過去ログ - 京子「あかりと磁石」
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1:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[saga]
2014/03/24(月) 14:13:47.83 ID:I629TTwQo

 砂鉄集めに必要なもの。
 磁石。
 砂鉄をいれるためのきれいな瓶。ジャムの瓶がいい。
 それからビニール袋。これが一番大事。

 砂に直接磁石を近づけると、磁石がザラザラになってしまう。
 だから磁石はビニール越しに扱う。
 そうすれば、くっついてきた砂鉄を磁石から切り離すのも簡単なのだ。

 結衣はこのビニール袋をよく忘れた。
 だから結衣の磁石には砂鉄がくっついていた。


 砂鉄集めに大事なことは焦らないことだ。
 鉄分を含んだ砂から磁石で砂鉄を集めるのは手間がかかるし、集めた砂鉄をきれいにするのにはもっと時間がかかる。
 砂に磁石を近づける。
 くっついてきた砂鉄を瓶に集める。
 最初の段階ではまだゴミや余計な砂などの不純物が多く含まれているので、もう一度磁石を使ってほんとうの砂鉄だけを取り出す。
 この作業を何度も繰り返すと、真っ黒な粉のようなものができる。
 根気のいる作業だ。
 でも、私はこの単純な遊びが好きだった。


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2:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[saga]
2014/03/24(月) 14:15:47.82 ID:I629TTwQo

 小さいころの私はどちらかと言えば家のそとで遊ぶのが得意じゃなかったけれど、
 それでも、この砂鉄集めだけは気に入っていた。
 公園の砂場や校庭の砂、河原なんかを見ると、あそこからどれだけの黒いものが採れるだろうとワクワクした。
 運動が得意じゃなかった私には、砂鉄のズッシリ詰まった重いガラス瓶は誇りだった。
以下略



3:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[saga]
2014/03/24(月) 14:17:24.35 ID:I629TTwQo

 私といっしょに、一番熱心に砂鉄集めをしてくれたのはあかりだ。
 あかりは私みたいに運動が苦手なわけでもないし、結衣といっしょに駆け回るのも好きだった。
 それでもあかりは根気よく付き合ってくれた。
 あかりには砂鉄集めの本質のようなものが見えていた。
以下略



4:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[saga]
2014/03/24(月) 14:17:53.43 ID:I629TTwQo

 どうしてあかりの磁石がここにあるのだろう。
 間違えて持ってきてしまったのか、借りたまま返してなかったのかもしれない。
 砂鉄集めをしていたのはもう何年も前のことだから、それからずっとあかりの磁石は私の部屋にあったことになる。
 ふたつの磁石をもてあそんでくっつけたり離したりしながら、なんだか無性に懐かしくなった。
以下略



5:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[saga]
2014/03/24(月) 14:18:24.59 ID:I629TTwQo

「うん、子どものころ集めてたやつ」

「今も子どもでしょ」

以下略



6:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[saga]
2014/03/24(月) 14:19:01.00 ID:I629TTwQo

 母親のそっけない言い方に私は傷ついた。
 だけどしかたない。
 私が自分で捨てたのだ。言われてみれば、そんな記憶がある。
 きっと幼い私は、ある時点で「砂鉄を集めるひと」なんかにはなれないと気づいたのだろう。
以下略



7:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[saga]
2014/03/24(月) 14:20:02.20 ID:I629TTwQo

 勝手な話だけど、私は罪悪感でいっぱいになった。
 手に握ったままのふたつの磁石がズシリと重くなった。
 小さいころの、あの河原に座って砂鉄を集めていた私が、私の手をひっぱっているようだった。
 今、後ろを振り返ったら、あのころの私とあかりは、どんな顔をして今の私を見ているのだろう。
以下略



8:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[saga]
2014/03/24(月) 14:20:44.51 ID:I629TTwQo

 部屋に取って返して、出かける準備をはじめる。
 リュックサックにさっきの磁石と、必要な道具を詰め込む。
 財布もある。方位磁石もある。携帯も、家の鍵も持った。

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9:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[saga]
2014/03/24(月) 14:21:31.99 ID:I629TTwQo

 あかりと結衣と私。
 私たち三人が出会ったのは、それぞれの親が昔から友達だったからだ。
 だから私たちの関係は、親たちには小さいころからほとんどすべて知られている。

以下略



10:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[saga]
2014/03/24(月) 14:22:06.81 ID:I629TTwQo

 それからもう一つ定番のエピソードがあって、それはさらにもう少し小さいころ、家族で買い物に行ったときの迷子の話だ。

 ひとりはぐれてしまった私は、「あかりちゃーん」と泣きわめいたという。

以下略



11:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[saga]
2014/03/24(月) 14:22:53.47 ID:I629TTwQo

 だけど変わらないものなんてない。
 なにもかもどんどん進んで、新しくなっていく。
 私たちはどんどん大きくなって、今も成長していて、これからも違う私たちになっていく。
 大人はそれを知らない。
以下略



12:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[saga]
2014/03/24(月) 14:23:33.46 ID:I629TTwQo

「行ってきます!」
 うるさく何かを言っている母親を無視して、私は家を飛び出す。


以下略



13:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[saga]
2014/03/24(月) 14:24:19.12 ID:I629TTwQo

 チャイムを鳴らして、息を整える。
 いつものあかりの足音が聞こえて、それから玄関の扉を開いて出てきた幼なじみに、私は言った。

「あかり、砂鉄集めに行こうぜ!」
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14:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[saga]
2014/03/24(月) 14:24:50.75 ID:I629TTwQo

 ◆

 我ながらいきなりすぎる訪問だとは思ったけど、あかりは文句ひとつ言わずについてきてくれた。
 これが結衣なら小言のひとつや百つくらいは言っていただろう。
以下略



15:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[saga]
2014/03/24(月) 14:25:31.96 ID:I629TTwQo

「京子ちゃん、よく見たら髪がむちゃくちゃだよぉ」
 あかりはちょっと背伸びをして私の髪を手で撫で付ける。

「おお、走ってきたからなー」
以下略



16:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[saga]
2014/03/24(月) 14:26:06.98 ID:I629TTwQo

「えへへ。すこし風が強いけど、お日様が気持ちいいね」

「春分の日を過ぎたから、これからずっと夜より昼のほうが長いんだぞ」

以下略



17:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[saga]
2014/03/24(月) 14:26:35.61 ID:I629TTwQo

「京子ちゃんは春休みの宿題、もう終わった?」

「んー。当然まだ」

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18:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[saga]
2014/03/24(月) 14:27:36.40 ID:I629TTwQo

 そうこうしてるうちに川に到着した。
 こんなに気持ちがいい日だというのに、あたりには人がいない。
 私たちは堤防の階段を使って川岸までおりた。

以下略



19:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[saga]
2014/03/24(月) 14:28:02.99 ID:I629TTwQo


 私とあかりは河原に座って、思い思いに砂鉄集めを始める。
 そばにいるだけで何も言わない。喋らない。
 なんだか数年前にタイムスリップしたみたいだ。
以下略



20:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[saga]
2014/03/24(月) 14:29:10.99 ID:I629TTwQo

 ほんとうのところ、あかりは今日のことをどう思っているのだろう。
 また京子ちゃんの気まぐれが始まったと思ってる?
 あかりのことだから、砂鉄集めがほんとうに楽しくて来てるのかもしれない。
 それとも、なにも考えてないとか。
以下略



21:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[saga]
2014/03/24(月) 14:30:18.07 ID:I629TTwQo


 私とあかりはそのあともほとんど会話もせずに作業を続けた。
 二人のちょうど中間に置いたガラス瓶に、採った砂鉄を入れていく。
 一時間ほどすると少しばかりの砂鉄が集まった。
以下略



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