8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/19(木) 00:28:34.52 ID:9mtCTMIXo
「そんな話もしたね。それがどうかしたの?」
「いや、ちょっと思い出してな」
「そっか」
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2013/12/19(木) 00:31:05.22 ID:9mtCTMIXo
高校の時の俺なら、すぐさま里志の言葉を否定していただろう。しかし、今は否定しない。それは俺自身も多少なりともそう思っているからだろう。
俺が黙っていると、里志はやれやれとばかりに肩を竦めてみせた。
「間違いなく薔薇色だね。いやあ、まさかホータローが千反田さんと付き合い始めるだなんて。今でもにわかに信じがたいよ」
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2013/12/19(木) 00:31:59.93 ID:9mtCTMIXo
「変わったよ、ホータローは。千反田さんのおかげさ」
うっ、と短い声が漏れた。その声が聞こえたのか、里志はしてやったりの笑顔を浮かべた。
「そりゃ、『あいつ』と一緒にいればだな……」
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2013/12/19(木) 00:33:02.18 ID:9mtCTMIXo
「僕は摩耶花のことを名前で呼んでいるのにさ」
「俺とお前はタイプが違うだろ」
「まあ、そうだね」
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2013/12/19(木) 00:34:33.55 ID:9mtCTMIXo
「結局、ホータローが“無色”になることはなかったけどね」
高校の頃を振り返ると、確かに灰色ではあったが“無色”ではなかったと思う。完全に灰色でもなかった。今思えば、いろいろな出来事があった。そして、そのそばにはいつも「あいつ」がいる。
今は口に出さないが、俺が“無色”にならなかったのはやはり「あいつ」の存在が大きかったんだろうな。俺は短く笑った。里志も声を出して笑った。
そうして、笑いが収まってから里志を見つめた。俺の視線に気づいた里志も顔を上げた。
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2013/12/19(木) 00:37:09.36 ID:9mtCTMIXo
「『あいつ』から聞いたぞ。伊原が苦労しているようだと。お前は仕事を転々として何をしてるんだ」
里志は顔を俯けて黙り込んだ。俺は何となく腕を組んだ。
こんな里志を見ていると、あのバレンタインデーの時のことを思い出す。あれは苦い思い出なのであまり思い出したくない出来事だ。
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2013/12/19(木) 00:38:58.61 ID:9mtCTMIXo
「僕は摩耶花と付き合い始めてから、『こだわり』についてもう一度考え直したんだ。中学の頃は『こだわる』ことに執着した。高校に入学から摩耶花と付き合うまでの間は『こだわらない』ことにこだわった。
そして、摩耶花と付き合ってからは、その中間点を見つけたかったんだ。だってそれまで両極端だったからさ。
だけどね。これはホータローにも言われたことだけど、僕はその手のことは不器用なんだ。なかなかバランス調整がうまくいかない。高校を卒業して、大学に入ってからもずっとそうだった。胸を張って言うことじゃないけど、今もそうだ。
大学を卒業してからも、自分でも妙な『こだわり』を抱くせいで、仕事を転々としているんだ。きつい仕事から目を逸らして、やりがいや楽しさを求めてしまうんだ。困ったことだよ、本当に無職ってやつはさ。履歴書はもう書きたくない。
それに白状すると、実は今日ここに来たのは生活が苦しいからお金を借りに来ることが目的だったんだ。我ながら情けない話だよ。一緒に住んでくれてる摩耶花にも申し訳が立たない」
15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/19(木) 00:39:39.33 ID:9mtCTMIXo
「なあ、里志。とりあえず働くことが大切だと思うんだ。そりゃあ、楽しくてやりがいのある仕事が望ましいってのは誰もが思うことだ。けど、そんな仕事はほとんどない。今はこんなご時世だしなおさらのことだ。俺の今の仕事だってそうだ。めんどうなことや苦しい場面もある。
けど、それを続けて行く中で、そういった自分にとって良いこともあるはずなんだ。だからもう少しがんばってくれよ、里志。自分自身のためにも、伊原のためにも」
心の中で、「お前のことを心配している俺と『あいつ』のためにも」と付け加える。
里志はゆっくりと顔を上げた。その口元には笑みが戻っていた。少し苦笑いのようだが、とにかく笑っている。
16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/19(木) 00:41:47.24 ID:9mtCTMIXo
ため息をつくと全身の力が抜けた。いつの間にか、結構な力が入っていたらしい。これもあのバレンタインデーの時のことを思い出したからなのだろうか。
あの時、俺は怒っていた。そして、今の俺は里志の身を案じていた。
いろいろあってもやはり里志は中学からの旧友だ。俺も思うところがあったのかもしれない。
安心してコーヒーで一息をついた。すると、里志がテーブル越しに身を乗り出してきた。ぎょっとして、思わず体を反らした。
完全に立ち直ったのか、里志の目は今や輝きを取り戻している。そして詰め寄らんばかりにじりじりと迫ってくる。
17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/12/19(木) 08:57:11.37 ID:5DuamalIO
乙
時間がゆったりしていいな
18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/12/19(木) 15:41:25.62 ID:+zbUuE1tP
乙
無色と無職かけたかっただけやろ!
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