過去ログ - モバP「七人目の正直」
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38: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/18(火) 17:52:57.18 ID:gq9TOo4jo
 扉を閉める。ばたん、と錆びた鉄扉が閉じる寸前、微かにすすり泣きが聞こえた気がした。

 俺はそれを聞かなかったことにして――シンデレラガールズ・プロダクションへと向かう。最後の契約を、書面でまとめるためだ。俺は大通りへと出ると、適当なタクシーを捕まえる。

『シンデレラガールズ・プロダクションへ。ええと、この大通りをずっと行って、中央環状の交差点を曲がって……、ああ、はい、それです』
以下略



39: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/18(火) 17:53:53.88 ID:gq9TOo4jo
『……うわっ』

 手鏡で確認すると、まるで亡者みたいな顔がそこにあった。これではいけない。今から契約をまとめるのに、こんな顔で行くわけにはいかない。

 少し気を引き締め、そして手鏡をカバンに仕舞うと、俺は社屋の中へと入っていく。
以下略



40: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/18(火) 17:54:22.85 ID:gq9TOo4jo
 俺は、安心しきっていた。だから社長の放った、唐突な言葉の矢を、避ける事も、防ぐこともできなかった。

「やはり君は、いいプロデューサーなのだね」

 頭を横合いに殴りつけられたような気分だった。一瞬言葉に詰まる。ただの社交辞令に、ここまでの反応を示すことは訝しまれる。
以下略



41: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/18(火) 17:54:49.96 ID:gq9TOo4jo
「――手塩にかけたアイドルを売り払う、というのは、どういう気分だね」

 一瞬、絶句した。何も言葉が出てこない。本日二度目の、頭を横合いに殴りつけられたような衝撃が、体中を駆け巡る。

『え、と。それは、どういう意味ですか』
以下略



42: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/18(火) 17:55:20.82 ID:gq9TOo4jo
「Pくん。君と私は、立場こそ同じ社長だから、あまり偉そうなことを言うつもりはないが――」

 サインを書き終えると、社長は厳しい顔で言う。

「今の君には、あまり魅力を感じないね。分かるかな。ティンと来ないんだよ」
以下略



43: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/18(火) 17:56:02.28 ID:gq9TOo4jo
『はは、これは手厳しい。確かに、私の手で連れて行ってやれれば一番だったでしょう。ただ、私は彼女の為に、移籍と言う手段で、トップアイドルへの道を切り開いて見せましたよ』

 四年前と同じことを、繰り返すつもりなんて、俺は微塵もなかった。”あの時”とは違う。その為に、俺は耐えて、忍んで、抑えこんできた。激怒しながらでも、冗談が言える程度には。

 だから、ぽっと出の、こんな男に俺の艱難辛苦は理解できないし、理解されたくもない。だから、俺はいつも通りの業務スマイルを浮かべて言う。
以下略



44: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/18(火) 17:56:58.68 ID:gq9TOo4jo
「最後にもう一つ、いいかい」

『はい、何でしょうか?』

 これ以上俺に何か聞くことがあるのだろうか。まだ暴発を待っているのか。その手には乗らない。そう思いながら、少しうんざりとした気持ちを抱きつつ、俺は聞き返す。
以下略



45: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/18(火) 17:57:25.63 ID:gq9TOo4jo
 そうして、応接室から出ると、さっきの若いプロデューサーが待っていた。

「Pさん、玄関まで送らせていただきます」

『ああ、すみません。わざわざ』
以下略



46: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/18(火) 17:58:09.88 ID:gq9TOo4jo
『うちの茄子を、どうかよろしくお願いします。そう、次のプロデューサーの方へ、お伝えください』

 俺は頭を下げた。彼女との、決別を決意するための言葉。これで俺と彼女は赤の他人だ。彼女は強い。きっと、俺のことなど忘れてくれるだろう。

「分かりました。確かに、お伝えいたします」
以下略



47: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/18(火) 17:58:49.61 ID:gq9TOo4jo
少し間が空いたせいで多くなりました。卒研はなかなか大変ですね。
今回は以上となります。


48:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/18(火) 22:48:19.10 ID:IVSIMjxFo
乙です




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