289:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/05(水) 05:34:30.97 ID:YX4Y62yro
◇
風が吹いた気がした。冷たく湿った風だ。少しだけ雨を揺さぶって、すぐに消えた。
生き物の気配のしない森の中に、わたしたちは立ち尽くしている。
290:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/05(水) 05:35:04.05 ID:YX4Y62yro
「つまり、全部が全部、わたしの自作自演ってこと?」
そう思うと、なんだかこんな会話すら無意味だという気がしてきた。
人形遊びのようなものだ。自分の頭の中での会話。
291:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/05(水) 05:36:11.30 ID:YX4Y62yro
彼女なりに、噛み砕いて説明したつもりなのかもしれないけれど、わたしにはさっぱり分からなかった。
シラユキは少し黙った。それから気を取り直すように深呼吸をする。
長い睫毛が、かすかに揺れた。
292:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/05(水) 05:36:51.74 ID:YX4Y62yro
でも、少し考えてどうでもいいやと思った。
だってここは結局、わたしにとっての現実ではないのだ。
夢のようなものだ。
293:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/05(水) 05:37:39.05 ID:YX4Y62yro
いまさらそんなことを知ったところで、何の意味があるんだろう。
「あなたは世界が生み出されたとき、既にこの世界に存在していました。
ですが、厳密には、あなたはこの世界、この街の住人ではありません。
294:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/05(水) 05:38:07.59 ID:YX4Y62yro
なんだ、とわたしは思った。
じゃあもうわたしの結論は決まっているんじゃないか。
「つまり、わたしがここに居続けることを選べば、何の問題もないの?」
295:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/05(水) 05:39:01.53 ID:YX4Y62yro
「……本当に、構わないんですか?」
雨音は続く。わたしはシラユキの不安そうな表情がおかしくてしかたなかった。
296:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/05(水) 05:39:41.39 ID:YX4Y62yro
「わたしは、あなたを丘の下から隔離して、できるだけ街から遠ざけるように行動してきました。
それはたぶん、この選択を迫るためのこと、だと思います。現実を望んだときは、現実に帰れるように。
わたしはその為の保険のようなもの、なんだと思います」
297:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/05(水) 05:40:10.59 ID:YX4Y62yro
この世界で暮らし続けること。"永遠"が確定されること。それは現実世界における死を意味する。
理解しにくい、納得しにくい理屈だ。でも要するに、言葉の使い方が違うだけのことなんだろう。
ここから出るか、出ないか。
298:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/05(水) 05:40:38.72 ID:YX4Y62yro
その人は根本的に誤解していたのだ。
死を望みながらも、最後の一歩を踏み出さないのは、本心だとか、無意識だとか、そういうものが理由じゃない。
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