2: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/21(日) 15:24:32.33 ID:V77nFIwLo
私はつまらない人間だと、よく言われる。まあ、残念なことに、それは極めて的を射た表現だ。なにぶん私は、目立った特徴も、特技も、能力も持ち合わせていない。
幼少期は、そうでもなかった気がする。何でも手を出して、何でも出来た。英会話にも行ったし、そろばん教室にも行った。書道を教わったこともあるし、劇団なんかに所属したこともある。運動も出来たし、成績も悪くなかった。
ただ、これといったものはなかったと思う。よく言えば万能といえたが、悪く言うと器用貧乏とも言える子供だった。特技は何か、と聞かれても、思い当たるものは何もなかったのだ。
3: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/21(日) 15:25:26.33 ID:V77nFIwLo
予言されているなんて、人間の本質は昔から変わっていないらしい。
――凡人とはなんだろうか。
だから、そんなよくありがちなそんな問いかけに対して、私はいつもこう答えることにしている。
4: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/21(日) 15:26:12.21 ID:V77nFIwLo
数日前までは、まだ肌寒さが残っていたというのに、連休が過ぎれば急に暑くなるというのはどういう了見だろうか。文句を言えるものなら、天気に言いたいものだ。
冷え込み対策に持って来た、くたびれたトレンチコートはただのお荷物となっている。お陰で私の左腕は、コート掛けに変わってしまっていた。
『全く、どうにもならないね』
5: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/21(日) 15:26:49.64 ID:V77nFIwLo
まあ、芸能プロダクションとはいっても、プロデューサーやマネージャーといったアイドルを支える仕事ではなく、営業や広報といった、さらに裏方だ。アイドルやタレントと直接関わり合うことは、まずなかった。
無論、姿を見ることはよくあるし、書類で顔は良く知っている。ただ、話す理由もないので、せいぜい挨拶をする程度だった。
『おはようございます』
6: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/21(日) 15:28:25.83 ID:V77nFIwLo
「ああ。Pくんは、”シンデレラガールズ・プロジェクト”について知っているかな?」
ふと社長がそんなことを聞いてくる。私は頭の中のページをもう一度めくる。そうして、数秒の後にピンと来た。
『ええ、はい。確か、とある企業経営者がいくつかのプロダクションを買収して、大きなプロダクションを作る、という計画ですね』
7: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/21(日) 15:29:08.33 ID:V77nFIwLo
「聞くところによると投資と先物取引で稼ぎ上げた資金を元に、小さな企業を数年で株式上場企業に育て上げたほどの辣腕らしいね」
『はぁ……。それで、そのシンデレラガールズが、どうかなさったのですか?』
いまいち話が飲み込めず、私は社長に聞き返す。社長はというと、少し困った表情で苦笑すると、
8: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/21(日) 15:29:34.81 ID:V77nFIwLo
「まあ、こんな小さな事務所から引き抜く人材はいないだろうさ。すまないがPくん、お客さんがお越しになったら応対してくれるか」
『ああ、はい。分かりました』
「よろしく頼むよ」
9: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/21(日) 15:30:06.32 ID:V77nFIwLo
こぽこぽと音を立てて入っていくコーヒーミルから離れ、私は一旦自分の席に戻ると、有線放送の電源を入れる。適当にチャンネルを回して、音量を調節した。
『こんなものかな』
私は小さく呟くと、一息をつく。
10: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/21(日) 15:30:39.05 ID:V77nFIwLo
『……ん?』
そして、コーヒーを飲もうとした時、プロダクションのドアを叩く音がした。私はすぐに立ち上がると、急いで扉の方へと向かう。
『はい、どちら様でしょうか』
11: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/21(日) 15:31:14.46 ID:V77nFIwLo
『これは失礼をいたしました、シンデレラガールズの方でしたか。お話は伺っております、社長室の方へご案内をさせていただきますね』
どうやら社長の言っていた辣腕経営者と言うのは、この人のことらしい。年齢で言えば当然ながら私の方が若いのだが、経営者と言う点で見れば、彼は異常なほど若い社長であるように思える。
「うむ、済まんね」
12: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/21(日) 15:31:50.52 ID:V77nFIwLo
『失礼します』
私は再び声を掛け、扉を開ける。
「それで、こちらのアイドルは――」
217Res/148.60 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。