359:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:01:47.93 ID:EmuY6hvN0
トレーラーの爆発は、連鎖的に広がっていった。横転すると起き上がらせることは不可能だといわれるほど、巨大な乗り物だ。それが薙ぎ倒され、押しつぶされるほどの強力な……考えられない力で、外部からの侵入者は投げつけてきたのだ。
数十トンもある、鉄の塊を。
とっさに物陰に隠れた職員の目に映ったのは、戦車でもカタパルトでも何でもなく。ただ、悠々とポケットに手を突っ込んで自分があけた壁の穴から足を踏み入れる……小さな子供の姿だった。
炎と悲鳴、そしてまるでウェハースのように倒壊する外壁の踏み閉め、少年はニヤニヤと生理的嫌悪を催す笑顔で笑いながら、近くの瓦礫に押しつぶされた人間……だと思しき残骸を冷めた目で見下ろした。そしてそれをぐりぐりと爪先で踏みにじり、赤い発色と共にけたたましい警鐘を鳴らし始めた非常ベルに目をやる。
360:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:02:13.85 ID:EmuY6hvN0
ドームの外壁や天井には、予期せぬ災害に備えて内部シェルターを展開する機能が備わっている。火災などが起こってしまっては、閉鎖空間のために燃え広がって取り返しのつかないことになるからだ。
未だにトレーラーの横転は、ドミノのように続いていた。この季節は横断者の群れが多くなることに加え、サバルカンダの格納施設はそんなに大規模なものではなかった。それゆえに密集している地帯に、投げ込まれた燃え盛る鉄の塊がぶつかってしまったのだ。
火花と、合成コンクリートが砕けて巻き上げられる高音。そして鉄がひしゃげて飛び散る音。
地面から厚さ一メートルほどの断熱シェルターが競りあがってきて、円形に格納庫をシャットアウトしはじめる。次いで天井のスプリンクラーが動作し、身を切るような冷たい、白濁した水が降り注ぎ始めた。
少年はそれを頭の上から浴びながら、詰まらなそうに顔を拭った。そして背後のシェルターに閉じられた穴を一瞥する。
361:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:02:53.07 ID:EmuY6hvN0
列車が突っ込んできたように、一部が凄まじい惨状になっている。スプリンクラーの水だけでは沈火が出来ない。また爆音を立てて一つのトレーラーが爆散した。その破片がゴヅ、ゴヅ、と音を立てながら、瓦礫の上に仁王立ちになっている少年の脇まで飛んでくる。
燃料タンクの一つ……と思われるものがまた爆発し、非常口に向かって逃げようとしていた男が数人、宙を舞った。
人間がこんなに簡単に飛ぶものか……と思うほど、あっさりとした飛翔だった。歪に手足を歪めながら、そのうちの一人が少年の方に隕石のように。高所五、六メートルの地点から放物線を描いて落下する。
少年は面白そうに笑うと、ゆっくりと足を踏み出し、濁った雨の中その男の落下地点まで移動した。そして彼の体が自分に激突する寸前で。
固めていた拳を、それに向かって突き出した。
362:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:03:25.58 ID:EmuY6hvN0
モズの早贄を連想とさせる惨状の中、犠牲になった男性が一度だけ激しく痙攣して白目をむき、動かなくなる。
即死だった。
少年は着ていた白い、タキシードのような服がその返り血でベトベトに汚れているのを見て嬉しそうに破顔した。そして子供のように甲高い声で笑いながら、男の体をもう一本の手で引き抜き、脇に放り投げる。
同じ人間の胸を貫いた手の先には、肋骨の断片と共に、水鉄砲のように血管の断面から血液を噴出している心臓……生き物の中枢が握られていた。
それをしばらく眺め回し、大きく口を開けて一部をむしゃりと噛み千切る。意外と弾力が強いらしく、ゴムのように伸びたそれを頭を振って租借してから、ベッ、と少年は吐き出した。
363:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:04:01.37 ID:EmuY6hvN0
全ての人間が唖然としながら。
火災と爆発の中、その意味不明な虐殺を見つめていたのだ。
凍り付いて、硬直してただ見つめていた。
それは紛れもなく。
小動物でしかなかった。
364:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:05:21.23 ID:EmuY6hvN0
その目が、管理塔だと思われるプレハブ小屋に留まる。電気がついていて、大きな合成ガラスつきのドアからは、床に座り込んで腰を抜かしている若い娘……年の頃は十五、六ほどの少女の姿が見えた。
パチン、と指を鳴らし。
少年は逃げ惑うキャラバンや職員の群れには目もくれず、大股でそこまで近づいた。そして乱暴にドアを開き、ズカズカと足を踏み入れる。
一部始終を見ていたらしく、血まみれずぶぬれの少年に足を踏み入れられ、少女は半狂乱になった。頭を抑えて金切り声を上げ、必死に立ち上がってそこから逃げようとする。
その子の髪を掴まえ。
365:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:05:44.62 ID:EmuY6hvN0
パッ、と赤いモノが部屋の中に散った。いや、散ったというよりは、飛び散った。凄まじい量の肉片、血液、骨や良く分からないものが、固形物から流動物になり撒き散らされる。
それは人間という一つの塊がシュレッダーにかけられたような……そんな凄まじい力の本流だった。
胸が焼けそうな光景の中、少年はずるずるになった頭を手で拭い、手に持っていた残骸をポイ、と投げ捨てた。そしてしゃがんで粘性の水溜りの中からピンク色の手の平大の塊を引き上げる。
彼はそれを口の中に入れ、満足そうにドス黒い笑みを発した。
366:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:06:11.47 ID:EmuY6hvN0
*
警報が鳴った。
それは、魔法使いがドーム内に進入したということを示すサインだった。最も、魔法使いの中には理性的なタイプもおり、そう言った者達は少なからずともむやみに人間に手を出さないようにとしていることもある。しかしそんなことは極少数で、大部分はその捕食衝動によりドーム内に入り込んだ途端、圧倒的な力での虐殺を行う。
その警報は、虐殺が始まったことをドーム内市民に知らしめるためのものだった。
367:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:06:45.52 ID:EmuY6hvN0
「マルディ、いるか! 返事をしろ!」
人間達が走り回っているせいで、脆弱な基盤に経っているマンションはグラグラと足元が定まらない。天井の薄汚い蛍光灯が、電気を発したまま揺れていた。
ドクは口を開いた瞬間に飛び込んできた異様な臭い……まるで爬虫類の腐臭のようなそれに思わず鼻を押さえた。刺激が鼻腔を突きぬけ、目にまで達する。
368:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:07:14.51 ID:EmuY6hvN0
比較的几帳面な性格のゼマルディにより整頓されていた部屋は、今や戦時中のような様相を呈していた。タンスやテレビなどの家具は滅茶苦茶に壁に叩きつけられ、ひしゃげてしまっている。
その中で、ベッドから少し離れた位置のカーペットの上でゼマルディはうずくまっていた。マントの下の体をブルブルと震わせ、マスクごしに顔を覆っている。
「マルディ、おい!」
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