【デレマス】橘ありす「花にかける呪い」
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20:名無しNIPPER
2025/07/31(木) 00:54:07.05 ID:DoK8Vme/0
「……結局のところ、貴方の身勝手では?もちろん、貴方がありすのことを誠実に考えていることを否定するつもりはありませんが」

 痛い所を突く人だ。他人の人生を歪めるこの業界は確かにそういう所がある。よくプロデューサーはシンデレラの魔法使いだなんて言うが、俺に言わせれば同じ魔法使いでもマクベスのそれだ。運命という呪いを、どこにでもいたはずの人間にかける存在。そうして作られた人生は喚き声に溢れている。それに意味をつけるとするならば。

「否定はしません。ですがそれは全ての人に共通するものでは?誰かが言葉で呪い、舞台で大見得を切らせて、愚か者がその物語を語るだけ。ならばせめて、舞台だけでも広く、大きく、客の多いところを選ばせたいというのが私の意見です」
以下略 AAS



21:名無しNIPPER
2025/07/31(木) 00:54:39.38 ID:DoK8Vme/0
「……ありすが舞台を降りたあと、貴方はどうされるつもりですか?」
「本人が望む舞台があるのなら、そちらへ手招きしますよ。あらゆる手を使って。それが私の出来る善行です」
「そうですか」

 先程よりも落ち着いた声。ほのかに香る嗅ぎ慣れた安たばこの匂いが鼻をつく。不味そうに吸っていたな、そういえば。
以下略 AAS



22:名無しNIPPER
2025/07/31(木) 00:55:25.88 ID:DoK8Vme/0
 俺たちが違えてはならない約束をした3ヶ月後、橘さんーありすはアイドルとしてデビューした。誰もが予測しないほどのスピードで。


23:名無しNIPPER
2025/07/31(木) 00:57:20.72 ID:DoK8Vme/0
【断章・夜桜】
 大学生の頃だったか、友人と桜を見に行ったことがあった。地元の桜の名所だ。とっくに日は暮れていて、スポットライトに照らされた夜桜が川沿いに並んでいる光景は言葉にしがたいほどだった。
 その翌日。たまたま用事があってそこを通った俺は、ちいさな違和感を覚えた。桜が咲き誇り、誰もが喝采を送る。笑顔を見せる女の子に、写真を撮る若者。この世の何よりも美しいはずだ、なのに。
 しばらく考えて気がつく。簡単な話だ。今日の俺は酒に酔っていないじゃないか。夜桜とは、酔っているからこそ美しく見えるものなのだ。となれば。
 夜桜とやらにだけは、なりたくないものだ。


24:名無しNIPPER
2025/07/31(木) 00:57:58.70 ID:DoK8Vme/0
 私が3歳の頃のことです。珍しく両親が花見に連れて行ってくれました。地元の桜の名所に場所を取って、3人で飲み食いして。その時に見た夜桜の美しさは、今でも思い出せます。
 それから私は花見をする時は、必ず夜にしようと決めていました。あの時ほどに美しくなくても、私にはそれでよかったんです。視野が狭いと、今はそう思えます。でも、大切な目標をくれました。
 私は、誰かにとっての夜桜になりたいんです。



25:名無しNIPPER
2025/07/31(木) 00:59:49.14 ID:DoK8Vme/0
【20年後】

 あれからそれなりの時間が経った。事務所は大手になり、あの懐かしきビルは手狭になって解体された。今や設立当初の2人は別の舞台にいる。喜ぶべきなのだろう。変化とは誰にとっても美しきことだ。

「……プロデューサー、何してるんですか」
以下略 AAS



26:名無しNIPPER
2025/07/31(木) 01:00:49.83 ID:DoK8Vme/0
 自分の手でコーヒーを淹れる人間も少なくなった。それでも2人だけのコーヒーミルは機嫌良さげに豆を砕く。ここ最近は2人が交代で淹れることになっていた。粉にゆっくりと少し冷めた湯を入れてドリップし、完成。2人の舌に合った温度になるまで置いて、口をつける。変わることのない味と豊かな香りが2人を包んだ。

「腕を上げましたね」
「最初の頃のお前も酷いもんやったよ。コーヒーにいちごを混ぜようなんて言うた時はひっくり返ったわ……ようここまで変わったなぁ」

以下略 AAS



27:名無しNIPPER
2025/07/31(木) 01:02:08.42 ID:DoK8Vme/0
「……は?」
「だから、プロデューサーになろうと思います」

 覚悟は出来ていた。音楽にどう関わるかをゆっくり決めろと言ったのは俺自身だ。しかし、しかし。

以下略 AAS



28:名無しNIPPER
2025/07/31(木) 01:03:50.86 ID:DoK8Vme/0
「……理由は」
「私は欲張りなんです。だから音楽に関わりながら、人に関わりたい」
「やからってこんな業界くること無いやろ。言っちゃあれやがこの業界は魔女の大釜みたいなもんや。ひっかき回すのは俺らだけでええ」

 ありすが睨み返す。あの日母親がした目と全く同じものだった。
以下略 AAS



29:名無しNIPPER
2025/07/31(木) 01:05:35.07 ID:DoK8Vme/0
 彼女の顔がよぎる。彼女に魔法をかけーそれを呪いに変えてしまったとき。彼女は確かに幸せそうに見えた。しかしそれは彼女が本当に掴むべき幸せだったのか?俺が与えられる幸せの総和は、本当に何よりも大きかったのか?

「……私が呪いをかけられたがっていても、ですか」
「呪いをかけられたがっていても、や。魔女の大釜は望んで飛び込むところじゃない」

以下略 AAS



30:名無しNIPPER
2025/07/31(木) 01:06:28.39 ID:DoK8Vme/0
「……呪った責任から逃げるんですか」
「呪いを魔法に戻すためや。なぁ、頼む」
「嫌です。Pさんは私を呪った、それを一生覚えていて貰わないと気がすみませんから」

 ワイシャツにシミが広がる。その声色は震えていて、俺が悪人たらねばならないと示していた。拒むことは出来るー俺がリア王になれるのなら。畜生。俺は悲劇は嫌いなんだ。
以下略 AAS



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