【モバマス】琥珀色のモラトリアム
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1:名無しNIPPER[saga]
2018/02/03(土) 00:15:18.70 ID:vBuyWfgt0
※二宮飛鳥SSです
※このSSには独自設定・年数経過・ほぼオリキャラのプロデューサー・私情が多分に含まれます。苦手な方はブラウザバックを推奨します。

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2:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:16:18.19 ID:vBuyWfgt0
酷く、恐ろしい悪夢を見ていた気がする。
掻き集めた何かが、砂のように手のひらから溢れ落ちていく、そんな喪失感。

「待ってくれ…!」

以下略 AAS



3:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:17:26.81 ID:vBuyWfgt0
「夢、か……それにしても、寒いな……」

釈然としない安堵を抱えながら、突き出していた右手を布団へと自由落下させる。
今日が何もないただの土曜日であったのならばこのまま温もりの楽園へ身を委ねてしまいたかったが、生憎と今日も因果律の束縛…もとい、二次試験直前対策講座という苦役に服さなければならない。二度寝をしてしまえばもれなく遅刻だろう。
さて、どうしたものか……そう思いひとまずスマートフォンを起動すると、画面に浮かび上がった日付を見て思い出した。
以下略 AAS



4:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:18:11.91 ID:vBuyWfgt0
特に感慨もなく呟いてから、もぞもぞとベッドを降りる。杏や志希程では無いにせよ、ボクも朝は強い方ではない。まだ出発の時間には程遠いが、このまま横になっていては睡魔の誘惑に抗えなくなってしまうだろう。凍えないように素早く、パジャマを脱ぎ捨てて制服に着替える。不本意だが、エクステを付けて行く訳にはいかないのは自明だ。
まだ起きてから10分も経っていない。そしてふと、あることに丁度良いタイミングであることに気付く。


5:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:18:54.47 ID:vBuyWfgt0
屋上の扉を開くと、そこは銀世界だった。
昨晩降った雪が積もり、アスファルトとコンクリートの街を等しく白に塗りつぶしている。

「間に合ったか……」

以下略 AAS



6:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:19:49.39 ID:vBuyWfgt0
「しかし今日のボクにとっては……その演出は落第点、かな。せめて曇天を用意しておいて欲しかったものだ」

ボクの身勝手な講評は、昨日の雪雲を忘れてしまったかのような穢れなき空に吸い込まれて消えていった。無論、心情に合わせて気候が変化してくれるなどと、小説のような奇跡を本気で信じてなどいないのだが。それでも世界の執筆者に愚痴を溢したくなる程度には、ボクの心は霞みがかっていた。


7:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:20:22.11 ID:vBuyWfgt0
たっぷり10分ほど朝日を眺めた後、「今日は早いんだねぇ」と特徴的な愛嬌ある笑顔を浮かべる食堂のおばさんから朝食を頂いて、自室へと戻る。
そういえば、雪で電車が遅れているかもしれない。どちらにせよ、普段よりは混むだろう。そう思い、いくらか早い電車へ乗るために、いつか春菜に選んで貰った変装用の眼鏡を装着し、鞄を持って寮を出た。

案の定遅延していた満員の電車の中でも、ボクの存在が気付かれることはない。それはこの眼鏡の効果なのか、エクステを着けていないからなのか、それとも初めからボクを観測する者などいないからなのか……弾き出されるように目的地で降車しても、その答えを導くことは出来なかった。


8:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:21:27.04 ID:vBuyWfgt0
ガラガラと音を立ててドアを開くと、先に来ていた数人の生徒達が此方をチラリと見る。音の主がボクであることを確認すると、何事もなかったかのように各々の勉強へと戻っていった。興味が無いのはボクも同じことで、窓際一番後ろの己の席へ速やかに腰を下ろした。シャープペンシルと紙をめくる音が単調な旋律を奏でる中で、ぽつりぽつりと教室の席が埋まっていく。張り詰めた面持ちでひたすら赤本を解いている者、青褪めた顔で何かを考え込んでいる者、余裕なのか諦念なのか机に伏して寝ている者など、様々な感情の浮島が空席の海に並んでいた。
半分程度が集まった辺りで、8時30分のチャイムが鳴った。グラウンドから運動部の声が遠く聞こえる中、一限の教諭が教室へと入って来る。

「よーしちゃんと来てるな、○○大の入試で人が少ないけどこういう日こそ集中してやるように。それじゃ始めるぞ、今日は××大の過去問からーー」


9:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:22:06.27 ID:vBuyWfgt0
前席からプリントを受け取りながら、教室内を再度一瞥する。閑散とした教室には、見知った顔もいくつか欠けていた。ボクにとっては、それは実に好都合なことだった。
この事務所御用達の中高一貫校で己が孤立しつつあることに気付いたのは、高等部へ上がる頃だったか。それはボクが中三で突然編入して来たアイドルだから、ではなく、アイドルであることに周囲が慣れた時、そこに残るのは唯の"痛い"ボクだったからだ。輪をかけてボクを敵対視して来たのが、今年同じクラスになったとある女子生徒だった。蓋し事務所のアイドル達にも匹敵するかもしれないビジュアルを持っていた彼女は、学校という閉鎖空間におけるヒエラルキーの頂点に属していた。それ故に、ボクと言う存在が気に食わなかったのだろう。他の女子達を扇動し、独りになるように仕向けていった。元々孤独を善しとし、その上事務所という学校の外に既に居場所を手に入れていたボクにはあまり効果が無かったが、校内での途絶したままの友好関係を思えば彼女らの目論見は成功しているとも言えるだろう。或いは、事もなしと振る舞うボクの姿が彼女達の神経を逆撫でしていたのかもしれないが。



10:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:23:06.21 ID:vBuyWfgt0
「えー、ここまで来ればもういつもの帰納法だな。n=1の時の命題Aの成立が証明出来たので、今度はn=kを代入した時にAが成立すると仮定してn=k+1を代入する時ーー」

カツカツと黒板を叩くチョークの音を聞き流しながら、ノートの数式を確認する。導かれる過程と論理が一致することを見比べてから、ふとある日のことを思い出した。

『それに、科学や数学みたいな、常に一定の解を求める世界を覗いてるとね。もっとファジーな化学変化を期待したくなるんだー』
以下略 AAS



11:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:23:59.68 ID:vBuyWfgt0
時計の針が3時半を回る頃、ボクは筆箱と古典の問題集を鞄へと仕舞い、未だ机に向かう生徒達を背に教室を後にした。スマートフォンのカレンダーには「16:30 インタビュー」と無機質なフォントで記されている。
ネックウォーマーに口許を埋めながら、雪解けで黒く濡れるアスファルトを進む。なんとなく駅前の自販機が目に付いて、ブラックの小さな缶珈琲のボタンを押した。凍える手には過ぎた熱さのそれを口に含むと、苦味と共に妙な違和感を覚えた。

「……やはり、プロデューサーの淹れた珈琲の方が好いな」

以下略 AAS



12:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:24:46.91 ID:vBuyWfgt0
自室の床に制服を無造作に放り出して手早く《アイドル"二宮飛鳥"》のペルソナを纏う頃には、現場へ向かうのに丁度いい時刻となっていた。白いエクステを靡かせて指定されている事務所の一室へ入ると、もはや顔馴染みともなった記者とその連れが既に待機していた。

「お久しぶりです、二宮さん」

「やぁ。すまない、待たせてしまったかな?」
以下略 AAS



13:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:25:21.58 ID:vBuyWfgt0
始められたインタビューの内容は、概ねこの一年の活動を振り返るものだった。昨年興行されたダークイルミネイトやDimension-3などの単独ライブを軸に、CDの発売、TVへの出演など、様々な出来事へと質問が投げかけられ、ボクはひとつひとつコメントをしていった。

「ありがとうございます。それでは最後に、二宮さんは今年高校を卒業されますが、次の一年の目標や抱負などはございますか?」

時刻が18時に迫ろうかという時、彼女から飛び出した問いはボクを大層困らせた。それは、受験自体がまだ終わっていないとか、活動方針がまだ決まっていないとか、そういった具体的なものではなく、もっと漠然とした、されどボクの視界を確かに覆う暗澹とした闇だった。


14:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:26:01.17 ID:vBuyWfgt0
しかし、ボクはひとつの偶像として、それを表に出すことは出来ない。ファンの皆の夢を壊すのは、ボクとて本意ではない。

「……そうだな。まだ確定はしていないが、少なくともこのシンデレラ城の階段を降りるつもりはまだ無い、と言っておこうか」

「それでは、進学されても引退はなさらない、と」
以下略 AAS



15:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:26:45.36 ID:vBuyWfgt0
「それでは、本日のインタビューはここまでとさせて頂きます。二宮さん、お忙しい中ありがとうございました」

「どういたしまして、此方こそ」

最後に握手を交わし、去っていく彼女達の背を見送る。
以下略 AAS



16:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:27:45.92 ID:vBuyWfgt0
「おはよう、プロデューサー」

「お、終わったか。お疲れ様、飛鳥」

ボクが部屋に入ると彼はキーボードに向かっていた手を止めて、いくつかの書類をまとめボクをソファへ促した。
以下略 AAS



17:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:28:44.25 ID:vBuyWfgt0
「来年度の活動、お前はどうしたい?」

「……まだ、理解らない。まだ辞めるつもりは無いけれど、このまま惰性で続けていくことも善いとは思えないんだ」

「……そうか。俺としては、折角大学に行くんだから思い切って学業に専念するのも悪く無いと思うけど、急いては事を仕損じる。まぁ、受験が終わるまでにゆっくりと考えればいい」
以下略 AAS



18:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:29:31.73 ID:vBuyWfgt0
彼は朗らかな笑みを浮かべると、デスクへと戻り再びPCへ向かい始めた。ボクは手持ち無沙汰で、事務所の仲間達が出ている雑誌をなんとなく開いてみた。そこには最早お子様と笑えぬ程に成長したビートシューターの二人が大きく取り上げられていた。共に過ごしたオーストラリアでの日々が、遥か昔のように感じられる。

「なぁ、プロデューサー」

「どうした?」
以下略 AAS



19:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:30:18.58 ID:vBuyWfgt0
時計の針が、ボクを急かすようにうるさく時を刻む。読んでいた雑誌をテーブルに置くと、自分の手が僅かに震えていることに気づいた。ボクはそれを隠すように、エクステの端を指で弄ぶ。

「……虚勢(うそ)だよ、そんなものは」

「悩み事、か?」
以下略 AAS



20:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:31:03.48 ID:vBuyWfgt0
「……前にも言っただろう。直観だよ。理由なんて無い。ティンと来たって奴だ」

「ただ黄昏の公園で口笛を吹いていただけの子供にかい」

「ああ」
以下略 AAS



21:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:31:51.95 ID:vBuyWfgt0
気付いていた。気付かない振りをしていた。
彼がボクの仕事へ同行することが減り始めたのはいつからだっただろうか。成人組に監督を任せることもあったが、一人で向かうことも増えていった。打ち合わせ以外での会話は稀になり、コーヒーブレイクを共にすることも無くなっていた。
まるで彼が、ボクを怖れて逃げているかのようにさえ、思えた。

キーボードを打つ手が止まる。
以下略 AAS



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