【モバマス】琥珀色のモラトリアム
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35:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:42:19.03 ID:vBuyWfgt0
「飛鳥。お前は、俺の理想なんだ。俺はお前に、かつて喪った夢を見た。青臭くて、痛々しくて、捻くれて、それでも尚、世界へ叛逆しようと抗う若い力を見た。自分の考えに固執しすぎることも、他人に全てを委ねてただ流されるようなこともない、立ち止まることを知らない一筋の月明りを見た。……俺はお前に、救われたんだ」

その言葉が、ボクにはとても信じられなかった。
プロデューサーはいつもボクを導いてくれた。壁を乗り越えるための翼をくれた。解を見つけ出すための材料をくれた。彼はいつだってボクの前に立つ、強い大人だと思っていた。


36:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:43:00.39 ID:vBuyWfgt0
「ボクが……キミの、理想……?」

理解しかねるといったボクの顔を見て、プロデューサーは刹那瞳を伏せた。

「『双翼の独奏歌』の時だって、本当は俺も怖かった。お前たち二人の関係を一度土台から壊してしまうのが、逃げ出してしまいたいほど怖かった。誰よりも現状に甘えていたかったのは俺だった。……それでも俺は、お前達に俺の二の舞になって欲しくなかった」
以下略 AAS



37:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:43:35.55 ID:vBuyWfgt0
「……そして何よりも、このことを告げるのが怖かった。俺の下らない贖罪(ゆめ)を、お前に背負わせたくなかった。お前の夢を俺のエゴイズムに利用していることを、お前に、知られたくなかった」

「……それが、キミの仮面の理由だったのかい」

「あぁ」
以下略 AAS



38:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:44:16.20 ID:vBuyWfgt0
少し落ち着こう、とプロデューサーに促されるままに、ボクはソファへと戻った。給湯室からは珈琲豆を挽く音が聞こえる。しばらくすると、彼は芳ばしい香りの立つ二人分のマグカップを持ち、ボクの向かい側へと座った。
差し出された珈琲は、一見すると単なるカフェ・オ・レのようで、恐る恐る口に含むと、苦味の中に仄かな甘味が広がるのを感じた。

「……美味しい」

以下略 AAS



39:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:45:02.68 ID:vBuyWfgt0
「そういえば結局、悩み事ってなんだったんだ?」

つい先程まであれほど空虚な目をしていたことが嘘だったかのように、穏やかな表情で彼は問うた。

「……今思えば、そう大したものではないさ。ただ少しだけ、世界の重みに膝を付きそうになっただけだよ」
以下略 AAS



40:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:45:55.95 ID:vBuyWfgt0
「……でも、全くの無関係という訳ではないかな。ボクたちは否応無しに大人になることを強いられているのだと、実感してしまっている。『二十歳過ぎればただの人』と言うけれど、これほどまでに実体を持つ感覚だとは思っていなかったよ」

「と、いうと?」

「今までは、疑うことなく進むことが出来た。ボクは特別な存在足り得るのだと。ヒトという枠すら超えた《偶像》にさえ、キミと共にボクはボク自身を昇華することが出来た……だが、時の流れというものは非情で、非常だ。ボクにはもう、『14歳』という特権は無い。生憎とボクは異星人ではないから、永遠に14歳で在り続けることなんてできない」
以下略 AAS



41:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:46:34.17 ID:vBuyWfgt0
「そう、だからきっとこれは現象としては『正気に戻った』と呼ぶのが正しいのだろうね。……そして、往々にして夢から醒めると待っているのは現実だ。それはボクを容赦なく押し潰して、日常に稀釈しようと襲いかかって来た。……無性に不安になったんだ。ボクは本当に此処に在るのか、此処に在るボクは何者なのか、と。キミならば、仮面の下の"ボク"を見てくれると、思った」

「……すまなかった」

「ああいや、いいんだ。咎めるつもりはないし、ボクの方こそすまなかった。感情の制御が出来ていなかったよ。……それに、今まで隠されてきたキミの言葉を聴くことができたからね」
以下略 AAS



42:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:47:14.28 ID:vBuyWfgt0
「大人と子供、か。いつかもそんな歌を歌ったね……あの頃からボクは、少しは大人になれただろうか」

独り言のように指向性を持たない呟きが、二人だけの部屋に霧散してゆく。

「……大人になるって、どういうことなんだろうな」
以下略 AAS



43:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:47:53.14 ID:vBuyWfgt0
「俺もさ、考えてみたんだ。大人になるっていうのはきっと、自分の弱さに素直になれる事なんじゃないかな」

「己の無力さを受け入れるということかい?」

「いや、少し違うかな……自分が非力だと理解して、それでも捨てられない何かを抱いて前を向く、それが大人なんだと、俺は思う」
以下略 AAS



44:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:48:54.12 ID:vBuyWfgt0
「…………ボクにはまだ、理解らないな」

その感覚に心当たりがない訳ではない。雨に打たれ、己の愚かさを嘆いたあの日。世界はカッコつかないことばかりだと、失敗から学んだあの日。きっとボクと蘭子は、ひとつ大人の階段を登ることができたのだろう。
それでもボクにはまだ、全ての弱さを認めてしまう勇気は無かった。

以下略 AAS



45:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/03(土) 00:49:36.33 ID:vBuyWfgt0
お前は甘えるのが下手だからな、などと言いながら、彼はわしわしとボクの頭を乱雑に撫でた。その手はもう、先刻ほど冷たくはなかった。

「……子供扱いは遠慮願うよ」

「おっと失礼……それで、お役には立てたかな?」
以下略 AAS



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