【デレマス】夢見りあむの、尊さについて。
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21: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 01:03:25.00 ID:CDwt0mRk0

「……燃えてる?」

 恐る恐る尋ねる。いつものような炎上騒ぎなら、Pサマのお小言と拳骨だけで済んでいる。そうでないということは、……そうでないということなのだ。いつものような炎上騒ぎではないという。

以下略 AAS



22: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 01:04:17.98 ID:CDwt0mRk0

「謝らなくていい、堂々としていろ。……いや、たまには謝ったほうがいいか」

 そうしてぼくの頭へと、まだ値札も切っていないキャスケット帽をぽすんと乗せる。えせ鼈甲縁の伊達眼鏡も一緒に手渡された。

以下略 AAS



23: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 01:06:04.34 ID:CDwt0mRk0

* * *

 ぼくの生活は途端に輝きを帯び始めていた。光の粒子を纏い始めていた。
 ぼくの自覚の薄いままに。
以下略 AAS



24: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 01:07:04.11 ID:CDwt0mRk0

 アイドル論ならいくらでもある。尊さなら何時間だって語れる。画面の、電子の海の向こう側で、いろんなひとがアイドルオタクであるぼくを心待ちにしている。
 ぼくの論陣は辛口で舌鋒の鋭さが売りだ。オリコン1位だろうがベテランだろうが、決して阿ったりはしない。かといって実力が全てってわけでもない。笑顔。情熱。汗と輝き。ぼくたちに勇気や感動、夢や希望を与えてくれる――いや、寧ろ彼ら彼女らはそのものの具現でさえあるんじゃないか。

 だからアイドルとはまさしく偶像で、ぼくたちの誰しもが羨んでやまない理想の姿で……なによりも尊い。
以下略 AAS



25: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 01:08:59.42 ID:CDwt0mRk0

 それはバズりとは違っていて、ましてや炎上なんかではあるはずがなくて。……そう、膨らんだ風船に近い。萎んだぼくへと誰かが無理やりに空気を注入している。次第にぱつんぱつんになるぼくのことなど見向きもしないで。
 誰もが娯楽を探している。眼をぎらぎらさせながら、狙っている。いっときでいいから盲目的に盛り上がれる何かを。

 それがたまたまぼくであったというだけ。
以下略 AAS



26: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 01:10:22.81 ID:CDwt0mRk0

 眠かった。脚も痛かった。ロケ弁は美味しかったけど毎日じゃあ飽きるし、とにかく待機時間が長いのが退屈だった。不意にカメラを向けられてもいいように、つねに笑顔だから表情筋も凝る。
 ちょっと前のぼくなら辛さや大変さに逃げ出してしまっていただろう。ぼくはまだまだダメ人間だけど、ダメ人間のままではい続けられない。それがわかっただけでも、ちょっとばかりの収穫、かな?

 それでいてぼくは、……残念ながら、ダメ人間ではあったけれど、ダメ人間なりには利口だった。
以下略 AAS



27: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 01:11:25.31 ID:CDwt0mRk0

 もちろん敵もそのぶん多い。歌が下手、踊りがださい、ビジュアルがくそ。炎上狙いの一発屋ってのはかなり近いところを指摘しているとは思ったけれど。

 そうして、三位。
 三位。
以下略 AAS



28: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 01:13:12.05 ID:CDwt0mRk0

「行きたくないなぁ」

 仕事に。

以下略 AAS



29: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 01:13:56.52 ID:CDwt0mRk0

* * *

 酸っぱいにおいと、むせかえるような不味さと、ただただ不快な感触が、喉の奥から唇の端、鼻の中までいっぱいに詰まる。反射的に口元を抑えたけれど、すぐに半固形のゲロはぼくの指のあいだから絨毯へと零れ落ちていった。
 片付けなきゃ、とか、洋服が、とか、病院にいかないと、とか。そんな発想はぜんぜん浮かんで来なくて、ぼくはまず、とにもかくにもPサマに連絡しなきゃって思った。連絡して、ごめんなさい、お仕事いけないです、って。
以下略 AAS



30: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 01:14:45.87 ID:CDwt0mRk0

 アイドルはとかく素晴らしい。彼ら彼女らは、ビジュアルの美しさやカッコよさ、あるいは歌唱力やその抜群のパフォーマンスで観客を魅了する。
 同時にぼくは思う。「だからこそ」尊いのではない。尊くあれる存在「こそが」アイドル足りえるのだと。
 観客のために努力をして、汗水たらし、ひたむきに、頑張って、歯を食いしばり、涙を堪え、誰かを助け、そして助けられ、自分と、自分を見てくれるひとたちのために研鑽された宝石がアイドルの輝きの正体なのだ。

以下略 AAS



31: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 01:16:06.53 ID:CDwt0mRk0

「どいつもこいつも節穴ばっかりだ! ぼくがなんか頑張ったか? 頑張ったかよぅ! 輝いてたか? 尊かったか? そんなわけない! みんなみぃんなぼくのことなんか見てやしないんだ!」

 注目を浴びたかった。ちやほやされたかった。承認欲求を満たす手段があれば、すぐにそれに飛びついた。
 けれど、違う。違うんだ。ぼくのこの憤りは、そんなところに根差していない。
以下略 AAS



32: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 01:19:42.87 ID:CDwt0mRk0

 みんながぼくのことをアイドルと評した。
 ぼくはぼくのことをアイドルだなんて思えなかった。

「凄いアイドルが! 尊さじゃなくてお祭り感覚で決まるっていうんなら! 努力なんてムダムダの無じゃん! アイドルってなんなんだよぅ!」
以下略 AAS



33: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 01:20:56.50 ID:CDwt0mRk0

 時間の感覚は麻痺していた。だから、Pサマがやってきたのが、それから十分後なのか二十分後なのか、はたまた一時間後だったのか、どうにも曖昧の中へと沈んでいる。
 ぼくはゲロの海の中に沈んでいた。つんとした刺激臭が鼻を刺す。それでも動く理由にはならなくて、髪の毛や肌を掻き毟りたくなる衝動を必死に抑えるので精一杯。
 Pサマはそんなぼくを一目見て、「ひでぇな」とぽつり、呟いた。その意見にはぼくも同意だった。

以下略 AAS



34: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 01:21:57.13 ID:CDwt0mRk0

「ごめんね。ごめんなさい。Pサマ、ぼく、アイドルやりたくない。やれない。やれないよぅ。もうやだ。こんな思いするなら、アイドルなんてやらなきゃよかった。Pサマのスカウト、断ればよかった」

 顔が熱い。視界が歪む。
 泣きたくなんてないのに、悲しくも悔しくもないのに、そのはずなのに、涙が零れて止まらない。ぽろぽろぽろぽろゲロへと落ちる。
以下略 AAS



35: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 01:23:20.45 ID:CDwt0mRk0

 肌に触れているのはPサマのコート。くたびれた、しわくちゃの、小汚い。その内側には男性的な、少し筋肉質の肉体が感じられる。ぼくのおっぱいがPサマの胸板で潰れていて、起き抜けだったから下着をつけていないことを思い出したけど、恥ずかしさは不思議とあまりない。

 ぼくが背中に手を回したので、密着度合いは一気に増している。Pサマの右手がぼくの後頭部へ、左手がぼくの右肩へ、それぞれ痛いくらいの力。

以下略 AAS



36: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 01:24:48.54 ID:CDwt0mRk0

「駆け出しの、五人だったころからだ。途中、一人が辞めたいと言った。自分がしたかったのは、こんなことじゃないと。俺は止めた。他の四人も止めた。だけど、あいつは結局辞めちまった。
 ……違うんだ。わかってるんだ。俺も、他の四人も、本気で止めながらも、止める気なんてなかった。辞めることは知っていた」

 ぼくは脳内のデータベースを漁る。……確か、辞めた理由はぼかされていたはずだ。
以下略 AAS



37: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 01:26:23.79 ID:CDwt0mRk0

「だけどそんなもんじゃねぇのか。アイドルに限ったことじゃねぇだろう。どんな仕事だってそうだ。誰かがやりたくないことをやって金がもらえる。違うか。りあむ」

「違うよ、Pサマ」

以下略 AAS



38: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 01:27:58.75 ID:CDwt0mRk0

「ははっ」

 Pサマはぼくの言葉を受けて笑った。普段無愛想な顔が、いまは耳の後ろにあって見えないけれど、きっと、多分、確実に、絶対、満面の笑みを浮かべているようだ。

以下略 AAS



39: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 01:29:12.02 ID:CDwt0mRk0

「やりたくないことをやらなきゃいけねぇばっかりの世の中に、りあむ、お前みたいなヤツが一人くらいいたっていい。嘘も偽りもない、ゴミクズみてぇな自分を曝け出せるダメ人間がいたっていい。
 夢見りあむが夢見りあむであるままステージで光を浴びたなら、それは……それは、なぁ、りあむ。聞いてくれ。お願いだ」

「うん、うん。聞いてるよ。Pサマ、ぼく、聞いてるから……!」
以下略 AAS



40: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/10(月) 01:29:58.91 ID:CDwt0mRk0
――――――――――
リハビリ。
ここから先は、ゲームの中で。

待て、次作。


41:名無しNIPPER[sage]
2020/02/10(月) 10:34:25.03 ID:v97Bc1zeo
おつおつ
自分のイメージするりあむとばっちりハマってなんかもう…尊い
復帰ありがとう


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