27:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:27:19.50 ID:A45p+aH70
「じゃ、行きましょ……爪(そう) 今日も、みんな、待ってる……」
一言一言を区切りながら、ゆっくりと愛寡が言う。爪と呼ばれた青年は振り返ってコクリと頷いた。愛寡はそんな彼に近づくと、軽く自分の方に抱き寄せた。そして背中をポンポンと叩く。
「効いた。頭……ありがとう、ね」
28:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:27:51.98 ID:A45p+aH70
歩き出した青年に引かれながら、愛寡は右足をずるずると引きずって歩き出した。
それは、義足だった。
膝下から先が、マネキン人形のような、精巧な作り物の足になっている。一応は神経感応で動くようで、膝が曲がったりはしているが……やはり歩きづらいらしい。重心が右側にかかると、体が横にぶれた。それをかいがいしく、しかしさりげなく爪という青年が支え、入り口までゆっくりと誘導する。
途中で、愛寡は憂鬱そうにため息を漏らした。
そこで足を止め、爪は少し考え込んだ後、師に向かって言葉を発した。
29:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:28:21.85 ID:A45p+aH70
「ご……は、や? ええと……ご、はん。ごはん。師匠、食べに、行く。俺と」
「え? でも、早く……礼拝に、出ないと」
「いい、俺、連絡……しておせ。いい、店。行く」
30:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:28:53.74 ID:A45p+aH70
第 二 章 踊 ろ う よ ラ プ ソ デ ィ
31:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:30:13.84 ID:A45p+aH70
*
カランは言った。
私は大丈夫だと。
私のことは心配しなくてもいいんだよと。
32:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:30:52.08 ID:A45p+aH70
そう……彼女は言った。
手と手を、取り合って欲しいと。
取り合って……そしてかつてのように微笑みあって欲しいと。
そう、彼女は言った。
彼女は願った。
33:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:31:24.21 ID:A45p+aH70
分かっちゃいない。
分かっちゃいないんだ。
やつれたお前の顔。
微笑み枯れたお前の顔。
そして、涙ももう出てこない……かつてのお前の、瑞々しい元気はつらつとした。
34:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:32:50.40 ID:A45p+aH70
*
サバルカンダドームの下層には、メインシャフトのエレベーターで行くようになっていた。そもそも愛寡が住んでいる最上階は、数百室ほどのホテルレベルの広さしかない。
部屋を出たところで、待ち構えていたのか、おびただしい数のメイドが、通路の両脇に勢ぞろいして頭を下げた。
一人一人に丁寧に頭を下げ返しながら愛寡が進む。彼女の歩みに準じて、メイド達は波のように次々に会釈をしていく。
35:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:34:22.60 ID:A45p+aH70
告げられた音声にきょとんとして愛寡が弟子の顔を覗きこむ。爪はIDカードを抜き取ると、それを指の間でくるくると回してニヤ、と笑った。
「便利」
一単語を口にして、師匠の手を引く。横に並ぶと、愛寡の背丈はひょろ長い爪の三分の二程しかなかった。極端な猫背になっているために、同じくらいに見えるのだ。
36:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/08(水) 16:35:02.58 ID:A45p+aH70
「どした? 師匠」
奇妙な訛りと共に問いかけられ、彼女は軽く首をかしげて見せた。
「ん?」
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