真壁瑞希「恋するアセロラ・サイダー」【ミリマスSS】
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16: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/11/12(月) 22:41:35.60 ID:NGPIxQq80

 いよいよ我慢ができなくなって、アセロラ・サイダーを買いに行こうと目線を外の風景から戻すと、窓に私が映っていることに気が付いた。無表情で可愛げのない顔つきの私が、ガラスに映っている。試しに両手の人差し指で口角を上げてみると、口が目元とは不釣り合いに持ち上げられ、不器用な笑顔になった。

 さっきのやり取りの中で、私のちょっとした表情の変化に彼が気付いてくれたというのは、嬉しかった。楽しみだ、と顔に出ている、そう言ってくれたことが。

以下略 AAS



17: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/11/12(月) 22:43:02.89 ID:NGPIxQq80


 自覚していることだが、私はかなり不器用だ。私としてはちゃんと表現しているつもりなのだが、皆はあまり汲み取ってくれず、無表情だから何を考えているのか時々よく分からない、とよく言われる。そう言われるのは慣れているけど、それでも、自分が今楽しいとか、悲しいとか、心の中の気持ちに気付いてくれると、やっぱり嬉しいものだ。だって、無表情であっても、ちゃんと感情はあるのだから。

 おかげで、私の言ったことを本当に理解しているかどうか、その人の表情を見ると、何となく分かるようになった。この人は私の言っていることをほとんど理解してないけど、話を合わせてくれているな、とか、何だか少し理解してくれてるな、というのを直感するのだ。
以下略 AAS



18: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/11/12(月) 22:44:56.84 ID:NGPIxQq80

 ある日、どうして私の思惑が分かるようになったのか、尋ねた。

「よーく見るとさ、ちゃんと表情に出てるよ。楽しいとか、悲しいとか。だから、そんな不安にならなくていいし、遠慮なく俺に話してよ」

以下略 AAS



19: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/11/12(月) 22:45:48.65 ID:NGPIxQq80

・・・・・・・・・・



以下略 AAS



20: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/11/12(月) 22:46:31.21 ID:NGPIxQq80

 学校へ行くときはもちろんのことだが、遊びに出掛けるときでさえずっと制服を着ていた。スカートのウエストがへそ上に収まるように位置を合わせ、ネクタイを軽く締めると、不思議と落ち着くからだ。流石に寝るときには着ないけれど。

 事務所にも制服で通っていたが、しばらくしてある日、プロデューサーが私服をもう少し積極的に着てみたらどうかと提案してきた。なかなかお節介な提案だと訝しんだけれど、「自分自身を表現する術を瑞希が知りたがってたからさ。私服でまず表現するっていうのも、一つの手じゃないかと思って」という彼の言葉も一理あった。

以下略 AAS



21: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/11/12(月) 22:49:58.20 ID:NGPIxQq80

 しかし、いざ私服を着ようと思っても、算段がない。親に買ってもらった私服はあるけれど、その当時はクローゼットの中で日の目を見ることなく眠らされており、それらの服もどのように着ればよいか分からない。悩んだ末、プロデューサーに相談すると、彼はファッションに明るそうなアイドルを数人呼んできた。みんな親身になって私の悩みに応じ、服の組み合わせ方を教えてくれた。街に出てアパレル・ショップに行くこともあったが、次第に皆のテンションが上がり、私は着せ替え人形のようにたくさんの服を着る羽目になった。

 そうして皆で見繕った服を着て、私が事務所を訪れたときの記憶は、今も鮮やかに残っている。プロデューサーが私の姿を見るやいなや、呆然として私を眺めていた。それから表情を明るくして、

以下略 AAS



22: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/11/12(月) 22:51:17.42 ID:NGPIxQq80


 今では、学校から直接シアターや事務所へ向かうとき以外は、なるべく私服で通うようになった。どんな服を着ようかと前の晩からベッドの上で悩む姿を、昔の私が見たら、きっとビックリするだろう。最近だと、私が着てきた服を見て、プロデューサーはどんな反応をするだろうかと気になって、違う意味で落ち着かなくなる。でも、それ以上に、彼に見てもらいたい。

 襟元が崩れないよう、きちんと正す。そして、普段はあまり付けないヘアピンを手に取った。装飾に付いている小さなハートのエースが可愛らしいと最近買ったものだ。私はそのヘアピンを、彼に気付いてほしいと念を込めて、髪に留めた。
以下略 AAS



23: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/11/12(月) 22:52:54.40 ID:NGPIxQq80

 改札を抜け、事務所へ続く道に出た。午前とはいえ、秋晴れ広がる空の下は暖かだ。上を仰ぐと、ビルとビルの隙間に、一つ、真っ白で大きな雲が浮かんでいた。横広に楕円で、片方は尾ひれが付いていて、それは空飛ぶクジラのようだ。

 信号待ちの間に、シャツやスカートにしわが寄っていないかどうか、開店前の喫茶の窓を鏡にして確認する。……うん、大丈夫。髪型も、気付いてくれたらいいなと期待しながら、念入りに整える。

以下略 AAS



24: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/11/12(月) 22:53:50.11 ID:NGPIxQq80

「おはようございます、プロデューサー。一人ですか?」

「うん。社長も音無さんも、出掛けたよ」

以下略 AAS



25: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/11/12(月) 22:55:29.56 ID:NGPIxQq80

「お、今日も私服だ。最近は制服ばかりじゃなくなったな」

「流石はプロデューサー、気付いてくれましたか」

以下略 AAS



26: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/11/12(月) 22:57:51.44 ID:3wSsqTkg0

「後はそうだな......。」

 プロデューサーの視線が私の足元から頭の頂点へと動き、そして私の目をとらえた。真剣な眼差しだから、胸の鼓動が早くなる。

以下略 AAS



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