29:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/16(水) 18:17:41.03 ID:TmyX6+Eao
  
 「どういうつもりだい?」 
  恫喝の響きを混ぜて問う。 
  声は素知らぬ調子で答えた。 
 「少しだけ話がしたくて」 
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2014/07/16(水) 18:18:08.28 ID:TmyX6+Eao
  
 「関係ないことないさ。関係大ありだよ」 
 「……」 
 「で、探し物は何?」 
  沈黙が落ちた。 
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2014/07/16(水) 18:19:30.99 ID:TmyX6+Eao
  
 「君は魔法の助けによって何かがなくなったのは分かっていた。 
  実際に確かめてみて何かがなくなった実感もあった。 
  だけどじゃあ何がなくなったのか、それは分からなかったんだ」 
  違う? と夫は訊いてきた。 
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2014/07/16(水) 18:20:15.06 ID:TmyX6+Eao
  
  光の一つが宙に舞った。 
  ふよふよと頼りない軌道を描いてヘレナの方に近寄ってくる。 
  ヘレナはそれを振り払おうとした。 
  が、光は手の間をすり抜けた。 
33:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/16(水) 18:20:57.63 ID:TmyX6+Eao
  
  あれは。 
  そう、「大好きだ」というあの言葉は。 
  夫の最期の言葉だ。 
  
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2014/07/16(水) 18:22:06.35 ID:TmyX6+Eao
  
  小さい頃は町住みで猫を飼っていた。 
  その頃は自分も人並みに明るい性格で笑顔もそれなりに上手だったように記憶している。 
  人と自分がどこか違うと感じるようになったのは猫がすっかり大人になったあたりで、みんなと同じように物を考えることがいつの間にかできなくなっていた。 
  
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2014/07/16(水) 18:22:34.55 ID:TmyX6+Eao
  
  確か自分が十四歳になった頃だ。 
  猫が死んだ。 
  干からびるほど泣いた。 
  
36:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/16(水) 18:23:11.23 ID:TmyX6+Eao
  
  各地をさすらっているうちに、自分が魔女であることを知った。 
  世の不思議、魔法とともにある存在らしい。 
  確かにいろいろなことが不思議と思い通りになるなとは思っていた。 
  だがどうでもよかった。 
37:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/16(水) 18:23:53.92 ID:TmyX6+Eao
  
  そんなことが何回も続いた。 
  つまり何回も青年の顔を見ることになった。 
  本当奇遇だねえと彼は笑ったがこちらは理由が分かっていた。 
  魔法だ。 
38:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/16(水) 18:24:45.73 ID:TmyX6+Eao
  
  あるとき山越えでドジを踏んだ。 
  地面の窪みに気づかずに足を挫いたのだ。 
  あまりにひどくひねったのでそこから一歩も動けなくなった。 
  食料は最低限しかなく防寒の準備も十分ではないのに雪が降りそうな空模様だ。 
39:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/16(水) 18:25:18.76 ID:TmyX6+Eao
  
  それからいろいろあった。 
  海に出て一緒に釣りをしたり長い地底洞窟を手をつないで歩いたり。 
  ある村に住まいを定めてからは大きな出来事はそうそう起きなくなったが、それでもいろいろあったことには違いない。 
  
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