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2011/03/12(土) 08:52:20.65 ID:IW7IgJuDO
数日後、私は自分の病名を担当の医者から聞かされることになる。先生は私の緊張を解くところから始め、そして私は自分の体に起こった異変について知ることになる。病名については難しい名前で延々と話されてよくは覚えていない。ただ私の病気は治療不可能で末期。もう余命一ヶ月しかない、という揺るぎない事実だけだった。
「ーー髪、切ろうかな」
さらさらと、手で自分の髪を梳きながら、ひとりごちる。なんだか急にうっとおしく思えてそんな独り言をこぼしてしまう。勿論ハサミなど持っているはずもないし、美容院になど行けるはずもない。
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2011/03/12(土) 08:53:47.11 ID:IW7IgJuDO
ーー
「じゃあ出席を取るわねー」
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2011/03/12(土) 08:55:24.03 ID:IW7IgJuDO
「…そこで目が覚めたんだ」
「ふーん」
私の話しを黙って聞いていた律は、真顔でそう相槌を打った。律、というのは先に話した軽音部のメンバーで、小学校時代からの私の親友だ。律は私が今日みた夢の内容という、他人が聞くには恐ろしく興味の薄い類の話しをしている間中ずっと真剣に、私の顔を見つめながら聞いていた。やがて律は、
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2011/03/12(土) 08:56:57.10 ID:IW7IgJuDO
律とはつい最近までずっと一緒にいたのに、まるで何年も会っていないかのように歯車が滑らかに噛み合わず、とてもぎこちのないものだった。軽音部の他のみんなも、始めは毎日お見舞いに来てくれてはいたが、そのうちに回数が減り、今では毎日来てくれるのは律だけになった。
律がいうには、みんなは次の新歓ライブに向けて、部活動に忙しいらしい。
次の?
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2011/03/12(土) 08:58:55.74 ID:IW7IgJuDO
「じゃあ私、帰るな」
「あ…」
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2011/03/12(土) 09:00:42.90 ID:IW7IgJuDO
「具合はどう、澪ちゃん?」
私の隣に座りそんな事を聞く。病室に来てから五分で聞くことは毎日決まって同じ台詞だった。同じことばかり繰り返す母親は私を心配させまいとしているのだろうが、その顔はまるで『笑顔』が張り付いてしまった能面のように見えた。一人っ子の私を可愛がるのは何もおかしくはないが、今のお母さんはどこか不気味だ。
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2011/03/12(土) 09:02:11.53 ID:IW7IgJuDO
そして、夜が訪れる。
私の命を削る暗い闇が。
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2011/03/12(土) 09:03:53.95 ID:IW7IgJuDO
私は目が覚めるとすぐ、カレンダーの日付に赤いマーカーで×印をつけた。
昨日という一日が終わり、今日という一日が始まる儀式。
今日は二月二日だ。
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2011/03/12(土) 09:05:31.83 ID:IW7IgJuDO
「どうした?元気ないじゃんか」
そんな私に律は軽口を続ける。実際元気になれるわけがないことを律だってよく知っている筈なのに。
「…うん」
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2011/03/12(土) 09:07:30.47 ID:IW7IgJuDO
走り気味な律のドラム。私は軽音部での活動の事を思い出していた。放課後ティータイム。私にとってはもう過去のことだ。終わってしまった私の青春…。
「…みんなもさ、」
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2011/03/12(土) 09:09:19.94 ID:IW7IgJuDO
恨まないでくれよなーー…と。
「…ーー恨むよ」
律の手が止まる。
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