1: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 21:33:28.61 ID:ema8T1+O0
注意事項
・このSSはフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。
・最終章等のネタバレを含みます。
・長いです。
SSWiki : ss.vip2ch.com
2: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 21:37:44.03 ID:ema8T1+O0
2017年11月5日。日曜日。
一人暮らしのリビングで、アンチョビが眠っているのを見つけた。
「…………???」
3: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 21:39:16.99 ID:ema8T1+O0
俺が連れ込んだのか、それとも不法侵入か。
さすがに前者であれば記憶も残っているだろうから、おそらくは後者だろう。
とはいえ、どれだけ間抜けな泥棒だって、ターゲットの家のこたつで眠りに就くなんてことしやしない。
4: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 21:41:06.48 ID:ema8T1+O0
……俺の部屋に似ているなんて、彼女も相当ひどい生活を送っているんだなあ。
壁一面を覆い尽くす本棚。
そこに並ぶゲーム、漫画、小説、CD、Blu-ray。
床には同人誌タワー。空いた酒瓶に、Amazonの段ボール箱。
5: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 21:43:42.13 ID:ema8T1+O0
目を覚ましたかとリビングの扉を開くと、その通り、彼女は座椅子の上に立ち上がり、大きく目を見開いていた。
「誰だっ!?」
発せられた声が思いのほかアンチョビとそっくりで驚く。
6: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 21:45:58.52 ID:ema8T1+O0
「えーっと、まず、ここは私の家です。朝起きたら貴女がリビングで寝ていたという状況なので、私もあまり話を飲み込めてません」
「……なにい? 本気か?」
「あ、はい。本気です。不法侵入なのではないかと疑ってるくらいですし。いえ実際その通りだと思うんですけど、ひとまず貴女の名前を聞かせてもらえますか」
7: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 21:47:35.09 ID:ema8T1+O0
叫ぶ彼女はやはり音が濁る。
濁点だらけの彼女の声はやはりアンチョビそのものだ。
ファンだというだけでこれほど似せられるものなのだろうか。
あぁ、ひょっとして声優の卵だったりするのだろうか?
8: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 21:49:11.49 ID:ema8T1+O0
俺が疑いの眼差しを向けているのに気付いたのだろう、彼女は少し棘をおさめ、座椅子に尻をつけた。
「なんとなく、嘘をついてる感じじゃないな」
むしろ嘘をついているのはそちらなのでは、と言いたくなる気持ちをおさえ、「ホントのことしか言ってないですよ」と答える。
9: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 21:51:00.26 ID:ema8T1+O0
――――。
まさかとは思うが、本当に?
「……あの子たちって? 誰のことですか?」
10: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 21:53:05.37 ID:ema8T1+O0
彼女はアンチョビだ。認めるしかない。
一体何が起きているのか俺には理解できないが――特徴的な髪の色、声質、語り口、姿形、知識。全てが全て、彼女がアンチョビであると示している。
一片の曇りもない。
11: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 21:55:26.88 ID:ema8T1+O0
自宅から徒歩1分のコンビニで、適当なペットボトル飲料を5種類ほど購入して戻る。
アンチョビは座椅子に座って『私の少年』を読んでいた。
「どうぞ、選んでください」
12: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 21:56:40.11 ID:ema8T1+O0
「本棚の、『私の少年』が並んでいる二つ下の段を見てください。そこに『ガールズ&パンツァー劇場版ハートフル・タンク・アンソロジー』という本がありますね」
「うん、あるな」
「手にとってみてください」
13: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 21:59:23.14 ID:ema8T1+O0
一つ一つ、探り合うように互いの認識を共有していった。
ガールズ&パンツァーとは。
戦車道とは。学園艦とは。大洗とは。
アンツィオ高校とは。アンチョビとは。
14: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 22:00:26.28 ID:ema8T1+O0
自分は物語の中の、創られた存在だと判明したのだ。
そりゃあしんどいだろうと思う。
俺だって、今いるこの世界が小説の中の一ページだと言われれば、きっと自分の存在意義に苦しむ。
15: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 22:02:43.39 ID:ema8T1+O0
「いらっしゃ――」
うどん屋の主人は、俺の背後に目を向けた途端に声をつまらせた。
が、無理矢理に「いませー」と言葉を繋げると、俺たちを二人がけの席へと案内する。プロだ。
16: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 22:04:39.19 ID:ema8T1+O0
うどんが届き、互いに箸へ手を付ける。
薬味をからめた透き通るような麺が美味だ。
「アンチョビさん、これからどうするんですか」
17: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 22:05:58.04 ID:ema8T1+O0
「アンチョビさん。なんでしたら、うちを拠点にしてくれても構わないですよ」
「え?」
アンチョビの顔に生気が増す。
18: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 22:07:34.47 ID:ema8T1+O0
「――まぁ、助かるなら、決まりですね」
悩んだところできっとアンチョビの答えは変わらない。
だからさっさとそう言ってしまうと、彼女もすぐに言葉をかえした。
19: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 22:09:02.26 ID:ema8T1+O0
「じゃ、そうと決まれば時間もない。とりあえず日用品を揃えなきゃいけないよな。俺が買うのも何だから安斎さんの方で見繕ってきてよ」
「安斎じゃない! アンチョビだ!」
「あぁ、そこはアンチョビで通すんだ。了解です。はい。アンチョビさんで」
20: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 22:11:10.06 ID:ema8T1+O0
「店を出て右手へずっと歩いて行くと――ええっと、でっかいショッピングモールがあるから。アンチョビさんはそこで必要そうなものを買ってきて。俺はその間に部屋を片付けとくから」
「お、おう」
「まぁまずはお金を卸しにいきますか。あんまり手持ちもないので」
21: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 22:13:39.58 ID:ema8T1+O0
アンチョビが我が家へ戻ってきたのは4時間後――16時頃のことだった。
部屋の整理も初めは2時間もあれば終わるだろうとたかをくくっていたのだが、漫画を段ボール5箱ほど詰めたところで時間切れとなった。
処分する漫画の選別をしたり、懐かしくて読み返したりなどしていたせいである。
つくづく駄目人間だ。
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