過去ログ - 少女「ずっと、愛してる」
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242:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:22:04.39 ID:87ru5DuQ0
首に引っかかった鎖を引かれ、無理矢理に状態を海老反りに起こされる。歯を食いしばると、脂汗浮いた目の前に、焼却炉脇の粗大ゴミの上に腰を下ろしてにやついているルケンの姿が映った。
そこは、小高い丘のようになっていた。積もっているのは全て白い里、黒い里から出てきたゴミ類だ。それが中央のかまどのようになっている、全長十メートル四方はある巨大焼却炉に放り込まれる仕組みになっている。
炎が燃えている焼却部はここからさらにもっと地下になっているが、熱く焼けた鉄は離れたここからでも分かるほど真っ赤に発熱していた。痛みと熱さ、そして混乱した頭が発する警鐘で目を白黒させながら、ゼマルディは手に火掻き棒を持って立ち上がったルケンを凝視していた。
彼は燃え盛る火など意にも介していないといった風に、先ほどまで棒の先端を焼却炉の入り口に突っ込んでいた。合成素材で出来ているその棒の先端が、真っ赤を通り越してオレンジ色に焼けている。


243:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:22:35.37 ID:87ru5DuQ0
ニタニタと笑いながら、十二、三ほどにしか見えないその男はゼマルディの前まで来ると、周りの刑仕官達が鎖をきつく絞り込んだのを確認して、ゼマルディが握り締めていた自分の花を指でつまんで取り上げた。そして胸ポケットにそれを指し。
彼はためらいもなく、焼けた火掻き棒の先端を、ゼマルディの右目に押し付けた。

一瞬、意味が分からなかった。

以下略



244:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:23:04.62 ID:87ru5DuQ0
生肉を焦がす青臭い、真っ黒な煙が彼の目から噴出している。ボダボダと垂れ流されているのは、顔面の肉が溶けて油となり、そして火がついて燃え尽きていく過程で出来た結露だった。
たっぷり十数秒は棒を押し付けると、それに張り付いた皮と共に、ルケンはポイ、と脇に凶器を放り出した。
白目を向いて痙攣しているゼマルディの体が弛緩し、鎖に支えられる形でダラリと垂れ下がる。ひょっとしたらショックで死んだのかもしれない。それ以前に、その時のゼマルディは、自分の魂が体に入っているのか、それとも三途の川の出口にいるのかさえも分からなかった。

痛みと熱さ、そんなものではない。
以下略



245:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:23:30.82 ID:87ru5DuQ0
まだ、溶けた肉と皮はポタポタと垂れ落ちていた。意外なことに血は殆ど出ていなかった。焼ききられてしまったのだ、蒸発して、それでおかしな形で癒着されてしまっている。右目は完全に破裂し、眼窟からは真っ黒に焦げた骨が覗いていた。その強烈な火傷は右顔から右頭頂部、そして左鼻を越えるところまで広がり、あまりの熱量を至近距離で浴びたがために、左目さえも白濁していた。
意識を失っているゼマルディを、たっぷり数分間は鑑賞した後。ルケンは興味を失ったように肩をすくめて、彼の無事な方の髪を掴んで顔を引き起こした。

「やあ、おはようマルディ」

以下略



246:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:24:09.37 ID:87ru5DuQ0
「さて」

「……」

「お前たち、あの『俊足のマルディ』をこうやって捕獲できたわけだが、どうする?」
以下略



247:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:24:38.67 ID:87ru5DuQ0
「じゃあ、こいつを俺のカランの目の前でひき肉にしようか」

「姫巫女宮にてでございますか? 流石にあそこで処刑を執り行うことは、元老院の御方々の逆鱗に触れかねないかと」

「構わん。俺がいいといったら、別にいいんだ。それに処刑じゃあない」
以下略



248:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:25:08.29 ID:87ru5DuQ0
「そろそろ発狂するかな? それとも失禁するかもしれないな。とりあえず前菜はこいつの兜煮にしてやろう。第一声が楽しみだよ」

ルケンは、ゼマルディの髪を掴んだまま、ずるずると引きずりつつ歩き出した。

「楽しみだよ。ほんとにさ」
以下略



249:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:25:36.75 ID:87ru5DuQ0
半死の重症人に鎖をかけながら、それにいち早くきづいたのは刑仕官達だった。ルケンが反応するより先に、彼らの腕が動く。
しかしゼマルディはそれよりも早く、無事な方の左腕を虚空に向けて突き出していた。その、空中の何もない場所……熱気とゴミ臭さで歪む空気の層に、トプリ……と水面の波紋のような紋様が浮かび上がり、彼はそこから左腕を起点にして、転がるようにして体を回転させた。
ルケンが歩き出したことで、拘束していた鎖が緩んだのが幸いした。
空中に作り出した、その『空間の繋ぎ目』に横滑りに体を滑り込ませ……しかしそこで折れた右腕がつっかえ棒のように鎖に絡まっているのを感じる。
ゼマルディは、反射的に。
以下略



250:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:26:05.95 ID:87ru5DuQ0
ポタリポタリポタリ、と頬に生臭くねばっこい血の塊が流れ落ちてくる。慌てて振り向いたルケンの目に、空中の繋ぎ目から上半身だけを覗かせたゼマルディが、歯を食いしばって残った左腕を横殴りにするのが見えた。
少年のものよりも数段大きい拳が、彼の胸に突き刺さる。
本来なら人間などの力で、いくら子供とはいえ殴って相手が浮き上がるということはない。しかしその時のゼマルディが発した力は、ルケンの常識を遥かに超えるものだった。肋骨が軋みを上げ、指すような痛みが胸に広がった……と思った途端、彼の体は例えようもないくらいに圧倒的な……重機のような力で後方に吹き飛ばされていた。抵抗することも出来ずに、放物線を描いて五、六メートルは後方に空中を滑り……。
そして、丁度焼却炉の側面に開いていた、補助投下口に落下を始める。空中できりもみになりながら、ルケンの目に手首が内側に折れ曲がったゼマルディと、胸ポケットから焼却炉に向かって落下していく花が映った。


251:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:26:35.99 ID:87ru5DuQ0
ゼマルディは白濁した左の瞳で、落下していくルケンを見て……そしてスッ、と何もない空中に姿を消した。
我に返り、火口と同様な様子を呈している焼却炉入り口を一瞥し、ルケンは右腕を下に向かって振った。途端、彼の首筋に埋め込まれていた黒い玉が淡い光を発し、難なくふわりと……トランポリンのように何もない空中を跳ねて、ルケンは少し離れたゴミの上に着地した。そして胸を押さえて、地面に膝を突く。それは、明らかに引力という物理法則を無視した動きだった。
刑仕官達が何事かを叫びながら駆け寄ってくる。
しかし、ルケンは彼らの方など見ていなかった。脳裏に無残に落下していく……炎の中に落ち込んでいく自分の花の光景が次々とフラッシュバックする。
体を小刻みに震わせながら、歯を強く、強く噛み締める。
以下略



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