラストル『シャケというのがどういうのかは知らんが、リヴァイアサンの肉は中々美味らしいぞ?』
麦野『「そっち」と一緒にすんなガラクタ』
麦野『「こっち」の魚類は口から悪魔なんか吐かねえよ』
―――
152 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/06(日) 00:13:16.22 ID:IvdS310so
―――
とあるビルの一階にあるレストラン。
その中央の床に、とりあえず胸の傷の安定応急処置を受けたキリエが、
仰向けに横たわっていた。
胸には相変わらずレディ製の杭。
引き抜けば呪縛が再起動する為当然そのままだ。
キリエの周囲の床の全面には、
彼女を中心として隅取りのような模様が浮かび上がっていた。
壁際には、屈んで床に手を当てているシルビア。
キリエの身体状態のモニタと管理を行っている。
彼女は先ほどまで戸惑いと焦りに襲われていたが、
オッレルスとの会話が彼女にある種の覚悟を与えたのだろう。
今は落ち着き、そのクールな美しさを取り戻していた。
そして彼女の視線の先には、
キリエの足先に立ちこの姫を見下ろしている土御門。
かの慈母から授かった、『力を認識する目』で。
153 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/06(日) 00:15:10.88 ID:IvdS310so
土御門『…………』
彼の右手には、とあるデータが表示されているPDAがあった。
御坂がサーバーが破壊されていて閲覧できない、としたあのデータだ。
先ほどアメリカ人達は、
快く土御門にこのPDAごと渡してくれた。
確かにこのデータは最重要目標であり、
彼らはこれを祖国へと持ち帰るよう命令されていたが、
しかしこの状況。
彼らは、事態が己達の認量の範囲を遥かに超えていることも、
土御門がやろうとしていることが、
結果的に祖国を救うこともわかっていたようであった。
もし彼らが一般の部隊の者であったら、こうは行かなかっただろう。
命令は命令、任務は任務と突っぱね、土御門の言葉には耳を貸さなかったかもしれない。
この協力は、時に祖国の法にも背く不正規戦ばかりを行ってきた、
彼らのその柔軟性と適応力があってこそだ。
154 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/06(日) 00:15:44.81 ID:IvdS310so
そしてそのデータの内容は。
以前に衛星写真をインデックスに見てもらって浮かび上がった、
あの巨大な構造図を更に詳細にした図であった。
立体的な構造を把握でき、
ポイントごとにそれぞれの正確な位置まで全てわかるものだ。
ただその構造が何なのか、ということまではデータには記されていなかったが。
このデータだけでは、土御門でも全く把握できなかっただろう。
しかし今は。
土御門『(なるほどな―――)』
キリエから見えて来るアリウスの記述や構文。
そしてオッレルスから送られてくる、アリウスから採取した情報。
それらを照らし合わせる事により、この図の意味が徐々にわかり始めてきていた。
155 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/06(日) 00:16:58.25 ID:IvdS310so
この構造はやはりインデックスがいっていた通り、
どこからどう見ても、柱が連なる円筒形のドーム天井型建造物の図だ。
古代ローマなどに見られた神殿の作り方に似ているか。
しかしこれは、実際には地下に埋っており建造物の形を要していない。
いわば設計図だけが埋っているような状態だ。
なぜこの形にしたのか、元とした『モデル』でもあるのだろうか―――。
―――といった、その構造の由来はひとまず置いておくとして、
まずはこの巨大な図式がどう機能しどのように作用しているかなのだが。
その発揮する効果は複数あり、
どれも土御門の想像を遥かに超えている代物であった。
そして特にその中の一つが、
スケール的にも頭一つどころか二つも三つも飛びぬけていた。
それは。
この巨大な図式は、
『界の基盤』そのものに干渉する『巨大な魔具』としても機能しているらしかったのだ。
156 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/06(日) 00:18:54.14 ID:IvdS310so
土御門『…………』
天界の門、そしてネロが口にした魔界の門の開放も、
恐らくこの『巨大な魔具』を通して行われるのであり、
デュマーリ島がこのような人間界の理とはかけ離れた魔境、
さながら魔界の一部のような様相になっているのも、この『巨大な魔具』によるものらしい。
と、ここで『恐らく』、というのもそこまで『理解しきれない』からだ。
解析して徐々にその記述を読めるようになってきているのだが、それでも『理解できない』。
何というか、頭の処理が全く追いつかずにエラーを起こしているような感覚だ。
上記の他にも様々な使い方が出来るのであろうが、
最早その先には想像が追いつかない。
土御門『(アリウスか……本当にどうなっているんだあの男の頭は……)』
今の土御門ですら戦慄する、その途方も無いスケールと技術。
これが、あのアレイスターが唯一脅威を抱く『人間』が作った代物。
そしてその現物を目の当たりにしても尚、疑ってしまう。
本当に『人間のまま』でここまでできるのか、と。
ネロやあのスキンヘッドのバーマスターは、天の門開放を妨害しないでくれといっていたが。
その頼みは、別にしてもしなくても良かったようだ。
どのみち土御門では、手を出せる代物ではなかったのだから。
157 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/06(日) 00:22:02.47 ID:IvdS310so
しかし、正に不幸中の幸いか。
土御門『(…………いけるな)』
『界干渉』機能の部分は手を出せなくても、他の部分はどうやら手が出せそうであった。
『人造悪魔兵器の制御』機能の部分もだ。
浸入しているわけではない為、
内部の細かい構造などは当然わからないし、現段階では手を加えることは出来ないものの。
予想される難度を高く見積もっても、充分対応できる水準だ。
土御門『……』
と、そんな良い事がわかったその一方で、それなりに悪い事も発見した。
この部分はアリウスと常に情報をやり取りしているらしく、
彼が脳内で命じるだけで、悪魔達が自在に動く状態になっているようだ。
世界各地の人造悪魔はもちろん、この島に展開している悪魔達もだ。
これはつまり、『人造悪魔兵器の制御』機能の部分は、アリウス側から見て非常に『目立つ』ということ。
ここに土御門が侵入したら、当然すぐに気付かれてしまだろう。
そうしたらどうなるか。
もちろんアリウスが見過ごしておくはずも無く。
そこからは、彼と土御門の術式記述の『上書き競争』となる。
そしてこの勝負は結果が目に見えている。
技術も頭も何もかもがかけ離れており、土御門が勝てるわけが無い。
土御門『……』
158 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/06(日) 00:24:00.76 ID:IvdS310so
いや、そのような上書きレースなど行う必要さえ、アリウスには無いだろう。
アリウスが握っているのは、全システムを統括する『メイン操作基盤』。
『核の中の核』、正に全ての心臓部であり頂点。
片や土御門はシステムの端からの侵入。
それならばアリウスは、そのメインの権限を利用して、
土御門の侵入口がある箇所を凍結してしまえばいいだけなのだ。
ただ、それは言い換えれば。
『メイン操作基盤』さえ掌握してしまえば、こちらが非常に有利になるということ。
それこそ、アリウスをもシステムから切り離してしまうことも可能であろう。
土御門『…………』
しかし、そこにもまた問題があった。
その『メイン操作基盤』の位置が全くわからないのだ。
非常に巧妙に『隠されている』のだろうか―――。
そしてアリウスの事だ。
どこかに隠していたとしても、ただ偽装しているだけではなく。
術式か悪魔かはわからないが、とにかく強力な『ガード』が必ず守りを固めているはず―――。
159 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/06(日) 00:28:32.52 ID:IvdS310so
土御門『…………』
―――と、現段階では、どうやら八方塞であるようだった。
まあ、アリウスの『城』が隙無し難攻不落なのは当たり前のこと。
今はまず、とにかくもっと浸入の為の構文や記述を集めつつ解読作業を進行させ、
問題を解決する策はそれと平行して考えるしかない。
こればっかりは頭を抱えても仕方がないことだ。
ネロの言葉を思い出し、己が感じるのを純粋に信じ、そのまま進むのみだ。
自身をもって進んでいれば、必ず『なるようになる』。
それぞれのチームにも各ランドマークの地下を掘り抜かせているが、
それも無駄にはならないはず。
『空間』、『界そのもの』がこの『巨大な魔具』の構造物なのだから、
各チームとも、今まさにその存在に触れているということ。
つまり、ある程度は干渉できる状態が整っているのだ。
今はこれで良い。
活用の仕方は後々考えてゆけば良い。
土御門『……』
まずは目下の問題を対処していくべき。
問題は山済みだ。
特にその中の一つが、今土御門の判断を必要としている。
いや、実際にその『問題であること』を確認したわけではないのだが、
土御門はその存在を確信していた。
アリウスは、覇王を強行的に復活させる作業に入った。
つまり、彼の中でも状況が大きく変わったということ。
そして、彼とこの島に展開している悪魔達は、強固なリンクを有している。
となると―――。
160 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/06(日) 00:29:28.11 ID:IvdS310so
滝壺『―――つ、つちみかど!!!』
タイミング良く響く、急を伝える滝壺の通信。
土御門『なんだ?』
そして続けれた滝壺の言葉は。
滝壺『―――島内全域で悪魔が!!!!すごい数があちこちからでてきたよ!!!!!』
土御門『……』
まさに土御門の読みどおりであった。
悪魔達による全面攻撃が始まったのだ。
ここからが、このデュマーリ島が『魔境』たる所以の真骨頂だろう。
滝壺『各チームのところにも……!!!あ!!!つちみかどの所に500……600……!!!!』
滝壺『ど、どんどん数を増やしながらすごい速さで向かってる!!!!』
その滝壺の言葉を示すように、
屋外から聞こえくる地鳴りと無数の異形の叫び。
161 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/06(日) 00:32:21.13 ID:IvdS310so
土御門『シルビア、キリエ嬢は俺に任せろ』
すぐさま、土御門は壁際のシルビアへと言葉を飛ばした。
土御門『悪魔共が活発化したようだ。ここにも押し寄せてくる。数は600を超えてる』
それを聞き。
シルビア『ああそうかい』
シルビアは跳ね上がるように立ち上がり、
フロアへと続く入り口の方へと足早に向かい、歩きつつ徐に壁に手の平を当てた。
土御門『全力で行け。力は出し惜しみするな』
その瞬間。
壁からぬるりと生えてきくる『金属の塊』。
シルビア『任せろ』
それは剣。
白銀の肉厚な刀身、先に四葉を模した飾りの付いた棒状の鍔。
14世紀頃のスコットランド発祥、クレイモアと呼ばれる大剣だ。
そのサイズは、俗に知られている物とは余りにもかけ離れていたが。
壁にあてがっていた手でその柄を握り締め、そのまま歩き続けるシルビアによってその大剣が『引き出されていく』ものの、
切っ先が中々姿を現さず、延々と続く程に巨大。
切っ先は未だレストラン内なのに、
柄の先のシルビアは既にフロアにいるという有様だ。
幅は根元の所で30cm、刃渡りは実に4mに達するか。
シルビア『―――1匹たりとも通すもんか』
そしてフロアからのその言葉と共に。
巨大すぎるクレイモアの刃先も、レストランから『出て行った』。
162 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/06(日) 00:33:30.88 ID:IvdS310so
そのシルビアの姿を見て察知したのか、
「装備を確認しろ!!」
フロアの方から兵士達の声も次々に響いて来、
駆け出す足音が聞こえてきた。
それらを耳にしながら、土御門は更に素早く思考をまわしていく。
土御門『……』
アリウスの意志が直結している為、
悪魔達もどこが最重要目標なのかは把握しているようだ。
まず、第一に狙うはキリエがいるこの場所だ。
そして第二は?
それは、この学園都市からの部隊の要である滝壺であろう。
土御門『滝壺。お前のところにも連中は行くはずだ。今からは常に移動し続けろ。定点に留まっていたら包囲される』
滝壺『う、うん!!!わかった!!!!』
土御門『結標』
結標『どうぞ』
土御門『お前は滝壺の保全に集中しろ。いつでも滝壺の傍に降りれるようにしておけ』
結標『了解。他のチームの保全は?』
土御門『麦野とレールガンにやらせる。今ちょうど手が空いたからな』
と、その時。
土御門の目の前の床に。
土御門『…………』
キリエ「―――ルシアちゃ―――ッ!!!!」
突如、力なく横たわっている赤毛の少女が出現した。
163 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/06(日) 00:34:34.31 ID:IvdS310so
そんなルシアの姿を見て起き上がろうとしたキリエを、
土御門は手を突き出して制止しつつ。
麦野『―――土御門。細かい話は無しだ。そのガキを頼んだぞ』
土御門『ああ、そういえばアリウスは残念だったな。まあ気を改めろ。仕事は山積みだ』
次いで入ってきた麦野からの通信に、
呆れた風にも見える笑みを浮かべながら言葉を返し始めた。
麦野『―――うるせぇ!!!!!んなこたぁわかってる!!!!!!!』
土御門『ははッ』
その麦野の激した声を聞き、土御門は聞こえない程度に小さく笑った。
相変わらずの、溶岩を噴き上がらせる火山のようなその熱い女っぷり。
かつて実際に暴走したとおり、その熱さは非常に危険な側面もあるが、
それがひとたび真っ直ぐに向き始めれば、ここまで頼もしい女は滅多にいないだろう。
164 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/06(日) 00:37:15.13 ID:IvdS310so
と、土御門が麦野の声に一瞬の安息を覚えていたところ。
滝壺『―――あ、アリウスの真上の空にりりり、リヴァイアサン!!!!!!』
窮した声色にも関わらず心地の良い、
これまた別系統の可愛らしい声。
こっちもこっちでいいものだ。
土御門『…………』
まあ、その内容は、「可愛らしいもの」とはとても言えないものだが。
そしてその直後響く、今度は可愛らしさ・心地よさが微塵も無い『声』。
地震が起きたかのようにビル全体を揺さぶる轟音、
リヴァイアサンの咆哮であろう。
麦野『…………土御門。デカイのが現れた』
土御門『そのデカブツに見つかる前に早く離脱しろ』
リヴァイアサンから速やかに距離を置くように命令を放つも、
もう一度響いた凄まじい咆哮の後。
麦野『……土御門。見つからないように、ってのはもう無理だ』
麦野はそう告げてきた。
土御門『(今の咆哮は麦野達へ向けてのか)』
165 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/06(日) 00:39:59.27 ID:IvdS310so
土御門はその場に屈み、ルシアの容態を検分しながら。
土御門『それは厳しいな。そこは、どちらかが一人で対応できないか?』
土御門『この状況では、結標一人じゃ全チームの保全に手が回りそうも無い』
そう、特になんでもないように言葉を連ねたところ。
麦野『私が残る』
すると同じく淡々とした、麦野からの即答。
まあ、普通に考えてどちらが残るかは聞くまでもないことだろう。
『一発逆転の切り札』、というのは汎用性に欠けるのが常。
戦闘能力があまりも偏りすぎている御坂では、新手の敵の対応は難しいであろうし、
更に相手が強大な存在であるならば、体が『生身の人間』である以上不安が残る。
ここはアラストルの加護がある、万能型の麦野が残るのが当然だ。
土御門『―――OK、幸運を祈る』
麦野『そっちもな』
土御門『レールガン。滝壺の指示に従って、各チームを支援してくれ』
御坂『おっけー』
166 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/06(日) 00:40:56.35 ID:IvdS310so
これで、二人のレベル5にも指示が出し終わった。
土御門『……』
後は?
他にもやるべきことは?
キリエの術式、そしてアリウスの城を攻める前に、
先に済ませておけることは?
土御門『…………』
そうやって素早く思考をめぐらせていたところ、
壁際にいる兵士や民間人の負傷者達が目に留まった。
そう、彼らの事も判断は下しておくおくべきだ。
米特殊部隊、ウロボロス社私兵、生き残った民間人、そしてなぜかここにいる佐天涙子の事を。
このまま同じ場所にいては、
土御門達にとっては邪魔だし、彼らにとってはまさに災難だろう。
ここに留まっていては、お互いに良い事は無いのは明白。
それに土御門としては、このアメリカ人達はできれば生かしておきたい。
土御門達の行動が、アメリカをも救ったという証言者になってもらいたいのだ。
そうすれば、この特殊部隊を通してアメリカとの独自のパイプが形成でき、
後々に様々なことで役立つだろうから。
そして佐天涙子も、
ネロやトリッシュ・レディと交友関係がある以上、何もせずに見捨てるのもアレであろう。
167 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/06(日) 00:42:38.26 ID:IvdS310so
土御門『……』
では、結標にパッと飛ばさせるか?
いや、飛ばすだけではダメだろう。
彼らには安全地帯が必要だ。
ただほっぽり出してしまったら、すぐに悪魔の餌食となってしまう。
土御門『……』
しかしただ飛ばすだけならまだしも、
結標には、安全地帯を探させる暇などとても無い。
そもそも状況が状況、彼女には今の仕事に専念してもらいたいから、
できれば飛ばす事自体も頼みたくは無い。
と、その時。
土御門『…………』
土御門は思い当たった。
今は手が空いている人員がここにいるではないか、と。
飛ばせる事も可能、護衛しつつ安全地帯を探させることもできる者が。
土御門『おい―――!!!!!』
土御門はレストランの入り口、フロアの方へと振り向きながら、声を張り上げた。
土御門『―――白井!!!!来い!!!!!!』
―――
168 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/06(日) 00:43:19.53 ID:IvdS310so
今日はここまでです。
次は早ければ火曜の夜に。
169 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/06(日) 00:44:55.89 ID:yOZjVV7lo
乙
相変わらずいいところで終わらせてくれる
170 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/02/06(日) 00:44:58.26 ID:z1cw45ye0
乙です。
のんびり待ってます
171 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/06(日) 01:04:49.50 ID:jeU0buSE0
乙
またいいところで
172 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/06(日) 11:39:38.69 ID:SCtBXMOAO
すっかり黒子を忘れていたぜ
173 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/06(日) 12:45:30.90 ID:26Gcs19ho
でもま、実際アマ公はジュベ並の力あるんじゃねぇか?
あれだけ汎用性に富む能力だし
それに個人的にはアマ公の力のが他の天界の神々とは違うってらへんが蜂起派のリーダーとしてぴったりだと思うわww
174 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/07(月) 13:41:19.51 ID:mxHTkPOo0
>>173
信仰心が更に薄れた現在でジュベ並の力はあり得ないと思う
ジュベ並の力を今持っているなら天界を既に掌握してる筈
175 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/02/07(月) 17:26:58.28 ID:olrQE7rDO
>>174
すげぇ力があるのになんでその座に留まってるんだ?ってロダンが言ってたじゃん
あと『有り得ない』という断定はやめとけ
176 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/07(月) 17:41:47.95 ID:HpI0i6XVo
____
/ \ /\ キリッ
. / (ー) (ー)\ <あと『有り得ない』という断定はやめとけ
/ ⌒(__人__)⌒ \
| |r┬-| |
\ `ー’´ /
ノ \
/´ ヽ
| l \
ヽ -一””””~~``’ー?、 -一”””’ー-、.
ヽ ____(⌒)(⌒)⌒) ) (⌒_(⌒)⌒)⌒))
____
/_ノ ヽ、_\
ミ ミ ミ o゚((●)) ((●))゚o ミ ミ ミ <だっておwwwwww
/⌒)⌒)⌒. ::::::⌒(__人__)⌒:::\ /⌒)⌒)⌒)
| / / / |r┬-| | (⌒)/ / / //
| :::::::::::(⌒) | | | / ゝ :::::::::::/
| ノ | | | \ / ) /
ヽ / `ー’´ ヽ / /
| | l||l 从人 l||l l||l 从人 l||l バンバン
ヽ -一””””~~``’ー?、 -一”””’ー-、
ヽ ____(⌒)(⌒)⌒) ) (⌒_(⌒)⌒)⌒))
177 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/02/07(月) 17:47:00.38 ID:xr5GDFRpo
実際ジュベレウスと天照じゃ格が違うわな
マイナー神話の最高神と天界の覇者じゃ比較にならん
ただ信仰心の有無が力に関わるのかは疑問だけどな。ジュベレウスなんて人間に存在すら知られないまま三界最強だったわけだろ?
最終的に界の力場の具現なんてチートにそげぶパンチされて溶けちゃったけど
178 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/07(月) 17:53:21.67 ID:Z7WXz78no
十字教への信仰=ジュベレウス派への信仰といった形で力が流れてたのかもしれないね
まあ、あのジュベレウス派の天使共はゴーマン決めまくってるし在り得なくはないと思うさ
179 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/07(月) 20:08:23.25 ID:UTd+YtYZo
でも十字教への信仰→力にはならないんだぜ
信仰が力になるのはアマ公であって、ジュベレウス派は人間の魂を力にしとるんとちゃうか
180 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/11(金) 20:33:22.15 ID:2y7LX0Nlo
まだかなまだかな
181 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:06:52.22 ID:cB8p6miIo
―――
とあるビルの一階、薄暗いレストラン。
土御門『―――白井!!!来い!!!』
土御門がフロアへ向け、そう声を飛ばしたところ。
彼の斜め前程のところに、
小さな風切り音と共に黒子は一瞬で現れた。
相変わらずの光を失った瞳で。
土御門『……』
そんな瞳を、土御門は見返した。
土御門『……』
そして『見えて』来る、黒子の内面。
これが『慈母の瞳』か。
力の認識のみならず、
相手が普通の人間ならば、内面をもある程度見透かしてしまう。
182 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:08:22.22 ID:cB8p6miIo
この時見えた黒子の内面。
それは混沌としていた。
完全に『心』が活動が停止している状態だ。
どの感情も全く処理されておらず。
『臨界点』の時を待っているかの如く、無秩序に山積み。
まさしく、心が麻痺していた。
いや、彼女の『時間が停止していた』と言ってもいいかもしれない。
白井黒子は今、『何も』感情を有していなかった。
『何も』。
土御門『白井』
黒子「はい」
土御門はそんな、黒子の内面を認識して一瞬だけ目を細めた後。
土御門『あの女は、学園都市在住の佐天涙子、お前のプライベートの友人だな?』
フロアの方へと頭を軽く傾けて指しつつ、事務的にそう問うた。
黒子「ええ。そうですの。それが?」
そして返ってくる、土御門以上に淡々とした声色の言葉。
土御門『一応身元を確認しただけだ。「そいつが死んだ場合」の為にな』
黒子「そうですか」
土御門『…………』
183 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:09:31.50 ID:cB8p6miIo
『死』というワードに何の反応も見せない黒子の様子。
そこから、彼女が佐天と二人でいた間の光景が容易に思い浮かぶ。
黒子はまるで他人のように、いや、それ以上に近づき難い雰囲気を放ち、
佐天はほとんど話しかけられなかっただろう。
話しかけたとしても、一言二言で会話が終わっていたはずだ。
土御門『…………』
即ち、佐天がこの地獄にいたという現実が、
今の黒子には何も影響を及ばす事は無かったという事だ。
もちろん、『悪い意味』で。
まあ、これは黒子の個人的な問題である為、
土御門としては何をするわけでもないが。
土御門は視線を床のルシアに戻し。
土御門『俺とシルビアとキリエ嬢以外の者を、ここから退避させる』
再び事務的に言葉を続け、
黒子へと次の任務内容を簡潔に説明し始めた。
土御門『お前にはその護衛と誘導をやってもらう』
少女の胸の傷口に軽く手を当てながら。
黒子「はい」
184 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:11:09.12 ID:cB8p6miIo
土御門『(…………これは……どうしようもないな。もう手の施し様が無い)』
慈母から授かった『瞳』で、ルシアのその非情な有様を確認しつつ。
土御門『ここから離れつつ安全地帯を探し、見つけ次第、そこに人員を収容し拠点として防衛しろ』
声だけを黒子に飛ばして。
黒子「了解。それで、おおまかな目的地はどこに?」
土御門『……』
と、そこで土御門は顔をふと上げ、宙空に視線を向けた。
そう、安全地帯がどこにあるかはわからないと言えるも、
だからといって当てずっぽうにうろつかせる訳にはいかない。
ある程度のエリアを指定するべきであろう。
185 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:13:15.36 ID:cB8p6miIo
そこで土御門は3秒ほど思案した後。
土御門『滝壺、近場で悪魔の活動が見当たらないエリアは?』
滝壺『一番ちかいのは北西の港かな。そこから4kmくらい。このエリアは、まだ一回も悪魔の活動を確認してないよ』
そして返ってくる滝壺の声。
それは黒子の側にも繋がっていたらしく、
黒子「北西の港に。了解」
彼女はすぐさまそう、小さく頷いた。
滝壺『つちみかど。各チームの移動が可能な負傷者も、しらいのほうに向かってもらったほうがいいんじゃないのかな?』
土御門『そうだな。それは各チームのリーダーに任せるよう伝えてくれ』
そして再び、土御門は視線をルシアに戻した。
滝壺『了解』
土御門『ああそうだ、白井、今後の経過報告は滝壺に。指示も滝壺か結標に仰げ。俺は今からオフラインだ』
黒子「報告は滝壺さんに。指示は結標さんに。了解ですの」
土御門『……』
黒子はやはり、終始淡々としていた。
し過ぎていた。
186 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/12(土) 22:15:30.86 ID:3BSqTseAO
支援
187 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:15:38.39 ID:cB8p6miIo
土御門にとってはどうでも良いが。
そう、『どうでも良い事』なのだが、彼は思った。
護衛対象の中に佐天涙子がいることが、
白井黒子にとって精神的に踏みとどまる最後のチャンスとなるだろう、と。
つまり、『親しい者の命の危機』にすら何も感じぬのならば、白井黒子はもう戻れないだろう、と。
『負の感情』を一つでも、一片でも感じれば彼女はまだ戻れる。
負の感情は本能的な恐怖を呼び起こし、彼女は麻痺から回復する。
しかし親しい友人である佐天涙子の護衛をもすら、同じく『何も思わぬまま』こなしたら。
もしくは彼女が死んででさえ、『何も感じぬ』のならば。
その先いつか必ず、白井黒子という人格は『完全に死ぬ』だろう。
土御門『……』
たた、繰り返しだが土御門にとってこれはどうでも良い事だ。
所詮、黒子個人の問題。
土御門としては『立場上』、彼女には任務の完遂以上の事は求めない。
彼女が精神的に回復するのも無理に求めはしない。
ただまあ、土御門『個人』としては、求めはせずとも。
慈悲深い、人をこよなく愛する慈母の力を身に宿しているせいか。
良い結果になることを『望み』はしていたが。
188 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:16:31.30 ID:cB8p6miIo
と、まあ、そう黒子の事ばかりを思案している暇は無い。
土御門はすぐさま、思考の主題を切り替えた。
それは、目の前のルシア。
土御門『……』
今確認したとおり、ルシアは絶望的であった。
魂も器も、その全てが崩壊しつつある。
いや、既に『死んでいる』と言っても過言ではない。
死ぬ瞬間がスローモーションになっているようなものなのだ。
人間で言うならば、
心臓が鼓動を止め血の流れが止まった後の、意識が消えるまでの『十数秒間』だ。
彼女を救う手立ては無かった。
少なくとも、土御門にとっては。
慈母から授かったこの力をもってしても無理だった。
そもそも土御門が授かった慈母の力は、ほんの極一部にしか過ぎない。
所詮人の器。
その身に宿せる力の量は、慈母の加護があったとしても高が知れているのだ。
『どうしようもない』
ルシアの状態は、まさにその言葉に尽きるものであった。
土御門『……』
189 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/12(土) 22:17:51.07 ID:QtqhgoPdo
きてるーー!!
190 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:18:04.71 ID:cB8p6miIo
土御門は黒子の方へと手の平を向け、暫し待つように示しつつ。
土御門『自分がどんな状態なのかはわかっているな?』
土御門はルシアに向け、静かに口を開いた。
それに対し、小さく頷くルシア。
ここに飛ばされてきたときから、既にルシアの呼吸は不気味な程に落ち着いていた。
苦悶の表情も浮かべなければ、身を捩ることも無い。
ルシアは穏やかな表情のまま。
ルシア『……キリエさんと……さ……佐天さん……は……ご無事ですか……?』
そうか細い声で土御門に聞き返した。
土御門『……』
キリエはすぐ近くにいるのに。
佐天も、隣のフロアにいるのに。
ルシアはその気配すらも感じる事ができていなかった。
先ほどの土御門と黒子の会話すら聞こえていなかったようだ。
いや、聞こえていたのかもしれないが、
それを理解する余裕すらないのかもしれない。
キリエ「……私はここに。ここにいるよ。大丈夫」
キリエからの僅かに震えてる声に続き、
土御門『佐天涙子も無事だ。これから避難させるところだ』
土御門もそう答えた。
ルシア『……そう……ですか……』
191 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:18:42.43 ID:cB8p6miIo
土御門『……』
そしてまた、土御門は見てしまった。
黒子と同じく、この少女の内面を。
ルシアは強大な力を有する悪魔である。
それこそ、悪魔化したステイルと天使化した神裂の二人でやっと戦えるほどの、だ。
そんな彼女に対しては、土御門を器とした程度の瞳では到底見透かせないだろう。
しかし、今のこの弱りきった状態が故か。
今は見えてしまっていた。
土御門『…………』
ルシアの中を満たしていたのは。
死にいく彼女の、その最後の意識の灯火は。
死ぬ寸前、そんな極限の中、
思考という殻が剥げ落ちて『心だけ』になっていた少女の内側は。
彼女が先ほど口にした言葉が表すとおり。
愛するこの世界の象徴たる、親しい者達への純粋清廉な想い。
淡く稚拙ながらも、清く美しい恋心。
そして。
もう一つ―――。
192 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/12(土) 22:19:28.85 ID:3BSqTseAO
支援
193 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:19:57.79 ID:cB8p6miIo
この世界を愛するが故の―――。
キリエや佐天を慕うが故の―――。
土御門『……佐天涙子の傍に行くか?「残りの時間」は彼女と一緒に―――』
ルシア「―――いえ。結構です」
―――『忌まわしき父親』への凄まじい憎悪。
この世界の事を想えば想うほど。
友の事を愛すれば愛するほど。
―――強くなっていく殺意。
土御門へそう即答したルシアはなんと立ち上がった。
死に逝く身であることなど一切感じさせない動きで。
土御門『…………』
ルシアは明らかに、まだ戦う気であった。
勝ち目が無いということなど、もうどうでもいいのだろう。
いや、そこに思い至る思考さえ既に無いのだ。
彼女は今、己の心の声に『素直』に従っているだけ。
今や、彼女を止めるものは何もなかった。
194 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:21:18.65 ID:cB8p6miIo
土御門は黒子に手で合図した。
行け、と。
すぐさま飛んで姿を消す黒子。
そしてフロアから響いてくる、彼女の兵士に向けられた声。
次いで、兵士達が数人レストランに入って来ては、
負傷者を手際よく運び出して行き。
外へと続く出口へと、向かっていく複数の足音が響いた後、
フロアの方は静かになった。
土御門『……そうか。じゃあ好きにしてくれ』
その素早い退避の様子を耳で確認した後、土御門はルシアにそう告げた。
赤毛の少女は特に頷きもせずに両手に曲刀を出現させ。
キリエにも目を向けず、真っ直ぐと出口の方へと向かっていった。
土御門もキリエも、止め無かった。
いや、止められなかった。
ルシアは何かを我慢している訳でも、無理にそうしようとしている訳でもない。
自暴自棄になっている訳でもなく。
彼女が素直にそう、望んでいたのだから。
195 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:22:16.42 ID:cB8p6miIo
しかし、何も思うことがなかったという訳ではない。
むしろ『大有り』であった。
これも、慈母の底無しの慈愛が故か。
土御門はガラも無く、胸が一気に収縮するような感覚を覚えていた。
土御門「…………」
強すぎる慈愛、純粋すぎる優しさはその感情を有する当人にとっては、
逆に苦悩となるだろう。
手を出したくても手が出せない、救いたくても救えない。
相手が全く望んでいないのだから、救いになど成りえない。
逆に、相手にとってはそれが迷惑にもなってしまう。
だからただ見ているしかない。
そして憂い悲しむしかない。
これが、かの慈母が人間達を見続けてずっと抱いてきた感情なのだろう。
何もできないし、何もしてはいけない、と。
196 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/12(土) 22:23:54.76 ID:3BSqTseAO
支援
197 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:24:10.50 ID:cB8p6miIo
でも。
何もするべきではないのはわかってはいるが。
土御門『―――』
ふとキリエの顔を見て、土御門はルシアに声をかけずに入られなかった。
理由はわからないが、どうしても。
余計な言葉なのかもしれないが、これだけは。
これもまた、慈母の性質か。
土御門自身、普段の自分からは信じられない思いで。
土御門『……待て―――』
土御門の言葉に、ルシアは入り口の付近で足を止めた。
その文字通りの『死場』に向かおうとしている少女の背中に、彼は問う。
土御門『―――お前は……』
忌まわしき人造『悪魔』として生まれついたルシアに。
土御門『……泣いたことはあるか?』
ルシアは数秒間、その場で背を向けたまま佇んだ後。
再び歩み出し、無言で振り返りもせずにそのまま姿を消していった。
198 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:25:14.31 ID:cB8p6miIo
土御門『……』
土御門はただ、伝えたかっただけであった。
別に彼女を止めようとしたわけではない。
知っていて欲しかった事が、
たった今胸の中に湧き上がったからだ。
それは。
ルシアがこの世界に抱いていた恋心は、決して『片想い』なんかではない、という事。
彼女の為に『涙』を流す者がここにいる。
キリエ「…………」
彼女の為に今、『涙』を流している者がここにいるのだから。
土御門は手に持っていたPDAに目を移し、
『作業』再開の支度をしつつ。
土御門『拭かないでいい。そのままで』
雫を拭わぬよう、促した。
キリエ「…………うん。ありがとう」
土御門『…………俺じゃない。礼なら「天上」に言ってくれ』
キリエ「……」
土御門『…………少し時間を消費したな。早く再開しよう』
―――
199 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:27:42.76 ID:cB8p6miIo
―――
麦野『……』
空を泳ぐリヴァイアサン。
あの忌まわしき大魚の腹の中は魔界と繋がっており、
放っておくと無尽蔵に悪魔を吐き出し続ける。
しかし麦野達としては、
ここでこのまま、悪魔をどんどん吐き出され続けられたら堪ったものではない。
そこで彼女は考えた。
麦野『(―――このデカブツは南島に誘導するか)』
南島、『デュマーリ=メリディエス』。
地上には工場が並び、地下には採掘施設。
南島には用は無い為、当然仲間が降りていることも無く、
巻き添えにすることはまずあり得ない。
いたとしても、ここで悪魔を撒き散らせて混乱させるよりは遥かにマシだ。
アラストル『良い判断だな。それで行こう』
アラストルもその麦野の心の声に、同意の声を発し頷いた。
既にここで吐き出された悪魔達は、
あの天界の力を帯びた大男に任せてもいいだろう。
というのも今ちょうどその男が、金髪の優男もいる別のビルから翼を広げて飛び立ち、
街へ降下していく悪魔達の中へと突っ込んでいった所だからだ。
200 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/12(土) 22:28:42.68 ID:3BSqTseAO
支援
201 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:29:25.28 ID:cB8p6miIo
では、そうと決まれば次は誘い出す方法であるが。
単細胞の獣なら、誘き出すのはそう苦労しないだろう。
それも、闘争心と憤怒の感情が人間界とは比べ物にならない魔界の獣なら尚更。
麦野はアラストルをリヴァイアサンへ向け掲げ、
その切っ先から極太の光の矢を放った。
フルパワーかつ進化した、『紫色』の粒子波形加速砲を空を漂う大魚の顔に向けて。
その結果は。
光が派手に迸っただけであった。
この三分の一の出力でも、
街に着弾すれば一区画が丸ごと蒸発、大地に数百メートルの穴が穿たれるのに。
リヴァイアサンの外皮には特に損傷が無かった。
麦野『(これでも……まともな傷つかねえのかよ)』
わかってはいたことだが、さすがにこうまで効き目が無いと、
心の中でとはいえ口をこぼしたくもなる。
本気の砲撃がアリウスに奇妙な力でひん曲げられて、
そして次はこうとなると、さすがに自信が揺らぎそうになってしまう。
そして、傷がつかないということから改めて再確認させられる。
このリヴァイアサンが問題なのは、『見た目の大きさ』ではなくその『力の強大』さなのだ、と。
と、そう頭を抱えたくもなる事ばかりが上がっているが、
喜ばしいこともしっかりとある。
当初の目的は、簡単に達することが出来そうであったのだ。
リヴァイアサンは口を大きく開けて、この島ごと吹き上がってしまいそうな咆哮を麦野へ発し。
身を翻しては、結構な速さで彼女の方へと向かってきた。
清々しい程にバカ正直に、闘牛士に突っ込む牛のように真っ直ぐに。
202 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:30:08.65 ID:cB8p6miIo
麦野は紫の翼を揺らめかせ、そしてすぐさま空に飛び上がり。
アラストル『速度を出すなよ。こいつは足が遅いからな』
麦野『わかってる』
アラストルの言葉に従い、リヴァイアサンのすぐ鼻先を飛んだ。
リヴァイアサンの口が届きそうで届かない、ちょうど良い位置に。
麦野『ほら、私のケツ追って来いこの鈍牛が』
鞭代わりに合間合間に砲撃を放ち、麦野は挑発。
そんな彼女を追いかけ、唸りながら無我夢中で空を泳いでいくリヴァイアサン。
そうして南島の方へとじわじわと誘導していく。
そうやって、空を飛行する中。
麦野は『唐突』にとある事を思ってしまった。
何の前触れも脈絡も無く。
ここの戦いは『空虚』だ、と。
203 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:31:47.04 ID:cB8p6miIo
麦野は、不思議な事に『死ぬ気がしていなかった』。
今までの戦いが温いというわけではない。
先ほどのアリウスとの戦闘なんかは、
一歩間違えていれば本当にあの場で命を散らしていたはずだろうし、
このリヴァイアサンの処理もかなり危険なものになるだろう。
それはわかっているのだ。
わかっているのだが。
このデュマーリ島ではまだ、麦野は己の『死のイメージ』が抱けないでいた。
『死ぬ気がしない』のだ。
彼女が抱く『死のイメージ』とは、
第23学区で浜面を追った日の事、ダンテに救われる直前のあの感覚。
そして、バージルと相対しその刃をがむしゃらに凌いだあの瞬間の感覚だ。
あれこそが『圧倒的な死』。
極限の試される瞬間なのだ。
204 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/12(土) 22:32:31.40 ID:3BSqTseAO
支援
205 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:33:17.92 ID:cB8p6miIo
そしてこの島こそ、
そんな感覚の中で己の運命が示され試される『勝負の地』だと捉えていたのだが。
同化したアラストルの影響による、『悪魔の勘』で確かに予感していたのに。
この身の『業の清算』が行われ、
そして生き様と死に様が決定する、そう感じていたのに。
何が何でもその『勝負に打ち勝ち』―――。
空に羽ばたく翼を手にいれようと―――。
ダンテに抱えられてでは無く、己自身の力であの雄大で澄み渡る、『自由な空』に―――。
第23学区から飛び出た、あの時の『視界』をこの手に―――と。
出撃前夜、一方通行に心の内を漏らしてしまったのも、
その『勝負』を予感していたからなのに。
同じ境遇の男に、『先に済ませてくる』といった挨拶のような意味合いにもあったのに。
外道下法極まる殺し合いに、そんなのを求める事自体おかしな話なのだろうが。
麦野『…………』
それでも、麦野はこう思ってしまっていた。
『己の運命』は、今だここには見えない、と。
206 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:33:47.04 ID:cB8p6miIo
しかし。
そんな麦野の心配は『無用』のものであっただろう。
勝負の時は、案外すぐに来た。
唐突に。
そして逃れようも無く。
この後すぐに。
そもそもこの瞬間に、
麦野がこのような事を考えてしまったそれ自体が、『悪魔の勘』によるものなのかもしれない。
彼女は無意識のうちに、この後己の前に現れる―――。
―――『死』を嗅ぎ取っていたのだ。
207 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:34:32.47 ID:cB8p6miIo
麦野としては、リヴァイアサンに合わせてかなり速度を落としていたものの、
実際は時速500km近くも出ており、南島上空に達するのはあっという間であった。
麦野『(―――…………もうすぐだな)』
ふと気付くと、既に麦野達は北島と南島の間にある海峡の上を飛行していた。
麦野『(さて、ここからどうするか)』
思索に耽るのをやめ。
そして、このリヴァイアサンの料理法を具体的に考えようとした―――。
―――その時。
アラストル『待て。様子がおかしい―――』
ちょうど、リヴァイアサンの体が南島上空に収まった時。
そのアラストルの声と同じくして、突如リヴァイアサンが悶え苦しみ始めた。
恐ろしく巨大なヒレを振り回し、文字通りのた打ち回る大魚―――。
208 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/12(土) 22:35:00.20 ID:3BSqTseAO
支援
209 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:35:46.85 ID:cB8p6miIo
麦野『何が―――』
何が起こった、と言い切る前に。
アラストル『―――「中」にいるぞ』
アラストルのその言葉。
中。
その言葉を示すかのように。
リヴァイアサンの大口の中を満たす、『金と赤の光』。
それらは何度も明滅し、まるで―――いや。
麦野『―――』
―――比喩ではなく文字通り、『炎と稲妻』が瞬いていた。
轟く咆哮も、よく聞けばそれは間違いなく雷鳴。
そして次の瞬間。
麦野『ッ―――!!!!』
リヴァイアサンの目が破裂し、その眼窪や口から稲妻が迸り。
火口の如く業火が噴出し。
大魚は全身の糸が切れたかのように、重力に従いその巨大が地面に落下した。
210 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:36:45.27 ID:cB8p6miIo
世界中の工場を集めたのではないかと思いたくなるほど、
延々と広がる大規模な工場施設。
そこに600mにもなる巨体が落下していく。
現代工業の機能美に溢れた、無骨な『芸術品』を次々と押し潰していき。
車ほどの機材やその破片が、粉塵と共に舞い上がり飛び散っていく。
そんな山一つが丸々落ちてきたような光景を目にしつつ、
麦野は500m程離れた地点の工場の上に舞い降りた。
麦野『何が―――』
何が起きたかのは、この状況この光景そのものが物語っている。
何者かが、内側からリヴァイアサンを攻撃しそして殺したのだ。
そう、リヴァイアサンは死んだ。
そしてここから別の問題が浮上する。
麦野『―――あの中にいる?』
誰がやったのか、だ。
211 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:37:44.43 ID:cB8p6miIo
リヴァイアサンの排除と入れ替わり、その大魚を殺すほどの存在があそこにいるのだ。
果たして、敵なのか味方なのか。
神出鬼没のダンテやネロが『また』唐突に現れた、という事は考えられない。
力を嗅ぎ取ったアラストルの第一声が、「何かがいる」という表現なのだから。
そもそもアラストルのこの反応が、
乱入してきたのが『親しい存在』では無い事を物語っている。
と、そんな分析をする必要も、この後は特に無かっただろう。
答えはすぐに示される。
突如リヴァイアサンの腹が破裂し。
そこから凄まじい規模の稲妻と業火が周囲に向け迸った。
麦野『―――』
空を覆い尽くす金色の雷が、
この闇に染まった島を昼以上に明るくライトアップする。
大気中に走るその巨大な雷は麦野の周囲に届くどころか、
通り過ぎて遥か彼方の遠方まで達していた。
その規模は、南島全体を覆ったのかと思ってしまうほど。
そして、業火が周囲の工場施設を一瞬で溶解させ、正に炎獄の如く様相に変えていく。
この光の祭典は、北島からもはっきりと確認できる、いや、これではもう確認以前の規模だろう。
否が応でも皆の視界の一角を塗りつぶすはずだ
そしてその光の発現点、見るも無残な姿となった、大魚の肉塊の上に。
現れた。
『雷』と『炎』を有する、正真正銘の『神たる大悪魔』が―――。
麦野『―――』
―――『圧倒的な死』を携えて。
212 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/12(土) 22:38:09.59 ID:3BSqTseAO
支援
213 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:39:44.25 ID:cB8p6miIo
現れたその大悪魔は優雅に毅然と、
そして威厳を漲らせながら悠然と立っていた。
その容姿の形状は、どことなくブリッツに似ているか。
真上に伸びる一本の鋭い角や、フルフェイスの兜をかぶっているような目の無い顔、
爪先立ちの所謂『獣脚』、赤黒い地肌に、白金色の甲冑のような外殻を纏ったその姿などは。
だが、類似点はそのぐらいだったろう。
まず体格が大きく違っていた。
身長は3m程しかなく、非常にスリムであったのだ。
ブリッツのゴリラのような様相に対し、この個体は人間の細さに近いだろうか。
良く見ると、口周りの形状も違っていた。
ブリッツにはむき出しになっている牙が見られたのに、この大悪魔にはその類が無い。
口そのものが無く、本当に兜をかぶっているようにも見える。
そして何よりも違うのが手先だ。
周囲のブリッツは皆、巨大で無骨な爪を三本生やしているのに対し。
この大悪魔は片手に一本ずつ、『巨大な剣』を握っていた。
右手には炎が纏わり付いている、赤黒い大剣。
左手には、金色の電撃が迸っている青みがかかった銀色の大剣。
そして剣と言えば、
頭部の長い一角も、良く見ると剣の刃のような形状をしていた。
その素材は人界の『ダイヤモンド』に似た性質を見せるものなのか、透き通っておりまばゆく煌いていた。
214 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/12(土) 22:44:04.00 ID:cB8p6miIo
>>213
にミスです
29行目の
>周囲のブリッツは皆、巨大で無骨な爪を三本生やしているのに対し。
を
>ブリッツの手先には、無骨な爪が三本生えているのに対し。
に修正です。
ここの周囲にブリッツはいません。
215 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:45:39.41 ID:cB8p6miIo
その身から放つ力は圧倒的。
麦野『―――…………ッ』
この姿を一目見た瞬間。
麦野は、バージルと相対した時と同じ感覚を覚えていた。
アリウスとは違う性質の、ただただ『純粋な力』の『塊』。
『先ほど戦っていた段階』のアリウスよりも遥かに『強大』。
飾り付けせずとも、その莫大な圧だけで充分なこの力。
これぞ正真正銘の、『純粋な悪魔』の敵意。
これぞ力を解き放った、本物の『大悪魔』の殺意―――。
アラストル『…………』
両手の剣と額の一角、そしてその『主』が何者なのかを、
アラストルは知っていた。
魔界でも名だたる存在だ。
右手にある剣は、『炎獄』の大悪魔スヴァローグが姿を変えたもの。
左手にある剣は、アラストルと同郷の『雷獄』出身、大悪魔ペルーンが姿を変えたもの。
額にあるのも、『光』を司る大悪魔ダジボーグが姿を変えたもの。
つまり、これらは『魔剣』。
そしてこの三本の魔剣を従属させている『主』こそが―――。
アラストル『―――…………トリグラフか』。
アラストルは呟くようにその名を音にした。
大悪魔、『トリグラフ』。
覇王復活の始まりにより、その介入が『解禁』され、
そしてこの舞台に先陣を切って現る。
主の復活を『暴』で祝い、『全人類の血』で祀り、『人間界の破壊』で彩る為に。
216 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:47:39.42 ID:cB8p6miIo
麦野『―――』
そのアラストルの漏らした名に、麦野が問い返す暇も無く。
トリグラフは動いた。
稲妻と炎が瞬いた次の瞬間、この大悪魔は麦野の僅か20m前のところに立っていた。
灼熱で半液状化して原型を止めていない、
工場施設だった『オレンジの丘』の上に。
その移動速度は、今の麦野の目を持って出さえ瞬間移動に見えてしまう程。
そして麦野を検分でもしているのか、それとも彼女の方から動き出すのを待っているのか。
彼女を正面に捉えて微動だにせず、
その場で悠然と佇んでいた。
麦野『…………』
そんな圧倒的な存在を間近にして、
額やアラストルを握る手に一気に吹き上がってくる冷たい汗。
呼吸と鼓動のリズム自体は落ち着いているものの、
その一回一回が胴を揺さぶるような重さ。
麦野『…………』
それらを感じながらも、瞬き一つせずに麦野はその大悪魔を見据え。
すり足で右足を後ろにずらし、
すぐに踏み切れる体制に移行して相手の一挙一動に意識を集中させた。
217 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/12(土) 22:47:49.54 ID:3BSqTseAO
支援
218 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:49:23.99 ID:cB8p6miIo
しかしこの麦野の反応は、『動じていなかった』という事ではない。
むしろ彼女の精神は、
『怖気づく』のを通り越し、ある種の諦めの領域にまで達していた。
この反応も、『これしか』出来なかったといだけだ。
何をどうすれば良いか、他に何も思いつかないからだ。
この、叩きつけられてくる『圧倒的な死』を前にして。
第23学区の時や、対バージルの時と同じ。
『己だけでは何もできない』。
相手にしては、100%負ける。
100%殺される。
あの時のように、ダンテが現れてくれなければ―――。
麦野『―――』
そう、ダンテ。
その赤きヒーローの姿が脳裏を過ぎった瞬間。
麦野『……はは』
麦野は小さく『笑ってしまった』。
219 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:51:12.54 ID:cB8p6miIo
ダンテとは、麦野の『救世主』であり、『目指す』存在。
彼女にとってのその存在は、想い人に似たものでもあり、
そして子が父親に向ける想いにも似ているか。
十字教徒が『主』を心の支えにするような事と、似たような関係なのだろう。
赤きコートを靡かせるその後姿は、麦野の心に宿った蟠りをも吹き払っていった。
さわやかでありながら熱き疾風と共に。
そして、麦野は笑ったのだ。
今の己を見てしまって。
それはそれは、なんとも無様な姿であっただろうか。
己は、今相対しているこの『圧倒的な死』と。
この『運命』と決着を付ける、そう意気込んでいたのではないのか?
それなのに、三度目になってもまだ『助け』を求めていた。
この期に及んでまだ、ダンテに『救われる事』を求めてしまっていたのだ。
なんと甘い事か。
なんと愚かか。
なんと脆弱か。
とことん『卑屈』。
麦野『(…………クソが)』
どこまでも『腐っている』。
220 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:52:30.31 ID:cB8p6miIo
実は、先ほどのアリウスとの戦いの時だって、
その気になれば勝てていたはずなのだ。
『手段を選ばなければ』、アリウスを殺せていたはずなのだ。
己の身を省みずに、アラストルの力を『全て』解き放っていれば―――。
しかし、そんな事など思い浮かびもしなかった。
無意識の内に思考することを拒否していたのかもしれない。
生きて帰る事を、心のどこかで強く『期待』してしまっていたのか。
『この作戦の最高指揮官なのだから、そう簡単に己は死ねない』、そんな看板を盾に、
その本当の胸の内はただ死にたくなかっただけなのかもしれない。
いや。
全てがそうだったとは言わずとも。
一部は『確実』にそうだ。
出撃前夜、一方通行に漏らしたではないか。
その心の内を。
身の程を知らない愚かな願望を。
出撃前に、死を恐れずに行けと部下達に啖呵を切っておきながら。
その本心は『死にたくない』。
『生きたい』、と。
221 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:53:05.91 ID:cB8p6miIo
その言葉は嘘じゃない。
確かに麦野は『生きたい』。
そんな事を言える分際でもないのに、往生際悪くそう思っている。
だが。
そこで彼女は、改めて自問する。
違うだろう?
それが『一番』では無いだろう?、と。
ダンテに見た、『自由の空』に羽ばたく為の翼を手に入れるのが『一番』でもない。
最も願っていることは何なのだ?
この戦場へ来た、最大の目的は?
何と戦う為にきた?
何をしたい?
何を手に入れたい?
一体何を『守りたいのか』―――?
222 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:54:03.71 ID:cB8p6miIo
難しいことではない。
余計な感情を捨てて周りを『見れば』、普通にわかるだろう?
このトリグラフは、己を殺した後は何をするか。
次に誰にその刃を向けるか―――。
ここで、このトリグラフを何としても排除しなければ。
この絶大な力を有する大悪魔は北島に赴き。
『全員』を殺す。
『確実に全員』を。
天界の力を宿したあの大男だって、ルシアだって。
誰も勝てないし誰も止められない。
誰一人成す術無く虐殺される。
今この島にいるトリグラフに対抗できる存在は、同じ魔界の諸神たる『アラストル』だけなのだ。
そして、そのアラストルを『完全解放』できる権限を有している者こそ―――。
223 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/12(土) 22:54:15.18 ID:3BSqTseAO
支援
224 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:56:12.16 ID:cB8p6miIo
―――自問の果てに答えを導き出した麦野は。
麦野『―――アラストル』
静かに呼ぶ。
トリグラフの名を口にした後、なぜかじっと押し黙っていた右手の魔剣を。
そして告げる。
麦野『―――私の最期の命令だ』
アラストル『何なりと』
魔剣はそう、言葉を返し先を促した。
最高のクライマックスへの喜びと、終幕への悲しみが入り混じった声で。
アラストルが押し黙っていたのは、待っていたからなのだ。
この彼女の『決断』を。
麦野『―――私の身を「器」にして―――』
その時が来るのを恐れつつも、待望もしていたその『麦野の言葉』を―――。
麦野『―――私を「食い潰し」』
今この瞬間。
麦野『―――私を「殺し」―――』
その時が来た。
麦野『―――その力の全てを解き放て』
アラストル『―――仰せのままに。我が「マスター」』
225 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/12(土) 22:57:19.96 ID:QtqhgoPdo
うわああああ
226 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:57:21.91 ID:cB8p6miIo
そう命令を下した瞬間。
麦野は、急に己が驚くべきほど『心地』のよい世界に入ったのを感じた。
陰りが一遍も無い、澄み渡る『空』。
そう、それはまさしく。
ダンテに抱えられて地下駐機場から抜け出るときに『見た』―――。
―――あの雄大な、ただただ純真に求め続けていた『空』だった。
麦野『―――』
先ほど自問して、求めることをやめたばかりなのに。
いつのまにか『手に入れていた』のだ。
ここで麦野はようやく知った。
『翼』とは、手に入れようとして手に入れるものではない。
魂の声に耳を傾け、それを信じて真っ直ぐ道を進んでいれば、
自ずとついてくるものであったのだ。
227 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 22:58:33.20 ID:cB8p6miIo
そして彼女は思った。
己はやはりどうしようもなくバカで、どうしようもなく愚かだった、と。
気付くのが遅すぎたのだ。
まさにダンテそれ自体が親切に答えを示していたのに、
己は気付こうともせずただただ羨望するだけで。
自分の道を進まなければならないのに、ダンテの背中ばかりを追い。
結局、今こうして命を支払ってやっとわかったのだから。
でも。
悪い気分では無い。
それどころか、最高だ。
己自身の力で羽ばたけるのだ。
最高に幸せだ。
彼女は笑った。
麦野『あはッ―――』
ただただ無邪気に。
まだ闇に染まる前の幼い頃のように。
そして。
ダンテに抱えられて空を舞ったあの時の様に。
228 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 23:00:50.78 ID:cB8p6miIo
今なら胸を張って言えるだろう。
少女は穏やかな笑みで呼びかける。
『ねえ、絹旗―――』
『ねえ、滝壺―――』
『ねえ、浜面―――』
『ねえ』
『フレンダ』
ただの麦野沈利として。
『私、あんた達の事が何よりも―――。。』
そして言いたくても言えなかったあの言葉も、今なら声に出せる。
言っても仕方の無い、今更のあの言葉。
それでも言わなければならない言葉を。
『―――ごめんね―――』
その瞬間。
アラストルの『全て』が、麦野の中に流れ込み。
貪り。
融合していった。
229 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/12(土) 23:02:04.24 ID:3BSqTseAO
支援
230 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/12(土) 23:02:06.84 ID:vXcZ9zDi0
うおおおおおおおおおおお
231 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 23:05:39.63 ID:cB8p6miIo
これは厳密に言えば『転生』ではない。
上条やステイルの転生は、太陽の火を借りて点火するようなものだ。
一方で彼女の場合は、太陽を『丸呑み』にしたのだ。
もちろん、それは間違いなく自殺行為。
彼女がこの後どれだけもつかはわからない。
30秒か、1分か、それとも10分か。
でもこれだけは確実だ。
ここで彼女は死ぬ。
いや、もう麦野沈利は『死んでいる』。
この時、彼女は苦痛を感じる暇も無かった。
負荷を感じる段階なんか、瞬間的に遥かに過ぎ去ったのだから。
首が飛んでしまった後にはもう、痛みを感じる事など無いのと同じく。
そして彼女の力はアラストルの魔と完全に融合し、もうAIMでは無くなり、
滝壺とのリンクも完全に切断。
背中には、格段に放つ力が増大した紫の翼。
そして体中からの、『アラストルの力を取り込んだ』紫の光の噴射―――。
いや、逆だ。
『麦野の力の性質を取り込んだアラストル』の光が、全身からジェットのように噴出し、
周囲を全てなぎ払っていく。
更にその魔の力か。
彼女の体が、瞬時に『再生』していく。
失われていた臓器が、一瞬でその形を在りし日のものに『戻り』。
空だったスーツの左腕袖には『中身』が『蘇り』。
左目の眼帯も弾け飛び。
彼女の麗しき『瞳』が『舞い戻る』―――。
232 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 23:09:02.02 ID:cB8p6miIo
その『完全な姿』となった麦野は、赤く輝く『両目』でトリグラフを見据え。
右手の魔剣の切っ先を向け。
麦野『お前の首が―――』
麦野『―――フレンダへの手土産だ』
こう口にした。
これに対し、トリグラフは無反応であった。
ただ、通じているのかどうかなどは、麦野にとってはどうでも良い事だ。
その言葉は、己とフレンダへ向けたものなのだから。
そして彼女は前へと踏み切った。
これにはトリグラフも反応した。
それどころか、この時を待っていたかのように。
両手の魔剣を広げては、彼女と同じく前へと―――。
こうして彼女の最期の戦いが始まった。
その命を引き換えに―――。
233 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/12(土) 23:13:40.36 ID:cB8p6miIo
彼女はもう能力者でも人間でもない。
『生者』ですらない。
『大悪魔アラストル』の、時間制限付きの『容器』に過ぎない。
しかし、これだけは変わらない。
その心は間違いなく。
『麦野沈利』である点だけは。
今の彼女にはもう、ダンテの助けは要らないだろう。
それは、彼女がもう助からないから、という訳ではない。
ヒーロー
今度は、彼女が『ダンテ』になる番なのだから―――。
麦野『―――――――――』
――――――――――さあ逝こう、戦おう。
最期に最高の。
大きな大きな一輪の。
―――綺麗なバラを咲かせに。
―――
234 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/12(土) 23:14:56.23 ID:cB8p6miIo
今日はここまでです。
次は早ければ火曜の夜に。
遅くとも日曜の夜までに。
235 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/12(土) 23:15:30.00 ID:3BSqTseAO
むぎのおおおん
236 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/12(土) 23:15:52.66 ID:/jEvcOPh0
乙。
むぎのんに惚れそうだ
237 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/12(土) 23:16:19.73 ID:vXcZ9zDi0
うおおおおおおおおおおお乙!!!
238 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/12(土) 23:18:54.72 ID:QtqhgoPdo
おつうううううううううううう
239 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/12(土) 23:31:59.02 ID:gZgSGSODP
おつー
次が楽しみですぞ
>>236
ばかめ俺はもう惚れている
240 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/12(土) 23:44:51.49 ID:NYir+A8A0
乙っす
麦のんもいいけど土御門のdevil may cry の台詞にもしびれるな
241 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/13(日) 00:13:45.11 ID:3f+baDwno
乙乙
242 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/02/13(日) 00:37:09.70 ID:JLHRUUfW0
(n;Д;)n<むぎのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!
243 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/13(日) 10:01:37.55 ID:NQmwmbnAO
乙(ノ_・。)
SS速報は支援いらないからいちいち合間に『支援』って書き込まなくてもいいと思うの
244 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/13(日) 12:07:33.32 ID:DyF/9R1DO
麦のんカッコいい
黒子……
245 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/13(日) 14:06:53.22 ID:58ZqYaoHo
>>231
ミスです
下から五行目の
>左目の眼帯も弾け飛び。
を
>右目の眼帯も弾け飛び。
に修正。
潰れていたのは右目ですね。
246 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/13(日) 15:28:27.58 ID:FyLguKDjo
早ければ火曜とは言うが火曜に来たことが無いような気がする
247 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/13(日) 20:24:34.19 ID:/NJfwpb8o
それは言わない約束だ
248 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/02/14(月) 02:39:19.53 ID:k7LNTUuK0
(´・ω・`)y━・〜 年度末も近いし社会人はいろいろあんだよ
249 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/02/15(火) 05:37:20.80 ID:KDLZQpRN0
トリグラフってなんかのゲームのキャラ?
ググっても神話っぽい事しか出なかった。
250 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/15(火) 05:46:28.29 ID:V0nWVuBHo
神話からきてるんじゃねぇの
251 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/02/15(火) 20:21:00.56 ID:yylkWNHFo
デビルサマナー?
252 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/16(水) 16:57:54.08 ID:g/R3Hk3k0
三柱の神からなる単体の軍神の事じゃないの?
253 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/17(木) 01:46:34.34 ID:8cRN+9ns0
12月ぐらいからちょっと投下するペース落ちてきたよな
254 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/17(木) 02:11:37.53 ID:T+hj80gAO
ふっ
他に数ヶ月更新なしを待ってる俺にとっては早い方だぜ
255 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/17(木) 04:52:31.47 ID:QG4mgr3AO
以前の投下ペースが異常に早すぎるだけで、今も遅くないどころか早い方じゃね。
以前=魔人化スパーダ一族
現在=ノーマル状態
256 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/02/17(木) 10:27:16.46 ID:h++7tRQm0
ダンテも出るしマブカプ3買うかな
257 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/17(木) 23:17:57.55 ID:bloCJhM20
泣けてくるぜ…
258 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/18(金) 21:13:33.50 ID:WvgMr9P2o
人間界の器が保たない力のレベルはどこまでだろう。
魔剣士・魔女の全力は確実にアウト。ガブリアムの神戮でちょっとダメージ。
大悪魔頂点クラスがちょっと本気出して戦うのが限界なのかな。じゃないとトリグラフの出現で人間界がヤバい。
259 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/19(土) 20:50:48.28 ID:agWrhvBs0
そろそろかな?
260 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/19(土) 23:59:15.93 ID:/JNp3iXmo
―――
デュマーリ北島の闇に包まれた摩天楼の中の一棟。
とある地上300m以上にもなる高層ビル。
その屋上にあるヘリポートの端、四つの角先に、
黒い戦闘服に身を包んだ少年少女が立っていた。
立ち居地はまさにギリギリ。
つま先が屋上の縁からはみ出し、一歩どころか半歩踏み出せば地面は300m下という具合だ。
にも関わらず、
少年少女達は顔色一つ変えず鋭い眼差しで周囲を警戒していた。
ヘリポートの中央には、
そんな四方の者達と同じく鋭い眼差しの絹旗最愛。
その体躯は、小学生と言われてしまえば特に違和感無くそう見えてしまう程幼いものであるが。
実は強力な能力の保持者であり、
そしてこの『護衛チーム』のリーダーでもある。
他のチームは様々な状況に対処できるよう、人員構成もバランスよく割り振っているが、
このチームだけは『護衛特化』な為、絹旗以外の四人も皆武闘派タイプであった。
『護衛チーム』。
そう、この五人の任務はその『護衛』ただ一つ。
最重要人物、彼女の後ろにペタリと座っている滝壺理后の『護衛』だ。
能力者部隊の『心臓部』であり、
『加護の目』であり、この作戦の『要』である彼女の守護だ。
そしてもう一人、ここにはやや『場違い』な者がいた。
滝壺理后の隣に片膝立ちしている茶髪の少年、
浜面仕上が。
261 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:01:21.78 ID:3airrtKMo
いや、『世間一般』の概念に従えば、彼が一番相応しい格好をしていただろう。
背中には折りたたんだアサルトライフルと、医療品などが大量に入った大きなバックパック。
そして大型の衛星通信機。
(今現在、島を包んでいる異変のおかげでこの通信機は使用不可能になっているが)
手には大型の軍用グレネードランチャー。
腹回りには大量の弾倉、太ももには拳銃とその弾倉。
そんな片膝立しているその姿は、正に『現代の戦場』に相応しい『軍人』の出で立ちだ。
唯一の違和感と言えば茶髪で少年、という事ぐらいか。
しかし今のこの『魔窟の戦場』においては、彼は少数派の『場違い』であった。
なぜなら、彼は『能力者部隊』中、唯一の完全な『無能力者』。
一応能力開発を受けた身で、AIMを僅かに放出している為、
滝壺との通信リンクの形成はできてはいたが。
彼は文字通りの完全な『無能力者』である。
浜面「……」
一応、同じくレベル0の土御門という人物がこの能力者部隊にいると浜面も聞いていた。
だがその一方で、その男と己では比較にならないことぐらいも彼はわかっていた。
なにせその土御門という男は、
『風の噂』によれば統括理事長から『直々』の命を受けて動いていた大物らしい。
出撃前の集まりにて、浜面はその金髪の男を麦野の隣に見た。
そしてその時の佇まいでもわかってしまった。
一応指揮系統では麦野が最高指揮官となっていたようだが、
その集まり時の接し方を見れば薄々気付く。
『根の部分にあたる立場』は、その土御門という男の方が上だと。
262 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:03:08.22 ID:3airrtKMo
浜面「……」
同じ暗部所属でも、明らかに生きてきた『層の深度』が違う。
麦野やあの垣根帝督以上に、『裏世界』を知り、経験し、そして見てきたのだろう。
比べることすらおこがましい。
無能力者という点は同じだが、他の部分のスペックがかけ離れているのだ。
無能力というハンデなど簡単に覆す、誰よりも優れた何らかの才があるのだ。
浜面「……」
しかも今現在、どうやらその男が麦野に代わって総指揮を執っているようであった。
滝壺の隣にいることで聞こえてくるのだ。
通信先の声は聞こえぬものの、滝壺側の喋りだけで充分把握できる。
今滝壺が口にしているのは、悪魔が出没していない区画についてだ。
どうやら現在話している事案は、一部の人員や負傷者を退避させる件らしい。
そして、この通信の向こうにいるのが例の土御門という男。
4人のレベル5と選りすぐりのレベル4勢という、
学園都市が誇る『エリート集団』の総指揮を執る『超エリート』の『無能力者』。
一方、己はこの場での唯一の『落ちこぼれ』でありチンピラである『無能力者』。
浜面「…………………」
そんな事を考えていると、己がこの部隊に選抜された理由を『更に』問いたくなってしまう。
なぜ『浜面仕上』が選抜された?
その事については出撃前から絹旗に言われていたし、
このチームのメンバーの目線もそれを物語ってはいたが。
誰よりも首を傾げていたのは当然、彼自身であるのだ。
263 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:05:10.77 ID:3airrtKMo
浜面「……」
まさか、滝壺と絹旗の使い走りだから、
とオマケ程度にこの作戦に組み入れられたわけでもあるまい。
上位陣の『誰か』が『何かの理由』をもって、そう決定したはずなのだ。
なぜなのか。
その理由は一体。
ただそんないくら考えても、
この頭では到底答えなど導き出せないし、推測なんかも立たない。
無駄な労力であり、そんな思索こそ全く意味が無い。
それに浜面は感じていた。
『なぜ選ばれたか』の理由はわからなくとも。
己が『ここにいる事自体』については、『無意味ではない』のだろう、という事を。
ギュッと浜面の戦闘服の袖を握る、隣の滝壺の手から―――。
264 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:05:39.71 ID:3airrtKMo
色白で儚げでありながらも、ゴワついた防刃生地を握るその力は強い。
死んでも話すものか、と言いたげなほどに。
そう、彼女だけは、ここに来る前からも「なんではまづらが?」なんて事など一言も口にせず、
「一緒にがんばろうね」とにっこり。
絹旗も絹旗で表向きはぶつぶつ言うものの、
その胸の内がどんなものなのかは浜面は知っている。
いつのも冷笑交じりの口調で罵りつつも。
いざという時には、死に物狂いで己や滝壺を守ろうとする、と。
そしてそれは浜面も滝壺も同じだ。
浜面をはじめこの三人とも、己一人が地獄に行って済むのならば、
他の二人を安全な場所においておきたい、と考えてはいる。
しかしその一方で、どこまでも三人一緒であることに安堵していたのも事実なのだ。
地獄の果てでも二人の傍にへばりつき、
どの口でとも言われそうだがそれでも助けになりたいし守りたい。
それが言葉にせずとも通ずる、三人の共通意識。
それがアイテムの『名残』である。
265 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:06:25.71 ID:3airrtKMo
『アイテム』。
クソ溜めの中の、外道非道極まる暗部組織。
殺伐とした仕事上の間柄のメンバー。
そんな連中がなぜ、こんな共通意識を持っている?
その理由を説明しろと問われても、
三人ともこのような単純な事しか言えないだろう。
『ある程度』の時間、共に過ごし、共に戦い、共にその手を汚し、そして共に笑った。
それだけだ、と。
それだけ。
そう、『理由』はそれで充分だ。
こんな痴れ犬共には、これ以上に『上等なエピソード』なんか必要ない。
それが、しょうもないこの『絆』の理由だ。
一人が一人を殺し、他の三人も殺そうとしてぶっ壊れてしまった『おかげ』で、
それぞれがそれぞれの形で『初めて』理解した『絆』。
失った悲しみなり、懐かしみなりで。
そしてある者は。
『殺意に満ち溢れた憎悪』なりで―――。
266 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:08:04.77 ID:3airrtKMo
浜面はふと、3m程前方にある『小さな背中』を見た。
ゴワついた戦闘服越しからでもわかる、華奢で幼い体躯。
そんな小さな体から彼女、絹旗最愛は出撃する直前に滝壺と浜面にぶちまけた。
今まで表に出すことの無かったその胸の内を。
麦野との『アイテムの絆』、それに対する彼女なり『想い』を。
その姿は『憎悪』であった。
それが絹旗の想いだ。
浜面「……」
では、己は一体。
麦野とのその絆に『何』を想っている?
その答えは出ない。
少なくとも、絹旗のようにはっきりと言い切れなかった。
実際に殺されかけたという、究極の恐怖を抱く一方。
彼女の事で胸が締め付けられてしまうこの感覚。
滝壺と絹旗達の身を案じるのと『同じく』、だ。
浜面はわからなかった。
一体、自分はどう麦野の事を―――。
267 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:08:52.10 ID:3airrtKMo
初めて、この部隊の選抜メンバーが顔をそろえたあのミーティング。
その時に見た、スーツに身を固めた麦野の顔が忘れられない。
特に、退室した時のあの顔が。
あの何かを言いかけて止めたであろう瞬間の顔が。
己と滝壺を殺そうとしていた時の、灼熱の憤怒は影を潜め、
『絶対零度』の凍りついた無表情。
その一方でどことなく香らせる―――悲しく儚げなあの仕草。
浜面「…………」
浜面は心の中で問いを放つ、いや、あの日あの瞬間からずっと問い続けてきた。
対象には聞こえていなくとも。
何度も何度も。
麦野、お前は。
あの時何を言おうとしたんだ?
一体、何を思ってこの闇の下にいる?
お前は、俺達の事をどう『思っていた』んだ?
いや―――。
―――どう『想っている』んだ?
268 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:09:56.66 ID:3airrtKMo
ただ、そう心の中でいくら問いても、
決して答えは返ってこない。
浜面は『麦野では無い』のだから。
そしてそんな事をグダグダ考えているような状況ではない、
という事も彼はイヤというほどわかっている。
今の優先事項は。
とにかく作戦を成功させて、学園都市に生きて帰る事だ。
それが何よりも重要なこと。
この点のみ、浜面でも確信して断言できる。
これだけは、あの超エリートの『無能力者』も麦野も、
誰しもが等しく抱いている『共通意識』である、と。
滝壺「えっと……じゃあ……」
と、そうあれやこれや浜面が考えていたところ。
彼の隣にて、そして相変わらず彼の袖を握りながら、
滝壺はそう独り言を発した。
。
例の『エリート無能力者』との通信が終わったのだろう、
滝壺「ランドマーク上に待機してる各チームは、追って命令があるまで、現行の任務を継続」
今度は各チームへの回線を開いたのか、
滝壺は確かめるような口調で区切り区切りの命令を発していく。
滝壺「それから、負傷者の退避を許可」
滝壺「退避するかどうかは、それぞれのチームリーダーの裁量に任せる、ということで、」
滝壺「退避チームのリーダーは『Charlie 4』」
滝壺「退避するものは私に座標を申請したのち、『Charlie 4』の方へ向かい合流を」
269 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:10:29.19 ID:3airrtKMo
滝壺「あと、…………」
そして声色的に最後に締めくくりとなる言葉を、
彼女が続けようとしたその瞬間。
浜面「―――ッ」
鳴り響く、凄まじい『何か』の咆哮。
島全体が震え、比喩ではなく本当にビルが軋む音が続き。
そして砕け散っては街に振り注ぐ大量のガラス片の音が、
引いていく『さざ波』のようにこの摩天楼を撫でていった。
その『波音』が引くのを待ってか滝壺は数秒間、言いかけの口を開けたまま黙し。
滝壺「―――……これより、悪魔の攻撃がよりはげしくなります」
より丁寧なテンポで言葉を再開し。
滝壺「各チーム全隊員、充分警戒し………………死なないように。以上」
そう締めくくった。
270 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:12:46.98 ID:3airrtKMo
その言葉は浜面はもちろん、周りの者達もしっかりと聞いており、
それぞれがこれより戦闘に入る準備動作を改めて行い始めた。
一角のメンバーは、ほぐす為かその場で足踏みをし。
また別の一角のメンバーは腕を大きく回し、軽くストレッチ。
絹旗は能力の調子を再確認しているのか、両手の平を握っては開き。
そして浜面はグリップを握る右手の親指で、安全装置を外し。
図太い銃身の下にあるフォアグリップを左手で握り。
伸縮式の銃床を肩にあてて構え、片膝立ちのまま周囲に視線を巡らし警戒。
と、そんな中、滝壺が浜面の袖を掴んでいた手をパッと離しては立ち上がり。
滝壺「みんな!!い、移動するよ!!ここにもたくさん来るから!!!」
そう周りの者へ言葉を放った。
絹旗「移動ですか?どこへ向かいます?」
それに対し、絹旗は背を向けたまま指示を仰ぎ。
滝壺「……まずは南西へ!」
絹旗「超了解です!!」
次いで勢い良く振り向いては、一気に浜面と滝壺の方へと駆け出し。
滝壺を右脇に抱え、左手で浜面のベルトを引っつかんでは、
絹旗「皆さん南西へ!!!」
そう他のメンバーに言葉を飛ばして、ビル屋上のヘリポートから思いっきり『跳ね飛んだ』。
そして絹旗の続いて、他4名のチームメンバーもそれぞれの能力を駆使して同じく跳ね飛んでいった。
271 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:13:25.35 ID:3airrtKMo
地上400m以上にもなる摩天楼の天辺上を、
窒素のジェット噴射で砲弾のように放物線を描き飛翔する絹旗。
そんな彼女に優しく抱かれている滝壺と、無造作にぶら下がっている浜面。
この島に来て一度目の『コレ』は、浜面は絶叫した。
二度目はうめき声。
浜面「―――ッッ!」
そして三度目の今は何とか堪えていた。
何とまあ、人間の適応力は高いことか。
よっぽどの事でも人は慣れるものである。
それでも全身の鳥肌や滲み出るの冷や汗が示すとおり、
『スリル満点で愉快』と言える行為ではなかったが。
それにこの浜面の我慢は、直ぐ後にあっけなく打ち砕かれる事になる。
浜面「―――」
耳元にて響く、風が暴れる音の向こう。
後方か下方か、とにかくこちらを追いかけてくるように聞こえてくる『異形』の咆哮。
高速移動の暴風の中、何とか薄目をそれらの声の方へと向けると。
いつのまにか、大量の悪魔が真下にいた。
金切り声を挙げてはビル壁を飛び交っては伝い、
直下にぴったりと着いてきていたのだ。
その光景のなんとおぞましい事か。
272 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:14:00.72 ID:3airrtKMo
浜面「うぉ―――ッ!!」
浜面は堪らずに間抜けな声を漏らしてしまった。
そして更に、彼の顔を引きつらせる光景が続く。
浜面「―――き―――」
なんと、その悪魔達があちこちの高層ビルを一気に駆け上がり。
発射台・ジャンプ台代わりにし、そして飛び上がってきたのだ。
浜面「―――来たぞ!!!絹―――!!!!!」
その光景を目にし、彼は己のベルトを引っ張っている絹旗に告げようとしたが。
それは特に必要ではない行為であった。
というよりも、この悪魔達の接近に気付くのが一番遅かったのが浜面だ。
彼が絹旗にそう告げかけた時、
既に他のメンバー達は、飛び上がってきた第一陣との交戦に入っていた。
273 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:15:41.71 ID:3airrtKMo
浜面「―――は―――」
宙で身を翻し、即座に一気に撃題していく四人メンバー達。
その動きは目にも留まらない程の速度。
どう動いているかどころか、
一体『どのような能力』で攻撃しているかも浜面にはわからなかった。
直接触れずに悪魔を叩き潰したと思えば、次は手足で直接殴り飛ばしたり。
電撃に似ているも、微妙に色や感じが違う奇妙な光で悪魔を打ち抜いたり切り裂いたりなどなど。
そんな戦いっぷり自体は、この島に来てから何回か抗戦もあったことでもちろん目にしていたが。
『電気使い』や『発火能力』といった、見た目的にわかりやすいものでも無い限り、
『ちょっと見ているだけ』では能力を判別できないのは当然の事だ。
そもそも絹旗の『窒素装甲』だってその内容を説明されない限り、
浜面にとっては一体何の能力かまるでわからないだろう。
そんな絹旗の元にも。
つまり滝壺と浜面の元にも、悪魔がその爪を届かせてきた。
周囲の四人の網を抜けてきたのは、一体のフロスト―――。
274 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:16:27.32 ID:3airrtKMo
浜面「おッ―――おおおおおッッ―――!!!!!」
超低温の氷気を纏ったその悪魔の姿を目前にし、ただただ喚く浜面。
一方で絹旗は全く動じることなく。
まずは即座に片方の足で横に薙ぎ蹴って、
フロストが突き出してきた左腕の爪を弾いては叩き割り。
そしてもう一方の足で、その頭部を正面から踏み潰すように蹴り飛ばした。
フロストは獣染みた金切り声を挙げては仰け反り。
砕かれた氷兜の破片を撒き散らせつつそのまま街に落下して言った。
絹旗「―――超うるさいです。黙ってて下さい」
その言葉は浜面へ向けてか、それとも耳障りな声を挙げる悪魔達へか。
ともかく絹旗は同じようにやってきた悪魔達を、これまた同じように軽々足蹴にし次々と蹴落とし、
踏み台にしては更に空を『跳ねていく』。
道端にある石ころを、全く気にせず踏んで行くようにあっさりと。
275 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:17:22.68 ID:3airrtKMo
その一方で同じく改めて、
悪魔共のウンザリしてしまうほどの耐久力をも、まざまざと見せ付けられもしたが。
滝壺と浜面を『持っている』為、絹旗はそれなりに力を抑えてはいたものの、
今の蹴りは、乗用車等ならば潰れるどころか捻じ切れ切断されてしまうようなものだ。
それでも一撃では、フロストの爪を腕ごと蹴り千切るまでには至らない。
頭部そのものを潰すには至らない。
それ以前に、三発以上頭部に蹴り込んで叩き潰しても死なない。
頭部無しでも活発に動く。
上半身だけでも。
腕だけでも。
浜面「―――ッ」
『生命体』という括りでは、自分達と『同じ枠』だという事らしいが。
それでも根本的に何かが違う、いや『何もかも』が違う。
同じ生命体でも、浜面達が知る『この世界』の生命体ではないのだ。
一応、頭部等の特定の部位を破壊するのはそれなりに有効らしいが、
確実に殺すには『動かなくなるまで』攻撃を叩き込む必要がある。
学習装置、そしてミーティングでもそこは何度も言われていた事だ。
今まで見聞きしてきた常識は一切通用しないと思え、
相手は全く異なる法則の世界からやって来た『本物の化物』だ、と。
浜面「―――」
276 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:18:30.34 ID:3airrtKMo
少年少女達は進む。
地獄の底から手を伸ばし、引き釣り込もうとする悪魔達をぶち倒しては踏み台にして宙を舞い。
魔窟の孤島の如き、超高層ビルの屋上に降りてはまた跳ね飛び、更に摩天楼を突き進んでいく。
絹旗を始めとする五人の大能力者は、片っ端から大量の悪魔達を退けていく。
さすがは護衛専門の戦闘特化チームといったところか。
他のチームでは既に、平均2〜3が戦死もしくは戦闘不能に陥っているのに、
このチームは今だ無傷、浜面でさえ一つの擦り傷もない。
ただ。
こうして凌いでいられるのも時間の問題だ。
飛び上がってくる悪魔の数も徐々に増え、その攻撃の手も激しくなって来ており。
直下に群がってきているその数も膨れ上がってきている。
絹旗「―――滝壺さん!『ムーブポイント』は??!」
下方から飛び掛ってくる悪魔達を足蹴にしながら、
絹旗は脇に抱えている滝壺へそう言葉を発した。
どう見積もってもこの状況を、五人の大能力者だけで凌ぐのは無理がある。
やはりレベル5の支援が必要であった。
277 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:19:31.56 ID:3airrtKMo
滝壺「まって!!今はむすじめも―――」
と、その時。
滝壺は「今は結標も」と言いかけたところで、
言葉を詰まらせては一瞬目を丸くし。
滝壺「―――きぬはた!!!!」
彼女の名を叫んだ。
何かを指して「気付け」、と訴えている声色で。
絹旗「―――」
その時、絹旗も『それ』に同じくして気付いていた。
いや、滝壺の声と同時にリンクを通じて送られてきた情報で知ったのだ。
後方の遥か上空から猛烈な速度で。
高等悪魔、ゴートリングが飛翔しこちらに降下して来るのを。
278 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:20:28.82 ID:3airrtKMo
そのコースはまさにピンポイント。
絹旗を、いや、正確には滝壺を狙って。
絹旗はすぐに決断する。
己は今、何をどうすればいいのかを。
絹旗「―――滝壺さんを!!!!」
彼女は右脇に抱えていた滝壺を、突如左手先の浜面に投げ渡し。
浜面「―――う―――」
次いで、浜面を『放り投げた』。
浜面「―――おおおおおおおおおッッッ!!!!!!!」
ちょうど真正面にある高層ビルの、やや下層めがけて。
そして即座に、絹旗ゴートリングを視界に捉える為に振り返ると。
一瞬前に確認したときは直線距離にして500m以上も離れていたのに。
彼女が振り向いた時、ゴートリングは既に僅か10mのところにいた。
筋肉質な丸太のような左足を思いっきり引き。
今にもその『バネ』を、強烈な蹴りとして絹旗へ解放しようとしている体制で。
279 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:21:16.88 ID:3airrtKMo
絹旗は避けようとはしなかった。
ここで絹旗が避けてしまったら、ゴートリングはそのまま真っ直ぐ飛び、
滝壺らをその蹴りの餌食にしてしまうのだから。
つまり今。
このゴートリングが直進するコースの『延長線上』、
ゴートリングと浜面・滝壺のちょうど『間』、
そこに割り込む形で絹旗が配置していたのだ。
なぜ絹旗がこんな位置に持ち込んだか。
例えば、もし絹旗がこのコースの延長線上ではない方向に滝壺らを投げていれば、
ゴートリングは絹旗を無視して、コースを変えてそっちに行く。
そして、あの『超電磁砲』を追い込んだこともあるという記録を踏まえると、
いくら能力を爆発的に底上げしているといっても、浜面と滝壺を持ったままこの一撃をいなせるような相手でもない。
だからこうした。
回避はせずに、この一撃は『盾』となって止める、と。
この一撃を凌げば、後は他の四人と共に一気に押し込めば何とかなる、と。
絹旗は顔の前に両手を×時に交差させ。
圧縮した窒素を極限まで収束させては能力で更に固め上げ、最大限の『装甲』を形成。
そしてそれが完成した直後。
ゴートリングの凄まじい蹴りが『窒素装甲』へ向け叩き込まれた。
280 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:23:54.25 ID:3airrtKMo
斜め上方から凄まじい速度で繰り出してきた、その『滑空蹴り』。
高等悪魔のその破城槌の如き一撃。
その破壊力は凄まじかった。
先ほど高層ビルに投げ込んだ浜面達が、
その標的であるビルに『到達するよりも速く』。
浜面「―――絹ッ―――!!!!!」
絹旗の小さな体は浜面の僅か1m隣を突き抜けて吹っ飛んでいき。
強烈な衝撃波と爆音を伴って、
ビルへと叩き込まれていった。
いや、ビルを斜め下方へ『貫通』していった。
浜面「―――はたああああああああああああああ!!!!!!!!!」
その速度が余りにも速すぎ、
絹旗の体がどうなっていたかはまるで判別が付かなかった。
いや、それどころか、
浜面の目には『絹旗のようなもの』としてしか捉えられなかった。
281 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:26:20.75 ID:3airrtKMo
そして一足遅れて、浜面も高層ビルへと到達した。
先に過ぎ去っていった衝撃波によってビルの強化ガラスは割れていたため、
叩きつけられることは無かったが。
散らばっているガラス片、並んでいるデスク、
一足先に絹旗がこのビルを斜めに貫いていった際の瓦礫などなど、他にも障害物は様々。
そこに浜面は結構な速度で滑り込むようにして『着地』、というよりは『突っ込んだ』。
浜面「―――ぐッ!!!!!!」
何とか滝壺を傷つけないようにと強く抱きしめながら、
尻で滑っては両足でデスクを蹴り飛ばしていく。
一応『発条包帯』である程度の筋力強化は施していたこと、
そして丈夫な防刃の戦闘服を纏っていたことが幸いか。
特に大きな傷を負うことなく、浜面は15m程で停止することができた。
浜面「―――ッ……ってェッ……!!」
ただ大きな傷は無くとも、あちこちぶつけた為
体中青アザだらけであろうが。
滝壺「はまづら!?だいじょうぶ!?」
ただまあ、この着地に問題は無かった。『合格』だ。
浜面の上に乗ったままそう、声をかけてきた滝壺は無傷なのだから。
282 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:27:45.03 ID:3airrtKMo
浜面「ッ…………大丈夫だ!行くぞ!!」
『どこに』は全く定まっておらずとも、浜面は言葉をそう返し、
滝壺を抱きかかえるようにして起こしながら己も立ち上がった。
ここに留まっている必要など微塵も無い。
むしろ、止まっていると命取りだ。
とにかく行動していなければ。
浜面「―――」
と、立ち上がってこのオフィスフロアの内部に目を通した時。
天井から床を斜めにぶち抜いる巨大な穴が視界に入った。
何階もキレイに貫通している、
もしかすると遥か地上まで到達しているかもしれない程の穴が。
浜面「―――絹旗はッ?!!」
滝壺「……だいじょうぶ!!!!大きなけがはしてない!!!」
一拍の信号を確認する間の後、無事を告げる滝壺。
しかし彼らがその事で胸を撫で下ろす暇は無かった。
一難去ってまた一難とはまさにこのような状況。
滝壺「きた!!!!」
その滝壺の声にタイミングをあわせたかのように、
ビルの下方から無数の悪魔の金切り声が鳴り響いて。
浜面「―――」
ガラスの無くなった窓から這い上がってきた。
ここへの『一番乗り』であろう、一体のフロストが。
283 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:28:41.35 ID:3airrtKMo
浜面「ッ―――!!!!!」
咄嗟に滝壺の体を己の背後に張り付かせ、
そのフロストに対して盾になるような位置に浜面が動いたその瞬間。
『割れた氷兜』の間から見えたその赤い瞳と浜面の目が合い。
浜面は一瞬だけ動きを止めてしまった。
そのフロストに、浜面は見覚えがあったのだ。
半分割れている氷兜。
欠けている左腕の爪。
ついさっき、絹旗に『二蹴り』で追い返されたあのフロストだ。
浜面「『てめぇ』は―――」
浜面がそう思わず口にしかけた瞬間、
フロストの方も同じようにおぞましい金切り声を挙げた。
まるで言葉を返してきているかのように。
284 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:29:48.60 ID:3airrtKMo
浜面「―――」
距離は20m。
間に絹旗はいない。
他四人の大能力者もいない。
滝壺とフロストの間には己のみ。
そんな『現実』を強烈に感じながらも。
浜面「ほんとうるっせぇな―――それにしつけえ―――」
その口からは強気の言葉を吐く。
それはピンと張ったこの緊張感、
ギリギリの『平静』を何とか保とうとする己への喝。
瞬き一つせずフロストを見据えながら、浜面はグレネードランチャー構え。
浜面「―――『黙ってろ』っつってんだよッ」
絹旗と『同じく』吐き捨てた後に息を止め、狙いを定める―――。
特に発砲時に息を止める決まりがあるわけではない。
呼吸の振動で照準がずれてしまうような距離でもない。
ただ、そうすることで意識がぶれずに安定するような気がしたからだ。
怖気ずに気合が入る、といったところか。
とにかく『この一体』だけは、何としても己が殺さなければならない。
フロストが浜面へと突進する瞬間。
同時に、浜面も引き金を絞った。
続けて何度も。
285 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:30:41.26 ID:3airrtKMo
一回、二回。
無骨な引き金を絞るそのたびに、肩に伝わる衝撃と共に軽めの射出音が響き。
次いで凄まじい爆裂音と一瞬の強烈な閃光・火花でフロストの姿が見えなくなる。
三回、四回。
装填されているのは、『瞬間的に超高温ガスで一点溶解させ貫通する』という『対装甲用』の弾頭。
その性質で周囲への破片と衝撃波は極僅かで、そのおかげでこんな至近距離における炸裂も可能。
五回、六回。
しかしその火花と閃光、そして後に残る煙が無害というわけではなかった。
なにせ、その効果を目視できない。
しかし目視する余裕など元より無かった。
明らかに着弾点が近付いている事からも、フロストはまだ止まっていないのだから。
浜面はとにかく放つ。
無心になって。
七回。
この化物共を殺すには、『動かなくなるまでとにかく叩き込め』。
そして八回―――。
286 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:32:41.95 ID:3airrtKMo
フロストのその巨体は『止まらなかった』。
上半身にグレネードを叩き込まれた衝撃で、
両足を前方に放り出すように仰け反りながらも。
今だ生きている突進の慣性に従い、
浜面の横を猛烈な勢いで通り過ぎては床を転がっていった。
浜面「―――ふはッッ」
浜面は溜め込んでいた息を吐き、
横目でその悪魔の体を確認した。
フロスト胸の中央から首、頭部がきれいさっぱり消えおり、
どの部分もピクリとも動いてはいない。
『倒した』。
浜面「はッ―――!」
その姿を確認し浜面はもう一度、
今度は安堵の色が見える息を吐き。
そしてすぐに立ち上がり、
手際よくグレネードランチャーの弾を装填しつつ。
浜面「―――他のメンバーは!?絹旗は何してる!?」
滝壺にそう言葉を向けた。
287 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:33:48.02 ID:3airrtKMo
己の全力でフロスト一体。
一方で、下からは猛烈な勢いで数百以上。
情けないことだが、
己一人ではこれからどうしようもないのは浜面もわかっていた。
浜面「―――」
そう、『今ああして』。
第二陣・第三陣として、窓から這い上がってきた数十もの悪魔を相手になど―――。
と、ちょうどその時。
正に危機一髪。
「―――伏せて!!!!」
そう声を浜面たちへ向けて張り上げながら、
護衛メンバーの内の二人、
金髪に三つ網の少女と、身長の高い黒髪の少年が窓の外から突入して来。
そして、浜面達に飛び掛りかけていた悪魔達を、次々とぶっ飛ばしていった。
288 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:34:24.34 ID:3airrtKMo
浜面「―――ッ!!!!」
滝壺に覆いかぶさるようにその場に伏せながら、
その大能力者戦いっぷりを再度目にする浜面。
アサルトがぶっ飛ばされて壁にめり込んでは貫通していき。
ブレイドがその鎌をへし折られて、次いで頭部もへし折られて床に叩き込まれて。
フロストが氷の破片を撒き散らせながらその身の一部も舞い散らせ、バラバラに解体されていく。
そこに更に、残りのもう二人も飛込みでやって来。
絹旗「―――滝壺さん!!!浜面ァッ!!!!!!」
そして絹旗も。
浜面「絹旗!!!!!」
滝壺「きぬはた!!!!」
ここにくるまでに戦闘服の上着が破けでもして脱ぎ捨てたのか、
彼女の上半身は軍用のグレータンクトップであった。
そして両手には、潰れた圧縮窒素の缶。
握りつぶして窒素を補充、
そして握りこんだ拳のまま悪魔達をぶっ飛ばしてきたのだろう。
絹旗は浜面達の名を叫んだ後、
他の四人と共に悪魔をぶっ飛ばしていく。
289 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:35:35.97 ID:3airrtKMo
しかし。
ここにやってきたのは彼女達『味方』だけではなかった。
フロスト等の悪魔達が突如、何かに制止されたかのように動きを止め。
絹旗「―――」
次いでその瞬間。
床をぶち破って、下階からその招かれざる客が現れた。
『高等悪魔』、ゴートリングが。
周囲の悪魔達とは違う、凄まじい『圧』を放って。
他の下等悪魔達が退いていく。
さながら、このゴートリングに獲物を明け渡したかのように。
ここにいる皆が圧倒されていた。
先ほどまで下等悪魔達を一方的にぶちのめしていた大能力者達も。
まるで縛されたかのように、一時の硬直。
しかしそんな中で。
絹旗「―――殺れェッッッ!!!!!!!!!」
絹旗が発したその一言の号令が、全員の体を『縛』から解放した。
無論、絹旗自身の体をも。
そして彼女達は一斉に。
四方からゴートリングに向かって踏み出す―――。
290 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:37:10.69 ID:3airrtKMo
やはり『高等悪魔』。
そのパワーも速度も、当然そこらの下等悪魔とは格が違う。
ゴートリングの攻撃、その一撃。
能力強化したこの精鋭中の精鋭である大能力者でさえ、
そのたった一撃で終わる。
メンバーの内の一人。
長身に黒髪の少年が回避に遅れ。
この高等悪魔の『蹴り降ろし』の直撃を受けて『木っ端微塵』、
コンクリートの破片・粉塵に混じる『赤い霧』と化した。
しかし、絹旗ら他の四人はそんな彼の結末にはまるで反応を示さない。
皆わかっていたのだ。
一瞬でも怯んでしまったら終わり。
僅かでも怖気づいてしまったら終わり。
気が逸れてしまうその一瞬の時間が死へ直結する。
反応に『間』が空いてしまったら、
今の彼のように確実に命が刈り取られていくのだから。
そしてただただ、この戦闘に意識を集中する。
291 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:38:25.66 ID:3airrtKMo
一体の高等悪魔と四人の大能力者達。
彼らは上下を完全に『無視』し、
壁・天井・床の全ての面を縦横無尽に跳ねては駆け巡り、壮絶な攻防戦を繰り広げる。
爆風を纏ったゴートリングの蹴り。
それが天井や床に巨大な風穴をぶち抜いていく。
大木の如き図太い腕の、
鞭のようにしなる攻撃が階ごとぶち抜き叩き割る。
音速を遥かに超える速度で伸びたゴートリングの腕が、言葉通り『もぎ取って』いく。
金髪で三つ網の少女の『上半身』を。
それでも決して怯まず、攻撃を叩き込んでいく絹旗ら三人。
確かにゴートリングの攻撃は強烈である。
しかし彼女達も負けてはいない。
彼女達が決死の中で放つ攻撃、
それが確実にゴートリングの命を削っていく。
絹旗らの攻撃が命中するたびにゴートリングの体が軋んでは、損傷し血が飛び散り。
その『山羊の口』からは苦しそうなうめき声や咆哮を上げ。
『―――aksolldsoa!!!!!』
檄しているような、ノイズ交じりの奇妙な叫びを発していたのだから。
そう、痛みの声を漏らすのなら。
苦悶の色を示すのなら。
―――勝てる。
292 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:40:20.75 ID:3airrtKMo
小柄な、長い黒髪をうなじあたりで結っていた少年が下から殴り飛ばされ。
天井の『赤い染み』となったが。
その瞬間同時にもう一人、黒髪にショートカットの少女がゴートリングの左足を切断。
そして、そのダメージにうめき声を挙げたゴートリングの顔面へ。
絹旗「―――おぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!!!!!!!!!」
すかさず絹旗の飛び膝蹴りが叩き込まれた。
仰け反り、そして床に叩き込まれめり込むゴートリングの巨体。
絹旗はそのまま、図太い『首』の上に『馬乗り』になり。
腰から、窒素缶がいくつもぶら下がっているベルトをそれごと引き千切っては、
己が右手に巻きつけ。
絹旗「死ッッッッ―――」
ハンマーの如く、その右手拳を渾身の力を篭めて振り下ろす。
『―――klauvjs人間共sak―――mahhgd滅mahgfdfuu―――!!!!!!』
人語の混じった声を漏らした、その山羊の顔に。
絹旗「―――ねェ゛ェ゛ェ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!」
293 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:40:52.79 ID:3airrtKMo
彼女のその右手に巻きついているのは、単なる複数本の『圧縮窒素』の缶だ。
しかし絹旗の能力にかかれば、それらは尋常ではない『危険物』となる。
小さな拳が、ゴートリングの顔面に叩き込まれた瞬間、衝撃で全ての缶が潰れ。
そこからあふれ出た圧縮窒素が、彼女の拳に爆発的なブーストをかける。
効率や残量などなんのそので燃料を注ぎ足し、瞬間的に凄まじい出力を叩き出す『アフターバーナー』。
音はもう殴打のものには聞こえないレベル。
航空用爆弾が炸裂したかのごとく、凄まじい炸裂音。
そして破壊力も、そんな衝突音に相応しいものであった。
浜面「―――ッ!!!!」
階の床全体が大きく沈み、実にフロアの総面積の半分が吹き飛ぶ。
更に、遥か下階まで貫く大穴。
まるで己がやられた先の一撃のお返しとばかりに。
その凄まじい反動で絹旗自身、
天井を突き破って上方に吹っ飛ばされたが。
絹旗「―――死ね!!!死ね!!!死ね!!!死ね!!!死ねェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛!!!!!!!!!!」
それでも絶叫染みた声を張り上げながら、何度も何度も下方へと右拳を振るった。
その拳から放たれた窒素の『槌』が穴の底へと叩き込まれていっては、
ビル全体が今にも倒壊しそうな勢いで軋んでは揺れる。
294 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:41:45.62 ID:3airrtKMo
とにかく『動かなくなるまで叩き込む』、というのが重要なのは確かであったが。
この時の絹旗は明らかに『過剰攻撃』であった。
最初の数撃で既にゴートリングの体の原型は無く、
『木っ端微塵』になった破片が一面に飛び散っていたのだから。
浜面「絹旗!!!!おい!!!!絹旗!!!!!もう充分だ!!!!!!」
天井から降って来る破片、それから滝壺を庇いながら、
浜面はそう言葉を飛ばした。
このままでは床全体が抜けてしまう、
いやそれどころかビルごと崩れ兼ねない。
と、そう浜面が声を張り上げたところ。
轟音の中から浜面のその呼びかけが聞こえたのか、
それとも絹旗自身が普通に切り上げたのか。
そのどちらなのかは判別できなかったが、彼女は攻撃の手をふと収め、
能力で浮遊しては穴の縁に軽く降り立った。
そして一瞬前までの『形相』や『絶叫』が無かったかのようにサラリと。
絹旗「滝壺さん、ケガはありませんか?」
295 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:43:00.33 ID:3airrtKMo
浜面「……」
立ち上がり、そして滝壺を起こしつつ。
浜面はそんな絹旗を見てふと思い出していた。
『絹旗、キレると結構ヤバイから』
『絹旗は怖いよ。「色んな意味」で』
前にそう口にしたのは麦野かフレンダか、『あの日々』の中で聞いた言葉を。
滝壺「うん……私はだいじょうぶ……」
そう、やや俯きつつ頷いた滝壺。
その目は赤くなり、今にも雫を落としそうなほど潤んでいた。
浜面「……」
それに気付き、浜面は彼女の背中に軽く手を当てた。
なぜ滝壺がこんな反応をしているのか。
浜面はその理由を知っていた。
いや、『この島に来て知った』。
『リンクしている者』が死んだ時、彼女は一時こうなってしまうのだ。
今のコレは、恐らく三名の今の死によるもの。
296 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:44:36.80 ID:3airrtKMo
リアルタイムで知覚共有している者が死ぬのは、一体どんな感覚なのだろうか。
ネットワークの末端からの『タダのデータ』として処理されるのか。
それとも。
自分が死んでしまう、もしくは親しい誰かが死んでしまうような錯覚に陥ってしまうのか。
優しい滝壺にとっては、少なくとも前者ではないようであった。
レベル5の位に相応しく強化された彼女の能力は、単なる信号の強弱だけではなく様々な情報、
対象の感情や想いをも感じてしまうのかもしれない。
浜面「……」
絹旗「そうですか。それは超良かったです」
絹旗はそんな滝壺の様子を見ても全く顔色を変えず、
そう淡々と口にした。
浜面「……」
その絹旗の態度は間違ってはいない。
いや、この状況下ではまさしく模範的行動だろう。
たった今の三人の死に対して、『何も思わない』わけではない。
絹旗も必ず何かしら感じている。
しかし。
今『それ』を思っている暇は無い。
『それ』は、全てが終わって帰還してからだ。
297 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:45:33.98 ID:3airrtKMo
「ゴートリング、またあのレベルが来たらもう対処は無理ね」
自身の手首辺りの傷に包帯を巻きながら、
そう現実を告げる黒髪のショートカットの少女。
それに絹旗も。
絹旗「三人欠けてしまった以上、先ほどのように飛び飛びで移動するのも超危険ですね」
下方のみならず、『上』からも響いてくる、
異形の者達で再び『賑やかなざわめき』を耳にしながら淡々と言葉を発した。
絹旗「今戦っている間に超包囲されてしまったようですし」
浜面「……」
所謂、袋のネズミだ。
次第に悪魔達のおぞましい大合唱が強くなっていく。
そのざわめきでビルが崩れてしまうのでは、と思ってしまうほど。
「あーあ……あの数じゃ、突破も無理くさいね」
絹旗「超厳しい―――」
と、その時であった。
一瞬にして、皆の目に映る映像が切り替わった。
フィルムをぶつ切りにしてつなぎ合わせたかのように。
298 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:46:31.41 ID:3airrtKMo
絹旗「―――!!!」
浜面「―――ッお!!!!」
そこはとある、別のビルの屋上だった。
一瞬何が起こったかわからず、絹旗も目を丸くしては身構えたが。
その疑問はすぐに解けた。
屋上の真ん中に立っている大きく破壊されているアンテナ塔、
そのふもとのところに座っている少女の姿によって。
結標淡希。
結標「ごめん。支援するの遅れたわ」
軍用ライトをバトンのようにまわしながら開口一番、
彼女はそう浜面達に謝罪した。
その髪は乱れ、額には汗が滲み息も少し荒かった。
浜面「……」
なぜ彼女が支援できなかったのか、その答えもここにあった。
浜面「(…………電気)」
チクリとしし毛穴が開く、あたり一体がまるまる帯電しているかのようなこの感覚。
屋上もその三分の一が、巨大な剣で切り取られたかのようにぱっくりと削れているこの光景。
良く見れば、周囲のビルも一部が大きく『抉り取られて』いる。
そして結標の足元に転がっている、巨大な三本の爪がある異形の腕。
浜面「……」
間違いない。
滝壺を狙って悪魔達が押し寄せてきたのと同じく、
結標も激しい攻撃を受け、壮絶な戦闘をたった今繰り広げていたのだ。
そしてその相手は、恐らくブリッツ。
折れたアンテナ塔の頂点には、別の個体のと思われる上半身がぶら下がっていることからも、
結標が相手にしてたのは一体ではなく複数体。
学習装置によって刷り込まれた情報によれば、
その脅威性は、先のゴートリングよりも更に高く設定されている、非常に危険な存在だ。
299 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:48:07.60 ID:3airrtKMo
結標「あーッ……ふーッ……」
結標はそう深く息を吐きながら、
疲労の色が見えるその顔をライトの持っていない方の手で一度擦り。
そして再び面を上げて。
結標「…………細かい話は無しで、これからの事を簡単に」
結標「今からは、私が滝壺を『直接』護衛をする」
結標「それで、滝壺の面倒見るだけで精一杯だからあんた達は白井く……」
結標「……『Charlie 4』に合流して」
この命令は、言い換えれば『滝壺から離れろ』という事。
浜面「―――あの―――」
それに対し、思わず浜面が声を挙げかけたその瞬間だった。
突如、『南の空』を『覆う』―――。
―――黄金と紅蓮の閃光。
300 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:48:50.14 ID:3airrtKMo
そして。
浜面と絹旗は聞いてしまった。
滝壺が、その閃光の方を見つめながら。
滝壺「………………………………む……ぎの……?」
問いかけるような。
呼びかけるような声で、そう彼女の名を口にしたのを。
それどころか、更に続けて。
滝壺「むすじめ―――」
誰よりも早く、閃光から目を離して即座に。
滝壺「―――私を、あのむぎののところに」
301 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:50:01.05 ID:3airrtKMo
恐らく滝壺はその瞬間、
口にした言葉を遥かに上回る量の情報を、リンクを介して結標に流したのだろう。
結標「―――わかった」
結標は特に顔色を変えず即答したのだ。
ただ。
滝壺が流したのは、わかったこと全てではなく、
『都合の良い』部分だけであったのも確かだろうが。
そして。
結標「先にあんた達を飛ばすわ。『Charlie 4』はここから5km北―――」
結標「―――転送地点から1km北ね」
浜面「―――ちょっ―――」
絹旗「―――」
浜面ら三人は、問答無用でその場から『飛ばされた』。
302 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:51:38.02 ID:3airrtKMo
再び切り替わる『映像』。
浜面「―――……と待―――て……よ………………」
次は薄暗い路上であった。
絹旗「……」
あまりの状況展開に頭がついていかず、
絹旗と浜面は数秒間その場で立ち尽くしてた。
浜面「………………」
滝壺の発したあの言葉。
それは『麦野』。
麦野。
―――麦野。
作戦に関わる何かを鑑みて、ああ結標に言ったのか?
いや違う。
あれは違う―――。
―――あれは滝壺自身の意志だ。
303 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/02/20(日) 00:53:09.41 ID:3airrtKMo
浜面「……」
暫しの沈黙の後。
浜面はおもむろに、その場にバックパックと無線機を下ろし。
そしてグレネードランチャーら装備を確認し始めた。
同じく絹旗も。
圧縮窒素の最後の一缶を、最も取りやすい位置にひっかけ。
両手の平を握っては開き、能力の調子を確認。
「……あれ?合流しに行くんじゃないの?」
それを見ていた黒髪のショートカットの少女が、
不思議そうにそう声をかけた。
浜面「『俺達』はここで別れる」
浜面は己の装備を点検しつつそう告げた。
浜面「あんたはこれを『Charlie 4』に届けてくれ」
無線機と医療品の詰まったバックパックを目で指して。
「……あんた達は?」
浜面「…………」
と、その少女の問い返しに浜面は、ふと点検の手を一度止め。
そして再び動かしつつ、こう何でもないように告げた。
浜面「…………俺達は俺達で合流する―――」
浜面「―――『別のチーム』に」
絹旗「………………………………」
―――
304 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/20(日) 00:53:59.64 ID:3airrtKMo
今日はここまでです。
次は遅くとも土曜の夜までに。
305 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/20(日) 00:54:52.06 ID:qBIyjzds0
乙
次は土曜か楽しみ
306 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/20(日) 00:56:21.42 ID:f+osKApxo
乙乙
アイテムが再び一つになる時が来たか・・・
307 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/02/20(日) 01:23:21.54 ID:T1rYSsIH0
続きが楽しみでたまりませんわ乙
308 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/20(日) 06:28:47.99 ID:+3IZtPuAO
せっかくライブで読んでたのに寝落ちするとは…
>>1
乙です
309 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/22(火) 14:32:48.85 ID:lU5yr/DDO
アリウスがどんなヤツか知りたくてDMC2買ったら、シリーズ最高の小物だった…
ルシアdiscでは少しマシになるのかねー
310 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/22(火) 20:44:37.55 ID:SCwe1muX0
ゲームでのアリウスの弱さは異常
311 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/22(火) 23:45:58.68 ID:FV+Lcg5DO
まぁ相手は真魔人化とかしちゃう変態だし
312 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/25(金) 20:53:49.34 ID:CeJqE6cAO
ふと気になったんだが『絶望の具現』と『覇王』は別モノなんだよな?
前者がダンテ編、後者がルシア編のラスボスでいいんだよな?
313 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/25(金) 21:11:51.01 ID:JNdnBzkwo
ルシア編のは中途半端に降ろした状態のアリウスじゃなかったっけか
んで覇王の真の姿が絶望の具現だったかな
手元に2がないからうろ覚えだけど
314 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/25(金) 23:58:40.62 ID:Dk+tqK0Xo
2はもんじゃ焼きしか覚えてねぇわ
315 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/26(土) 17:55:34.22 ID:1bAdlnzDo
すみません。
新しいPCを買ってしまいサボってました。
今日の投下はありません。
316 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/26(土) 22:34:07.30 ID:pbmW751ao
把握待ってる
317 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/02/26(土) 23:07:55.42 ID:Zba+6g/40
了解した。次回に期待
318 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/26(土) 23:16:21.66 ID:laR7AdfZ0
次回はいつになるのか
319 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/27(日) 00:02:25.24 ID:GOJl/QuAo
>>315
って
>>1
か?
自己満扱いを望んでたレスに、遅れるお詫びにと解説してくれたような人がんな事するかね。
320 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/02/27(日) 01:46:38.37 ID:oV1XNovmo
>>319
わりとどうでもいい!!
321 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/02(水) 12:09:16.32 ID:FnlIFvjDO
そういえば1周年だな。作者おめでとう
322 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/03/02(水) 14:54:35.37 ID:UIGfkms+0
>2010/02/27(土) 20:21:52.19 ID:B5ACLTPv0 より
・・・もう一年か。ここまでの長編になるとは思ってなかったおめ
323 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/02(水) 20:54:56.79 ID:Y76XSBkio
次の投下は明後日の夜となります。
ちょうど一年という時にこうもダラダラ遅れてすみません。
324 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/02(水) 21:00:43.74 ID:GJvaKLVSo
把握
>>1
のペースでやればいいさ
325 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/02(水) 21:43:20.64 ID:FnlIFvjDO
>>323
大丈夫だよ、>>いち
私はそんな>>いちを応援してる
326 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 00:24:49.54 ID:A94W1H7Eo
―――
米特殊部隊員が7名、内2名が重傷。
ウロボロス社兵隊員が4名、内3名がパワードスーツ装備、1名が重傷。
デュマーリ島の民間人が7名、内3名が重傷。
そして学園都市の民間人が1名。
計23名。
これが白井黒子率いるチームの人員であった
目的は激戦地から遠ざかり、街外れにて拠点を確保すること。
こんな、人員を即時移動させる仕事にはまさに彼女のような空間移動能力者が適任だ。
とはいえ黒子も含めて総勢24名。
それも過半数が屈強な男となれば、
いくら能力強化をしたと言っても一度に飛ばせる質量ではない。
そこで黒子らは、以下の手順で移動することにした。
まずパワードスーツの三人を飛ばし、先の安全が確認された後に特殊部隊員の半数を。
次いで民間人と負傷者、そして残りの特殊部隊員と共に黒子も飛ぶ。
一度の移動距離は250〜300m。
327 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 00:26:02.67 ID:A94W1H7Eo
この手順の場合、一度の移動に計4回の転移作業が必要となるが、
先の安全確認が一瞬で済めば5〜6秒程度で全転移が可能であるため、
時間的な面では差ほど問題は無い。
安全面も『まあ、差ほど変わらない』。
ただ、それは決して安全面が『問題無い』という訳ではないが。
どうやっても『現状から良くはならない』、ということだ。
そもそも、安全面に関しては何の策の弄しようも無かった。
人員の構成そのものが原因なのだから。
戦力が乏しすぎるのだ。
黒子一頭だけの牧羊犬では、森をさまようこの羊の群れは到底守りきれない。
狼が徒党を組んで現れれば、一気に一網打尽にされかねない。
彼女達はとにかく目立たないよう、追いつかれないよう素早く移動しなければならなかった。
そして最大の難関となりそうだったのが、土御門がいるビルの『包囲網』からの脱出であった。
一斉に押し寄せてきた、数百どころか有に千を越える数の悪魔達による包囲だ。
といった具合だったのだが実際、
その脱出はあっけない程に簡単であった。
悪魔達は明らかに黒子達の存在に気付いていたはずなのに、
彼女達には迷わず土御門達がいるビルの方を目指していったのだ。
目視して直接姿を見ても、まるで目もくれずに。
328 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 00:28:36.02 ID:A94W1H7Eo
そして黒子達は、当初の目的地に到達していた。
黒子「…………」
デュマーリ北島の北西部、広大な港のエリアに。
城壁の如く整然と並んでいる、積み上げられたコンテナ。
そして連なっている、まるでシェルターのような倉庫群。
その間を、一行は周囲を警戒しながら進んでいた。
聞こえて来るは、遥か後方からの戦闘音の木霊。
この周囲一帯はそれはそれは静かなものであった。
人の気配も無ければ、悪魔の悪寒も無い。
都市部では至る所で見られたウロボロス社部隊と悪魔の交戦跡も、
ここには全く無かった。
黒子「…………」
並び立っている倉庫の様相は、これならば核兵器の直接攻撃にも容易に耐えうるだろう、
と思わせる程に強固で重厚。
正面から見ると屋根の部分が狭まっている台形型、
というその形がますますその空気を醸し出している。
機密性が高い物や危険物を多く扱うが故のこの設計なのだろうが。
黒子「…………」
全民間人を収容できる地下シェルターがあちこちにある学園都市も大概だが、
このウロボロス社の倉庫地帯はそれ以上だ。
戦時下、それも核戦争に備えて作られたとしか思えない程に、
軍事色がとにかく強かった。
この風景の一枚だけを見て、誰が『港の倉庫群』だと言い当てられよう。
皆が皆、どこかの軍事基地だと言うだろう。
329 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 00:32:05.46 ID:A94W1H7Eo
と、一行が周囲に目を光らせながら進んでいたところ。
パワードスーツを来たウロボロス社兵がふと。
「あれは使えそうだ」
そう口にしながら、徐に通路脇に乗り捨てられていた装甲車の上に登り、
天板上に備え付けられた大口径の機関砲を取り外し始めた。
パワードスーツの力に任せて、ボルトや溶接部をみるみる引き千切っていく。
それと同時に他のもう一人が後部から装甲車の中に入り、
弾が入っている大きなケースと動力源のバッテリーを運び出し始めた。
機関砲部は重さにして200kg以上はあるだろうか、
弾が入っているケースもとても人が持ち歩けるような重さではない。
「……イカしてるなあのスーツ。ウチにも欲しいぜ」
そんなウロボロス社兵を目にしながら、特殊部隊員の一人がそうこぼした。
「無理だろ。政治家共の今の『トレンド』は『無人化』だしな」
それに対し、声だけを飛ばして返答する別の隊員。
「いや、『ここ』の報告を出しゃあ即予算降りるって。来期からすぐ配備だ。間違いねえ」
「予算出たとしてどこから買う気だ?まさか、この戦争終わった後にもウロボロスが残ってると思ってんのかよ」
「残るだろ。BMWとかベンツ残ったじゃねえか」
「それとこれは状況が違い過ぎんじゃねえのか?爺さん達はBMWとかベンツを『相手』に戦争したわけじゃねえしな」
「あー、まあそうだな」
「東側の相手はロシア、こっち側の相手はウロボロスだ」
330 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 00:39:08.99 ID:A94W1H7Eo
「おいおいおいやめてくれよ、俺のオフクロはウロボロス系列の家電屋に勤めてんだぜ?」
そして更にもう一人、
先ほど佐天にブランデーを飲ませた隊員がこの取り留めのない話に横から加わった。
「確かお前のオフクロはフォートワース住みだったか?まだ家電屋で働いてんのか?」
「そうだ。勝手に潰れられたらオフクロが家賃払えなくなっちまう」
「ああ、そういえば姉貴ん家のエスプレッソメーカーもウロボロス系列のだったな。保障効かなくなるのか?」
「知るかよ。コールセンターに聞けよ」
「そもそも何で俺達はウロボロスと戦争してんだ?ウチの兵器だの何だののほとんどがウロボロス系列だろ?」
「というかアメリカ=ウロボロスだろ。ウチのデカイ企業のほとんどがウロボロスと提携関係だぜ?つまりだ、これは陰謀が絡んだ企業内戦だ」
「売れねえ三流作家でもんなネタ使わねえよ」
「それにしても今のこの状況を伝えりゃ、無人化無人化喚いてたあの野郎どんな顔するんだろうな」
「誰?」
「あの議員にだよ。ウン億ドルもした無人機が何もしない内に片っ端から叩き落されて、『人力』の俺達が生き残って、ってな」
「だからその議員って誰だよ」
「あのほら、共和党の、名前なんつったか、ケツにモリ突っ込まれたトドみてえな顔のがいたじゃねえか」
「下院か?」
「ちげえよ。フォートワースの市会議員だ」
「んなローカルなゲイ野郎知らねえよ」
「知らねえのかよ。俺の地元じゃ結構有名なんだぜ?」
「大尉、このテキサス野郎が言う市会議員って知ってます?」
「んな顔の議員は知らん。お前らのオフクロさんなら知ってるが」
話を振られたリーダーはそう軽くあしらいながら、
指を軽く振るようにとある一つの倉庫を示した。
331 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 00:40:23.27 ID:A94W1H7Eo
すると、そのサインの意図を受け取った一人の隊員がその倉庫の巨大な扉の脇に駆け寄り。
背負っていたバックパックを下ろし、
小さな端末を取り出しては倉庫の壁にあるパネルに接続し。
「システムオンライン。ロック損傷無し。全隔壁にも問題無し。稼動状態に問題はありません」
素早くキー操作しつつ、
読み取った倉庫の状態を知らせた。
「中身は?」
周囲を警戒して背を向けたままリーダーはそう問い返し。
「空です」
「ここで問題無いな?」
そして黒子の方へと振り向きながら彼女に言葉を飛ばした。
黒子「……」
それに対し彼女は無言のまま軽く頷いた。
そう、
このシェルター染みた倉庫はまさに防衛拠点に打ってつけなのだ。
悪魔の全面攻撃となればやはり耐えられようもないだろうが、
それでもガラス張りのオフィスビルに立て篭もるよりは万倍マシだ。
332 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 00:42:07.55 ID:A94W1H7Eo
「OK、開けろ」
その黒子の了解も受け、
リーダーが端末を持つ部下へと指示の声を飛ばした。
「了解。ロック解除、開きます」
そして端末を操作していた隊員の声に続き、
地鳴りのような音を響かせて扉が開き始めた。
1m以上もの厚さがある『隔壁』が、ゆっくりと横へと移動していく。
そこで早速、
リーダーが無言のまま頭を軽く傾けては中に入るよう促し。
他二人の隊員が素早く徐々に開いていく隙間から中へ。
「クリア」
その中に入った隊員からの、異常が無いことを確認した声を受け、
「よし。入れ」
リーダーが民間人達に向けそういった所で。
「……おい。どうした?」
突如強烈な金属の激突音が響き、
扉が2m程開いたところで動きを止めた。
「……オフラインです。動力供給が切れました」
「原因は?」
「あー、今システムチェックします。いきなりぶっつりと……」
333 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 00:43:29.76 ID:A94W1H7Eo
「とにかく復旧を急げ」
「了解」
とその時。
突如輝き出す『南側の空』。
皆が皆その光を視界の端に捉えては反射的に目を向けるも、
その眩しさにこれまた同じく反射的に目を細めた。
距離にして20km程、光源は恐らく南島だろう。
黒子「…………」
黄金色と燃えるような赤が混ざったその光と眩しさは、どことなく澄んだ朝日にも似ているか。
ただ、アレはそんな清清しい現象ではないはずだ。
大気を通じての音は『まだ』聞こえないものの。
地殻を伝わってきた振動が生み出す、内臓を震わせる程の地響きがそれを物語っている。
「……あれも学園都市の『天使』か?」
と、そんな光の祭典を目にしながらリーダーの男が呟いた。
その言葉を己への物へと判断した黒子は、
リーダーが口にした『天使』というワードを聞いて一瞬間を空けながらも。
黒子「……さあ。『悪魔』かもしれませんの」
揚場の無い声でそう言葉を返した。
334 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 00:45:41.13 ID:A94W1H7Eo
そう、あの光源が仲間の『天使』なのかそれとも『悪魔』なのか、
そしてその悪魔が『味方』かどうかすらもわからない。
黒子「まあ、どちらでも別に」
ただ。
一介の『兵卒』に過ぎない黒子は、
そんな上位の領域の事など把握する必要は無い。
『レベル5』達の上司に任せておけば良いのだ。
今の己には『関係ない』。
『関係ない』。
黒子「―――…………」
そんな風になんとなしに思ったのだが。
『レベル5』。
『関係無い』。
思索の中で発した、己のそれらの言葉が木霊する。
理由はわからない。
わからないのになぜか―――。
335 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 00:47:10.44 ID:A94W1H7Eo
黒子「―――……」
なぜこんなにも引っかかる?
何も『感じない』のに、なぜ違和感を覚える?
突如襲ってきた得体の知れない焦燥感。
それに堰き立てられたかのように、黒子は思わず後ろへと振り返り。
一塊になって屈んでいる民間人、その中の佐天へと目を向けた。
佐天「…………?」
その視線にすぐに気付き、
困惑と驚きが混ざった表情を浮かべる佐天。
そんな彼女の顔から、黒子は『なぜか』視線を逸らすことができなくなってしまった。
己の意思に反して目が固定されたかのよう。
いや。
『己の意思に反している』のではない。
こうさせているのも『自分自身』だった。
己の中で『別の自分』が「見ろ、気付け、目を逸らすな」と駆り立てくる。
その一方で『更に別の自分』が「見てはいけない、それに気付いてはいけない」、と覆い隠そうとしている。
そして彼女は思う。
こんな疑問を抱く。
では『このわたくし』は『ダレ』―――?
―――別の二人の『自分』を感じている自分は『ナニ』?、と。
336 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/05(土) 00:54:47.14 ID:A94W1H7Eo
すみませんミスを発見しました。
二時までには再開します。
337 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/03/05(土) 01:11:56.90 ID:YnqO8Sqt0
がんばってね!楽しみに待ってるよ!
338 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/05(土) 01:15:18.62 ID:91QNiURGo
把握
339 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 01:59:42.69 ID:A94W1H7Eo
佐天「―――」
その時、佐天は目にしていた。
黒子の顔のとある『変化』を。
一見すると、先までと同じ冷たい無表情だが。
しかし佐天はその小さな変化を見逃さなかった。
揺れ動いている瞳。
微かに震えている唇。
そして。
白井黒子の『色』。
この地獄で出会った白井黒子ではなく、
学園都市でいつも見る白井黒子の『色』が。
それはほんの僅かにしか過ぎない。
そう、僅かに過ぎないのだが。
佐天「―――し―――白井さん」
間違いなく『本物の白井黒子』の欠片だった。
思わず、思わず佐天は『再び』呼びかけた。
先ほどの、
ビル内のレストランでの確かめるような声色ではなく。
相手を白井黒子だと『確信』して。
340 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 02:04:52.85 ID:A94W1H7Eo
そんな『投石器から打ち放たれた礫』が、
黒子の内面を囲っていた城壁に叩き込まれる。
黒子「―――」
己の名を呼んだ佐天。
その声で感じる『これ』はなに?
なんで?
なぜ?
思考が繋がらない。
噛み合わない。
何かが欠落し何かを見落としている。
とてつもなく『危険』だけども。
それ以上にとてもとても『大事』な何かを。
341 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 02:05:54.10 ID:A94W1H7Eo
そう、確かに土御門が思った通り、
これは白井黒子が『白井黒子という人格』を取り戻すチャンスだ。
この島に来て失ったものを引き戻す最後の機会だった。
しかしそれは一方で。
この状況においては非常に危険な事であった。
そもそも彼女がこうなってしまったのも、元は己の精神を守る為のシステムの一旦。
ストレス
恐怖を認識しなくなったのは自己防衛機能の一つ。
彼女の精神は、このような状況には『耐え切れない』。
それでも、表面上だけでも何とか正常を保つためにこんな機能が働いたのだ。
無意識下の生存本能はこう決定したのだ。
『人格を殺してでも長く、できるだけ長く生き延びよう』、と。
つまりその機能を停止、拒否するという事は―――。
そんな時。
この倉庫地区に叫び声が木霊する。
身の毛のよだつ、あの言い知れぬ悪寒を覚えさせる異形の金切り声が。
この世のものとは思えない、いや、本当にこの世界のものではない咆哮が。
黒子「―――」
その声が強烈な刺激となる。
微かに頭を出した『白井黒子の心』にストレートに突き刺さり。
傷口に塩を塗り込むが如く―――。
―――そして奥底にて眠りこけていた、『恐怖という怪物』を揺さぶる。
342 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 02:07:09.85 ID:A94W1H7Eo
「―――!!!」
300m程離れた倉庫の上に現れた複数の悪魔の姿。
「入れ!!!」
即座に民間人達に向け飛ばされる、
倉庫に入るよう指示するリーダーの声。
それを受けて、すぐさまそれぞれの仕事をこなす隊員達。
「12時方向!距離300!」
ある隊員達は位置につき。
「入れ入れ!」
またある隊員達は、
負傷者に肩を貸すなどして倉庫内への非難を急がせる。
そんな隊員達の姿と声、そして悪魔の咆哮とおぞましい殺意を感じながら、
黒子の体は佐天を見つめたまま硬直していた。
佐天「しら―――」
その黒子に向け、再び佐天が呼びかけようとしたが。
「―――入れ!!入るんだ!!」
脇からの英語の叫びで遮られた。
佐天「あっ―――」
思わずその方向を見ると。
開いた扉の隙間脇に寄りかかるような体勢で、
右手でアサルトライフルを構えつつ、左腕を大きく振っていた。
佐天にブランデーを飲ませた、あのテキサス野郎と呼ばれていた隊員だ。
343 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 02:15:15.95 ID:A94W1H7Eo
佐天は一度、そして二度、交互にその隊員と黒子を見やり、
そして戸惑いの色を見せたが。
「何してやがる!!!」
次いで放たれてきたその声に負け、引っ張られるようにその隊員の元へと、
開いている隙間の方へと駆け出した―――。
その時だった。
突如、『透き通った何か』がけたたましい激突音を響かせて扉に壁に突き刺さった。
それは遠くから飛翔してきた太さ10cmもの『氷の矢』。
そして真っ赤な液体で染まる、
佐天「―――ッ」
佐天の胸から首元。
「がッ―――」
その液体があふれ出た口は、
扉脇に立っていた『テキサス野郎』が佐天に向け伸ばしていた左腕、
「―――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛腕が―――!!!野郎ッ!!!俺の腕をッ―――!!!」
肘から先を無くしたその腕から噴出す鮮血であった。
「―――あ゛あ゛クソッ!!クソクソクソクソ!!!!!―――」
344 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 02:19:11.61 ID:A94W1H7Eo
痛みに堪えるためかその場で地団駄を踏むように力んでは、
「―――畜生ッ!!畜生がッ!!!やりやがったなクソッタレッッ!!!!!」
スラングまみれの腹からの怒号を吐き出す隊員。
その驚きと怒り、そして苦痛に滲んだその声色は、一発で喉を痛めそうな程に潰れたもの。
そして壁に背をこすり付けるようにその場に倒れこんだ。
佐天は噴きかかった鮮血に怯みもせず、いや、怯んでいただろう。
ショックを受けたからこそ。
佐天「―――だめえええ!!!だめ!!!だめ!!!だめ!!!だめ!!!」
彼の元にかがみ込んでは、短くなった左腕の先に手を当て、
そう何度も悲鳴染みた声で口にした。
毀れ出て行く命を何とか、何とか止めようと。
しかしそんな彼女の悲鳴をあざ笑い、
指の間から絶え間なく熱い鮮血が溢れていく。
「―――中に引っ張り込め!!!!ドク!!!ドク!!!!」
とその時、別の隊員のそんな怒号が響き、
二人のワイシャツ姿の民間人が肩辺りを掴んでは、テキサス野郎を倉庫内に中に引き摺り込んだ。
345 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 02:20:54.70 ID:A94W1H7Eo
その一連の光景。
鮮血に染まった佐天。
彼女の悲鳴。
死に片足を突っ込み始めた隊員。
これが、黒子への決定打となった。
『取り戻す』鮮烈な戦慄。
ぞわりと、雁首を掲げた『怪物』が、黒子のうなじを舐めていく。
そのなんと巨大なことか。
そのなんと濃厚なことか。
この島に来てからの、目を背けていた時間の間にここまで膨れ上がっていた。
溜め込んでいた苦痛はここまで巨大化していた。
『恐怖という怪物』は。
その姿は、今まで『見えなかった』のが不思議なほどに強烈。
周りにはこんなにも血が溢れてる。
周りにはこんなにも死がある。
そしてこんなに近くにまで死が忍び寄ってきている。
いや、忍んでなんかもいない。
大手を振って正面から向かってきている。
こちらに笑いかけながら―――。
黒子「―――…………わ、わたくしは―――」
こうして、彼女の心を守っていた『時限装置付の防壁』が崩壊した。
346 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 02:21:32.04 ID:A94W1H7Eo
とその時。
「テレポーター!!!どうしたテレポーター!!!」
肩を僅かに震わせ始めた黒子に向けリーダーが呼びかけたが、当然反応は無し。
「チッ!!!来い!!!」
彼女の小さい体は一気にリーダーに抱えあげられ、
そして倉庫内へと運び込まれた。
「全員入ったか!?」
黒子をやや乱暴に壁際に下ろしながら、そう声を放つリーダー。
「入りました!!!!」
その確認の会話後即座に、
扉が開いている前に、ウロボロス社兵が先ほど装甲車から拝借した機関砲を設置。
他の隊員たちもそれぞれの射撃位置につき。
そして、外へ向けて一斉に発砲を開始した。
耳を劈く発砲音。
ただでさえ凄まじい爆裂音、
それが更に倉庫内に反響し更に強調されていく。
慣れていない民間人は蹲る様に耳を押さえ、ある者は悲鳴を挙げた。
そんな中、ドクと呼ばれていた一人の隊員が、
腕を飛ばされたテキサス野郎の下に駆け寄った。
失血のせいか、目が既に虚ろになっていたその瞳に
ペンライトを当てては反応を確認しつつ、
「縛れ!!!!強く縛るんだ!!!思いっきり縛れ!!!」
『短くなった左腕』の先にいる佐天の方に一本の紐を放り投げた。
347 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 02:27:06.61 ID:A94W1H7Eo
英語を聞き取るどころか、この距離にも関わらず声が聞えないほどの爆音、
それでも身振りで何を言わんとしているかはすぐわかる。
佐天「―――ッ!!!」
佐天の手は一切の抵抗無く、血などものともせずに動いた。
大量の血、生々しい傷口、確かに一般人の彼女にとっても強烈過ぎるもの。
しかし、今はそんな事を感じる余裕すらなかった。
血に塗れながら、彼女は無我夢中で紐を縛った。
きつく、きつく。
黒子「わ……わ……」
そんな修羅の様相の彼女を見ながら、黒子は呆然としていた。
『防壁』が決壊し、噴出しなだれ込んでくる『ツケ』。
頭の中は極度の混乱、胸に押し寄せる凄まじい圧迫感。
自分がこの島に来て『何』を目にしていたのか。
この島が一体どういう『場所』なのか。
それがわかってしまった。
気づいてしまった。
そして。
怖かった。
ただただ怖かった。
348 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 02:31:59.59 ID:A94W1H7Eo
初めて悪魔に会ってしまった、かつての路地裏でゴートリングの姿を目にした時と同じ恐怖。
一切のフィルターが取り除かれた、あの本物の恐怖。
黒子「あ……あ……」
『レベル5』、『関係ない』、それも間違っていた。
間違い過ぎだ。
関係ない訳が無い。
何せレベル5の―――。
―――『お姉さま』がこの島にいるのに。
そして、なぜ『関係ない』としてしまったか、その理由も『わかってしまった』。
もしお姉さまに何かがあったら?
もし。
もしもお姉さまが―――。
そんな、彼女への想いが原因だった。
御坂の喪失は、黒子にとって正に『即死級の恐怖』。
御坂美琴は彼女の最愛の存在でありながら。
最凶の恐怖の象徴でもあった。
そう、他の者を強く思いやる心優しき者にとって、『喪失』は最大の弱点と成り得る。
だから無意識下の防衛システムは全てを遮断した。
彼女の『全て』を。
白井黒子は御坂美琴に向けて、
己の精神の『耐久度を越えた想い』を抱いてしまっていたのだ。
349 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 02:34:12.58 ID:A94W1H7Eo
怖い。怖い。
何もかもが怖い。
恐怖は生命体にとっての最大の精神的苦痛。
全ての負の感情の根底にある真理。
そして、心の中で別の己が囁く。
つらいだろう?苦しいだろう?
じゃあもう一度捨ててしまえ。
もう一度全てを遮断してしまえ。
まだ戻れる。
また楽になれる、と。
黒子「―――」
そう、苦しい、つらい。
場もわきまえずに、無様に瞳から雫を零してしまうほどに。
でも。
でも。
それでも。
『嫌―――嫌だ―――』
『これ』を捨てることなど無理だった。
御坂美琴。
彼女の姿を、また心の中から消してしまうなんて。
黒子にとってはできない事だった。
例え精神が押し潰されても。
例え死んでも。
ケ
愛するお姉さまは殺せない。
絶対に。
350 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 02:36:30.68 ID:A94W1H7Eo
彼女は動き出す。
涙は止まらぬし手は震える。
しかし迷いは一片も無かった。
背中にある小さなバックパックを下ろし、
中から長さ30cmにもなるレディ製の大きな杭を取り出しては、ベルト前の触れやすい部分に差込。
両手の指に挟み込むようにして投擲用ナイフを持ち、
釘を4本口に咥えて立ち上がっては、リーダーの方へと駆け。
そしてその背中を小突き、首を傾けては外に出ると仕草で示した。
一瞬、彼はそんな彼女の泣きっ面に固まったが。
「テレポーターが出る!!!!」
すぐに頷くとヘッドセットにそう怒鳴り込んだ。
そして黒子が外に飛ぼうとしたその寸前。
腕を無くした兵士の脇にいる、佐天と目が合った。
そんな、大切で強い友達に黒子は小さく頷いた。
瞳を潤ませつつも、穏やかな笑みで。
佐天「―――」
直後、佐天が口を開いたが。
音を発する前に黒子は外へと飛んでいた。
もし佐天の喋りを待っていたとしても、
その声は凄まじい発砲音で届かなかったろうが。
351 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 02:37:11.80 ID:A94W1H7Eo
ここで諦めてればば。
ここで忘れれば。
ここで捨てれば。
一体どれほど楽なのか。
黒子「……全く、厄介なものですこと」
しかし。
どんなに無様に泣き叫ばされようが。
どんな醜態を晒させられようが。
どれほどプライドが叩き潰されようが。
どんな間違いを犯そうが。
どんなに拒絶されても。
どんなに距離が離れても。
黒子「うんざり……してしまいますの……わたくしの馬鹿さ加減には」
手放せるわけがない。
352 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 02:43:29.35 ID:A94W1H7Eo
次の瞬間、黒子は倉庫の上にいた。
黒子「…………」
眼下には、たくさんの悪魔の姿。
パッと見えるだけで4、50はいるか。
離れた場所にも動く陰が複数あり、これからますます増えそうだ。
そして彼女は飛び込み。
飛んでは切って。
飛んでは避けて。
修羅の如くそれを繰り返した。
悪魔達が振るう爪、その一撃で体が木っ端微塵になるという事実。
黒子「―――ッシッ!!!!」
怖い。
怖すぎる。
それでも彼女は飛び続ける。
涙を流しながら、肩を震わせ。
熱い吐息を漏らしながら、歯を食いしばり―――。
353 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 02:47:50.71 ID:A94W1H7Eo
アサルトの体当たりを真横に飛んで交わし、カウンターで首を裂いて計10体目。
地面に叩き込まれた悪魔の蹴りで、アスファルトの破片がショットガンの散弾のように飛び散り。
黒子の太ももをかすっていく。
戦闘服がパックリ裂かれ、そして血も流れ出す。
黒子「―――ッッあぐッ!!!!!」
彼女は思わず声を漏らした。
その苦痛のなんと鋭いことか。
でも、でも。
これも大切な感覚
無くてはならないもの。
この痛みと『熱』が、己がまだ生きてる事を知らせてくれる。
フロストの首の後ろを引き裂いて計17体目。
演算にミスがあったのか、転移の座標が僅かに低くなってしまい、
フロストの体に左手先が直接触れる。
黒子「―――あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!!!!」
超低温で焼ける凄まじい痛み。
手が凍り付いて砕けるまでは行かなかったものの、
肘から先の感覚が完全に消失した。
いや、感覚の消失ではなく、他の感覚を全て押しつぶすほどの激痛だった。
そしてそれは、彼女の演算に障害を与えるには充分過ぎる刺激でもあった。
354 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 02:51:46.85 ID:A94W1H7Eo
黒子「!!!!」
間髪いれずに、こちらに真っ直ぐ突進してくる一体のアサルト。
避けなければあの爪の餌食となる。
そして足で回避できるような攻撃でもない。
能力で飛ぶしかない。
しかし、地面に立つような高度に飛ばすのが『怖い』。
足が埋まるのが『怖い』。
そんな風に咄嗟に黒子は、
己の体を5mもの高さに飛ばしてしまった。
黒子「―――ッんッぐッッッ!!!!!」
結果、攻撃は避けれたものの。
地面に無理な体勢で叩き付けられてしまうことに。
狩ったのは17体。
この短時間での一人の戦果としてはかなりのものだっただろう。
しかし。
この場にいる悪魔の三分の一も狩っていなかった。
355 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 03:04:24.21 ID:A94W1H7Eo
黒子はふらつきながら立ち上がると、近くの倉庫の壁にもたれかかり。
右手先に持っていた投擲用ナイフを捨て、
その手でベルトにある長い杭を引き抜き。
追い詰めた『獲物』へとにじり寄ってくる悪魔達を見据えた。
泣きっ面で、頬をぐじゃぐじゃに濡らし。
肩を震わせて鼻水を鳴らし。
震える唇からは啖呵も出ない。
それでも、それでもその姿は猛々しくそして凛々しく見えるものだった。
黒子「…………ふーッ。ふーッ……」
気負いは無かった。
恐怖はあっても、迷いも後悔も無い。
いや。
迷いというか少し、すこしだけ。
黒子「(……お姉さま)」
心残りはあるか。
何がお姉さまの助けになりたい、傍で戦いたいだ。
とんだありがた迷惑だ。
いつもいつも、余計なことしかできない。
黙ってこんなところに勝手に来て、こんな結末になって。
お姉さまは確実に怒る。
そしてお姉さまはきっと悲しむ。
黒子「(最期までわがままで不孝者のこの黒子めを、どうかお許しくださいまし)」
これ以上ないほどに。
瞬間、悪魔達は飛び掛った。
一斉に全方向から。
356 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 03:08:04.08 ID:A94W1H7Eo
その瞬間、夢か幻か。
「はいはいはい、そこまで―――」
黒子は唐突に目にした。
青白い稲妻を翼のように背中から迸らせながら、ふわりと舞い降りてきた『天使』を。
先ほど、あのリーダーは学園都市の『天使』と口にしたが。
それは本当に納得だた。
黒子にとって、ここに現れたその者は正に天使と呼べるに相応しい存在だった。
黒子「―――あ…………あ…………」
その『天使』は驚きもせず、怒りもせず。
「遅れてごめん―――」
それどころか、逆に謝って。
御坂「―――黒子っ」
彼女の名を呼んだ。
優しく、暖かい声で。
357 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 03:09:48.20 ID:A94W1H7Eo
黒子「―――」
まさか自分はもう死んでいて、これは幻想なのでは?思いたくなってしまうほど。
御坂美琴の姿は美しく見えた。
今までで最も。
飛びぬけて。
御坂は背後の悪魔達へ向け、見もしないで極太の電撃を放つ。
その火力は尋常なものでは無く、
能力が『かなり強くなっているよう』にも見えた。
この劇的な状況のせいで、己の中で演出のフィルターをかけてしまっているのか、
それとも、『何らかの要因』で本当に御坂の能力が強くなっているのかは、
今の黒子では判断しようが無かったが。
そして更に突如御坂が持っていた黒い大砲がスルリと『延びた』。
その形と動きは、剣というよりは正に『刃の付いた鞭』。
御坂が動かなくても、
まるでそれ自体が意思を持っているかのようにうねっては、
目にも止まらない速度で次々と悪魔を寸切りにしていく。
358 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/05(土) 03:12:45.84 ID:A94W1H7Eo
黒子「あ、あ、…………」
もう間違いなかった。
これは幻想なんかじゃない。
そんな大砲が伸びて鞭になるなんて『想像力』は黒子には無いし、
そもそも死ぬ時の美しい幻想ならば、
こんな悪魔達の悲鳴や飛び散る肉片なんかも無いはず。
御坂美琴はあまりにも美しすぎるけど。
この一方のおぞましさは『現実』を示していた。
黒子「―――お―――」
黒子は思わず駆け出した。
黒子「―――お゛ね゛え゛ざま゛ぁ」
泣きじゃくりながら御坂へと。
そんな彼女を見て、御坂はクスリと小さく笑った後。
御坂「ほら、おいで。黒子」
そう呼んでは優しく抱き止めた。
両腕で包み込んで、後輩の頭に頬を当てて。
周りで踊り狂う黒い鞭の刃と、巨大な稲妻の嵐が
悪魔達を殲滅していく中。
―――
359 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/05(土) 03:13:20.17 ID:A94W1H7Eo
今日はここまでです。
次は火曜日か水曜日に。
360 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/05(土) 03:14:13.49 ID:EJyk98hJo
乙!
361 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/05(土) 03:41:11.43 ID:PzDfis2Qo
そういや美琴の持ってるダンテの魔改造銃って変形するんだっけ?
362 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/05(土) 04:05:31.09 ID:91QNiURGo
乙乙
363 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/05(土) 04:31:42.76 ID:VvNnGMnko
乙
364 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/05(土) 12:35:04.62 ID:DS38H3kNo
乙。これだけは言わねば。
白井黒子復ッッ活!!白井黒子復ッッ活!!白井黒子復ッッ活!!
365 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/05(土) 15:47:47.93 ID:Nvnsv5yzo
テキサス野郎には生き延びて欲しいな
乙
366 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/05(土) 22:13:05.40 ID:Ks4IeVYC0
乙ッッッ!!
367 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/08(火) 13:48:01.73 ID:1Xxmuhz8o
アメリカ軍の描写がまた良いな
368 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 23:12:41.15 ID:Fs4QU8deo
―――
外からは地響きが聞える。
金髪の麗しい聖人による戦囃子が。
一方で頭の内から聞えてくるのは、決死の場にいる『魔神もどき』からの、
寿命と引き換えに送られてくる『記述の情報』。
目に『見えている』のは、フォルトゥナの姫越しの『術式迷宮』。
土御門『…………』
磨耗していく精神、その負荷に苛まれながらも土御門は堪え続け。
そして『策』を完成させた。
人造悪魔共の機能を停止する策、その手順が練り上がったのだ。
土御門『…………』
しかしその実行にはあと一つ。
あと一つだけクリアしなければならない問題があった。
キー
それは、最も重要な『情報』が足りない、ということ。
この策の成功に必要不可欠な、『核』の『位置』を示す『コード』。
キー
これが無ければ始まらない、まさに『鍵』となるたった一つの記述が。
369 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 23:14:07.14 ID:Fs4QU8deo
ただ、その『鍵』の在り処は大体見当がついている。
簡単だ。
先ほどキリエが『言わなかった言葉』だろう。
彼女が堪えて胸に閉まった言葉だ。
土御門『……』
と、なぜこうも土御門が冴え渡っているかと言うと。
この『加護』の影響か、よく『鼻が利く』おかげだ。
尋常じゃない確実性をもって勘が働く。
これが高位の存在が有する独特の知覚の一種、魔の側で言えば『悪魔の勘』という系のものか。
土御門『(便利だな)』
そう、非常に便利な知覚だ。
見えてくるのが『良い事象』か『悪い事象』なのかは別として。
この時もその勘は、良い事と悪い事を分け隔てなくはっきりと告げていた。
良い事は、上記の通りキリエが胸に潜めている言葉が『鍵』だという事。
そして悪い事は。
その言葉は、闇に潜んでいた『獣』を放つ解号でもある、と。
『絶大な存在』を叩き起こすことになる、と。
土御門『……』
370 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 23:18:13.55 ID:Fs4QU8deo
このざわつき。
意識した途端押し寄せてくるこの圧迫感。
やはりアリウス。
術式の防護システム・難解すぎる暗号化の他に、
とんでもない『番人』を置いていたようだ。
土御門『……』
ただまあ。
だからと言って怖気づき退くことはあるまい。
確かに恐れはある。
いや、はっきり言って怖くて怖くて仕方が無い。
しかしそれ以上に負ける気は無い。
勇気は『腐るほど』有り余ってる。
土御門『キリエ嬢』
土御門は屈み、美しい姫に問うた。
土御門『今がそれを問うべき時なのかはわからない』
土御門『だが、今こそ俺はその言葉を欲している』
キリエ「……わかりました」
そんな土御門の佇まいと声色で、彼が何を求めているのかを悟った聡明なキリエ。
その目をまっすぐ見つめながら小さく頷き。
キリエ「核は―――」
そして、土御門へ『鍵』を渡した。
キリエ「―――『影』に」
その瞬間。
絶大な『影』目覚める。
―――
371 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 23:21:19.14 ID:Fs4QU8deo
―――
遡ること少し前。
とある高層ビルの前にて、一人の金髪の女が舞を披露していた。
手に持っているのは、神事の笏でもなければ神木の枝でもなく、
刃渡り5mにも達する巨大なクレイモアだが。
そして周りで響くは聖歌ではなく、刃が生み出す破壊の音と悪魔達の断末魔。
格好は簡素な作業服にエプロン。
にも拘らず、その全身から香は高貴な麗しさ。
周りの凄まじい惨状がより一層その美しさを際立たせる。
彼女は近衛侍女所属の聖人にして、
英国の王権神授制、その神事を司る巫女。
シルビア。
『戦争』は確かに『数』だが、
『戦闘』においては、互いの力量の差によっては数では押し切れない場合がある。
今この光景こそ、そのわかりやすい例の一つになるだろう。
群がる悪魔達は彼女に指一つ触れられない。
その白銀の刃にさえ『接触しない』。
悪魔を破断していくのは、その白銀の大剣から放たれた斬撃。
彼女が振るうたびに大地に巨大な爪痕を刻み、数十対もの悪魔を抹殺する。
その切断面はお世辞にも滑らかとはいえない、まさに『叩き切る』というもの。
更に勢いはそれだけにとどまらず、
放出された余波が周囲のビルを次々と切り倒す。
下等悪魔などいくら束になってかかって来ようが、
刃を抜いた彼女にとってはなんら脅威ではないのだ。
372 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 23:23:22.70 ID:Fs4QU8deo
しかし。
今のコレは、生き残った方が勝ちという単純な『戦闘』じゃない。
コレは『戦争』だ。
シルビアには、この背後の土御門とキリエがいるビル、
そこへの悪魔の侵入を遮るという使命がある。
シルビア「(…………多すぎるな)」
凪いでも凪いでもきりが無かった。
悪魔達の数は尋常じゃない。
地面から雑草のように生えてきてるんじゃないかと思ってしまうほど。
それに対して剣を使うのは、やはり効率が悪かった。
今のようにある程度は応用が利くものの、
それでも大量の雑魚を処理する場合にはいささか不便だ。
どんなに強力な攻撃でも、『線』では全てを殺し切れない。
一部が間をすり抜けてきてしまう。
ではどうすれば?
シルビア「(……アレを使うか)」
答えは単純。
ならば『面』を制圧する攻撃に切り替えれば良い。
373 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 23:27:35.45 ID:Fs4QU8deo
彼女が徐に地面に大剣を突き刺すと。
その白銀のクレイモアはぬるりと地面に沈んで行き、
それと入れ替わるように生えてくる長さ1.4m程の弓。
シルビアはそのイチイの木から作られた弓、『ロングボウ』を手に取り。
津波の如く押し寄せてくる悪魔の一団の方に向き、弦を掴み顎に密着するほどにまでその手を引いた。
するとその手先にこれまた長い矢が出現。
シルビア「…………」
そして、矢を挟んでいた指を離した。
独特の風切り音を響かせて放たれるロングボウの矢、
これはただの矢ではない。
聖人が放つ、魔術によって極限にまで強化された矢だ。
矢は目視が不可能な速度で大気を切り裂いていき、悪魔の一団に到達。
鏃はその先頭の一体をやすやすと貫き、そのまま後方の10体近くをもぶち抜いていった。
しかしそんな破壊さえも、実は今起動した魔術のほんのおまけだ。
この一矢で重要なのは『方向を示す』事と『破壊力の指定』であって、
命中したことそれ自体ではない。
攻撃を行う『メイン』は。
直後にシルビアの周囲の中空、そこから現れた『無数の矢』だ。
数にして数十万本、彼女が先に放った一矢の方向へ放たれる。
その第一矢と『同じ』破壊力を帯びて。
それはかわす隙間などもってのほか、
蜂の巣となる『余地』すら残さない圧倒的密度の弾幕。
文字通りの『矢の壁』は『全て』を射抜いた。
そんな一斉射撃により、その面方向の悪魔達の一群が跡形も無く『消滅』。
切り落とされ倒れていた周囲のビルらも粉砕され、残ったのは小さな瓦礫に覆われた更地だけであった。
374 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 23:30:35.80 ID:Fs4QU8deo
これは、百年戦争にて絶大な火力を発揮した『イングランドのロングボウ』、
それにちなんだ、後には何も残さない指向性広域殲滅魔術である。
ブリテン
英国の歴史そのものを『魔術基盤』とできる、
英国の王権神授制、その『神事』を司る巫女にしか扱えない強力な魔術。
更にシルビアの場合、そこに聖人性が加わってのこの火力。
実を言うと、彼女がこれを使う際は、
ステイル達の力の解放と同じく王室の許可が必要になる程だ。
第一撃、その圧倒的な戦火を確認したシルビアは次いで手際よく、
第二矢・第三矢と悪魔達の一群目掛けて放っていく。
そしてその放たれた一矢が通り過ぎた一瞬後、
何もかもを破壊していく矢の壁が完璧すぎる『整地』を行っていく。
土御門達がいるビルの周囲は、ますます更地が広がっていく。
まるまる消えてしまった面積は恐らく数区画分。
その風景はさながら、中央にオベリスクがある広大な広場のよう。
シルビア「……」
彼女は矢を次々と放ちながら、こうふと思った。
ここは、数日前に廃墟と化した『どこかの聖都』の在りし日の姿みたいだな、と。
向こうは『聖都』。
ここは『魔都』。
その対比と偶然の風景の一致も、なんだか妙に馴染む。
375 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 23:33:04.62 ID:Fs4QU8deo
と、その時であった。
シルビア「―――ッ」
前触れもなく突如として襲ってくる、
正体不明の凄まじい圧迫感。
シルビア「―――なっ……!」
こんな感覚は初めてであった。
己の巫女として、聖人としての『神性』が急激に萎縮している。
そして武人としての本能がこれ以上ない強い声で『危険』を告げている。
ロングボウを構えながらあらゆる方向を見、
この『威圧的な視線』の発信源を探すも見つからない。
いや、厳密には『見つからない』ではなく、判断がつかなかった。
『全方位』から視線を感じているのだから。
シルビア「―――……ッ……何なんだこれは……ッ!!!」
歯噛みしながら吐かれたその声はやや震え。
ロングボウを構える手先に力が入り、
全身からは一気に噴出す嫌な汗、胸の奥では爆発的に加速する鼓動。
最早、押し寄せてきている下等悪魔達には気が回らなかった。
そしてその必要もなかった。
シルビアがどんなに鬼神の如く仲間なぎ払おうが、
全く怯まずに挑んできていた悪魔達。
そんな彼らの揺ぎ無い闘争心をも、
この『何か』のオーラはいとも簡単にへし折ったらしかった。
悪魔達は180度進行方向を変え、一斉にこの場から離れていったのだ。
蜘蛛の子を散らすように。
376 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 23:36:42.92 ID:Fs4QU8deo
異形の大群が姿を消したあとに訪れる、一瞬の完全な静寂。
シルビア「―――……」
聞えるのは己の小刻みな呼吸と鼓動。
その、己の生に耳を傾けながら周囲に意識を集中していたところ、
ふととある方角で視線が止まった。
更地となった瓦礫向こうにて、
何かが闇の中で蠢いているのが見えたのだ。
それも複数。
いや、動くものが『見えた』ではなく、動いている気配を感じ取ったと言うべきか。
なにせ、ロングボウを構え狙いを定めつつ目を凝らすも、
動いているものが何なのかがわからない。
闇が少し色濃くなったのか、目視で確認できないのだ。
闇に紛れてしまう暗い色でもしているのだろうか、大きさは小型、数は10〜20―――。
と、シルビアは動く気配だけでそう闇の向こうの存在を推測するも。
それが悉く間違っていたという事を数秒後に知った。
『闇の向こうで動いているもの』など、
どんなに目を凝らしたって見えるはずもなかった。
数も複数ではなかった。
シルビア「―――」
『動いているものが闇』だったのだから。
その瞬間。
影が伸びた。
無数の杭となって。
377 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 23:41:43.91 ID:Fs4QU8deo
その速度は、シルビアが放つ矢をも遥かに越えていた。
シルビア「―――ッあッ!!!!」
彼女が瞬時に上方へと跳ね飛ぶと。
それに一瞬遅れて、飛び上がった直後の彼女の真下、
その足先を掠めていく影の槍衾。
シルビア「(ッ―――?!!)」
今の攻撃。
あの槍衾。
かわした瞬間、滝のように全身から汗が噴出した。
あんな攻撃は今まで目にしたことが無い。
ここまで直感的に『死』という事をイメージさせてくる攻撃は。
ここまで精神が磨り減ってしまうほどの緊張を与えてくる攻撃は。
その槍衾の姿は何かが擬態しているのでもなく、影のようなものでもない。
見れば見るほど『影そのもの』。
まさしく影が攻撃してきたのだ。
シルビア「(と、ということは…………―――)」
そういうこととなると、全方位から視線を感じたことの理由も付く。
闇、影はどこにでもある。
至る所に。
この一帯全てが闇に包まれているではないか。
そしてそれはつまり。
シルビア「(―――冗談だろ―――!!!!)」
周囲全てが『敵』ということとなるか。
378 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 23:43:46.78 ID:Fs4QU8deo
シルビア「(―――くッそ!!!!)」
そんな状況証拠から導き出された、
確実性の高い結果を強引に吹き払おうとでもするかのように。
彼女は真上から、眼下の影目掛けてロングボウを放った。
そして次いで放たれる、圧倒的な面制圧―――。
その結果の光景は、
さながら現代戦車に『普通の矢』を射掛けたかのようであった。
矢の壁は大地を大きく抉り上げ、
区画ごと一帯を沈ませたも。
肝心の影の『槍衾』には傷一つつけられなかった。
シルビア「―――チッ!!!!」
言葉通りの無傷。
気持ちが良いくらいに全くの効果無し。
と、その時。
今度は『真後』。
後方から影の杭が伸びてくる気配を感じ取った。
土御門達がいるビルの壁面から。
379 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 23:46:30.17 ID:Fs4QU8deo
周りは全て敵。
もちろん、この闇に包まれているビルも例外ではなかった。
シルビア「―――」
矢はダメだ。
たった今目にしたばかり、あれで何か効果があるとは思えない。
ならば次は剣だ。
シルビアの前、何も無い宙空の空間から出現するクレイモアの柄。
彼女は即座に矢を番えていた右手でその柄を握り、
『宙空の鞘』から振り向きざまに引き抜き。
シルビア「―――ッシッ!!!」
寸前に迫ってきていた影の杭目掛けて振り抜いた。
彼女が振るうクレイモアの一撃。
その一線上における威力は、先の矢とは桁違いのもの。
それも斬撃を飛ばすのではなく、刃による直接の一閃。
鳴り響く金属の激突音、その凄まじさと衝撃波が、
この一振りのパワーを物語っている。
しかし。
それでも影の杭は無傷であった。
小さな傷一つ付かず。
380 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 23:48:01.84 ID:Fs4QU8deo
そしてシルビアの体制が崩れるほどに、大きく弾かれるクレイモア。
それもただ弾かれたのではなく。
シルビア「(これは―――)」
その感触はおかしかった。
とんでもなくおかしい感触だった。
傷一つつかないのは、
攻撃威力が足りなかったということで百歩譲って良しとしてもいいが。
納得いかないのは、影の杭は僅かな振動すらしていないこと。
全く衝撃が伝わっていない。
つまり、『刃が当たっていない』ような―――。
―――杭の表面に張ってある、『見えない膜』に弾かれてしまっているような―――。
攻撃を『受け付けてくれない』―――。
―――『拒絶』されているような。
381 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 23:49:10.09 ID:Fs4QU8deo
とその時。
シルビアが宙で体勢を立て直していたところ。
シルビア「―――?!」
突然吹き抜けた、
猛烈な『疾風』が彼女の体を更に上方へと巻き上げた。
それも、この澱んだ魔境には不釣合いなさわやかな風が。
明らかに普通の風ではない。
何者かによる作為的なものだ。
大気が粘土のように体に纏わりつき、
さながら『風の手』に鷲掴みにされたかのよう。
その風の手は、抗う一切の余地も与えずに彼女を上空へと運び上げ、
ビルの屋上に到達したところでやっと解放した。
そしてその屋上の真ん中には。
シルビア「つ、土御門!」
土御門が悠然と立っていた。
隣には、床に座っているキリエ。
シルビア「一体……!?」
土御門『シルビア』
立て続けの出来事に言葉が続かないシルビア。
そんな彼女とは対照的に、土御門は落ち着いていた。
同様の色は欠片も無い。
今ここで起こっている事を全て把握しているのか。
そしてここでシルビアを待っていたのか、いや。
この空気ならそれこそ。
シルビア「今のは……あんたが……」
彼女を運び上げたのが土御門なのか。
382 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 23:50:31.32 ID:Fs4QU8deo
と、そんなシルビアのたどたどしい問いを遮り。
土御門『急だが予定変更だ。お前の「ダンナ」とツレの天使はこっちに来てもらうぜい』
土御門『ああキメた覚悟、そのお茶を濁すようで悪いがな』
土御門はこれまた何でもないように、
相変わらずのニヤけ気味の軽い表情でそう言葉を連ねた。
シルビア「な、何??」
土御門『俺は「厄介な仕事」ができた』
土御門『人造悪魔共の機能停止はお前の「ダンナ」にやってもらう』
土御門『シルビアと天使はそのサポートと、キリエ嬢の護衛だ』
土御門『それとこいつを』
次いで土御門は頭からヘッドセットを外し、シルビアへと放り投げ渡した。
シルビア「は?は?」
土御門『話は通してある。各チームが術式の構造上で待機してる』
土御門『詳しい手順はキリエ嬢の胸の杭、あれの術式に記述した。参照してくれ』
そんな彼女の様子にお構いなしに、土御門は言葉を続けながら指を鳴らした。
するとその手先にはサングラスが出現。
シルビア「ま、待て!あんたは何を―――!?」
そしてそのサングラスをかけながら。
土御門『―――「化け猫」とじゃれてくる』
そう返答した。
シルビア「バ、バケネコ???」
土御門『アレだ。お前もさっき攻撃されただろ』
383 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 23:52:26.43 ID:Fs4QU8deo
シルビア「―――」
さっき攻撃されたアレ、と言われればあの『影』しか思い当たらない。
どこをどう見ればアレが『化け猫』になるのかはわからなかったが、
少なくとも土御門が指したのはあの闇で間違いないようであった。
そして土御門はあの闇と戦う気―――。
シルビア「や、やめとけ!!あ、あれは―――」
と、そこで実際に刃を交えたシルビアはこう思ってしまった。
アレと戦う?冗談だろう?、と
それよりも、さっさとここから移動した方が良いのでは、と。
あの闇は勝てる勝てない以前の問題だ。
『戦う』というイメージそのものが全くできない。
何というか、あの存在を語るには言葉が足りないほど。
この次元をいくつも隔てたような圧倒的な存在の差、
それをしっくりくるように表現できる音が見当たらない。
384 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 23:53:53.92 ID:Fs4QU8deo
そんな言葉を詰まらせてしまった彼女に向け。
やっぱ戦(ヤ)る時はこれがないとにゃあ、と小さく笑いながら、
土御門はサングラスの位置を調整しては。
土御門『アレから逃げる訳にはいかない。「制御基盤の核」がアレの中にあるしな』
土御門『まったく、アリウスはとことん嫌な野郎だにゃー。あんなところに隠し込んだとは』
土御門『ああ、それとあれを人語でうまく表現できなくて当然だぜい』
シルビアの頭の中を見透かしているかのように口を開いた。
いや本当に見透かしているとしか言いようが無い程にピンポイントに。
土御門『あれは確実に大悪魔の中でも規格外の存在。正真正銘「本物の神」だからな』
シルビア「―――そ、そんな存在に……あ、あれを知ってるのか?あれと『戦える』のか?」
土御門『さあな。何の神かは知らん。だから確かめるんだぜい―――』
その聖人の『戦えるのか』という問いに対し。
土御門『―――そして「勝てるか」どうかも確かめる』
土御門は『勝てるか』と返した。
385 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 23:55:38.83 ID:Fs4QU8deo
そんな彼の言葉は、
普通ならばあまりにも馬鹿らしく聞えてしまう戯言なはずなのに。
シルビア「―――……」
なぜか揺るぎの無い確信性を帯びていた。
理由などお構い無しに納得させられてしまうような。
そして土御門の身から感じる、ただならぬ『神性』。
己の聖人と巫女としてのそれはもちろん。
ガブリエルの力を宿した今のアックアよりも遥かに『濃度の高い』神性。
純度も質も桁が違う。
あの影の大悪魔もそうだが、
こっちもこっちでもう尋常ではない。
シルビア「……」
もう、受け入れるしかなかった。
ここから先は『神の領域』。
始まるのは神と称される存在の激突―――。
もう、たかが『聖人如き』の己が何かを語れる領分ではない、と。
386 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 23:56:47.41 ID:Fs4QU8deo
眼下に広がる広大な更地。
それを覆う漆黒のベールが蠢く。
波立つ闇夜の大海の如く。
土御門『ここにいてくれ。絶対に屋上から離れるな。最も「日の当たる」ここが一番安全だ』
土御門『それと早くあの二人を呼んでくれ』
シルビア「……わかった(日の当たる……?)」
日が当たる、なんてあまりにも場違いな言葉だろうか。
それでもここで問うのは無粋、シルビアは頷き了承した。
そして土御門は屋上の淵に歩き進んでは悠然と立ち。
土御門『さあて。お互い、「探り合い」は無しで行こうぜい―――』
眼下に広がる影に軽い調子で言葉を放ちつつ、
右手を軽く上げ。
指先でくるりと、宙に『円』を描くような仕草をした。
土御門『―――さっさとその姿を見せてもらおうか』
その瞬間、このビルの真上に―――。
『太陽』が出現した。
387 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 23:58:02.95 ID:Fs4QU8deo
シルビア「―――ッ!?」
完全に晴れ渡ったわけではない。
光度は夕焼け程度だろうか。
それでも日の光は日の光。
太陽は太陽。
天から指す清き光は、
周囲2km四方の『神の闇』を排除する。
辺りを蠢いていた影が一瞬にして霧散。
シルビア「ほ、本当に……」
まさに先ほどの言葉通り、『日が当たった』。
太陽が昇った。
範囲は限定的ながらも、
永遠に晴れる事が無いと思わせるこの魔境の闇が払われたのだ。
388 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/08(火) 23:59:33.08 ID:Fs4QU8deo
そして。
清き日の光は、
この空間に実体なく漂っていたとある存在を炙り出した。
光があるからこそ影も形成されるのが常。
太陽が昇るからこそ日陰ができる。
光が強まれば強まるほど、形成される闇は色濃く深まっていく。
ここに、慈母の陽光をもってしても照らしきれない、『究極の闇』が顕現した。
ちょうど土御門の正面。
ビルから500m程離れた更地の上に。
それは、縦スリット状の瞳孔の赤き瞳を有す―――。
鼻先から尾の先端まで30mに達する―――。
これ異常無いほどに濃ゆい闇を纏った―――。
―――巨大な『黒豹』。
土御門『はは、ほうら見ろ―――』
―――『影の王』。
土御門『―――化け猫のお出ましだぜい』
389 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/09(水) 00:01:18.00 ID:g9aGrrjQo
シルビア「あ…………あ……」
体長30mとはいえ、500m先となれば実際はそんなに大きく見えない。
視覚的インパクトはかなり小さい。
しかし。
感じる圧が桁違いであった。
出現と共に、この悪寒の濃度が一気に高まった。
理や法則が耐え切れずに捻じ曲がり、
『界』が大きく沈み込む、というのはまさにこのような現象のことか。
あの存在を感じているだけで、意識がおかしくなってきそうだ。
それはもう、『本物の地獄』に落ちてしまった気分だ。
土御門『……この島は確かに魔境だ。ここを支配している理は魔界のそれに近い』
とその時。
シルビアに背を向けたまま、土御門の声はゆっくりと口を開き始めた。
シルビア「…………」
その語り口は、どことなく独り言のような。
なぜか、『土御門らしくない』と感じてしまう声色。
そう、まさに。
土御門『だが基盤は人間界。忘れるな―――』
土御門の口を借りて、別の『何者か』が言霊を発しているかのよう―――。
『その姿がどんなに様変わりしようが―――』
土御門はシルビアの方に僅かに振り向いては横顔を向け、
指先で『上』を指しながらニヤリと笑い。
『―――見ろよ―――』
『―――ここは「太陽が昇る世界」だぜい?』
390 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/03/09(水) 00:03:41.08 ID:g9aGrrjQo
シルビア「―――」
そう、ここは陽が差している。
清く暖かい陽が。こんな『地獄』があるか。
紛れも無くここは己達の生きる世界。
『人間界』だ。
シルビア「…………」
土御門『それじゃあ、任せたぜい。キリエ嬢も頼む』
土御門は再び前を向きなおすと、屋上の淵から軽く跳ね飛んだ。
シルビア「―――」
そしてシルビアは見た。
宙に飛び出した彼の体が、全身が白い何かに包まれていくのを―――。
―――いや、『包まれていく』のではなく『変化』していくのを。
土御門の体そのものが。
その変化した姿は。
汚れ一つ無い、真っ白な美しい毛並みの。
紅と黒の隈取がある―――。
シルビア「―――……オオ…………カミ……?」
ハクロウ
―――『白狼』。
南の空が、絶大な存在の顕現と共に紅蓮と黄金に染まる。
それは開戦を告げる光。
神の『刃』と『刃』の激突の。
そして時同じくして、北のこの地でも始まる。
神の『牙』と『牙』の激突が。
影の王たる『黒豹』と―――。
―――太陽の王たる『白狼』の戦いが。
―――
391 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/09(水) 00:05:14.01 ID:g9aGrrjQo
今日はここまでです。
次は木曜か金曜の夜に。
392 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/09(水) 00:05:23.69 ID:YXEQjyvYo
乙
393 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/09(水) 00:05:51.13 ID:SQ7r3PCG0
乙!
シルビアが戦ってたのはナイトメアか?
394 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/03/09(水) 00:09:43.23 ID:pL9Ia/QDO
やべぇー!
『太陽の王たる白狼vs影の王たる黒豹』というシチュとか胸が熱すぎてやべぇ!
ツッチーさんかっこ良すぎてやべぇ!
395 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/09(水) 00:09:58.17 ID:g9aGrrjQo
>>393
影関係は全部デカいシャドウのものです
396 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/09(水) 00:19:24.38 ID:SQ7r3PCG0
>>395
よく読んだらシャドウって分かるな...
すまそ
397 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/09(水) 00:55:16.52 ID:eQj8XbHro
鳥肌
熱すぎるだろjk
乙
398 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/03/09(水) 12:30:43.71 ID:KYamBZHz0
>>21
ってコレか!?
399 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/09(水) 13:11:51.61 ID:hI5g6LIYo
>>398
これはチビテラス
本物はもっと大きくて凛々しい
400 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/09(水) 15:52:36.96 ID:N8pET0AAO
つっちー△
アマテラス△
401 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/03/09(水) 17:33:49.60 ID:BRFHlNEAO
>>1
乙
ちょっと大神買ってくる
402 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/03/12(土) 04:29:07.12 ID:u1i8dBQw0
>>1
並びに常連読者のみんな無事か?
403 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/03/12(土) 04:48:30.07 ID:T8XY2k850
死んだ
404 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/03/12(土) 10:21:48.30 ID:u1i8dBQw0
>>403
(`・ω・)つ☆)Д´)ノ 状況考えて言えこのdopel!
405 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/12(土) 14:12:42.33 ID:FA6ikJyho
>>1
です。
来週中には再開したいと思っておりますが、
諸事情によりちょっと目処が立ちません。
すみません。
406 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/12(土) 20:09:17.69 ID:xCaWAboDO
地震だったから仕方ない
407 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/13(日) 03:39:40.54 ID:MjCUdapDO
>>1
が生きていて本当に良かった。
408 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮城県)
[sage]:2011/03/15(火) 23:34:49.67 ID:JzdY+8eGo
宮城県民だがようやく戻ってこれた・・・
疲れた・・・
>>1
よ、頑張ってくれ!
409 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/03/16(水) 01:03:45.70 ID:yUapzD7eo
>>1
です。
次は今週の日曜夜に投下します。
遅れてすみません。
410 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/16(水) 01:12:00.26 ID:bt2FAVppo
心配なのに募金しかできないのがくやしいな
5000円しか募金できなかった
就活中じゃなかったらもっと募金できたけどなぁ
411 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)
:2011/03/16(水) 01:15:29.92 ID:mOwvARGd0
>>408
無事で良かった。大変だろうけど頑張れ!
>>409
再開を喜ぶべきなんだろうがたとえSSでも人命が失われる話をこの時期に見るのは辛いってのもあって
複雑な気分だ
412 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮城県)
[sage]:2011/03/16(水) 01:57:56.41 ID:i+FDaunZo
>>410
就活生の身で5000円募金とか神だろ
被災地民としては、募金してくれたのはもちろんうれしいが、そうやって気遣ってくれているというのが一番嬉しい。
さらには良い会社に就職して社会に、日本に貢献してくれたらもっと嬉しいww
413 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(熊本県)
[sage]:2011/03/17(木) 17:06:04.83 ID:fo1v4brLo
しかしここで言っても偽善と言われるのがオチ
414 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮城県)
[sage]:2011/03/17(木) 18:20:46.39 ID:8u2z5AgWo
ここでも件名表示されてるww
415 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage]:2011/03/17(木) 22:10:49.13 ID:CzEGD6zgo
マジでか
416 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/18(金) 01:43:42.02 ID:egokH5jDO
>>409
青森?
417 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2011/03/18(金) 21:24:36.48 ID:ebB5RzQAO
私待つわ。いつまでも待つわ。
418 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/19(土) 01:12:42.35 ID:somrIvBAo
無理しない程度でね
待ってるから!!
419 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 00:37:26.87 ID:hbKYF9Zyo
―――
彼らは、遂に始まった復活を目にしていた。
オッレルスは離れたビルの屋上から。
アックアは、大魚が撒き散らした悪魔達を狩っていた天空から。
一帯の地面が黒く平らになり、異界の光の陣が浮き上がって暫しの後。
アリウスの体の『像』が陽炎のように揺らぎ始めた。
次いで徐々に強まっていく、体から溢れていく赤と金が混ざり合ったような光。
オッレルス『……』
ただ、そんな外面的な変化などオッレルスは気にも留めていなかった。
問題はアリウスの『内側』で起こっていること―――。
この島に来てからは、本当に驚愕の連続であった。
特にあのアリウスは同じ魔術師として、人間として信じられない事ばかり。
と、言うものの。
『信じられないこと』としながらも現実は現実。
今までのは確かに現実だと認識できた。
しかし『これ』だけは。
アリウスの中で起こっている事だけは本当に信じられなかった。
『幻であってほしい』、では無く本当に幻としか思えなかった。
『人』が。
『喰われてしまう』のではなく―――。
―――『神々すら恐れる神』を『喰らってしまう』なんて。
420 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 00:38:25.20 ID:hbKYF9Zyo
それは『一切小細工せずに、1mlしか入らない容器に1万?入れる』、というのと同じ。
現実にはあり得ない不可能な事。
オッレルス『…………』
覇王復活という件に関してオッレルスは、
アリウスは魔術的な力としてその存在を顕現させると思っていた。
基本的には今までと同じ、『術式を構築して力を借りる』と。
しかし、現実は違った。
アリウスは『覇王そのもの』を己の中に入れようとしていた。
それもアックアのように天界にいる天使から力を借りるのでもなく、
イギリスの炎の魔術師のように悪魔に転生したのでもない。
『人間の身のまま』、アリウスは『覇王本体』をその身に取り込もうとしているのだ。
オッレルス『…………』
そんなアリウスにオッレルスは目を奪われてしまった。
絶望と恐怖の神を復活させるという、許されざる行為にも拘らず。
これ以上のモノはない、至高の芸術品を目にしているかのように。
421 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 00:40:05.13 ID:hbKYF9Zyo
目から入ってくる情報、その濃度とおぞましさが跳ね上がっていく。
今にも破裂しそうな頭痛。
己の魂が軋み、目前に迫った臨界点を告げる。
それでもこの魔性の魅惑からは逃れられなかった。
高位の魔術師を虜にする、この『概念』だけには。
『神上』。
魔術、その道を究めんとする者は誰しもが一度は惹かれる領域。
アリウスは今まさにそこに達しようとしているのだ。
十字教の神を超えるような存在がゴロゴロしている魔界。
その世界においてでさえ、そこは絶対的な領域とされている座に君臨していた一柱。
覇王アルゴサクス。
そんな絶大な存在を隷属させようと。
これを『神上』と呼ばずして何と呼ぶ。
これは魔術師として熱くならざるを得ない。
こう感じざるを得ない。
己は今、一人の人間が神上に到達する瞬間を目にしているのだ、と。
今まさに、人類の有史上初の神上が誕生しようとしている、と。
オッレルス『…………』
これは見ていなければならない。
このまま狂い死んででも―――、と。
422 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 00:41:10.22 ID:hbKYF9Zyo
そして見える。
オッレルスは見てしまった。
アリウスの中で漏れ出した絶大なるその力、それを直に。
全てを『見通してしまう』目で。
『絶望の具現』を―――。
オッレルス『―――』
例え僅かな片鱗でも。
復活途上に漏れ出した、そのほんの一滴の力だけでも。
土御門『オッレルスだな?今すぐ―――』
オッレルスの意識を一瞬で引き込むには充分であった。
『絶望の底』へと。
土御門『―――ッレルス?聞こえ―――』
リンク向こうからの土御門の言葉が一気に遠のく。
まるで、凄まじい速度で離れていくかのように。
オッレルス『―――』
423 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 00:42:25.88 ID:hbKYF9Zyo
そしておぞましい絶望の触手が、オッレルスの精神内に一気に進入していく。
強酸の如く周囲を腐食させながら。
触手はオッレルスの心の奥底をこじ開け、
彼の忌まわしき『過去』を抉り出し。
その瞬間、彼の精神は外の時間軸から切り離され、
闇の中へと引き釣りこまれていった。
一瞬にして永久の、内なる絶望の牢獄へ。
至上にして最悪の、絶望という苦痛の中へ。
『死ぬほどの苦痛』を味わった場合、
大抵は文字通り死に、苦痛は一瞬で終わる。
またそれでも死なぬ者の場合は、時間を経ていずれ痛みに慣れる。
しかし『絶望の具現者』に精神を囚われた者は、慣れもしなければ死の解放もない。
麻痺も無ければ意識が混濁することも無い。
壊れた時間軸の中で、一瞬でありながら永遠の絶望を、
鮮明敏感な意識のまま味わい続ける。
殻を壊され耐性を失った無垢な心で、己の闇の『終わり無き再確認』を。
424 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 00:45:06.35 ID:hbKYF9Zyo
オッレルスの意識は鮮明に、そして痛烈に過去をなぞっていく。
今までの生涯の再体験させられていく。
何度も何度も。
北ヨーロッパのとある片田舎で生まれて。
とある修道院に預けられては魔術の教育を受け始め。
100年に一人の天才ともてはやす声に溺れず、ただただ勤勉に学び。
その一方で『遊び』も忘れずに、学友と共にバカ騒ぎしては友情を知り。
恋を知っては愛を知り、女を知ってはそれらの喪失も知り。
友を永久に失い、そして『誰か』の友を永久に奪った血の洗礼を受け。
いつの日か人々を救う、この世界から嘆きを無くしてみせると、
才を授かった使命感と理想に燃え。
オッレルス『―――わかってる―――それはわかってるから―――』
ある時。
2000年に一人の天才と言われていたかのアレイスター=クロウリー、
そんな彼もかつて秘密裏に籍を置いていたという、選ばれた者のみしか所属できない、
ローマ教皇でさえその存在を知りえていなかった秘密結社に誘われて―――。
オッレルス『―――俺が永遠に許されないことはわかってるから―――』
425 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 00:46:42.08 ID:hbKYF9Zyo
その結社にて、選ばれし者のみに下るという『御声』を聞き。
生まれて初めて人を超越した存在、天の確たる意思に触れ。
そして天命を受けて『聖戦』に馳せ参じ。
オッレルス『だから頼むから―――』
それから―――。
オッレルス『―――やめてくれ―――』
―――それから。
オッレルス『―――あの子達をこれ以上―――』
『能力者狩り』と言う名の―――
オッレルス『―――殺し続けるのはやめ―――!!!』
―――子供達の虐―――。
426 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 00:48:25.67 ID:hbKYF9Zyo
と、その時であった。
『―――見るな―――!!!』
外からの野太い声が、突如彼の意識の中に進入してきた。
その声はあの血塗られた『聖戦』を命じたのと同じ天界のモノ。
闇を植え付けたあの声が、
今回は彼の意識を闇から救い上げる。
次いで頭をやや乱暴に掴む、厳しく無骨な手。
『―――あれを見るな!!!!!』
その大木のように屈強な腕が、
オッレルスの精神を内なる牢獄から引き釣りあげていく。
その瞬間。
精神が引っ張り挙げられ、
この壊れた時間軸と、外の正しい時間軸の遊動域を意識が漂った時。
『向こう』からこっちに接触してきたのか、
もしくは、この僅かな隙間でたまたま精神体の目があったのか。
形式的にでも、一時的に覇王の力を通じてリンクが形成されてしまったのか。
それとも。
『己を試したい』という願望により、こちら側から挑んでしまったのか。
闇に潰されてもまだ死なぬ、底なしの好奇心と挑戦心が本能の如く突き動かしたのか。
原因はこのどれかでもなければ、
複数の要素が重なっていたのかもしれない。
ともかくこの時、オッレルスとアリウスの意識が接触した。
427 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 00:49:44.61 ID:hbKYF9Zyo
このまどろみ、現実と内なる幻想の狭間の向こう側。
そこに彼は見た。
オッレルス『―――……』
笑っているあの男を。
封から解き放たれてあふれ出す『絶望』、
今オッレルスが味わったモノの数億数兆倍もの濃度の『闇』、
オッレルス『―――な……んで……なんで……お前はそう―――』
その真っ只中にいながら。
アリウスは笑っていた。
悠然と、揺ぎ無く威風堂々と佇み。
まるで、伝説の中の勇者のように。
まるで、世界の破滅に立ち向かう英雄のように。
そして。
絶対的な『勝者』の如く。
428 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 00:51:17.88 ID:hbKYF9Zyo
なんでそうしていられるのか。
アリウス『この弱者の恐怖が、弱者の絶望が、弱者の苦痛が―――』
そのオッレルスの問いに、アリウスは応えた。
アリウス『―――より一層、俺の意識を明瞭にしてくれる』
アリウス『示してくれるのだ』
一片の緩みも無い、自信と剛毅に溢れた笑みを浮かべながら。
アリウス『―――俺が未だに「弱き人間」である、ということを』
この男がもし己の主だったら、またはどこかの国家元首や組織の長であったら、
無条件について行きたくなってしまいたくなるような。
オッレルス『何が……お前を……』
では何が、この男をここまで駆り立てたのか。
如何なる思いが、この男の意識をここまで強くしたのか。
一体どれほどの覚悟が、この男に神をも乗っ取ってしまうほどの精神力を与えたのか―――。
429 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 00:52:47.48 ID:hbKYF9Zyo
アリウス『なぜか?それは―――』
そのアリウスの返答の言葉と共に。
オッレルスの意識内に、
彼の中の思念が一気に流れ込んでくる。
アリウス『―――証明する為だ』
オッレルス『―――』
それはとことん純真無垢でありながら、
おぞましいほどに歪んだ『人類への愛情』。
数百万の命を奪い、更に残りの人類をも切り捨てようとする、
10000年呪っても足りぬ程の者でありながら。
馬鹿馬鹿しいほどに単純な理由でありながら。
アリウス『―――人間は強い、とな』
彼の抱く誇りは、余りにも高潔であった。
余りにも。
オッレルス『―――』
430 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 00:54:20.33 ID:hbKYF9Zyo
たったそれだけ。
そんな事だけのために全人類を危険に晒すのか。
そう、声を檄して然るべき事なのに。
オッレルスにはそれができなかった。
なぜか、アリウスのその言に大義があるように感じてしまったのだから。
それもアリウス自身が掲げているのではなく、
自然と大義の方から寄り添ってきているような。
長きに渡って虐げられてきた、この世界の『生』の怒り。
それを一手に背負っていたかのよう―――。
アリウス『人の子よ、我が眷属よ、知るがいい―――』
あってはならないのに。
こんな、死をもって裁かれて当然な男に、決してそんな姿を見てはいけないのに。
オッレルスはアリウスに。
アリウス『―――人が万物に打ち勝つ時を』
『英雄』の姿を見てしまった。
オッレルス『―――……』
『―――………………い!!!』
『―――オッレルス!!!!』
431 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 00:56:48.96 ID:hbKYF9Zyo
アックア『―――おい!!!!』
オッレルス『…………』
気付くと。
意識が外界から途絶する前にいたあのビルは既に遥か遠く。
闇夜の街を駆け抜けるアックアの左脇に抱えられていた。
そう、天使は飛行するのではなく走っていた。
右腕の大剣アスカロンと肩に乗せ、
オッレルスを左腕でやや乱暴に抱えて。
オッレルス『……ッ……大丈夫だ……』
頭の中の鈍痛に顔を顰めつつ、オッレルスは溜息混じりに言葉を返し、
抱えられながらアックアを見上げた。
その天使の背、そこから伸びていた巨大な水翼は今は無く、
瞳の金の輝きも失せ。
テレズマ
彼の中を満たしていた『天使の力』も大幅に減っていた。
オッレルス『……』
アックア『土御門達がこちらを必要としている。戻るぞ』
オッレルス『力…………かなり失ってるな』
アックア『お前を「戻す」際に大分削られたのである。回復には少し時間がかかる』
432 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 00:59:37.43 ID:hbKYF9Zyo
オッレルス『……………………すまない』
オッレルスはそう、小さな声で謝罪した。
アックア『…………』
前を真っ直ぐ見据えて、
変わらぬペースで街を駆け抜けていくアックアに。
そしてたどたどしく力なく、言葉を続けていく。
オッレルス『……ウィリアム…………俺は……負けたようだ。完敗だよ』
己を試したい、そうアリウスを見続けた結果がこれだ。
記憶は陵辱され、心は踏みにじられ。
精神は囚われて、ツレの天使の力をも大幅に削ってしまってこのザマだ。
負けたのだ。
アリウスは本当に桁外れであった。
近づこうとすればするほど、抗おうとすればするほどあの男の強さが圧倒的になる。
その差は、確かに魔術の技能・魔術の力、そして魔術の才能が要因だろう。
だが一番はそれらではない。
『天才』、たったその一言で片付けてしまうにはあまりにも『無礼』だ。
何よりもかけ離れていたのは心の強さだ。
いや、この要因があったからこそ、上記の三つの要素でもアリウスはずば抜けていたのだ。
あんなに強い精神の持ち主は今まで会った事がない。
あそこまで固い信念の持ち主など他には知らない。
アリウスはあまりにも強かった。
魔術師としてではなく『人』として。
433 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 01:01:17.39 ID:hbKYF9Zyo
そんなオッレルスの独白に。
アックア『負けた?笑わせる。そうは見えなかったがな』
アックアは厳しい表情を変えぬまま、
そして前を向いたまま言葉だけを返してきた。
オッレルス『……?』
アックア『お前の意識は深淵に沈み込んでいた。正直、手遅れだと思っていたのである』
アックア『闇の濁流に飲み込まれ、その精神体は濁っては砕け散り、既に四散していたとな』
オッレルス『……』
アックア『だが違った』
アックア『あの闇は明らかにお前を飲み殺そうとしていた。だがお前の精神はその形を完全に保っていた』
オッレルス『……』
アックア『魔窟を覗き込み、直に触れてしまったのにも拘らず、未だまだ生きている』
アックア『しかも正気を保てている』
そう。
己を試したい、そんな戯言を吹かして自ら魔窟に飛び込んだ愚か者は、
見事正気で帰ってきたのだ。
434 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 01:02:48.44 ID:hbKYF9Zyo
アックア『そして見たのだろう?その「目」で』
オッレルス『……』
そして、アレを見てきた。
アリウスの中身を通して。
その英知の渦を。
覇王の力を。
更にその向こう、何もかもの概念が吹き飛ぶ、
究極の領域の狭間を。
『神上』へと続く『0』の向こうを。
アックア『ならば「得たはず」である』
この全てを見通す『目』で見て。
目にしたもの全てを脳に刻み、精神に取り込んで。
アックア『お前があの魔窟で得てきたモノに比べれば、ガブリエルの力など安い代償である』
アックア『何を見、何を理解し、如何なる力を得た?反統異端の才気ある落伍者よ』
アックア『そろそろ時が来たのではないのか?』
アックア『―――真の「魔神」になる時が』
オッレルス『…………』
435 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 01:05:09.49 ID:hbKYF9Zyo
あの闇に触れたということは。
あの力を味わった。
あの力の領域を知ったわけだ。
それも強引に、力ずくで。
オッレルス『……まさか、こんな形になるとはね』
やや呆れたように呟き、
オッレルスは小さく鼻で笑った。
オッレルス『…………わからないものだな……』
この全く予想外のタイミングで手に入れた、
魔神の領域への切符を。
アックア『お前はやはり、そのような星の下に生まれてたのであろう。「宿命」であるな』
と、その時。
オッレルスはアックアが口にした『宿命』、その言葉に反応して。
オッレルス『……いいや。ウィリアム。俺はそうは思わない』
アックア『……』
そっけなくそう言い返した。
オッレルス『「宿命」なんて無いさ』
436 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 01:07:11.16 ID:hbKYF9Zyo
『宿命』などいうレールなど無い。
闇の濁流に流され、
万物の概念も法則も超えた領域を覗き込んだが、そんなものなど何も無かった。
あったのは、ただただ干渉しあう『だけ』の無数の純なる因子。
人々が運命と思ってしまうのは、
どんなに正確な計算をしても決して予測し得ない、
偶然が積み重なって形成される因果の連鎖、
その先に弾き出される、希少性の高い『不確定要素』の単なる結果だ。
そう。
全く予測し得ないからこそ、
アリウスもあのような独り言を思わず漏らしたのだ。
『―――「人の生」はどこまでも俺を楽しませてくれるな』
運命と言う、決まったルートなど無いからこそ。
『―――これだから「人」は辞められん』
あの男は心の底から楽しんでいた。
絶対的不文律など無いからこそ。
力なき弱者である人間が、魔界頂点領域の神を乗っ取ることも可能なのだ。
どんなに確率が小さくとも、確率が0でなければ可能だと。
437 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 01:08:39.29 ID:hbKYF9Zyo
と、そこでオッレルスの思考は更なる可能性を提示した。
オッレルス『……』
ただ、もし。
『不確定要素』に作用する、『超越した規則性』があるのだとすれば、と。
そして。
魔界、天界、人間界などの、力と魂が循環して生と死を綴る『動世界』。
それらが重なり形成される影、狭間の世界プルガトリオ。
これらの外にある、虚無という完全なる『静世界』。
この更に向こう側にもし。
万物の概念・法則も超えた領域の更に奥深く、そこにもしも。
『超越した規則性』を生み出す『何か』が存在するのであれば。
それこそがまさしく『本物の宿命』だろう。
あるいはこう呼ぶべきかも知れない。
唯一絶対、生と死、正と負を超えた『真』の―――。
438 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 01:10:50.70 ID:hbKYF9Zyo
オッレルス『……』
ただまあ、これは今考える事ではなかった。
いや、いつ考えても意味が無いだろう。
少なくとも今のオッレルスには、
そんな領域を認識し観測することなど不可能であった。
今よりももっともっと『上』。
覇王を乗っ取ったアリウス、いや、『更に上』の位置からじゃないと、
まともに認識することなどできないかもしれない。
そんなレベルの話なのだから。
あっけなく言葉を否定されたアックアであったが、
いきなり押し黙り思索に入ったオッレルスに気を使ったのか。
アックア『……「今」のお前がそう言うのであれば、そうなのであるな』
なぜ彼が宿命は無いと答えたのか、その理由は問わなかった。
オッレルス『ところでウィリアム』
とその時、話を切り替えながらふとオッレルスは顔を上げ。
オッレルス『そろそろ降ろしてくれ。俺はもう大丈夫だ。歩ける』
オッレルス『大の男が大の男に抱えられているのは、画的にあまり良いものじゃないしな』
アックア『うむ。確かに』
439 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 01:12:14.44 ID:hbKYF9Zyo
大木のような腕から解き放たれたオッレルス、
己の足で地面に立っては。
オッレルス『ふーッ…………それで、土御門達が来てくれと?』
アックア『そうである』
調子を整えるように息を吐いた後、そうアックアに確認しつつ、
シルビアと土御門がいる方角をその『目』で見やった。
オッレルス『……俺の意識が飛んでる間に随分賑やかになってるな』
すると見えてくる、異常な状況。
とんでもない存在が顕現しているのか、
その地域の界が大きく軋んでいるのがわかった。
そして南の方でも、同じく界に凄まじい負荷がかかっているのが見える。
とその時。
シルビア達がいるであろう辺りの空が一気に明るくなった。
オッレルス『―――……あれは……』
それも強い光源に照らされているのではなく、
辺り一帯に『やさしく満ちていく』形で。
アックア『…………おお』
天使の感覚で感じたのか、
アックアも言葉にならない声を漏らした。
あの光は、紛れも無く天界の力であったのだ。
アックアが降ろしていたガブリエルを遥かに上回る、
いや桁が違う程に強烈な。
440 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 01:14:31.51 ID:hbKYF9Zyo
シルビア『―――オッレルス!』
と、そこに飛び込んでくる、
リンク向こうからのシルビアの声。
オッレルス『シルビア』
シルビア『今すぐ来てくれ!』
オッレルス『そっちで何が起こってる?』
シルビア『土御門が……!あ……えっと……んん……』
状況を表現できる言葉が出てこないのか、
シルビアは途端に声を詰まらせては。
シルビア『―――あああ!!こっちに来てその目で見た方が早い!!!とっとと早く来い!!!』
オッレルス『ああ、わかった。用が済んだらすぐに行く』
シルビア『「用」!?』
『用』、というのも。
シルビアからの声があったすぐ後に、
一人の女の子がオッレルスとアックアの前に立っていたからだ。
オッレルス『……』
明らかに、こちらに用があるという佇まいで。
アックア『……』
赤毛に褐色の肌の少女が。
441 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 01:15:30.21 ID:hbKYF9Zyo
オッレルス『(……ルシア、と言ったか)』
瞬き一つせず、じっとオッレルスを見つめている女の子。
非魔人化状態のその姿は、改めて見ると体つきも顔つきもかなり幼い。
体の外見年齢は10歳前後か。
しかし。
造形は可愛らしい少女なのに、その内面は―――。
オッレルス『(…………この子―――)』
その目で見通してしまったオッレルスは思わず、
心の中でも言葉を失ってしまった。
女の子の内面を覗き込むのはとんでもなく無粋ではあろうが。
そして彼女の中は,
とてつもなく心が痛む思いで溢れているのに。
それはそれは、目を背けられない程に―――。
赤毛の少女、ルシアは細腕をゆらりと掲げては、アリウスの方角を指差し。
ルシア『あなたは……「絶望」を「見た」のですね?』
不気味なほどに平坦な声色で、
ゆっくりとそう口にした。
オッレルス『……ああ、見たよ。しっかりと』
442 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 01:16:09.78 ID:hbKYF9Zyo
ルシア『……一つ、やって頂きたいことがあります……今のあなたならすぐ済ませられますので』
オッレルスの返答を聞いたルシアは静かに、
丁寧に言葉を続けていった。
オッレルス『いいよ。何をすればいいのかな?』
ルシア『「初期化」……いいえ、「組み立て直して」欲しいんです―――』
一語ごとに確かめるように。
ルシア『―――「昔の私」を』
一句ごとに。
ルシア『戻してください。私を―――』
覚悟を決めていくかのように。
ルシア『―――心を手に入れる前の頃に』
そして今まで完璧な無表情だった少女の顔が少し、少し歪んだ。
内からこみ上げて来たモノの圧に耐え切れず、
仮面にヒビか走るように。
オッレルス『…………………』
そして少女はぺこりと頭を下げた。
ルシア『……お願い……します』
顔は伏していたため、その表情は見えなかったが。
『最期』の声は震え。湿っていた。
オッレルス『…………』
―――
443 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 01:18:29.36 ID:hbKYF9Zyo
―――
魂の防護は不完全。
封印の開放式も不完全。
チェックも動作確認も不完全。
次々と起こる、想定外の事態。
だが、それらは既に過ぎ去った。
どれだけ困難な難関であっても、終わってしまえば結果だけ。
他は論ずるに及ばない。
では、ここでの結果はどうなったのかというと。
それは単純明快。
魔界の覇者の精神は、とある一人の人間の精神に屈した。
そして。
勝者でる人間は、かの伝説の『神儀の間』をモデルとしたこの街に重なる術式を起動。
それは問題なく機能して『魔界の門』を覚醒させ。
その『錠』を外した。
これが『結果』だ。
そして次にやるべきことは、
その『錠』を形成していた『力』を開放し、取り込むこと。
伝説の最強の魔剣士スパーダ、彼が残したその力を―――。
444 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 01:19:55.67 ID:hbKYF9Zyo
アリウス『…………』
全てを超えうる領域、その高みの舞台に這い上がった男は、
徐に漆黒の闇空を見上げ。
静かに瞼を閉じては、ゆっくりと、そして深く深く息を吸い込んだ。
その胸を満たす大気は『人』の呼吸。
その大気の香りは『人』の戦気。
完璧だった。
ジョン=バトラー=イェイツ、その存在は、
覇王アルゴサクスの上に人間として完璧に安定している。
魔界の神を支配して何かが変わったか?と問われれば。
その答えはYESだ。
どこが変わったか、などはわざわざ並び立てて語るまでも無いだろう。
では。
お前自身は変わったか?と問われれば。
答えはNO。
意識、精神、魂、それらは全て変わりなく。
アリウス『…………』
ジョン=バトラー=イェイツという『人間』は何一つ変わらず、ここにあり。
445 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 01:23:18.35 ID:hbKYF9Zyo
アリウス『……』
そんな風に一通り己の内を確認した後、彼は今度は感覚を外へと向けていった。
内なる面で覇王の精神体と主導権争いをしていたのは、
外部の時間軸上からはごく僅かな間。
しかしそんな短時間でも、この島の状況は刻々と変化していたらしい。
影の王とトリグラフ、この二柱が顕現し力を解き放ち。
トリグラフと相対しているのは、同じく完全に力を解き放っているアラストル。
影の王と相対しているのは。
アリウス『……ふむ』
なんと、名だたる天界の大御所だ。
ただ直接降臨ではなく、あの屈強な二重聖人がガブリエルの力を宿しては同化したのと似て、
力の一部を人間に授けた形のようだが。
全く登場を予想していなかったとんでもないゲストだ。
しかし。
その登場には驚いたが、それだけだ。
トリグラフとアラストルの衝突は、まあ『それなり』に勝敗の行方が揺れるだろう。
アリウスとしては『トリグラフの方がアラストルよりも強い』と見ているが、
その差が特に離れているわけでもなく、あの戦いはトリグラフにとっても壮絶なものになるはずだ。
だが一方で、影の王とゲストのこの戦いはそうはならない。
ゲスト『本体』が直接降臨したのならばともかく、
人間に一部を授けたあの程度では、影の王を討つ事など不可能だ。
この戦いは、全体状況には特に影響など及ぼさないだろう。
446 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 01:25:15.26 ID:hbKYF9Zyo
そして『そんな事』は別に。
他に、アリウスの関心を強く引く事が『二つ』ほどあった。
アリウス『…………』
まず一つ目。
今回の件でアリウスのバックについたもう一柱、恐怖公アスタロトについて。
そのアスタロトが『どこにもいない』。
魔界の十強たる己が軍勢と共に、狭間の領域にて待機していたアスタロト。
覇王が復活し魔界の門が開いた暁には、その軍勢を率い人間界に進撃してくるはずなのだが。
アリウス『……』
『動いていない』のではなく、どこにもいないのだ。
それどころか、アスタロト配下の軍勢も忽然と消えているのだ。
跡形も無く。
そして二つ目は。
アリウス『……………………』
人間界に特に変化が起きていない、という事だ。
『魔界の門が開いたのに』、だ。
447 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 01:29:55.60 ID:hbKYF9Zyo
『門』という言葉でイメージするのは、それこそ大きな『穴』であろう。
だがこの『魔界の門』の実際の姿はそれとは程遠い。
正確には、界と界が重なる『同化現象』、魔界による『吸収破壊』なのだ。
つまり魔界の門が開かれた瞬間、
ダムが決壊したかの如く、一気に『魔』が侵食してくる。
そう、だから今も魔界そのものがなだれ込んで来、
人間界が飲み込まれていくはずなのだが。
アリウス『……』
今は、位階にも界の器にもまるで変化が無い。
いや、違う。
変化は起きていた。
そう、厳密には確かに魔界による侵食は始まってはいた。
問題は。
アリウス『―――』
そのスピードだ。
非常に、筆舌に尽くしがたいほどに『遅い』。
とにかく『遅い』。
それこそ、この侵食現象『のみ』の時間軸が歪んでいるような。
いいや。
まさしくそうだ。
明らかに。
アリウス『―――』
『人為的』に時間軸が『操作』されている。
448 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 01:32:59.96 ID:hbKYF9Zyo
魔界から人間界への侵食、
というピンポイントでありながらのそのとんでもないスケール。
そのとんでもないほどの干渉力、間違いない。
この界への干渉形式は。
『神儀の間』―――。
―――その『オリジナル』によるものだ。
オリジナルが『今この瞬間』、『どこか』で起動しているのだ。
そしてこの時間軸操作の技術は。
これも間違いない。
こんな特徴的なモノ間違えるわけがない。
アンブラの技―――。
―――『時空魔術』だ
では誰が?
その答えは決まっている。
アンブラの技と、この規格外のスケールは―――。
449 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 01:34:54.28 ID:hbKYF9Zyo
『彼ら』は。
アリウス『―――』
『彼ら』は、アリウスが『神儀の間』の偶像を使うのを知っていて。
それで魔界の門を開くということを知っていて。
オリジナルに予め手を加えておいて。
それをアリウスの偶像は、オリジナルの性質を正確無比に映し出したのだ。
彼らが手を加えた部分まで。
つまり。
アリウス自身が魔界の門の開放と同時に、
その侵食の時間軸操作発動のスイッチも入れたのだ。
では彼らは一体何の為に。
何を目論んで?
その答えは残念ながら、この場では導き出せそうも無かった。
後回しにせざるを得ないだろう。
なにせ今。
アリウス『―――来たか』
15m程前方に、この舞台の『主賓』が立っていたのだから。
450 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/21(月) 01:36:27.74 ID:hbKYF9Zyo
銀髪に赤く輝く瞳。
体に纏わりつく紫の光。
アリウス『……』
左手にフォルトゥナの紋章が刻まれた大剣―――。
『会いたかったぜクソ野郎―――』
そして異形の右手には、『アスタロトの首』を持った―――。
ネロ『―――楽に逝けるとは思うなよ』
スパーダの孫が。
アリウス『…………ああ。それはわかってる』
忌まわしき冒涜者。
許されざる破壊者。
最強を証明せんとする、無謀な挑戦者。
アリウス『始めよう』
今、彼の生き様を清算する戦いが始まる。
―――
451 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/03/21(月) 01:38:08.10 ID:hbKYF9Zyo
今日はここまでです。
次は水曜か木曜の夜に。
>>416
青森です。
452 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)
[sage]:2011/03/21(月) 01:39:39.25 ID:WiuxDy3ho
とうとう全面戦争突入か
乙
453 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/21(月) 01:40:31.05 ID:hVd1qwLDO
>>451
ネロさんやっと来たぁ!
つか青森って…大丈夫なのか?
454 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/03/21(月) 01:58:24.87 ID:hbKYF9Zyo
>>453
津波被害が凄かった太平洋沿岸地域を除けば、
青森はそれほど被害が出ませんでした。
強いて言うならば陸路封鎖で物資面カツカツ、
それに伴う一部業界の混乱などですが、これは仕方の無いことです。
455 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/21(月) 02:00:33.74 ID:hVd1qwLDO
>>454
主は無事なんだな?
安心した
456 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/21(月) 02:40:27.17 ID:7hXTufT3o
>>1
乙です
青森より茨城の方が大変らしいね、TV局ないから中継で流れないけど
死者少ないけど街の被害が大変らしい
アリウスが強いとなぜか違和感がww
457 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)
:2011/03/21(月) 04:47:40.61 ID:KGoxAhUa0
久し振りにガッツリ来たな乙!
458 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/25(金) 01:58:35.67 ID:770oPNKn0
そろそろ人間界が危ない・・・
459 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/25(金) 23:12:27.58 ID:ceYFYPGdo
―――
南島北端、闇が覆う工場地帯。
無人化され、
技術的には学園都市のそれに引けをとらない程に洗練された機械の都。
しかし、その景観の質は学園都市のそれとは正反対。
学園都市はとことん小奇麗に纏まっているのに対し。
こちらは清々しいほどに無骨。
オイルと鉄の匂い、そして質の悪い空気が充満する、正真正銘の『重工業地帯』だ。
ただ、今はそんな情緒など一切無かったが。
南の地は光に満ち溢れており。
そしてその光の発信源の存在によって、南島全体が地響きを立て。
輝く空の向こうにて、
巨大な火柱と稲妻によって舞い上がる無数のチリのようなもの。
それらは実は大きな工場の一部分であり、
真っ赤になったその欠片が隕石のように降り注いでくる。
そして今、そんな危険地帯の中を、一人の少女が走っていた。
南の光の源を目指して。
その走る速度はおせじにも速いとは言えず、
フォームもいかにも女の子という力強さのないもの。
顔は真っ赤に火照らせ、
肩を激しく揺り動かしては欠乏した酸素を求める呼吸。
460 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/25(金) 23:15:59.30 ID:ceYFYPGdo
そして体力のみならず正面の光の源、
そこに近づくにつれ少女の精神が磨り減っていく。
辺りを満たす、高濃度の魔の力が彼女の生命力を奪っていく。
だがそれでも彼女の歩は。
よろめき、何も無いところで躓いて転びはしても。
滝壺「―――ッはぁっ!!―――はぁっ!!」
進路は決してブレず、
そして歩を止めることなど決してしなかった。
滝壺は今、その位にあるまじき行為をとってしまっていた。
結標に『麦野と合流する』と嘘をついては、嘘の座標を教え。
護衛も無しで一人で、勝手にこんなところを走っているのだ。
これは、明らかな規則違反であり命令不服従。
土御門、結標、そして―――。
―――麦野の命令に背いている。
461 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/25(金) 23:17:37.43 ID:ceYFYPGdo
滝壺「―――はぁッ!―――ッあッ!」
ふと思えば。
正式な上司としてからの麦野の命令に、
こうまではっきりと反して従わなかったのはこれが初めてかもしれない。
アイテム時代では、
少なくとも正規任務中の命令には全て忠実に従ってきた。
多少不条理でも、理不尽でも。
滝壺「ふぁッ!………ッッはッ!!」
こんなんじゃ、
皆にこっぴどく怒られてしまうだろう。
絹旗のAIMの高さじゃ、じゃこの高濃度の力の域では厳しいし、
AIMそのものがほぼ無い浜面はもってのほか。
だがそんな事も、彼らからすれば理由にならないだろう。
絹旗にはきつくビシリと言われ。
浜面にはどやされ。
そして麦野からも―――。
―――きっと。
462 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/25(金) 23:19:21.36 ID:ceYFYPGdo
でも。
あんな『言葉』を聞いてしまったら、
留まっていられるわけが無い。
ビルの屋上で、結標と合流した直後に見た南の光。
その直後にはっきりと聞えた、あの『麦野の言葉』を。
なぜかあの光の直後、
一瞬だけ完璧に麦野とのリンクが『勝手』に形成されていた。
アラストルと同化していた状態では、
簡単な音声通信しかできなかったのに。
そしてその時。
麦野の様々な記憶、想いが、濁流の如くこっちに流れ込んできた。
それはそれは滅茶苦茶で、
いわばデータが壊れてしまっている状態のもの。
でも、はっきりと判別できるものが二つだけあった。
今の麦野の『感情』と。
あの『一言』だ。
463 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/25(金) 23:20:11.59 ID:ceYFYPGdo
リンクはすぐに完全途絶し、
簡単な音声通信すら不可能な状態になってしまったが。
あの一言と感情は決して夢ではない。
聞き間違いではない。
滝壺「ッ!…………えぐッ……!」
この瞳から毀れる雫が、嘘ではないと証明してくれる。
確かにあの時、己は麦野の感情を移され。
そしてその感情で今、こうして泣いているのだ。
もう滝壺は耐えられなかった。
リンクした者達が死んでいくのを、
その瞬間の感情を黙って味わっているなんて。
しかもその相手が。
あんな言葉を最期によこしてくる麦野だなんて―――。
464 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/25(金) 23:21:46.01 ID:ceYFYPGdo
その時。
滝壺「―――」
前方の光が著しく強まり。
『圧』の濃度が急激に跳ね上がり。
そして凄まじい爆風が周囲を吹きぬけていった。
滝壺はちょうど堅牢な建物の影に差し掛かっていたため、
その爆風をまともに受けなくとも済んだが。
巻き風で煽られては体勢を崩し尻餅をついてしまった。
激しい動悸に喘ぎながら涙を拭いつつ、
滝壺はその光を見上げ。
滝壺「…………むぎの……」
そして彼女の名を口にした。
今のは一体何を意味していたのか、それは一目瞭然。
かの地で、遂に火蓋が切られたのだ。
もう、走っているだけでは間に合わない。
麦野達はとんでもない超高速で戦闘を繰り広げるのだ
こっちが20mもたもた走る間に、全てが決してしまうかもしれない。
そう判断した滝壺は、その場に跪くような体勢になっては。
滝壺「……………………」
目を瞑り、両手を握り合わせて胸元に付けては能力に意識を集中し。
今の『麦野の信号』を認識し、そして接続を試み始めた。
麦野の『悪魔の信号』を。
465 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/25(金) 23:23:20.50 ID:ceYFYPGdo
悪魔の信号を覗こうとはするな。
悪魔の信号に接続しようとはするな。
AIMとは違い、悪魔の信号は『生きている』。
AIMとは違い、悪魔の信号は『意思』を持っている。
手を出したら―――喰われるぞ。
今作戦においては、方々からそう何度も警告されてきた。
滝壺が形成するネットワークが魔に侵食されてしまう、もしくは滝壺が『破壊』されて、
その要としての機能が停止してしまうことを懸念しての警告だ。
だが今この時。
その警告を再びされたら彼女はこう、当たり前のように答えただろう。
『だいじょうぶ』だよ。
たしかに悪魔の信号だけれども、その『意思』は―――。
―――『むぎの』だもん、と。
―――
466 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/03/25(金) 23:24:25.15 ID:ceYFYPGdo
0時までちょっと休憩します。
467 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 00:07:56.57 ID:x7PS8YWHo
―――
デュマーリ、南島の中央部。
見渡す限りの工場施設で覆われていたこの島。
その一画は今、絶大な業火と電熱によって凄まじい光景と化していた。
金属とコンクリートが溶け出した溶炎の大地。
異界の雷嵐によってかき乱される大気、
それに煽られ巻き上がる大量の火の粉。
しかしそんな光景も、これからその地の中心で綴られる事象に比べれば、
まだまだ優しいものである。
文字通り『悪魔に魂を売り渡した少女』と、魔界の神の戦いに比べれば。
麦野『―――』
右手に握る魔剣、アラストルを脇に大きく引き前へと踏み出した麦野。
真正面を見据えるその『両目』の先には、
彼女とタイミング同じくして地を蹴った大悪魔。
右手には炎を司るスヴァローグ。
左手には雷を司るペルーン。
額から伸びる角は、光を司るダジボーグ、
そしてそれら三柱の魔剣を束ねるトリグラフ。
トリグラフは魔剣を持つ両手を体の前に交差させては、
その切っ先を前方へ向けて麦野以上の前傾姿勢で突き進んだ。
上半身を大きく前に倒しているため、額の一角も前に突き出されており、
三本の魔剣がその切っ先を麦野に向ける形である。
468 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 00:11:13.29 ID:x7PS8YWHo
両者が踏み切ったその距離は20m。
それは彼らにとっては取るに足らない距離。
普通の人間が単なる一歩を踏み出すよりも近しいものだ。
両者が踏み切ったその地面が大きく歪み、
稲妻混じりの爆風を帯びて抉り上がろうかとしていた時。
既に彼らの刃は激突していた。
そしてその踏み切りによる破壊は、
その猛威を吐き出すこともできなかった。
魔剣の激突による、桁違いの余波で押し潰されたのだから。
青、赤、金が混沌と混ざり合った光の衝撃派が何もかもをなぎ払って行き。
それらの光の嵐の中から現れる、
刹那ですれ違った両者の姿。
紫の電撃と火の粉の尾を引きながら宙を翻る麦野。
そして低い姿勢のまま両足でブレーキをかけながら、
すれ違った麦野の方へと方向転換するトリグラフ。
溶け上がった大地にめり込むその両足が、
地響きを伴いながら大量のオレンジの雫を巻き上げていく。
それと対照的に、麦野は紫の翼を広げては緩やかに着地した。
ふわりと、火の粉が幻想的に舞い上がる。
469 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 00:15:17.45 ID:x7PS8YWHo
麦野『―――……チッ』
しかし、その着地は一見余裕があるように見えたも、
その彼女の顔はやや険しかった。
原因は、パックリと裂かれていた脇。
ジャケットが見事に鋭断され、
ワイシャツが真っ赤に滲みつつあった。
『傷を負った』、それ自体はあまり問題ではない。
目や腕が再生したとおり、今の彼女はもう物質的な限界に縛られていはいない。
完璧に悪魔の、それもアラストルという『神』の肉体だ。
(もちろん衣服も丸ごと取り込んでしまっているため、
これらも肉体と同じような性質をもっている)
問題なのは、そんな肉体であるにも拘らず『傷が癒えない』、『再生しない』という事。
その事実が示すのはすなわち。
トリグラフの魔剣、その刃に集中している力は、
当たり方によっては一撃でこちらを戦闘不能にし得る程の濃度、という事だ。
魂、そして力の修復がまるっきり追いつかないのだ。
470 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 00:20:45.72 ID:x7PS8YWHo
ただ、それは向こうも同じらしかった。
麦野『…………』
相変わらずの低い姿勢で、
40m程向こうからこちらを見据えているトリグラフ。
(正確には目にあたる部位は見当たらないが)
甲冑か甲羅かはわからないが、
その肩の硬質な部分に焼ききれたような一閃の筋が走っていた。
そして再生していく気配も一切無い。
つまりアラストルの刃も、その力はトリグラフにとって充分脅威なのだ。
こうなればなんら難しいことは無い。
その次元は遥かに違えど、人間同士の殺し合いと『勝敗条件』は同じ。
ぶった切られミンチになった方が負け。
単純明快だ。
471 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 00:26:38.53 ID:x7PS8YWHo
ただその一方で。
今の一合、それによるダメージの度合いの差も単純明快、明らかだった。
麦野『……』
その差の原因は?
それは明白だ。
まずトリグラフの三本の魔剣を突き出す突撃姿勢、
それは一見するとそれは奇妙な構えであったが、
実はとんでもなく合理的であったようだ。
あの魔剣の位置なら、右でも左でも麦野がどちらに抜けても、
トリグラフは最低二本の魔剣を繰り出せるのだ。
最低というものあの姿勢によって、
額の一角が充分三本目として機能する位置だからだ。
対して麦野の刃の数は一。
麦野『(―――正面から突っ込むのはやはり不利、か)』
ヘッドオン
正面突撃、それはもっとも攻撃しやすく、もっとも防御しやすい。
攻撃するタイミングは一つ、相手の攻撃が来るタイミングも一つ、
それがはっきりと決まっているのだ。
しかしそれは相手も同じ。
その場合、刃が多い方が有利なのは当然だろう。
同時に繰り出せる刃の数、トリグラフは三で麦野は一。
その数の差は絶対だ。
472 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 00:30:09.58 ID:x7PS8YWHo
そして突撃でここまで刃の数による差が顕著に出てしまうのならば、
距離を開けられてしまうのは不利だ。
高速で行ったり来たりされたらたまったもんじゃない。
ヘッドオン
正面突撃戦法ばかりを取られると、こっちは避けるばかりにならざるを得ないのだ。
カウンターするにしたって困難だろう。
カウンター攻撃とは、
その瞬間に相手に無防備になる部分があることが絶対条件だ。
しかし。
トリグラフが三本あるうちの二本を最初から防御に回していたら、無防備もクソも無い。
無防備の部分自体が無いのだから、
カウンターなんぞ成功するわけが無いのだ。
ではこちらが取るべき戦法は?
その時、麦野は軽く前へ跳ねた。
緩やかな栗色の髪をなびかせて。
その彼女の体が降り立った地はトリグラフの鼻先2m、
いや、低い姿勢で突き出されている『角先』。
麦野『シッ―――』
そして着地と同時に横一線にアラストルを振りぬく、
そんな彼女が取った戦法は
『接近して乱戦すること』。
ぴったりと張り付けば、刃の差は手数で埋める事が可能なのだから。
473 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 00:35:49.48 ID:x7PS8YWHo
ところでなぜ、彼女がトリグラフ相手にこうも的確に判断を下せるのか。
この手の戦いではアラストルに『素人』と切り捨てられ、
先ほどのアリウスの戦いの中で、ようやくスタート地点に立ったばかりなのに。
その理由は、今の彼女は『アラストルそのもの』だからだ。
アラストルが有していたありとあらゆる知識、技術、それらの応用方、
さまざまな戦い方、戦闘局面におけて何をどうやって動けばいいか、
それらが全て手に取るようにわかる。
このトリグラフの左手、右手、頭部の魔剣の名とその属性も。
彼らがどこで生まれ、どんな名声を得ていたのか、
アラストルが知っている範囲の全てを、麦野も『知っている』。
頭で一々思考する必要など無く、『既に理解している』。
これが本物の大悪魔の、そして神の認識域。
今の麦野は『素人』ではない。
今の彼女は『アラストルそのもの』。
雷刃魔神と称えられている、魔界の最たる武神の一柱である。
474 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 00:36:58.41 ID:x7PS8YWHo
麦野が横一線に振るうアラストル。
紫の稲妻を引くその刃はトリグラフの一角、
光の魔剣ダジボーグに激突した。
凄まじい圧力で衝突する魔剣、その激突点から迸る紫と金の火花。
異界の金属の悲鳴が響き、そして飛び散る光の雫。
その雫は普通の火花ではない。
神たる魔剣の激突で生み出された『礫』だ。
それらが一粒一粒が銃弾、いや砲弾のように周囲を片っ端から穿って行く。
そしてお互いが弾かれる、二つの魔剣。
トリグラフの一角は首ごと横へと弾かれ、
同じく麦野のアラストルも反対側へ。
その反動を利用して、一気に体を回転させ左腕を突き出す麦野。
すると彼女の左肩後方から、巨大な『紫色の光のアーム』が出現し、
左腕の動き連動してトリグラフへと振るわれた。
それこそ、ネロのデビルブリンガーと同じように。
一方のトリグラフもまた、麦野と似たような動きをしていた。
弾かれた首を無理に戻しはせずに、その慣性に従い体を一気に回転させ。
左手にある雷の魔剣、ペルーンを振り抜いてきた。
475 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 00:38:12.41 ID:x7PS8YWHo
その刃に麦野が振るった『紫色の光のアーム』は、
手首から先を切り飛ばされてしまった。
抵抗無くあっさりと。
この結果はまあ当然だろう。
なにせペルーンは大悪魔が形を変えた魔剣なのだから。
麦野『―――はッ』
それに、このアームはいくら切られても痛くもかゆくもない。
これは肉体ではなく『ただの能力』の産物なのだから。
(今や純粋な能力ではなく魔と混ざり合ったハイブリッドだが)
再生はもちろんすぐ可能。
その形だって別にアーム型で無くても良い。
そもそも、こうして体の近くに留めて置かなきゃいけない訳でもない。
むしろ『こうして』撃ち出す、砲撃するのがメインだ。
麦野『ふッ―――』
その瞬間アームの切り口から、
いや、残ったアームそのものが光の矢となり、
至近距離からトリグラフに放たれた。
左手を振り抜いたばかりで、ガラ空きになってしまっているその左脇へ。
アラストル
『原始崩し』による、粒機波形高速砲が。
476 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 00:45:28.77 ID:x7PS8YWHo
『アラストルと化した』今の麦野は、
もちろんその一手一手が全て『アラストルのもの』。
刃のみならずその砲撃も、神の領域の必殺のもの。
そのため当然、この至近距離で無防備なところに受けてしまえば、
当然トリグラフだってタダでは済まない。
ただ、当たればの話だが。
当たらなければ全く無害。
トリグラフは体の回転を殺さぬまま、
瞬時に地に這い蹲っているかという程にまで、一瞬で姿勢を低くした。
麦野の壮烈なその砲撃は、
そんなトリグラフの背中をかすめ、背中の外殻の表面を僅かに炙った。
そしてそのまま飛翔していき。
今だこの戦いの被害を受けずにいた遥か向こうの工場地帯を、
その区画を地殻もろとも『完全抹消』した。
原子のみならず、一粒の素粒子すらをも残さず。
477 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 00:46:22.32 ID:x7PS8YWHo
麦野『(―――チッ)』
だが、そんな凄まじい破壊力をトリグラフ越しに見て、
麦野は心の中で不満足気に舌を鳴らした。
確かに先ほどの通り、今の麦野の攻撃はその一手一手が必殺のものだ。
しかし今の砲撃は違う。
あれでは、トリグラフに命中していてもあまり効果はなかっただろう。
あんな『広域』を消し飛ばすのは、一見すると威力が高そうでありながら、
大悪魔の視点からすれば、その実はただ単に力の集中が甘いだけ。
あんなに無駄に広がってしまうのでは、『濃度』が薄すぎる。
今は無数の雑魚を消し飛ばすような一手は必要ないし、役にも全く立たない。
必要なのは、『究極の一体』を殺す『極限の一閃一点』。
このトリグラフを殺すには、極限まで力を一点集中しなければならない。
砲撃はもちろん、振り抜くアラストルの刃も。
そして。
回避に必要な全ての感覚にも。
麦野『―――』
それら攻撃を繰り出してくる、トリグラフの一挙一動にも。
478 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 00:52:47.50 ID:x7PS8YWHo
地を這うかというほどに低い姿勢になったトリグラフ。
実際の身長は3m以上、実に麦野の二倍近くになるにも関わらず、
トリグラフの頭部は、今や麦野のへそ辺りの高さ。
一見すると、四足の一角獣にも見えてしまう体勢だ。
いや、それ『以上』だ。
と、なぜこの瞬間のトリグラフの姿勢をここまで言及するかと言うと。
この悪魔がここまで姿勢を低くした訳が、
ただ麦野の砲撃を回避する為だけではなかったからだ。
麦野『―――』
トリグラフは身を起こそうとはせず、その低さのまま。
とんでもない速さで刃を横に振り抜いてきた。
右手の炎の魔剣、スヴァローグを。
それがあたかも通常の『戦闘スタイル』であるかのように、
一切の無理を見せずに。
麦野『―――ッ!!』
瞬時に一歩後方へ跳ねる麦野。
そんな彼女の左膝から僅か5cmのところを、
業火の尾を引く刃は焼き切っていく。
そして更に間髪いれずに、今度は一角のダジボーグが
これまた凄まじい勢いで突き出されてくる。
今度は彼女の右太ももめがけて。
479 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 00:55:21.89 ID:x7PS8YWHo
麦野『チッ―――!』
その金色の突きを、麦野はすんでのところでアラストルでいなした。
魔界の金属同士が再度凄まじい悲鳴を挙げ、
衝撃波と光の礫が飛び散っていく。
そんな、刃の打ち合いが超高速で絶え間なく行われる。
巨大な稲妻が幾本も迸り、炎獄の爆炎が吹き荒れ、
辺りをなぎ払う金色の禍々しい光。
それはそれは荘厳であり禍々しい、芸術的でありとことん破壊的な彩り。
その中の『狂気』の部分を特に色濃くしているのは、
もちろん地を這う獣のような姿勢のトリグラフ。
その挙動は、一見するとトリッキーな戦闘スタイルだろう。
粗暴で野生的で、獰猛過ぎる滅茶苦茶な戦い方に見えてしまう。
ただ、それは見ているだけならば、だ。
実際に戦えば、絶対にそんな印象など180度ひっくり返ってしまう。
とんでもなく効率的で合理的で技能的で、
恐ろしいほどに堅実な戦い方である、と。
振り抜かれてくる刃は計算しつくされ、
ピンポイントで対処しにくいタイミング。
そしてとにかく速い。
僅かにでも反応が遅れてしまったら、膝から下が一瞬で飛ぶだろう。
そしてトリグラフは、その一瞬のバランスの崩れを見逃さないはずだ。
麦野の体は翼や能力で体勢を立て直す前に、瞬時に斬り上げられ細切れにされる。
再生が不可能な程の力がこめられた、三つの刃で。
480 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 00:58:53.05 ID:x7PS8YWHo
そんな、狂った車輪のような乱れ打ちを何とか凌ぎ、
麦野も負けじとアラストルの刃を叩き込むも。
突き出されている一角によって容易くいなされる。
その低姿勢のおかげで麦野から見て体面積が小さいことが、
攻撃の密度をより高くさせることのみならず、
一角の魔剣ダジボーグによる防御をも遥かに効率化させているのだ。
麦野『(―――クソッ!!)』
麦野は否応無く突きつけられてしまった。
これ以上接近することは難しい、という事実を。
ふところに張り付いて、とことんかき乱そうとしていたのに。
こんな密度の攻守で固められたら、
ふところに飛び込むことなんかできない。
そもそもあの低姿勢のおかげで、ふところの『空間』自体が存在していない。
上に跳ねて上方から攻撃しても、特に有利にはならないだろう。
トリグラフにとっては手首を90度回転させればいいだけ。
それだけで刃は上を向くのだから。
481 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 01:01:36.35 ID:x7PS8YWHo
原子崩しのビームも全く当たらない。
力が射出点に収束するのを、
完璧に嗅ぎ取られているようであったのだ。
どこからどこへ向けて放たれるのか、
事前に教えているようなものだ。
この状況、確かに正面突撃でやり合うよりかはマシだが、
これはこれでドン詰まり。
麦野『(―――……まさか……)』
そして彼女は、トリグラフのとある意図を敏感に感じ取っていた。
それは。
己をトリグラフの位置に置いたら、自分はここから更にどうする?
どうすれば、この女を更に追い込める?
そう考えれば容易に想像がつく事だ。
立て続けに、無規則なようで計算されつくした刃が振りぬかれていく。
麦野はそれらをいなし、そしてとある一振りを判別して後ろに跳ね―――。
麦野『(――――――ッ―――こいつ―――)』
―――ようとした時であった。
482 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 01:02:07.48 ID:x7PS8YWHo
左腕の魔剣ペルーンを振り抜く、
そのトリグラフの挙動に『とある点』を見つけ、彼女は確信した。
いや、勘が当たったと言うべきか。
当たって欲しくは無かったが。
なぜこの大悪魔がこの戦法を選んだのか、今の状況でもその理由は充分物語られているが、
更にそれを固める重要な要素を。
その瞬間。
彼女は一気に『前』に跳ねた。
ペルーンの間合いから抜けるのではなく、
それこそトリグラフに体当たりするかというほどの勢いで。
魔剣ペルーンは、麦野の膝を落としていた『だろう』。
『あのままの軌道』で振るわれていたのならば。
つまり、この時麦野の膝は落とされず、
ペルーンもあのまま振るわれなかった、ということだ。
彼女が前に踏み込んだのとほぼ同じタイミングで、
トリグラフも後ろに跳ねたのだ。
ペルーンの振り抜きを突如中断し、胸元に『両腕』を引き寄せながら。
それはあたかも、
最初の『正面突撃』の姿勢に移行しようかという動作。
483 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 01:04:12.06 ID:x7PS8YWHo
麦野が前に踏み込もうと判断したのは、
その腕の僅かな動きを見出したからだ。
ではなぜ、トリグラフはこんな挙動をとり、
麦野はそれに対して踏み込んだのか。
それは、彼女がペルーンの刃を後方に跳ねて避けてしまった場合の状況を考えればわかること。
麦野とトリグラフがお互い後方に跳べば、当然『距離』が開く。
今そうなっていれば、実質5m以上は開いていただろう。
では距離が開けば?
距離が開けば、トリグラフは移行できる。
刃の数が特にものがいう正面突撃戦法に。
麦野『―――ク―――ソッ―――!!!!!』
今や明白だった。
トリグラフの刃が届くかどうかという、前にも後ろにも動けないこの微妙なゾーンに。
下がれば刃の数の利で一気に押し込まれ、進めばキルゾーン入りで細切れ確実。
そして留まらざるを得ないこの領域も、
一瞬の隙が死に繋がる極限のエリア。
彼女は完全に『嵌ってしまっていた』。
484 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 01:05:43.95 ID:x7PS8YWHo
これがトリグラフの出した『答え』だ。
刃の数の差を埋めようと、至近距離でかき乱す戦法を選んだ麦野に対する、だ。
至近距離に潜り込むことは不可能。
そのテンポをかき乱すことも難き。
鉄壁で守りに入った『ハリネズミ』ほど、切り崩すのが難しい相手は無い。
しかも『このハリネズミ』の場合、
守りに徹しながら『とことん攻撃にも徹してくる』という困難さ。
麦野『(―――チッ!!!)』
いつまでもこうしていられない。
このままでも、徐々に力を削られていく。
何か、何かこの状況を打開する一手を。
しかしトリグラフにはまったく隙が無い。
完全にこの戦いの主導権を握られている。
こうして刃の打ち合いが続くという点を鑑みれば、
トリグラフとアラストルの戦闘能力の差は、特に離れているわけでもないのだろうが。
『差』は『差』。
そこにおける『優劣』ははっきりしている。
技能、パワー、判断力、戦闘に必要不可欠なそれらのスペックは、
明らかにトリグラフの方が上だ。
485 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 01:08:25.70 ID:x7PS8YWHo
ただそのスペックだけを並べてみたら、
運や戦闘の展開、機略等でその差を埋める事ができる、
充分に麦野にも勝利が望める程度の違いしかないだろう。
だが、今のトリグラフはその点もほぼ掌握しきってしまっている。
その戦い方は、その運の要素を極限まで廃する堅実なモノなのだから。
麦野『(―――……やるしかないか)』
そして、ここで麦野は決意する。
こうなったら『捨て身』でいくしかない、と。
このトリグラフとの戦いにて、ここまで捨て身でやらなかった理由は、
己が滅するのを嫌っていたのでも恐れていたのでもない。
今更この身を代償にする事など躊躇は無い。
既に死を受け入れているのだから。
『捨て身』を避けていたその理由は、
麦野はトリグラフに絶対に勝たなければいけない、という事である。
つまり、命を捨ててでも勝つべきなのは確かだが。
結果を出さないで死ぬ事は許されない。
『確実に決せられる確信』が無い限り、『捨て身』で動くことも許されないのだ。
これもまあ、皮肉だろうか。
麦野自身が生への執着と決別した今この時。
彼女は、勝手に死んではいけない身になっていたわけである。
486 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 01:10:20.88 ID:x7PS8YWHo
アラストルの技能、経験、応用力、洞察力。
それらを総動員して、麦野は勝利を引き寄せる一手を模索する。
一撃必殺の手を。
無論『捨て身』になるのは確実。
そして捨て身で行うのだからたった一度しか使えない。
確実に成功させなければいけない。
また、別に『必殺技』と銘をうつような仰々しい一手で無くていい。
成功率を高めるため、基本を少し応用しただけ程度のシンプルなものが好ましい。
とにかく一斬り。
渾身の一振りをクリティカルヒットさせ、魂ごと叩き切ればいいのだ。
麦野『…………』
そして決めの一手を決定したら、とにかく待つ。
トリグラフの腕、頭の位置。
体の姿勢。
mm単位のお互いの距離。
それらが希望通りの状態になる瞬間を。
絶対に気取られてもいけない。
僅かにでもフライングして動いてしまうと、
確実にトリグラフに読まれ、対応されてしまう。
焦らず、じっとそのタイミング見極めるのだ。
絶対に、確実に成功させるために。
487 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 01:11:34.06 ID:x7PS8YWHo
そしてその瞬間が来る。
全ての配置と動きが望み通りになった時が。
麦野『ふッッ―――』
軽く息を吐きながら、麦野は一歩。
左足を大きく前に踏み出し。
アラストルで、
突き出されているトリグラフの一角ダジボーグを下から強く弾き上げた。
飛び散る、金と紫の光の礫。
その彩の中、麦野は更に前に踏み込み、
左前腕をアラストルの刃背にあてがい。
麦野『―――ッラァッ!!!』
刃を押し付けるように滑らせつつ、一気に上に押し上げた。
ダジボーグの下にアラストル。
それが押し上げられれば。
もちろんダジボーグの根にある頭部が、そして上半身が押し上げられ。
『ふところ』の空間が、そこに形成される。
488 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 01:13:12.67 ID:x7PS8YWHo
その時。
トリグラフの上半身が押し上げきった直後。
踏み込んでいた麦野の左足が、膝から切断された。
トリグラフの左腕、魔剣ペルーンの刃で。
ただ、『そんな事』など麦野は鼻から承知済み。
キルゾーンに飛び込めば、防ぎようも無く致命傷を負うのは当たり前。
キ ル ソ ゙ー ン
だからこその『絶対殺傷域』なのだから。
左足の喪失など一切怯むことなく、麦野は右足で地を蹴り。
翼と能力で更にブーストさせては姿勢を制御しつつ、
『形成されたばかり』のトリグラフの右脇に一気に飛び込み。
その『ふところ』に潜り込み。
すれ違ざまにアラストルを振り抜いた。
―――『胴』奪うために。
489 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 01:14:44.48 ID:x7PS8YWHo
しかし。
その右脇はガラ空きではなかった。
これはさすがといったところか。
トリグラフにとって、
この麦野の動きは当然の想定外のものだったでろうにも拘らず、
この大悪魔はそれでも即座に対応してきたのだ。
アラストルの刃は胴に届かなかった。
間に入った、トリグラフの右手にある炎の魔剣スヴァローグの業火の刃に防がれて。
トリグラフは右手首を器用に返し、脇に挟み込むような形で、
スヴァローグの刃を己の体と麦野の間に滑り込ませてきていたのだ。
こんなに正確に、そしてとんでもない速度で対応してくる相手とじっくりやりあってたら、
やはり敗北は確実だったろう。
バカ正直に戦っていたらどうやっても勝てなかったはずだ。
炎の魔剣と削り合い、真っ赤な光の礫を生み出すアラストル。
麦野が捨て身で飛び込み放った『胴』は、
トリグラフの驚異的な対応力で完全に防がれた。
麦野『―――はッ』
だが。
これも実は、麦野は読んでいた。
むしろ『あえて』防がせた。
次なる一手を確実にするために。
490 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 01:15:32.81 ID:x7PS8YWHo
トリグラフの右脇に飛び込み潜り込んだところで、
一角の魔剣ダジボーグは前、左腕の魔剣ペルーンは当然反対側。
この二本は麦野と『切り結べない』。
つまりこの瞬間、刃の数の差は消えていた。
そして唯一麦野の方へと向けれる一本、右腕の魔剣スヴァローグは―――。
―――たった今、防御を『強制』されたばかり。
麦野はそのまま脇を抜けていくのではなく。
トリグラフのすぐ背後1m弱のところで、残った右足でつっかえるようにして踏ん張り静止しては。
アラストルの柄を『両手』で握って、振り上げて。
麦野『シィッ―――』
振り向きざまに振り降ろした。
守りの『刃』を失った、がら空きになっているトリグラフの背中へ。
麦野『―――アァ゛ァ゛ッッッッッッッッ!!!!!!』
本命の、渾身『一手を』―――。
491 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 01:17:20.85 ID:x7PS8YWHo
麦野が今持ちうる全てを乗せたその刃は。
雷刃魔神アラストルの白銀の刃は。
トリグラフの背中、その白金の外殻にめり込み―――。
割り砕き―――。
下の肉を断ち―――。
麦野『―――ッッッッッ―――!!!!!!!!!』
―――その魂を叩き斬る。
そしてトリグラフの上半身は、その下半身と鋭断された。
左肩から右脇にかけて斜めに。
492 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 01:19:35.45 ID:x7PS8YWHo
完全に振り抜かれ、勢い止まらず地面に打ち込まれる白銀の刃。
その刃に沿うように数kmの彼方まで、紫の光を伴って走っては島を『割る』細い筋。
そんな一閃が律したかの如く、辺りの全てがその瞬間動きを止めた。
溶け出していた周囲のオレンジのうねりも。
舞い上がっていた火の粉も。
地響きも。
刃の反響音も。
さながら時が止まったかのよう。
そして。
そんな、永遠にも思えてしまう沈黙を静かに打ち破ったのは。
ズルリと。
生暖かく湿った耳障りな摩擦音。
続く、重苦しい肉のカタマリが堕ちる音と。
魔界の刃が地面にぶつかる、けたたましい金属音と。
糸が切れたように、少女が膝をつく音であった。
493 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 01:21:40.92 ID:x7PS8YWHo
その少女の顔は美しかった。
元々かなり整ってはいたが、
今のこの瞬間は特にかけ離れて。
透き通るような肌で、どこまでも儚げで。
幻想のような『非現実的』な美しさ。
少女はゆらりと、その顔を静かに掲げて。
『…………はっ…………………………はっ……』
小さく今にも掻き消えそうな吐息を漏らした。
そして覚える、この身の羽のような浮遊感。
『…………はっ…………ふっ…………』
体の重さが感じられない。
今まで『持っていたもの』何もかもが、
一切の抵抗なく落ちてしまったような。
何もかもがこの身から消えてしまったような。
先の一振りに、
文字通り全てを『乗せて』しまったのだろうか。
494 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 01:22:50.29 ID:x7PS8YWHo
パキリと、冬日の薄氷が割れるような音。
ゆらゆらと不安定ながらも、少女は面を下げてその音の方向を見やった。
すると眼前の分離したトリグラフの体が、
その大きな破断面からひび割れ始めていた。
割れては細かく砕けて朽ちていき。
『あの世から吹いてくる風』のようなものでもあるのか、今ここは無風にも拘らず、
砕けたチリが緩やかにかき飛んで行き、消えていく。
あたかも、古代遺跡の石灰岩像が風化していくような、
そんな哀愁と神聖な美しさを感じてしまう光景だ。
『………………こう……なるのかな…………私も……』
それを目にしながら少女は思わず、そう言葉を漏らした―――。
―――ところ。
『(……あれ……―――)』
ふと、唐突に。
わからなくなってしまった。
『(…………私?……ワタシ?………………あれ……?)』
495 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 01:24:36.07 ID:x7PS8YWHo
頭の中が真っ白になったわけではない。
記憶や知識の類が全てすっ飛んでしまったわけでもない。
わかることははっきりとわかる。
この目の前の死体は『トリグラフ』。
三つの魔剣を有する、魔界でも名の知れた武神。
そして今、『己』はそんな存在を叩き切って打ち勝った。
では、『己』とは?
『(…………えっと………………あれ……)』
その言葉が出てこない。
その単語が出てこない。
この身の中で、『己』という概念が確立できない。
その○○認識をサルベージできない。
ぐるぐると、
何でもかんでもが満遍なく混じり合わさってしまっていて。
496 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 01:27:41.64 ID:x7PS8YWHo
そう、混じり合わさってしまっていて。
『(あ…………そうか…………)』
そこで少女は気付いた。
『(……融合しちゃったもんね……)』
何ら難しい事ではない。
少女は『パートナー』と融合し。
その上で少女の側の器が割れ、既に崩壊し始めているだけ。
『パートナー』の力を支えきれず、それに押されて形を保てなくなってきているだけ。
そろそろ『ヒーロータイム』は時間切れ。
この先は力の渦に飲み込まれて、跡形も無くなる。
それだけだ。
そしてこの『疑問』が、少女の意識を繋ぎ止める最後の鎖だったのか。
『(……仕方な……い……ね……)』
そう納得したところ。
『(…………)』
スッと、視野が急にホワイトアウトし。
意識が一気に薄れ―――。
―――かけた時。
「――――――――――――!」
声が聞えた。
497 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 01:28:33.44 ID:x7PS8YWHo
「―――――――――!」
『……』
どこから聞えてきているのかわからない。
「―――――――――!」
『…………』
しかしなんだか懐かしいような。
心地いいような。
「―――――――――!」
『………………』
連呼しているらしきその一つの言葉も、
良く聞いていたような。
いや。
「―――――――――!」
『…………………………』
良く知っている。
この言葉は『良く知っている』。
498 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 01:29:41.07 ID:x7PS8YWHo
その言葉が、声が、
消えかかっていた少女の意識を、
淀みの中から引き上げていく。
「―――――――――!」
『…………………………っ―――』
まだ。
まだ終わってはいない、と。
そしてその『言葉』がはっきりと聞こえ。
「――――――むぎ―――!!!!」
『――――――むぎ―――』
少女が合わせて、自らの口で発しようとした―――。
―――その時。
499 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 01:30:41.69 ID:x7PS8YWHo
この声とは別の。
そして少女にとって、この声のような至高の心地よさとは完全に対極の『刺激』が。
この声と同じく、彼女の意識を叩き起こそうとしてきた。
めきり、みしり。
そんな、胸から聞えてくる不気味な破砕音と。
『―――あっ…………う゛ッ―――』
文字通り目が覚める程の「激痛」。
意識が一気に覚醒し、ホワイトアウトしていた視野が元に戻り。
『が―――ぐッ―――……?!』
そして少女は目にした。
己の胸を貫いている、『業火の魔剣』を。
500 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/26(土) 01:34:21.87 ID:x7PS8YWHo
魂と器を完全にぶち壊したはずなのに。
確実に倒していたはずなのに。
朽ちかけのトリグラフの上半身が起き上がり、
右手の魔剣で少女の胸を刺し貫いていた。
そう。
確かに、少女はトリグラフを殺した。
トリグラフ『だけ』を―――。
そして当然、トリグラフが従えていた魔剣達は―――。
―――まだ『生きている』。
『あ―――ああ゛―――』
身の毛がよだつ音を軋ませながら、胸に食い込んでいく業火の刃―――。
―――魔剣スヴァローグ。
安らかな眠りに着くことは。
少女の旅が終わることは。
未だ許されてはいない。
『―――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!!!!』
戦いはまだ終わってはいない。
501 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/03/26(土) 01:35:39.70 ID:x7PS8YWHo
今日はここまでです。
次はできれば月曜か火曜の夜に。
それと、次でたぶん麦野パート終わります。
502 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/26(土) 01:37:34.15 ID:qtNygseDO
むぎのん……(T_T)
503 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(広島県)
:2011/03/26(土) 01:40:22.57 ID:ocMP0CYh0
むぎのん…
おつ!
504 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/03/26(土) 01:42:00.20 ID:P9M8Z10eo
むぎのんんんんんん!!!
505 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/03/26(土) 02:25:29.73 ID:r3HImwrP0
麦のん…
とにかく1乙!!
506 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)
[sage]:2011/03/26(土) 05:08:58.89 ID:KguCDBZno
うわぁ…麦のん…
乙
507 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/26(土) 06:51:51.94 ID:no5vzYbdo
麦のん・・・
>>1
乙です
508 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/26(土) 09:44:29.67 ID:jHRi8n5io
麦のん!!
麦のん!!!!!
509 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)
[sage]:2011/03/26(土) 18:04:06.13 ID:pV+jH/qw0
乙
原子崩しが原始崩しなのは仕様?
まあどっちでもいいけど
510 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)
[sage]:2011/03/30(水) 01:05:14.10 ID:sj8JN4mho
乙!
追いついたぜぃ
511 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/03/30(水) 01:30:04.73 ID:9lX4B9azo
すみません。
投下は今日ではなく明日となります。
>>509
変換ミスで、正しくは『原子崩し』です。
512 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)
[sage]:2011/03/30(水) 01:40:15.99 ID:H/XNWp/mo
悪魔の力で能力が変質したと思ってたわ
513 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/03/30(水) 02:01:33.47 ID:7kmehWrF0
俺もアラストル仕様での名称変更かと
なんかバージョンアップっぽいし
514 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 00:43:11.43 ID:OnMFdVQ8o
―――
北島の南端、この要塞島の海際を固める巨大な堤防。
その上にて屈んで佇んでいる少年と少女、浜面と絹旗。
彼らは、幅3kmほどの海峡向こうの南島にて催されている、
この薄闇を押しのける壮烈な光の祭典をじっと見つめていた。
そんな二人の顔には厳しく律っされはしていたが、
その下からはかなりの疲労感もありありと透け見えていた。
彼らをそこまで消耗させてしまっているのは、
確かにここに至るまでの数々の激戦も原因の一つだ。
しかし今現在、また別の要因が彼らの体力を削っていた。
それはもちろん、彼らの視線の先からやってくる『圧』だ。
絹旗「…………」
近づけば近づくほどその濃度が増していく、この形容しがたい重圧。
今のこの位置においてさえ、
ゴートリングが現れた瞬間に覚えた圧迫感を遥かに上回っている程。
首に縄を巻かれ、徐々にきつくなってきている状態か。
それは比喩ではない。
そのように、実際に今この瞬間において魂が縛り上げられつつあるのだ。
この圧迫感はもう感覚的な枠だけでは留まらず、
生存活動そのものに実際的な障害を及ぼしつつある。
浜面「…………」
これ以上に進めば、この圧迫感が直接の死因になりかねない。
それは明白であった。
515 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/31(木) 00:43:31.24 ID:cOoSus/so
キター
516 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 00:44:01.73 ID:OnMFdVQ8o
だが『そんな事』が今、彼らにとって障害になり得るだろうか。
否。
滝壺理后がこの海峡の向こうにいるという、
二人にとって極めて重要な問題の前には、その程度など障害になどなり得ない。
浜面「……」
絹旗「……」
なぜ滝壺が二人を遠ざけたか、
その理由はこの圧のせいとも考えられるが。
二人はそこまで物分りが良い方ではない。
浜面「……向こう岸までどのくらいでいける?」
浜面は光を見据えたまま、脇の絹旗へ向けて口を開いた。
絹旗「最大速度を維持できれば10秒以内に」
それに対し淡々と言葉返す、
先の戦いで上着を脱ぎ捨て上半身がタンクトップ姿の少女。
絹旗「途中で超何もなかった場合ですが」
浜面「……よし。じゃあ行くか」
517 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 00:45:48.53 ID:OnMFdVQ8o
絹旗「その前に浜面、一言いいですか?」
と、浜面が立ち上がりかけたところ、
絹旗は更に言葉を続けた。
浜面「……なんだ?」
なんでもないように。
それでいて唐突に。
絹旗「私達の目的は滝壺さんです―――」
絹旗「―――『アイテム』ではありません」
特に溜めもせず、変わらずにするりと。
浜面「……」
麦野が憎い、殺したいと以前吐き出した、その口からの言霊。
そしてそれら声の下に垣間見える含み。
絹旗「そこを勘違いの超無いよう」
上辺は淡々と事務的ながらも、
匂わせるその内の黒い熱気。
浜面「……」
それを前にして、浜面は何も言葉を返せなかった。
何も。
518 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 00:47:12.55 ID:OnMFdVQ8o
とその時。
絹旗「では、行きま―――」
絹旗も次いで立ち上がった直後であった。
浜面「…………ッ!」
光が止んだ。
南島を照らし挙げていた、あの色とりどりの光が。
漆黒に戻っていく空。
そして感じる。
今の今まで感じていたあの圧迫感が、急激に薄れていくのを。
浜面「……………………」
何がどうなったのかはわからない。
だが、状況が今この瞬間も移り変わって行っているのは明白。
浜面「……急ごう」
絹旗「…………はい」
―――
519 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 00:48:22.87 ID:OnMFdVQ8o
―――
光は既に止んでいた。
天を穿つ巨大な稲妻も、
何もかもを溶かしつくす業火も、
全てを凪ぐ金の光も。
辺りの熱は徐々に冷め。
溶け出した金属の溜りの輝きが衰えては、
黒く固まった部分の面積が増えていき。
漆黒に戻る空。
それらの光景が、
この場で行われていた『神域の戦い』が峠を越えたことを物語っている。
だが、峠を越えただけで戦いそのものが終わったわけではない。
ここからスケールは、確かに『おまけ程度』のものかもしれないが、
当人達にとってはここからもまた『本番』なのである。
左肩から右脇にかけて斜めに、下半身と分離したトリグラフの体。
朽ち掛けのその上半身は、
下半身との破断面から伸びている『尾のようなもの』によって支えられて起き上がっていた。
人間の背骨に当たる部位を利用しているのだろうと確信させる、
その尾の見た目はまさしく『筋肉に覆われた数珠繋ぎの骨』。
目の無いフルフェイス兜のような顔は、ところどころ朽ちては欠け落ち。
魔剣ペルーンを握る左腕はだらりと垂れ下がり。
魔剣スヴァローグを握る右腕は、その刃で突き刺していた―――。
―――正面に跪いている少女の胸を。
520 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 00:49:55.21 ID:OnMFdVQ8o
『―――がふッ!!』
器官を一気に駆け上がってきた真紅の液体が、霧となって口から噴出。
胸を貫く刃と肉の間からは、止め処なく毀れだし生暖かい滝を形成する。
『あ゛ッ……う゛ッ……!!』
そして少女の美しい顔が、隠すまでも無く『素直』に歪む。
痛い。
苦しい。
肉体的な面を超えた、魂を貫かれる痛み。
『生』が直接傷つけられている苦痛。
今まで味わってきたどの痛みとも類が違う。
これほどの痛み、今まで味わった覚えが無い。
右目と左腕、そして内臓の一部を吹っ飛ばしてしまった『あの時』よりも遥かに痛い。
そう、『あの時』よりも。
521 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 00:51:48.29 ID:OnMFdVQ8o
『―――…………ッ……』
あの時。
そこでまた、少女はわからなくなってしまった。
己の中に存在しているはずなのに、その『記憶』を取り出せない。
何もかもがぐっちゃぐっちゃになってしまって、見つけられない。
どのようにして体の一部を失ったんだっけ。
誰と戦ってたんだっけ。
その時は何で戦ってたんだっけ―――。
『(…………)』
そういえば、今こうして貫かれる直前に、
誰かの声が聞えていたような気がする。
この判別できない記憶にかなり関係のある、
『大事な言葉』を口にしていた声が。
いや、今も聞えているような気がしている。
でも良く聞えない。
この胸に突き刺さっている刃、
そこからの『刺激』にかき消され、聞き取れない。
522 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 00:53:30.18 ID:OnMFdVQ8o
一方その刃の主、
トリグラフの方にもとある変化が起きていた。
彼女の胸を刺し抜いた直後、
額の一角ダジボーグが一気に光を失って言ったのだ
その魔剣は見る間にひび割れては砕け。
チリと化して跡形も無くなった。
そして魔剣の崩壊と入れ違えるように、
顔の欠けていた部分が修復されていく。
『…………』
記憶は壊れて判別がつかなくなってしまっているが、
今目にしている現象については、少女ははっきりとわかる。
先ほどの渾身の一振りで、
確かにトリグラフはその魂と器を完全に破壊された。
本来ならば、あの後あのままま肉体は朽ち果てて、
トリグラフという生命は現世から消え失せ、
魔界の源へと還り、ある程度の時を経て自我も個も失って界の力場の一部となるであろう。
だがトリグラフは、この時はそうはならなかった。
トリグラフは、生命体としての思念が掻き消える前に、
己が『魔具に喰らいついた』のだ。
何とかして『生まれ変わろう』ともがいている、といったところか。
トリグラフは魔剣達を食い潰しているのだ。
その力を奪っては貪り、魂を乗っ取り、
その器に強引に乗り換えようと。
523 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 00:55:13.87 ID:OnMFdVQ8o
己が僕を、己が臣下を喰らう。
それは人間の目からすれば、非常におぞましい光景に映るだろう。
しかし、悪魔目線からでは何もおかしいところはない。
ダンテのような『優しい主』が例外であって、
このトリグラフとその僕達の関係こそ、魔界においては極当たり前のもの。
感情移入もしなければ愛着も無い。
魔具の死自体については何も感じない。
特にこの今のトリグラフの場合ならば、
瀕死の人間に向けて『点滴袋に情を抱かないのか?』、というようなもの。
魔具は魔具。
下僕は所詮下僕。
道具は所詮道具。
使い魔は所詮『使い』魔。
必要と有れば使い捨てて、使い潰してなんぼなのだ。
524 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 00:59:18.84 ID:OnMFdVQ8o
少女は苦痛に喘ぎながらも、その魔界流の踊り食いをじっと見つめていた。
胸を貫いている刃から逃れようともせず、ただただ呆然と。
今だ、頭の中にどこからかあの声が聞えてきているようだが、
そちらには意識を集中できない。
どうしても、この目の前の事に目を、心を奪われてしまう。
『他者を喰らっていく』その様が、
なんとなく今の自分にも当て嵌まるような気がしたのだ。
別に比喩ではなく、実際に『似たような経緯』を経て、
『自分』も『今』こうしているような。
例の如く、なぜそんな風に感じてしまったのかは、
今はまるっきりわからなかったが。
次いでトリグラフの食指が伸びたのは、左腕。
魔剣ペルーンを持っているその腕が、
突如弾けるように明後日の方向へとひん曲がり。
その表面が大きくうねり始めては見る見る変容していく。
そして、砕かれながら左腕の肉に飲み込まれていくペルーン。
この魔剣の断末魔か、その瞬間周囲を振るわせる。
金切り音のような、聞いた者の心を締め付ける辛辣な響きが。
525 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 01:01:58.69 ID:OnMFdVQ8o
小刻みに震えているその様相は、
さながら歯車が噛み合わなくなった機械仕掛けの人形のよう。
ぎぎぎ、と音が聞えてきそうな程。
いや、実際に似たような音は聞えていた。
魔剣の残骸が飲み込まれ、
肉や骨にあたる部分が砕け、大きくその形を変えていく音が。
そしてペルーンの絶命と引き換えに現れる、更なる異形の左腕。
それは大きな大きな、無造作に削りだした『大木』のような腕。
いや、大木とするよりも『金属柱』と表現したほうがしっくりくるかもしれない。
もっと厳密に言えば、大型の削岩重機に取り付けられているような『円筒形の回転刃』だ。
その質感は非常に艶やかな光沢を帯びており。
表面は幾何学的な造形で、その角の山は全て刃のように鋭い。
トリグラフの元の洗練された身体とはかけ離れており。
その不恰好な姿は、
シオマネキのようなアンバランス加減を感じさせる。
526 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 01:03:17.29 ID:OnMFdVQ8o
『あ…………』
そしてトリグラフは、その巨大な左腕を大きく引いた。
鋭く尖った鎌のような手を握り締めて。
それはあたかも、いや確実に。
「―――!!!」
こちらへ向け、強烈な一撃をお見舞いしようと『溜め』ていた。
そんな情景を目にしている中、
頭の中で響く声が一気に強くなっていく。
「―――いて―――!!!」
こちらが意識を向けたわけではなく、
向こうから強引に『音量』を上げているのか。
その声は少女の意識に割り込んでは、
否応無く彼女を呼び起こす
『(―――……あ……)』
その声は様々な意味で、
この『成仏しかけ』の彼女にとって刺激的であり。
「―――防いで―――!!!!」
その声の全ての要素が、少女の闘争心を呼び起こす。
「―――――――――むぎ―――!!!!」
その声が、彼女に『己が戦う理由』を思い出させる。
『―――ッシッ』
527 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 01:05:36.34 ID:OnMFdVQ8o
次の瞬間、少女はその強烈な一撃を受けた。
スヴァローグの刃からずり抜け、
猛烈な勢いで吹っ飛んでいく少女の体。
『北』の方角に。
彼女は天に打ち出されたわけではなく、ほぼ水平方向に吹っ飛んだのだが、
一帯が先の戦いの余波で綺麗さっぱり『整地』されてしまっていたため、
その体は障害物に当たることも無く3km以上も飛翔。
そしてようやく、今だある程度工場地帯の体を保っている区画まで達し、
数十棟も施設をぶち抜きいてやっと停止した。
その一連の光景は傍から見れば、
隕石が限りなく水平に近い形で激突してきたようであったであろう。
飛び散った大小さまざまな金属片が周囲に降り注いで、
瓦礫や土砂の類とはまた違うトゲのある音を打ち鳴らす。
その中で。
『―――チッ……』
顔をやや歪ませて、『いつも』の調子で舌打ちをしては。
『……ああ……目ぇ、だんだん覚めてきたわ…………やっと「眠れそう」だったのに……』
そう不機嫌そうに一人吐き捨てながら、
瓦礫の山の中から上半身を起こした。
『…………こんな死に体をたたき起こしやがって……』
528 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 01:06:34.51 ID:OnMFdVQ8o
直前に『戦う心』を取り戻した彼女は、
あの瞬間己の右手の魔剣を盾にした。
おかげで、派手に吹っ飛びはしたものの今の一撃におけるダメージはほとんど無い。
この『強行着地』だって、見た目が大げさなだけで苦痛は伴わなかった。
ただ、今の一撃に関しては、だ。
『……いったッ………………ぐぅッ……』
膝から下を失った左足とこのぶち抜かれた胸は、
やはりその痛みもダメージも桁が違う。
どちらも傷が癒える様子は無く、今だ鮮血が滴っては強烈な刺激を与えてくる。
また今こうして味わってみると、
実は胸よりも左足の傷の方がひどい様であった。
先ほど、胸の痛みがあそこまで刺激が強かったのは、
魔剣が差されたまま、継続してその力を受けていたからであろう。
そして刃が離れた今となっては、左足の方が遥かに痛かった。
それも当然だろう。
胸の傷は、棺おけに片足を突っ込んだ死に体のトリグラフが刻んだもの。
一方、左足を切り落としたのは全力全開時のトリグラフ。
その攻撃に使われた力の差は天と地だ。
当然、魂に叩き込まれたダメージの差も。
529 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 01:08:49.88 ID:OnMFdVQ8o
トリグラフを切り捨てたあの一振りの直後に、
少女の力がここまで落ち込んだのも、その左足に受けた一撃が原因だ。
あの全力全開の戦いの中では、
お互いにとってお互いの刃が一撃必殺のものだっ。
魂に届けば、肉体的な急所など関係なくその力をごっそりと削ぎ落とし得るのだ。
少女は肉を切らせて骨を断つ、という捨て身の戦法を身をもって体現したものの、
その肉は肉でも頚動脈を斬られてしまうレベルだったというわけだ。
『……畜生……死ぬのがこんなにキツイなんて聞いてないってーの……』
魔剣を杖にしてはゆっくりと立ち上がり、
そうぼやきを続ける少女。
「―――聞える?!だ、だいじょうぶ?!」
その時、再び頭の中に聞えてくるあの声。
『大丈夫だあああ?この私のアリサマをビンビン感じてる癖してわからねーの?』
それに対し、少女は自然と言葉を返すことができた。
「ご、ごめんっ……」
『―――ッ……ああ……』
そして少女は口にした『後』に気付いた。
今、己は極々普通に当たり前に。
特に意識をする事も無く。
己の中の『記憶』で、『己』が自ずと言葉を返したと。
『……そういうこと……』
530 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 01:09:53.15 ID:OnMFdVQ8o
知っているのだ。
そう、『己』はまだ知っている。
まだ記憶は、精神は、意識は。
『個』は形を保っている。
『……………………』
少女は、杖にしている魔剣をふと見やった。
右手にある魔剣を。
この『彼の名』も知っている。
己を喰らったパートナーの名は―――。
『……アラ……ストル』
雷刃魔神アラストル。
531 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 01:11:09.47 ID:OnMFdVQ8o
少女がこの魔剣の『個』を再認識した瞬間。
彼女の中でぐちゃぐちゃに混ざり絡み合っていた様々なモノが、
その『名』に集まり。
アラストル『…………………………』
『彼』を『再形成』する。
『……おはよ。なんか久々な気分ね』
少女は小さく笑いながら、
そう右手の先へ向けて言葉を飛ばした。
アラストル『……その挨拶は、この場合は相応しくないな。俺は眠りについていたわけではない』
すると魔剣から返ってくる、
やや理屈っぽく、そしてお高くとまったあの声。
『……ああ……まあそうね』
そう、アラストルは眠っていたわけではない。
己がアラストルそのものだったのだから。
そして。
アラストル『それにしても随分と野暮ったい戦い方をしてくれたな。俺も死に掛けてるじゃないか』
そう続けて愚痴をこぼして来たアラストルに、
ここぞとばかりにその『ブーメラン』を返す。
『ああ……「だから」それは私だけのせいじゃないでしょ』
ニヤリと、ずるそうな笑みを浮かべて。
アラストル『………………まあな』
532 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 01:12:57.84 ID:OnMFdVQ8o
アラストル。
これで己の『片方』の名は取り返した。
そしてもう『一つ』の己の名。
喰らわれる前の、喰らわれた方の名は―――。
「あの、あの悪魔動き始めたよ!えっと……あちこち、動きまわってるみたい!」
トリグラフの事を言っているのであろう、
その頭の中の声に。
『―――ねえ……もう一度、私の名ま―――』
少女が一つ、問いかけようとしたその時。
「………………え……?」
頭の中の声が。そんな素っ頓狂な音を漏らした。
少女の問いに戸惑ったわけではない。
何せ、まだ少女は問いを口に仕切っていないのだから。
その声色は、意図していなかった『何か』に気付いてしまったような。
そして少女もそれに気付いた。
『…………ッ』
すぐ近くの、トリグラフとは全く違う二つの気配を。
533 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 01:17:00.93 ID:OnMFdVQ8o
少女はすぐさまその気配の方向へと振り向いた。
その悪魔の瞳は、
いとも簡単に瓦礫まみれの風景の中から気配の主を見出す。
50m程離れた所、瓦礫の陰に身を潜めてこちらを伺っていた、
小柄で華奢な少女と茶髪の少年を。
あの者達は―――、そう頭で彼らの身分を認識するよりも早く。
『―――絹旗ぁッ!!!浜面ぁあああッ!!!―――』
その名が口から勝手に弾け出でた。
無意識下の条件反射のように。
その声に浜面と呼ばれた少年の方は、潜めていたその身を飛び上がるようにして立ち上がり。
絹旗と呼ばれた少女は素早く身構えは。
二人とも、少女の姿を見て目を見開き硬直した。
突如名前を叫ばれた驚きか、それとも。
少女の『今の姿』を見たせいか。
だが少女はそんな事など気にも留めず更に言葉を放つ。
『―――てめえら滝壺はどおしたッ??!!ここで何してる??!!』
あのクソッタレな、在りし日の頃と同じ声で。
そういう調子で言葉を飛ばすのが『当たり前』のように。
乱暴で、傍若無人で、その陰ではどことなく懐かしげに。
534 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 01:17:51.33 ID:OnMFdVQ8o
その少女の次なる声に、浜面が叫び返した。
浜面「あ…………!!そ、その……た、滝壺をいま探しててッ……!!!」
教師に怒鳴られた生徒のように反射的に姿勢を正しては、
浮き腰になりながら。
『滝壺ぉッ!!あんたまさか南島にいやがんの??!!』
そこで少女の矛先は、今度はリンクしている滝壺へと。
滝壺「あっ……!!う、うん!!ご、ごめんなさ―――!!」
『そこの位置を今すぐこいつらに転送しろ!!』
そして、
滝壺がその言葉を最後まで言い切るのを待たずに。
『絹旗!!浜面!!さっさとあのバカを回収してここから離脱しろ!!』
絹旗と浜面へ向けて放った。
あの頃と同じような声で、あの頃と同じような『命令口調』で。
535 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 01:28:47.12 ID:OnMFdVQ8o
その時、浜面が少女へ何かを言いかけたが。
『何ボケっとしてやがる!!さっさと行け!!』
更に強い調子で少女は声を荒げ、
その言葉で火がついたように、
絹旗が瞬時に浜面を掴み上げ、そして素早く跳ねて行った。
『…………』
そんな彼らの離れ行く姿とその気配を意識しながら、少女は浸っていた。
あの頃と同じ感覚に。
でも。
今はもう、『あの頃』とは違うのだ。
『(―――……ああ、そうよね)』
懐かしさと恋しさを覚える一方で、そう少女は実感した。
いや、実感させられた。
歯をきつく噛み締め、血が滲むかという程に拳を握り。
眉間と鼻筋の辺りを痙攣させながら、
今にも弾け飛びそうなその激情を?き出しに。
突き刺さるような瞳でこちらを睨んでいた、
あの絹旗の姿を見て。
536 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 01:30:08.34 ID:OnMFdVQ8o
それはわかってはいた。
わかっていた。
己の犯した罪を認識し、その上で守りたいものを守るため。
その戦う理由を見つけて、身を捧げて勝利を引き寄せても。
何も変わりはしない。
既に過ぎた結果は。
その結果で壊れたものは、壊れたまま。
その結果で失われたものは、戻りはしない。
この感傷は単なる残り香。
本体が無くなった後の残像。
それだけだ。
でも、そんな残りカスだとしても。
突きつけられるのが変わらぬ現実だとしても。
思い出に浸れるのが一瞬でも、ほんの僅かでも。
少女にとっては、その存在だけで充分だ。
たった今、
危うく何もかも忘れたまま死ぬところだったのだ。
こんな今わの際に後ろめたい思いに浸らせやがって、
なんて間違っても言えない。
言うべきなのは、
あの日々の感覚に浸らせてくれて。
あの日々の事を思い出させてくれて。
最期に、その声をもう一度聞かせてくれて。
ありがとう、という礼だ。
537 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 01:33:07.50 ID:OnMFdVQ8o
『滝壺、あいつらと合流したか?』
滝壺「う、うん!今傍に!」
『早く離れろ。それとさっさと私とのリンクも切れ。頭がイカれるわよ』
滝壺「ううん。だめだよ。だって今はもう、周りの環境がうまく感じとれてないんでしょ?」
『……』
その滝壺の言葉は当たっていた。
力のみならず、知覚まで既に壊れかけている。
絹旗達があそこまで接近したことには気付かなかったし、
非常に目立つはずのトリグラフでさえ、その位置がおぼろげにしか掴めない程だ。
滝壺「だから私が目になる。耳になる。『いつも通り』に」
滝壺「切れっていわれてもぜったいに切らないからね」
『………………』
そう言い切った滝壺。
これはもうどうしようもなかった。
強引にこっちが切り離してしまえば、
確実にこの滝壺はまた接続を試みてくる。
拒否すればするほど、
滝壺は無理をして割り込んでこようとするだろうから。
滝壺「今から知覚を同期させるからね」
538 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 01:34:21.94 ID:OnMFdVQ8o
『ッチッ…………アラストル。もう少し付き合ってもらうわよ』
少女は諦めたようにそう舌打ちしながら、右腕の魔剣へと言葉を飛ばしたところ。
アラストル『「もう少し」?わかってないようだな』
その刃は、そう声を返してきた。
『……?何が?』
アラストル『全く、俺の「知」と分離したらすぐこれか。人間の知能はやはり低いな』
アラストル『俺はお前に同化した。俺は俺の全てをお前と融合させた―――』
アラストル『―――つまり、今の俺はお前と一蓮托生だ』
『―――…………』
539 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 01:36:25.43 ID:OnMFdVQ8o
アラストル。
彼の運命が己と共にある。
『ぷはっ、はははっ!』
それを知った少女は、
あっけらかんとした笑い声を挙げた。
滝壺「見つかったよ!向こうがこっちを見つけた!!来るよ!!!」
『と〜んだ「泥舟」に乗ったもんねアラストル!』
そして滝壺の声を受けて、
失った左足を代用する原子崩しの光の義足を膝先に形成させ。
アラストル『その通り。だからせめて―――』
右腕を掲げその魔剣を構えては、
残りに残った最後の力を搾り出してその刃に収束し。
アラストル『―――我が武名に恥じぬ、有終の美を飾らせてくれ』
アラストル『―――我が愛しきマスターよ』
『OK、地獄の果てまで―――』
瓦礫の向こうから突進してくる、
変わり果てた『不恰好なトリグラフの上半身』へ向けて―――。
この戦いの幕を引きに。
『―――「とことん」付き合ってもらうわよ!!!』
踏み切って突進していった。
540 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 01:37:45.31 ID:OnMFdVQ8o
そして激突し、始まる。
終わりの戦いが。
終幕の戦いが。
今や、トリグラフのその挙動は本当に獣染みていた。
かつての研ぎ澄まされた技は失せ、
そこに技能は無くただただ力任せに。
唯一残った魔剣スヴァローグから、
無駄に炎を吹き散らしては棍棒のように乱雑に振るい。
ペルーンを取り込んだことに形成された破城槌のような左腕を、
大きくぶん回す。
だが、それは少女の方も同じであった。
『―――ぐッ……がぁ!!!』
アラストルの剣筋は乱れ、挙動はもたつき。
滝壺のおかげで攻撃は見えているのに、体が反応できずに、
避けることもいなす事もできずにまともに受けてしまう。
少女がぶん回したアラストル。
左腕でまともにうけたトリグラフが、それで大きくよろめく。
しかし、少女の方も自身が振りぬいたアラストルに振られもたつく。
その隙に、トリグラフが魔剣スヴァローグで彼女を叩き切ろうとするも、
よろめいたその体制を立て直すのにもたつき。
振ったときには、既に少女がアラストルでガード。
だが、少女の方もまともに受けてしまったせいでよろめき―――。
そんな、だらしのない戦い。
傍から見れば、地面が抉られ一帯が吹き飛ぶ派手な戦いだろうが。
その内容はとにかく無様。
まさに泥試合。
死にかけの神同士の、無様な無様な戦いであった。
541 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 01:39:49.38 ID:OnMFdVQ8o
また、両者とも死に体であるため、
この戦いはそう長くも続かなかった。
直接的なダメージを与えなくとも。
剣と腕を振るい、相手の攻撃を受け止めるだけで、
その力が削られていくのだから。
避ける余裕など元から無く。
攻撃を受け止めることすら難しくなっていき。
そして、最後は受け止めることを止めた。
『―――あ゛ッぐ…………!!!』
その時は両者とも防がなかった。
お互いの刃を。
その結果。
アラストルの刃はトリグラフの胸を貫き。
スヴァローグの刃は、今度は少女の腹を貫いた。
542 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 01:44:54.63 ID:OnMFdVQ8o
『―――お゛ぁッ……』
再びの、炎の刃の激痛。
滝壺「―――!!!―――!!!」
そしてまたしても遠ざかる、滝壺の声。
スヴァローグの力が傷口から進入して少女の力をかき乱しているせいで、
滝壺のリンクに障害がおきているのだ。
そんな同じように、胸を刺し貫かれているトリグラフ。
その体液を滴らせながらも大きく身を捻っては、
これ見よがしに左腕を大きく引いて拳を握りこみ、
前回と同じような『殴り込む』構えをとった。
その仕草は、まるでこう示していたかのよう。
いや、実際にトリグラフはこう示して突きつけていたのだ。
貴様の刃は、元より右腕の一つ、
我が残る刃は、両腕の二つ、
勝利は我が手にあり、と。
そしてその時。トリグラフがここに来て初めて声を発する。
『kajdhrlj我hha手gda討取ldjdsk―――』
それは角笛のような、周囲を振るわせるノイズ混じりの言葉。
『―――ldahjアラストルvgast』
ノイズの中に混じっていたのは『名』。
この『少女の名』。
543 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 01:48:29.28 ID:OnMFdVQ8o
アラストル。
それは確かに、今の少女の名だった。
『ああ、確……かに……私はアラストル―――』
だが、そのトリグラフに少女は言葉を跳ね返していく。
ヒトツ
『―――でももう一本あるんだよ―――』
もう『片方』の名がまだある、と。
ヤイバ
『―――ワタシの「名」は―――』
その名、そこに確立する『個』に全てが詰まっている。
己が犯した罪も、焦がれた夢も、大切な者達への想いも。
これを抱かずして何の戦いだ。
これを無くしたまま死ねるか。
滝壺。
浜面。
絹旗。
そしてフレンダ。
背負うべきものを背負わずして逝けるか―――。
―――それは全て『私のもの』だ。
544 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/03/31(木) 01:50:23.05 ID:OnMFdVQ8o
少女はゆらりと、左腕をトリグラフの鼻先へと突き出し。
その手の平を向けた。
刃で固定されている今なら、もう外しはしない。
今こそ最期で最強の一発を放つ時。
『―――私はレベル5、第四位。―――』
滝壺「―――!!!」
滝壺が示してくれているその名を取り戻せ。
『―――アイテムのリーダー―――』
今こそ『証明』しろ。
滝壺「―――――――むぎの!!!!!」
メルトダウナー
麦野『―――「 麦 野 沈 利 」だ―――』
―――己自身を―――。
トリグラフがそれを察知した時はもう遅かった。
彼がその左腕を振り抜くよりも早く。
光が迸った。
紫と青が混じった光が。
麦野沈利のその左手から―――。
545 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/03/31(木) 01:50:49.71 ID:OnMFdVQ8o
今日はここまでです。
次は明日の夜に。
546 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
[sage]:2011/03/31(木) 01:53:15.38 ID:50/dSK30o
乙
興奮した
547 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)
:2011/03/31(木) 01:54:39.16 ID:L18mapH4o
,. ´ ̄ ヽ.
. /´/ ヽ.
/ ! '.ー-、
| }/,≫., :
|!, |/ ! :
. / | ! W |
厶-、.W{ i ,リ'| |
. 厶=、 ヽ i\|从!\|∨ 亅 亅 …ぐッ!
{. ヽ | ` 亅 亅
. ! ヽ \| i |/ ,イ
. ∨ \ |,j j j | …し、静まれ……俺の右腕…ッ!
∨ '《 ,≦=-' j/!
. '《 ∧ >'´ / |
. ∨ 》‐< ,>'´ |
∨ / ,≠< /|,rァ :
|/'\_,./  ̄フーァ─‐'´ム-‐ァ
(( / }' ̄ | ! '=ニムz
Ll i i l矢───┴‐┴─-、三z厂 :
|` ̄`ー-- ⊥L.l -‐  ̄ | :
| / | | |
548 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)
[sage]:2011/03/31(木) 01:55:23.82 ID:L18mapH4o
誤爆したすまぬ・・・すまぬ・・・
549 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)
[sage]:2011/03/31(木) 02:01:52.61 ID:rBOpM2rAO
乙
550 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/03/31(木) 02:42:58.92 ID:IX8Tna/DO
むぎのんマジかっけーよ……
遊戯王5D'sが今日終わって寂しかったけど、このSSで元気が出たぜ……
551 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)
[sage]:2011/03/31(木) 03:05:23.50 ID:uAlUENjWo
乙なんだよ!
552 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)
:2011/03/31(木) 03:53:23.09 ID:a5Bi9bfM0
>>547-548
とんでもない誤爆を見たwwwwww
(´ω`)ノシ それはさておき
>>1
乙
553 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)
[sage]:2011/03/31(木) 09:26:51.81 ID:AKq4Bedlo
乙
554 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/03/31(木) 10:52:42.39 ID:nVLuc48c0
乙でした
555 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/01(金) 02:06:35.75 ID:UcunEEgio
―――
滝壺「―――……むぎの……」
彼女がそう、心ここにあらずという様子で口にしたのは、
連なる工場の向こうで青と紫の光が迸った直後であった。
浜面「……滝壺、何が起こってる?」
横からの浜面のその問いは反応せず、
滝壺は涙ぐみながら再び。
滝壺「む……ぎの………………むぎの……」
その名を呟く。
浜面「なあ……滝壺……あそこで何が起こってる?」
そんな滝壺に向け、浜面は再度問うた。
彼女の前に屈み、肩に優しく手を当てながら。
浜面「…………滝壺……教えてくれ……一体何が……麦野に……」
そして。
彼の声もまた、徐々に震えていった。
浜面「…………お前は……見えてるんだろ……滝壺、なあ滝壺……」
浜面は薄々気付いてしまっていたのだ。
その滝壺の様子から、麦野が今どんな状態にあるか、を。
滝壺が涙するその様子は、この島に来て何度も見ていたから。
この島に来て何度も見た。
彼女は、『そのたび』に今と同じく泣いていた。
リンクしている能力者部隊の者が命を落とすたびに。
556 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/01(金) 02:07:39.62 ID:UcunEEgio
絹旗「離脱しましょう」
とその時。
そんな淡々とした声が、二人の下へ放たれた。
絹旗「早くしてください。こんな所にはいられません」
『表面上』は冷徹で平坦ながら、奥底には濃厚な感情が渦巻いている声が。
浜面「……待ってくれ、絹旗、なあ……」
その絹旗の内にあるものが何なのかは、浜面は知っていた。
そして、それを表に出さないよう懸命に取り繕っているのも。
絹旗「なぜですか?」
しかしそれでも。
浜面「なぜ……って……お前もわかるだろ!!!!麦野が―――!!!」
この絹旗の調子には、声を荒げずにはいられなかった。
絹旗「わかりますが、別に」
浜面「お前ッ!!!あいつの胸と足が……!!!お前も見ただろうが!!!!何とも思わねえのかよ!!!!」
立ち上がり、瞳を潤ませながらそう怒鳴る浜面。
絹旗「見ましたが」
浜面「だったら―――!!!!」
と、浜面はたまらず更に声を荒げてしまいかけたが。
絹旗「浜面…………………………………………お願いです」
次なる絹旗の言葉で、浜面の口は止まってしまった。
今度は平坦ではない『熱』の篭った声に。
絹旗「………………私にとっては、『何より』もあなた達なんです」
絹旗「これで最後にしてください。これ以上拒否するのであれば…………拘束して運びます」
557 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/01(金) 02:08:19.10 ID:UcunEEgio
浜面「…………………………ああ、わかってる。それはわかってるさ」
絹旗「……」
浜面「俺にとっても滝壺、絹旗、お前らが全てだ」
浜面「でもよぉ……麦野は…………麦野『も』…………」
浜面「……あいつはなあ、俺達の『始まり』なんだよ……」
絹旗「―――…………」
浜面「あいつがいてくれたからこそ……俺達は……」
絹旗「…………」
浜面「絹旗……頼む…………」
滝壺「…………きぬはた……」
絹旗「………………………………」
―――
558 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/01(金) 02:09:06.36 ID:UcunEEgio
―――
どくり、どくり。
ぱっくりと割れた筋肉の塊が、
今なお懸命に収縮活動を行っている音。
そのリズムに合わせて踊る傷の痛みと、
流れ出ていく大量の血液。
それらを味わいながら。
麦野「………………………………」
『再び』彼女は跪いていた。
ただ、そんな彼女の姿勢は同じくとも、
前回とは周囲の状況が違っていた。
トリグラフの姿が、そこはなかった。
あの不恰好な上半身は跡形も無くなっていた。
文字通り、綺麗さっぱりと。
残ったものは強いて言えば、
彼女の胸元に刺さったままの魔剣スヴァローグの先端のみであろうか。
その突き刺さったままの欠片も、徐々に割れ砕け朽ちつつあり。
もう少し経てば、トリグラフがここに存在していた『物的証拠』は完全に無くなるだろう。
そして。
麦野「………………」
彼女自身もまた。
同じように。
559 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/01(金) 02:10:34.38 ID:UcunEEgio
麦野「…………」
知覚がまた元の使えない状態に戻っている。
こちら側の力が足り無すぎて、
滝壺とのリンクも切れてしまったのだ。
あの最後の最期の一発で、正真正銘のスッカラカン。
今なら、
下等悪魔どころかそこらの野犬にも殺されてしまうだろう。
もうアラストルを振るうどころか腕が上がらないし、立てもしない。
この跪いている体勢さえ、維持するのはもう―――。
うつ伏せに倒れこむ麦野。
その彼女の胸元から毀れだす血で、赤いシーツのようにその体の下に敷かれていく泉。
そんな、『暖かいベッド』の上にて。
麦野「……あー……『あの時』の…………トリッシュも……」
彼女はふと、初めてトリッシュに会った時の事を思い出して呟いた。
麦野「こんな感じ……だったのかな……」
痛みに苛まれて声を震わせながらも、穏やかな笑みで。
560 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/01(金) 02:11:43.87 ID:UcunEEgio
アラストル『いや、あれよりも酷い』
と、その呟きに応えてきた右腕の魔剣の声。
麦野「まあ、そうよね……」
アラストル『それはさておき。勝ったな。良くやった』
麦野「……私は、ね」
アラストル『…………』
麦野「むこうじゃ、まだ皆が戦ってる……」
そのうつ伏せの視線の先、地平線向こうの北島では、強い閃光が瞬いていた。
そして地響きと、強大な存在による強烈な圧。
そう、ここでの戦いは終わったが。
『戦』はまだ終わってはいないのだ。
麦野「誰が戦ってるか……わかる?」
アラストル『……わからんな。俺ももう、何も感じない』
麦野「そう…………」
561 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/01(金) 02:14:56.11 ID:UcunEEgio
と、その時。
ぱきり、と。
アラストルの刃に亀裂が走った。
そして一度走ると、一気に全体へと広がっていき。
アラストル『……おや。では、先に逝かせてもらおうか』
麦野「………………じゃあ……向こうで」
アラストル『いや。俺とお前は、これから逝く地は違う』
麦野「……?」
アラストル『人と魔、それぞれにそれぞれの還る地があるのさ』
麦野「そっか…………あぁ、悪いね。付き合ってもらったばっかりに……」
アラストル『それは何の謝罪だ?俺は俺の生に何も後悔していない』
アラストル『この10年は正に至高だった。なにせ、あのスパーダの息子に仕え。そして―――』
アラストル『―――最期に最高の女と共にした』
麦野「…………」
562 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/01(金) 02:17:33.39 ID:UcunEEgio
全身に亀裂が刻まれたアラストル。
その刃が、とうとう朽ちて毀れ出して。
アラストル『それにお前のおかげで、かのスパーダがなぜこの世界を愛したか―――』
アラストル『―――なぜ、人間を愛したか。その理由がわかったしな』
砕け。
麦野「……そっか……」
アラストル『では。願わくば、貴女の御上に安らかな眠りを―――』
麦野「……ばいばい…………」
塵となって。
アラストル『―――さらばだ。光栄だったよ。麦野……沈……利……………………』
風に吹かれて。
麦野「…………アラストル…………」
消えていった。
麦野「……ありがとう」
563 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/01(金) 02:18:29.63 ID:UcunEEgio
―――それから、どれくらい時間が経ったか。
数十分か、数分か。
それとも数十秒か。
感覚がもう覚束なくなっているこの状態では、
時間の経ち具合もまったくわからない。
が、とにかく『しばらくの後』。
麦野「……」
気付くと、いつのまにか仰向けになっていて。
ぐしゃぐしゃの泣きっ面で覗き込んできている滝壺の顔がすぐ前にあった。
そして、その反対側からは『濡れて無様』な浜面の顔も。
座り込んでいる滝壺が、
麦野の上半身を膝の上に乗せるようにして抱きかかえて。
滝壺に向かい合うようにして浜面も屈んでいたのだ。
彼はその両手で、麦野の胸の傷口を懸命に押さえていた。
そして、足の方向2m程離れたところに立っている絹旗。
拳を固く握っては、ジッと麦野を見下ろしていた。
564 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/01(金) 02:19:39.79 ID:UcunEEgio
麦野「…………何やってる?」
浜面「―――喋るな!!!!」
そう麦野を制す浜面は、
応急処置用の機器を取り出しては使おうとしているが。
麦野「……やめろ。無駄だ……」
そんなもの、一切効果がない。
そう。
それはここにいた皆が知っていた。
しかし。
知っていても尚、浜面はその手を止めなかった。
麦野「…………なんで…………」
それに対する麦野の呟きに。
浜面「―――何で?!何でだと?!」
浜面「もう嫌なんだよ!!!これ以上アイテムが壊れるのが!!!!アイテムが死ぬのが!!!!」
麦野「バカか…………アイテムをぶっ壊したのは……私だろうが」
浜面「壊れてなんかねえ!!!俺達がアイテムだ!!!」
浜面「俺達が生きてる限りアイテムはあんだよ!!!!」
麦野「私は……フレンダを……………………」
浜面「―――確かにそうだがお前もアイテムだろうが!!!!!」
浜面「どんな理由だろうともう我慢できねえ!!!!アイテムはもう―――」
浜面「―――どんな事があっても傷つけさせねえ!!!!ぜってぇ守る!!!」
麦野「…………」
565 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/01(金) 02:21:39.26 ID:UcunEEgio
そんな、浜面の臭い台詞を聞いて。
麦野「ふっ…………がふっ……はは」
麦野は血を吐く咳混じりに小さく笑っては。
浜面「麦野!!!」
麦野「……はまづらぁ…………ほんっっとバカねえ……」
そう、罵った。
穏やかな表情で、隠そうともせずに嬉しそうに。
それは本心だった。
本当に嬉しかった。
この麦野沈利が一体何をしでかしたか。
それを知っている者が、そしてそれを行われた者が、
こんな風に麦野沈利という人物へ言霊を放ち、
麦野沈利の死を無条件に。がむしゃらに否定しようとしてるとは。
嬉しかった。
麦野はただただ嬉しかった。
こんな己でも、心を向けてくれる人がいたことに。
566 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/01(金) 02:25:31.21 ID:UcunEEgio
麦野「……ああ、そうそう……」
そして彼女は思い出す。
同じ境遇の、同じ『クソッタレ』な同族を。
浜面「―――……む、麦野!!!」
麦野「……アクセラレータに伝えろ……」
浜面「もう喋るな!!!喋るな!!!」
こんな己でも、こんな風に想ってくれる人がいたんだから。
泣かせて、小っ恥ずかしい言葉を吐かせてしまえるんだから。
麦野「…………もっと……マシな女を誘えって……それと―――」
きっと一方通行の場合はもっと―――もっと大勢が―――もっと泣いて―――。
麦野「―――『お前はやっぱり生きろ』……って」
567 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/01(金) 02:26:37.62 ID:UcunEEgio
浜面「じ、自分で伝えろよ!!!ふざけんな!!!伝言なんかしねえからな!!!!」
滝壺「はまづらぁ……どうし……よう………えぐっ…………」
浜面「滝壺!!!諦めるな!!!諦めてるんじゃねえ!!!」
とその時。
絹旗「―――…………なん……」
絹旗「―――何でんな顔してんだよ!!!!ふざけじゃねーぞ!!!!」
麦野「……絹……旗」
押し黙っていた絹旗の口から、激昂した声が噴出した。
絹旗「何してんだよ!!!キレろよ!!!!キタネー言葉で怒鳴れよ!!!!」
絹旗「笑いながら殺せよ!!!!殺せ!!!!殺したいんだろ!!!!」
絹旗「フレンダにもそうしたんだろ!!!!!」
麦野「……」
絹旗「だったら私達にも同じことしろ!!!!!」
絹旗「『始めて』おきながら!!!!始めておきながら何一人で終わろうとしてんだよ!!!!」
絹旗「まだ私達は終わってねえ!!!!終わってはねえんだよ麦野ォォォォオオ!!!!!!!」
麦野「……絹旗」
絹旗「ふざけんな!!!!何でなんだよ!!!!何でそう…………!!」
そしてここまで言葉を吐き出した彼女は、
そこでがくりと糸が切れたように膝をついては。
絹旗「……何なんだよッ…………何……なんだよ……」
今度は、顔を歪ませては声を震わせ。
絹旗「……その…………顔は………………何で…………」
その場に弱々しくへたり込んでしまった。
568 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/01(金) 02:28:02.82 ID:UcunEEgio
麦野「…………」
そんな絹旗の言葉は、
麦野にとって有りがたかった。
いや、これも掛け替えのない大切なものだった。
絹旗のその激情が教えてくれる。
己と同じく、絹旗も『あの日々』を同じように感じていたと。
どうでもいい、くだらない日常でも。
更に再確認させてくれる。
その『くだらない日々』が、
己達にとってどれだけ価値があったものかをも。
あれこそ私達の唯一の日常だった、私達が『笑えていた』唯一の時間だった、と。
だからこそ、絹旗の敵意は感情にまみれているのだ。
あの日々を奪われたからこそ。
あの日々を壊されたからこそ。
『裏切られた』と受け止めたからこそ、怒り憤る。
そして麦野は、それを受け止めることで忘れずにいられる。
麦野沈利、という者が一体何をしたのか。
麦野沈利、という者が背負うべきものは一体何か。
麦野沈利、というモノは一体何者なのか、を。
569 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/01(金) 02:29:40.97 ID:UcunEEgio
己はどこまでもわがままで、
自己中心的で、感情的で、優柔不断で、身の程知らずで。
一方通行のように、たった一人で罪に正面から向かい合う勇気は無くて。
土御門のように、たった一人で何が何でも貫き通す芯の硬さも無くて。
強がりだけど弱くて、本当は弱くて、とにかく弱くて。
そんな己はこの絹旗の怒りが無ければ、きっと甘えてしまっていただろう。
また戻れると。
またあの頃のような日々に、と。
過去の蟠りを飲み込んで、みんな己を受け入れてくれる、と。
許してくれる、と。
麦野「絹旗―――……」
だからこれで良いのだ。
これで。
570 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/01(金) 02:30:34.92 ID:UcunEEgio
絹旗は単なる敵意ではなく、感情をぶつけてきてくれる。
滝壺も、浜面も、フレンダも、皆が持つべきその怒りを、
彼女は一手に引き受けて示してくれている。
至極全うな理由で、至極全うな意思で。
それはそれは『素晴らしい事』ではないか。
滝壺と浜面のこの愛情が、麦野にとっての『救い』ならば。
この絹旗の激情もまた―――。
麦野「―――…………ありが……とう。ごめんね……」
―――麦野沈利という少女にとっての『救い』だ。
絹旗「…………ふざけんなよ…………ねえ…………ふざ……けん………………」
絹旗「………………………………どう……して…………あんな………………」
蹲って、そう言葉を濁らせた彼女の丸まった背中は。
その肩は小刻みに震えていた。
571 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/01(金) 02:33:43.06 ID:UcunEEgio
麦野「…………」
これで良いのだ。
こうでなくてはならない。
これが、麦野沈利の通るべき道。
でも。
確かに、甘えるべきではないとわかってはいるも。
それでも。
浜面「フレンダに……お前まで……なあ、俺達を置いて行かないでくれ……」
浜面「何でも……何でもやってやる……何でも言うことを聞くから」
浜面「だから……頼むからいかないでくれ。お願いだから―――」
滝壺「……命令もちゃんと聞くから、もう足引っ張ったりしないから……むぎの、ねえ、おねがいだから……」
麦野「何でも……?」
浜面「――――――ああ……何でもだ」
感情に突き動かされて、道理を見落としてしまっている彼らのその言葉。
それに耳を傾けてしまい、叶わぬ幻想を望んでしまう。
麦野「……じゃあ…………」
その価値を知っているからこそ、無性に。
己が壊してしまった、ということをしっかりと自覚しているからこそ、とことん強く。
恋焦がれ、夢見てしまう。
572 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/01(金) 02:36:01.68 ID:UcunEEgio
麦野「……えっと……じゃあね……また…………みんなで……………………―――」
あの頃の。
あの、ファミレスで暇つぶしをしていた時間のような。
浜面「ああ、みんなで―――」
くだらない事で、だらだらと笑っていたあの日々を。
―――『あの頃』をもう一度―――。
麦野「―――………ごした……い………………………………なぁ……………………」
その時、一筋の露が彼女の美しい頬を伝っていった。
閉じられた瞼、その目尻から毀れ出でた雫が。
そして、残された者達の言葉にならない声の中。
彼女の体は、無数の青色の光の粒となり。
吹き抜けたさわやかな風によって、上へ上へと持ち上げられて―――。
麦野沈利。
彼女は遂に羽ばたいていった。
どこまでも広がる、澄み渡った『あの雄大な大空』へと。
そして、やっと会いに。
やっと言葉を伝えに。
言わなければならないその言葉を。
この空の向こうにいる―――もう一人のアイテムに。
―――
573 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/04/01(金) 02:36:45.77 ID:UcunEEgio
今日はここまでです。
次は月曜か火曜の夜に。
574 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
:2011/04/01(金) 02:38:30.21 ID:sApDfK+xo
更新、おつかれさまです。
せつない...。
575 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/04/01(金) 02:38:56.31 ID:K84+ea080
乙です むぎのぉおおおおおおおおおおおおおん(´;ω;`)
576 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/04/01(金) 07:10:19.86 ID:q49kygzDO
乙です。
アラストル……1から出番無くて中途半端とか言ってごめん…
577 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/04/01(金) 08:19:28.51 ID:Qc7mPyyE0
乙。
これ早くしないと、麦野の魂が天界に吸収されてしまうんじゃあ…。
578 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/04/01(金) 12:42:48.62 ID:vA9+QJ4DO
>>576
一応ドラマCDでダンテを助けたり、ビューティフルジョー(ダンテ編)にも出てるぜ!
579 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/04/01(金) 12:52:48.48 ID:IXxeoY1Qo
http://www.youtube.com/watch?v=xGygFnEMl78
580 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)
[sage]:2011/04/01(金) 13:08:34.21 ID:FgdIy+HNo
乙
泣きそうになったわコンチクショウ
581 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)
[sage]:2011/04/01(金) 15:22:32.96 ID:OI/EBiMAO
む、麦野……むぎの
>>578
ジョーではかなりフリーダムに動き回ってるな
しかも人型で
582 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/04/02(土) 01:20:29.90 ID:F4wUo3gWo
むぎの・・・
むぎのおおおおおおおおおおおおおおお
583 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)
:2011/04/02(土) 01:21:25.27 ID:SWn61whD0
(-Д-)ゞ魂よ安らかなれ
584 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/04/05(火) 00:47:50.50 ID:kSB0DyIeo
諸事情により明日の投下もありません。
遅くとも土曜までには何とか投下したいと考えておりますが、
毎度の如く当てにはなりません。
すみません。
585 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)
[sage]:2011/04/05(火) 00:50:09.36 ID:Vnv6L1K+o
あらほらさっさー
586 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage]:2011/04/05(火) 01:01:16.50 ID:4jjBoG+to
しかし禁書2期始まるまでに終わるとか言ってた頃が懐かしいな。始まってから1年くらい経ったか?
長く読ん出られるからありがたいけど
587 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/04/07(木) 00:26:42.85 ID:pn7ttHLN0
これは泣ける……
むぎのおおおおおおおん!!!
588 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(新潟・東北)
[sage]:2011/04/07(木) 19:28:50.14 ID:maA4p8nAO
まさか味方側でモブキャラ以外の戦死者が出るとは思わんかったなぁ…
589 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/04/07(木) 21:39:07.78 ID:C3WAD7ac0
まとめから来てやっと追いついた・・・
むぎのん・・・(´;ω;`)ウッ…
590 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)
[sage]:2011/04/07(木) 23:21:56.69 ID:kvRjcfSl0
この状況で死なないほうがおかしいと思うんだけど
まあ読者は望んでないかもしれんが
591 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2011/04/07(木) 23:57:26.11 ID:UzE+R809o
むぎのんとアラストルでもフラグは叩き折れなかったのだ・・・
>>1
、恐ろしい子・・・ッッ
592 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(京都府)
[sage]:2011/04/11(月) 22:33:27.74 ID:7tbNzfrUo
そろそろかな
593 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2011/04/14(木) 23:15:39.29 ID:lvY+vkISo
放置プレイも大好物な俺もこれは・・・青森みたいだがまさか・・・な・・・
594 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)
[sage]:2011/04/14(木) 23:28:59.17 ID:FTLOG3nWo
まだかな
595 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/15(金) 23:32:09.81 ID:SfXE9/Wko
―――
耳を劈く雷鳴の重唱。
内臓も振動するほどに揺れる大気と大地。
それらは、ある点を境にぱったりとやみ。
今度は静寂が一帯を包んだ。
その中で微かに響くのは、空気が焼きついたような『聞きなれた』独特の音。
そして辺りが微弱な電気で満たされている事を示す、
全身の毛が逆立つこの感覚。
それらを感じながら、
白井黒子は暖かい胸に顔をうずめていた。
北島の北西端、港倉庫区の一画にて。
御坂美琴に抱きとめられながら。
黒子「……」
辺りが静かになってどれくらい時間が経っただろうか。
数十秒か、それとも数分か。
ともかくそんな静かな時間とこの温もりは、
黒子の心を落ち着かせ、
冷静な思考を呼び戻すには充分な要素であった。
596 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/15(金) 23:33:04.01 ID:SfXE9/Wko
黒子は、意を決するかのように一度空気を飲み込んだ後。
黒子「…………終わり……ましたの?」
御坂の胸に頬を当てたまま、恐る恐るそう口を開いた。
御坂「済んだわよ」
すると、額のすぐ上辺りから返ってくる優しげな声。
その返答を聞いて黒子はすぐさま瞬間移動。
御坂の胸から脱して、1m程離れた所に飛び。
黒子「……お……お見苦しいところを……」
小さく咳払いしては、そう言いながら取り繕う。
だが赤くした鼻をすすり、
目尻に未だ雫が残っているこの顔では焼け石に水。
どんなに涼やかに振舞おうとしようが、
より一層泣きっ面を際立たせるだけだ。
そんな黒子を見て、御坂は小さく可笑しそうに笑っていた。
その笑みには、しばらく出張していた先の家主の『常に軽薄なノリ』に影響されたものか、
どことなくからかっている様な色も見えていた。
黒子「………………な、なんですの」
御坂「なんでも。さて、と……」
ふーんと鼻を鳴らした後、
再度クスリと笑っては左手に眩い電撃を走らせては。
『わざとらしく』手持無沙汰を紛らわすかのように、
小手先でその閃光を弄り始めた。
597 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/15(金) 23:34:04.50 ID:SfXE9/Wko
と、そんな御坂の左手の反対側。
黒子「その……右手のは……」
黒子の視線が、彼女の右手の先にあるものに止まった。
長い長い『真っ黒な鞭』といった表現がしっくりくるか、
そんなモノが御坂の右手から伸びていた。
一見すると前にも見たことがある砂鉄剣だが、だが似て非なるものだろう。
先ほどこの黒い鞭がしなっては、
瞬く間に周囲の悪魔達を細切れにしたとおり、明らかに普通ではない。
それにこうして見ていると、妙なざわつきというか。
いや。
黒子「(……この感じは……)」
この雰囲気は紛れも無く。
そう、『悪魔を見ている』ようなモノだった。
御坂「前にも言ったっけ?これ変形するのよほーら」
訝しげな表情の黒子の言葉に、
別段何でも無いように簡単に答える御坂。
その彼女の言葉に合わせ、
黒い鞭は躍り上がるように動き出しては空を切り。
見る見る御坂の右手先に巻き取られていき、あの『大砲』の形に収まった。
黒子「ほぉお……なんと……」
御坂「本当すごいわよね、雑魚は電撃とこの変形で充分だから、弾節約で大助かりだし」
黒子「な、なるほど……」
御坂「ここまで使えるようになったのはこの島に来てから何だけどね」
黒子「?」
御坂「原因はわかんないんだけどこの島に来てからやけに調子良くって」
598 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/15(金) 23:37:26.20 ID:SfXE9/Wko
黒子「といいますと?」
御坂「気のせいとかじゃなくて、実際目に見えて力が増してるの」
『大砲』が正確に元の形状に戻っているか、
レバー等を引いては動作確認しながら、御坂はそう言葉を続けた。
御坂「力がよく馴染むっていうか、意識するだけで動くっていうか……」
御坂「……演算してる感じがまったくしないのよね」
黒子「……お姉さまは、AIMストーカーのように外部の演算補助?とやらをお受けで?」
御坂「ううん。ミサカネットワークとは通信接続だけ」
そこで一通り確認し終わったのか、
よしっと小さく呟いては黒子の方に向き直る御坂。
黒子「み、みさかねとわーく?」
御坂「あ……と、とにかく演算補助は受けてないわよ」
黒子「ほう……」
御坂「まあ、原因はほぼ確定してるわね。大方、ぶっとんだこの場所の影響とかでしょ」
黒子「確かにここでは、何がどうなってもおかしくありませんわね」
599 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/15(金) 23:39:00.41 ID:SfXE9/Wko
御坂「……」
黒子「……」
と、そこで唐突に来る数秒間の沈黙。
黒子が何かを言おうと口を開きかけたが。
御坂「さて」
御坂からの区切りの一言が、その言葉の発信を遮った。
御坂「個人的な話は後にして」
黒子「……」
御坂「まず、ここ周辺の雑魚は今ので全部焼き殺したから、一応安全確保はできたわよ」
御坂「あの倉庫の中にいるのは?」
黒子「……アメリカ軍とこの島の生き残りの方々ですの。彼らの護衛を土御門さんから承ってますの」
御坂「アメリカ……アメリカね……そういうこと……」
アメリカ、その単語を耳にした御坂は、なにやら頭の中で確認しているのか
そう呟きながら一人頷いた。
そしてその隙を見逃さず。
黒子「…………………………………………お姉さま…………あ、あの…………」
黒子は再度切り出した。
先ほど遮られてしまった話を。
個人的な話は今はするべきではない、ということはわかってはいるけれど。
それでもどうしても話したいことがあったのだ。
600 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/15(金) 23:40:11.81 ID:SfXE9/Wko
御坂「ん?」
黒子「あの…………わたくし…………その……ここに―――」
御坂「何も言わなくていいから」
だが、その話の先はまたしても封じられた。
なぜなら御坂にとって、その言葉を聞く必要が無かったのだから。
御坂美琴はわかっていたから。
黒子が何を言おうとしているかは。
御坂「黒子はさ、黒子の理由があってここに立ってるんでしょ」
『やっぱり』お見通しだったのだから。
黒子「―――……」
御坂「じゃあ、私が言うことは何も無いわね」
御坂はそうなんでもないように、爽やかに笑いかけながら。
人差し指を弾くように伸ばしては、その指で黒子の手にある杭を指した。
レディから譲り受けた、奇妙な文様が刻まれている大きな杭を。
御坂「そんなの持ってる時点でわかるって」
601 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/15(金) 23:42:33.50 ID:SfXE9/Wko
御坂「あとさ、隠し事しても丸わかりだからね。顔見れば一発でわかるわよ」
そして御坂は、軽く言葉を続けていった。
学校帰りの喫茶店で話し込むいつものような声色で。
御坂「たまーに私のパンツ借りてるのとか、さりげなく枕とかシーツ交換してるのもとかも」
黒子「う゛……そ、そんな事をい、今……」
御坂「そうね、ここらへんの話は帰ってからじっくりたっぷり、ね」
黒子「……はいですの」
御坂「とにかく」
そして、御坂はゆっくりと黒子の方に歩を進めては。
御坂「黒子、一緒に来たいってんなら、正直に言いなさい。断りはしないから―――」
御坂「―――だって、私の横はあんたの席なんだから」
黒子とすれ違うような位置、
そこで足を止めては彼女の頭に軽く左手を乗せた。
黒子「―――……」
御坂の口から発された言葉は、願っていもいなかったもの。
どれだけ聞きたいと思っていた言葉か。
だが―――。
黒子は一度深く、深く息を吐いては大きく吸い。
黒子「いえ……遠慮しておきますの。もうこりごりですわね」
そう答えた。
ため息を混じらせつつ、小さく笑いながら。
御坂「……そう……」
602 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/15(金) 23:43:57.00 ID:SfXE9/Wko
白井黒子は確かに望んでいた。
御坂美琴の傍で戦うことを。
彼女と共にどこまでも行くことを。
でも。
黒子「今回でもうはっきりわかりましたの」
わかってしまったから。
白井黒子という人格は、『向いていなかった』ことに。
彼女はこの地獄で、心が壊れた自分を。
自分がいかにして壊れていくかを、知ってしまった。
どれだけ耐え忍んでも、どれだけ強く思っても、
黒子は佐天のようにはなれない。
御坂美琴のようにはなれない。
それを確信してしまった。
御坂美琴が突き進んでいく世界は、己のにとってはあまりにも闇が強すぎた。
己はとてもその中を進むことは出来ない。
いや、やろうと思えばできるだろうが、『失うこと』があまりにも怖かった。
心を失ってしまうことが。
心の中から、御坂美琴の姿が消えてしまうことが。
だから―――。
603 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/15(金) 23:45:48.54 ID:SfXE9/Wko
黒子「わたくし……白井黒子は―――」
御坂の横で飛び回る未来も、見えることは見えるけど。
その道の果てにある結末は、どうしようもないほどに真っ黒だというのがわかってしまっているから。
そこを避けてしまったら、臆病者、負け犬、敗者、脱落者、そんな風に言われるかもしれない。
でもそれでもいい。
だから、壊れてしまってお姉さまが心から消えてしまうなんて絶対に嫌だ。
わが身可愛さか、と言われても構わない。
お姉さまを好きな自分のまま生きていたい。
お姉さまの笑顔で喜びを感じる自分のままでいたいから―――。
黒子「―――もうお姉さま、御坂美琴にはついていけません」
追いかけるのはやめる。
好きだから。
どうしようもなく好きなのだからこそ。
黒子「ですからわたくしは―――」
そして、だからこそ。
黒子「―――お姉さまのお帰りを待つことにしますわね」
待つことに決めた。
追いつけないのなら、じっと待っていよう。
彼女が帰ってくる家で、彼女の居場所をとっておこう。
数多の『非日常的』戦場を巡った彼女が、
ふとした時に立ち寄れては、そのスス塗れの羽を休める『日常』を。
御坂「……黒子」
604 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/15(金) 23:47:30.69 ID:SfXE9/Wko
黒子「お姉さまは思う存分悪魔を狩ってきて下さいまし」
そして黒子は笑った。
赤くなった鼻を鳴らしながら。
黒子「わたくしは……そうですわね。迷子や万引き少年の相手でもしてますの」
可笑しげに、楽しげに。
どことなく悲しげに。
御坂「そっか……」
二人で共に進むことは、これ以後は無い。
命を預けあうことも。
同じ戦場に立つことも、もう無い。
この島で最後だ。
二人の生きる世界は、この戦場が終われば完全に分離するのだ。
御坂は、黒子の横から更にもう一歩進め、
今度こそ『すれ違い』。
御坂「……じゃあ、『今回』は『じっくり』味わっていかなきゃね。黒子」
横顔を彼女の背中へ向け、そう笑いかけた。
黒子「ええ、『さっさと』終わらせて帰らせていただきますの」
その言葉に黒子は、振り向きながら同じように笑いかけて返した。
御坂美琴の横顔と。
この戦場以降はもう見ることは無いであろう、
御坂美琴の『戦士としての背中』を見つめながら。
605 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/15(金) 23:48:23.11 ID:SfXE9/Wko
そんな黒子にを見て、御坂はにやりと口の端を上げては前を向き。
御坂「じゃあ、とりあえず向こうの人たちの話も聞かせて」
確かな足取りで歩み始めた。
アメリカ軍の者達がいる、3っつ程向こうの倉庫に向け。
その後に黒子も続き歩いていこうとしたが。
御坂「黒子、あんたはテレポートで先に行って手当てしてなさい」
御坂は背を向けたまま彼女に告げた。
黒子「なんの。かすり傷ですので」
それに対し黒子はそう答えた。
実際はとてもかすり傷とは言えなかったのに。
数針は縫うであろう裂傷が太ももにあるし、
左手先は酷い凍傷で、痛みも激しい。
しかし、ここは我慢せざるを得ない。
医療品は底を突いているため、
致命傷でもない限り節約しなければならないのだ。
606 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/15(金) 23:49:19.43 ID:SfXE9/Wko
そしてテレポートしないで、あえて痛みの中歩く理由は。
御坂「……じゃあ、先に行ってせめて休んでいn」
黒子「結構ですの。わたくしはお姉さまの斜め後ろ、この位置が大好きですので」
この御坂の後ろ姿を、少しでも長く目に焼き付けたかったから。
この位置に立っている感覚に、できるだけ長く浸りたかったから。
御坂「…………そう。なら問題ないわね」
黒子「ええ。何も」
と、そういったやり取りの後、ふと。
御坂「あ、そうそう。大事なことがあったんだ」
前を歩く御坂が何かを思い出しかように声を挙げ。
御坂「黒子、音声通信繋がる?」
振り向きそう問いかけてきた。
黒子「?」
607 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/15(金) 23:50:46.80 ID:SfXE9/Wko
その言葉を受け、
首を傾げながら言われるがまま黒子は通信を試みたところ。
黒子「AIMストーカー。こちらCharlie 4」
黒子「……」
黒子「AIMストーカー、AIMストーカー。こちらCharlie 4、応答を」
黒子「…………誰かッ!……応答を!」
御坂「やっぱりあんたの方もねぇ……」
通信を試みる黒子のその一部始終を見て、
御坂はため息混じりに口を開いた。
御坂「私だけの故障かなって思ってたんだけど。ほら、私は黒子達と違ってこれの接続だし」
耳にあるイヤホン式の通信機を指差して。
黒子「……これは……」
AIMストーカーの能力が何らかの理由で停止した、
というのは考えられない。
なぜならこうしている今も、
周囲に悪魔がいるかどうかなどのデータが随時送信されてきているからだ。
黒子「一体どういう―――」
だがその原因を探るのは、後回しにせざるを得なかった。
御坂が表情を一変させては、黒子の言葉を軽く挙げた右手で制し。
御坂「…………」
鋭い目で、とある方向を凝視し始めたからだ。
黒子「……」
その御坂の反応は、
何者かの存在を察知したということであるのは一目瞭然。
黒子もそれにすぐさま順じ、
右手の杭を握り軸足を後ろにずらしては構えた。
608 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/15(金) 23:52:18.66 ID:SfXE9/Wko
が、そんな『警戒態勢』もすぐ解かれることとなる。
3秒後、御坂はレーダーなどから更なる情報を得て確認したのか。
今度はふーっと息を吐きながら、また先ほどの表情に戻っては。
御坂「大丈夫だから!一帯は制圧してあるわよ!」
凝視していた方向へと声高に叫んだ。
黒子「……?」
するとその声で一つの人影が現れては、
倉庫をいくつか飛び越えてこっちにやってきた。
それは真っ黒な戦闘服に大きなバックパックを背負った、
御坂と同じくらいの身長の、黒髪のショートカットの少女であった。
黒い戦闘服に日系の女の子、とくれば十中八九仲間の能力者であろう。
そう確信して、黒子もようやく息を吐き出しては警戒を解いた。
御坂達の下にやってきた黒髪の少女は、
二人の傍に軽い身のこなしで着地しては。
「いやー、なんか通信がバグってて困ってたの」
「いきなり出て行ったら、焼き殺されるくさかったし」
首を傾けながら、そんな風に零した。
ただ、元々そういう調子の人物なのか、
そう言葉では言うもその表情は変化に乏しく、声色も一定。
御坂「……んん、まあ、このタイミングでいきなり来られるとね」
そう合いの手を入れながら、御坂はふと思った。
この少女は妹達にどことなく似ている、と。
無感情というわけではないが、
あまり感情を顔や声に出さないタイプなのだろう、と。
609 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/15(金) 23:53:43.63 ID:SfXE9/Wko
「えっと、レールガン?」
続けて黒髪の少女は、
ミーティングで見覚えがあるであろう御坂にそう名を確認し。
御坂「ええ」
「私はWhiskey 5 。ムーブポイントの命令でCharlie 4に合流しに来た」
御坂「(Whiskey……ってAIMストーカーの……)」
「うーん、と、この辺りにいるって聞いたけど」
御坂「Charlie 4はこk」
黒子「わたくしがCharlie 4ですの」
そこで黒子が割り込むようにして名乗った。
「あ、よろしく。えーっと、命令は聞いてる?」
黒子「ええ。拠点を確保して、生存者と部隊の負傷者を収容、その守護」
と、そこで。
黒髪の少女は、再び御坂の顔をじっと見ては、何かを待つように黙った。
御坂「っ……えっと……」
彼女は、上官に当たる御坂に確認を求めていたのだ。
建前上は、一応幹部なのだから。
それに順当に従えば、ここにいる者の中では最高指揮官に当て嵌まる。
610 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/15(金) 23:55:44.49 ID:SfXE9/Wko
だがそれは建前上だけ。
この二人は専門知識もたっぷり書き込まれているし、
何よりも黒子はジャッジメントで、黒髪の少女の方は暗部での組織活動経験がある。
それに比べて、御坂は超がつくド素人だ。
やや粗末な言い方をすれば、戦闘能力が高いだけで、
作戦運用だの指揮だのでは全く役に立たないのだ。
御坂「えっと、私はあくまでも助っ人的な?者で指揮とかできないから、と、特に気にしないで」
御坂「そういうのはど、どうぞ、二人に任せるから」
「了解。それとこれ、衛星通信機」
そこで黒髪の少女は再び黒子に向き直り、
背負っているバックパックを親指で示した。
「AIMストーカー曰く、この島のせいで使い物にならないくさいみたいだけど」
黒子「そうですの……」
「それと医療品もたくさん」
黒子「―――医療品!!んまあまあ!!!たっ!!!助かりますの!!!」
医療品、その言葉で黒子か食いつくように少女に寄り。
「結構な数あるから、じゃんじゃん使って」
黒子「ええ!ちょうどさっき重傷者が一人……!!さあ急ぎますの!」
彼女の肩に触れながら。
黒子「お姉さま!飛びますので!」
凍傷なのも忘れてしまっているのか、
痛々しい左手を御坂の方へと差し出した。
御坂「あっ……と、私はちょっと歩きながらやることあるから、先行ってて」
だが、御坂はそれに対しこう言葉を返して。
黒子「―――で、では!!お先に!!!」
そして黒子と黒髪の少女の姿が消失した。
611 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/15(金) 23:58:53.86 ID:SfXE9/Wko
その後。
一人その場に残った御坂は、
一度ゆっくり息を吐いては吸い。
御坂「土御門?」
御坂「ムーブポイント?」
御坂「……メルトダウナーぁ!!」
御坂「AIMストーカー!!」
各幹部達へ呼びかけたが、やはり応答は無し。
ここまではもうわかっていたこと。
それを踏まえて御坂はこう、静かに続けた。
御坂「……………………あんた達は聞えてるんでしょ?」
そしてその声に応答してきたのは。
『はい。お姉様』
『呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん』
『はいはい聞えてまっす』
妹達であった。
ミサカネットワークとの通信、
それがこのイヤホン型通信機の本来の使い方だ。
御坂「どうなってるのこれ?そっちから何かわかる?」
『AIMストーカーが形成しているリンク網自体は問題ありませんが、当のAIMストーカーが何もしていません』
『ミサカ達の演算補助が活発に機能してますので、何か別の事に能力を集中しているみたいですね』
『悪魔の移動に関するデータは自動で随時送信されているみたいですが、相互通信機能はダウンしてます』
複数人の妹達が相手をしてくれているのだろう、
その声は、それぞれの言葉の端々が重なっていた。
612 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/16(土) 00:01:34.90 ID:B8FgFp9Lo
御坂「じゃあ……あんた達でAIMストーカーの『網』を乗っ取ってさ、リンク先の人達の情報取れる?」
『無理です。リンク末端者の知覚情報取得はAIMストーカーの能力によるものでして、』
『AIMストーカーが知ろうとしなければこっちにもデータが上がってきません』
『あ、でもつっちーはマイク付通信機でリンクしてましたから、通信機が生きてれば音が拾えそうです』
御坂「(つっちー……)」
『こういう時、能力に頼らない純粋機械は強いですね〜』
御坂「それでもいいわね。それでお願い」
『ですが無理です。ミサカ達にはその権限がありませんので』
御坂「めんどくさいわね……私の権限とかで許可できる?」
『いけます。一応お姉様も指揮クラス権限をもらってますので』
『知らなかったんですか?作戦要綱にちゃんと明記されてましたが』
『だいぶ逞しくなってきたと思っていましたが、やっぱり素人っ気は抜け切ってませんね』
御坂「はいはいはいゴメンナサイわかったから私の権限でやって」
『じゃーんじゃーん、ここで運命の選択。どれにしますか?この五つの中から選んで下さい』
『@AIMストーカーのリンク経由で原音を流す。Aミサカの生朗読。B上位個t』
御坂「一番で」
『『『合点承知ィっっ』』』
御坂「…………」
613 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/16(土) 00:02:54.23 ID:B8FgFp9Lo
『ぴんぽんぱーんぽーん。では少々お待ちください。今、つっちーの通信機の遠隔操作を試みてるところです。ぴんぽんぱーんぽーん』
御坂「……………………」
『…………』
御坂「……………………」
『一応言わせてもらってもいいですか?ミサカ達があえてこのノリなのは、そっちは殺伐としているようですので、少しでも気分が晴れればt』
御坂「アリガトわかってるから急いで」
そう御坂は、
今や小慣れた手際で妹達をあしらいながら。
色とりどりの鮮やかな閃光で染まる『南の空』と。
場違いな『陽光』の下、真っ黒なカーテンのようなものが蠢いている、
土御門がいると思われる方角を、それぞれ険しい表情で一瞥し。
御坂「…………」
漏れ出してくる強烈な圧を肌で一通り感じては、踵を返し。
黒子達が先に向かった倉庫の方へ向けて、
ひとまず歩を進めていった。
―――
614 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/04/16(土) 00:03:42.23 ID:B8FgFp9Lo
今日はここまでです。
次は明日の夜に。
615 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/04/16(土) 00:05:03.60 ID:ZZAc0S7no
乙
616 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/04/16(土) 00:08:19.10 ID:G13g+1Epo
乙乙
617 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/04/16(土) 00:28:13.11 ID:xe0XZgR2o
乙
ミサカかわいい
618 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮城県)
[sage]:2011/04/16(土) 22:39:40.11 ID:eyPCBZQ4o
乙
そして今日も期待するぜ!
619 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/04/16(土) 22:58:30.20 ID:kyHo/iMko
乙
620 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2011/04/16(土) 23:24:05.46 ID:eQluaY4po
独り言だけど。
魔神アリウスに勝てるのってあの時点じゃ魔剣士、魔女以外いないんだろうな。
本気アレイスターはわからんけど、あのルシ麦アッに対フィアンマの3人にエンジェル神裂の7人がかりでなら何とかなりそう。
独り言だけど。
621 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 01:34:54.69 ID:jOMVFZ+Ro
―――
『神が存在すること』を信じるか?
そう問われれば、天界魔術師達は皆迷わずYESと答えるだろう。
普段使っているその力は神から引き出しているモノなのだから、
信じる信じない以前の問題だ。
魔術に携わる者ならば、当然誰しもが『存在すること』を知っている。
存在を認めないという事は力を受け入れられない、
結果、魔術が使えないのだから。
では『神のこと』を信じるか?、と問われると。
また、神を愛しているか?、と問われると。
多くの者達は同じくYESと答えるだろうが、
全員ではない。
神を知っているのと神を愛するのとは全く別であり、
少なからずNOと答える者達がいる。
神がいることは知っている、
神の力を借りたい、
でも神自身のことは愛していないし信用していない、と。
そんな事を臆面もなく口にできる者達が。
彼、土御門元春もまた、そんな『冒涜者的』な魔術師の一人である。
622 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 01:36:00.47 ID:jOMVFZ+Ro
とはいえ、当然最初から神を愛していない・信用していない、
というわけではない。
一般意識的には宗教性が特に希薄な日本であっても、
魔術界ではそれなりに信仰心が大事とされており、
敬虔な十字教徒と比べればさすがに程度はささやかなものだが、
もちろん土御門もある時期までは一応しっかりと信仰はしていた。
ある時までは。
幼い頃に才を見出され、土御門本家に養子入りし。
天才と言われながら、正式な陰陽師として陰陽寮に所属して。
多数の任務で目覚しい成果を挙げ。
伝説級の陰陽術をいくつも習得し、
僅か齢12でありながら陰陽博士にまで駆け上がり。
そんな中のある日。
彼の明晰な頭脳は気付いてしまった。
枷が突然外れたように唐突に。
信仰し愛している神と、この魔術の向こうにある神が。
明らかに『別物』としか思えない点に。
そんな剥離感に。
623 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 01:37:46.36 ID:jOMVFZ+Ro
それは、普通は気付かない僅かなズレ。
違和感を覚えたとしても、その根源を把握できずに普通は気のせいだと済ませてしまう。
だが聡明な彼の意識は、はっきりとその違和感を認識して捉えたのだ。
そして魔術の奥を知れば知るほど。
研究し学べば学ぶほど。
『神典に出てくる神々』と『今の魔術の神々』との性質の違いが明確になっていく。
程度の差が有れど、
例えば十字教でも神や天使の優しさや人格、情ははっきりと様々な文献に記されている。
だがしかし。
古の記述にはそうあっても、今の魔術から見える神はそうではない。
それも優しさがない・人格が違うというレベルではなく、
人格そのものを感じないのだ。
まさしく『ただの機械』のように。
神典や伝承に記述されている人格があるとは、到底考えられない。
いや、天の存在にも人格があるかもしれないが、
少なくとも人間界との関係においては、その人格は一切絡んでいないのだ。
もしこれが人格を通したの上での結果だとしたら、
人間側見れば人類の敵だとしても良い位に歪んでいるだろう、
そう結論せざるを得ない程に、現実ははっきりと示していた。
624 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 01:39:25.65 ID:jOMVFZ+Ro
この点に気付いてしまった者が、
それまでと同じように信仰を持ち続けられるかどうかは難しいところだろう。
少なくとも『全く同じく』信仰し続けることは不可能だ。
ある程度の心の整理と、この問題を自分なりに解釈することが必要だ。
元々相手は人知を超えているのだから、
人には想像がつかない隠れた意思があるのだろう、とするか。
そうならばそうなのだと現実を受け止めるしかない、とするかなど。
ただどちらにせよ、
この問題について更に探求しようという方向に思考が進む者はいない。
いたとしても、『真実』に辿り着く事は不可能だ。
まず余りにも困難な探求で挫折する。
また、もしその挫折を越えたとしても、
今度はセフィロトの樹に繋がれている者達に働く『潜在意識』がその先を阻む。
そしてその先には、天による『実力行使』が待っている。
これら障害を越えて『真実』に到達した者も、
非常に極僅かだがいるにはいる、だがその者達は例外だ。
ずば抜けて秀でた才と叡智を有し、
更には天にも負けぬ運と力を味方にした本当に一握りの者達だけである。
そして土御門元春は、
そんな『例外者』などに、到底及ぶようなレベルではなかった。
625 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 01:41:05.79 ID:jOMVFZ+Ro
確かに彼は、非常に難度の高い伝説級の陰陽術をいくつも習得し、
任務では凄まじい成果を挙げ、10代半ばになる前に幹部職にまで駆け上がり。
いずれは組織を背負って立つトップ集団の一人、
更には陰陽長官の座も狙えるかもしれないとされたが。
―――だが、それだけ。
『才ある優秀な魔術師』であったが、『それだけ』。
魔術界隈に特に名が広まることは無く、魔術史に名を残す事も無い。
魔神の座が約束されるような100年に一人の天才ではない。
魔術史に革命を起こす1000年に一人の天才ではない。
所詮『普通の天才』。
そんな土御門元春のこの問題への探求はすぐに挫折し。
最終的にそういうものだと受け止めるしかなく。
そして魔術の先にある存在は機械・プログラムのようなもの、
と現実を認めてしまってその結果。
彼の神への視線は冷めて。
彼は信仰を失った。
626 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 01:43:14.91 ID:jOMVFZ+Ro
ただ、彼が信仰心を失った原因の全てが
この事を要因とするわけではない。
むしろこれは『最後の一押し』に過ぎず、
実際は、当時の彼の周囲状況が最大の要因であった。
傍から見れば成功を約束されている者に移っただろうが、
実際はそうではなかった。
彼の歩むその足は空回りし、
歩む道はとことん暗く淀み、
その道筋は狂いに狂い果てて―――。
とにかくそんな日々の中で
彼が天の人格を感じることは一度も無かった。
絶望の淵に追い込まれて、
天に救いを求めたのは一度や二度ではない。
血に染まった己の手を悔やみ、
天に懺悔しては願った事も一度や二度ではない。
それでも一度も。
魔術、それも数々の伝説級の領域に足を踏み込んでいながらただの一度も、だ。
そこにこの剥離感の件、それで彼は信仰心を失った。
いや、失ったと言うよりは『止めた』のだ。
信仰することに何の意味がある?と。
何が得られる?
意味があるか・何が得られるかという考えは冒涜的だと言うが、
だからどうだというのだ?
愛しき人に向けるような心を、『鉄の塊』の如く『物』へ捧げて一体何が―――。
627 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 01:45:07.57 ID:jOMVFZ+Ro
そんな風に信仰することを止めた彼を、
その後も周囲の状況は追い込み、追いやり。
激昂し、苦悩し、絶望し尽くしたその果てで、
自身のどうしようもない限界にぶち当たり。
そこで抗う意志が折れてしまい、
いつしか心さえ冷め始め。
形の無いモノや証拠の無いモノ、それらの存在全てを信用することも止め。
理想を描くことも希望を抱くことも無駄としたその末に。
どうしようもない現実を、『悲惨なほどに合理的』な姿勢で受け止める。
『それだけ』しか出来なくなってしまっていた。
いや、それだけしかやろうとしなかった。
学園都市の試験に合格し『何も知らず』に喜ぶ土御門舞夏、
それを、土御門元春はただただ黙って見ていることしかしなかった。
それは仕組まれた罠だ、と告げる事も。
俺のせいだ、全て俺のせいで、と独白する事も。
何も言わずに彼女の腕を掴み、
全てから二人で逃げ出す事も可能であったはずなのに。
できたのに、しなかった。
既に彼の心は、抗うことを諦めてしまっていた。
628 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 01:48:06.60 ID:jOMVFZ+Ro
確かにこれまでの怒り、憎しみ、恨み、
それら負の感情は彼の心の底に積もり積もっていた。
だが、それがこの状況を変える力になる事は無かった。
いや、それらを闘志に結びつけたところで、
状況を変えるほどの力にならないことを知っていたから。
それどころか、より状況を悪化してしまうのが確実だったから。
当時の彼に許された唯一の選択肢は、
状況に抗うことなく、できるだけ波風立てずに現状を維持すること。
土御門舞夏を『守るだけ』。
土御門舞夏を『救う』ことは選択できなかった。
土御門舞夏を『解放』することは選択しなかった。
そして彼は、学園都市にやって来て。
学園都市、イギリス清教、必要悪の教会、
それら各所のとの間で交わされた『取引条件』に従い、能力開発を受けて力を捨てた。
特に抵抗は無かった。
ここまで堕ちてしまったのも、いわばこの力のせい。
巨大だが状況を覆すほどではない、という中途半端なこの魔術の才のせいでもあるのだ、と。
むしろ、無かった方がマシではなかったか、と。
629 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/04/17(日) 01:50:23.28 ID:jOMVFZ+Ro
>>628
ミス
29行目
>学園都市、イギリス清教、必要悪の教会、
を↓に修正
>学園都市、イギリス清教、陰陽寮、
630 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 01:51:49.82 ID:jOMVFZ+Ro
「己の事を、『限界を恐れぬ者』と?」
「違う。君は似て非なる『限界を知らぬ者』だ」
その後、学園都市に来て半年たった頃、
アレイスターの口から告げられたこの言葉。
正にその通りであった、と彼は受け止めた。
土御門元春、その名の少年は限界に気付かずに突っ込み。
限界にぶち当たり、限界に恐れてしまって進むことを諦めてしまったのだ、と。
心は折れて朽ち、信念はタダのガラクタと化した、と。
学園都市とは、彼にとってまさに『流刑地』であった。
死ぬまで決して軽くならない負い目を前にして、己が業と向き合い続ける。
そんな牢獄―――。
―――そう思っていた。
上条当麻、という男を知ってしまうまでは。
631 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 01:52:43.09 ID:jOMVFZ+Ro
いや、『知ってしまう』という
あたかも偶然の結果のような言い方は語弊があるだろう。
あの中学に入り、あの男と同じクラスになり、同じ寮の隣部屋、
それも全ては予め決められていた事。
あの男に接近する事も命令だった。
アレイスター=クロウリーの腕となった
彼に下された多数の任務の内の一つが、
上条当麻の日常的な監視と潜在的な『誘導』だった。
それは、土御門にとっては朝飯前の仕事。
相手の正確を読み取って、
好まれる・信用される人格を演じる事などお手の物。
幼少の頃から叩き込まれ染み付いた技術で、
何度これで相手の心を掴み、一体何人を手の平の上で転がし、
一体どれだけの数の、『預けてくれた背中を刺して』誅殺したか。
今までずっと、ずっと日常的にやり続けてきたこと。
なんら難しくも無い、淡々とこなせる日常任務―――。
―――だっただろう。
相手が上条当麻でなかったのならば。
632 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 01:54:28.51 ID:jOMVFZ+Ro
上条当麻とは、単純そうでありながら掴み所が無い男。
裏表が無くストレートで、心は熱くて情に厚い男。
普段は馬鹿としか言いようが無いアタマなのに。
ここぞと言う時にはやけに頭が柔軟になり冴える、本当に馬鹿なのか本当は聡明なのか良くわからない男。
はっきり言ってこの男は、
土御門にとっては軽蔑し見下すタイプの人間だった。
凄惨な現実を知らず、知ろうともせず、死んだ方がマシという苦痛も知らず、
幼稚な善を掲げ身勝手な理想を押し付ける、そんな低俗で迷惑極まりない者。
なんとも目障りだった。
だがいつからだろう。
そんな男が、眩しく見え始めたのは。
その光が取り繕った仮面の下までしみ込んで来て、
冷め切った心が刺激され始めたのは。
所詮こんな『一般人の正義感』なんざ、現実を知れば。
限界にぶち当たれば。
殺し殺されが当たり前の領域に触れしまったら。
尻尾を巻いて無様に逃げだしてしまうと思っていたのに。
違っていた。
上条当麻は『正真正銘の馬鹿』だった。
633 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 01:56:41.69 ID:jOMVFZ+Ro
どんな壁にぶち当たっても逃げようとはせず。
もうどこか美しく思えてしまうほど、彼は我を貫き通し続ける。
何があっても諦めない、呆れ返ってしまうほどの『往生際の悪さ』。
己の限界を知っていながら限界を恐れない、『鈍感過ぎる馬鹿さ加減』。
土御門に欠けていたモノを持っている土御門がなれなかった者。
それが上条当麻であった。
そしてそんな男と日常を過ごしていく内。
妬んで羨んで、いつしか信用して心を許してしまっていた。
上条当麻という熱気に当てられてしまっていたのか、
冷め切ってしまっていた心が再び熱を持ち始めていたのだ。
心の底から、土御門舞夏以外の者を信頼したのはいつ以来だろうか。
楽しい事を楽しいと思えたのはいつ以来だろうか。
まさか妹の事を進んで喋るなんて、
ここまで信頼性の高い関係を今まで築けたことがあっただろうか。
心の底から笑ったのはいつ以来だろうか―――。
634 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 01:58:23.37 ID:jOMVFZ+Ro
アレイスターはこれも仕組んでいたのか。
土御門元春という人間が上条当麻を慕い、
たた任務という形式上だけではなく、
上条のためなら望んでその身を犠牲できるように、と。
恐らくそうだろうが、
当の土御門にとってはそんな事などどうでもよかった。
例え仕組まれたものでも、本物は本物なのだから。
上条と土御門の友情は本物だった。
その心は本物だ。
土御門は心を取り戻したのだ。
沸々と、失っていたはずの衝動が日に日に込みあがってくる。
もしかしてもう一度。
俺は戦ってもいいのだろうか、と。
また、馬鹿馬鹿しい理想と希望を追いかけてもいいのだろうか、と。
上条当麻のように―――。
―――『大馬鹿者』になってしまってもいいのだろうか、と。
もう迷うことは無かった。
一度堕ちに落ちた男、土御門元春はそこから再び『始まった』。
今度こそ『救う』ため。
守るだけではなく、『解放』するために。
635 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 02:00:52.89 ID:jOMVFZ+Ro
信仰を失い。
心が冷め。
戦う意志が潰え。
敗北を認め、力を捨て。
到達した最果ての流刑地。
だが、そこは実は『第二の始まりの地』で。
上条と出会って心を取り戻し。
上条に当てられて戦う意志を取り戻し。
認めた『敗北』の印は返上し。
再び抵抗を始めて。
小さな事から着実に『手駒』を揃えていき。
インデックスと上条の出会い、
そこから爆発的な加速をし続けるこの世界から振り落とされないよう、
懸命にしがみ付いては抗い続け。
そして学園都市の裏側で、
かつて己と同じように一度堕ちた『クズ達』と共に立ち上がり、遂に『表舞台』に躍り出て。
『幼稚な理想』を守るためにこの島に来て、抗うための力を取り戻し――――――。
やっと触れることが出来た。
やっと会えた。
――――――本物の―――。
636 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 02:02:07.46 ID:jOMVFZ+Ro
それは何とも不思議な感覚だった。
どう言葉で形容したらいいか。
周りの環境は変わっていないはずなのに、
見える情景はとにかく爽やかで、そして暖かくて。
土御門『―――』
眼前向こうに待ち構えるのは、圧倒的過ぎる闇の怪物。
赤き縦スリットの瞳孔を有す、体長30m近くにもなる『黒豹』。
体の表面を逆立つ毛のように震わせ、
底なしの不安感を覚えさせるおぞましい異界の唸り声。
体に纏わりつく濃厚な闇、いや、その体自体が実体感が不安定であり、
まるで背後の景色に黒色の絵の具が滲んでいるよう。
その姿は想像を絶する程に恐ろしく。
余りにも存在が大きすぎて、勝算なんかこれっぽっちも見えない。
在りし日の己なら、真っ向勝負は100%避けていただろう。
きっと、きっと『同じよう』に諦めて敗北を認めてしまっていた。
だが。
今は『あの頃』とは違う。
今の己は一人ではない。
大切だと胸を張って言える友がいる。
一緒に戦ってくれる仲間がいる。
背中を預けれる戦友がいる。
そして。
手を差し伸べてくれる『神』が―――。
―――『慈母』がここにいる―――。
637 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 02:03:30.22 ID:jOMVFZ+Ro
『彼女』は、無条件で手を差し伸べてきてくれている。
救いの手を。
助けの手を。
だからこちらも素直に、全てを受け入れるのだ。
信じろ。
信頼しろ。
身を委ねろ。
心を閉ざしていた錠を全て打ち破り。
その中身を全て曝け出せ。
伝統に乗っ取った祈りも、作法を厳格に守った儀式も必要ない。
賛美の為に連ねる言葉も、信仰心を示す美的な詩も必要ない。
ましてや、『機械染みた魔術的作業』など。
ただ慕い、ただ愛し、ただ信頼しろ。
その繋がりがそのまま―――。
―――力になるのだから。
638 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 02:04:55.67 ID:jOMVFZ+Ro
そんな少年の心を、魂を乗せて。
赤い隈取が刻まれている白狼は、駆け抜けていく。
『黒豹』へ向け真っ直ぐに。
速く、速く。
純白の毛を靡かせしなやかに。
軽やかな四肢先が、瓦礫で覆われた大地に跡を記していくたびに、
そこから美しい花や緑が湧き上がる。
それは、漏れ出した慈母の力による『生』。
だが白狼が大地に植えた生は、すぐに散っていく。
彼を串刺しにしようと、地面から『影の槍』が突きあがってくるからだ。
しかしそんな邪悪な槍は、白狼の体には掠りもしない。
それに苛立つかのように、影の槍が益々勢いを強めては林立していく。
槍の突きあがる方向も、
垂直だけではなく様々な角度で、行く手を阻むように。
その速度、密度、量、どれも凄まじく、
さながら巨大な剣山が無秩序に敷き詰められたかのよう。
だがそれでも、影が光を汚すことはできなかった。
地を這うような低さですり抜けては。
軽やかに跳ね疾風のように飛び抜け。
そして影の槍の上を軽々と伝い、一気に距離を詰めて行き。
黒豹の5m程前、そこで踏ん張るように前足を広げ、急停止し―――。
―――『断神』―――。
『一閃』
639 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 02:06:47.06 ID:jOMVFZ+Ro
その刹那。
土御門の意識内では、
こんなイメージが浮かび上がっていた。
目に映る景色をキャンバスにし、黒豹の頭先から地面までを縦断するように―――。
―――墨汁で一筆。
そのイメージは、
慈母の力の動きが
人間の認識に合わせて変換された像なのか。
それとも、これが慈母『そのままの目線』なのかはわからない。
だが表現しろと言われれば、
土御門は迷わず『墨汁で一筆』とする。
まさにそれがしっくり来るのだ。
そしてその瞬間。
イメージ内で描いた線と同じ場所に。
鋭い閃光と共に、とんでもない規模の力が走り空間を切り裂いた。
それはまさしく、どんな物でもどんな存在でも
一撃で寸断してしまうだろうと思える程の。
だが、相手も相手。
こっちについている慈母は規格外の存在であるが、同じくこの黒豹も規格外。
土御門『(―――ッ)』
この『一閃』の直撃を受けても、黒豹は無傷であった。
全く微動だにしていない。
空間は完全に破断されていたのに、
影だけは傷一つ無い。
この影だけは。
640 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 02:08:09.11 ID:jOMVFZ+Ro
その瞬間、土御門の『目』はこの時の力の動きを
かろうじて捉えていた。
そして違和感をはっきりと覚えた。
『感触』がおかしい、と。
単に、黒豹の防御力がこちらの攻撃力を上回っただけ、
というわけでは無さそうだ。
なにか『カラクリ』がある、と。
白狼は四肢で素早く横に跳ね、
方々から突き出してくる槍を再度かわしながら。
土御門『(―――結界、か?)』
結界、そう思い浮かべると。
記憶、知識、推測といった慈母からの認識が続々と流れ込んでくる。
だがそれらはどれもぼやけており、
土御門の意識ははっきり認識できなかった。
なぜか。
それは、土御門がまだ『受け入れきっていない』から。
土御門『(くそっ―――俺はまだ―――)』
己は荒み、捻くれ、淀み過ぎてしまったようだ。
ここに来てまで、それが未だこびり付いてしまっている程。
慈母はどこにも疑う余地が無いのに、
この捻くれきった心は未だにどこかで疑って警戒してしまっている。
ダメだ。
それではダメだ。
もっと素直に、もっと純真に。
もっとしっかり心を開かなければ―――。
641 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 02:08:53.62 ID:jOMVFZ+Ro
黒豹本体は今だ最初の位置から動いていない。
余裕の表れか、まだこちらの様子を伺っているのか。
それとも、『ハンター』の姿に相応しく、
『一撃必中』のタイミングを見計らっているのか。
そして白狼へ向けての攻撃パターンも変わっていく。
白狼に向け今までと同じように、
槍が方々から突き上がりかけた瞬間。
その槍の形が突如変わる。
一気に膨張しては太くなり、そして『広がり』。
指先が鋭い『巨大な手』へと変形した。
その大きさは、白狼の体を手の平の中に閉じ込めてしまえそうな程。
土御門『―――!』
しかもその手達は、今まで真っ直ぐ機械的に延びていた槍とは違い、
こちらを追いかけて掴もうとしてくる。
当然、猛烈な速度で。
その手は対象を掴むどころか、
爪で大地を削り取っては握り砕いていき。
白狼が紙一重でかわすたびに、周囲が抉り飛び、
大量の粉塵が舞い上がっては大地が震えていく。
642 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 02:11:13.72 ID:jOMVFZ+Ro
この密度とこの速度では、
いくらこの白狼でもただ回避し続けるには厳しいものがあった。
そこで。
『断神、一閃』
再び一筆。
今度は『手』に向けて。
この影の手を切り捨てるべく。
だが。
土御門『―――…………』
結果は、黒豹本体に仕掛けたのと全く同一。
一閃に篭められているのは凄まじい力にもかかわらず、
本体ではない『周囲の影』ですら、傷無し。
弾くどころか、その勢いを僅かに殺すこともできなかった。
『一閃』の威力が劣っていたというわけではない。
むしろあの無数の槍や『手』の中の一本と比べたら、
遥かに『一閃』の方が強い。
そう、『ちゃんと』真っ向からぶつかり合ったら、
決して押し負けることは無いのだ。
防ぐのに失敗したその影の手を、
寸での所でかわしながら土御門は確信する。
黒豹は何らかの『非常に特殊な力』でその身を、いや『影全て』を守っている。
しかもそれは、この慈母の力すら遮ってしまう程の鉄壁だ、と。
ただ、その詳細を知るにはもっと慈母を受け入れては力を引き出し、
そして黒豹に攻撃を与えて確かめねばならない。
土御門は更に深く、更に多きく、その心を開いていく―――。
643 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 02:12:53.16 ID:jOMVFZ+Ro
そんな風に、
この白狼に湧き出してくる力が徐々に高まっていくのを察知してか。
影の攻撃が更に苛烈になって行く。
無数の手や槍は、壁のようになって立ち塞がり。
延びた先端は上部を封鎖し。
地面からは、新たな槍や手が突き上がり。
そして。
土御門『―――』
白狼も、徐々に回避が厳しくなっていき。
そんな状況の中で、
『回避方向はたった一方』という瞬間が来て。
そこで、黒豹本体が遂に動いた。
黒豹は、この一撃必中のタイミングを伺っていたのだ。
確実に来るその回避コースめがけて、避ける手段の無い一撃を。
白狼に負けないほどにしなやかなその体を躍動させ。
その速度は、周りの槍や『手』が止まって見える程にレベルが違う。
そして衝撃波も振動も音も発することは無く、力も漏れ出しはしない。
完璧な力の集中収束。
むき出しになっている牙は、その口にだけではない。
肩、胸、背中、あらゆる箇所の影が形を変えては、
前方へ向けて『牙』と『刃』となって延びていく。
白狼を串刺しにし―――。
その純白の衣全体を、真っ赤に染め上げるべく―――。
644 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 02:14:01.74 ID:jOMVFZ+Ro
それまでのこの白狼であったら、貫かれてしまっていたであろう。
だが。
この白狼は、常に力が溢れ上がっていっている。
1万分の一秒前単位で、過去と現在を比べても明らかに違う。
『天にいる本物』と比べたら、まだまだ小さいものではあるが、
だが着実に、そして正確に本物に近づいてきているのだ。
突進してきた黒豹。
白狼が貫かれその巨体に潰されるかと言うその瞬間。
延びた牙と刃の漆黒の先端が、その柔らかな毛皮にあと1mまで迫った時、その間に―――。
『鏡』が虚空から出現した。
淵が真っ赤な炎で彩られている『銅鏡』が。
それは正真正銘の『天界の宝具』。
魔術的に言えば、『オリジナルの聖遺物』―――。
645 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 02:15:37.37 ID:jOMVFZ+Ro
ただ。
結果は先ほどと『同じ』であった。
『鏡』をもってしても、
黒豹の攻撃は弾くことはできず、
それどころか勢いを少しも殺すこともできない。
だがしかし。
黒豹の牙と刃は刺さりは『しない』。
間に入った『鏡』は、貫かれることも砕かれることも無かった。
白狼は。
勢いそのままで押される鏡、
その背に己が背中を当てては、あえて『脇に押し出され』。
結果、鏡・黒豹と、白狼の位置関係はすれ違うようになり。
そしてすれ違うかと言うその瞬間。
白狼は牙をむき出しにしては口を大きく開き。
黒豹の首元へと―――。
646 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 02:16:53.57 ID:jOMVFZ+Ro
黒豹の30mに比べて、白狼は体長は2m程。
だが、両者程の領域の者達にとって、
お互いの『物理的なサイズ』など、あまり関係ない。
―――白狼は、黒豹の首に噛み付き。
四肢を大きく広げては踏ん張り。
剥き出しになった牙の間からうなり声を漏らしながら。
影の残像・黒い尾を引きくその巨体を、
勢いを殺さぬまま一気に引き寄せてはぶん回し。
周囲の影の槍・手の壁へと凄まじい勢いで叩きつけた。
金属やガラスがぶつかり合うような、強烈な激突音。
界が軋み、空間が凹むほどの猛烈な衝撃―――。
その瞬間、叩き付けられた黒豹の表面が波打ち、その形が崩れた。
さながらテレビ映像にノイズが走ったよう。
だが、白狼の手はこれだけではなかった。
像が乱れてる黒豹の懐に『円』を描き、その上部に『へた』のように短い線を引く。
止めとばかりに、そんなイメージを思い描く―――。
『爆神―――輝玉』
次の瞬間。
色鮮やかな、大きな『花火玉』がその描いた所に出現し。
炸裂した。
647 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 02:18:40.24 ID:jOMVFZ+Ro
無駄に広範囲を吹き飛ばすのではなく、
適度な範囲内を極限まで破砕する、非常に濃度の濃い強烈な爆発。
その閃光に照らされる中、白狼は一旦距離を開けるべく100m程後方に跳ねた。
その後を追い、開放された鏡が宙を飛んでは、
白狼の背中に乗るような位置に。
そして白狼は、軽やかな足取りで地面に着地し。
土御門『…………』
閃光が収まりつつあった爆心地をじっと見据えた。
視線の先では薄くなっていく光、
その中から姿を現す『影』。
土御門『…………』
やはり傷一つついていなかった。
『輝玉』の凄まじい炸裂も、『一閃』と結果は同じ。
影同士をぶつけても結果は同じ。
そして、今やより慈母の力に染まっている土御門の『目』には
それ以上の事が見えていた。
あの黒豹がどのように攻撃を防いでいるのか、
その原理はまだわからないが、その『系統』がはっきりとわかったのだ。
648 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 02:20:28.50 ID:jOMVFZ+Ro
それはとにかく非常に厄介な―――。
この黒豹は『最悪の組み合わせ』だった。
『この系統の防御』は、魔帝の創造、覇王の具現のような、
俗に言う『力』とは違う『固有の特殊能力』の類だ。
と、魔帝や覇王を例えに出してしまっては、
非常に希少で強力な系統だと聞えてしまうかもしれないが。
種族や個体ごとに固有の特殊能力を持っていることなんて、魔界では極ありふれた事。
そしてこの黒豹の使ってる系統の防御も、
一応力のごり押しでどうとでもなる、といえばなる。
もし、この系統の防御をそこらの雑魚が使ってたとしても、
慈母の力を持ってすれば力ずくで叩き潰せるだろう。
『創造』だって、魔帝という最強クラスの悪魔との組み合わせであるからこそ
あそこまでのスケールが可能であるだけで、
そこらの雑魚が同じ『創造』を使ったところで、
そのスケールは雑魚の身の丈に沿った程度だ。
と、それはつまり、規格外の存在がそのような力を有していたとすれば―――。
それがこの黒豹なのだ。
『この系統の防御』に、魔界トップクラスの諸神諸王の力。
結果、慈母の力すら完全に防ぐ『鉄壁』となる。
649 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/17(日) 02:22:49.89 ID:jOMVFZ+Ro
そして、その黒豹の防御の系統とは。
それは『完全干渉拒絶』―――。
―――『概念否定』だ。
『攻撃そのもの』を『無かった事』する、という余りにも『フザけてる』系統。
土御門『(……さて、どう崩すか)』
白狼、少年土御門は、
その牙を噛み締めては視線先の黒豹を睨んだ。
その鋭い獣の瞳で。
一挙一動も見逃すまい、と。
あの鉄壁の、『影の要塞』をどうにかして陥落させるべく。
シャドウ
『影』を完全に払うべく。
―――
650 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/04/17(日) 02:23:35.18 ID:jOMVFZ+Ro
今日はここまでです。
次は火曜の夜に。
651 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/04/17(日) 02:25:18.81 ID:WkC15Zbt0
激しく乙
652 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(広島県)
:2011/04/17(日) 02:25:34.80 ID:zcFxQW580
おつ!
653 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage]:2011/04/17(日) 03:08:05.33 ID:t5OuQiXyo
乙!
654 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)
:2011/04/17(日) 09:30:54.45 ID:m8EDjrz40
乙!
(*´Д`)やっぱり大神はいいなー
655 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/04/17(日) 10:56:57.53 ID:lywXVeD5o
乙!!
何時読んでも引きこまれるわ
656 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮城県)
[sage]:2011/04/17(日) 11:51:37.69 ID:rlN/gg6So
乙
これはもうあの筆技しかないだろうw
657 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)
[sage]:2011/04/17(日) 11:57:23.73 ID:xyaF7trIo
ああ、やっぱいいな我らが慈母はいいな!!
658 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/04/18(月) 04:52:12.84 ID:ycrcbX02o
所詮『普通の天才』これは分かるなぁ
中学、高校で天才って言われてても社会に入ったらあんまり他の人と違いはないからな
思い出したら泣けてきた・・・
659 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2011/04/18(月) 15:12:37.49 ID:rrEmUtuAO
乙!
>>1
の中じゃワンちゃんはどの程度の強さなのか知りたかったり。
ジュベレウスや魔帝が上ってのは読んでて何となくわかるんだけど。
660 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/04/19(火) 22:44:41.72 ID:rfahUGyNo
度々本当にすみません。
今日の投下はありません。
次は木曜以降に、前回のように纏めて連日投下する予定です。
>>620
幻想殺しさえあれば、その七人がかりでも充分勝機があります。
逆に言えば、幻想殺しが無ければほぼ不可能です。
>>659
『全盛期アマ公は四元徳の一柱よりやや強い』、
と考えておりますが、現時点ではやはり諸々の理由で力が衰えてます。
また煉獄から返り咲いたフォルティとテンパは、
今は戦争に向けパワーアップしつつありますので、アマ公と四元徳単体との戦力比も完全に逆転しております。
言い換えれば、一部の力のみでねこキングと渡り合える程まだまだ強い、ということですが。
(ちなみにゲーム大神におけるオロチ〜常闇ノ皇の出来事は、
このSS内では竜王が打ち倒されるより少し前の年代、としております)
それと、完全体ジュベが古今ひっくるめて、現時点でも余裕で最頂点です。
完全体魔帝・全盛期スパーダ・覇王らが、
三人がかりでの死闘の末にギリギリでぶっ倒した、としている位ですので。
661 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)
[sage]:2011/04/19(火) 22:51:50.38 ID:yRO2Eswg0
なるほど
662 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/04/20(水) 06:00:12.16 ID:9CcFtUpZo
相変わらず解説までしっかりしててぱねぇ
663 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2011/04/20(水) 23:48:30.69 ID:iSAyPfOAO
わかりやすい解説サンクス!
664 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/04/23(土) 23:45:59.50 ID:vlQjKHLDO
そろそろかな
665 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/24(日) 00:57:22.20 ID:PbcyKJR0o
―――
果たして、あんな事をして良かったのだろうか、と。
彼女の望み通りとはいえ、
そして他に選択の余地が無いとはいえ、あんな―――。
オッレルス『…………』
オッレルスはそう、
先ほどルシアに行った『とある処置』を頭の隅で思い出しながら。
アックアと共に、
不気味に聳え立っている摩天楼を駆け抜けていた。
穏やかな光に照らされている地の中心、
土御門とシルビアがいるであろう場所に向けて。
オッレルス『…………』
あの少女、ルシアの事を考えたってもうどうしようも無いことはわかっている。
ここで引き返しても、彼女を元に戻すことなどもう無理だ。
だがそれでも考えてしまう。
あの表情が頭から離れない。
666 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/24(日) 00:58:10.83 ID:PbcyKJR0o
あの『人造悪魔』は、いや、
もうあの少女を『人造悪魔』と表現することなど到底できない。
『彼女』は同じだった。
同じ顔であった。
今まで保護してきた孤児達とも。
そして。
かつて、『天命』の下この手で殺めた子供達とも。
どの『人間の子供達』とも同じであった。
だからこそ。
オッレルスはこうして考えてしまう。
先ほど、自身が彼女に対して行った行為が、
どれだけ残酷なものであったかのかを。
彼女が『忌まわしき人造悪魔である』、という覆りようの無い現実を突きつけるあの行為は。
667 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/24(日) 00:59:12.63 ID:PbcyKJR0o
と。
そんな風に考えてはいたが、このことについて何かしらの答えを出せる時間があるほど、
目的地は遠くは無かった。
いや、元々この思索には出口は無いため、
どれだけ時間に余裕があっても途中で『打ち切り』になる結果は同じであるが。
摩天楼を駆け抜けていくと。
その連なるビルの林が突如途切れ、
瓦礫に覆われた広大な更地が姿を現した。
そして中央、この陽光の光源の真下には、ただ一棟だけ聳え立っている高層ビル。
その配置は、アックアにとってはかなり既視感のあるものだった。
もちろんオッレルスもすぐに『それ』を連想した。
今はもう見る影も無くなった、在りし日のサンピエトロ広場とオベリスクだ。
だが、その『オベリスク』の周囲の光景が目に入った瞬間、
そんなデジャヴなど過去のものとなってしまった。
オッレルス『―――ッ』
この場に近づく間も、凄まじい圧ははっきりと感じてはいたが。
だがここに来て直に目にして、
オッレルスとアックアは知ることとなった。
今まで感じていたその圧は『薄められていたもの』であったことを。
668 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/24(日) 01:00:27.11 ID:PbcyKJR0o
ここを照らしているあの陽光は、
『影の力』が外に漏れ出すのを抑えているのだろう。
暖かに感じるこの『天界』の光は、
ただそのような感覚だけではなく
実際にこの島にて戦う者達を守ってくれているのだ。
こんな高濃度の力が駄々漏れしていたら、
この北島全体に展開している少年少女達は
一部の飛び抜けた強者を除きみな卒倒してしまうだろう。
アックア『……』
オベリスクの周り一面を覆う、
不気味で不自然で余りにも色が濃い影。
アリウスに見た『頭で認識する』類のものとはまた違う、
本能をすり潰されていく感覚。
そして白き一筋の光が、
同じく莫大な力を放ちながらこの影の中で暴れていた。
669 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/24(日) 01:01:04.22 ID:PbcyKJR0o
莫大な力が凄まじい速度で渦巻いては激突。
それによる界の歪みのせいか、
オッレルスの目をもってしてもその『身分』を知ることまではできなかったが。
ともかく、二人ともすぐに悟った。
あの一筋の白い光の主が、この陽光の源である天の存在である、と。
と、そこで。
オッレルス『―――……』
オッレルスはふと、とある点に気付いた。
あの白い光の主は、
己が『知っている天』とは明らかに『違う』、ということを。
この光に覚えるとある一つの要素を、
オッレルスは今まで天から感じたことは『一度』も無かった。
こんなにも身近で近しげで、明確な―――。
―――そう、『感情』を感じる事は。
670 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/24(日) 01:01:48.25 ID:PbcyKJR0o
その点については、彼の後ろに続いていたアックアも強く感じていた。
いや、彼の場合はオッレルスとはまた少し違った。
アックア『…………』
彼は、その身に宿すガブリエルの力から妙な反応を覚えていた。
影ではなく、あの陽光の光源を目にした瞬間に。
その反応は今まで一度も感じることの無かった、奇妙な『揺らぎ』。
いきなり波打つような。
人間の感覚、感情に例えればそれは―――。
―――『驚き』―――。
―――『動揺』―――か。
アックアがあの光源を見た瞬間、
ガブリエルの力が『動揺』、と取れる反応をしていたのだ。
『感情』と呼べる反応をだ。
これは二重聖人、そして神の右席という立場の彼にとっては、
とてつもなくセンセーショナルな事だ。
少なくとも今まで見知ってきた天への認識概念が、
根底から覆ってしまいかねない程の。
671 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/24(日) 01:02:37.06 ID:PbcyKJR0o
だが今ここで、
やはりそれらのその意味を探るべきではないのは確かであった。
オッレルス『―――跳ぶぞ』
オッレルスはそう、
背後のアックアに向けて声を飛ばすと同時に、軽く地面を蹴った。
すると次の瞬間、彼の体は超高速で飛翔していった。
影の中央に聳え立っている『オベリスク』、シルビアと土御門がいるであろうビルへ向けて。
その後を、
背中から光を噴出させるように翼を生やしたアックアも続き、
二人は陽光の空の下突き進んだ。
影の真上を通過するとあって、
二人はかなり警戒はしていたものの。
特に妨害は無くすんなりと目的のビルに到達。
その屋上の中央には。
シルビア『オッレルス!』
飾り気の無い、
大きなロングボウを手にしているシルビアと。
そんな彼女の足元に座っている、
例のフォルトゥナの姫と思われる美しい女性がいた。
だが。
オッレルス『シルビア!……?』
もう一人、オッレルスがここにいると考えていた者の姿は、
そこには無かった。
672 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/24(日) 01:03:41.49 ID:PbcyKJR0o
土御門は『少年』と聞いていたが、この屋上には少年の姿など無い。
そもそもシルビアとキリエの二人しかいない。
アックア『……土御門元春はどこだ?』
先にその点を問うたのはアックアであった。
アスカロンを肩に乗せつつ周囲を見渡しながら。
それに対しシルビアが。
シルビア『アレだ』
ややイラついたような口調でそう、ぶっきらぼうに言葉を返しながら、
顎の先で指すような仕草でとある一方を示した。
その先は。
オッレルス『?あれって……?』
更地向こうで、凄まじい力を放って影とぶつかり合っている、
シルビア『アレだって。あの白いの』
あの、天界の者と思われる白い光であった。
オッレルス『―――何?』
そのシルビアの言葉に、オッレルスは耳を疑った。
彼女の言葉は、到底受け入れがたいものであった。
なぜなら。
オッレルス『―――アレが土御門……?』
オッレルスの『目』には、あの光が
『天の力を使っている人間』には見えなかったからだ。
紛れも無く、どこからどう見ても―――『天界の存在』だったのだから。
673 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/24(日) 01:06:06.24 ID:PbcyKJR0o
シルビア『オッレルス。彼女の胸の杭に詳細があるって』
オッレルス『そうか』
だがそんな疑問も、今この場での優先度は下だ。
今はとにもかくにもやらねばならない事がある。
オッレルスは足早にキリエの下に向かっては、彼女の前で屈み。
オッレルス『オッレルスです』
キリエ『キリエです』
オッレルス『では失礼』
軽くお互いの名前を言うだけの自己紹介を経て、
彼女の胸の杭に軽く触れた。
オッレルス『…………』
するとその瞬間に流れ込んでくる、土御門からの『伝言』。
俺が影から『制御基盤の核』を引き摺り出す、
それまでにお前は専用の術式を構築して、いつでも起動可能なようにしておけ、
そんな『殴り書き』の前置きから始まり。
そして都市全体に重なっているこの巨大術式の概要、
人造悪魔を停止させるために必要な術式の仕様等、
様々な情報と指示が大量に後に続いていった。
674 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/24(日) 01:08:00.29 ID:PbcyKJR0o
その量はとてつもなく、
そしてどれもこれも『無理難題』としても全くおかしくないものばかり。
術式を組み立てろ、と言っても、ただ組み立てば済むだけの部分は極僅か。
大半が、例えるならば『部品を組み立てて車の形にしろ』、というのではなく、
『素材採掘から始めて最終的に車を作れ』、という様なもの。
更に『俺には手が出せない、お前にしか完成させられない。頼むぞ本物の天才さんよ』、
という『注釈になっていない』土御門の『走り書き』が、
そのプレッシャーを一段と締め上げる。
オッレルス『…………』
5分前の己だったら、これは到底不可能な作業だろう。
そう、5分前ならば。
今は違う。
この目で、アリウスの中を見てきた。
『絶望』に触れてしまう領域まで沈み込んで『見て』きた。
オッレルス『……よし。わかった』
今なら―――『可能』だ。
675 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/24(日) 01:09:25.26 ID:PbcyKJR0o
己にしか作れない術式をもって、アリウスの『技の結晶』に挑む。
なんとも遣り甲斐のある『喧嘩』ではないか。
アリウスが『最強』への挑戦者ならば、己は『最高の魔術師』への挑戦者だ。
チャレンジャー
挑戦者。
立場・背後状況関係なく、その響きのなんと心地よいことか。
魔術師としての本能が一気に高揚する。
オッレルスは立ち上がると。
オッレルス『シルビア。ウィリアム。俺は今からしばらく「篭る」』
座っているキリエに手の平を向けるように、己の体の前に両手を突き出し。
オッレルス『俺とキリエさんを護ってくれ。頼んだぞ』
その言葉にシルビアとアックアは無言のまま頷き、
それぞれ屋上の淵にまで跳んだ。
そうやって二人が距離をあけた直後、
オッレルスの瞳が、遠くを見るようになっては虚ろになり。
オッレルス『(じゃあ、俺もなってみせようか―――)』
彼の意識は、その活性化する己が頭脳の中に集中されていき。
赤と金の光で形成された無数の文字列が、
彼の周囲に浮かび上がり。
オッレルス『(――――――真の魔神に、な)』
そして彼と足元のキリエを包み込むように『球状』に―――。
―――
676 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/24(日) 01:10:34.84 ID:PbcyKJR0o
―――
アスタロトの首、と言ってもその様はどう見ても肉塊。
かろうじて原型を留めている大きな二本の角が、
わかる者にだけこの肉塊が何なのかを示していた。
ネロ『―――ん、ああ、これか』
正面15m程からのアリウスの視線に応え、
思い出したかのようにそう口を開いては。
ネロ『目障りだったからな―――』
右手にあるその『肉塊』をアリウスの足元に放り投げた。
ネロ『―――ぶっ殺させてもらったぜ。「全員」な』
アリウス『…………』
それをアリウスは無言のまま、
特に動揺もせずに静かに見下ろした。
変わり果てた魔界の十強が一、恐怖公アスタロトの姿を。
ネロ『まあ、俺は止めを刺した「だけ」だがな』
677 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/24(日) 01:11:16.63 ID:PbcyKJR0o
アリウス『……』
己とはまた違う第三者がアスタロトを叩きのめした、と言う事を匂わせるネロの口ぶり。
それを裏付けるかのように、
このアスタロトの首にはいくつか独特の、
強烈な力の『残り香』がついていた。
アリウス『…………』
その数は三種。
まず一つ目はもちろん、止めを刺したネロ。
もう一つは―――ダンテ。
そして、残る一つは。
アリウス『……魔女、か』
アンブラの魔女。
それもネロやダンテに引けを取らない、とんでもなく強大な者。
こんなレベルの三人を相手にしてしまったら、
やはりさすがのアスタロトといえどもどうしようもなかったであろう。
(そもそも一対一でも無理な話だ)
678 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/24(日) 01:12:13.93 ID:PbcyKJR0o
そしてこのアスタロトの死に様は、とある一つの事実を裏付けていた。
やはり『今』この瞬間。
この島の外で己の意識外で魔女やバージル、
ダンテ達が何かをしているのは間違いない、という事だ。
アリウス『……』
ただその事については後でいいだろう。
今はこの主賓、『ネロ』を―――。
己は覇王とスパーダの力の片割れを既に手に入れた。
そこにネロの魂と魔剣スパーダが揃えば。
覇王には既に『勝った』。
次はスパーダに『勝つ』。
それが成されれば、
その時点で己より強い存在は最早いなくなる。
完全なるスパーダと覇王、その二強の力を宿した後はゆるりと。
フィアンマが手に入れるであろう『創造』を奪い、
残るスパーダの息子達や魔女を狩っていけば。
『証明』は完遂する。
679 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/24(日) 01:14:04.09 ID:PbcyKJR0o
と、その時。
ネロ『さてとだ、お互い―――』
そんな言葉と共に、
ネロは己が脇の地面にレッドクイーンを突き立てては手放した。
そしてその空いた左手を突き出すと。
そこに異形の大剣、魔剣スパーダが地面に突き立てられている形で出現。
ネロ『―――前置きは無しにしようぜ―――』
ネロはその柄を左手で握っては引き抜き。
ネロ『―――さっさとやろうじゃねえか』
その切っ先をアリウスに向けては、
軽く揺らしながら笑った。
漲る憤怒と闘気で震えている、熱の篭った声を放って。
アリウス『―――……』
そしてそのまま―――魔人化。
何の躊躇いも無く、
己が力と魔剣スパーダを解放したのだ。
この『人間界』のデュマーリ島で『躊躇いも無く』、だ。
680 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/24(日) 01:15:08.12 ID:PbcyKJR0o
アリウス『(―――そういうことか。なるほどな)』
そこでアリウスはそう、小さく心の中で呟いた。
紫と赤黒い光を纏っている、魔剣スパーダを有す『魔騎士』の姿を見据えながら。
一つ、わかったのだ。
覇王との戦いを終えた後に気付いた『例』の事案。
解放された魔界による侵食速度の、
その一見すると『停止』していると錯覚してしまう程の『遅さ』。
魔女の技と莫大な力、そしてオリジナルの『神儀の間』によって生み出されたこの奇妙な現象。
それが、このネロの力による人間界の破壊をも防いでいる、と。
いや、厳密に言えば『防いでいる』のではなく
『まだ負荷かがかかり始めていない』、といったところか。
魔界の侵食と同じく、ネロの力による破壊も極端に『遅くなっている』のだ。
と。
ネロ『おいオッサン。早くしろ』
魔騎士の姿となったネロは再度スパーダの切っ先を揺らしながら。
ネロ『―――コイツが欲しいんだろ?』
681 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/24(日) 01:15:51.97 ID:PbcyKJR0o
アリウス『―――……その通り』
その煽りに、
ひとまずこの件の思索は中断してアリウスは乗った。
一本踏み出しては
アスタロトの首をまるで気にも留めずに踏み潰し。
アリウス『―――いや。それだけでは足りない―――』
己が力も解き放つ―――。
瞬間、溢れ出した光に包まれるアリウスの体。
それは一見、神々しく清廉な光に見えてしまうも。
本質は穢れに穢れた『暗き光』。
そして、その輝きの中から姿を現す―――。
アリウス『―――「お前そのもの」も頂こう』
―――揺らめく炎のような光で形成されている体。
天を向く、二本の大きな角。
巨大な一対の光の翼、その姿は―――。
アリウス『―――お前の「全て」をな』
―――覇王アルゴサクス。
更に覇王の姿となったアリウスの左手先が変形し。
ネロが纏う光の中にあるのと同じ、『紫の光』で形成された大きな『刃』となった。
682 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/24(日) 01:18:45.32 ID:PbcyKJR0o
ネロ『はっ、そいつは無理な話だ、「全身タイツ」野郎―――』
そのアリウスの姿を見てネロは
残酷なほどに楽しげに、恐ろしいほどに嬉々とした表情で。
ネロ『「俺」が誰の「モノ」かはもう、とっくの昔に――――――』
魔剣スパーダを脇に引き、腰を落として―――。
ネロ『――――――決まってるんでな』
―――その直後。
アリウスが立っていた場所が、
紫色の光の『槌』で『丸ごと』叩き潰された。
その槌はネロの『魔の拳』―――。
―――デビルブリンガー。
そして、その破壊による破片が巻き上がるよりも速く。
物理的な衝撃が分子間を伝達していくよりも速く。
デビルブリンガーが引き戻されるよりももっと速く―――。
アリウスは、既にネロへの間合いへと詰め―――。
その紫の光の刃を彼の喉元へと―――。
683 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/24(日) 01:21:12.11 ID:PbcyKJR0o
ネロ『Hu―――』
その突きを魔騎士は僅かに半身、体を横に移動させ回避。
直後、一瞬前まで彼の喉があった空間を突き抜けていく、
人間界に軽く穴を開けてしまうような刃。
そしてネロは脇に引いていたスパーダで、
叩き上げるかのような左下からの逆袈裟斬りを放った。
目の前の覇王の体を分断する『刃線』で。
が、その瞬間。
アリウスの姿が消失し、スパーダの刃は何も無い空間を裂いていった。
ネロ『Si―――』
しかしネロは動じず、
切り上げた慣性をそのまま利用して、振り向いては。
今度はその刃を叩き降ろす。
『背後に現れたアリウス』に向け―――。
ネロ『Yeeeeeeeeaaaaaaaaaaaaaaahhhhhhhh―――!!!!!!』
しかし、振り下ろされた刃は覇王の体を破断することは無かった。
アリウスは『紫色の刃』で、
その刃を防いでいた。
何事もなく耐え、そして問題なく打ち流していたのだ。
魔剣スパーダ、その『究極の破壊』を冠する刃を。
684 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/24(日) 01:22:55.17 ID:PbcyKJR0o
飛び散る光の雫と、鋭い衝撃。
歪む大地と空間。
ジ イ サ ン
ネロ『(ハッ―――スパーダの力を使ってるってか―――)』
アリウスは打ち流した刃でそのまま、
再びネロの喉下へと突き。
ネロ『(―――――――――胸糞悪ぃ)』
それを、ネロは今度は避けようとはせず。
ネロ『Fuuuuuuuuuuu―――』
初撃から引き戻されてきたデビルブリンガーを再び握りこんでは。
ネロ『――――――ck Off!!!!!!!!!!!!!!』
覇王の腹部めがけて叩き込む。
その衝撃で刃先がぶれ、アリウスの刃は喉元ではなく魔騎士ネロの面、
頬に当たる部分を切り裂いていき。
天高くぶち上がっていくアリウスの体。
そして即座に跳躍してそれを追うネロ―――。
685 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/24(日) 01:23:50.10 ID:PbcyKJR0o
闇夜の大空を、二筋の光が切り裂いていく。
一方は完全復活した覇王とスパーダの力の片割れを掌握した『人間』。
そしてもう片方は、覚醒状態の魔剣スパーダを有する魔人した魔剣士。
それらが激突しては弾かれて、
再び引き付け合ってはまた激突を繰り返しながら空をどんどん昇って行く。
縦横無人に空で打ち合う二人は、次第に島の上空からも逸れ。
その戦場を淀む大海の上に移していく。
ネロ『―――Hu!!!!』
あまりにも危険すぎる刃と拳。
アリウス『―――ッ!!』
そして翼と蹴りの応酬。
その戦いは、『人間界の中では存在できるはずが無い規模』の力の衝突。
とことん破壊的な、何人も踏み入れられない究極の領域。
とにかく破滅的な、正真正銘の究極の『怪物』同士の戯れ―――。
お互いの刃をいなしては弾かれ、
デビルブリンガーと翼が激突しては、蹴りが交差し。
ネロ『―――Die!!!!』
そしてお互いが振りぬいた刃が、『真正面』から激突する。
アリウス『―――ォオッ!!!!!!!!』
686 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/24(日) 01:26:47.80 ID:PbcyKJR0o
光が溢れ、一瞬だけ周囲が一気に明るくなる。
さながら間近に万の太陽が出現したかのように。
その『光の衝撃』が大海を叩き一気に蒸発させていく中。
ネロは海面に『着地』した。
沈むことなく、まるで地面に降り立ったかのように。
普通の事だ。
ここまで力を解き放てば、
『ただの物理現象』などどうとでもなる。
何が有り得なくて何が有り得るのか、それは力の持ち主の意向で決まる。
それが大悪魔、神と呼ばれる者達の領域だ。
ネロ『チッ……』
そして、そんな彼を100m程の高さの宙から見下ろしているアリウスが、
右手を軽く掲げた―――。
アリウス『―――もっとだ。もっとそのスパーダの血を滾らせてくれ』
―――その瞬間。
アリウス『―――「舞台」が合った方が「気分」も乗るだろう?』
暗き大海原だった景色が一変する。
ネロ『―――ッ』
その『場所』は見慣れた石畳道路の上。
歴史ある『あの街』の。
―――ネロの故郷、フォルトゥナの。
687 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/24(日) 01:29:41.51 ID:PbcyKJR0o
アリウス『―――小道具と舞台装置も用意しよう』
更にアリウスは続けてそう口にすると、
右手先の指を軽く鳴らした。
アリウス『もっとその血を沸きたてるのだ―――暗き憤怒でな』
すると今度は。
ネロ『―――』
ネロの正面、町並みの向こうに現れる『白亜の巨人』。
それは『あの神像』―――。
かつて、教皇サンクトゥスが引き起こしたフォルトゥナ事変。
その時の『あの神像』だった。
ネロ『ハッ』
ネロは、そんな思わぬ舞台装置の登場に、
苛立たしげに軽く笑い。
ネロ『俺の「記憶」を「具現」か?―――随分と「洒落た演出」だな』
ネロ『―――ヘドが出るぜ』
688 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/04/24(日) 01:30:35.95 ID:PbcyKJR0o
ぶつ切りですが今日はここまでです。
次は明日か明後日に。
689 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)
[sage]:2011/04/24(日) 01:33:09.26 ID:k5WvCvnHo
乙
690 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮城県)
[sage]:2011/04/24(日) 01:33:24.67 ID:QcHhp22xo
乙ー
面白かった、明日も楽しみにしてるぜ!
691 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/04/24(日) 02:02:53.78 ID:Zo4Eh7sw0
乙!
オティヌスが原作に出ていたらもうアップし始めてそうだな
692 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/25(月) 22:41:07.32 ID:S4+FJVwLo
そんな風に、ネロの口調は今だ皮肉めいた軽さを帯びていたも。
内面では確実に余裕が無くなってきていた。
怒り、憎しみ、殺意、
ありとあらゆる負の感情が爆発的に湧き上がる。
その人間的な激情が、彼の人間性を更に締め上げて。
同名の魔剣と血が共鳴し合い、魔が更に色濃くなっていく。
アリウスの絶望が用意する舞台、
それが更にネロを怒りに染め上げるのだ。
『絶望の具現』がここに映し出したのは
両手を広げる姿勢で宙に浮かび上がる巨大な神像だけではなかった。
逃げ惑うフォルトゥナの市民達までも―――。
ネロ『―――ッ』
それを目にした瞬間、
ネロはみしりと、己の頭の中から音が聞えたような感覚を覚えていた。
そして、ネロがそれについて何か言葉を発するよりも速く。
神像の胸の前の空間が突如輝き出しては、界が歪むほどの力が集中して行き。
そこから眼下のフォルトゥナ市街に打ち込まれる、
オレンジと赤が交じり合った巨大な光の柱―――。
地殻ごと捲れ上がり、吹き飛ばされる市街。
落ち着いた町並みを根こそぎ削り取っていく光の衝撃波。
そして耳を劈く無数の悲鳴と。
―――絶叫染みた断末魔。
ネロ『―――あ―――』
693 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/25(月) 22:41:49.62 ID:S4+FJVwLo
そんな破壊を目の当たりに瞬間。
ある段階の留め金が弾けたように、また一回り大きく膨らむ。
ネロの内なる魔が。
スパーダの血が。
爆発的な勢いで―――。
ネロは声も息も漏らさず、いや、かみ締める歯で漏らしもできず。
凄まじい形相で血走る目を見開き。
一気に跳躍しては、宙空で魔剣スパーダを振るい斬撃を放った。
神像の胸に直撃しては大きな溝を刻む、
紫が混じった巨大な赤黒い光刃。
白亜の外皮の破片が大量に飛び散っていく。
そしてその巨体を後ろに仰け反る事などさせない、
神像の頭を鷲掴みにする巨大なデビルブリンガー。
大きな魔の手は、
神像を前方へと引き倒しては街に叩きつけた。
ネロはその背に向かって、
真上から更に斬撃を何発も撃ち降ろす。
続けて、引き戻したデビルブリンガーも再度打ち降ろす。
694 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/25(月) 22:42:45.72 ID:S4+FJVwLo
そして20発以上、斬撃と魔の手を交互に叩き込んだ後、
ネロは魔剣スパーダを天に掲げた。
するとその瞬間。
刃が一気に伸びては中ほどで『折れ』。
大きな大きな『鎌』へとその姿を変えた。
その長さは100m以上にもなるか。
そんな『大鎌』を手にしたネロが、
外皮が剥がされ尽くした神像の背中に着地し。
次に始まったのは解体ショー。
神像には成す術も無く、いや僅かな反撃行動も取る余裕も無かった。
白亜の体は瞬く間に解体されていく。
鎌を太ももに引っ掛けては足を刈り取り、
デビルブリンガーをハンマーのように打ち付けては叩き潰し。
肩口に引っ掛けては腕を刈り取り。
また交互に魔の手で叩き潰し。
そして首を刈り取り。
ネロ『―――オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!』
―――叩き潰す。
修羅の如く様相のネロがバラしていくその光景は、
まさに壮絶の一言であった。
695 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/25(月) 22:43:48.76 ID:S4+FJVwLo
アリウス『見せてくれ。もっとだ。もっと―――』
そんな一部始終を見下ろしながら、アリウスは満足げに。
更に先を促すようにそう言葉を発した。
その声に、
ネロは弾ける様に振り向いては見上げては。
ネロ『―――Wanna see?! Huh?!』
血走った目と、灼熱が篭った声を吐くと、
それと同時に大鎌は一瞬で元の形状に戻った。
ネロ『―――So―――』
そしてネロが柄を一旦大きく引き、
上空のアリウスへ向けて突きを放つ動作をしたその瞬間。
今度は、真っ直ぐに刃が伸び。
―――『槍状』に―――。
ネロ『―――Fucking take THIS!!!!!!』
アリウス『―――ッ』
刹那。
200m以上も離れたアリウスの、
その覇王の頭部が貫かれ消失した。
光に包まれた『魔槍』の切っ先によって。
696 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/25(月) 22:44:36.22 ID:S4+FJVwLo
今の状態の人間界ではなければ、
跡形も無く界ごと抹消してしまうであろう『一槍』。
魔界でも、これほどの力を放てば小さな位階が丸々一つ崩れてしまうかもしれない。
魔界最強の『破壊』の象徴たるに相応しい、その一撃は覇王の頭部を奪い、
そしてその器も力も一瞬で貫いた。
宙でぐらりと、糸が切れたようにバランスを崩す首無しの覇王の体。
ネロ『Si―――!!!』
その体を、ネロはデビルブリンガーで瞬時に掴んでは握り潰し、
そして『残りカス』をも地面に叩きつけた。
だが、その叩きつけたデビルブリンガーを引き戻す前に。
『―――そうだ。もっとだ』
真後ろから、調子の変わらないあの耳障りな声。
697 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/25(月) 22:45:11.67 ID:S4+FJVwLo
ネロ『―――ッ』
振り向くと僅か15m程すぐ先に。
この神像の亡骸の背の上に、
たった今この手で『殺したばかり』の、『確実に』殺したはずの―――。
覇王アリウスが立っていた。
アリウス『―――もう少しだが、まだ足りん』
何一つ変わらぬ姿で、いや。
『何一つ』という訳ではなかった。
一つ、変化していた箇所があった。
それはアリウスの左手の『紫の光刃』。
その『形』が―――。
―――『同じ』になっていた。
ネロ『―――んだ―――それは?』
ネロの左手にある魔剣と。
698 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/25(月) 22:46:45.59 ID:S4+FJVwLo
殺したはずなのに一切のダメージ無くまたこうして立っている事
それ『自体』については、ネロにとっては想定範囲内であった。
なぜかのスパーダは、覇王を『殺さず』に『封印』したのか。
それを考えれば、自ずと答えは出てくる。
魔帝と同じく、その規格外の特殊能力のせいで『殺しきれなかった』からだ。
具現の力の性質も、ここに来る前に研究してよく知っている。
具現は、創造のように『無』から『有』を作り出すことはできない。
他者の精神からの『模倣』しかできない。
つまり、その力の根幹は他の存在に依存しているのだ。
と、このような表現では具現は単に創造の下位互換である風にしか聞えないが、決してそんな事ではない
それどころかある面については、創造を遥かに凌ぐ有用性を持つ。
その最たるのが、
―――覇王の存在を『認識した者』が存在している限り、覇王は決して消滅はしない―――。
というもの。
他者の精神に巣くう力、それが行き着いた究極の能力だ。
スパーダや魔帝に比べたら存在の格は一段下にも関わらず、
魔界三神として同列視されていたのはこれが理由だ。
『存在を抹消できるかどうか』だけを見れば、
魔帝の創造以上に困難な能力なのだ。
699 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/25(月) 22:48:05.19 ID:S4+FJVwLo
だが、それは『存在を抹消できるかどうか』という点だけを見ればの話。
覇王の単純な力そのものを圧倒的な攻撃力でとことんねじ伏せれば、
再具現化する前に封印する事が出来る。
現に、かのスパーダが『前回』そうしたように。
そしてダンテ・バージル・ネロの三人で、魔帝の力をとことん削り落とした時のように。
しかし。
それは言い換えれば、力を削りきることができなかったら、
封印作業の時間猶予が無い、ということ。
その実例こそ。
ネロ『(―――!)』
今この状況だ。
あれだけの一撃を受けて死んだにも関わらず、
覇王アリウスは『一切のラグ無く』瞬時に再具現化した。
しかも、肌に感じてわかる。
明らかに―――。
死ぬ前よりも、力が『巨大化』している。
それもあの魔剣スパーダを同じ形の、
『紫の光刃』というその光景が物語る通り。
―――スパーダの血族の力で。
700 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/25(月) 22:50:25.40 ID:S4+FJVwLo
再び、めきりと。
ネロは己のこめかみ辺りから、
そんな音を聞いた感覚を覚えた。
それは。
彼の内で渦巻く力が、更に肥大化した『軋み』。
『人』としてのネロの心が、その力に圧迫される『警告音』―――。
善なる正義の心から生み出される、
怒り・憎しみ・殺意という負の感情。
それが、魔剣と彼の血の中から『スパーダの力』をとことん引き出し続ける。
上限が無い。
底が無い。
この絶大なる破壊の力は、果てなく肥大していく。
ダンテでも、この魔剣を完全解放したのは魔帝との一騎打ちの時だけ。
それ以降はほとんど手に取ろうとはせず、覚醒させることなど一度もしなかった。
ダンテは魔帝と戦った際に、その一度で知ってしまったからだ。
『スパーダの血』に『魔剣スパーダ』は非常に危険な組み合わせなのだと。
『血』にこの魔剣の『破壊』の力が結びついた時、その力は際限なく肥大し続けていくのを。
それこそ、最終的に制御が困難な規模まで。
この魔剣は、単純に使い手に絶大な力を与えるものではない。
リベリオンや閻魔刀とも全く本質が違う。
刃に秘められている『破壊』は、
『創造』や『具現』と同じある種の特殊能力なのだ。
そしてスパーダはある時、魔帝や覇王のようにその身に宿し続けることはせず、
『魔剣』という形でその力を己から切り離した。
前述のダンテと同じ理由で、だ。
力を生み出したスパーダ自身にとっても、
その身に宿し続けるのはあまりにも危険な能力であったのだ。
701 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/25(月) 22:51:27.93 ID:S4+FJVwLo
そして、その危険性については。
ネロ自身も自覚している。
あの日、父に突き立てられて受け入れたとき、
自然にこの魔剣から知った。
その危険性をも含めて、ネロは『主』となったのだ。
別に迷いはしなかった。
そんな行為は、その頃に始まったことではない。
昔からこうして力を求めてきた。
何の力でも、どんな力でも、どんな方法でも構わない。
とにかく大切なものを守り戦える力ならば―――と。
そしてそれは今も同じ。
ネロ『…………』
一瞬、驚きの色を浮かべたその顔も、
すぐに再び憤怒の色に元通りに。
そして魔剣を肩に乗せるようにしては、前に低く姿勢を落とし―――。
702 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/25(月) 22:52:23.35 ID:S4+FJVwLo
―――内からの『警告音』は無視だ。
祖父が、ダンテが『避けていた』から何だというのだ。
『俺』は『俺』だ。
誰のレールの跡もたどらない―――。
―――俺は俺の『やり方』でやる。
今の力で覇王の力を削り切れぬのなら、更なる力で叩き潰すだけだ。
だからそのための力を―――。
ネロ『―――Haaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!』
―――もっと寄越せ。
ネロは前へと踏み出し。
更なる力をこめて、
アリウスへとその破壊の刃を振りぬいた。
703 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/25(月) 22:54:35.84 ID:S4+FJVwLo
それを受け止めるのは、『同じ形』をした紫の光剣。
耳を劈く激震と、眩い光。
二人は至近距離で刃を打ち合った。
双方とも一歩も引かずに。
打ち据えるたびに、お互いは己の芯が蠢くのを感じていた。
それは共鳴。
ネロの『スパーダの血』と『魔剣スパーダ』。
そしてアリウスの中の『スパーダの片割れ』。
その『三つ』の共鳴だ。
ネロがその血の真価を引き出せば引き出すほど。
魔剣スパーダが解き放たれるほど。
アリウスの中の『スパーダ』も『強引』に覚醒させられ巨大化していく。
一振りごとに、お互いの刃はその力を増していく。
同時に、その精神を圧迫する苦痛も。
704 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/25(月) 22:57:27.58 ID:S4+FJVwLo
しかし、ネロにとっては知ったことではない。
別段自暴自棄になっている訳でもない。
彼には絶対的な自信があったのだ。
いや、信じていた。
必ず勝てると。
皆の思いと心が願うこの戦争は、必ず。
必ず勝利する、と。
この世界を想う、大勢の人々の意志の強さを信じていた。
一方、アリウスの側でも―――。
アリウス『―――ッ―――くはッ!!!!』
打ち合いの中で時折漏らす、その苦悶の声も全て本物。
ネロと同じ事が今、アリウスの中でも起きており、
そしてネロと同じ苦痛をも味わっていた。
何一つ変わらぬこの絶大な苦痛をだ。
705 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/25(月) 22:58:49.27 ID:S4+FJVwLo
だが、これもアリウスが望んだ戦い。
爆発的な肥大の圧に耐え抜く。
人間の精神体が、最高圧最高純度のスパーダの力の噴火に耐える。
それも、このスパーダの孫よりも『長く』。
その先に、アリウスが求めている『答え』が待っている。
このまま共鳴しリンクし合い。そしてスパーダの『力達』がある臨界点を超え、
お互いの壁を破ってあふれ出した時。
一度放散したその力は、今度はより強い意志の元へと収束する。
一点へと。
その一点、そこの席に座れば、
このスパーダの力の全てを掌握した事になり。
―――『スパーダに勝つ』事となるのだ。
706 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/25(月) 23:01:02.74 ID:S4+FJVwLo
そしてアリウスは、
覇王の力で最後の一押しをする。
ネロの記憶の中から、彼の憤怒を更に荒げる起爆剤を引き釣り出す。
『ソレ』は。
アリウスが後方に軽く跳ねた直後、
彼が一瞬前までいた空間に出現した。
その存在の姿は『天使の騎士』―――。
片翼は広げ、もう片翼は左手に巻きついては『盾』になっており。
右手には『金色の大剣』。
ネロ『――――――』
当然、ネロは『ソレ』が『誰』なのかを一目で判別した。
胸の中の痛みと共に。
昔からキリエと己と『彼』の三人で、一緒に過ごしてきた『家族』であり。
己の剣と志の『最初の師』であり。
ただ理想のため、皆のためと純粋に願っていたその心を、
教皇に利用されては裏切られて、そして散った非業の善人で。
呪われし魔剣教団の気高き騎士団長で―――。
己にとって兄とも呼べる存在で―――。
今は亡き、キリエの実の兄―――。
ネロ『―――クレドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!』
707 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/25(月) 23:02:15.65 ID:S4+FJVwLo
ネロは思わず。
『何か』を一つでも考える余裕すらなく。
無意識の内に、彼の名を叫んでいた。
怒りの咆哮にも、悲しみの絶叫にも聞える声で。
次いで、瞬時に前に踏み出して。
―――『兄』を叩き斬った。
ネロ『―――』
横一閃に。
かつて失った、もう『一つ』の大切な存在の亡霊を、
己が心の中から払い除けるかのように。
そして、その返り血を浴びながら。
ネロ『―――オオオオオオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!』
天に向かってその奥底からの激情を吐き出した。
それはそれは余りにも悲しげで、絶望と怒りと苦悶に満ち満ちて―――。
この瞬間、彼の感情の爆発と同時に。
それに伴って彼の内なる力も『最後の噴火』を起こし。
アリウス『―――ウ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!』
共鳴するアリウスの内でも全く同じ現象が起こり。
この場を満たすスパーダの力は、遂に臨界点を超えた。
遂に―――だ。
708 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/25(月) 23:04:27.84 ID:S4+FJVwLo
瞬間。
ネロ「―――ッッ―――」
光が霧散するように解ける、ネロの魔人化。
今の今までの激情が嘘のように引いていくのを感じる中、
異形の右手も輝きを失い、デビルブリンガーの発現も無くなり。
そして同じく、後方に跳ねていたアリウスの体も。
アリウス「―――」
覇王のそれから人型へと戻り。
左手にあった、魔剣スパーダと同じ形の紫の光剣も霧散した。
次いでフォルトゥナの街も、神像も、破断されたクレドの遺体もすべて掻き消え、
周りが漆黒の平らな地面に変わり。
この場を揺らしていたあの壮絶激昂極まりない光景が嘘だったかのような、
一瞬の完全なる静寂。
ここに全てが静止した。
そんな中、ネロは気付く。
今の今まで左手に握っていたはずの―――。
ネロ「―――なっ……?!」
―――魔剣スパーダが『消えていた』事に。
そして目にする。
消えていた魔剣スパーダが、『出現』する瞬間を。
―――アリウスの左手に。
709 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/25(月) 23:05:24.86 ID:S4+FJVwLo
一体何がどうなったのか、
この瞬間で理解するには誰であっても無理であったろう。
当然ネロの思考も、混乱して今にも停止しそうなまでに陥っていた。
だが、何が起こったかは理解できなくとも。
アリウスが今、何を味わっているのかは容易に知ることが出来た。
彼の様子で一目瞭然だ。
顔は蒼白になって強張り。
目は血走り。
体は、かなり力んでいるように小刻みに震えており。
その内面では、
最早桁外れの規模と濃度になった『スパーダの力』が激しく蠢いていた。
アリウスはその怪物を、己の精神力と覇王の力で、
何とか懸命に押さえ込んでいたのだ。
そう、何が起こったのかはわからずとも、
そんなアリウスの様相はネロにとって。
ネロ「―――レッドクイーン!!!!」
好機と見えた。
魔人化できずとも、デビルブリンガーが出でずとも。
魔剣スパーダが無くとも、『刃』はまだある。
長年の戦いで魔剣化してしまっているその愛剣が、
ネロの声に応えて飛翔して来ては、彼が掲げた左手に収まる。
そして一気に距離を詰め、アリウスに一太刀―――。
―――浴びせようと下瞬間であった。
710 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/25(月) 23:07:08.16 ID:S4+FJVwLo
ネロ「―――ッ」
何が『来たのか』は『見えなかった』。
だが。
何が起きたのかは、今度はわかった。
レッドクイーンは、中ほどからへし折れていた。
宙を舞う、その白銀の刃の先端。
続けて。
ネロ「…………?!」
血が溢れ出した。
『いつのまにか』斜めに裂かれていた、胸の深い切れ目から。
そして『驚き』から『痛み』に感覚がシフトするよりも早く。
アリウスが気付かぬ間に、
目の前にいた。
ネロ「がッ―――!!」
右手で、ネロの喉元を掴み挙げながら―――。
711 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/25(月) 23:08:16.04 ID:S4+FJVwLo
ネロ「ごッ…………ぐ……あ……」
次いでアリウスは、
血を吐くネロの顔を覗き込んでは。
アリウス『……残る……は……お前の魂だ』
搾り出すように、苦しげに。
己自身に向け確認しているかのように、一言一言。
アリウス『……「定着」……に……必要だ』
そう言葉を放ち、そして。
アリウス『―――寄越せ』
左手の魔剣を大きく引き、ネロへ向けて―――。
その瞬間だった。
突如、アリウスの背に二つの光の刃が激突してきた。
『金色の斬撃』が。
その放たれた方向に、ネロは見た。
アリウス越しに彼の斜め後方、100m程の所に―――。
―――両手に曲刀を握る、赤毛の少女が立っていたのを。
712 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/25(月) 23:10:24.16 ID:S4+FJVwLo
その時、ネロは彼女に何も『してあげられなかった』。
大丈夫か、とも。
ここから離れろ、とも。
そう声をかけてやることはできなかった。
いや、出来たとしても彼女は逃れられなかったであろうが。
『この状態』のアリウスからは、絶対に―――。
アリウスは、即座に彼女を『排除』した。
振り向きもせず、その右手からネロを話もせず、
そもそもそこから一歩も動かずに。
顔色一つ変えずに、まるで気付いてもいないかのように。
アリウスの背から放たれた赤黒い光の矢。
ルシアにとっても見えもしなかったのだろう、
彼女は一切の回避行動も取れずに、それに胸を射抜かれた。
そしてどさりと。
その場に倒れた。
糸が切れた操り人形のように。
ネロ「(―――ル―――シア!!!!!!!!)」
あっけなく。
しかし。
―――その数秒後だった。
不意にアリウスの表情が曇ったのは。
今の今までの苦痛の色ではなく、『疑問の色』に。
713 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/25(月) 23:12:35.90 ID:S4+FJVwLo
ネロ「―――?」
次いでアリウスは。
ネロを足元に振り落としては、
ルシアの方向に振り向き、空いたその右手を突き出した。
すると、ルシアの体が磁石に引き付けられるかのように飛翔し。
その右手に首をつかまれる形で収まった。
そしてアリウスは、ルシアの血に塗れた顔を覗き込んでは。
アリウス『……何を…………した?!!何……を?!』
同じく苦しそうに途切れ途切れだが、
先とは違い食いつくような勢いでそう言葉を放つ。
ルシア『2000年の……後に現れる……暗き血の絆に導かれし狩人……』
それに対し、ルシアは小さく笑いながら。
虚ろながらも確かな調子で。
ルシア『……そして……許されざる護り手を待て……』
そう口にした。
その言葉が何なのかは、
アリウスも地面に倒れこんでいるネロも知っていた。
かつてスパーダが『狩人への道標』と共に残した、
『覇王に纏わる予言』とされている言葉だ。
そう、『予言』だ。
714 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/25(月) 23:14:49.31 ID:S4+FJVwLo
そしてルシアは、満足げで穏やかな笑みを浮かべたまま。
ルシア『―――覚えてますよね?』
そう、言葉を続けた。
ルシア『私を……「何のため」に作ったか―――』
アリウス『―――』
―――『何』をするために『χ』作ったか―――。
イギリスのウィンザーであの日。
ルシア『あの日……私が何をしたか……―――』
アリウス『―――……まさ……か……』
『χ』を使って『何』をした?
―――『χ』を通して、何に『干渉』した―――?
715 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/04/25(月) 23:19:10.05 ID:S4+FJVwLo
χが作られた経緯と、スパーダの血に纏わるこの状況と。
そして、『許されざる護り手』と『暗き血の絆』という予言の内容。
それらが『暗示する事』を前に、アリウスの顔が遂に硬直した。
今まで、生涯一度も『止まる』ことがなかったその思考が、
ここに『停止』したのだ。
そんな彼に向け、
ルシアはいかにもわざとらしく小首を傾げては、
非の打ち所のない最高の笑顔で。
ルシア『――――――――――――「お父さん」?』
そう呼んだ。
これ以上無いほどにたっぷりと『皮肉』を混めて。
次の瞬間。
アリウスの体から、オレンジ色の光が漏れ出した。
アリウス『…………こ…………の―――!!!!!!!!!!』
アリウス自身の『最高傑作』の強烈な一撃によって、かき乱された覇王の力。
そこから連鎖して今、彼の内にて―――。
―――『全ての崩壊』が始まった。
―――
716 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/04/25(月) 23:20:06.74 ID:S4+FJVwLo
今日はここまでです。
次は木曜か金曜に。
717 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)
[sage]:2011/04/25(月) 23:21:06.60 ID:Oe1l66klo
なんという引き
おつおつ
718 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)
[sage]:2011/04/25(月) 23:23:04.46 ID:X/x0YE2F0
おつー
719 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)
[sage]:2011/04/25(月) 23:25:21.57 ID:NN9muCCio
乙パーダ
720 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/04/29(金) 18:38:21.41 ID:LoGf/81So
すみません今日の投下はありません。
この連休中には投下します。
721 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage]:2011/04/30(土) 00:11:37.77 ID:+2liYn39o
ほい。期待しときますよ
722 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/05/01(日) 18:31:39.10 ID:7rF202we0
乙、ところで3日前にDMCのスタッフが作成したエルシャダイが発売されたわけだがこれはさすがにクロスできないかな?
紀元前に堕天使騒動があってそのあと今回の一軒でまたイーノックが来るみたいな感じで。
ああ、でもこれは天使や神の使いが出てくるだけで世界観は全然違うからさすがに無理かな・・・
723 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/05/01(日) 21:55:19.52 ID:O+BupLuao
たのしみにまってます
724 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)
[sage]:2011/05/01(日) 23:30:36.27 ID:+1U2igZo0
と、とりあえず鬼武者先生をだなぁ
725 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
:2011/05/02(月) 13:41:13.42 ID:Bw3CygtZo
エルシャダイを買わないとどうしようもないから無理だろwwww
そもそも最初からもうプロットは組んであったとか言ってなかったかね
726 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/05/02(月) 17:10:27.01 ID:K4DLkJxio
米軍のあの人ですね、分かります
727 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)
:2011/05/03(火) 09:07:08.31 ID:Kh8WTBfV0
エルシャダイはない
728 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)
[sage]:2011/05/03(火) 09:24:36.75 ID:jwKF49eAO
>>727
連休中なageるのは…
729 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)
[sage]:2011/05/05(木) 00:38:59.94 ID:k/C8Gop00
(`・ω・´)大丈夫だ、問題無い
キリッ
730 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/05/07(土) 11:32:06.51 ID:8UHfBPxI0
まだかな
731 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/07(土) 23:44:59.01 ID:8tI4DUueo
―――
とある倉庫の中にて。
白井黒子は一服つくように、
壁際にて深く息を吐きながら。
血と鼻を突く医療薬品の匂が充満している、薄暗い倉庫の中を見回しながら。
米軍の衛生兵と先ほど合流してきた黒髪の少女と共に、
負傷者の手当てを一通り済ませたところだ。
先ほどまでここは慌ただしい空気に包まれていたが、
ある程度済んだ今は穏やかになりつつある。
その反動か、手伝わされた無傷の民間人達は呆然と、
グッタリとしながら座り込んでおり。
中には限界に達したのか咽び泣いている者も。
一方で兵士達は数人が半開きの扉のところで外を警戒。
その他は倉庫の中にて、タバコを噴かして一服、装備をチェック、
負傷した兵のところを周ってはバカな掛け合いを交わす等々、この状況でも
それぞれが慣れた風に各々のペースを保っていた。
衛生兵はついさっき腕が飛んだ兵の傍にて、
別の兵士と何かを話しており。
その負傷した兵士を挟んだ反対側の位置には、
屈み込んでは心配そうな面持ちの佐天。
そんな佐天の背後にて、手についた血を自分の戦闘服に拭っている黒髪の少女。
そして御坂は倉庫の奥で、米特殊部隊のリーダーと何やら話し込んでいた。
732 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/07(土) 23:48:12.60 ID:8tI4DUueo
そんな場の空気に従うように、
黒子の精神も徐々に落ち着いて来る中。
黒子「……痛……」
それに比例して思い出したように強まってくる痛み。
包帯でまとめて固定した、己が左手の薬指と小指からだ。
そこを発信源として、脈に合わせて激痛がリズムを刻んでいる。
その左手先に視線を落としながら、
壁に背を向けて寄りかかろうとすると。
黒子「…………」
腰辺りで何かがつっかえた。
それが何なのかは、
確認しなくても瞬時に思い出すことが出来た。
ここに来る際に、
とりあえずとベルトに無造作に差したあの大きな杭だ。
黒子「……」
右手で杭を抜き取り、改めて壁に寄りかかりながら、
黒子はその右手の物体に視線を向けた。
733 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/07(土) 23:52:59.14 ID:8tI4DUueo
今の今までは投擲用ナイフで充分戦えてたし、
ギリギリの総力戦となった先でも、御坂の登場で結局使わずじまい。
逆にここまで来てしまったら、
むしろこのまま使わないで戦いが終わってしまう気がする。
いや、それ以前に自分が使っても、劇的に何かが変わりそうにも思えない。
この杭での戦い方はどうなるかと言えば、
手に持ってテレポートしながら刺す。
テレポートで飛ばして刺す。
今までと何一つ変わらない。
その程度だ。
なんともパッとしない使い方だろうか。
宝の持ち腐れとは、正にこのような事を言うのだろう。
黒子「…………」
自分にはもったいない、と感じてしまう。
レディが口にした値からも、相当な代物だという事がわかる。
この一本で、御坂が全財産叩いて買ったあの『弾薬袋』の数十倍もの値なのだ。
果たして、自分程度の者がそんな超良質な道具の効果を100%引き出せるかどうか。
その自問に対しては、黒子は首を横に振って即答する。
御坂と『同じ』になれてたらこの手で扱えてたかもしれないが、
戦士にはなれない、というのがはっきりと突きつけられてしまった以上、それも無い。
この素晴らしき武器は、『戦士になり損なった』黒子には身に余る一品であった。
黒子「…………」
そうやって黒子は暫しの間、遠い目で杭を眺めた後。
切り替える様にスッと視線を上げては、杭を腰のベルトに差し込んだ。
帰れたらレディさんに返そう、と静かに思いながら。
と、その視線を上げた先にはちょうど。
御坂「黒子〜、ちょっと来て」
手招きしてこちらを呼ぶ御坂の姿があった。
734 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/07(土) 23:54:15.88 ID:8tI4DUueo
その頃倉庫の別の一角では、
佐天がジッと睨むようにして見つめていた。
何やら会話している衛生兵達を。
腕を失った兵士の傍らにて屈みながら。
この兵士の容態は一体どうなのか、がとにかく知りたいのだ。
一通りの処置は終わったようだが、兵士はぐったりして気を失っているよう。
顔色も蝋人形のように蒼白で、
僅かな胸の上下だけがまだ生きていることを辛うじて伝えてくれている状態なのだ。
佐天「あ、あの!」
そしてたまらず、我慢の限界とばかりに声を飛ばした。
佐天「えっと……あっ……」
が、今度は言語の壁に焦り。
佐天「……あー、ヒー、イズ、オーケー?グッド?」
中々しっかりとした文が浮かんでこず、
口から出てくるのは簡素過ぎる英語のみ。
衛生兵は苦笑しては肩を竦めつつも、
何やら答えてくれてはいるもやはり聞き取れず。
とその時、背後から。
「とりあえずは大丈夫」
そう、簡単に意訳してくれた声があった。
735 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/07(土) 23:56:14.68 ID:8tI4DUueo
先ほど黒子に連れられ御坂と共にここに来た、
あの黒髪の少女の声だった。
黒子と同じ『感じ』の服を着込んでいることからも、
佐天の目からでも仲間だということはわかる。
佐天「!」
その無表情な彼女は、
血に塗れた手を太ももに拭いながら。
「かなり危なかったけど、一応安定してるよ。今は」
佐天の横に歩いてきてはぶっきら棒な声色で続ける。
佐天「本当!?本当に!?」
「うん」
佐天「―――はっ……良かった…………」
佐天はそう、答えを再度確認をしては、
その場にへたり込んで大きく息を漏らし。
小さく安堵の笑みを浮かべた。
「……」
そんな佐天を、黒髪の少女は立ったまま黙って眺めていた。
特に表情に変化を見せぬまま。
血塗れた私服姿の佐天を。
そして10秒程経った後、再び口を開いた
「ところであんた何者?ここの日系人じゃないくさいし?ウチのメンバーでもないし」
これまた無愛想な声色で。
736 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/07(土) 23:58:58.03 ID:8tI4DUueo
そんな冷ややかな空気の問いに、
佐天は彼女を見上げては、
佐天「あ……さ、佐天涙子です。柵川中学一年の……」
一泊置いて落ち着いて答えた。
「柵川中学って、もしかして学園都市の柵中?」
その答えに、黒髪の少女はピクリと眉を動かした。
ちなみにこれが、佐天が初めて見た彼女の表情変化であった。
佐天「はい」
「……」
佐天「……」
そして再びの暫しの沈黙の後。
「…………何してんのこんな所で」
その問いには、佐天は答えられる言葉を持ち合わせてはいなかった。
佐天「何…………してるんでしょうね私……」
苦笑いしながらそう、佐天涙子は口にした。
真っ赤な己の両手に視線を移しながら。
巻き込まれて巻き込まれて、
無我夢中でよくわからぬままここに至るのだ。
何をしてるか、なんてものは佐天自身わからなかった。
『何のため』に、は一応答えられるが。
737 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/08(日) 00:00:48.24 ID:+UusfXoNo
そう己の両手に視線をおとした佐天を見て、
黒髪の少女はいきなり屈んでは。
床に散らばっている医療類の中から、
ウェットティッシュに似た傷口洗浄用のシートを一枚。
「ん」
取り出しては佐天に差し出した。
佐天「あ……ありがとうございます」
「あとその服はもう諦め。そこまで染まったら落ちないよ」
佐天「…………」
軽く会釈してはそのシートを受け取り、手を拭く佐天。
そんな彼女に向け、少女は相変わらずぶっきら棒に口を開く。
「ねえ。レールガン達とプライベートで面識あるの?」
佐天「?」
「名前で呼んでるから」
佐天「……はい。いつも良くして貰ってます」
「友達?」
その問いには。
佐天「はい」
佐天は即答した。
当たり前のように、しっかりとした声で。
738 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/08(日) 00:03:28.20 ID:+UusfXoNo
「…………」
そして再度の沈黙の後。
「実は私も元柵中でね」
ボソりと、少女が独り言のように言葉を紡ぎ始めた。
「二年の夏に……色々あって転校したけど。まあそれで、その頃からの友達が私にもいたよ」
佐天「……」
佐天は敏感に気付いていた。
『友達がいた』、そう彼女が過去形で表現した事に。
「そいつも一緒に転校してね、んで学校だけじゃなく『本業』の方でも同じチームでさ」
佐天「……」
「どこでどんな仕事をするにも常にペアで、この大作戦でも『同じチーム』に配置」
佐天「……」
「そしてこんなところまで一緒に来たくらいの、腐れ縁な友達」
佐天「…………」
常に一緒、常にペア、
そう口にする今の彼女は『一人』であった事にも。
佐天はその点を聞こうとはしなかった。
わかってしまったような気がするから。
その先は聞くべきことではない、と悟ったから。
739 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/08(日) 00:05:18.17 ID:+UusfXoNo
御坂「Whiskey 5 さん!ちょっと来て!」
とその時、倉庫の奥から響いてくる御坂の声。
その言葉を耳にして。
「ん、終わり」
少女は立ち上がりながら、そう締めた。
無表情だった顔にニコリと笑みを浮かべて。
形は完璧だが温もりの無い、いや、以前はあったのに今は枯れてしまっているような、
そんな乾燥しきった笑みを。
そして『終わり』という単語の中にある意図も佐天は悟った。
この『会話』ひとまずの終わりと。
いつも一緒だったとある二人の『物語』が終わった、という二重の意味を含んでいた事を。
佐天「あの……!」
そこで佐天は、跳ね上がるように立ち上がっては。
佐天「……ルシアって女の子のこと、何か知ってませんか?」
今度はこちら側からの『友達のこと』を、少女の背中に投げかけた。
「るしあ?」
黒髪の少女は半身振り返っては、語尾を上げた疑問系でルシアの名を繰り返し。
佐天「赤毛でちっちゃくて綺麗な女の子で……この島に来てから何か、聞いてませんか?」
「さあ。私は何も」
そう、元のぶっきら棒な調子に戻った声で答えては。
クイッと、向こうの御坂のほうに首を傾けて。
「レールガンに聞いてみれば」
そう言い、着いてくるよう促した。
佐天「……はい」
740 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/08(日) 00:07:46.68 ID:+UusfXoNo
米特殊部隊のリーダー、御坂、黒子、その輪に黒髪の少女が合流し、
佐天はやや外れるように後ろに。
次いでリーダーが口笛を鳴らした後、
「少尉。ドク」
そう彼らに向け指で来るよう指示しながら呼びかけ。
「現在の状況と今後の件を確認したい」
そして彼らが輪に加わった所で、リーダーが皆に向けそう本題を切り出した。
(当然佐天だけは、言葉の壁でまるっきり理解していなかったが)
「まず負傷者の状況は?」
「他は二、三日は耐えられるでしょうが、」
リーダーの言葉に、
まずドクと呼ばれている衛生兵が口を開いた。
「『奴』はもって2時間です。早急に手術可能な施設に運ぶ必要が」
腕を失った隊員の方を、
人差し指と中指の2本で手刀を入れるような仕草で指しながら。
「島外への通信が回復できれば、本土から救護機を。片道40分といったところですね」
そこで少尉が口を開いたが。
御坂「この通信状態は、私達が扱ってる件が終息しないと回復しないと思うわよ」
「……と言うと?」
御坂「『敵の大ボス』がこの状況を作り出してるらしくて」
741 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/08(日) 00:11:43.70 ID:+UusfXoNo
黒子「それにそもそも、島外の通信が回復できたからといって、外部からどうにかできるとは思えませんの」
とそこで黒子も更に付け加え。
「私達を運んだ超音速機、結局一機も離脱できなかったし。無理に決行すれば無駄な犠牲と物資の損失を招くだけ」
黒髪の少女も後に続いた。
御坂「つまりどの道、私達の仕事が何らかの決着を見せない限りどうしようも無いの」
「……では、その決着が着くまでの時間は?」
御坂「恐らく、あと10分もしない内に」
その言葉で一同が暫し押し黙った。
そして沈黙の中でより際立つ、
倉庫の外、彼方からの凄まじい地響きと重苦しい威圧感。
御坂の言葉を裏付けるかのような戦囃子。
「……当然、お前達にとって『成功』と呼べるような結果でなければ、我々にとっても状況は好転しないのだな?」
そんな沈黙の後、再び話を切り出したのはリーダー。
御坂「もちろん」
それに対し御坂は一言、そう即答した。
742 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/08(日) 00:20:14.58 ID:+UusfXoNo
それ以上、リーダーはこの件については聞こうとはしなかった。
結果の見込みはどうか、などを聞く意味は無いと判断したのだ。
「そうか……では、」
数秒ほど思索混じりの間をおいた後、リーダーが話を切り替えかけたその時。
御坂「―――」
突如御坂が扉の方へと勢い良く振り向いた。
全身から、微弱な電気が大気に走る音を鳴らしながら。
その只ならぬ空気を周囲の者達は即座に読み取とり。
黒子は佐天の前に移動し、
やや乱暴だが仕方の無い動作で彼女を床に伏せさせ。
リーダーは肩にかけていたアサルトライフルを手に取りながら口笛を鳴らす。
それを合図に、隊員達が弾けるように動き出しては即座にそれぞれの位置に。
そして張り詰めた静寂の中。
御坂「…………100m。こっちに近づいてるわよ」
皆が息を殺し、外の気配を暫し伺っていると。
突如その屋外から声が響いてきた。
「―――Charlie 4ォ!!どこにいやがンだ!!?Charlie 4ォォォ!!!」
最高にイラついているとわかる、乱暴な女の声が。
御坂「……………………ウチのメンバーみたいね」
そんな声を聞き、御坂は肩を竦めながらそう口にした。
聞えてきた声のイントネーションに『既聴感』と言うべきなのか、
どこかで耳にしていたような感覚を覚えながら。
743 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/08(日) 00:23:13.89 ID:+UusfXoNo
「私が出るから続きしといて」
黒髪の少女がそう口にして、扉の隙間から能力を使って一瞬で飛び出して行き。
そして再び各々の位置に戻り、それぞれやっていたことを再開した。
「では……我々はとにかく待機するしかないんだな?」
黒子「ですの」
御坂「各チームからの負傷者も今ここに向かってきてるだろうから、現状ではここに留まるべきね」
黒子「ここはかなり頑丈ですし、合流してくるメンバーで戦力も増強可能ですの」
「お前達と同じ能力者か。それは頼もしいな」
「姪っ子と同じくれぇの子達頼みとは、全く我々も情けないもんですね」
黒子「いえ、経験的にはそちらの方が豊かだと思いますので、お互い様ですの」
「私達って単純な戦闘能力は高いけど、戦術に関してはぶっちゃけ凡人だし」
黒子「それに皆満身創痍のはずですので、あまりご期待なさらぬよう」
と、その時。
先ほどの怒号を撒き散らしていた声の主が、
黒髪の少女に連れられて倉庫の中に入ってきた。
その主はかなり小柄な、前髪を揃えた黒髪の少女であった。
黒子達と同じ戦闘服を着ているが、
黒いパーカーを袖を通さずにフードのみ被って羽織っており。
腰から背中にかけて、一見するとバックパックにも見える『何か』を装着していた。
良く観察すると、折り畳まれた『棒』のような物体がいくつもついている何らかの機械の類に見える。
そして、フードの下の顔は。
先ほどの黒子の言葉を裏付けるかのように、右半分が真っ赤に染まっていた。
頬や額周りなどは、血塗れているだけで特に裂傷等は見当たらないため、
どうやら右目自体から出血しているようであった。
744 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/08(日) 00:25:20.80 ID:+UusfXoNo
「ドク。看てやれ」
「了解」
と、そこでフードの少女は、
その駆け寄った衛生兵をひとまず目で制止して。
息荒く、苦悶とイラつきの混じった唸り声を漏らしながら、
は御坂達の方へと歩んで来。
「……Charlie 4?」
黒子「わたくしですの」
「Juliett 4……合流しに来た」
黒子「了解。Juliett 4が合流」
そう形式的な会話を済ませた後、
その場にどかりと座り込んだ。
「……あァ゛……糞痛ェ……見えねェ」
そして衛生兵の処置を受けながら、そうブツブツと愚痴る。
「畜生……眼も全換装しとくンだった……」
御坂「………………」
御坂にとって『なぜか』、
やけに癇に障るイントネーションで。
745 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/08(日) 00:28:24.31 ID:+UusfXoNo
「私はWhiskey 5」
と、そこで黒髪の少女が自己紹介したのに続き、
御坂「あ、私は」
そのイントネーションに対する感覚は一旦おいておき、
己も名乗ろうとしたが。
「知ってるよ……レールガン、『オリジナル』様だろ」
フードの少女はボソリと、端正な顔を顰めつつそう返答した。
脂汗と血を滲ませながら。
御坂「―――……」
その返事は、特に煽っているつもりでもなく普通に答えたものであろう。
だがその言葉と言い方は、
御坂の激情に火を容易に付けてしまう類のもの。
少し前の御坂ならば、
嫌悪感や怒りを露にしていただろう。
だが『今の御坂』は表情をほとんど変えぬまま。
御坂「そう」
そう返答しただけであった。
隣にいた黒子でさえ、その芯が太くなった御坂には
特に違和感を抱くことは出来なかった。
黒子「……」
このフードの少女が口にした『オリジナル』という言葉が、
やけに頭に引っかかってはいたが。
746 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/08(日) 00:31:17.41 ID:+UusfXoNo
「……なァ、ところでどォなってンだよ。AIMストーカーの通信網ダウンしてンぞ」
御坂「…………あ〜」
黒子「……そういえば、その件も問題ですの」
御坂「土御門の話だと、メインの作業でもAIMストーカーの網が必要らしいのよ」
「各ランドマーク掘り抜きの件だね」
御坂「そう。それで、とりあえずこのAIMストーカーの件は私に任せて」
黒子「と言いますと、お姉さまはここに残らないので?」
御坂「ええ。矢面に立つために私は来たんだしね」
肩にかけていた大砲を手にして強調するように、
杖の如く床を叩き。
御坂「レベル5が動かないでどうするのよ」
「はッ、レベル5ったってたかが『電撃姫』だろ。AIMストーカーの力にゃ干渉できやしねェよ」
とそこで、床にあぐらをかいているフードの少女が、
今度は挑発的な口調で言葉を放ったが。
それに乗るように。
御坂「―――私は『オリジナル』ですから」
御坂もやや煽るような口調でそう返した。
747 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/08(日) 00:32:14.59 ID:+UusfXoNo
黒子「(また『オリジナル』……?)
「……あァ、そォ」
そしてその言葉で、何かを納得したように呟くフードの少女と。
「確か並列化してるっていうあの……アレに今も繋がってるの?」
そう問う黒髪の少女。
御坂「音声通信だけだけどね。色々策を考えてるのよ」
それに対し、御坂は耳の受信機を指先で軽く叩きながらそんな風に答えた。
黒子「(繋がってる?並列化?)」
それらの会話を黙って聞いていた黒子の脳内では、
悶々と数々のワードと疑問が渦巻くが。
だが、ここの場で黒子は何かを問おうとはしなかった。
今の御坂が感情を制御する忍耐を持っている一方で、
黒子の精神もそれなりに基盤が固くなったのだ。
場をわきまえずに、
個人的な事をこれ以上出すほど幼稚ではない。
御坂の邪魔は決してしてはならないのだ。
黒子「……」
黒子は黙って飲み込んだ。
その蟠りを。
748 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/08(日) 00:34:29.85 ID:+UusfXoNo
佐天「あの!御坂さん!」
そこで会話の中に生じた間を見計らって、
佐天が後ろの方にて声を挙げた。
御坂「ん?」
佐天「ルシアちゃんのことで……何か聞いてませんか?」
御坂「ルシアちゃん……私が最後に見たのは、アリウスと戦ってる所が……かな」
佐天「それでどうなったんですか?」
御坂「さあ……その後の事は……」
佐天「……そう……ですか」
御坂「情報集めてみるから、何か―――」
とその時。
再び御坂の表情が一変した。
だが、今回は周りの者が警戒位置に着くようなことは無かった。
先ほどのような『警戒態勢』ではなく、
何かを注意して聴いているような仕草だったからだ。
耳の受信機を指で軽く押さえ、ピクリと目を鋭く細めて。
黒子「……どういt」
そして周りの者達が訝しげな表情で伺っていたところ。
御坂「―――ごめん!行って来る!!」
御坂は突如そう声を挙げ、電撃を迸らせては扉の方へと跳ね飛び。
御坂「黒子―――」
と、そこで彼女は一瞬振り向き、黒子に向けて。
749 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/08(日) 00:35:17.18 ID:+UusfXoNo
黒子「―――?」
黒子が何を思ってるか。
黒子が何を感じているかは。
御坂「―――帰ったらちゃんと話すから!」
黒子「―――」
お姉さまはやはりお見通しであった。
御坂美琴はその言葉を残し、扉の隙間から飛び出て行った。
黒子「……ふふ、ええ、お待ちしておりますの」
その消えていった姿に向け、
黒子はそう言葉を向けた。
小さく、呆れがちにも見える笑みを浮かべながら。
とそんな黒子に向けフードの少女が口を開いた。
眼帯状に包帯が巻かれてある右目を押さえながら。
「………………もしかしておたくら、レズってンの?」
黒子「いえ。わたくし側だけですの」
750 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/08(日) 00:36:51.52 ID:+UusfXoNo
「百合って良いよね。私はその気は無いけど。良いよね。良い」
そして黒子の返答と、肯定的な黒髪の少女の言葉に。
「…………げェ」
舌を出してそんな呻きを漏らした。
とその時。
戻ってきたのか、
扉の向こう側から飛び出したばかりの御坂がひょっこり顔を出し。
御坂「―――黒子!やっぱあんたも来なさい!」
黒子「……は?……はい?いえ、しかし……」
御坂「命令よ!『Charlie 4』!」
ずる賢そうな笑みで、
そう強引に同行するよう命を放ち。
黒子「……りょ、了解ですの!」
御坂「Whiskey 5!Juliett 4!ここを任せたわよ!」
「了解」
「チッ……了ォ解」
黒髪の少女とフードの少女にこの場を任せ、
そして米特殊部隊のリーダーと目配せしては軽く頷き。
佐天と目を合わせて。
御坂「大丈夫。きっと大丈夫だから」
そう彼女に声を投げかけては今度こそ、この倉庫から離れていった。
『後ろの定位置』に白井黒子を従えて。
―――
751 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/05/08(日) 00:37:21.84 ID:+UusfXoNo
今日はここまでです。
次は月曜か火曜に。
752 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/08(日) 00:55:45.61 ID:4duxGPkh0
1乙
753 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/08(日) 01:12:16.71 ID:4blx0oo/0
乙
754 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)
[sage]:2011/05/08(日) 01:37:05.46 ID:8IP23hKUo
乙
755 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2011/05/08(日) 01:42:35.97 ID:rU5XgfCgo
新約で出てきた浜面の噛ませにされたギャグみたいな名前の子か
756 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)
[sage]:2011/05/08(日) 01:44:44.88 ID:8IP23hKUo
>>755
股間に窒素爆槍ぶち込まれてェか
757 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)
[sage]:2011/05/08(日) 19:30:00.38 ID:Lrvrxxvg0
おっつー
758 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/09(月) 18:46:23.73 ID:4H2o99TDO
窒素爆笑
759 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/11(水) 01:52:29.32 ID:oWfNi2Njo
―――
空から差し込む、柔らかく穏やかな陽光。
その下に広がる荒れ狂う『影の大海』。
そんな矛盾した退廃的な情景が、
とある一棟のビルの周りに広がっていた。
『黒豹』が生み出す『影の波』は無数の刃となり槍となり、
何もかもを穿ち破壊していく。
その合間を軽やかに縫っていく清きの光、『白狼』。
ここでは今、彼ら二柱の圧倒的な力がぶつかり合っていた。
そしてこのせめぎ合いは傍から見れば互角に映るだろうが、
(この速度を判別できたらの話だが)、
実際はそうでもなかった。
攻撃のみに専念すれば良いのと、
攻撃と防御両方を意識するのとでは、難度がまったく違うのも当然。
土御門『―――……』
その『不利な後者』である白狼、土御門は、
影の鉄壁防御を破る策を未だ見出せずにいた。
760 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/11(水) 01:54:16.37 ID:oWfNi2Njo
もしかすると、あの影の防御には弱点が無いのだろうか。
正真正銘の『絶対なる鉄壁』なのか。
いや。
絶対などというものなど、あるわけが無い。
この黒豹よりも遥かに強大であろうスパーダの力だって、
かつて魔帝を殺しきれなかったという事実が『絶対』では無いと裏付けている。
そしてその要因である魔帝の『創造』の力だって、
無数の次元を隔てた程に格下も格下である『小物』、上条当麻が持つ幻想殺しで崩壊。
そんな幻想殺しも、純なる力の塊の前には役立たず同然。
つまり『例外が一つもない絶対』なんて物は存在しない。
『万能完全無欠』なんて存在は実在しないのだ。
魔帝やスパーダ等、そんな天辺の領域でも完全なる『絶対』ではないのだから。
そうくればこの黒豹の鉄壁だって―――とは言えるものの、
その弱点を見つけられなければ意味が無いが。
土御門『―――チッ』
影で形成された槍や刃、そして大きな手を掻い潜りながら、
慈母神の御業『筆しらべ』を繰り出すも悉く『否定』。
黒豹の影はこちらの攻撃をまったく受け付けない。
様々な角度、方向、タイミングで多種多様な筆しらべを放ったが、
どれも効果は無い。
弱点に繋がる情報は依然、ただの1つも掴めていなかった。
761 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/11(水) 01:55:34.11 ID:oWfNi2Njo
『目』には、黒豹の一挙一動のたびに多種多様な情報が映る。
だが肝心の所でどうしても認識が及ばず、理解することができない。
わかるのは上辺だけで、
その中身が全く判別できない。
なんとか認識できた情報も断片化されたままで、その先へと思考が繋がらない。
慈母の力に土御門元春の精神が追いついていなかったのだ。
慈母自身からすれば、
目に見えて求めている答えが映っているのかもしれない。
かの忠行からの賀茂家三代や、
安倍晴明のような超伝説的な陰陽師ならば、容易に慈母の認識を汲み取る事ができただろう。
専門外といえでも、
オッレルスのような本物の天才にはあちこちにヒントが見えるのかもしれない。
だが、土御門は違う―――彼らとは違う。
土御門にはまだ見えなかった。
土御門『(何か、何かを。何でもいいから何かを見つけろ)』
とにかく何でもいいから、
『思考に繋げられるレベル』の簡単な情報を見出さねばならない。
思考の着火点たる『きっかけ』さえ手に入れられれば、
鈍足であろうとも思考は先に進むのだから。
762 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/11(水) 01:56:43.01 ID:oWfNi2Njo
とは言うものの、この攻防の中で、
『攻防以外』に意識を向けるのも実際はかなり厳しい。
こちらのテンポを把握しつつあるのだろう、
黒豹の攻撃パターンは徐々に厳しいものになりつつあり、回避することが難しくなってきている。
影の槍や刃が毛先を掠る頻度も増えつつあり、
切断された白毛がダイヤモンドダストのように煌きながら中を舞っていく。
土御門『―――ッ!』
そして遂に『追いつかれる』。
僅かな反応の遅れによって、
槍の切っ先が白狼の腰上辺を切り裂いていく。
ただ、見た目は掠り傷程度であり瞬時に再生。
だがそんな見た目からは全く想像がつかない、
まるで骨まで抉られたような激痛がしつこく残留する。
だが白狼は、唸り声の1つも漏らさなかった。
いや、漏らす暇が無かったと言った方が良いか。
その直後、ずるりと黒豹の胴が斜め上に延びては。
間髪入れずに、その先端の上半身が白狼めがけて急降下。
そして白狼まで30m、この速度では紙一枚分にも満たない距離の所で、
黒豹の上半身が一気に『広がった』。
さながら一瞬で上方が黒く塗り潰された、
巨大なカーテンが出現したかのような光景―――
763 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/11(水) 01:57:53.14 ID:oWfNi2Njo
その『カーテン』はカーテンでも、白狼にふわりと覆いかぶさるなんて事はなかった。
白狼が四肢を駆使して、瞬時に後方に跳ね飛んだ直後、
影のカーテンは大地に激突した。
全体が刃となり槌となり、地面にめり込んでは半径50m程を一気に抉り取る。
いや、抉り取るという表現は語弊があるだろう。
少なくとも抉り取るという言葉から感じられる、物質間の『摩擦』は一切無かったのだから。
振動も轟音も、衝撃波も無い。
大地に穿たれた大穴、
一瞬前までその空間を埋めていた『抉られた分』はどこにも無い。
瓦礫となって爆散したのでも、瞬間的な圧力で蒸発したのでもない。
布で覆って物を消す手品のように、文字通り消失していた。
土御門『(……なっ……)』
アレは危険だ。
そう、この身に授かっている慈母の力も警鐘を鳴らす。
先ほど鏡で防いだ突撃といい、
黒豹本体から繰り出される攻撃はやはり次元が違う。
周りの無数の影の槍や手とは、破壊の質がかけ離れており、
その瞬間的な力の量は、慈母から授かっているこの力をも上回っている程だ。
ただこの点は、別の見方をすれば好ましいことでもある。
存在の基礎となる『本体』がある、
もしくはそれに類する『中心点』があるということなのだ。
そこを潰しさえすればこの黒豹だって死ぬか戦闘不能に陥るであろうし、なによりもそこに。
アリウスが隠した―――『制御基盤の核』もあるはずなのだから。
764 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/11(水) 01:58:39.02 ID:oWfNi2Njo
土御門『―――』
と、ここで土御門はふと大事な事に気付いた。
黒豹の上半身は、カーテン状に形を変え大地にめり込み、
そして周囲の影に溶け込んだ。
境などまるっきりわからない。
そして下半身も、同じく周囲の影に。
―――となるとその『本体』は今、どこにいる?
その点に思考が至ったのと同じくして、白狼の真後ろ僅か4m。
そこに地面に落ちている影の中から出現した。
土御門『(―――しまっ!)』
黒豹が。
ずるりと巨体の上半身を出現させ、そのまま猛烈な勢いで体当たり。
先と同じく全身を刃にしての。
即座に白狼も回避行動に移るも、
不意打であるため接触を免れることはできず。
背にあった鏡が間に入ったものの、
その白き獣体は弾き飛ばされてしまった。
765 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/11(水) 01:59:37.27 ID:oWfNi2Njo
その光景は、白い光線が放たれたようなものであった。
光を纏う白狼の体は凄まじい勢いで吹っ飛んだが、そのまま地面に叩きつけられることは無く、
四肢を踏ん張っての強硬着陸などもしなかった。
筆しらべの『風神・疾風』で風を操っては体性を建て直し、
シルビア達がいるビルから100m程の地に、身を翻して軽やかに着地―――
土御門『……くっ……』
―――までは決まったが着地した途端、後ろ足の一本がもつれてしまった。
鏡があったおかげで刃で抉られることはなかったものの。
先ほどは受け流したが、今回は衝撃をストレートに受けてしまっていたのだ。
鏡が押し付けられた腰から背中にかけて触覚が『怪しい』。
いやそれどころか、実感している以上にダメージを受けていた。
慈母の効果で苦痛の類の『主張』がかなり抑えられているのであって、実際は満身創痍に近いかもしれない。
まず依り代である土御門元春自体が、慈母の力の大変な負荷で限界状態なはず。
いくら慈母が優しく丁寧にしてくれていたって、
その点だけはどうしようもないのだ。
とその時。
シルビア『土御門?土御門!大丈夫か!?』
上からこちらの姿をやっと捉えたのであろう、シルビアからの魔術通信が土御門の脳内に飛び込んできた。
もちろん上方のシルビアの目に映っているのは、白狼が低い姿勢で唸っている光景だろうが。
最初の呼びかけが疑問系だったのも、
その容姿を見て一瞬迷いが生じたからであろう。
766 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/11(水) 02:00:22.05 ID:oWfNi2Njo
土御門『……こっちの事は気にするな。それよりもそちらはどうだ?』
シルビア『……オッレルスが術式の作成に入ってる。進み具合はわからん』
土御門『完成したら俺にリンクしろと伝えろ』
シルビア『わかった』
土御門『では頼んだ。俺はそれまであのドラ猫とジャレていよう』
シルビア『あっ待て。もう1つ話がある。あんたから預かった例の通信機、全く通じないんだが』
土御門『……は?何?』
そのシルビアの思わぬ言葉に。
土御門はそんな脳内の返答と共に、
白狼の肉体の方でも思わず喉を鳴らしてしまった。
通信機とはもちろん、
この能力者部隊間の通信網に接続する軍用イヤホンマイクの事。
滝壺理后が形成するネットワークの、だ。
土御門『通じないだと?』
シルビア『ああ。電源?は入っているみたいなんだが返答が無い。向こうに気配が無い。誰も聞いていないんじゃないか?』
続くシルビアの言葉で、更に土御門の思考が白くなっていく。
オッレルスの術式が完成次第、各ランドマーク上で待機してるチームにやってもらう事がある。
そのためにシルビアに通信機を託したのだ。
それが通信不可?
通じない?
なぜ?
まさか―――滝壺が―――?
土御門『―――』
767 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/11(水) 02:01:08.47 ID:oWfNi2Njo
―――とその時。
突如土御門の後方20mの場所で閃光が煌き、巨大な爆発が起こった。
それを引き起こしたのは、文字通りの『光の矢』。
シルビアがビルの屋上から放ったロングボウだ。
影の動きを報せるために、言葉にするよりも速いと彼女が放ったのだ。
土御門『ッ!』
そして驚愕の事実に注意力が薄れてしまっていた土御門にとっては、良い警告であった。
シルビアから聞いた事柄はひとまず思考の隅におくべきだ、と。
シルビア『後ろ!』
遅れて脳内に響いてくる彼女の声に耳を傾けながら。
まずは影に対応するべきと白狼は四肢で跳ねながら、
彼女が警告弾を放った方角へ振り向―――いた瞬間だった。
土御門『―――…………』
唐突に違和感を覚えた。
そのシルビアの矢が着弾した影に。
もちろん、彼女の矢は今までの例と同じくあっさりと『拒絶』されていたが。
その時に土御門の目に映る情報、それが『何か』が違うと。
『何か』が異なっているのだ。
慈母の力をぶつけた時とは。
768 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/11(水) 02:02:46.47 ID:oWfNi2Njo
この違和感の正体を知るには。
土御門『―――シルビア!もう一発放て!』
もう一度見るべき。
シルビア『っ?!……わ、わかった!』
彼女の声に次いでの光の矢。
そして再びの爆発と、無傷の影。
その拒絶の、今までのとの違いは何か。
土御門『―――』
獣の鋭い瞳を見開き、
土御門はその瞬間を目に焼き付けた。
見えてくるのは矢に対する反応、拒絶の力の動き。
そこに発見できる、慈母の力に対するのとの僅かな相違。
その相違とは。
僅かな点に意味を見出し意識し気付いたことで、
周波数が合ったように土御門の認識が晴れ上がっていく。
完璧に拒絶してた一方、シルビアの矢に対する反応は完璧ではない。
非常に小さなブレ、微かな『漏れ』が見える。
そして遂に彼の思考は、
その相違を決定している1つの因子の意味を理解できた。
それは。
―――『新しい』という意味。
769 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/11(水) 02:04:27.95 ID:oWfNi2Njo
ならば、次は再度慈母の力で試す。
延びてくる影の槍。
それらをかわしながら土御門は、
次いで慈母の筆しらべ『一閃』を影に叩き込む。
そして見える、相違に当たる因子。
先ほどは新しいと認識ができた部分の、今度の意味は―――
―――『古い』。
慈母の一閃に対しては『古い』と示し、拒絶は完璧。
一方でシルビアの矢に対しては『新しい』と示し、拒絶は不完全。
では。
―――もっと『新しい』とどうなる?
だがそれを試す前に、一体何が、一体どの部分を指して新しい・古いなのか、
その点について明らかにする必要がある。
新しい、古いという表現で示される尺度は、
その存在が確立されてからどれだけ時間が経ったか、だ。
770 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/11(水) 02:06:53.29 ID:oWfNi2Njo
瞬間的に回転数を上げていく土御門の思考は、
まず一番最初に攻撃を構成している『力』に意識を向けたが
シルビアが使う力の源か慈母のどちらがより昔から存在していたか、そんな事はまずわかりようがない。
いや、違う。
そもそもこの影の防御の系統は、
実際的な力の性質にとらわれない『概念否定』の系統だ。
となると、もっと抽象的なもののはず。
『天界系』という因子を拒絶しているのか、いや、違う。
この島中を覆う魔の大気をも拒絶している。
『飛び道具』、という因子を拒絶しているのか、いや違う。
白狼が直に立てた牙をも拒絶した。
では、もっと大きな括りで『攻撃手段』という因子はどうか―――
土御門『―――』
その瞬間、土御門の意識内のピースが全て結びついた。
慈母の『筆しらべ』は、太古から慈母が使用している『攻撃手段』。
一方でシルビアの攻撃手段は『ロングボウ』。
ロングボウが、『ウェールズのロングボウ』という強弓としての認識で確立されたのは12世紀頃。
―――ならば。
771 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/11(水) 02:07:59.57 ID:oWfNi2Njo
その答えに帰結した土御門は、即座に即座に筆しらべを使い。
『爆神―――輝玉』
周囲に複数の、凄まじい爆発を引き起こす。
それは影に対しての攻撃ではなく、一瞬の間を作るための『目くらまし』だ。
その隙に、白狼は100m先のビルの一階に中に駆け込んだ。
土御門『……どこにある?どこだ?』
フロアに飛び込むと同時に、一瞬で人の姿に戻った土御門は、
目を凝らしてはあるものを探し。
そしてあるものを見つけて、駆け寄っては滑り込み手を伸ばした。
それは『処刑台』で天使に会う直前に脱ぎ捨てた、上着と装備の類の中にあった―――
―――『拳銃』。
土御門『こいつは―――』
拳銃を手に取り、振り向くようにしてはとある一方に向けた。
その先には、土御門を追ってフロアの中へと延びてくる影。
土御門『―――もっと「新しい」だろ?』
そして、土御門は引き金を引いた。
慈母の力をこれでもかと上乗せして。
次の瞬間、銃口から光輝く弾が放たれた。
772 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/11(水) 02:09:20.12 ID:oWfNi2Njo
結果は弾かれた。
そう、弾かれはしたが。
拒絶反応は微塵も無かった。
ぶつかって、押し負け、そして『弾かれた』のだ。
閃光が飛び散り、
ガラスが叩き割られるような音が響き。
そして影に走る『亀裂』。
土御門『はは、決まりだ』
その結果を見て小さく、それでいながら最高の笑みを浮かべる土御門。
彼の手に合った拳銃は今の一発で、
一瞬の内に蒸発してしまっていた。
術式防護も何もなされていないタダの銃に、
圧倒的な慈母の力を流しこめば当然の結果であろうが。
だが、土御門にとってそんなことはどうでもいい。
これで確定したのだから。
影の防御が、『何の概念』でどう拒絶しているのか、
そして見出した。
この鉄壁を崩す確かな方法を。
773 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/11(水) 02:10:14.63 ID:oWfNi2Njo
影の防御、その特性は今までの記憶を使った否定。
今までの歴史を元にした、攻撃手段そのものの拒絶。
過去に経験がある攻撃手段、また、周知になっている攻撃手段の概念を、
片っ端から拒絶できるのだ。
なんとも非の打ち所が無い力に聞えるが、実は穴もある。
新しすぎるもの、またユニークなものには対応できないのだ。
歴史や記憶を元にしているため、当然『更新』作業は遅れる。
そして魔界の存在からすれば、
人間界時間の百年そこらなどちょっと気を逸らしているうちに過ぎ去ってしまう。
そのため、発祥から1000年近くになるロングボウは『ほぼ完璧』に更新済みであっても。
『人間界の銃』にはまだ対応してなかったのだ。
確かに魔界にも『銃』と呼べる存在はあるだろう。
魔界のみならず、数多の世界に類似の武器・攻撃手段の概念があるはずだ。
だが。
だが人間界の銃のような、『単純なる物理現象が基盤』のものは他にあるか?
単なる物理現象なんて、『力』ありきの世界では誰も見向きもしない。
力こそが唯一の真理である魔界では特にそうだろう。
タダの物理現象を前提とした攻撃手段の概念など存在していないのだ。
774 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/11(水) 02:11:31.74 ID:oWfNi2Njo
また、同じく『矢』と呼べる攻撃手段も多く有るだろう。
だが影の防御は、シルビアの矢を『新しい』と判断した。
その点からも実際的にどうだではなく、
『攻撃手段の概念』のみで拒絶判定を下しているのだとわかる。
今のシルビアのロングボウは天の力で動いては入るも、
『人間界発祥のロングボウ』という攻撃手段の概念そのものは、
『単なる物理現象』が前提となっているのだから。
またその点が、更に土御門にとって好ましい点である。
この点は、こうも解釈できる。
ベースが『単なる物理現象』を前提する攻撃手段であれば、
銃を魔界や天界の力でどれだけ強化しても良いのだ。
そしてこの島には今、
『単なる物理現象』を前提とした、『最高に新しい』概念の銃があるではないか。
―――圧倒的な魔界魔術で強化された『大砲』が。
775 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/11(水) 02:13:26.43 ID:oWfNi2Njo
土御門『シルビア。呼び出してもらいたい女がいる』
白狼の姿に戻っては。
即座にまたフロアから外へ飛び出しながら、土御門はシルビアに呼びかけた。
シルビア『なんだ!?』
土御門『レールガン、という―――』
だが。
そこで土御門は思い出した。
土御門『(―――ッ!しまった!!)』
先ほど、シルビアから聞いた件を。
ここまで来てやっと気付くとは、頭の隅に置きすぎていたのかもしれない。
だが直後、とりあえずその『大砲』を呼び出す件は、
ひとまず解決することとなった。
その時。
土御門の前方、200mの場所を覆う影に青白い光の矢が着弾したのだから。
776 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/11(水) 02:14:37.63 ID:oWfNi2Njo
それは『魔弾』。
土御門が求めていた『破魔の矢』。
彼方から大気を切り裂いてきた魔弾は影を『貫通』。
凄まじい衝撃と破砕音を打ち鳴らしながら巨大な穴を穿ち。
影の破片が、黒いガラス片のように飛び散っていく。
土御門『―――はッ!』
思わずその狼の喉を鳴らしては笑い、
土御門はその魔弾が放たれた方角、更にその先の発射点を見た。
5km以上向こうの超高層ビルの屋上。
そこに、慈母の目で土御門は見た。
全身から電撃を迸らせ、髪を靡かせ。
巨大な大砲を腰溜めに構えている少女の姿を。
ジョーカー
超攻撃特化、いや超威力特化のトリッキーな『切り札』。
最大火力を有する『ド素人』。
そんな彼女が、その本領を発揮する時がここに到来する。
―――
777 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/05/11(水) 02:16:15.49 ID:oWfNi2Njo
今日はここまでです。
次は金曜か土曜に。
778 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)
[sage]:2011/05/11(水) 02:55:55.53 ID:SwB/VF64o
おつ!
うおおおおおおお興奮する!!
779 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2011/05/11(水) 05:37:27.11 ID:rOaFidHAO
一部と違って禁書勢の活躍目立つよなー
禁書見てない俺はダンテにそろそろ活躍してほしいけどだいぶ先っぽいね。話の流れ的に。
ゆっくりやってくれ
>>1
お前の[
田島「チ○コ破裂するっ!」
]は俺らの[
田島「チ○コ破裂するっ!」
]でもあったり。
780 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)
[sage]:2011/05/11(水) 06:57:21.73 ID:+WPpadbXo
乙
781 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/11(水) 10:49:07.95 ID:cBSzOPiDO
シャドウさん銃に弱いのすっかり忘れてた。キャラの使い方上手いわー。おかげでかっけーもの
782 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/14(土) 23:47:27.92 ID:YROEru4Io
―――
強化コンクリートの上に落ちる、排された巨大な薬莢。
硝煙の尾を引きながら、鈴に似た金属音を打ち鳴らす。
その音を耳にしながら、御坂美琴は遠くの戦場を見据えていた。
一際高い超高層ビルの屋上淵にて。
帯電し、砲口から煙を吐く大砲を腰溜めに構えながら。
御坂「…………あの辺りの『黒いの全体』、ね」
視線先の一帯を覆う漆黒のベールを、
悪魔の体、もしくは悪魔による精製物体だと確認するその御坂の顔は、
凛々しく引き締まっていた。
圧倒的な存在を目にして当然恐怖は覚えるも、その恐怖に心は囚われてはいない。
その恐怖に体は縛られてはいない。
恐怖を客観的かつ冷静に捉えているのだ。
さすれば恐怖は更なる闘志の糧となり、己が身を守る盾となり、
的確な判断の材料となって勝機へと繋がる。
そして、そんな彼女の斜め後ろには、『それ』が『できなかった』黒子がいた。
やや身を竦ませ、『取り戻した感情』で顔を引きつらせては畏怖の色を滲ませて。
黒子「あれ……は……」
震え混じりの、途切れがちな言葉を漏らしながら。
783 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/14(土) 23:49:13.74 ID:YROEru4Io
だが、その口にしようとした言葉を全て漏らしきる前に。
御坂「―――黒子。掴まって」
確かで安定感のある声が聞こえ。
次いで一瞬で、その御坂の腕に掴まれては引っ張られ、
胸に抱き寄せられて。
そして、御坂は黒子を抱いたまま屋上から跳び出した。
ビルが乱立するこのような地は、
御坂の電磁力を利用した高速移動にとってかなり最適、というのは黒子は前から知ってはいた。
そして今まで何度か、その状態の御坂に抱かれて移動したこともあったが。
最高速度で連れられたのはこれが初めてであった。
『中心地』へ向けてビルからビルへと飛び移っていくその速度は、
想像を遥かに超えていた。
御坂自身が『妙に調子が良い』と言っていた事も関係しているのであろう、いや、確実にそうだ。
今の御坂はもう。黒子が知っているレベルではなかった。
とにかく速く、それはもう黒子の反応速度を超えており。
二人を包む電膜向こうで移り変わっていく景色、
そのほとんどが認識が出来なかった。
そして跳び跳びで伝ってきたビル達が軒並み、
漆黒の巨大な『杭』によってその上半分が削り取られていたのも。
784 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/14(土) 23:51:35.28 ID:YROEru4Io
黒子「―――」
気付いたら既に、
ビルの屋上が消えていたのだ。
反応どころか、『眼を凝らしてても見えない』速度で、
黒い杭はビルを削り飛ばしているようであった。
御坂「―――らぁ!」
瞬間、御坂の短い掛け声と共に、凄まじい衝撃と砲声、光が迸る。
当然速すぎて、黒子にとっては何がなんだかわからない。
真っ黒なガラス片のような破片が飛び散って来るのを見てやっと、
御坂が大砲で黒い杭を迎え撃ったということがわかる程度だ。
黒子「……」
そんな格の違う力のぶつかり合いを目の当たりにして、
黒子は疑問に思う。
なぜ、御坂は己を連れ出したのかと。
いまや御坂の反応速度は己を遥かに超えており、
瞬間移動という利点を踏まえても、総合的な回避能力は御坂の方が明らかに上。
とうかこれだけ帯電してしまっていては、そもそもまともに飛ばせそうも無い。
となればいつかのように、回避の足としての役を担うわけでも無さそうだ。
説明する時間すら惜しかったのだろうか、
御坂からは特に説明も無かった。
御坂は同行するよう『命令』を下してはすぐに街区に戻り、
一帯で一番高い超高層ビルに昇っては即ぶっ放して。
785 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/14(土) 23:53:08.80 ID:YROEru4Io
と。
黒子の目からはそんな風に見えていた、いや、
『見えて』はいないのだから『感じていた』とした方が良いか。
とにかく、
速すぎて何が起こっているのかすらまともに認識できないのだから、当然知るわけが無い。
御坂「(―――チッ!)」
御坂にとって、
この弾幕を張りながらの強行軍はかなり厳しかったことは。
実は当の彼女にも、この黒い杭が『伸びてくる』のは認識できていなかったことは。
反応して避けていたのではなく、
とにかく動きながら前方に弾幕を張って凌いでいたのだ。
歯を噛み締めては、睨むように視線を飛ばすその先。
ビル街の中に、区画ごとぽっかりと更地になっている広大な『広場』、
一帯を覆う『影』と、中央に唯一残って聳える超高層ビル。
そのビルの近くにて、白いレーザーのような線が複数走っているように見えていた。
恐らくそれは、超高速で動いている1つの光点。
そして同じように走っている、赤いレーザー。
そう、『赤』とくれば当然最初に思い浮かぶのは『魔を宿す瞳』。
御坂「(……アレね)」
その『赤』が、この影の元凶であることは間違いないようであった。
786 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/14(土) 23:54:52.52 ID:YROEru4Io
とその時。
唯一残ってるそのビルの頂点にて、別の光点が瞬いたかと思った次の瞬間。
御坂「!」
『巨大な翼』が出現し。
別のビルへ向けて空へ跳び出したばかりの御坂の前に一瞬でやって来た。
その翼には、御坂は先も見た覚えがあった。
翼の付け根の男も。
麦野・ルシアと共にアリウスと戦っていた際に現れた、
短い茶髪に大剣を持った厳つい大男だ。
左目を覆っている紅に染まっている布切れは、さっきは無かったが。
ともかくその時の行動から見て、勢力不明だが敵ではない事は確かだ。
そして。
『レールガンだな?』
男の口からのその問いかけで、
御坂は的確に『空気を読んだ』。
一定の領域での戦いに馴れた者達は、即席でもリズム・テンポ・息が合う。
場や相手の空気を読み取り、
それぞれがそれぞれのやるべき事を見出し、的確に実行する力量があるのだから。
ただ、それが出来ない者は当然混乱するが。
黒子「??」
787 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/14(土) 23:55:22.05 ID:YROEru4Io
御坂「この子を『中央』に届けて」
レールガンかという問いかけに、
御坂は『答えになっていない返答』を返す。
何もかもの言葉を省き過ぎな返答を。
黒子「?!はい……?!」
当然のように状況が把握できず、戸惑いの声を漏らす黒子。
だがそんな黒子の様子など気にせず、
御坂は彼女の体を大男の方へと放り投げた。
『了解した』
御坂と同じく特に気にする風も無く、
その丸太のような腕で黒子をキャッチしては、大男は頷いた。
黒子「―――お、お!?お姉さまぁッ!!?」
突如現れた見ず知らずの大男に、
空中で投げ渡されて普通は黙っていられない。
御坂「『事態の中央』にて状況を把握し―――」
そんな黒子に向けて御坂は。
御坂「―――後は自分の判断で動きなさい」
彼女を戒めるように、静かで確かな口調でそう言葉を放った。
788 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/14(土) 23:56:59.24 ID:YROEru4Io
黒子「―――っ」
並んでいるのは簡単な言葉で、意味は至極単純。
それでいて、成すにはちっとも易くはない事。
あまりにも抽象的で漠然としてて大雑把。
このような状況では特に。
無責任にも、過剰な信頼にも聞えてしまう。
黒子の頭には返す言葉も浮かばず、いや、浮かんでいたとしても返せなかっただろう。
直後、大男は彼女を腕にしたまま、すぐさまその場を離れたのだから。
先ほどの御坂の高速移動なんかとは、全く比べ物にならない程の超速度で。
黒子「……」
気付くと、黒子はとあるビルの屋上にいた。
オベリスクのようの聳えていた、あのビルの屋上らしかった。
突然の事の連続に頭が追いつかずの
呆け気味の顔のままだが、そこは何とか確認できた。
彼女を降ろした大男は、何も言わずに屋上の淵に行き、
大剣を足元に突き立てては番人の如く仁王立ち。
屋上の中央には、直径5m程の球状の赤と金の光体。
良く見ると、『得たいのしれない文字列』のような光の粒子で形成されており、
球体の中には地面に座り込んでいるキリエと、
彼女の前に立って、虚ろな目をしているこれまた見覚えが無い金髪の男。
黒子「……」
そしてその球体から2m程の場所に。
作業着にエプロンという姿の、金髪の涼やかなオーラの女性が立っていた。
土御門とそれなりに面識があるらしい、確かシルビアと名乗った女だ。
木製と思しき大きな弓を手にした彼女は、黒子の姿を見るや、
その短い金髪を揺らしては歩き寄って来た。
789 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/14(土) 23:58:05.88 ID:YROEru4Io
黒子「―――……」
と、そこで黒子は気付いた。
この場所にいると思っていたとある人物が、どこにも見当たらない事に。
土御門が装着していた通信機はシルビアの頭にあり、当の土御門がいないのだ。
そして。
黒子「(……なるほど)」
ここに己がいなければならない理由をも、この瞬間悟った。
御坂はこの状況を具体的に知っていたのか。
それとも、先の不確定性を考慮した予備行動として黒子を連れ出したのか。
ここに『能力者を置く必要性』は黒子が来る前から存在していたのか、
それとも黒子自身が今、その『必要性』を見出した第一人者なのか。
そこはわからない。
そして今更どうでもいい。
問題は今この瞬間この状況、
それらとの己の関係性と、己がやるべき事である。
790 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/14(土) 23:59:39.24 ID:YROEru4Io
この戦いの中で、御坂が一体どのような視点から物事を見ているのか、
初めてそれがわかったような気がする。
そこに気付いた瞬間、面白いように思考が結びついていく。
キリエの前に立っているあの男。
土御門も同じような立ち居地で、何らかの作業していたことからも、
あの金髪の男が同じ目的の作業を受け継いでやっているのだと想像がつく。
そしてその作業は土御門の言動からも、
北島に展開している能力者達も使うと推定できる。
となると、その作業の中央であるここに、
学園都市側の要員が一人もいないという事は問題だろう。
AIMストーカーの通信網がダウンしている現状は、確かに非常に厳しいものがある。
これが回復するのかはわからない。
しかし。
誰かが回復に向けて、もしくは回復の代替となる状況の構築に向かっている事も、
思い出せば御坂は匂わせていた。
となれば、ここで己が事態を把握しておくことは非常に重要なことになる。
AIMストーカーが回復した際、もしくはその代替策が完了した際には、
即座にその情報を流すことも可能だ。
それ以外にも探せば探すほど、
やるべき事・やっておける事はどんどん出てくる。
とにかく能力分野・学園都市系には、
『プロの能力者』以外に任せてはいられない。
黒子「……」
恐怖に震える手が、精神も思考も今だ正常であることを示してくれる。
手先の凍傷の痛みが、意識を明瞭に保ってくれる。
黒子「……早速ですが、簡潔に現状をお聞かせくださいまし」
それらの『励まし』に『鼓舞』されながら、
黒子は歩み寄ってきたシルビアに向け口を開いた。
『最後の戦場』を全うし、生きて家に帰るべく。
791 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/15(日) 00:00:45.66 ID:RDZ+/F/lo
一瞬で離れて行った大男と黒子。
『翼』は、次の瞬間には例のビルの上に到着していた。
それを横目に確認しながら、
御坂は次のビルの屋上へと降下する。
その間に、手ではなく能力によって大砲のコッキングレバーが引き上げられ。
肩にかけている弾薬袋から弾が飛び出してきては浮遊し、
次々と大砲の中に充填されていく。
そして目一杯含んだところで、コッキングレバーが弾けるように戻り、
薬室に弾が装填される。
噛み合うパーツとスプリングの、今や御坂にとって心地のよい駆動音を響かせて。
御坂「―――!」
とその時。
御坂は突如、着地点に映ったとある存在に目を丸くした。
一匹の『犬』が、いつの間にか着地点にいたのだから。
いや『オオカミ』、『白狼』か。
とにかくどちらにせよ、『普通』では無かったが。
792 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/15(日) 00:02:04.84 ID:RDZ+/F/lo
尾から鼻先までは2m程か。
純白清廉な体毛に、歌舞伎のような紅い隈取。
背中には、日本史の教科書で見た銅鏡のようなもの。
炎のように揺らぐ、奇妙な質感の真っ赤な光に縁取りされている。
全身からは、仄かに穏やかな光を放っている。
そして瞳。
獣特有の鋭い瞳にも関わらず、感じられるのは不思議な心地良さと愛くるしさ。
本来ならば反射的に戦闘態勢に入っているはずなのに、
そうはならなかった。
本能から敵愾心の一切が沸かなかったのだ。
白狼の真横に着地した御坂の心には、ただ突然の驚きとその心地良さだけ。
御坂「(えっと……ナニこの生き物……やばい……いい……)」
あまりの『存在感』に、
それどころではないという状況さえも一瞬頭を離れてしまいそうになる。
御坂「えっと……『あなた』は……?」
普通ではない、恐らく異界の存在であろう白狼に対し、
御坂はそんな風に問うたところ。
『レールガン』
脳内に響く形で帰ってきた声は。
御坂「つ、土御門……土御門なの?!」
793 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/15(日) 00:05:42.89 ID:RDZ+/F/lo
土御門『―――待ってた』
顎を一度挙げて、
回すような仕草をしつつ喉を鳴らしながら白狼、土御門はそう口にした。
御坂「ず、ずずず随分と可愛k……さ、様変わりしたじゃなの!!」
極限の状況下での戦人には細かい説明は不要、としてもさすがに限度がある。
それが、個人的ツボに嵌ってしまう事柄だと特に。
目を更に丸くして、気持ち良い位に驚き一色に顔を染め上げている御坂。
感情に影響されて、能力によって髪がぞわぞわと浮かび上がってしまっている。
御坂は知る由は無いが、これは仕方のない事でもある。
決して、彼女の意識が散漫だからというわけではない。
慈母神を前にすれば、本能的に心奪われても何らおかしくない。
至極全うな、普通の反応だ。
ただ、そんな彼女の状態になど気にする風も無く。
土御門『まずは乗れ』
そう言うと白狼、土御門は前腕をたたみ、頭部・上半身を低くした。
その動作に合わせ、背中にあった銅鏡が浮遊しては後方に下がり、『席』を空けた。
御坂「―――わ、わかった!」
その光景、この状況に御坂はデジャヴを覚えた。
いや、実際に似たような事があった。
ただあの時は、愛くるしさもなければ心地よさも無い、
魂までが文字通り凍りつくような存在であったが。
今回は違う。
御坂「(ふわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!やっべ!なにこれ!)」
前肩よりの背中に飛び乗って。
押し寄せてきたのは至高の触感。
794 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/15(日) 00:09:13.08 ID:RDZ+/F/lo
だが、そんな夢心地に浸っていれたのもほんの一瞬。
次の瞬間。
御坂「―――ッ!」
突如、全身をやや強めの痺れが伝っていった。
それは御坂がよく知っているものであった。
昔に何度も、数え切れないくらい味わった痛み。
電気の操作を誤った際のものだ。
御坂「?今のは―――」
土御門『撃神で俺と結ばせてもらった』
御坂「ゲ、ゲキガミ―――?」
その土御門の、説明になっていない説明の直後。
御坂の感覚が一気に鋭敏化していった。
これもまた、御坂は前にも覚えがあった。
かつて第23学区の地下駐機場にて、
アラストルを手にしてた時にも同じだった。
いや、あの時よりも遥かに上。
あれはアラストルにほとんど任せていたのであって、
全てを認識していたわけではない。
というかむしろ、ほとんどがよくわからない。
だが今は本物だった。
御坂は御坂自身の眼で、思考で、意識で、その領域を認識していた。
次元が違う認識点、感応域、思考水準。
外界とは剥離した独自の時間軸を有した者の領域、だ。
795 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/15(日) 00:10:23.63 ID:RDZ+/F/lo
そして。
白狼、土御門は御坂を乗せたまま、
とんでもない速度でそのビルの屋上から跳ね出でた。
御坂「―――」
ついさっきまでの己だったら到底認識できない速度、時間領域。
それらを今、はっきりと己が目と意識で認識しながら、御坂はふと思っていた。
―――当麻も。力を手に入れてからは、こういう世界にずっといたんだね、と。
文字通り無限大でありながら、拠り所が無い不安定で孤独な領域。
外界の法則が通じ無いということは、
言い換えれば己の力と精神力で律するしかないということ。
己の存在は、己の意識ではっきりと保たねばならない。
それができなければ力の統制を失い、自らの自壊しかねない領域。
強者だけに許された世界とは、強者だけしか存在できないからこそのものなのだ。
今まで、外側からならそのような存在たちの戦いを目の当たりしてきた。
しかし、『内側』からこうして見たのは初めてだった。
覚えるのは闇夜の大海に投げ出されたような、
気が狂ってしまいそうなまでの凄まじい不安感。
796 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/15(日) 00:11:19.73 ID:RDZ+/F/lo
ただ幸いなことに御坂はゲストだ。
正式に踏み込んだのではなく、白狼からの特別招待だ。
跨っている下からの確かな温もりが、その不安感を跳ね除けてくれる。
包んでくれる光が底知れぬ孤独感を打ち払ってくれる。
そして圧倒的な力と精神力が、そんな負の因子を全てねじ伏せていく。
土御門『はしゃいだ次の瞬間には感傷に浸って忙しい奴だな』
御坂「なっ!!」
土御門『この程度で怖気づくんじゃあ、レディに弟子入りしてももたないな』
白狼は『広場』に降り、花を咲かせながら台地を駆けて行きながら。
御坂「わ、私の頭の中!記憶読んだ?!」
まだ誰にも言っていない、御坂の将来の展望を言及しては。
土御門『俺の考えてることも流れてるだろう?』
この影が何なのか、その防御の特性等々の情報を流して。
御坂「……えっと、私の砲撃が防御に傷を負わせられるのね?そこにアンタが攻撃を叩き込むと!」
土御門『そういう事だ』
御坂「―――ッ!!」
そして黒豹から一定の距離を保って、
この影の主を中心として大きく弧を描くように移動しながら、無数の杭や手の攻撃を掻い潜って行く。
797 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/15(日) 00:13:28.28 ID:RDZ+/F/lo
影による凄まじい攻撃。
御坂「!!」
その密度や速度は、感覚が鋭敏化している今でさえ、
全て把握しきれない、いや、認識できているのは一部だけであろう。
土御門『じゃあ、そろそろ行きたいんだが、準備は?』
とそこで、これがまだまだ序の口であることを示す、
土御門のそんな平然とした声。
御坂「ちょ、ちょっと待って!AIMストーカーの件で(ry」
土御門『―――「結標が動いてる」って件だな?それも「読んだ」さ。良いか?』
御坂「よ、よし!良いわよ!」
そして再度確認して今度こそ。
土御門『では頼んだぜい。「砲手殿」』
御坂「―――OK!!!やってやるわっっ!!!」
白狼は一気に進路を切り返しては更に加速して。
土御門『あとその撫でるような触り方はやめてくれ。気色悪い』
御坂「―――お、OK!!!」
背中に『砲手』を乗せ、黒豹へと正面から突っ込んでいった。
798 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/05/15(日) 00:14:04.14 ID:RDZ+/F/lo
ぶつ切りですが今日はここまでです。
次は月曜に。
799 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/05/15(日) 00:17:56.65 ID:iLKnoeopo
お疲れ様でした。
800 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/15(日) 00:18:55.01 ID:5V8ZM33DO
乙
続きがすごい楽しみだわ
801 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2011/05/15(日) 00:19:32.66 ID:2hGTrm+AO
乙
しかし土御門につっこまれたって事は
ずっともふもふしてたんだな…羨ましい…
802 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/05/15(日) 01:53:06.04 ID:xy95Qtkv0
乙
クシナダならぬ「ミサカを乗せて」か
胸熱だな
803 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/05/15(日) 14:26:54.27 ID:tQplkjoDO
絵的には原作でボイン姉を乗せながらバトルしてるようなもんか
撃神さんカッコいい
804 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
[sage]:2011/05/15(日) 15:07:23.84 ID:rNsAfJXno
上条さん空気すぎワロタ
805 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮城県)
[sage]:2011/05/15(日) 16:10:47.91 ID:6Dy7Clf30
くっそ〜いいなぁ美琴、中身がツッチーでもいいから俺もアマ公もふもふしてぇーーーwwww
後々美琴は妹達と打ち止めにもふもふの感覚共有をねだられるんだろうなぁww
806 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/15(日) 17:31:35.77 ID:tQplkjoDO
>>804
何を言ってんだお前は
807 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)
[sage]:2011/05/15(日) 21:19:10.60 ID:E3328BKK0
おつおつ
808 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/17(火) 00:23:22.29 ID:UDkqlcg4o
伸びてくる影の杭、巨大な鍵爪を有す手。
その無数の集まりが壁を形成し、
行く手も逃げ道も全方位を阻むように押し寄せてくる。
それらは慈母の力をも問答無用で拒絶する、決して突破できない『鉄壁』。
だが。
一人の少女が放つ弾が、そんな『鉄壁』を打ち砕く。
土御門での慈母の支援による莫大な力が、
御坂の能力規模を遥かに跳ね上げ。
ダンテお手製の『大砲』が、
その凄まじい力をレディ製の弾頭に集束させていき。
『究極の破魔の弾』となって放たれる。
御坂「―――しゃあああああ!!!!!!!」
撃ち出された弾頭が幾本もの杭や手を貫き、
壁に大きな亀裂を生じさせる。
そしてそこに叩き込まれる筆しらべによる『一閃』。
809 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/17(火) 00:24:31.61 ID:UDkqlcg4o
防御を失った周囲の影など、慈母の力の前には障害とはならない。
力の質、密度、破壊力、
それらが同じ『条件』で正面からぶつかり合えば、当然『強い方』に軍配が上がる。
モーセが紅海を割ったかの如く、白狼の進行方向が一気に切り拓かれていく。
その影の『谷間』を、少女を背に白狼は突き抜けていった。
いくつもの薬莢を撒きながら。
周囲の影になど見向きもせずに、ただひたすら真っ直ぐに。
目指すは赤い二つの光点。
縦スリット状の瞳孔を有す瞳。
黒豹の『本体』。
狙うは。
御坂「―――」
光点の間、脳天。
結ばれている土御門からの照準補佐を受けては砲口を定め―――とその瞬間。
黒豹本体も動く。
迫ってくる白狼に向け、挑戦に応じるように牙をむき出しにしては。
30mもの全身を刃にしてその場から跳ね出した。
白狼に向けて。
810 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/17(火) 00:26:33.61 ID:UDkqlcg4o
御坂「―――」
回避、という選択は無かった。
する必要も、する余裕も。
白狼も牙をむき出しにし、前足の爪を突き出しては更に加速。
そしてお互いの5mの距離に迫った瞬間。
その至近距離で放たれた弾が、黒豹の眉間に直撃。
この場合「弾が黒豹に」というよりは、
黒豹が弾に突っ込んだという表現の方が正しいのかもしれない。
何せ黒豹の突撃速度は、
慈母の支援を受けたこの弾速をも遥かに上回っていたのだから。
ただ、どちらが突っ込んでいった方かという事で、その結果が変動することは無い。
とにかく御坂の弾は黒豹本体、
その頭部に食い込んでは炸裂しその効果を発揮することとなる。
着弾から一瞬後、白狼と黒豹が正面から激突した。
御坂「―――ッ!!!」
股下から一気に押し寄せてくる凄まじい衝撃
振り落とされまいと、御坂は白狼の背に伏せるようにして張り付いた。
その激突の結果は、白狼が押し負けることとなった。
そう、単純な『勢い』は押し負けていた。
押し負けてはいたが。
白狼の牙と爪は、黒豹の防御を超えて届いていた。
白狼は、黒豹の顔面に食いついていた。
811 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/17(火) 00:27:36.86 ID:UDkqlcg4o
御坂の弾頭の直撃によって僅かに軌道が逸れたのか、
大きく開かれた黒豹の口の牙は、白狼を紙一重のところで取り逃がしてしまった。
そして白狼は黒豹の顔面、左目付近に衝突しては食い付き。
己の頭部ほどもあるその赤い瞳に前足の爪を突き立てた。
まるで苦痛に悶えているかのように像が乱れ、身振るわせる黒豹。
溶け出しているように放出されていく『影』。
御坂「(―――効いてる―――)」
黒豹の顔面に張り付く白狼、その白狼の背に張り付きながら、
御坂はそう確かに感じた。
御坂「(―――けど―――足りない!)」
決定的なダメージを与えるには及んでいない、とも。
そして気付いた。
御坂「―――」
横から頬に数滴はねてきた、暖かい液体の触感に。
その雫がやってきた方向に咄嗟に視線を向けると。
御坂「―――ッ土御門!!」
白狼の左前足の肩口を、
黒豹の肌から生えている刃が貫いていた。
812 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/17(火) 00:29:30.01 ID:UDkqlcg4o
首辺りまで純白だった毛皮が赤く染まっており、
牙を立て唸り声を漏らしている口も、うっすらと紅に滲んでいる。
土御門『大丈夫だ』
だが御坂の意識を呼んだのか、彼女が次に言葉を向ける前に、
土御門はそう脳内で答え。
土御門『―――このまま行くぞ。一気に畳み掛ける』
そう告げた。
それはやや強引なやり方にも聞えてしまうが。
だがこの状況下では、
それが唯一の最適な選択だった。
防御無効化した状態での黒豹との激突。
それでも、単純にパワーでは土御門は押し負けた。
本体の力の出力は、慈母の力を授かった土御門を軽く超えているのだ。
となれば時間がかかればかかるほど、土御門側は確実にジリ貧になっていく。
攻防回数を重ねれば重ねるほどパターンを読まれて、
今のようなテクニックや小技で虚を付く事も困難になっていく。
更に懸念はもう1つ。
防御が更新され、御坂の大砲も『拒絶対象』になる可能性があるのだ。
いや、このままでは『いずれ』はなるはずだろう。
813 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/17(火) 00:33:44.60 ID:UDkqlcg4o
となれば当然、御坂の大砲が『拒絶対象外』である内に、
勝負を決める必要がある。
更新にどれくらいの時間や作業を要するのかはわからない。
そして、土御門側にはそれを確認する術も時間も無いのだから。
いや。
それよりも先に、御坂の『残弾数』が問題になる可能性の方が高いだろう。
各チームへの砲撃支援、アリウスへの砲撃、そして今接近する際にもかなり弾を消費。
この島にて合わせて200発近くは既に使っている。
そこに、学園都市におけるフィアンマ戦での消費も足せば。
残りは60発を切る計算に。
それらの状況を踏まえれば、『次』はもう無いのが確実となる。
勝機は、『ここ』で畳み掛けた先にしか存在しない。
御坂「ッ―――了解!」
脳内に送られてくる土御門の考えとすぐに同期した御坂。
黒豹に張り付く白狼の背から、更なる至近距離で続けざまに大砲を放つ。
一発、二発、三発。
食い込んだ弾頭が炸裂し、
幾層にも重なっている影を剥ぎ取っては霧散させていく。
四発、五発、六発。
重ねられる『一閃』がほぼ同時に炸裂し、
まるで大砲から『斬撃』を打ち出しているような光景。
七発、八発、九発。
幾本もの筋が重ねて刻み込まれ、
黒豹の頭部左半分がその形を歪めて行く。
814 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/17(火) 00:35:57.27 ID:UDkqlcg4o
そこで響く、大砲の遊低が停止する音。
御坂「―――装填!!」
次いで御坂がそう声を張り上げると、白狼は牙と爪を即座に引き抜き、
黒豹を蹴るようにしてようやく離れ。
その離れ際に、置き土産の如く筆しらべ。
『爆神―――輝玉』
黒豹の頭部に刻み込まれた溝の『内部』に。
そして炸裂。
凄まじい鮮やかな閃光が溢れ、
防御を失っている影をもろとも吹き飛ばす。
黒豹の頭部、左半分がその爆発で消失した。
その間にも白狼が負った傷は一瞬で再生、
御坂はその白狼の背の上で弾の充填を完了させ。
コッキングレバーを引いては薬室に装填し。
御坂「―――あと46発!」
銃側に充填している分と弾薬袋の中、
合わせての残弾数を土御門に告げた。
土御門『把握した!』
土御門は短くそう返答しては。
爆炎に塗れる黒豹の近くに着地、そのまますぐに切り返し。
再び黒豹へ向けて突進した。
815 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/17(火) 00:37:23.60 ID:UDkqlcg4o
それに対し黒豹も『応じる』。
纏わり付く爆炎の中から、
半分欠損した頭部を勢い良く突き出し。
おぞましい様相となっている口を大きく開き、再度白狼へと跳びかかった。
凄まじい速度で再び向かう黒豹と白狼。
放たれる御坂の弾幕に突っ込んでくる黒豹。
そこまでは先と同じであったが、その後は別展開となる。
御坂「―――ッ!」
激突するかという寸前。
白狼は一気に体を落とし、
喉から腹、尻尾まで地面に接触させるほどに低くなった。
意識共有により、その意図を瞬時に把握した御坂も、
白狼に張り付くよう伏せ。
そして彼女達は跳びかかってきた黒豹の巨体、
その下の僅かな隙間に滑り込んでいった。
白狼の背に伏せっている御坂、その彼女と上を掠める黒豹の体との距離は僅か10cm程度。
闇に覆われた地面と、上を覆う闇の権化。
その隙間からの視点は、
まるでプレス機の中に入り込んでしまったかのよう。
816 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/17(火) 00:39:07.91 ID:UDkqlcg4o
もちろん、そのまますり抜けるつもりではない。
御坂は白狼の背で寝返りを打つようにして、半身仰向けになり。
そして斜め後、上方へ向けて大砲を放った。
黒豹の『腹』へ。
続けざまに放たれた三発の連射。
それに重ねられていく筆しらべ。
一発目と二発目には『一閃』。
そして三発目には『輝玉』。
再度、鮮やかな閃光を伴って大爆発。
その勢いに、
腹の影を大量に失うのと同時に黒豹の体も大きく上方へと吹き上げられた。
だが御坂は手を休めず、
白狼の背から立て続けに、ありったけの弾を撃ち込んで行く。
下腹部、股、そして尾の付け根、と。
その御坂を乗せて白狼は。
押し寄せてくる爆発を背にしながら閉所を脱する、
そんな映画のようなワンシーンを再現して、爆煙を引きながら黒豹の下を潜り抜けては。
地を滑りながら、体を一気に180方向転換。
すれ違ったばかりの、そして爆発で浮き上がってる黒豹を前に捉え。
御坂の弾幕で防御が剥がされている、腹から尾の部分に向けて。
瞬時に『一閃』で刻み込み。
『輝玉』で剥ぎ取り。
『大神―――光明』。
817 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/17(火) 00:40:34.55 ID:UDkqlcg4o
それは、
シルビア達が入るビルの真上に光を出現させたあの筆しらべ。
慈母を象徴する『天の光』。
それが一閃と輝玉で穿たれた黒豹の傷の奥深く、その『内部』に出現した。
御坂「―――!」
瞬間、黒豹の傷口という傷口から、
金色の光が溢れ出し。
内側から『影』を照らし上げていく。
いや、『焼き払って』いく。
黒豹はそのまま地に落ちては、
前足で頭をかきむしり、全身をのた打ち回らせた。
咆哮の類は挙げてはいないものの、
その仕草から見ても明らかに苦痛に喘いでいるとわかる。
全身の像が今まで以上にブレていく。
しかし。
御坂「(―――まだ足りない!)」
徐々に弱くなっていく―――黒豹の中からの光。
818 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/17(火) 00:41:20.99 ID:UDkqlcg4o
『光明』が押し潰され始めている。
それほどまでに黒豹の力は強大で、闇は濃かったのだ。
このままでは、当然『光明』は消失してしまう。
御坂が感じた通り、影を払うにはこれでもまだ『足らなかった』。
そう、足らない。
では足らないのならば、どうすればいいのか。
解決策は単純。
足らないのならば足せば良い。
更なる一手を。
白狼はそこで、最高出力でもう一つの筆しらべを放った。
『風神―――疾風』
その瞬間、悶える黒豹を強烈な天の突風が襲った。
『風』は意思を持っているかのように黒豹の全身に纏わりつき。
そして鑢をかけていくかの如く、見る見る影を削り上げていく。
内の光明に集中していたところに、外部から『風』。
黒豹にとっては完全な不意であったのだろう、
いや、不意でなくとも内側の事で手を回せなかったのだ。
風に対しては特に抵抗もできず、
黒豹は巻き込む疾風に襲われ。
819 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/17(火) 00:44:59.36 ID:UDkqlcg4o
刹那、御坂は初めてこの黒豹の声を聞いた。
普通それを聴いただけでは、到底声とは呼べないようなものであったが。
響いたのは、金属を擦り付けるような不快極まりない音。
不快感、不安感、狂気、
といったありとあらゆる負の因子を色濃く含む、耳を劈く強烈な『悲鳴』。
御坂『―――ッッ!!!!』
思わず反射的に、御坂は目を細めては身を竦ませしまった。
土御門『―――伏せろ!』
と、その時。
土御門のその言葉が脳内に響いてきた瞬間。
黒豹の全身の影が脈打つ心臓のように一度収縮し。
咄嗟に白狼の背に体を倒す御坂。
同時に、白狼の鏡が盾になるような位置に移動した直後。
―――弾け飛んだ。
御坂「―――」
黒豹の全身が爆散した。
820 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/17(火) 00:45:42.65 ID:UDkqlcg4o
ただ、それは爆弾が炸裂して破片と衝撃波が飛び散る、
といった攻撃的なものではなかった。
体の内側から破裂して肉が飛び散る、といったところか。
黒豹を構成していた影はだらしなく飛び散っていき、
周囲を覆っていた影もヘドロのようにその形を崩していき。
鏡に液体のような質感をもって、鏡にも『影』がかかった、と思ったら、
今度は焼かれるような音を立てて蒸発していく。
そして、その『爆心地』では。
御坂「―――!」
液状化した『影』の中からズルリと。
『黒い球体』が出現した。
直径は3m程。
表面の三分の一ほどが削り取られたかのように透けており、
内側からのオレンジとも赤とも言える光が、そこから淡く漏れている。
御坂「あれッ―――!」
思わず御坂は声を挙げてしまった。
土御門との意識共有によって『移って』きた高揚感に素直に反応したのだ。
そう、土御門も高揚していた。
あの球体を目にして。
土御門『―――』
遂に見つけた。
遂に影の奥底から、白日の下にさらす事が出来たのだ。
―――『核』を。
821 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/17(火) 00:47:09.24 ID:UDkqlcg4o
白狼は一気に飛び跳ね、
そして核のすぐ前に着地。
そのまま身を更に進ませ、
鼻先を触れるかどうかというところまで球体の表面に近づけた。
それは御坂の目にはまるで、いや、
『まるで』どころかどう見ても匂いを仕草だった。
更に、そんな類の仕草はそれだけではなかった。
今度はペロリと。
その球体の表面を一舐め。
ただここまでくれば、
さすがにそのような仕草でも御坂の意識が逸れることはなかった。
そもそも意識を共有しているのだから、
それら行動の意味が、『人間界でにおける見た目』通りの意図ではないのをわかっていたのだから。
白狼が舐めた瞬間、
土御門の意識が御坂とは違う何か『別のもの』とも結びついたのも。
強烈な威圧感を醸し出す、『別の何か』と。
それが何なのか、御坂はすぐにわかった。
いや、今の仕草を見ていれば答えは一目瞭然。
土御門は、黒豹の核と己を結びつけたのだ。
そして彼は脳内を介して。
土御門『―――シルビア!「核」に接続した!』
822 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/17(火) 00:48:01.69 ID:UDkqlcg4o
シルビア『―――本当か?!』
その頃ビルの上ではちょうど、
黒子への簡潔な状況説明が済んだところであった。
黒子「……」
シルビアは黒子に向けて人差し指を立てて話を中断すると意図を示し、
そしてビルの淵へと駆け寄りっては白狼、土御門の方へと視線を向けた。
シルビア『……っ!それが……!』
そして球体を捉えた。
土御門『オッレルスの方はどうだ?!』
シルビア『まだ……』
シルビアが答えかけたところ。
オッレルス『今できる!』
『こちらの球体』の中で作業していたオッレルスが、
そのまま仕事を続けながら声だけを回して来た。
オッレルス『それと俺にも繋げてくれ!回線が作業に耐えられるか先に確認したい!』
そして早口で土御門にそう告げた。
と、その言葉が終わってから僅か3秒ほどで。
すぐに土御門経由で核との接続が終わり、確認も済ませたのだろう。
オッレルス『―――くそっ!ダメだ!その「深度」では維持できない!』
そんな好ましくない結果を、更に早口で告げた。
823 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/17(火) 00:50:50.53 ID:UDkqlcg4o
オッレルスが告げたその結果。
それは、今の接続状態では作業が出来ないことを示していた。
『接続深度』が浅すぎる、回線が細すぎて作業の負荷に耐えられないのだ。
土御門『―――チッ!』
その答えを脳内で聞き、
土御門は牙を噛み締めた。
ここまでやっと来たのに、状況は更に厳しくなったのだから。
黒豹は、殺したわけではない。
瞬間的に大ダメージを与えて、一時的に麻痺状態に陥らせただけだ。
当然、時間が経てば復活する。
こうしている今も、周囲の影は徐々にだが統制を取り戻しつつある。
もちろん、このまま核を破壊すれば殺せるが、
土御門側からしたら核を破壊するなど持っての外。
そんなことをすれば、人造悪魔達を停止させる手段が消えてなくなる。
それに土御門個人は、ネロのとの約束もある。
アリウスの術式そのものは破壊してはいけないとの。
ただ黒豹を殺す手段は別にもある。
このまま影に更に攻撃を畳み掛けていき、一掃してしまえば良いのだ。
もちろん、核を破壊するのとは比べ物にならない量の労力と力が必要だが、
御坂がいる今の土御門には可能な範囲だ。
824 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/17(火) 00:52:23.14 ID:UDkqlcg4o
オッレルスの確認の結果を聞くまでは、
土御門はその方法で黒豹を倒そうとしていた。
核とオッレルスの『中継点』となりながら、
同時に影を根こそぎ消滅させていく、と。
だが。
オッレルスが告げた結果は、それが困難であることを示していた。
現状の接続では『深度』が『浅い』。
これでは確実に作業は失敗する。
となれば、更に『深く』繋がる必要があるのだが。
接続と戦闘、それら力の割り振りは今が最大限のものだったのだ。
接続を維持しつつ戦闘行動、両方を両立できる限界水準だ。
つまりこれ以上接続に意識と力を割り振れば、当然戦闘行動が不可能になる。
このまま畳み掛けて黒豹を殺しきるなんて無理、
土御門はここに張り付き続けざるを得なくなり、無防備の背を晒す事となる。
死に物狂いで、なりふり構わず向かってくるであろう影に対して。
土御門『……』
しかし、他に方法は無かった。
どちらを優先するべきなのかは明らかである。
825 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/17(火) 00:53:49.72 ID:UDkqlcg4o
土御門『……作業が済むまで、俺の背中を頼みたい』
そう、背中の御坂に告げると同時に、
共有を介して意図を送り込む土御門。
御坂「……」
特に反論もせず、
小さく頷いては御坂はその背から跳ね降りた。
次いで切断される、意識の共有。
脳内での会話や感覚の鋭敏化、撃神による雷性の支援は依然続けているが、
意識の共有だけは切断する必要があった。
なぜなら、これから土御門はその意識内を満たすのだから。
受け入れた核の中身で。
それによって、御坂と共有するスペースすら維持できなくなるのだ。
いや、厳密に言えば御坂への『汚染』を防ぐことが出来ない、だ。
なにせ。
最悪、土御門自身の精神が消失するかもしれない程。
いくら慈雨の加護があるとはいえ、非常に困難な事なのだ。
これはいわば、
城の門という門を開き中に敵を招き入れる行為なのだから。
826 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/17(火) 00:55:12.37 ID:UDkqlcg4o
御坂が降りてすぐ、白狼の姿は人型へと一瞬で形を変えた。
金髪とサングラスに上半身裸、という本来の姿に戻り、
核に向き合っては両手の平を当てる土御門。
御坂は彼の背中合わせの位置に付き、大砲を腰溜めに構えた。
土御門『残りは?』
御坂「31発」
そして二人は淡々と、
背中越しに最後の確認の言葉を交わしていく。
土御門『凌げるか?』
御坂「凌いでみせる」
土御門『任せた』
御坂「了解」
土御門『……』
そんな、状況が最悪だと理解していても安定してる御坂の声。
土御門『あいつは―――』
それを聴き、土御門は一泊置いてふと思い出したように。
土御門『―――確実にお前を選んでただろうな。もしインデックスに会っていなかったら』
彼女に向けそう行った。
それに対し御坂は。
御坂「……はっ」
背中越しに軽く、笑い飛ばすような声を漏らし。
御坂「あの子を助けてない当麻なんて―――ねえ?」
そう言葉を返した。
顎を上げるように、背後の土御門に向け首を傾げて。
827 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/17(火) 00:58:07.38 ID:UDkqlcg4o
同意を求めるような語尾の発音で。
それはまるで、そんな上条当麻には魅力が無いとでも言いたげな。
そして土御門は。
土御門『はは、確かに』
その『含み』の部分に同意した。
と、その時。
御坂の両隣にもう二人、『仲間』が降り立った。
シルビア『私程度で足しになるかわからないけど』
アックア『轡を並べさせてもらう』
弓矢を携えたシルビアと、大剣アスカロンを手にしているアックアが。
二人の言葉に御坂は無言のまま、
特に両者を見もせずに小さく頷き。
土御門は小さな笑い声を漏らした後。
土御門『(我らが慈母―――天照坐皇大御神よ―――どうか―――)』
手を核に『沈み込ませた』。
ズルリと肘ほどまで。
その瞬間。
流れ込んできた苦痛に耐えかねた、
少年のこの世の者とは思えない絶叫が響き渡る。
どんな苦痛に対しても、一息以上は声を漏らさなかった少年の。
しかし。
少年は決してその両腕を引き抜こうとはしない。
例え首を撥ねられようとも、その体が業火に焼かれたとしても。
そして彼の背後を預かる三者は、
微動だにせず構えていた。
再稼動を始めつつある、蠢く影を見据えて。
―――
828 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/05/17(火) 00:59:03.71 ID:UDkqlcg4o
今日はここまでです。
次は水曜に。
次かその次でねこきんぐパートは終了、
来週にはデュマーリ島編が終わりそうです。
829 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)
[sage]:2011/05/17(火) 01:29:37.99 ID:VkcVdIq+0
おつおつ(*´ω`)
830 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)
[sage]:2011/05/17(火) 02:28:04.56 ID:YyA0ctyDo
乙
831 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/05/17(火) 04:21:10.89 ID:OD370EhEo
おっつー
832 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(新潟・東北)
[sage]:2011/05/17(火) 12:07:03.08 ID:rO8J9ElAO
最近また投下速度が上がって来て嬉しいな
833 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)
[sage]:2011/05/17(火) 15:11:03.53 ID:tBIhIfxAO
つっちー……
おっつー
834 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/18(水) 01:51:54.44 ID:rjpRYUtEo
つっちーイケメンすなあ
835 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/19(木) 01:01:40.90 ID:rLU+ku2po
―――
デュマーリ島、南島。
延々と続いていた工場地帯は今や破壊しつくされ、
薄闇の中、廃墟がどこまでも連なっていた。
いや、『廃墟』と呼べる形状を保っているだけまだマシな方だ。
ただの瓦礫の山、更に酷いところでは全て蒸発して完全な更地と化しているのだから。
辺りはしんと静まり返っていた。
聞えるのは彼方、北島からの戦囃子。
光が明滅するのに合わせて大地が揺れ動く。
遠くの空で雷が瞬いているような光景か。
大気を伝ってくる音は、
距離があるためかその明滅のリズムとは全く噛み合わない。
そんな、不快な環境音を
浜面仕上はその場に跪いていた。
ただただ呆然としながら。
浜面「……」
何も考えてはいなかった。
考えたくも無かったし、そもそも考えられなかった。
感情と記憶が爆発を起こし、
心の中は滅茶苦茶に散らかってしまっている。
一気に押し寄せた負荷に耐え切れず、
思考がオーバーヒートしてしまったようだ。
何もわからない。
これは本当に現実なのかどうかも虚ろ。
今、己はどんな表情をしているのかも。
笑っているのか。
怒っているのか、それとも。
泣いているのか、も。
浜面「……」
836 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/19(木) 01:03:58.14 ID:rLU+ku2po
正面には地面に座り込んでいる滝壺。
彼女はずっと空を見上げていた。
後ろに転げ倒れてしまうのではというほど、顎を上に向けて。
麦野沈利が逝った空を。
浜面「……」
その彼女がどんな表情をしているのかは見えなかった。
上を思いっきり見上げているため、浜面から見えるのは絹の様な肌の喉元。
だが直接見えなくても、
彼女がどんな顔をしているのかが、ある程度推測できるものがあった。
それは、彼女の頬、耳元から首筋に伝っていく雫。
量は少ないけども、絶えることなく流れ続けていく露。
彼女は泣いていた。
浜面「……」
と、その時。
浜面は脇にふと現れた影に気付き、
そちらに振り向いた。
その先には。
絹旗「……………………」
滝壺を見つめる絹旗が立っていた。
そんな彼女の表情は―――浜面はわからなかった。
わからなかった。
837 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/19(木) 01:05:49.10 ID:rLU+ku2po
激怒している顔も、
悔しさで一杯の顔も。
悲しんでいる顔も、
感傷に浸っているような近づきがたい時の顔も。
そして喜んでいる顔も。
心の底からの笑顔も。
浜面は、絹旗の表情変化を一通り全て見てきていたはずだった。
これは滝壺、浜面も含める三者ともお互いがそうだ。
付き合いが長いとは決して言えないものの、
共に過ごした間の密度と距離は凄まじく濃厚なものだったのだから。
だがこの顔は、今まで一度も見たことが無い―――とも言える一方。
『見たことがある顔』全てが同時に滲んでいるとも感じた。
浜面「―――……」
そこで浜面は気付き思った。
そう、絹旗も同じなのだろうか、と。
今の自分の想いが良くわからないのは、絹旗も同じなのだろうか。
とすれば己も、今は彼女のような顔をしているのだろうか、と。
838 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/19(木) 01:07:19.47 ID:rLU+ku2po
ただ、それがわかったからといって別にどうということではない。
少なくとも今の浜面にとっては。
思考もこれ以上は回らないのだから。
ぽっかりと空いた穴はあまりにも大きすぎて、
何もかもを飲み込んでしまう。
ここまでの穴が空く事への戸惑いも。
そして『この状況と己の関係』、『己達がここにいる意義』をも
それら全てを丸呑みにしてしまうほど。
だが、もちろんそのままでいる事は好ましくない。
彼等自身を含む『皆』にとって。
その瞬間。
浜面「―――」
結標淡希が唐突に『立っていた』。
浜面と滝壺の間、
先ほどまで麦野沈利が横たわっていた地面に。
839 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/19(木) 01:08:06.94 ID:rLU+ku2po
一瞬にして出現した結標、その体は先にビルで見た時よりも更に薄汚れ、
あちこちが血に滲み、全身から疲労の色を漂わせていた。
そんな彼女は滝壺の方を向いていた。
そのため、
跪いている浜面から見えるのは頭と同じ高さに腰、そして背中。
その背中越しから浜面は聞く。
結標「……何をしてるの?」
結標がぽつりと漏らした言葉を。
それはそれは平坦で、感情が読めない声色。
だが次に発したのは。
結標「何を、してるの?」
言葉は同じでも、その声色は明らかに変化していた。
威圧的な空気と醸し出し、そして苛立ち交じりにも聞えていた。
その二度目でようやく滝壺は反応を示しては、
視線を結標の方へとゆっくり向けた。
と、そこで『三度』。
結標「―――何を、して、いるの?」
再び結標はそう問うた。
更に威圧的で、冷ややかで、突き刺さるような声で。
浜面「―――!」
滝壺の胸倉を掴んで持ち上げて。
840 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/19(木) 01:10:58.63 ID:rLU+ku2po
能力を使っているのだろう、結標の細い腕が軽々と滝壺を引っ張り挙げた。
滝壺の爪先が、地面と触れるか触れないかという高さまで。
滝壺「ん―――ん゛っ!」
首元を締め付けられ、
そんな声を歪めた口から漏らす滝壺。
浜面「な―――」
その突然の光景を見た瞬間、
考えるよりも先に、浜面の体が反射的に動いた。
瞬時に立ち上がり、太もものホルダーから拳銃を引き抜き。
浜面「―――何しやがる?!」
結標の後頭部へと突きつけた。
例え何も考えられなくても、
心に大きな穴が空いて何もわからなくても、これだけは。
滝壺を守るという信念は、浜面の魂奥深くに刻み込まれていたのだ。
そして同じく絹旗も。
あの複雑な表情の色がまだ残っているも、その体は身構えており、
今すぐにでも結標に跳びかかってしまいそうな勢いだった。
841 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/19(木) 01:12:43.28 ID:rLU+ku2po
だが、結標は振り向きもしなかった。
まるで浜面と絹旗がいないかのように、一切気にも留めず。
結標「メソメソウジウジ」
そして。
メルトダウナー
結標「所詮、『あの女』一人でもっていたチーム、」
滝壺を乱暴に揺らしながら。
結標「腑抜けのカスが。『アタマ』切られたらそれでオシマイかよ」
冷ややかな声で続けた。
浜面「なっ―――」
結標「よくこんなゴミばっかりで、アイテムだなんて誇れたものね」
浜面「―――ってッ!」
その光景と言葉に耐えかねて。
浜面は結標の頭に強く、銃口を押し付けては。
浜面「―――てめぇに何がわかる?!俺達の何が?!」
842 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/19(木) 01:14:23.75 ID:rLU+ku2po
何がわかる。
結標「―――あぁあ?何がわかるか、って?」
と、その浜面の言葉に結標はやっと振り向きそう返した。
銃口を押し返すように力を篭めて。
その口調は問いを投げ返すもの。
まるで。
お前らこそ何をわかってる?とでも言いたげな。
私は答えを知っている、とでも。
結標「そんなことだから、あんた達はいつまでも『一兵卒』止まりなのよ」
そして結標は、そんな風に吐き捨てて一泊置いた後。
結標「『私達』は何のためにここに来た?」
結標「『私達』は何のために―――『ここ』で死んでいった?」
結標「―――本当にわからないの?」
―――
843 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/19(木) 01:15:13.99 ID:rLU+ku2po
―――
黒子「―――…………」
黒子はビル屋上の淵から、
1km程離れた地を見下ろしていた。
土御門、御坂、シルビア、そしてあの大男と『核』を。
とは言っても、
この距離で黒子の目で識別できるのはあの大男の大きな『翼』と、
影の中から出現した核が漏らす光だけであるが。
オッレルス『そちらの回線は?』
背後から聞えたその声に対し、
黒子は体そのまま、顔だけを振り向かせながら答えた。
黒子「いえ。いまだ」
依然回復の兆しが無い、
AIMストーカーの通信網の状態を。
オッレルス『そうか』
そう、これまた片手間といった風に言葉を返してきたオッレルス。
彼を囲む光の球体、その表面を動く文字列の目まぐるしさはいっそう増し、
全体の光も徐々に強くなってきている。
更に、今まではオッレルス自身は特に動いていなかったのだが、
土御門との交信があった直後から、
見えない操作基盤を敲いているかのように手を動かしはじめ。
視点も人間離れした挙動と速度でせわしなく動かしている。
黒子「……」
黒子の素人目から見ても、
極限のプレッシャーと押し寄せる焦りの中にいることが見てとれるほど。
844 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/19(木) 01:16:52.89 ID:rLU+ku2po
オッレルス『では……まだ回復していないようだが、君にやってもらいたい事について話しておく』
黒子「!」
オッレルスが話を切り出した瞬間、
黒子の前の中空に、ホログラムのように光の像が浮かび上がった。
それは、羅列されている各チームのコード。
全て、北島各地のランドマーク上で待機しているチームのもの。
そしてそのコードの後に続き、なにやら奇妙な『記号』が浮かび上がっていた。
黒子「……これは?」
オッレルス『「示している記号」を回線が回復次第、各地で待機してる君の仲間達に転送し』
オッレルス『ランドマークの範囲内、壁や床でも何にでもいいから刻むよう伝えてくれ』
黒子「……」
オッレルス『模写の精度は「同じ記号」と判別できる程度でかまわない』
黒子「了解。回復次第、そういたしますの」
オッレルス『あくまで俺が「遠隔干渉」するための基点構築だから、彼らに何かしらの障害が生じることは無い』
黒子「はい―――」
と、黒子がそこで頷いたその時。
『―――……………………こちら……AIMストーカー……状況報告を』
845 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/19(木) 01:18:30.97 ID:rLU+ku2po
正に突然脳内に響いてくる、今最も聞きたかった声。
黒子「(―――回復……!しましたの!)」
前触れもなく、AIMストーカーの通信網が回復したのだ。
その声色がなぜか随分と萎れてはいるが、間違いなくAIMストーカーのものだ。
黒子「こちらCharlie 4。状況報告を転送」
滝壺『……了解。状況確認完了』
思わず黒子はその場で身を乗り出しては、
早速情報を送り出し。
親指を立てた右手を伸ばしながら、
オッレルスに向けて頷いた。
オッレルス『(回復したか。このタイミング、良い流れだ)』
それを確認したオッレルスは、小さく笑った。
オッレルス『(流れは俺達に傾きつつある―――)』
依然、道のりは厳しいものの。
この険しい道の先に、確かな光が見え始めている。
手が届くところに確たる光が。
オッレルス『(―――この勢いのまま突っ込むか)』
そこでオッレルスは、せわしなく動かしていた手を止めた。
その瞬間、球体の表面の文字列もピタリと動きを止めた。
846 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/19(木) 01:19:38.47 ID:rLU+ku2po
オッレルス『―――キリエさんを―――』
その彼の言葉を聞くと同時に、
黒子がオッレルスの足元の彼女を一瞬で脇に連れ出して。
直後、球体の色が変わった。
表面がざらついて黒くなり、
オッレルスの姿が覆われて見えなくなり。
その雑な表面の隙間からは、
赤とオレンジの光が漏れ出す―――。
黒子「―――!」
それは『核』だった。
厳密には現物ではないが。
ここに出現したのは、いわば『水面に映る月の影』。
現物は今も土御門の前にある。
土御門経由で引き出されたデータがオッレルスの中で変換され、
その像がこの場に映し出されているのだ。
とはいえ、
もちろん素人の黒子の目からは変換後と変換前の違いなどわからない。
そう、そんな専門的な事はわからないが。
これだけはわかる。
遂に最終局面が始まった―――良くも悪くも『終わり』はすぐ、訪れると。
―――
847 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/19(木) 01:20:12.24 ID:rLU+ku2po
―――
じわりじわりと近づいてくる、ヘドロのように蠢く影。
それを、矢の雨による『面制圧』で粉砕し。
『天の氷』と『天の水』で形成されている巨大な翼が薙ぎ掃い、
それらの力を更に集約させた大剣が、一閃の元に寸断する。
聖人シルビア、そして聖人の枠を超えて半天使となったアックアが影を滅していく。
その光景を、御坂は大砲を腰溜めに構えながら見守っていた。
御坂「…………」
背後にて土御門の苦痛に、喘ぐ『強烈な声』を耳にしながら。
彼女がその魔弾を放たないのは、
なにも『出る幕がないから』というわけではない。
むしろとっておきだ。
今はまだ二人の魔術師の攻撃が効いている、
『影の防御』の機能が戻っていない段階であるし、何よりも残弾の問題がある。
とはいえ。
『とっておき』とはいっても、この御坂の『魔弾だけ』では決定打にもならないが。
この魔弾だけでは、文字通り『防御機能を剥がすだけ』。
特殊な効果を省いたこの魔弾の単純な威力では、
黒豹にとっては蚊に刺される程度だろう。
この特殊効果に、土御門の圧倒的な力があってこその先ほどなのだ。
848 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/19(木) 01:23:01.44 ID:rLU+ku2po
御坂「……」
それに、意識共有を切る前に送られてきていた土御門からの『評価』では。
御坂の魔弾の効果があってもアックアやシルビアの力では、
完全に復活した状態の黒豹にはほとんどダメージは与えられ無いとなっていた。
防御を抜きにして、単純に力の規模に差が有りすぎるのだと。
白狼と死闘を繰り広げた、先の『全力の黒豹』相手では。
『ガブリエル程度』では、本体を顕現させて100%の力を発揮したとしても、到底『戦い』と呼べる段階には届かない。
ましてや『いち聖人程度』じゃあ、何人いても『いない』のと同じ。
そして、単純な力量ではこの二人よりもずっと低い御坂。
唯一拮抗しうる土御門は戦闘に参加できない、というこの状況。
作業が完了して土御門が戦闘に復帰するのが先か、黒豹の完全復活が先か。
なんという綱渡り、とんでもない追い詰められ具合だろうか。
御坂「……」
だがこのような時でも。
諦めずにいれば、流れは着実にこちらに向かって来てくれる。
例えばこの―――
黒子『―――お姉さま!聞こえます?!』
―――耳の受信機から聞えてきた親友の声なんかも、それを示す好例だ。
849 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/19(木) 01:24:28.38 ID:rLU+ku2po
御坂「黒子、回復したのね。問題は?」
黒子『問題は今のところ特には!AIMストーカーは今、こちらが要請した作業をおこなっておりますの!』
御坂「そう、よかった」
『ムーブポイントへの演算補助信号にメッセージを混ぜる、というミサカの案がうまくいきましたね』
と、そこで入る妹達からの通信。
『AIMストーカーの稼動状態、ネットワーク機能、共に正常、問題無いです』
御坂「(……よしっ、良い感じね)」
御坂は心の中でとりあえず、一つ問題をクリアしたことに胸を撫で下ろして。
横目で、背後の土御門を見やった。
凄まじい苦痛の声を漏らし続けている彼を。
前に事務所デビルメイクライに居候していた時、
トリッシュの拷問で上条もかなりの苦痛の声を挙げていたが。
それこそ、あの上条当麻が精神的にまいってしまい
無様に泣き出すほど。
御坂「……」
だが、今の土御門のそれはあの時以上に聞える。
あの時以上に、だ。
だからこそ、御坂はあの上条の時と同じくこう思う。
こういう時こそ、
己のような立ち位置の者が踏ん張らなければならない、と。
中心で戦っている者を、横や後ろで支える支援者。
ある時は刃となり。
ある時は盾となる『脇役』―――と。
彼女の今の主題は、
復活した黒豹に殺されてしまうのではないか、ではない。
果たして作業が終わるまで―――土御門を守れるかどうか、だ。
850 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/19(木) 01:25:36.09 ID:rLU+ku2po
そしてその主題を問う『悪魔』が、そのおぞましい頭を掲げる。
御坂の視線の先にて、二つの赤い光点が出現した。
それは『目』。
影の王の鋭い瞳。
その瞬間、辺り一帯の影がその動きを変えた。
ヘドロ状に統制なく蠢いていたのが一気に滑らかになり、
一つの意思の元に集っていく。
まだ、完全ではない。
そう、確かに完全ではないものの。
御坂「(―――そろそろね)」
『完全』へのカウントダウンは始まっていた。
シルビア『チッ!5割程度か!攻撃が拒絶された!!』
その時、土御門が繋いでくれていた魔術通信網による、
脳内へ響く声。
アックア『6割弱、か。通らない』
その彼らの声が示すのは、
『防御』の機能も復活しつつあるという事実。
851 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/19(木) 01:26:53.49 ID:rLU+ku2po
この展開まで到達してしまったら、
もう残弾を惜しんでなどいられない。
影はいびつながらも、
『黒豹』と見える形まで既に再生している。
御坂「―――私の弾を追って集中させて!」
そう、二人の魔術師に叫んでは、
撃神のサポートされた感覚で狙いを定め。
そして砲撃を開始する。
それと同時に、再生しかけの黒豹もこちらへと突進してきた。
完全復活など待っていられない、とでもいうように。
いや、実際にそうなのだろう。
なにせ己の『核』がむき出しなのだから。
ここからは、双方にとって『死に物狂い』だ。
放たれた魔弾が、黒豹の頭部に命中する。
そこにほぼ同時にすれ違いざまに。
アックア『―――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
巨大な光の刃『神戮』、
ガブリエルの剣へと姿を変えたアスカロンをアックアが振り抜く。
そして。
かの四大天使の刃は、黒豹の鼻先から尾の先までを水平に、
上と下に分断した。
852 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/19(木) 01:27:44.73 ID:rLU+ku2po
だが。
それで終わるわけが無い。
それどころか、終わりに少しでも近づいたかどうかさえ怪しい。
一閃の元に切り捨てられた黒豹の体は、
大気中に溶け出すようにして一瞬に霧散。
そしてそのすぐ後ろに続く形で。
アックア『―――!』
黒豹の体がもう一つ、そこに『再生』した。
これは、完全復活していないからこその身軽さと言えるだろう。
集束している力はまだ小さいため(あくまで完全な時と比べれば)、再構築もすぐ済むのだ。
『二体目』の黒豹が、
アスカロンを振りぬいた直後のアックアに跳びかかる。
と、そこで二発目が頭部に着弾。
隙をついてアックアが後ろに跳ねて離れると同時に、
そこにシルビアの矢の雨が降り注いだ。
地殻を穿つ散弾。
それらを受けて、
黒豹の体は原型を留めぬ程に損壊するも。
やはり瞬時に再生した。
853 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/19(木) 01:29:51.70 ID:rLU+ku2po
白狼と戦っていたときのように、
周囲の影全体が猛烈な勢いで襲い掛かってくる、
なんてことはまだ無く、積極的に動いているのは再生しかけの黒豹の体だけ。
しかし、決して楽ではない。
御坂、アックア、シルビアにとってはこの状態の黒豹でも『怪物』。
今でさえ、そこらの大悪魔など遥かに凌駕している。
御坂「―――ッ!!!」
御坂が放って、
アックアとシルビアがその天の力を叩き込む。
時間稼ぎにはなっていた。
だが、決定的な事は何も出来ず。
残り25発。
『戦線』は徐々に押し込められていく。
撃つ場所・タイミングを慎重に選ぶも、
残弾はどんどん減っていく。
残り20発。
アックア『―――ぐっ―――!!!』
黒豹が薙いだ尾をアスカロンでなんとか受け止めるも、
その表面に走る大きな亀裂。
残り15発。
シルビア『―――あ゛ッ!!!!』
盾として出したクレイモアが黒豹の爪により、
一瞬でへし折られて弾き飛ばされるシルビア。
そして残りは―――10発を切る。
854 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/19(木) 01:31:17.17 ID:rLU+ku2po
この時点で黒豹は、
土御門の背を守る御坂まで40mのところまで迫っていた。
残弾は残り9発。
御坂「(―――マズイ)」
そして御坂の大砲は、
実はあと2発で装填が必要であった。
なにせ、ここまで装填する余裕が一度も無かったのだから。
そしてここから先も装填する余裕は無さそうに、
いや、それどころかますます―――。
だが当然、装填しなければ大砲は撃てない。
どうにかして装填するしかないのだ。
となると、頼みの綱はもちろんアックアとシルビア。
御坂「―――2発で装填!!」
そう彼等に叫び、御坂は残りを放つ。
急ぎつつも慎重に、無駄撃ちなどせぬように。
一発目。
牙を剥き出しにしている、開かれた『口内』に炸裂。
二発目。
左目眼球に命中―――したが。
御坂「――――――――――――」
―――弾かれた。
御坂の大砲の弾は『拒絶』された。
なんというタイミングか、
ここで影の防御の『更新』が完了したのだ。
遂に御坂の大砲の弾も―――『拒絶対象』に。
御坂「―――……う……そ……?」
855 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/05/19(木) 01:31:56.19 ID:rLU+ku2po
今日はここまでです。
次は金曜の夜に。
856 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/19(木) 01:41:45.56 ID:Z9An4R8DO
おつううう
なんて続きが気になる切り方なんだ……!
857 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)
[sage]:2011/05/19(木) 02:17:22.71 ID:15/gPONAO
くあああ
続きが気になる
そうか今分かった
何人も魔術師、聖人が全力で戦ってるのが新鮮だったんだ
858 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)
[sage]:2011/05/20(金) 01:46:00.29 ID:c5gHa+eH0
乙乙乙
859 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/05/20(金) 03:31:49.37 ID:A/QT13Wxo
乙
ガブリエル程度だと、それは拒絶されるからなのか?
860 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2011/05/20(金) 21:49:01.79 ID:UirQ2fTAO
ガブリエルって読んでる限りダンテの使い魔にすら勝てないよな。
861 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
:2011/05/20(金) 23:43:26.20 ID:BeHi5LoBo
所詮天使九階位の第八位の一人ってレベルだし仕方ないな
天界の序列で考えてもしょぼいクラスだろ多分
862 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/21(土) 00:44:02.08 ID:eZZRMapho
あまりの光景に、御坂は即座に装填作業に動く事が出来なかった。
ただ、そこで怯まずに作業に移れたとしても、
最早無駄な労力に過ぎなかったが。
黒豹はそのまま、御坂に向け真っ直ぐ突っ込んできた。
御坂など軽く一呑みにできるであろう巨大な口を開け放って。
御坂「―――」
とその時。
彼女と黒豹の間に、間一髪のところでアックアが割り込んだ。
莫大な力が収束されて光剣と化しているアスカロン、
『神戮』の切っ先を前に突き出し。
翼を広げてその『場』に踏ん張り。
アックア『―――お゛―――』
黒豹を正面から『受け止めた』。
その瞬間溢れる強烈な閃光と衝撃、
そして、後ろの御坂の足元まで飛び散る鮮血。
その真っ赤な液体が『どちら』のものか、などは特に言及する必要は無いだろう。
御坂「―――ッ」
なにせアックアの上半身がすっぽりと、黒豹の口の中に入っていたのだから。
そこに大量に零れ落ちる鮮血。
その光景はどう見ても―――。
863 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/21(土) 00:44:56.15 ID:eZZRMapho
アックア『ぐ―――ぬ……』
と、その光景は絶望的であったが、
『見た目通りの最悪』ではなかったらしい。
中から、彼の生存を示す唸り声が聞えてきたのだから。
彼の『神戮』の刃は、
今現在唯一防御が効いていない箇所を的確に貫いたのだ。
それは、御坂の大砲が拒絶対象になる直前に炸裂した『口内』。
ただやはり、大きな牙は回避できても、
目の粗い鑢のような表面の影は裂けようも無かったらしい。
アックア『ぐッん―――』
黒豹の頭蓋を内側から割るのと引き換えに、体を引き裂かれる。
まさに肉を斬らせて骨を断つ。
アックアは一泊息を込めては身を捻り、
アックア『―――おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』
突き刺しているアスカロンを今度は一気に切り上げた。
『神戮』の刃は脳天、額、鼻先まで。
首先から上顎全体を、内側から両断。
ブチ切れた影の破片とアックア自身の血飛沫が飛び散る中、
黒豹の頭部がパックリと大きく開いた。
すかさずその開口部に向け、
上方に跳ねていたシルビアからの矢の一斉掃射。
黒豹の体は『今までと同じよう』に、潰れては砕け散った。
864 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/21(土) 00:46:18.63 ID:eZZRMapho
そして黒豹の口から脱したアックアの上半身は、まさに修羅の様相であった。
血に染まっていない部分の面積の方が少ないくらいだ。
アックア『はッ……ぐ……』
なんとか搾り出したような苦悶の声を漏らしては、彼はその場にガクリと膝を付いた。
拍子で額などからボタボタと大粒の雫が零れ落ちていく。
御坂「―――」
御坂はその姿に思わず駆け寄ろうとするも、
アックアは鋭い視線を向けて彼女を制止した。
寄るな、と。
その御坂のすぐ脇に降り立ったシルビアは、
シルビア『オッレルス。そっちの作業は?』
オッレルス『もう完了する。すぐだ』
シルビア『そうか……』
そう淡々と魔術通信を交わした後、ロングボウを構えた。
シルビア『私達は「次」で負けるが、それまでに済ませてくれ』
500mほど正面、再び再構築された黒豹に狙いを定めて。
オッレルス『……ああ。間に合わせるよ』
アックア『……』
御坂「…………」
そう、ここにいた誰しもが『己個人の敗北』が、
次の黒豹の攻撃でもたらされると感じていた。
今となっては土御門が戦闘に復帰しても―――どうしようもない。
もう『黒豹に勝つ』という結果は消失していた。
御坂の大砲が効かないのだから。
865 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/21(土) 00:47:23.77 ID:eZZRMapho
御坂はその場に静かに屈んだ。
何もする事が無いのだから、別に問題ないだろう。
ただ、何もする事が無くとも、『何もできない』という訳ではない。
『的』が一つ増える分、
土御門の番までの僅かな時間稼ぎにはなる。
少なくとも御坂は、
己がここに残るそんな小さな必要性を見過ごそうとはしなかった。
そもそもここから退くにしても、
あの影からはどの道逃げ切れそうも無い。
とそこで。
屈んだ際、彼女の爪先に何やら当たって響く金属音。
御坂「……」
ふとその音の源をみやると。
ここで撃ちまくって排された薬莢の一つであった。
レディ製の魔弾の―――。
御坂「―――」
とその時。
レディ、あの尊敬するデビルハンターを思い浮かべた瞬間。
御坂の脳内ではフラッシュバックが起こった。
866 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/21(土) 00:48:32.67 ID:eZZRMapho
頭の中に響くのは。
―――『チャンス』はそこら中に転がってる―――『有効な手段』は時に『近く』を転がってるものよ。
出発前にレディから貰った言葉。
一見通用し無そうに見えても―――実はかなり有効な『切り札』も―――。
歴戦の経験に裏打ちされた、『人の子』としての助言。
御坂「―――……っ」
突如澄み渡っていく頭に御坂は目を見開いた。
思考が一気に回転速度を増す。
撃神によって鋭敏化している感覚が後押ししてくれているのか、
今まで御坂が体感したことが無いほどに。
御坂「―――……」
意識共有していた際に土御門から貰った、『影の防御』の性質。
影は、武器や攻撃の基礎概念を識別して『拒絶』する。
そして足下の散らばっている『薬莢』。
『薬莢』、それは弾頭を撃ち出すための『炸薬』が入っている容器。
御坂の思考は瞬時に、この二項目の間にある微かな線を見出した。
もうちょっと。
もうちょっとで―――繋がる。
この大砲が使うのは、『炸薬』で撃ち出す弾。
そう、能力で強化されるも―――基盤は『炸薬を使う銃』。
あくまで、『火薬の燃焼現象を利用して弾頭を射出する武器』の延長線上のもの。
影の防御は、その『概念』を『拒絶対象』とした。
ならば―――。
御坂「―――」
867 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/21(土) 00:51:40.71 ID:eZZRMapho
瞬間。
彼女は『己の手』に目を移した。
遂に、そこで彼女はその『何か』を『見つけた』のだ。
常にそこに、当たり前のようにあり。
そして当たり前すぎて、このような状況ではついつい意識の外に置いてしまっていた―――。
だが実は―――使える『もの』が。
この『手の平』そのものにある、と。
御坂「―――再開するわよ!支援お願い!」
御坂はそう声を張り上げて肩の弾薬袋から残りの弾、7発を能力で取り出した。
シルビア『再開って―――』
その大砲じゃ防御はもう、
とシルビアが続けようとして彼女の方を振り向くと。
立ち上がった御坂の前で浮遊する7発の弾。
その薬莢と弾頭が、次々と『外されていき』。
先から黒い炸薬を零しながら薬莢は地面に落ち。
親指大の弾頭は、御坂の手の中に―――。
右手に3発、左手に4発。
それぞれを乗せた手を前、黒豹へ向けて突き出して。
まず『一つ』。
その弾頭を指で『弾き飛ばした』。
そう、彼女の思考はこのような答えを導き出したのだ。
『火薬の燃焼現象を利用して弾頭を射出する武器』とは―――『別物』では?
レールガン
炸薬を一切使用しない―――『純粋』な超電磁砲は、と。
次の瞬間。
彼女の二つ名を証明する、光の矢が放たれた。
868 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/21(土) 00:53:40.71 ID:eZZRMapho
真っ直ぐに放たれたレールガンは、
再び突進し始めた黒豹の額に直撃した。
やはり大砲から撃ち出すよりも遥かに火力が弱いのか、
黒豹の勢いが緩むどころか一切揺れ動きもしないも。
―――影の表面に走る亀裂。
それを一目見て、驚くよりも先に矢を放つシルビア。
そして満身創痍のアックアも、一度太い声を挙げてはその身を奮い立たせ、
アスカロンを手に飛び出し。
続けて放たれた2発目を追って切り込む。
再び状況がこちらに傾いた。
それは紛れも無く最後の『傾き』。
ここで逃がしたら、もう次は無い。
確かに使命を達するためならば、
その命を捨てることも辞さないものの。
『進んで死にたい』者などここには一人もいない。
可能ならば『最良の結果』を望むのは当然。
三者はここで最後の力を振り絞る。
それぞれがそれぞれの望む場へ―――『生きて』帰るために。
869 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/21(土) 00:54:52.03 ID:eZZRMapho
シルビア『―――オッレルス!!まだか!!』
御坂『―――あと5!』
残り5発を撃ち切る前に。
最後の5発目の効果が消える前に。
オッレルス『―――もう終わる!』
御坂『―――4!』
土御門を―――。
御坂『―――3!』
両手から交互に撃ち出すレールガン。
しかし黒豹の方も完全復活まで少しなのか、その防御を剥いでも。
御坂『―――2!』
もうアックアやシルビア程度の力では、僅かに怯ますことしかできず。
黒豹は接近速度を増して―――。
そして。
御坂『―――1!』
最後の一発が放たれたその時。
オッレルス『―――完了した!!』
作業が終わったことを告げるオッレルスの通信。
それと同時に土御門は―――はずだったのだが。
彼は動かなかった。
腕を肘まで核に沈めたまま。
御坂「―――土御門―――」
いつのまにか、その頭はダラリと力なく垂れ下がっていて。
御坂「―――土御門!!!起きろコラぁあああああああああああああ!!!!」
―――
870 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/21(土) 00:57:14.77 ID:eZZRMapho
―――
名を呼ばれたような気がする。
どこか遠くで、はるか遠くで。
だが彼は、その声に応えることは出来なかった。
奔流にもみくちゃにされる中、何とか己の存在を保ち。
意識が霧散しないよう集中して抗うも。
どんどん奔流の底に沈み込んでいき、そして凄まじい圧力に晒される。
じわりじわりと『薄まりつつ』ある意識。
『―――』
あの声がした方に戻らなければならないのに。
決して諦めず、常に最良の結末を求めて。
より多くの命を守り、より大勢の仲間達を『家』に帰還させねば。
そして『ある日』、大切なあの『彼女』と交わした約束を―――。
「―――兄貴さ、ある日、急にいなくなったりとかしないよな―――?」
―――守らねば。守らねばならない。
もう諦めない、逃げないとこの戦いで誓った。
『おねがい―――だ―――』
何が何でも―――。
『―――かみさ―――ま』
871 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/21(土) 00:57:58.56 ID:eZZRMapho
その時。
『―――』
彼の前に、凄まじい奔流を遮ってあるものが出現した。
それは透き通るように白い肌していて。
病的なものではなくて健やかさを感じさせ。
冷たさは微塵も無くて、温もりに満ち溢れていて。
細くてしなやかでありながら、
醸し出すのは儚さではなく確たる力強さ。
そんな『女性の手』、いや―――『母性』満ち溢れている『右手』。
それが彼の前に差し出されていた。
さあ、と手を取るように示しながら。
『―――』
すかさず彼は手を伸ばした。
目一杯、全ての意識と力を振り絞って。
今の今までも守ってきてくれた、その―――『慈母の手』を取るため。
872 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/21(土) 00:58:59.10 ID:eZZRMapho
しかし。
あと1cmというところで届かなかった。
懸命に伸ばしてもギリギリ届ずに、指は残酷に空を切る。
届かなければ1cmも1億光年も同じ。
彼にとって、この隙間は果てしなく遠すぎた。
だがそこで。
もう『一本』。
筋骨隆々としたたくましい『右腕』が、慈母の手のすぐ脇から出現した。
『―――』
猛々しさに溢れたその腕は、慈母の手よりも遥かに太く長くて―――簡単に彼の手首を握った。
それはそれは、万力に固定でもされたかのような力強さ。
その一方で痛みやなど特には無く―――。
そしてたくましい腕は、一気に彼を引き上げ。
次いで慈母の右手も彼の手を握り。
土御門元春、彼は『帰還』する。
『二柱』が差し伸べた手により。
―――
873 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/21(土) 00:59:38.82 ID:eZZRMapho
―――
最後の弾が黒豹の『喉』に命中した瞬間。
ほぼ同時に、黒豹の力が遂に完全に復活した。
周囲の影が一斉に波打ち、そして全方位で杭や手を形成して。
そして突っ込む黒豹の全身も刃と化して。
今までとは比べ物にならない速度へと一気に加速した。
それは白狼と激闘を繰り広げていた際のもの。
例え防御が無くても、アックアとシルビアの攻撃ではもう傷すら付けられず、いや、
速すぎて触れさえもできない。
この場にてあの『牙』を止められるのはただ一人。
御坂「―――土御門ぉぉぉぉぉ!!」
三度、彼の名を叫ぶ御坂の声が響いたその時―――。
土御門が身を跳ね上げるようにして振り向き―――『白狼』へと姿を変えて。
牙を剥き出しにして。
今まで以上の力を宿して、
長い毛のような『白い光の線』を幾本も体から出現させては靡かせて。
御坂の横を一瞬で駆け抜けて行き―――黒豹と正面から激突した。
874 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/21(土) 01:00:45.76 ID:eZZRMapho
その瞬間、
御坂はまるで北島全体が沈み込んでしまったような感覚に囚われた。
いや、実際に界が沈み込んだのだろう。
影と光の全力の激突、その凄まじい負荷で。
御坂はその衝突した瞬間が見ることができなかった。
速すぎて認識できなかったのではない。
文字通り『見ることが出来なかった』のだ。
まるでチャプターを飛ばしたように、その部分だけがぽっかりと。
瞬間的な圧力で周囲の理が、時間軸もろとも一瞬全機能停止したとでも言うか。
この時の激突は御坂やシルビア、アックアのいる次元を遥かに超えた天辺のものであった。
そして、その両者の力は拮抗していた。
今度こそ、白狼は一寸も押し負けなかった。
体長2mの白狼と30mの黒豹はその場で押し合っていたのだ。
白狼は黒豹の喉下に深く食いつき。
黒豹は、前足で白狼を押さえ込むようにして爪を食い込ませて。
お互いの後ろ足には絶大な圧が加わり、
不気味な地響きを軋ませては一帯が更に『沈みこんでいく』。
875 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/21(土) 01:02:16.40 ID:eZZRMapho
黒豹の爪が食い込んでいる部位からは血が滴り、
純白の毛皮が紅に染まっていき。
白狼の牙が食い込んでいる部位の影が音を立てて砕けていき、
大量に流れ出て霧散していく。
その傷口へ放たれる、何重にも連ねられた白狼の一閃。
それらによって一気に黒豹の喉、首が更に引き裂かれていく。
が。
御坂「(―――……そ……んな―――!)」
それは傍から見ている御坂の目でも一目瞭然だった。
足りない。
決定的に足りない。
今のままでは押し切れない。
必要なのは、更なる大きな攻撃と―――『防御』をもう一度無効化する術。
今まさに、最後の弾の効果が徐々に消え始めているのだ。
このままでは―――。
土御門『―――弾は?!』
白狼、土御門からの『起き抜け』の第一声は御坂へのそんな問い。
土御門はまだ『知らなかった』。
彼女はもう、
全てを撃ち尽くしてしまっていたことに。
876 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/21(土) 01:04:17.75 ID:eZZRMapho
御坂「―――……!」
足元の瓦礫、薬莢を飛ばすか?
いや、そんな事しても意味が無いだろう。
レディが手がけた対魔専用弾じゃないと、あそこまで効果があるとは思えない。
弾薬袋を肩から下ろし中を覗き込むも、
当然あるわけがなく。
無い。
無いのだ。
ソレがここの現実だった。
土御門『―――何してる!!』
御坂「の、残りは―――……!」
あと一発、あと一撃さえあれば―――認めたくなくても、認めるしかない現実。
「あの時、弾を節約しておけば」と思い返して後悔してもどうしようもない。
ぎょろりと、黒豹の大きな赤い瞳がこちらに向いた。
明らかに御坂を見ていた。
御坂「―――」
そして狭まる目尻。
それはまるで―――ほくそ笑んでいるよう。
それはそれはたまらなく悔しくても、
今の御坂では否定できない笑み。
黒豹が笑みを浮かべるその『理由』を口にし―――
御坂「―――残りは……もう…………な―――」
―――ようとしたその時。
黒子『お姉さま―――!!』
877 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/21(土) 01:05:41.00 ID:eZZRMapho
御坂「―――」
唐突に耳の受信機から聞えた黒子の声。
黒子『右手の平を上方にお向けくださいまし―――!』
そしてその言葉に続いて、
御坂の顔の前に小さな風切り音を発しながら。
一本の『杭』が出現した。
御坂「―――」
長さ30cmの、表面に様々な文様が刻まれた大きな杭が。
そう、それは間違いなく。
黒子『―――これを!』
黒子が手にしていた、レディが手がけた武器の一つ。
御坂「―――はッ―――!!!」
御坂はその杭を右手でキャッチしては、即座に腕を伸ばして―――。
御坂「あはは!!!―――黒子ォ―――あんた最っっ高!!!」
杭の先端を黒豹の顔、こちらを見ている目玉へと向けた。
瞬間に赤い瞳が大きく見開かれたのが見えた。
そこへ。
御坂「―――愛してるわよ!!!!」
『杭』が放たれる。
電磁の力で射出された槍は大気を切り裂いて突き進み。
そして突き刺ささった。
猫目、真っ赤な瞳孔の中央に―――。
878 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/21(土) 01:06:30.61 ID:eZZRMapho
その杭の効果は、想像を遥かに超えていたものであった。
今まで使っていた弾薬なんて優しすぎる程。
御坂「―――!!!」
眼球に突き刺さった瞬間、
黒豹は白狼の牙に首下を引き裂かれるのも無視して跳ね上がり。
あの戦慄的な悲鳴を挙げては、狂ったように悶え始めた。
その『声』は先よりもさらに激しく、
より苦痛が滲んでいるようにも聞えた。
土御門『良くやった―――』
と、そこで白狼が一つの筆しらべを放つ。
『桜花三神が一、咲之花神―――花咲』
瞬間、とてつもない勢いで大量の『樹木』が生えてきた。
大地を割り、まるで噴火を起こしたように。
そして『天の木』達は、黒豹の四肢に絡み付いてく。
狂ったように暴れる黒豹によって砕かれ引きちぎられるも、
それを上回るペースで伸びては覆い、縛す。
土御門は、慈母から授かった全ての力を黒豹その場に抑え込んだのだ。
879 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/21(土) 01:07:44.42 ID:eZZRMapho
ただこのまま永遠に抑え込め続けるわけは無い。
維持できるのは極々短時間だ。
基本的に、力の総量は今の土御門よりも黒豹の方が多いのだから。
また、授かった慈母の力の全てを抑え込むのに使っているということは。
当然、『これ以上』の行動は出来ない。
そう、『慈母の力』だけであったら―――。
土御門『―――』
土御門は勝利を確信していた。
なぜならつい先程、慈母とは別に―――もう一柱。
慈母に匹敵する『圧倒的な存在』が、その力をこの手に授けてくれた―――。
―――手を差し伸べてくれたのだから。
白狼が天に向かって一声、遠吠えを放った。
すると最初に白狼が生み出した、
この場を照らしていた陽光が掻き消えていく。
それは慈母の光が滅していったのではない。
慈母によって『宵』が作られたのだ。
『弓神―――月光』
そして澄み渡った夜空に浮かぶ―――『三日月』。
880 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/21(土) 01:08:45.93 ID:eZZRMapho
直後に土御門の姿が白狼から人型に戻った。
ただ、完全に戻ったわけではなく。
御坂「―――!」
一つ、いつもの土御門との大きな違いがあった。
それは髪―――完全な『黒髪』。
そしてそんな土御門が右手を三日月に翳すと。
その手には、大きな大きな金色の大剣が出現した。
『魔と戦う運命とあらば―――』
瞬間、そう口を開き始めた土御門。
その声は確かに土御門のものであるのだが、なぜか別人が喋っているような。
まさしく、土御門の体を借りて誰かが―――。
『―――この身が砕けようともその道を進まん』
そう口にした彼は、
出現したその大剣の柄を両手で握っては顔の横に上げ。
手首を返して、縛されて更なる戦慄染みた咆哮を挙げるに黒豹に、その切っ先を向けて。
腰を落として構えて―――。
『陽派――――――スサノオ流』
『―――衝天七生』
土御門は空高く飛び上がった。
そして天空で大剣を一度翻しては―――急降下して。
『―――オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!』
一刀両断。
黒豹の脳天から腹まで―――完全に。
881 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/21(土) 01:10:25.62 ID:eZZRMapho
振り下ろした刃は、
地面に触れることなく直前で止まっていた。
直後、黒豹も土御門もピクリとも動かなかった。
黒豹は上を向き、凄まじい形相で咆哮を挙げたままの状態で硬直し。
土御門は振り下ろしたまま、黒豹の前でしゃがみ込んでいる姿勢。
完全な静寂だった。
見ていた御坂でさえ、
呼吸どころか己の鼓動すら止まってしまったように感じたほど。
そして数秒後。
世界は再び動き出した。
そこからの黒豹の最期は、正に『影』にふさわしいものであった。
静かで滑らかに。
正中線に沿ってパクリと、
黒豹の右と左がゆっくりと分離して、両側に倒れていく。
御坂「……」
と、その割れた体は地に着く前に霞んでいき。
風に吹かれたように掻き消えていった。
次いで周囲の影も。
一帯を覆っていた闇が見る見る消える。
日が昇って引いて行くように、
音も無く滑るようにして消失していった。
882 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/21(土) 01:11:17.78 ID:eZZRMapho
御坂「…………」
髪が緩やかに靡いた。
柔らかくも少し染みる風で。
随分と懐かしく思えた―――海風で。
その感覚に浸りながら、御坂は土御門の後姿を眺めていた。
ゆっくと立ち上がった彼の手には、もう金色の大剣は無く。
じっと黙って空を見上げている彼の髪の色が。
どんどん薄まっていき普段の金髪に戻っていく。
御坂「……っ」
気付くと御坂自身、あの感覚の鋭敏化がいつのまにか元に戻っていた。
全ての感覚が普段通りの水準に。
シルビア『ウィリアム。生きてるか』
作業服のあちこちが破れてて傷塗れのシルビアが、
向こう側から歩いてくる。
アックア『うむ』
そして上半身が真っ赤に染まっている、
目を背けたくなるような様相のアックアもアスカロンを杖にするようにして。
シルビア『傷を……ってその体はもう手当ていらないんだっけ?』
アックア『そうである。魂さえ潰えなければ、物理的損壊はいくらでも元に戻る』
シルビア『全く……便利だね』
アックア『痛みは人間の頃よりもかなり強いがな。それにコレはわからん』
そこで彼は親指で左目を指した。
アリウスに潰された左目を。
883 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/21(土) 01:13:10.72 ID:eZZRMapho
とそこで、オッレルスと黒子がその場に合流した。
黒子は足早に御坂の方へと向かい。
黒子「お姉さま、お怪我は?」
御坂「ねえ。あの杭……」
黒子「ああ、お気になさらずに。あのような代物など、わたくしにはもう必要ありませんので」
と、そこで黒子はややツンとして、演技っぽくそんな風に言葉を返して。
御坂「……ふふ、ありがとう。黒子」
それに穏やかに笑った御坂に釣られて。
黒子「……いいえ。どう致しまして」
今度は彼女も穏やかな笑みを浮かべた。
いつも通りの明るい笑みを。
オッレルスは空を見上げて黙っている土御門の横に向かい、
沈黙のまま彼と並んだ。
土御門「……書き換え、完了したんじゃないのか?」
するとぽつりと、独り言のように土御門が口を開いた。
空を見上げたまま。
それに対し同じく、オッレルスも空を見上げながら。
オッレルス『どうにも間に合いそうも無かったから、自律して書き換え作業を続ける術式をぶち込んでやった』
土御門『はっ……随分と無茶な賭けだな。本物の天才が故のやり方か』
その彼の答えに、
土御門は思わずといった風に小さく笑って。
オッレルス『「神」にそこまで愛されてる口から聞くと、嫌味にしか聞えないな』
そこでオッレルスも呆れがちに笑ってそう返した。
そして。
オッレルス『そろそろ書き換えが終わる。起動するぞ』
884 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/21(土) 01:15:12.42 ID:eZZRMapho
その瞬間。
北島の各地から、幾本もの白い光の柱が天に伸びていく。
それが一定の高さまで達すると、
今度は北島全体を覆うように球状の天井が出現した。
天井の最も高いところまで3kmはあるか。
光で形成されたのは、
それは大きな大きな幾本もの列柱に支えられた、荘厳なドーム型神殿の『像』であった。
土御門「うまく動いてるか?」
オッレルス『ああ。人造悪魔兵器のみを停止。他は手をつけず維持。注文通りだろ?』
そう、確認を取った後、ようやく土御門は視線を降ろしては、
オッレルスの顔を『初めて』見て。
土御門「土御門だ」
名乗った。
オッレルス『オッレルス。よろしく』
ここでようやく、お互いはしっかりとした自己紹介を踏まえ。
東西の『はみ出し者の魔術師』が握手を交わした。
そっけなく、それでいて力強く確かに。
―――
885 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/05/21(土) 01:15:52.40 ID:eZZRMapho
今日はここまでです。
次は月曜の夜に。
886 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2011/05/21(土) 01:18:04.81 ID:niSxYG/AO
土御門△
887 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/05/21(土) 01:19:21.95 ID:sbk7ifI9o
遂に倒したか。
本当に面白いな。
888 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)
[sage]:2011/05/21(土) 01:24:53.60 ID:EgWDvyhPo
うおおおおおゾクゾクした!
おつ!
889 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/21(土) 01:40:08.13 ID:qsNsTwNr0
乙です!!
本当に上手いし、面白いわwwww
楽しみにしてます
890 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/05/21(土) 01:40:35.94 ID:xdQh5y8do
お疲れ様でした。
熱いですねぇ……。
891 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
:2011/05/21(土) 02:33:13.30 ID:41AKjmAuo
まさか月読が出てくるとは
892 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
[sage]:2011/05/21(土) 03:40:47.20 ID:usebqQz9o
>>891
大神やった人ならわかるけど、もう1人はスサノオだよん
三貴神でツクヨミだけ出てこないし
893 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/21(土) 06:56:34.50 ID:No3qW4fDO
『圧倒的存在感』……
確かに原作でも凄い存在感だったなwwwwつかつっちーに力を貸すとかそんなビックな人になってたのか
要するに展開が面白い
894 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
:2011/05/21(土) 13:09:29.72 ID:exyIyUqAO
少し泣いてしまった
土御門△
895 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/21(土) 17:41:36.37 ID:k59V2rTZ0
このSSの設定的におっさんは人間界の神で、天界に粛清されたもんだと思ってたから、嬉しい登場だったよ
高天原に拾われたのね
896 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)
[sage]:2011/05/21(土) 22:32:25.70 ID:BgbbnMJa0
おつおつ
897 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/21(土) 23:30:07.25 ID:snfGTdpDO
この前のボーフム戦で大活躍だったな
ダンテ
898 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/05/22(日) 07:36:41.00 ID:ZEzODzGO0
おっさんって、最終的にはオロチどころかラスボスまで一刀両断してたな
しかしここまでかっこいいと、金玉虫がいないのが惜しまれる
899 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/23(月) 04:22:34.70 ID:kHkwAj5ao
うひょひょおおお乙土御門マジカッケー
900 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/05/23(月) 23:30:48.50 ID:d9SJiywxo
すみません。
今日の投下はありません。
次は明日になります。
901 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)
[sage]:2011/05/23(月) 23:37:50.46 ID:c4KCKhqto
あいさ
902 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/24(火) 03:50:58.22 ID:27+WvYvUo
それでも一向に構わんッッ
903 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/24(火) 23:24:02.41 ID:0Kc2mkOko
―――
2000年の後に現れる、暗き血の絆に導かれし狩人―――そして許されざる護り手を待て
スパーダが残したこの言葉通りに『今』が組みあがっていく。
覇王と暗き血スパーダの力。
そしてその絆に導かれし狩人―――ネロがこの場に揃い。
後は―――『許されざる護り手』だけ。
そして彼女は気付いた。
己が、その『許されざる護り手』という配置に付くことを求められている、と。
ただ、求めているのは『今の彼女』ではない。
友を慕う彼女でもはい。
人間の母を愛する彼女でもない。
この世界を護るために戦う彼女でもない。
『人造悪魔としての彼女』だけを求めていた。
『ルシア』ではなく―――『χ』を。
そして『残酷』なことに、
その求めを拒否する理由は彼女には無かった。
904 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/24(火) 23:25:51.12 ID:0Kc2mkOko
この世界を護りたい。
この世界の人々を護りたい。
護りたい―――友達を。
そう強く想えば想うほど、比例して強くなっていくアリウスへの怒り。
それが彼女に一切の迷いを無くさせた。
苦痛も不安も恐怖も認識しなくなり。
無心、まるで本能のように求めに応じる。
『―――私は人造悪魔』
ためらい無く本質を認め。
『覇王の力を検証するために製造された―――忌まわしき傀儡』
躊躇無く原点に返る。
これが『許されざる護り手』たる理由。
これが『許されざる護り手』という配置が必要としている要素。
そんな己の存在を受け入れて。
そして彼女は『成った』、いや、『戻った』。
『許されざる護り手』に。
―――『ルシア』という人格をリセットして。
905 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/24(火) 23:27:46.53 ID:0Kc2mkOko
そのはずなのだが。
全て初期化して、感情がもう無くなっているはずなのに。
アリウス『―――……まさ……か……』
みるみる顔が引きつっていくアリウスが滑稽で仕方ない。
ざまあみろ、と。
己が干渉することで、
具現化の力に機能障害を起こして、力の安定ができなくなって。
アリウスの意識統率が崩れ、スパーダと覇王の力が暴れ始める。
具現が機能しなくなれば、覇王はもう不滅の存在では無い。
それに今や、ネロはアリウスからスパーダの力を取り戻せるはずだ。
暴走状態によりアリウスの意識が容量を超えてしまっているため、
ネロが呼びかければ自然とスパーダは彼の手に舞い戻るのだ。
後はそのまま、覇王の力と魂を切り捨てれば―――決着。
これぞスパーダの予言。
予め緻密に設定されていたかのように全てが組みあがっていく。
そのクライマックスの『筋書き』を思うと最高の気分だ。
なぜ未だに感情があるのか、
そんな疑問など横に除けてしまう程に気分が良い。
少女は思わず笑い―――。
『――――――――――――「お父さん」?』
皮肉たっぷりにそう呼んだ。
瞬間、アリウスの表情が更に引きつるのが見えた。
906 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/24(火) 23:29:22.08 ID:0Kc2mkOko
最高の気分だった。
この憎き男のこんな顔が見たかった。
この男が芯から戦慄し、思考が停止する瞬間を見たかった。
そしてその原因をもたらしたのが己だとは、これを最高と呼ばずとして何と呼ぶ。
そう、嬉しくてたまらないはずなのに。
嬉しくてたまらない―――はずなのに、この息苦しさは何なのだろう。
アリウス『…………こ…………の―――!!!!!!!!!!』
直後、アリウスの体からオレンジの光が溢れ出し、
少女の体を掴んでいた右手も緩んで。
この体は落下して打ち付けられた。
金属とも石ともわからない質感の、具現の産物である黒い大地に。
力が欠片も入らない手足が、
人形のそれのように跳ねてはだらしなく伸びて。
そして側頭部が打ちつけられた瞬間、目尻から零れ落ちた―――
―――この『水滴』は何なのだろう。
907 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/24(火) 23:31:55.08 ID:0Kc2mkOko
視界に入るのは。
アリウス『ご―――ぐ―――ァ―――』
そんな途切れ途切れの苦悶の声を漏らしているアリウスの足と。
ネロ「ルシ……―――!!」
アリウスの足元で這い蹲っていたネロ。
大きく裂かれた胸からは大量の血液が零れ落ちており、
その顔も苦痛の色に滲んでいた。
それでも彼は、己の事など気にせずにこちらに呼びかけては手を伸ばしてきた。
何かに駆られるような表情をして。
それもこちらの顔を見て。
一体なぜ?
と、その時。
アリウス『―――ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!』
アリウスが背を反り、
天を仰いで壮烈な咆哮を挙げて。
強烈な負荷がかかったのか、具現の力で形成された黒く平らな地盤に、
アリウスを中心として幾本もの亀裂が走っていき。
瞬間、彼の身から爆発的にオレンジの光が溢れ出しては、
その強烈な闇の衝撃波が周囲を襲った。
908 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/24(火) 23:33:23.40 ID:0Kc2mkOko
『―――……』
そして少しばかり後、
激音も大気のうねりも収まって。
少女は気付くと、屈んでいるネロの左腕に抱かれていた。
あの瞬間、ネロが庇ってくれたのだろう。
ネロ「―――……ッ」
彼はその瞳で少女の顔を見つめていた。
一見すると凍て付くように鋭くも、実は暖かい色を帯びているその瞳で。
『…………あ……なた…………こ……ん……』
―――あなたには、こんな私を気にかける必要も余裕も無いのに―――。
―――あなたは今、他にやるべきことがあるのに―――。
そう言おうとしても、もうまともに口が動かない。
声を出す力も無い。
ネロ「…………」
ネロの姿越しに赤黒に紫が混じった光が渦巻いているのが見え、
その奥からアリウスの咆哮が聞える。
『…………』
今なら、アリウスからスパーダの力も取り戻せる。
ネロの異形の右手には光が戻っており、彼自身、
今や力を取り戻せることに気付いているはずなのに。
なぜ彼はそうはしないのか。
と、その時。
ネロがボソリとこう漏らした。
ネロ「『コレ』が……あんたの言ってたことなんだな…………ダンテ」
909 :
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(青森県)
[saga]:2011/05/24(火) 23:34:06.16 ID:0Kc2mkOko
それは明らかに独り言であった。
少女を見つめながらも声は別人、ダンテに向けてのもの。
いや、恐らく。
己自身に向けてのもの、という意味合いの方が強かったのだろう。
そう零した後、ネロは己の右手をふと眺めた。
光を取り戻したその異形の腕を遠い目で。
ネロ「―――予言。『筋書き』通り、か?」
そして今度は少女に向けてそう口を開いた。
『……?』
その口ぶりからも、
そこが引っかかっているのか。
ネロ「気に食わねえ」
その点を裏付けるようにネロが言葉を続け。
ネロ「気に入らねえんだよ」
異形の右手を彼女の頬に当てて。
ネロ「誰がこんな筋書きを作りやがった―――」
彼女の頬の雫を掬うようにして一粒、
ネロ「―――女とガキを泣かす筋書きを」
その人差し指で拭った。
910 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/24(火) 23:36:47.56 ID:0Kc2mkOko
データを初期化しても、魂に刻まれた想いは決して消えない。
思念も思考も感情も記憶も全て消し去っても、魂だけは変わらない。
彼女が『人造悪魔』という本質を魂が証明するのならば。
同じく魂に記されている、彼女が手に入れた『心』をも本物だと証明する。
『―――』
―――私は泣いている。
ネロの言葉と頬を撫でられた感触で、
少女は初めて自覚して気付く。
これで世界を護れると嬉しい一方。
―――私はここで死んで。
悲しい。
寂しい。
―――この世界とお別れ―――。
そして認識した瞬間、消したはずの想いが爆発して。
少女は心を完成させる最後の欠片、『涙』を手に入れた。
『…………ふ……ぇぐ……』
込み上げてくる衝動に耐え切れず、いや、耐えることなど一切せず。
少女は泣いた。
泣いた。
911 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/24(火) 23:38:48.58 ID:0Kc2mkOko
もう母の声も聞けない。
もう母のお茶を飲めない。
もう母の顔を見れない。
もう母の胸に―――飛び込めない。
野の原を特に目的なく散策することも。
風に乗って丘を駆け抜けていくことも。
友達の顔を見ることも。
友達に名を呼んでもらうことも。
友達の隣に座って、談笑することも。
もっと友達を作ることも―――。
人々の笑顔を見ることも―――。
もうできない。
できない。
『あッ……え…………』
泣くということはなんてつらくて苦しいのだろう。
でも。
これで『良かった』。
少女は素直にそう思えた。
なぜなら、これから己が喪失する『未来』の価値がわかるのだから。
明日からまた紡がれていく日々が、どれだけ大切なものなのか。
ギリギリで『完成した心』を胸に。
この最高の宝物と一緒に―――最期を。
912 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/24(火) 23:41:46.08 ID:0Kc2mkOko
かつて一体幾人の高潔な戦士が、戦巫女が、
スパーダの腕の中で息をひきとっていったか。
そんな母から聞いた伝承と同じようにして。
英雄の腕に抱かれて、生を締めくくる。
なんて幸せ者なのだろう。
滝のように流れ出していく雫。
それを拭ってくれる、英雄の指がある。
なんて幸せ者なのだろう。
いや、この直後、
彼女はそれら過去の英傑『以上』の幸せ者になる。
なにせ彼女は―――『悪魔』だったのだから。
優しげな眼で見守っていてくれたネロが、
穏やかな口調で彼女に。
ネロ「……俺と一緒に『来る』か?」
そう誘いかけてくれて。
ネロ「―――『ルシア』」
名を呼んでくれた。
ルシアは濡らした頬を緩めて、
弱弱しくも確かな笑みを浮かべて。
ルシア『……………………は…………い……』
そして彼女は―――光になった。
913 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/24(火) 23:43:35.12 ID:0Kc2mkOko
赤毛の少女の体は、柔らかい風に吹かれるようにして消え。
無数の赤い光の粒が舞い上がる。
ネロ「……」
ネロはその光りの只中で佇んでいた。
静かな『怒り』を覚えながら。
ルシアは―――ここで犠牲になるために生まれてきた?
この少女が人を知り温もりを知り愛情を知り、
そしてそれら全てを手に入れたのも―――全てはここで犠牲になるために?
まるでこの状況、
この少女の短い『人生』はそのために予め決められていたよう。
ルシアだけじゃない。
思えば己だって筋書きの上で踊っていたのだ。
この右手に『種火』を宿して。
閻魔刀で力を授かって。
魔剣スパーダで血が覚醒して。
フォルトゥナがアリウスに襲撃されたあの日、魔剣スパーダが覚醒して。
そして今だ。
―――魔剣スパーダを取り戻して、その力で幕を引く。
それが筋書きが求めている『円満な結末』。
―――ふざけんな―――何なんだこの出来の悪い『脚本』は―――。
914 :
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(青森県)
[saga]:2011/05/24(火) 23:45:34.13 ID:0Kc2mkOko
ある者が力及ばず散るのも筋書き通り。
無数の命が消えていくのも筋書き通り。
そんな筋書きの果てに―――『英雄』に祭り上げられるのはゴメンだ。
『ダンテ、あんたはコレに気付いたんだな』
ちょうど良い。
『―――俺も親父も。そしてアンタですら。全員が縛られているこのクソッタレな筋書きに』
閻魔刀は父の力―――魔剣スパーダは祖父の力。
そろそろ、これら偉大な先人達の『庇護』から抜けようと思っていたところだ。
筋書きはこれらを使って、
そしてこれからもこの『授かった力』で英雄とあれ、と求めてきているが。
お断りだ。
筋書きが求める『英雄』にはならない。
『俺は俺の意志で―――』
己ではなく他者から貰い受けた力は―――返品する時間だ。
『―――「俺」になる』
915 :
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(青森県)
[saga]:2011/05/24(火) 23:48:15.58 ID:0Kc2mkOko
ネロ「……」
ネロは静かに立ち上がった。
すると、周囲に舞い上がっていた赤い光の粒子が彼の右手に集まり。
そして染みこんでいき、
その異形の腕は『真っ赤』な光を宿す。
それ同時にネロの体が仄かに一瞬赤く光り、それ止むと。
ネロ「…………」
アリウスの方へと振り返るネロの髪色。
前髪の左端、こめかみあたりの一房が―――燃えるような『赤毛』になっていた。
アリウスはネロから20m程のところで膝と手の平を着き、
凄まじい形相で苦痛に喘いでいた。
彼はそんなアリウスを涼しげな眼で見つめながら、右手を横に翳し。
レッドクイーン
先ほどへし折られた『赤の女王』をその手に呼び寄せる。
その大剣は中ほどから完璧に折れていたものの、彼の右手に収まるやいなや。
赤い光りに包まれ、一瞬で刀身を再生させた。
ネロはその動作を確かめるように、
イクシードを噴かしては『紅蓮』の炎を噴出させてながら呟いた。
ネロ「この特等席で見てろ―――」
その右手にあるレッドクイーンに向けて。
クソッタレ
ネロ「これから、お前を泣かせた『筋書き』に―――」
ネロ「―――1発ぶち込んでやるぜ」
916 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/24(火) 23:50:40.20 ID:0Kc2mkOko
アリウス『―――……がっ……ぐ……』
アリウスは信じられなかった。
今の状況が。
ここまで来て予言などというものが効力を有しているとは。
予言だと―――そんな馬鹿な。
この場では、そんなものなどなんの効力も持たないはず。
この『舞台』は因果の連なりから隔絶した、
全てが『リセット』されている領域なのだ。
だからそんな予め決められていた―――筋書きなどここには存在しないはずなのに。
アリウス『―――』
―――いいや、逆なのかもしれない。
全てを取っ払ってしまったからこそ、深淵の『流れ』が露になったのだ。
この領域にまで到達しないと、決して認識できない『流れ』が。
そしてその筋書きが示す結末はこうだ。
ここでアリウスは魔剣スパーダとスパーダの力を取り戻され、そのまま散る、と。
納得できるわけが無い―――そんな結末など。
この意志は―――『人の強さ』は覇王を屈服させた。
錠から解き放ったスパーダの力を抑え込んだ。
スパーダの孫から魔剣スパーダの主導権を奪い取った。
だから負けぬ。
この『人の強さ』は―――万物を超えてゆくはずなのだ。
917 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/24(火) 23:51:56.73 ID:0Kc2mkOko
アリウス『―――ォ゛ォ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!』
膝を付いたままアリウスは天を仰いで咆哮した。
その声はとても人のものではない。
潰れてはエコーがかかり、音圧が衝撃波となりこの漆黒の大地が軋む。
瞬間、アリウスの背中から赤黒い塊が噴出した。
それは翼のように大きく広がりアリウスを包み込んでゆく。
そしてそれに併せ、アリウスの姿が急激に変化していく。
覇王のような、揺らめく炎の質感の体に。
だがその光りの色は―――いや、『光』ではなく『闇』だ。
表面に紫の光の衣を有する、像が不確かな『赤黒い闇』。
その姿は形は覇王でも、
色や光は『スパーダ』に染まっていた。
アリウス『ヨ……ゲン……ダト?』
そして、豹変したその姿でアリウスは言葉を吐き出す。
力み潰れた声を、前方で涼しい顔をしているネロに叩き付ける。
アリウス『フザ……ケルナッ……』
この魔剣を、この力を取り戻せるものならやってみろ。
アリウス『―――ショウメイ……ワガ……―――証明を゛ッッッ―――!』
己は決して、決して負けはしないと。
だがネロがそこで返してきた言葉は。
ネロ「ああ、同感だぜ―――」
アリウスが予想だにしていなかったものだった。
ネロ「―――予言なんざクソだ」
アリウス『―――な―――に?』
スパーダ
ネロ「『そいつ』はくれてやるよ―――」
ネロ「―――俺は『俺の』を使う」
918 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/24(火) 23:56:22.98 ID:0Kc2mkOko
アリウス『―――』
このスパーダの孫が、一体何を考えているのか。
まるでわからなかった。
スパーダをくれてやる?
俺は俺のを使う?
あのフォルトゥナの剣で、魔剣スパーダと渡り合う気なのか?
いくら魔剣化しているといっても、この史上最強の剣と切り結べるとでも?
アリウス『―――』
あまりにも馬鹿馬鹿しくて笑いもできない。
しかし。
この時は別の意味でも笑えなかった。
このスパーダの孫、その存在感の―――異様な安定感。
この計り知れない―――大きさ。
それが得体の知れない説得力を生み出す。
まるで同じだ。
本来は決して何人にも認識されるはずが無い『流れ』―――『筋書き』がこの舞台で浮き彫りになったのと。
閻魔刀から授かった力、魔剣スパーダ、それらに付随する『覆い』が剥ぎ取られて。
初めて露になった『ネロ』という純粋な存在。
アリウスの魔神の瞳はここに見る。
75%人間、25%悪魔で構成されている『魂』。
そしてその割合とは矛盾している―――100%人間である『心』の持ち主を。
919 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/24(火) 23:58:19.69 ID:0Kc2mkOko
それは決してありえない形。
魂に悪魔の要素があれば、当然心にも『魔』が滲み出る。
更にその悪魔がスパーダなんて存在ならばどれだけのものか。
そう、あのダンテでさえ―――その心の『半分』は確かに魔であり。
『半分』の人間の心を持っていたとしても、
決して人間と『同じ位置』には立てない。
人間の視点を理解しても、
完全に人間と同一の視点から世界を見ることはできない。
どんなに人間に似ても、人間と同じ部分を持っていたとしても―――
―――『人間ではない』、『半魔』なのだから。
そう、そのはずなのに。
アリウス『(―――これは―――そんな―――)』
心が『完全に人間』な悪魔なんて、
そんな矛盾している存在などある訳が無いのに。
アリウス『―――!!』
その彼の本質を認識した瞬間、
『不思議』な事が起こった。
この身に宿しているスパーダの力が不自然に動いたのだ。
ネロからの呼びかけが無いにも関わらず、一斉に外に抜け出そうと。
いや、『力』達は抵抗しているのに、
別の何かが無理やりアリウスから引き剥がしてネロに戻そうとするかのよう。
さながら、この露になった『ネロ』を慌てて隠そうと。
『誰』が―――『筋書き』が、か?
920 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/25(水) 00:01:11.80 ID:6quunxbto
アリウス『―――ッ』
ネロ「―――いらねえっつってんだろ」
だがネロはそうあっさりと一蹴して。
そして、赤い光りを宿す右手の大剣を脇に引いては構え。
ネロ「おいオッサン。続きやるぞ」
そして軽く地面を蹴って。
ネロ「―――『外野』抜きで、な」
アリウスへと向かう。
レッドクイーン
『赤の女王』から噴出する、真っ赤な真っ赤な炎の尾を引いて。
筋書きが求める『英雄』は完成しない。
完成するのは『ネロ』という、たった一人唯一の男。
祖
ここに『英雄』の庇護から旅立ち―――。
孫
―――『人間』は己が足で前へと進む。
それは、古から延々と続く鎖を断つ行為であり―――『筋書き』は破綻していく。
921 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/05/25(水) 00:02:50.74 ID:6quunxbto
今日はここまでです。
次は木曜に。
ちなみに『筋書き』に関してですが、
>>1
が黒幕だったなどのメタ要素は一切ありません。
922 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/05/25(水) 00:04:48.31 ID:2FYzNnzCo
お疲れ様でした。
イィですねぇ・・・・・新たなる伝説の誕生というところですか。
熱いですねぇ・・・・。いや、ほんといいですね、こういう展開。
923 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/25(水) 00:05:20.34 ID:YnNcIaCDO
おもしれー
924 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)
[sage]:2011/05/25(水) 00:17:11.58 ID:O6psWRJuo
乙
925 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/25(水) 00:19:05.97 ID:eb4rbbD7o
イイねェアツいねェ
乙
926 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/25(水) 00:58:33.48 ID:voUA1C7DO
ふおおおおアツい……アツいな!
おつ!
927 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2011/05/25(水) 23:53:13.82 ID:bLvD/kTJo
のぅ
>>1
や。今更な上にネタバレになりそうか意図不明ならスルーしてくれ。
『アラストルと融合した麦野沈利』が死んだの?
928 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/05/26(木) 00:44:43.34 ID:eLEaFx5To
>>927
アラストルと麦野、両者とも死にました。
929 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2011/05/26(木) 23:30:20.33 ID:dzsK7uydo
そうですか・・・ありがとうございます。
>>1
の設定から深読みしすぎたのか、希望を持ち過ぎたのか・・・
今日(予定)の投下も楽しみにしてます。
930 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/27(金) 00:07:10.73 ID:kyqjnuEso
紺色のコートを纏った騎士の瞬発。
それは明らかに異質だった。
振動も音も、力のうねりも圧も一切を生じさせず、滑らかに静かに軽く。
それでいて大口径の砲弾のように重く凄まじく。
アリウス『―――ォ゛ッッ!』
刹那、アリウスで一閃、横に薙いだ。
赤黒い闇を纏わり付かせたその刃が、カウンターとなってネロへ向かう。
それは魔界の破壊の象徴と謳われた、究極最凶の刃。
目を覚ましたこの刃の前では、何人もその災いから逃れることは適わずに『破壊』を受ける―――はずなのに。
アリウス『―――』
破壊の刃は空を切った。
そこにあったはずのネロの体は刃の上を跳んでいた。
その体制はレッドクイーンを掲げ、振り下ろす寸前の―――。
ネロ「Huaa―――!」
次の瞬間。
アリウスの頭部、二つの角のちょうど中央。
そこにレッドクイーンの刃が叩き下ろされた。
931 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/27(金) 00:09:24.52 ID:kyqjnuEso
だが、その程度の刃が通るはずが無いのだ。
このアリウスは今や全てを超越している。
スパーダの力で形成されている体は、
当然の如くレッドクイーンを弾き飛ばす。
アリウス『―――カッ!!』
そう、どれだけこの今のネロが異質であろうとも、力の差は歴然だ。
先の一振りを避けるのでも大したものだが、それもいつまでもつか。
アリウスは薙いだばかりの魔剣を即返し、
上方にいるネロめがけて斜め上に斬り上げた。
が、その直前。
ネロはアリウスの額を踏み台にして後方へ、
アリウスから見て前方へバック転して翻った。
またしても空を切る魔剣スパーダ。
はためく紺色のコートにすら、
計算されつくしたかのように掠りもせず。
アリウス『―――チッ』
またしても避けられたことに苛立ちながらも、
すかさずアリウスはネロを追うようにして前に踏み込み。
切り上げたばかりの刃を下方に返し、袈裟斬り。
932 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/27(金) 00:10:41.94 ID:kyqjnuEso
ネロの高さ・距離ではスパーダの刃は直接は届かない。
だがその瞬間、魔剣から赤い光が伸びいて刃を形成、
魔剣スパーダの間合いが50m以上も拡大した。
しかし結果的には、間合いが伸びても伸びなくても変わらなかっただろう。
アリウス『―――』
三度、ネロは避けたのだから。
アリウスの額を蹴って翻ったと想った瞬間、
ネロは凄まじい速度で加速しては、一瞬で地面に着地。
ネロ「Si―――」
瞬間、ネロは強く踏み切って更に加速して、
再度アリウスの下へと向かってきた。
胸が地面に擦れるかという低い前傾姿勢で。
その立て続けの機動は、アリウスの反応が遅れるほどであった。
『反応が遅れる』という事がありえない今のアリウスが『遅れた』。
そしてそんなアリウスの胸に。
ネロ「―――Huh!!!!」
踏み込んできたネロの突きが直撃した。
933 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/27(金) 00:11:59.70 ID:kyqjnuEso
けたたましく響く、金属同士がぶつかりあうような音。
レッドクイーンの刃は先と同じく、アリウスの体表には傷一つつけられなかった。
アリウス『―――ッ』
だが。
この衝撃は何だ―――この―――『痛み』は何なのだ?
あの程度の刃からじゃ、決して感じるはずの無い感覚がジワリと。
蝕んでいくようにゆっくり染み渡っていく。
その瞬間アリウスは、ネロが僅かに口角の端を上げるのを見た。
ニヤ付いて『どうだ?』と小馬鹿にするように。
アリウス『―――がッ!!!!!』
即座にそんな憎たらしい相手を掴み上げようと左腕を伸ばすも。
ネロは瞬時に後方に跳ねて、すかさずアリウスから離れた。
アリウス『こ―――の―――』
更に苛立ち混じりに言葉を漏らして、アリウスは魔剣を掲げた。
すると光の刃の長さは更に伸び、力がますます収束していく。
彼の腹の底が映されているかの如く、真っ赤な光りを更に強くして。
そして距離を開けたネロめがけて、
超射程の刃を振りぬこうとした瞬間。
後方に跳ねて滞空しているネロが、その宙で。
蹴りを放つように足を畳み―――明らかに足が届く距離ではないのに―――『蹴り』を繰り出した。
そしてそれと同時に、『連動』するかのように。
アリウスの側頭部に強い衝撃が走った。
934 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/27(金) 00:13:00.29 ID:kyqjnuEso
アリウス『―――』
刹那。
こめかみ、頬、顔の半面全域。
順じて広がっていく面積と、強くなる圧力。
横から殴りつけられた―――では一体何に?
青い光で形成された、半透明の巨大な『異形の足』に。
そして、アリウスの頭は側方へと蹴り飛ばされた。
当然上半身の軸は歪み、振るわれた瞬間の魔剣の機動はぶれる。
薄ら笑いを浮かべながら滞空するネロの横、
2m程のライン上に魔剣スパーダの刃が振り下ろされた。
的から逸れた光りの刃は、漆黒の大地をただ叩き割った。
アリウス『―――…………がッ……ぐ』
この衝撃、強さは―――。
―――何がどうなっている?
それにあの『足』は?
ネロの異形の右手に連動する、青い光りで形成された巨大な腕。
それは知っている。
だが『右手だけ』のはず。
足でも同じ事ができるなんて―――いや―――足だけではない、全身で。
―――こんな力は『知らない』。
スパーダの力、その一族の力を研究し尽くしたのに―――知らない。
935 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/27(金) 00:16:31.77 ID:kyqjnuEso
今、目にしているこのネロ。
その異質さは、いまや意識の隅に退けて置ける程度では無くなっていた。
目を瞑れるレベルではない。
このネロは―――この男はもう―――。
スパーダ、バージル、ダンテ、そして従来のネロ、
アリウスは全スパーダの一族の力のデータを揃えて、隅々まで綿密に調べている。
スパーダの力の性質については、当人達以上に博識である程に。
だがこの『今のネロ』は、そのアリウスの知識のどれにも該当しなかった。
バージル、ダンテ、そして従来のネロの力の性質は、いわば祖であるスパーダの『派生型』。
ベースの土台がスパーダで、その上に後付でオプションを載せて改造したようなもの。
しかし。
今のネロはその土台からして何かが『違う』。
スパーダと共通している部分が大半であるも、完全に一致はしない。
ネロの出生を考えるとかなりの矛盾が生じてしまうが、
事実、目の前の証拠はこう示していた。
ネロのそれの性質は、
『スパーダ一族』の悪魔の力ではあるも―――『スパーダの子孫もの』ではない、と。
936 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/27(金) 00:18:35.46 ID:kyqjnuEso
アリウス『―――ッ!ォオオオオア゛!!!!』
だが―――そんな事がどうした。
アリウスは咆哮をあげて、意識の中から雑念を振り払う。
今はそんな思索をめぐらせる必要など無い。
謎は後でゆっくり解明すればいい。
いくら未知とはいえ、あのネロはもう脅威ではない。
力は遥かにこちらが上―――躊躇い動揺する必要など無いのだ。
アリウスは今一度魔剣を翻しては掲げ、力を噴出させた。
より一層、その体を形成している赤黒い揺らめきが激しくなり、漏れ出す光りも強くなる。
そしてネロを見据えた。
すると、30m程先にいるネロが。
右肩に担ぐレッドクイーンから真っ赤な炎を噴出させつつ、
左手人差し指で。
ネロ「Hey―――」
こちらに来るような仕草をとり、ニヤけた。
ネロ「Are you scared?―――PAPA」
明らかに挑発だった。
それも揺ぎ無い余裕と確信に満ち溢れた。
アリウス『―――おおおおおおおおお!!!!!』
アリウスは突進した。
全力をもってあの目障りな男を叩き潰すべく。
それと同時にネロも軽く大地を蹴り、両者は衝突した。
937 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/27(金) 00:20:55.81 ID:kyqjnuEso
しかし。
アリウスの魔剣スパーダは、
全てが紙一重で悉く回避される。
アリウス『―――ッ!!!』
ネロのレッドクイーンの刃は、今だアリウスの体表を貫けないものの、
彼は感じていた。
その痛みと衝撃が、一発おきに着実に強くなってきていることを。
ダメージが蓄積されていくのではない。
ネロの攻撃が強くなってきているのだ。
更にこの男は、あの青い半透明の『体』を自由自在に繰り出してくる。
左手、右足、左足、さらには翼のような部位、そして頭突きまで。
アリウス『―――ぐッ!!!』
ネロの攻撃は、まだ決定なダメージを受けるレベルではない。
しかしこれでは。
―――まるでこちらが圧倒されているようではないか。
有りえない。
こんなはずでは―――。
この身にはスパーダの力、手には魔剣スパーダ。
具現は機能停止してしまっているも、覇王の力自体もある。
具現以外は全て機能している。
100%の出力を発揮している。
現に今振るっている刃は、
確かに人間界程度なんかいくつあっても足りないほどの出力を放っている。
だから負けるはずが無い。
この刃が当たりさえすれば一撃でカタがつくはずなのだ。
あの目障りな剣もろとも、この男を一刀の下に伏すことが―――。
―――そのはずだったのに。
938 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/27(金) 00:22:16.57 ID:kyqjnuEso
アリウス『オ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛―――!!!』
魔剣スパーダを。
渾身の力を篭めてネロへ向けて振り下ろす。
位置と体勢的にネロは回避する余裕は無い。
あの半透明の巨大な手足だって、発動には肉体との連動が必要のようで、
何よりも中距離向けの技だ。
至近距離、直接の刃の間合いならば遥かにこちらの方が速い。
その読み通り。
ネロは回避せず―――レッドクイーンで受ける。
アリウス『―――』
しかし。
そこから先は、アリウスの読みとは全く異なっていた。
魔剣スパーダの刃はそこで『止まった』。
金属が激突する音は、密着し擦れ合うに変わり。
有り得ない事が起こる。
魔剣スパーダが―――レッドクイーンと鍔迫り合いを。
アリウス『―――な―――に?』
そこでアリウスは見た。
ネロ「―――はッ!」
短く弾けるように笑うネロの顔、その下。
レッドクイーンを握る彼の異形の右手が―――『異形ではなくなっていく』のを。
939 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/27(金) 00:23:32.65 ID:kyqjnuEso
そして。
アリウス『―――』
アリウスの魔神の目はそこに『答え』を見つけた。
己は今、どんな存在を前にしているのか。
ネロ、この男の力は一体何なのか―――その正体を示す証拠が。
あの異形の右腕の消失は、力を失ったという事を意味しているのではない。
外面だけ見ればそう思えてしまうだろうが、内部の力はむしろその『逆』であることを物語っていた。
失ったのではなく『捨てた』のだ。
なぜか、それは『必要なくなった』のだから。
打ち上げられたロケットが外部ブースターを切り離すかのように、
役割を終えた『補助パーツ』を捨て去ったのだ。
ネロ、その個体の力はここに大きく変わって―――『進化』していた。
物理的領域に縛られている人間界とは違い、魔界の存在の姿・力は、
その個体の性格や内面性で柔軟に変化していく。
それが魔界における『進化』というものだ。
スパーダだって魔界生まれの悪魔なのだから当然そうで、
そしてその性質は―――ネロの25%にも受け継がれている。
アリウス『―――』
子のバージルやダンテが父と同一の力のまま変化せずにいたせいで、
アリウスは先入観を持っていてしまったらしい。
混血は魔界における『進化』の性質は受け継がないと。
だが今示されている真実は違っていた。
940 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/27(金) 00:26:21.97 ID:kyqjnuEso
恐らくバージルやダンテが進化しなかったのは、
彼等本人が潜在意識内で進化を求めなかったからなのだ。
ダンテは父の跡を継ぐ。
バージルは父の力を追う。
そこにこれ以上の進化が必要あろうか。
父から受け継いだ性質は『そのまま』で良かったのだ。
生まれた瞬間から双子は既に『完成』していたのだ。
だが孫は違っていた。
他三人とは違い、『完全なる人の心』を持っている。
そうなれば当然、視点が明らかに異なるのだから、胸にする大義は同じでも―――求める形は別物となる。
では、このネロは他三者とは違う何を求めたのか。
それは彼の存在を今一度確認すれば浮かび上がってくる。
人間の視点で喜び、怒り、悲しみ、笑い、そして人類全体を愛しつつ―――特定の人間を『人間の心』で愛する男。
他三者と非常に良く似ていながらも、根底は全くの『別物』。
そこに必要とされる力の性質は。
人間界のための、人間界で行使するための、『人間が有する力』。
愛する存在を『同じ視点』で―――『隣』で守るための力。
そしてその進化を推し進めた『意志』は紛れも無く―――。
―――『人の心』。
アリウス『―――』
ネロはここに進化して、彼は身の内に手に入れた。
いや、『手に入れた』のではなく、己自身の『魂』から生み出した。
スパーダ
進化して再構成された―――全く新しい『オリジナル』を。
941 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/27(金) 00:28:10.56 ID:kyqjnuEso
そこに思考が至った時。
アリウス『(―――はっははは!)』
彼は思わず心の内で笑い声を挙げた。
それは困窮からくる諦めの笑いではなく。
純粋な喜びの声。
なにせ―――『見つけて』しまったのだから。
生涯かけて求めてきたものを―――。
瞬間、圧の高まりに耐えかねてお互いの刃が弾けた。
凄まじい閃光を放っては巨大な火花を散らせる2本の大剣。
両者ともほぼ同時に弾けた刃を即返し、すかさず2撃目に。
この時、アリウスは笑っていた。
心の中だけではなく、
彼の赤黒い闇で構成されている顔も笑みを浮かべていた。
なにせ、この魔剣スパーダの『最期の一振り』が―――己が生涯かけた『証明』を完成させるのだから。
アリウスは嬉々として刃を振り降ろした。
アリウス『(―――俺は見つけた)』
当初の計画とは随分と異なる結末になるだろうが、
得られる『証明』は想像を超えるほどのもの。
満足どころではない。
最高の気分だ。
どれほど甘美な女も酒もタバコも、そして知的発見も、
アリウスにとって今はゴミ同然。
この証明の前には全てが霞んで見える。
942 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/27(金) 00:32:09.73 ID:kyqjnuEso
刹那、魔剣スパーダとレッドクイーンの刃が交差する。
アリウス『(―――遂に証明した)』
ごりっ、めりっ、と柄を握る手に伝わってくる、
金属が金属を抉っていく触感を堪能する。
人間の意志が―――万物を超えていく瞬間を。
アリウス『(―――エド。やはり―――俺が正しかったぞ)』
―――『ネロ』という人間の心が、『最強の伝説』を打ち砕く瞬間を。
そしてその触感が途絶えて。
その時。
―――奪い借りる事しか出来ぬ者は、『生みの親』を越えることは出来ない―――。
アリウスの脳裏に、かつて旧友が口にした言葉が突如よぎった。
アリウス『(ああ―――どうやらその点だけは、「お前」が正しかったようだな―――)』
それに対し、アリウスはまるで『親しい友人』と談話しているかのような感覚で、
言葉を返した。
直後、『魔剣スパーダを切断した刃』がそのまま。
アリウス『(―――俺自身が最強には―――)』
彼の上半身を斬り落とした。
943 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/27(金) 00:33:01.20 ID:kyqjnuEso
遠くの北島にて、高さ3km以上もの巨大な光りの神殿が浮かび上がっており。
その光で、10km以上も離れたここも仄かに照らされていた。
具現によって作り出された漆黒の大地、その表面が不気味に反射して光っている。
アリウスはがそんな大地に仰向けに転がっていた。
赤黒い異形ではなく、本来の人の姿で。
ただちょうど心臓辺りから『下』は無くなっていたが。
彼は彼方からの淡い光りを横に受けながら、
ジッと正面上方を見上げていた。
横からの光、北島の神殿には一切意識は向いていない。
今となっては、彼にとってどうでも良かったのだ。
彼がこの最期の時、その意識を向けていたのは。
前に立っている『最強の人間』。
彼を無表情な顔で見下ろしながら、
縦に二つ銃口が並ぶリボルバーを向けているネロ。
そんなネロを見上げているアリウスの目には、
敵意は欠片も無かった。
敗者の瞳でもなかった。
逆に至高の嬉しさに満ち溢れており。
まさしく―――完全な勝者の瞳。
それもネロがまるで味方・救い主。
最高の芸術品を目にしている、
まるで『神』を前にして感極まっているような眼差しで見上げていた。
944 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/27(金) 00:34:57.98 ID:kyqjnuEso
ネロ「あんた、強いな」
そんなアリウスに向けポツリと。
ネロがそっけなくそう言葉を落とした。
アリウス『ああ。当然だ』
小さく微笑みながら、それに返すアリウス。
声は魔術で出しているのか、
口の動きと音が合っていなかった。
ネロ「……」
そこで数秒間の沈黙。
周辺の界の状態が戻りつつあるのか、
緩やかな海風が吹き抜けて行き。
ネロの銀色、そしてこめかみの一部が赤色の髪を揺らす。
ネロ「……あんたは強い」
その風の中、ネロは銃口を向けたまま。
特に表情を変えずに再度そう口にして。
ネロ「認めるよ」
アリウスは数秒間押し黙った後、
穏やかな口調でこう問い返した。
アリウス『……許しは?』
ネロは即答。
ネロ「しない。絶対にな。永遠に呪われてろクソ野郎」
淡々と。
945 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/27(金) 00:36:09.07 ID:kyqjnuEso
そんなネロの答えを受けてアリウスは。
アリウス『そう……それでいい』
にっと笑った。
いかにも楽しげに、愉快げに。
続けて満足げに。
アリウス『―――それでこそ……人間だ』
そう呟いた。
ネロ「ああ、あんたも」
そしてアリウスは無言のまま笑い返して。
一発の乾いた銃声が響き渡り。
ネロ「―――…………反吐が出るくれえに、な」
一つの命が幕を下ろした。
946 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/27(金) 00:37:04.59 ID:kyqjnuEso
人間の可能性を信じて。
人間の強さを証明する、ただそのために類稀なる才と生涯の全てを費やし。
全世界、数百万人の命をたった数時間で奪い取り。
数千万人の住む日常を破壊し。
人間界の滅亡を招きかけた男。
彼の『舞台』はここに終幕した。
だが、これは前章の終わりにしか過ぎない。
『筋書き』には無いこの終幕は、全く未知の『新しい神話』の幕開けとなる。
そして流れは、この大きく歪んでしまった『筋書き』を修復しようと勢いを増す。
そのしわ寄せは当然、『この神話』の上にいる役者達に圧し掛かり。
最終的に『最大のバグ』―――ネロに集中することとなる。
それも数百年数十年先どころではなく。
―――わずか数時間後に。
そう簡単に逃れられることはできない。
『過去の亡霊』からは。
スパーダの血、その鎖はとてつもなく固い。
―――
947 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/05/27(金) 00:38:37.85 ID:kyqjnuEso
今日はここまでです。
次回投下の土曜にて、デュマーリ島編は終了します。
948 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/05/27(金) 00:39:05.84 ID:kaPqPwU5o
お疲れさまでした。
949 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/05/27(金) 00:40:08.70 ID:aVICq2WDo
乙!!!
950 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2011/05/27(金) 04:50:23.43 ID:YWK3SN5AO
ミッション1から言われて続けてることだけど言わせてくれ
これ5でいいだろ
951 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/27(金) 04:59:31.55 ID:eJYo/THDO
おつ!
ネロやべぇ……
いよいよテュマーリ島編完結かー
次も楽しみすぎる!
952 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/27(金) 06:04:08.47 ID:etWuCrr8o
うああおおああああ!!アリウスも良いボスやってンじゃんんん!!
マジ乙
953 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/27(金) 08:21:46.42 ID:uMwShOhDO
ネロさんはスパーダを超えたのね……
カッコいいね……
954 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)
[sage]:2011/05/27(金) 09:41:47.03 ID:rztSldmA0
あのふざけた髪型の小物が
こうもかっこ良く見えるか…
955 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/05/27(金) 10:47:18.48 ID:aVICq2WDo
つーか本当に完成度高いな
そこらのラノベとかよりぜんぜん描き方がうまいと思う
正直今までのSSで一番面白いわ
956 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage]:2011/05/27(金) 12:39:29.97 ID:ZwPnfaYio
乙!
これでまだ天界編が控えてるんだろ?
今年中に終わるのか?
957 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)
[sage]:2011/05/27(金) 12:53:41.07 ID:fn4fM89AO
アリウスではなくネロが人の極みに達したか
乙
958 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/27(金) 13:53:09.50 ID:xxrzghWSO
いくらとあるとのクロスSSで
>>1
のオリジナル設定とは言えクオリティ高すぎる。
特にネロの設定とか。
もう
>>1
が今後のデビルメイクライを作っても良いくらいだ。
959 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/05/27(金) 14:33:46.50 ID:FuIDFrWdo
このスレ読んだ後、5の主人公が名倉になるってこと思い出すと最高にクールだね!!
960 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/05/27(金) 16:11:29.22 ID:pqNHrkZHo
そういえばそうだwwww
961 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/27(金) 17:14:12.41 ID:uMwShOhDO
>>959
マイネームイズダンテェ……
962 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/05/27(金) 17:19:48.84 ID:Br43PLzQ0
今更になって悪いんだけど
>>1
はDevil May Cryのアニメは見たことはある?
アニメのキャラは出てこないのかなと…
963 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/05/27(金) 17:33:22.61 ID:MHY2L3cbo
今更過ぎるし出て来なくてもどうでもいいと思う
964 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/27(金) 17:45:25.30 ID:uMHFOgxIO
SSが良すぎて名倉が霞むな
965 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)
[sage]:2011/05/27(金) 22:23:40.65 ID:/tsx14Pn0
(;´・ω・`)モンニャリな気分になるから名倉は自重しろww
966 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)
[sage]:2011/05/28(土) 01:31:03.09 ID:GL6kNoROo
デビル名倉イ
乙
967 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/05/28(土) 15:16:08.01 ID:UMCYPwhQ0
何が凄いって多重クロスにありがちな破綻が全く見られないのが凄い
968 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/05/28(土) 21:25:10.90 ID:/isnh8xlo
乙
この戦いって、人間界で実際にたった時間って何秒くらいなんだろうか?
969 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 15:30:59.69 ID:OL+FuFJro
―――
結標「メルトダウナーは死んだ」
その彼女のあっさりと口にした事に、
土御門と御坂は固まった。
結標「大悪魔と相討ちになったらしい」
御坂「………………………………そう…………」
御坂は深く呼吸をしては小さく頷き。
そして土御門は、
ピクリとサングラス越しに眉を動かした後。
土御門「…………AIMストーカーの障害はそのせいか?」
結標「私が見る限り」
土御門「……そうか」
御坂と同じように小さく頷いた。
この会話を聞いているはずの滝壺だが、
その件については彼女は一言も、こちらに声を飛ばしてはこなかった。
何一つ。
彼らは激戦の跡地、広大な更地の中ほどにぽつんと残った『核』の前に集っていた。
学園都市勢力の土御門、御坂、結標。
ローマ正教のアックア。
イギリスのシルビア。
はぐれ者の魔術師オッレルス。
そのオッレルスにようやく呪縛を解除してもらった、フォルトゥナのキリエ。
そして土御門に頼まれて結標が連れて来た、
アメリカ軍特殊部隊のリーダーと通信機を持つその部下数名。
それらの顔ぶれは、この島における各勢力のトップ達としてもおかしくはない。
彼らは状況の確認と今後の事について話し合っており。
今、その中で結標が麦野の結末を話したところであった。
ちなみに他の者達は皆、倉庫地区の避難所に集結しておくようになっていた。
滝壺のチームは結標の判断でそこに。
黒子もそこに戻り、
今頃は負傷者の手当てに奔走しているだろう。
970 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 15:32:52.25 ID:OL+FuFJro
麦野の喪失に学園都市勢が意識を奪われている間。
シルビアとアックアは別の事に意識を奪われていた。
それは麦野の話の前に土御門が口にした、『天界による学園都市への攻撃』に関してである。
学園都市勢の最大の狙いは元々、
人造悪魔の問題ではなく、天界の門が開くまでの時間稼ぎ。
それがこの島に来て、ネロと話した土御門の独断で天界の門については放置する事とした、というのだが。
シルビア「(……どうなってんだよ)」
何が何だかわからない。
天界がなぜ学園都市を滅ぼそうとする?
学園都市側は天界と正面から敵対しているのか?
では、こちらと共闘などできるはずが無いのでは?
この聖人の力は天界のものだし、ましてや今のアックアは直接ガブリエルと繋がっているのだから。
そもそも土御門が身に宿していたのだって、天界の名だたる存在ではないか。
筋が通らない。
矛盾ばかりだ。
スパーダの孫に言われて目的を急遽変更したのだって、どうにも釈然としない。
話を聞けば、ネロからは確かな理由を聞いていないらしいではないか。
なぜそれで学園都市の者達は納得するのか理解できない。
シルビア「……」
いいや、そうではない。
恐らく本当に『理解していない』のはこちら側なのだろう。
971 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 15:35:02.53 ID:OL+FuFJro
土御門とレベル5とやらの二人の少女の落ち着いている物腰を見ていると、
そうであると思わざるを得ない。
まず、入手している情報量に格差があるのだ。
学園都市はスパーダの息子や、その仲間達が頻繁に出入りしてかなりの交流があるらしいではないか。
そこからして立ち位置がかけ離れており。
シルビア「……」
最大の違いは、スパーダの力を直にした事が無いという点だろう。
こちらは話には聞いているも、現物を目にした事は無い。
昔、ある宇宙飛行士が言った。
地球を外から見てしまったから、私の価値観は大きく変わってしまった、と。
それと同じなのだろう。
土御門達の視野はこちらよりも遥かに広く、懐は余裕たっぷりなのだ。
シルビア「……」
一方でこちらは、潜在意識で未だに既成の小さな概念に縛られている。
心のどこかでは依然、『天界はプログラムの集合体で明確な人格は持たない』、
という魔術の『狭い常識』がこびり付いているのだろう。
天界が学園都市を滅ぼそうとしている、というのも全くピンとこない。
と、そう顔を顰めているシルビアに向けて。
結標「やめとけば。考えるだけムダよ」
大きな瓦礫の上に座っている結標がそっけなくそう言った。
シルビア「……」
オッレルス「シルビア。素直にそういうものだと受け止めるんだ」
その結標の言葉に、核の前で屈んで何やら作業しているオッレルスがそう続けた。
オッレルス「余計な解釈や深読みをすると混乱するだけだ」
シルビア「…………」
オッレルス「理解できないことは理解し得ない。知らないことは知り得ない。どう転んだってそこは変わらない」
972 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 15:36:02.73 ID:OL+FuFJro
そう。
この場には誰一人、状況の本質を理解している者なんていない。
この場で一番視野が広い土御門だって、
わからないことは山積みだ。
『天界の門を放置する理由』なんかが最たるものだ。
それも当のネロが、「俺も詳しい事は知らない」と言ったのだから。
オッレルス「俺達は神や大悪魔のように物語を紡ぐ側ではない」
オッレルスは作業しながら言葉を続けて。
オッレルス「物語に従い踊る側だ。出来ることは一つ。己の目の前の問題を地道に潰していくことだけだ」
そして、その手をふと止めて。
オッレルス「よし、完了した。通信環境は回復したぞ」
その言葉で。
土御門「AIMストーカー。学園都市に繋がるか」
滝壺『……うん。つながったよ』
土御門「こちらの情報を全て送れ。俺がネロと話した件も全てだ。それとアメリカの『例の件』もな」
それぞれが通信のため動く。
「接続成功、いけます」
「本土の統合作戦指揮所に繋げろ」
「了解」
特殊部隊の者達も通信機で回線を確立し。
シルビアとアックアも、顔を曇らせながらも通信魔術を起動、
シルビアはイギリスへ、アックアはローマ正教の『臨時』の中枢へ。
土御門「見聞きした事、現状をありのまま伝えてくれ。何も隠さなくていい」
アックア「……うむ」
シルビア「……ああ」
973 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 15:36:43.86 ID:OL+FuFJro
そしてそれぞれが通信に入る中。
土御門の傍にオッレルスが歩み寄ってきて、
オッレルス「土御門。一つ、『また』気になることが見つかった」
そう小声で口にした。
土御門「何だ?」
土御門が同じように小さな声で聞き返すと、
彼は頭を掻きながら。
オッレルス「何かがおかしい」
土御門「……」
オッレルス「何かがおかしいんだ」
二度、全く同じ風に口にした。
それはあまりにも漠然としてて何の説明にもなっていないが。
土御門にはそれだけでも思い当たる節があった。
土御門「『アレ』と関係が有るのか」
そう言って上を見上げぬまま、指だけで空を指す。
未だに『闇』のままである空を。
974 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 15:37:39.41 ID:OL+FuFJro
この島を覆っていた魔は全て掃われ、今は空気も澄んで海風が流れてきている。
『場』の環境は元に戻っている。
だがそれはどうやら『表面上』だけらしく。
根本的なところは、『おかしくなったまま』なのだ。
なぜならここは大西洋のアメリカ側。
時刻は午前中であり、本来ならば日が差している―――夜であるはずが無いのだから。
だが続くオッレルスの言葉は、土御門の想定外のものであった。
オッレルス「ああ。恐らく。どうやら人間界がおかしくなってる」
土御門「……人間界?だと?」
オッレルス「ああ」
土御門「『この島』ではなく人間界?」
オッレルス「そうだ」
土御門「天の門はまだ開いてないんだな?」
オッレルス「『錠』が解かれてるからいつ開いてもおかしくはないが、まだ開いてはいない」
土御門「……魔の門は?」
となれば、人間界全域に影響を与えるというもので思い当たるのは、魔の門。
オッレルス「……ああ」
そしてオッレルスの反応は『当たり』であった。
975 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 15:39:15.96 ID:OL+FuFJro
コイツ
オッレルス「『核』のデータ上では、完全に開いていることになっているのだが……」
オッレルスは親指を立てて後方の核を指しながら、
しかめっ面のまま言葉を続けた。
オッレルス「開いた瞬間でデータの更新が止まってる」
土御門「つまり核がデータを拾えてないのか?」
オッレルス「違う。核は正常に稼動してる」
土御門「……どういうことだ?」
オッレルス「そのままだよ―――」
そこでオッレルスは肩を竦めて。
オッレルス「―――今『も』開いた瞬間なんだ」
土御門「?」
オッレルス「―――時間が止まってるんだよ」
976 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 15:47:42.88 ID:OL+FuFJro
そのオッレルスの言葉を理解するのに、
土御門でさえ数秒の沈黙時間を要した。
土御門「……止まってる?」
オッレルス「厳密に言えば魔の門が開いた瞬間から、人間界全体の時間の流れがとんでもなく減速しているらしい」
土御門「…………時間の流れが遅くなっている?」
オッレルス「俺達が爆発的にクロックアップしてる、とも言えるな。そこは観測点の違いに過ぎないが」
更にオッレルスはスッと屈んでは足元の欠片を一つ取り。
オッレルス「それもこの通り、俺達どころか通常の物理現象の類も全てクロックアップ状態だ」
それを手の平から下に落とした。
重力に従い落下する欠片、その速度には特におかしい点はない。
土御門「ではだ。『何』の時間が遅くなっている?」
オッレルス「『人間界の基盤』のみ、だ」
土御門「……」
オッレルス「ただ、幸か不幸か、そのおかげで人間界は『まだ』崩壊していない」
土御門「……なるほど、な」
先ほどまで北島の西側の海上から、
人間界の許容を『大幅』に超えた力が二つも激突しあっていたのを観測している。
ネロとアリウスの戦いだろう。
本来ならば、一瞬で人間界が消し飛んでしまうような規模だ。
土御門「それでどの程度まで遅くなっているんだ?」
オッレルス「ザッと計算すると、スパーダの孫とアリウスの戦いの負荷で人間界が崩壊するのは」
オッレルス「クロックアップした俺達の体感時間で、約1400万年後だ」
土御門「―――」
オッレルス「それを抜きにすればだな……本来、魔の門が開けば、人間界は侵食されて3分で完全に飲み込まれるとのことだが、」
オッレルス「今の状況だと、その終焉が訪れるのは10の26乗年後になる」
土御門「はっ……それはそれは……」
977 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 15:49:36.91 ID:OL+FuFJro
あまりの減速度合いに、土御門は思わず呆れ笑いを漏らしてしまった。
これなら、オッレルスが最初に『止まっている』と表現したのも頷ける。
寿命が無い悪魔などにとっては違うだろうが、
少なくとも人間からすれば永遠としても良い時間が人間界の崩壊まであるのだ。
土御門「これは、核が行っているのか?」
オッレルス「いや、そのような機能は無い。間違いなく外部で行われているよ」
オッレルス「それに、これには絶え間なく莫大な力を流し込む必要があると思うしな」
オッレルス「核がその莫大な力を扱っている痕跡は無い」
土御門「……ああ、理を書き換えるのではなく、あえて塞き止めて遅くしているとなるとな」
理を書き換える、
つまり新しい時間軸を人間界に設定した場合は、今のような状況にはならないのだ。
例えばネロとアリウスの戦いの負荷は、人間界とは独立した理の存在である。
だからいくら人間界の時間軸を書き換えたって、
負荷は一切関係なく一瞬で人間界を吹き飛ばす。
では今のこの状況は何かなのかというと。
負荷そのもの時間軸は何も変わってはいない。
厳密に言えば、時間軸自体にも変化は一切に無い。
単純に強引に、上から抑え込んでいる『だけ』なのだ。
力ずくで流れを塞き止めているのだ。
そうなると当然、馬鹿みたいに規格外の力が必要となる。
オッレルス「この力の主は、あの『影』よりも遥かに強大な力を有した存在だろうな」
それこそ。
土御門「スパーダの一族レベル、か」
978 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 15:50:46.23 ID:OL+FuFJro
そう考えてゆくと、いくつか自然と辻褄が合う。
この核がその作業に必要だったとすれば、ネロの土御門への要求も筋が通る。
ダンテかバージルが裏で動いているのならば、
さすがのネロでも把握しきれないのも頷ける。
そしてそれが、ネロが全力をもってアリウスを倒す事を可能とし。
この島における他複数の規格外の力、
それによる人間界へのダメージをもほぼ無にした、という事も考えれば。
(正確には完全に『無』になってはいないが、現状ならば速くても影響が出るのは数億年後だ)
ただ、一つ懸念がある。
これがいつまで続くかだ。
いつか唐突にもとの時間に戻ってしまうことも考えられるし。
何よりも強引に塞き止めている以上、必ずどこかに『ストレス』が生じるはず。
土御門「……」
オッレルス「……」
そこまで考えると、
これは一時的措置のようにも思えてくる。
だがその先へと思考を巡らすのは、推測に推測を重ねてしまうことになってしまう。
オッレルスが先ほど、シルビアにあんな風に告げたばかりではないか。
勝手な解釈を重ねてしまうと、後々思い込みなどで大きなミスを犯すハメにるのだから。
土御門「……」
オッレルス「……」
そこで二人は無言のまま顔を見合わせ、
これ以上の深入りは現時点では止そう、と同意した。
979 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 15:52:32.87 ID:OL+FuFJro
そして土御門は頭を切り替え。
土御門「……滝壺、アメリカの件はどうなった?」
滝壺『うん。今、向こうから働きかけてるみたい』
とそこで、
特殊部隊のリーダーが通信機を手にしながら彼の方に向き。
「話は通ってた。45分で回収機が空港に来る」
土御門「結標、退避拠点に戻り人員を纏め、空港に転移させておけ。45分で撤退だ」
結標「了解。それと…………死んだ奴はどうする?」
土御門「体の位置は把握できるか?」
結標「AIMストーカーが座標を保持してるはず」
土御門「全て回収しろ」
結標「了解」
結標が姿を消したのとほぼ同時にシルビアも。
シルビア「今ロンドンでも、アメリカが全面支援する意思を確認できたらしい」
シルビア「それと各地の状況についてだが、情報が錯綜しててまだ確認中」
シルビア「全域の人造悪魔突然停止したから大混乱だとさ」
土御門「はっ、まあ、とりあえずそれは喜ばしい混乱だぜぃ」
シルビア「ああ」
土御門「よし……AIMストーカー。全メンバーに繋げてくれ。話がある」
土御門は一度深く呼吸した後、そう滝壺に命令して。
滝壺『……準備できたよ』
土御門「聞えるか。土御門だ」
そして始めた。
本来はあの高慢な最高指揮官が―――『彼女』がやるべきであった仕事を。
980 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 15:55:16.04 ID:OL+FuFJro
土御門「デュマーリ島における本作戦は終了した。だが成否については明言できない」
土御門「状況が大きく変わっているからだ」
土御門「我々が扱っていた案件は最早、学園都市の独断で処理できる規模では無くなった」
土御門「その点を考慮して、俺の権限で主目的を変更した」
土御門「よって我々の任務は依然継続中だ」
土御門「我々はこの後、アメリカ経由で学園都市に帰還する」
土御門「そしてそのまま学園都市の防衛の任に就き」
土御門「状況によっては、必要とあらば再び各地へ出撃する」
土御門「だがここで一つ。お前らは個々の契約の上で本作戦に参加しているが、」
土御門「俺はその契約を一方的に変更した事になる」
土御門「つまりお前ら全員には、契約の変更を拒否する権利もある」
土御門「拒否する場合は、アメリカで降りるといい。アメリカ政府が一時滞在とその後の移送を約束してくれた」
土御門「では今、各々の意思をAIMストーカーに伝えてくれ。大丈夫だ。彼女以外には聞かれない」
そう告げ、土御門はしばらく押し黙った。
実は彼は、ここで何人拒否するかその人数は既に把握していた。
ゴミカスでクズの自己中心的な悪人ぞろい。
己の我を通し、筋を貫くことしか頭に無い大馬鹿共ばかり。
なにせ、こんな島に志願して来る連中だ。
土御門「……」
滝壺『つちみかど。拒否数は―――』
―――結果は決まってる。
滝壺『―――0。全員、任務継続を』
土御門「よし、決まったな―――」
土御門は小さく笑い。
土御門「―――帰るぞ。俺達の学園都市に」
―――
981 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 15:58:10.58 ID:OL+FuFJro
―――
アニェーゼ=サンクティスは変わり果てたドーバー城の海側、
『ドーバーの白い壁』の淵に立って。
冬の海風が過ぎていく中、静かに眺めていた。
先ほど『天使』の到来直後に海に出現した、氷で形成された巨船による大船団。
ドーバー海峡の見渡す限り、地平線の果てまでを覆いつくしている、
―――ローマ正教が誇る『女王艦隊』を。
アニェーゼ「……」
去年の九月、この女王艦隊に『非常にお世話』になった事があるのだが、
その時のスケールを遥かに超えている。
あの時は二百隻程度だったのが、今は数千隻はいるだろうか。
いいや、北はマルギット・南はヘイスティングスまで、
イギリス海峡全域に渡って展開しているらしいのだから、数千隻ではなく数万隻の規模だろう。
しかも一隻一隻のサイズもまるで違う。
平均して駆逐艦サイズ、大きなものだとちょっとした軽空母並み。
アニェーゼ「……」
平時なら、
この規模に必要なテレズマの量を思い浮かべて度肝を抜かしていただろう。
だが、今となってはそこまで不思議でもない。
あの『天使』を見てしまっては。
982 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 16:00:44.75 ID:OL+FuFJro
天使はここ一帯の悪魔達を一瞬で文字通り塵とした後、
こちらに見向きもせずにすぐ北へ向けとすっ飛んで行った。
話に聞くと北のディール、マルギットなども同じように次々と『解放』したらしい。
なんとも凄まじい存在だろうか。
その力はシェリーをも遥かに上回っているであろう。
そしてそこまでの存在ならば、女王艦隊をこのスケールにするもの容易なはずだ。
アニェーゼ「……」
大天使に率いられた数万隻の女王艦隊、とんでもない戦力だ。
これがイギリス侵略のための存在であったら、今の困窮しきっていたイギリスに抗う術は無かったであろう。
そう、今現実では、あの女王艦隊は戦争のためにここにやってきたのではないらしい。
あの天使の『舌』から下がっていた十字架、装束の様式、それら全てローマ正教のものであったが、
ローマ正教側は今、イギリスに対する戦意は無いようだ。
アニェーゼ「……」
聞いた話によると、あの艦隊には軍民問わずの人々が満載されているらしい。
それもイタリア、スペイン、フランスといった西地中海各国それぞれの者。
万単位の艦隊、一隻に数百人・大きい船には数千人と簡単に考えると、
なんと総計一千万人以上という途方も無い数。
それらをバチカン・ローマから西地中海、
ジブラルタル海峡からイギリス海峡までの道中で片っ端から『拾ってきた』らしい。
つまりあの女王艦隊は―――人類史上最大規模の『難民』なのだ。
983 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 16:01:55.02 ID:OL+FuFJro
アニェーゼ「……」
春がまだ遠い、冷たい海風が乱れた髪を揺らす。
だがその風が撫でる音は聞えない。
上空を飛び交う、
多数のイギリス軍のヘリや戦闘機の爆音にかき消されてしまう。
でも。
砲声といった交戦音はどこからも聞えていなかった。
今、この英仏戦線では一発の銃弾も放たれてはいない。
不思議な事に、人造悪魔は各地で同時刻に突如活動停止したらしいのだから。
更に純粋な悪魔達も大挙して退き、どこかへと姿を消したとの事だ。
このドーバー市域はその少し前に天使が一掃して行ったために
アニェーゼ達はその現象を目にする事はできなかったが、各地でそのような事が起きていたらしいのだ。
もしかすると、この現象は世界中で起きたのかもしれない。
そうする根拠はアニェーゼには無いもの。
彼女はそう思いたかった。
アニェーゼ「……」
ふと、視線を足元に落とすと。
瓦礫の中から手首が見えていた。
細く白い、若い女性の手首と指。
そして修道服の袖には、
アニェーゼ部隊の刺繍が施されていた。
984 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 16:03:43.76 ID:OL+FuFJro
彼女は静かに屈み、
その冷たくなった部下の手に己の右手を乗せた。
ここで失った部下の数が多すぎて、手だけでは誰なのかはわからない。
しかし、失った部下の名前は全てフルネームで知っている。
歳も髪の色も瞳の色も、性格も趣味も全てを。
その彼女達の顔を一人一人思い出しながら。
アニェーゼは目を瞑り、十字を切ろうとしたが。
その時、突如後方からヘリコプターの爆音が押し寄せてきた。
それも上空を通過するのではなく、ドーバー城域の中央辺りに留まって。
大量の土埃を巻き上げながら着陸したようだ。
アニェーゼ「……」
アニェーゼは部下の手首にかかった土埃を優しく掃いながら、
背後から二つの足音が近づいてくるのを聞いていた。
片方は大股で規律正しく。
もう片方はパタパタとせわしなく。
聞きなれた足音だ。
ルチア「シスター・アニェーゼ」
その規律正しい方の足音の主が呼びかけてきて。
ルチア「前線本部からの…………通達です」
アニェーゼのとっている行動を見て一瞬、言葉を詰まらせた。
985 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 16:05:38.61 ID:OL+FuFJro
アニェーゼ「どうぞ」
だがアニェーゼは、そのルチアの反応など気にも留めず、
土埃を掃いながら声だけ向けて先を促す。
ルチア「……必要悪の教会隷下、各特務戦闘団の指揮官は速やかにアシュフォードの前線本部へ、とのことです」
そのルチアの言葉を聞き終えたアニェーゼは、
今度は己の誇りを掃いながら立ち上がり。
アニェーゼ「この場はシスター・カタリナに任せます。装備を確認し出撃体制を整え待機、と伝えてください」
ルチア「了解」
まずルチアにそう言伝を頼み。
アニェーゼ「それとシスター・アンジェレネ」
そしてもう片方のせわしない足音の主、
アンジェレネの方を振り向いては。
アンジェレネ「はい」
アニェーゼ「彼女に祈りを」
そう告げて踵を返して。
ヘリの方へと足早に向かっていった。
―――
986 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 16:06:58.05 ID:OL+FuFJro
―――
アシュフォードに設置されている広大な野営地。
シェリー「……」
その中にあるとあるテントの入り口の前に、
シェリーは門番のようにして立っていた。
周囲にはこのテントを守護している大勢の騎士。
そして脇には彼女と同じく、門番のようにして立っている―――ローマ正教徒の女が一人。
昔のフランス市民の庶民衣のような服を纏う、頭巾を被ったやや小柄な若い女性だ。
ただ端正な顔立ちではあるのだが、彼女を見て第一にその点に意識が向かう者はまずいないだろう。
化粧と顔中のピアス、口から伸びている『十字架の付いた長い鎖』。
そして人間離れした異質さを醸し出す、淡く金色に光っている瞳。
彼女の顔立ちなど、これらの前には全く目立たない。
彼女ははじめに、シェリーにこう名乗った。
ローマ正教『神の右席』、前方のヴェント。
そしてウリエルと繋がった『半天使』である、と。
シェリー「……」
そう、神裂と同じ半天使だ。
ローマ正教が誇る『聖霊十式』の一つにそのような術式があり、
彼女はそれによって転生したとの事だ。
ただヴェント曰く神裂は『本物』で、一方己は『不完全体』である、というらしいが。
987 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 16:09:25.97 ID:OL+FuFJro
ヴェント「……その作業過程で、一つ興味深いことが判明した」
しばらくの沈黙の後、ヴェントはそう話を続けた。
シェリー「何?」
今必要な話なのか、と思う一方。
魔術師としての強い興味に負け、視線を前に向けたままシェリーは先を促した。
恐らくこのヴェントも、
純粋に知識に貪欲な部分があるのだろう。
魔界魔術に携わっているこちらの意見も聞きたいのかもしれない。
と、そこでヴェントの口から放たれた言葉は。
ヴェント「率直に言うと―――……ミカエル『本体』は存在していなかった」
シェリーが全く想像していなかったものだった。
シェリー「―――……はあ?」
一瞬、耳を疑い、思わずシェリーはヴェントの方へと顔を向けた。
ミカエル。
十字教の四大天使で、最も強大だとされる存在。
『神の如き力』を有する天使。
それが存在していない?
ヴェント「ガブリエル、ウリエル、ラファエルの『本体』は確認できた」
ヴェントは顔を前に向けたまま、
声だけをシェリーに続けて放った。
ヴェント「だがミカエルだけがいないのよ」
988 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 16:12:42.93 ID:OL+FuFJro
シェリー「それじゃ……どうなってんのよ?」
ヴェント「他三柱の力がそれぞれ混ざって、ミカエルの分を埋めているようね」
ヴェント「それがミカエルのテレズマとして、通常の天界魔術に分配されてる」
シェリー「……それで、当のミカエルはどこに?」
ヴェント「わかる訳無いだろうが。私も聞きたいって」
ヴェント「ただ一つ言えることは、私達の魔術史が確立されるよりも前からいなかった」
シェリー「なぜ?」
ヴェント「初期の十字教魔術ですら、他三柱の力で作られた『擬似ミカエル』に完全に最適化されてたから」
シェリー「……」
そこでしばらくシェリーは黙り、
脳内を一度整理した後。
シェリー「……聞いて良い?神の右席は、それぞれ四大天使の特性を授かるんだな?」
ヴェント「そう」
シェリー「では、お前たちが神の右席になる過程は?」
ヴェント「前方、左方、後方は正教魔術師の中から指名され、適正検査の後、それぞれ専用の術式で力を適応させる」
シェリー「…………………右方は?」
ヴェント「…………右方については指名も選別も何もない。専用の適応術式も存在しない」
シェリー「じゃあどうやって右方は?右方が使う力は何だ?」
ヴェント「……わからない。わからないが、枢機卿達から以前聞いたことがある」
ヴェント「ある日ふらりと、突然バチカンに現れると。既に右方として力を保持している状態で」
ヴェント「その力は最初から完成されてて解析魔術の一切を受け付けないから、実は正式に確認されたことは無い、と」
シェリー「…………この間、学園都市に現れた右方も?」
ヴェント「先代は60年前に『何らか』の戦闘で死亡、その後50年近く右方は空座のまま」
ヴェント「そして10年前のある日、一人の少年がバチカンに現れたらしい」
ヴェント「それが、私が知る右方のフィアンマの始まりだ」
―――
989 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 16:15:16.09 ID:OL+FuFJro
―――
「ロンドンからです。ヒースロー空港にて準備が整い、米軍の先遣隊の受け入れを開始するとのことです」
「ドイツにて政府の召集に76の魔術結社が応じ、即応体制についたとの事」
「ドイツ国防軍および在独米軍も現在待機中、現在こちらとの調整を求めております」
キャーリサ「そのまま調整を進めろ」
キャーリサは大股でアシュフォードの野営地内を突き進んでいた。
まるで大名行列のように、背後に軍人・魔術師・騎士の通信手を何人も従えて。
その身には普段のドレスではなく、マント付きの真っ赤な甲冑を纏い。
腰には英国最大の霊装の一つである剣、カーテナ・セカンドを下げて。
「空母カヴール上のイタリア臨時政府との回線が確立できました」
キャーリサ「休戦の意思を再確認した後、イタリア軍との調整を求めろ」
足早に進みながら背後の者たちへの返答する彼女の顔は、いかにも不機嫌そうに曇っていた。
いや、この状況で上機嫌であったら確かにおかしいが。
彼女の不機嫌が上乗せされた原因は、先ほどのシルビアの報告だ。
彼女から聞いた意味不明な報告が頭の中でグルグルと回っているのだ。
よくよく考えていけば、意味不明ではないのだろう。
ただあまりにも情報量が多すぎて今すぐには整理しきれない。
ただまあ、一つ。
一つだけ確かな、そして喜ばしい事があったのはすぐに把握できた。
人造悪魔が一斉に停止し、
悪魔の攻勢がピタリと止んだのはデュマーリ島における戦果である、と。
キャーリサ「(……ふんっ……)」
なんとなくわかるところだ。
シルビアが帰還命令を無視し続けても、
母エリザードがいつまで経っても最終通告せずに『泳がせていた』理由が。
990 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 16:16:32.47 ID:OL+FuFJro
と、広大な野営地を進む中。
ちょうど『同じ場所』を目指していたのだろう、
横からスーツ姿の騎士団長が、キャーリサほどではないものの幾人かの従者を連れて現れた。
その姿を一目見て。
キャーリサ「騎士団長ァッ!!!コラァッ!!!こっちに来い!!!」
怒号。
騎士団長「随分とご機嫌な斜めですね。はて、何か……思い当たる節は特に……」
キャーリサ「お前のすました顔がムカつく」
騎士団長「なるほど。ただの八つ当たりでしたか」
馴れた口調でお互いを受け流して、
騎士団長はキャーリサの後に続いていく。
キャーリサ「シルビアからの報告、聞いたか?」
騎士団長「ええ。正直、今は理解しかねます」
キャーリサ「……」
騎士団長「して、女王艦隊の『積荷』ですが。受け入れるので?」
キャーリサ「受け入れるしかないっつーの」
騎士団長「それは安心しました。貴女の事ですから、冬のドーバーにあのまま浮べてるかと」
991 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 16:18:28.14 ID:OL+FuFJro
キャーリサ「ふん……前線はどうなってる?」
騎士団長「お上げしたご報告の通りで」
キャーリサ「だから報告にない事を言えっつーの。このアホンダラが」
騎士団長「なるほど。やはりご心配ですか?兵達が」
キャーリサ「……」
騎士団長「ご心配なく。皆確かに疲弊はしておりますが、戦意を喪失した者はおりません」
騎士団長「むしろ抑えるのが大変なほどです。放っておくと、あの女王艦隊にも攻撃を仕掛けかねませんから」
騎士団長「それに北部では、避難民の中から義勇兵志願者が続出しているとか」
騎士団長「英国旗への忠誠を守り義務を果すべくと、全国民の士気が高揚しております」
キャーリサ「そうか―――……そこまでこの国は―――追い詰められているか」
騎士団長「ええ」
キャーリサ「―――『危うい』な」
騎士団長「まさに」
その話が終わるところでちょうど目的地の前に到着した。
それはキャーリサの幕営。
992 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 16:20:29.75 ID:OL+FuFJro
王室やキャーリサのをはじめとする幾本もの旗がはためき、
大勢の騎士がその周囲を囲っている。
そして入り口の前には。
二人の女が立っていた。
シェリー「お待ちしてました。こちらが神の右席、前方のヴェント殿です」
その片方、シェリーが隣の女をキャーリサに紹介した。
キャーリサ「(なるほど、例の半天使か)」
一例する女の、瞳の淡い光かたやその雰囲気からも、
報告通り神裂と非常に良く似た存在だというのがわかる。
だが今のキャーリサの関心は、この半天使にはほとんど向いていなかった。
ヴェント「中でお待ちしております」
本命はこの半天使が連れて来た、テントの中にいるであろうVIPだ。
何せそのVIPのおかげで、
フランス、イタリア、ロシアといった各臨時政府と早急に休戦条約を締結できたのだ。
(尤も最大の立役者は、素早く的確に動いた第一王女、ロンドンのリメリアであるが)
ヴェントと名乗った半天使が、キャーリサにテント内に入るよう促した瞬間。
キャーリサ「……」
シェリーの顔が引き締まるのが見え。
後ろの騎士団長の緊張も肌で感じ取れた。
よく見るとテントを囲っている騎士達も、
緊張か僅かに槍や剣を持つ手が振動している。
キャーリサ「……」
まあ、それもそのはずだった。
なにせこの『対面』は―――とんでもない歴史的瞬間になるのであろうから。
993 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 16:21:27.54 ID:OL+FuFJro
キャーリサ「騎士団長、許可するまで誰も入れるな」
騎士団長「了解」
そしてキャーリサは中へ入った。
テントの中は、とても王室の幕営とは思えない程に簡素であった。
キャーリサの武具入れの箱に折りたたみ式の軍用簡易ベッド。
小さな鏡と通信霊装、水の入ったペットボトルが数本載っている机。
中央にある会議用の大きな机と、テントの骨にぶら下がっている電灯。
それだけだ。
絨毯すら敷かれていない。
王室とキャーリサの旗などが何本もはためく、
重装備の騎士達が囲っている外見の方がまだ豪華である。
そして中央の机の端、
そこに置かれている椅子に、一人の老人が座っていた。
彼はキャーリサの姿を目にした瞬間、すぐに立ち上がろうとしたが
彼女は手の平を向けて「座ったままで」、と示しつつ。
キャーリサ「碌な場所すら用意できずに申し訳ない」
老人に歩み寄っては屈み、そう昔ながらの友人へ向けるように声をかけた。
「いいえ。構いませんよ。このような事態ですから」
むしろ原に座っての露天会議でも良かったのですが、と穏やかに返す老人。
キャーリサはそんな彼の手を取り。
一礼して。
キャーリサ「ようこそ。我らが英国へ―――教皇猊下」
―――
994 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/05/29(日) 16:22:44.66 ID:OL+FuFJro
次スレ建ててきます。
995 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/05/29(日) 16:28:13.65 ID:OL+FuFJro
次スレです。
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1306653951/
996 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[sage]:2011/05/29(日) 16:31:09.71 ID:OL+FuFJro
―――
45分後。
デュマーリ北島の空港には、
巨大な米軍の輸送機が続々と降り立っていた。
まずは重度の負傷者と民間人が乗り込み、
その機体はすぐさま飛び立っていく。
そして残りの者は、降り立った米兵達の手伝いの下に。
回収できた仲間の亡骸を死体袋に積め、機体に積み込んでいく。
土御門「……」
その光景を土御門は眺めていた。
やや離れた場所に置かれたコンテナに寄りかかりながら。
こうしている間も米軍の輸送機が立て続けに着地し、
大勢の兵士やジープ、軽量の装甲車などが降ろされている。
アメリカはこのまま、デュマーリ島を制圧して管理下に置くつもりなのだろう。
まあそれも当然だ。
本土の目と鼻の先のこの危険な島を、放っておくわけも無い。
アメリカでなくともこのような行動を取るだろう。
それに特殊部隊のあのリーダーに聞くところによると、
実はこの島へ向けての飽和核攻撃が検討されていたというのだから、
状況を考えれば随分と穏やかな方だ。
とは思うものの。
この展開速度、そして物量規模は本当に呆れてしまうレベルだ。
東シナ海を掌握しつつ、イギリスをはじめとするヨーロッパへの大規模支援に動き出し。
その一方でこのデュマーリ島にも大部隊を展開しようとしている。
学園都市がどれだけ技術が進歩しようとも、どれだけ革新的な戦力を有したとしても、
この点だけは絶対に勝てないだろう。
997 :
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(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 16:33:00.46 ID:OL+FuFJro
上空を多数の米軍の戦闘機が通過していく。
土御門「……」
その爆音が響く中、土御門がふと己の右手に目を落とした。
手首の辺りまで真っ赤な隈取がまだ残っている右手を。
土御門「……」
この身に宿っていた慈母、
そしてもう一人の大柱はもうここにはいない。
彼らは彼らの『使命』があるため、これ以上こちらに構っている暇は無かったようだ。
先ほどまでの戦いでもギリギリだったらしい。
だが、いくらかの力は残していってくれた。
彼らからすれば微小なものかもしれないが、
それでもいち人間からすれば莫大な力である。
土御門「……」
それとこの島における主役、ネロであるが。
あの後、しばらく『核』のところで待っていたが、
結局姿を現さなかった。
傷を負っていたフィアンセにも顔を見せずに。
キリエ曰く、まだまだやることがあるのだろう、との事だが。
998 :
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(青森県)
[saga]:2011/05/29(日) 16:35:13.31 ID:OL+FuFJro
そう。
『まだまだ』なのだ。
今この瞬間も、どこかでは戦いが続いているはず。
この島での戦いは、ほんの一部に過ぎないということだ。
本番はこれからかもしれない。
土御門「……」
学園都市に帰ったら、更なる地獄が待ち構えているかもしれない。
この島で、部隊の3分の1が命を落としたが。
残りの全員が命を落とす未来が、この先に待ち受けているかもしれない。
土御門「…………」
滝壺『つちみかど。全員の搭乗が完了したよ』
シルビアから返してもらった通信機かた聞こえる、滝壺の声を受け。
土御門は最後の己を待っている輸送機の方へと歩いてゆく。
一歩、一歩。
この地獄に最後の足跡を刻んでいき。
輸送機の開いているカーゴに片足を載せ。
土御門「…………」
一度、闇夜の荒れ果てた摩天楼を振り返った。
聳え立っているビル街はまるで巨大な墓地のよう。
土御門は数秒間、その『墓場』を見つめた後。
もう片方の足も載せ、踵を返しては輸送機の中へと進んでいった。
そして、カーゴの扉が閉じ。
輸送機は飛び立つ。
999 :
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[saga]:2011/05/29(日) 16:36:06.83 ID:OL+FuFJro
御坂美琴はぼんやりと眺めていた。
隣の佐天涙子を。
彼女は丸い窓から、離れてゆく地獄をジッと見つめている。
御坂「……」
話しかけることは無い。
いや、今の佐天にはなにも言葉をかけない方が良いだろう。
結局、ルシアの消息はわからずじまいなのだから。
佐天とは逆側にはこれまたボーっとしている黒子が座っていた。
これまた、かける言葉が特に見つからない。
それはこの輸送機の中にいるもの全員に共通していた。
誰しもが疲労の底に沈み、虚ろな目をしている。
当然。
御坂「……」
御坂自身もそうだった。
彼女は後頭部を壁面にもたれて深く息を吐いた。
そして周りの者達と同じく、『虚ろな休息』に浸ろうかとしたが。
御坂「―――」
耳の受信機から突然流れ始めた―――『ノイズ』がそうさせてくれなかった。
それは前に一度、耳にした事がある。
前回、ミサカネットワークがこのノイズに満たされたのは『あの日』―――。
―――フィアンマが学園都市に―――。
―――
1000 :
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[sage]:2011/05/29(日) 16:36:35.00 ID:OL+FuFJro
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ダンテ「学園都市か」【MISSION 08】 @ 2011/05/29(日) 16:25:51.19 ID:OL+FuFJro
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厨ニ能力やるからそれ使って戦おうか @ 2011/05/29(日) 16:05:20.33 ID:VX8ogFiIO
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どくにゃんずスレ @ 2011/05/29(日) 15:13:31.81 ID:jEP9Nhwn0
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【無料FPS】VIPでペーパーマン【VIPPM避難所】 @ 2011/05/29(日) 15:03:00.26 ID:M1kOsiLo0
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初心者だけどGLゲー作りたい @ 2011/05/29(日) 14:30:07.99 ID:4QgB9T6Io
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唯「わたしにもできるかもって思えてきた!」 @ 2011/05/29(日) 14:11:29.66 ID:KTz9SsCzo
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パート化を目指すスレ part1 @ 2011/05/29(日) 14:09:14.79
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アタック25 5/29 痛恨の思い違い!! @ 2011/05/29(日) 13:20:55.42 ID:uxZk1xoy0
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