過去ログ - 唯「アイスレンダー」
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1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2011/07/01(金) 23:06:11.06 ID:wq3gp6Kw0
夏だったことは覚えている。
といっても、あの時私は何て言ったっけ。
せっかくの告白だったのに。

ただ、話したことは覚えているのに、話したことは覚えていないんだ。
そのかわりに、
やけに氷の、互いにぶつかるやわらかな音が耳に残っている。


2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/07/01(金) 23:07:05.96 ID:wq3gp6Kw0
小学生、中学生の夏の日も、
あんな風にして和ちゃんは私の部屋に来てくれて
私に勉強を教えてくれた。
クーラーが苦手な私に付き合って、
じめじめとした夏特有の身体の倦怠感を、
以下略



3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/07/01(金) 23:08:32.89 ID:wq3gp6Kw0
いつだったか、私のベッドの真っ白いシーツの上を、
2人でぬらしながら、2人でポーズを考えた。
なかなか私に「すき」って言ってくれない和ちゃんに私が提案した。

「まずさ、右手で鼻の頭をさわるでしょ?」
以下略



4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/07/01(金) 23:09:07.11 ID:wq3gp6Kw0
2つだった氷がとけて、まざって
まるで当たり前のように水としてそこにいた。
右も左も上も下もわからないくらい、
2人でごちゃまぜになった。
幸せだった。ありきたりな言葉しかないけど。
以下略



5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/07/01(金) 23:09:34.21 ID:wq3gp6Kw0
誰が悪いというわけじゃない。
私は和ちゃんともいたかったけど、
けいおん部のみんなともいたかった。

和ちゃんだって、自分のやりたいことがあった。
以下略



6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/07/01(金) 23:11:15.81 ID:wq3gp6Kw0
それから私たちは、文化祭やら受験やらの忙しさで
自然消滅してしまったように思う。
「ように思う」っていうのは、私たちが本当に終わってしまったのか、
私にはまだ、よくわからないからだ。

以下略



7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/07/01(金) 23:12:43.86 ID:wq3gp6Kw0





以下略



8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/07/01(金) 23:13:15.93 ID:wq3gp6Kw0
それからあっけなく、和ちゃんがこの街からいなくなっちゃう日が来た。

和ちゃんがお願いしたから、誰も見送りにはいかないという。
しめた、と思った。これはきっと、私にとっての最後のチャンスなんじゃないか、と。

以下略



9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/07/01(金) 23:13:59.89 ID:wq3gp6Kw0
作業は、和ちゃんのいなくなっちゃう日の朝までかかった。
らしくもないことをしてしまったから、頭が猛烈につかれて、ぼんやりした。

だいぶ片付けた、それでもみんなが来る度に、気味が悪い、とバカにされた平沢チキンの横に
まだ置いてある時計を見る。
以下略



10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/07/01(金) 23:14:53.12 ID:wq3gp6Kw0
目を覚ますと、いつもの見慣れた天井が見えた。

隣に和ちゃんはもういない、わかってる。
この3ヶ月くらい毎日のように思い知らされた。
よく寝た。それでも、まだ9時くらいだと思った。
以下略



11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/07/01(金) 23:15:19.73 ID:wq3gp6Kw0
とんでもないことになった。
ガバッ、と起きて、ドタバタと着替える。しまった、着ていく服を用意していなかった。
どうしよう。部屋に散らかった服の中からよさそうなのを選んで着た。
口からは「あわわわわわ」という声しかでない。

以下略



12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/07/01(金) 23:16:39.12 ID:wq3gp6Kw0
どうして私は最後の最後までこうなのか、と走りながら思う。
クロワッサンが邪魔だった。欲張るんじゃなかった。
小麦粉の変なすっぱみで、口の中がいっぱいになる。

運動不足で、しだいに痛みだす足と肺に、
以下略



13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/07/01(金) 23:18:16.28 ID:wq3gp6Kw0
それでも、この道をまっすぐいえば、会えると思った。
いつも待っててくれたから。私のこと。
「ほら、唯」って言ってわらってわらってわらって、
私に手をさしのべてくれたから誰よりも、
和ちゃん、私はね、和ちゃんがすきなんだよ、ごめんね?
以下略



14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/07/01(金) 23:19:00.51 ID:wq3gp6Kw0

だけど、そのエゴがなきゃ、今、私は走れない。
たとえば、もう走るのもやめて、CDを和ちゃんに渡すことも諦めて
今すぐに来た道を戻ることだってできる。
そっちのほうが、運動不足の足と肺にとってはとっても魅力的だった。
以下略



15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/07/01(金) 23:19:59.34 ID:wq3gp6Kw0

いつの間にか、泣いていた。
泣きながら走る私は、端から見たらさぞかしこっけいだったろうな。
はなみずも出てたし。
和ちゃんが、行ってしまう。1人でいなくなってしまう。
以下略



16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/07/01(金) 23:21:43.76 ID:wq3gp6Kw0

駅についたのは40分くらい。
足はもうガクガクに震えていた。
財布から小銭を取り出す。ばらまく。
私はここぞという時に、お約束を守るとっても良い子だ。
以下略



17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/07/01(金) 23:22:31.97 ID:wq3gp6Kw0
階段を駆け上って、ホームに出た。
肩で息をしながら、和ちゃんの姿を探す。


いない。
以下略



18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/07/01(金) 23:23:22.48 ID:wq3gp6Kw0
和ちゃんは、いた。
下りではなく、上りのホームに、驚いた顔をした和ちゃんが、いた。
私たちは向かいあうように、お互いの姿をその瞳に映しあった。

ホーム、間違えた。階段、駆け上がらなくてよかった。
以下略



19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/07/01(金) 23:24:36.13 ID:wq3gp6Kw0
必死に叫んだ「和ちゃん」という言葉は
「白線の内側までお下がりください」という音にかき消された。

和ちゃんも私にむかって何か叫んだ。
それも、「白線の内側までお下がりください」という音にかき消された。
以下略



20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/07/01(金) 23:26:02.07 ID:wq3gp6Kw0
そのとき

「唯っ!!!」

という、和ちゃんの声が聞こえた。
以下略



21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/07/01(金) 23:26:52.89 ID:wq3gp6Kw0
その後は、とっても恥ずかしかった。
ホームでひとしきり泣いて涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で、
駅員さんにお金を渡されながら、怒られた。

「でへへ」と、自分の失態に笑うしかなかった。
以下略



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