10: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 00:49:54.93 ID:CDwt0mRk0
  
 * * * 
  
 「……」 
  
11: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 00:52:18.84 ID:CDwt0mRk0
  
  現在時刻は夜の八時半を回っていた。事務所に始発で来たから、かれこれ十四時間、アイドル活動をやっていたことになる。 
  
  今日は朝からテレビの収録があったのだ。 
  
12: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 00:54:45.28 ID:CDwt0mRk0
  
  だって仕方がない。仕方がないじゃん! 本当のことなんだもん! 
  五人でグループを組んでた時のほうが活き活きしてた。いまもパフォーマンスは凄いしファンサービスだってめっちゃだけど、だけど、だけど、……ステージで踊る彼女たちの汗と笑顔が、なぜだか尊く見えない。心でも魂でもなくて、技術でアイドルをやっている、そう思えちゃったのだ。 
  
  それが残念でしょうがない。泣きたくなるくらい悔しい。 
13: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 00:56:05.75 ID:CDwt0mRk0
  
  Pサマは怒っていたけれど、どこか嬉しそうな、楽しそうな顔をしていた。だからぼくは、やってしまったという自己嫌悪よりも、よっぽど自慢気が勝っているのだ。 
  初テレビ出演のお祝いに餃子も買ってもらったし! 
  
  薄汚れたコートを着たまま、Pサマは餃子を電子レンジに突っ込んだ。 
14: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 00:57:04.84 ID:CDwt0mRk0
  
  
  電子レンジが「チン」と音を立てる。呆れ顔のPサマ。扉を開け、餃子を取り出し、パックの蓋をとる。 
  安っぽいにおいがした。だからこその親しみやすさだとぼくは思う。 
  
15: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 00:58:06.62 ID:CDwt0mRk0
  
 * * * 
  
  蓋を開けてみれば、わかっていないのはPサマのほうだった。 
  
16: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 00:58:49.94 ID:CDwt0mRk0
  
 * * * 
  
  先日ぼくが大失敗してしまった初めてのテレビ撮影、ぼくは当然あんな映像使われないと思っていて――そしてそれはPサマも同じだった。だからぼくたちはその番組の放映日なんてすっかりと忘れてしまっていたのだ。 
  
17: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 01:00:19.46 ID:CDwt0mRk0
  
  その声が、声たちが、いったい何についてぼくへと奔流を浴びせかけているのかわからなかった。やってしまったという後悔も、みんなが注目してくれているという昂揚もそこにはない。起き抜けの頭は火花が散るばかり。 
  そうして次第に明晰していく中で、ようやくぼくは気付いたのだった。 
  
  どうやらあの日の主張はボツにはならなかったらしい。 
18: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 01:01:05.60 ID:CDwt0mRk0
  
  スマホはしつこく鳴っている。 
  正直、このまま電源を落として、布団被って、寝たい。惰眠を貪りたい。ぼくのせいであって、ぼくのせいじゃないのだと、世界のすべてに叫びたい。 
  だってそうだ。そうじゃない? ぼくはアイドルへの愛を叫んだだけなのだ。そりゃあ確かにちょっと批判みたいなことはしちゃったかもしれない。でもそれは愛ゆえであって、決して喧嘩を売ったわけじゃあない。 
  
19: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 01:01:34.09 ID:CDwt0mRk0
  
 「ううぅ……」 
  
  シャツの裾を掴む。 
  世界は針の筵だ。その中にあって、掛布団だけが、なによりも優しい。柔らかくぼくを抱きしめてくれる。 
20: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 01:02:57.75 ID:CDwt0mRk0
  
  絶望していてもお腹は膨れない。し、冷蔵庫だって満たされない。とりあえずコンビニへと選択をするのは現代人の美徳。 
  手櫛で髪を梳く。桃色と水色のコントラストがちらつく。もちろんすっぴんのままにぼくはお日様の下へと躍り出た。 
  
 「よぉ」 
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